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応力-ひずみ曲線

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
応力ひずみ曲線から転送)
引張試験における典型的な塑性金属の応力-ひずみ曲線

応力-ひずみ曲線(おうりょく-ひずみきょくせん、英語: stress-strain curve)とは、材料の引張試験、圧縮試験において得られる応力ひずみの関係曲線[1][2]応力-ひずみ線図英語: stress-strain diagram)とも呼ばれる[3]

一般的に、ひずみを横軸に、応力を縦軸にとって描かれる[2]。材料によって応力-ひずみ曲線は異なり、縦弾性係数降伏点引張強さといった、それぞれの材料の基礎的な機械的性質を応力-ひずみ曲線から得ることができる[4][5]

測定と用語

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引張試験・圧縮試験

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実際の引張試験の様子。真ん中の茶色の物体が測定対象の試料。

材料の応力-ひずみ曲線は、引張(ひっぱり)試験または圧縮試験によって調べられる[6]。特に引張試験は機械的性質を調べるものとして最も一般な試験の一つである[7]

材料に引張荷重を加えると、その材料は変形して引っ張る方向に伸び、圧縮すると縮む。この荷重値と変形量の関係を測定することにより、荷重-変形曲線を得ることができる[2]。しかし、同じ荷重を加えても試料の太さによって伸びや縮み(変形)の量は異なる[8]。同じ荷重で比較すると、太くなるほど伸びや縮みは少なくなる。このため、材料が受ける負荷を知るには、単位面積当たりの荷重である応力で評価した方が良い[9]。材料に加える単軸荷重を F とし、F に直角な断面積を A とすれば、材料に加わる応力 σ は、

で表される[8]。一方、同じ応力を加えても、試料の長さによって伸びや縮みの量は異なる[9]。そのため、変形量そのものではなく、単位長さ当たりの伸びや縮みであるひずみで変形の程度を評価する[10]。試料の初期長さを L0 とし、初期状態からの伸びを λ とすると、ひずみ ε は、

となる[10]。試料の形状に寄らずに材料の強度や変形の挙動を評価するために、荷重-変形曲線ではなく、応力-ひずみ曲線が用いられる[9]

応力とひずみの定義

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引張を受ける丸棒の変形の様子。左図が荷重を受けていない初期状態を示す。
実際の引張試験片。真ん中の細い部分が伸びの測定に使われる。

試料の断面積 A は荷重によって変動する。そのため応力-ひずみ曲線を得る場合、荷重をかけて変形する前の断面積を A0 として、応力を

で定義する。このように定義した応力 σn公称応力あるいは工学的応力と呼ぶ[11][12]。一方、変形中の断面積 A をもとに定義する応力を真応力と呼ぶ[11]。荷重 F が加わっているときの断面積を A とすれば、真応力 σt は以下のようになる[13]

この真応力は、応力の厳密な定義に近い[14]

試料の初期長さ L0 で除して得られるひずみ εn は、公称ひずみ工学的ひずみと呼ばれる[15][12]

公称ひずみに対して、荷重 F が加わった時点における長さ L からの変形量で定義するひずみを真ひずみと呼ぶ[13]。真ひずみ εt は微分形式で以下のように定義される[13]

ここで、dL は、長さ L からのひずみ微小増加量と長さ微小増加量である。L0 から L まで積分すれば、以下のような真ひずみ εt と公称ひずみ εn の関係が得られる[13]

ここで、ln は自然対数である。真ひずみは対数ひずみとも呼ばれる[16]

真応力-真ひずみ曲線の方が物理的意味はあるが、その都度の断面積を測定する必要がある[6]。公称応力-公称ひずみ曲線が慣例的によく使われる[17]

材料別の傾向

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構造用鋼の応力-ひずみ曲線模式図
1と2の応力が、それぞれ引張強さ降伏点を示す。3に達したときに破断する。4の領域が均一塑性変形域、5.が不均一塑性変形域に該当する。Aが公称応力による曲線、Bが真応力による曲線

材料の種類によって応力-ひずみ曲線の特徴は異なる。以下では、金属材料、高分子材料、セラミックス材料について説明する。

金属材料

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金属材料の中でも、材料の種類によって応力-ひずみ曲線の傾向が2種類に分かれる[15]。以下では参照文献に倣い、特に断りが無い限り、引張荷重、室温、変位制御による公称応力-公称ひずみ曲線をもとに応力-ひずみ曲線の概要を説明する。

弾性変形領域

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無負荷の状態から荷重をかけ始めると、ある程度の応力値まで、応力とひずみは比例の関係で結ばれる[12]。このような比例の関係をフックの法則と呼び、フックの法則が保たれた変形を弾性変形と呼ぶ[18]。弾性変形領域内では、荷重を取り除くと変形はなくなり、元の形状に戻る[19]。比例係数はヤング率と呼ばれ、次式の関係にある[12]

ここで、E はヤング率で、σnεn は公称応力と公称ひずみである。弾性変形領域内で強度設計することが、強度設計の基本となる[20]

ある程度までひずみが大きくなると材料が降伏し、比例関係が崩れて、応力とひずみの関係は非線形となる。この領域では除荷しても変形が完全には戻らなくなる[19]。このような残留する変形を塑性変形と呼ぶ[19]

均一塑性変形域

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非鉄金属などの降伏点が存在しない例。図中では、 Rp0.2:0.2%耐力、Rm:引張強さ
 
軟鋼材などの降伏点が存在する例。図中で、ReH:上降伏点、ReL:下降伏点、Rm:引張強さ、Ap:降伏点伸び、A:破断伸び。

アルミニウムなど非鉄金属材料および炭素量の高い鉄鋼材料と、炭素量の少ない軟鋼とで、降伏の様子は異なってくる[21][22]。非鉄金属の場合、線形(比例)から非線形へは連続的に変化する[23]。比例ではなくなる限界の点を比例限度または比例限と呼び、比例限をもう少し過ぎた、応力を除いても変形が残る(塑性変形する)限界の点を弾性限度または弾性限と呼ぶ[23][9]。実際の測定では、比例限度と弾性限度は非常に近いので、それぞれを個別に特定するのは難しい[23]。そのため、除荷後に残る永久ひずみが0.2%となる応力を耐力0.2%耐力と呼び、比例限度や弾性限度の代わりに塑性変形発生基準として用いられる[24][23]

軟鋼の場合は、応力-ひずみ曲線の線形領域から非線形領域へは不連続的に変化する。応力が高くしていくと、ある点で塑性変形が開始する。この点を上降伏点と呼ぶ[5]。ここで、試料に対してを荷重制御ではなく変位制御で負荷を与えているとすると、強制的に与えられる伸びに追従して応力が発生する格好となる。変位制御で応力-ひずみ曲線を測定すると、上降伏点を過ぎた後、応力はあるところまで急激に下がり、ほぼ一定の応力状態が続く[24][23]。下がったところの応力を下降伏点と呼ぶ[25]。下降伏点の応力値で一定の状態が続いた後、再度応力が増加していく。このような降伏の過程を辿るのは軟鋼特有の現象で、コットレル雰囲気などの理論で説明される[26]。上降伏点と下降伏点の総称を、あるいは下降伏点と上降伏点を区別しない場合は上降伏点を、降伏点と呼ぶ[11][25]。下降伏点における一定応力値が続く範囲のひずみを降伏点伸びと呼ぶ[21]。下降伏点と上降伏点を区別しない場合、降伏点における応力を、降伏応力降伏強度降伏強さ、あるいは単に降伏点と呼ぶ[25]

降伏後、応力-ひずみ曲線は再び上昇していく[21]。ここからは、塑性変形が起きている材料に対してさらに塑性変形をさせようとしており、このため応力の増加が必要となる[22]。この現象は加工硬化ひずみ硬化と呼ばれ、金属中の転位の運動が妨げられるようになるため発生する[27]。加工硬化後の真応力と真ひずみの関係は、

で表すことができる場合が多い[28][29]K強度係数nひずみ硬化係数加工硬化指数nと呼ばれ、材料固有の定数となる[28][29][5]。多くの金属で n は0.2から0.4までの値を取る[30]

降伏後の応力-ひずみ曲線を公称応力で追うと、加工硬化で上昇していった曲線は、あるひずみで応力が極大値をとる。降伏から公称応力極大までの変形は、試験片全体にわたって均一に塑性変形が発生するので、均一塑性変形とも呼ばれる[31]。均一塑性変形中は、全断面積で応力は均一に分布している[32]

不均一塑性変形域

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破断に達した試験片の様子

降伏後の応力-ひずみ曲線を公称応力で追うと、あるひずみで応力が最大となり、そこからは応力は下がっていく。この最大応力を引張強さと呼ぶ[33]。引張強さは材料の強度を示す重要な特性値で、引張における強度の指標として最も広く使用されている[24][34]。この最大応力を境にして材料の変形は、均一な変形ではなく、試験片の一部が局部的に縮小するようになる[35]。したがって、ここからの局部縮小を伴う塑性変形を不均一塑性変形と呼ぶ[31]。発生する局部縮小をくびれ、またはネッキングと呼ぶ[36]

さらに荷重をかけ続けると、発生したくびれは縮小し続け、そこから試験片の破断に至る[36]。公称応力で見たとき、破断時の応力は引張強さよりも小さくなるが、真応力で見れば、加工硬化による真応力増大は続き、破断応力は引張強さよりも大きな値を示す[31][21]。ただし、破断応力の値を用いることは一般的には少ない[21]。破断時の公称応力を公称破断応力、あるいは単に破断応力と呼ぶ[37][5]。破断時の荷重を破断部の断面積で除した値、すなわち破断応力を真応力で表したものは真破断応力と呼ぶ[34]

初期長さと破断後長さの変化率を破断伸びや単に伸びと呼ぶ[11][21]。初期長さを L0、破断後長さを Lf とすれば、伸び δ百分率 [%] で、

で表される[38]。破断伸びは材料の靱性を示す特性値となる[39]。実際の試験では、破断して残った2つの試験片をきれいに突き合わせ、予め記しておいた標点間の距離で破断後長さを測定する[39]

また、破断後の断面積の減少率を絞りと呼ぶ[40]。伸びと同様に靱性を示す特性値の一つである[39]。破断部の断面積を Af、初期断面積 A0 とすると、絞り φ は伸びと同じく百分率で、

で定義される[41]

高分子材料

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高分子材料の公称応力-公称ひずみ曲線の一例

高分子材料は、粘性弾性を示す材料で、金属材料と粘性流体の間のような力学的性質を示す[42]。そのため、フックの法則に従う領域は、応力が低い範囲であってもほぼ無いか狭い[42][43]。そのため高分子材料の場合は、原点付近での曲線の接線からヤング率を求める[44]

高分子材料は種類が多様なため、応力-ひずみ曲線の形状も様々である[45]。金属のような曲線を持つものから、ゴムのように著しく伸びやすいものまで存在する[45]。温度とひずみ速度の影響も受けやすく、高い温度または小さなひずみ速度では、応力-ひずみ曲線の背は低くく、破断ひずみは大きくなり、より延性的な材質になる[42]。一方、低い温度または大きなひずみ速度では、応力-ひずみ曲線の背は高く、破断ひずみが小さくなり、より脆性的な材質になる[42]

セラミックス材料

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セラミックスは典型的な脆性材料である[46]。一般に、セラミックスのヤング率は金属よりも高い[47]。引張荷重をかけたとき、塑性変形をほとんど起こさずに破壊に至る[48]。圧縮荷重の場合、塑性変形を起こさないのは同様だが、き裂が安定して成長するため、応力-ひずみ曲線の最大値である圧縮強さは引張強さの10倍から20倍となる[49]

脚注

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  1. ^ 荘司ほか 2004, p. 84.
  2. ^ a b c 日本機械学会 2007, p. 153.
  3. ^ 平川ほか 2004, p. 153.
  4. ^ 徳田ほか 2005, p. 98.
  5. ^ a b c d 西畑 2008, p. 17.
  6. ^ a b 日本機械学会 2007, p. 1092.
  7. ^ 日本塑性加工学会鍛造分科会 2005, p. 17.
  8. ^ a b 村上 1994, p. 10.
  9. ^ a b c d 北田 2006, p. 87.
  10. ^ a b 村上 1994, p. 11.
  11. ^ a b c d 西畑 2008, p. 20.
  12. ^ a b c d 平川ほか 2004, p. 149.
  13. ^ a b c d 荘司ほか 2004, p. 87.
  14. ^ 平川ほか 2004, p. 157.
  15. ^ a b 大路・中井 2006, p. 40.
  16. ^ 日本塑性加工学会鍛造分科会 2005, p. 13.
  17. ^ 渡辺 2009, p. 53.
  18. ^ 荘司ほか 2004, p. 85.
  19. ^ a b c 徳田ほか 2005, p. 88.
  20. ^ 村上 1994, p. 12.
  21. ^ a b c d e f 門間 1993, p. 36.
  22. ^ a b 荘司ほか 2004, p. 86.
  23. ^ a b c d e 大路・中井 2006, p. 41.
  24. ^ a b c 平川ほか 2004, p. 155.
  25. ^ a b c 日本機械学会 2007, p. 416.
  26. ^ 北田 2006, p. 91.
  27. ^ 日本機械学会 2007, p. 211.
  28. ^ a b 大路・中井 2006, p. 42.
  29. ^ a b 荘司ほか 2004, p. 97.
  30. ^ 日本塑性加工学会鍛造分科会 2005, p. 16.
  31. ^ a b c 平川ほか 2004, p. 158.
  32. ^ 大路・中井 2006, p. 9.
  33. ^ 徳田ほか 2005, p. 96.
  34. ^ a b 大路・中井 2006, p. 43.
  35. ^ 北田 2006, p. 88.
  36. ^ a b 日本機械学会 2007, p. 334.
  37. ^ 日本機械学会 2007, p. 639.
  38. ^ 平川ほか 2004, p. 156.
  39. ^ a b c 門間 1993, p. 37.
  40. ^ 日本塑性加工学会鍛造分科会 2005, p. 19.
  41. ^ 荘司ほか 2004, p. 121.
  42. ^ a b c d Erik Oberg, Franklin Jones, Holbrook Horton, Henry Ryffel, Christopher McCauley (2012). Machinery's Handbook (29 ed.). Industrial Press. pp. 557–558. ISBN 978-0-8311-2900-2 
  43. ^ 高野 2005, p. 60.
  44. ^ 小川 2003, p. 44.
  45. ^ a b 門間 1993, p. 197.
  46. ^ 平川ほか 2004, p. 195.
  47. ^ 平川ほか 2004, p. 194.
  48. ^ 荘司ほか 2004, p. 245.
  49. ^ 荘司ほか 2004, p. 247.

参照文献

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  • 平川賢爾、大谷泰夫、遠藤正浩、坂本東男、2004、『機械材料学』第1版、朝倉書店 ISBN 978-4-254-23702-3
  • 荘司郁夫・小山真司・井上雅博・山内啓・安藤哲也、2014、『機械材料学』、丸善出版 ISBN 978-4-621-08840-1
  • 西畑三樹男、2008、『絵とき 「材料試験」基礎のきそ』初版、日刊工業社 ISBN 978-4-526-06001-4
  • 日本機械学会(編)、2007、『機械工学辞典』第2版、丸善 ISBN 978-4-88898-083-8
  • 北田正弘、2006、『新訂 初級金属学』第1版、内田老鶴圃 ISBN 4-7536-5551-2
  • 村上敬宜、1994、『材料力学』第1版、森北出版〈機械工学入門講座1〉 ISBN 4-627-60510-2
  • 大路清嗣・中井善一、2006、『材料強度』初版、コロナ社〈機械系 大学講義シリーズ〉 ISBN 978-4-339-04039-5
  • 日本塑性加工学会鍛造分科会(編)、2005、『わかりやすい鍛造加工』初版、日刊工業社 ISBN 978-4-526-05457-0
  • 渡辺順次(編)、2009、『分子から材料まで どんどんつながる高分子―断片的な知識を整理する』初版、丸善出版 ISBN 978-4-621-08180-8
  • 小川俊夫、2003、『工学技術者の高分子材料入門』初版、共立出版 ISBN 4-320-04294-8
  • 高野菊雄、2005、『トラブルを防ぐプラスチック材料の選び方・使い方』第1版、工業調査会 ISBN 4-7693-4190-3
  • 徳田昌則・山田勝利・片桐望、2005、『金属の科学』初版、ナツメ社〈図解雑学シリーズ〉 ISBN 4-8163-4040-8
  • 門間改三、1993、『機械材料』SI単位版、実教出版〈大学基礎〉 ISBN 978-4-407-02328-2

外部リンク

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