戦車不要論
戦車不要論(せんしゃふようろん)は、戦車は対戦車ミサイルや無人機により簡単に撃破されるため不要であるという理論。
概要
[編集]対戦車ミサイルの活躍
[編集]第四次中東戦争の緒戦、エジプト軍がソビエト連邦製のAT-3対戦車ミサイルを歩兵・装甲車で運用し戦車万能論を唱えてきたイスラエル軍の戦車を多数撃破した[1]。これを受け、イスラエルなどの国は対戦車ミサイル対策を進めた。
しかし、その後のトヨタ戦争においても、チャド政府軍のミラン対戦車ミサイルを活用し、リビア軍の戦車部隊ほぼ一個旅団を壊滅させた。
また、2022年ロシアのウクライナ侵攻においても、数字上の戦力では圧倒的劣勢のウクライナが予測に反して善戦。特にアメリカ合衆国から供与されたジャベリン携行対戦車ミサイルの活躍が注目された。
ドローンの登場
[編集]2020年に9月27日から11月9日にかけて発生したアゼルバイジャンとアルメニアのナゴルノ・カラバフ戦争では、アゼルバイジャン共和国軍のドローンがアルメニア共和国軍のT-72戦車を撃破したとする動画を公開した[2]。
2022年ロシアのウクライナ侵攻においてウクライナ軍はトルコ製の無人機「バイラクタル TB2」を投入、ロシア連邦軍の戦車(T-72など)複数を撃破したとみられている[3][4]。
理論
[編集]上記の事例などから、高価な戦車は対戦車ミサイルや無人機などの比較的安価な兵器により簡単に撃破されたり、航空機からの攻撃で一方的に撃破されるため、コストパフォーマンスに見合わないものであり、不要とする考え方である。また、地域によっては戦車対戦車の戦いが発生しづらいと考えられるため、戦車は不要とする主張もみられる[5]。
影響
[編集]全般
[編集]対戦車ミサイルが発達し、随伴歩兵による携帯用対戦車兵器を持つ敵歩兵部隊の掃討がより重要視されるようになり、戦車部隊と機械化歩兵部隊がともに行動する戦術が生み出された。
日本
[編集]陸上自衛隊は旧式化した74式戦車を2024年までに退役させ[6]、代替に戦車ではなく16式機動戦闘車を配備する予定である。最終的に北海道と九州にのみ90式戦車・10式戦車部隊を配置し、本州には戦車を配備しない予定である[7][8]。
アメリカ
[編集]アメリカ海兵隊は戦車不要論をうけ、保有するM1A2エイブラムス戦車を2030年までに廃止すると発表した[9]。
ヨーロッパ
[編集]批判と戦車不要論に背反する動き
[編集]しかしながら、戦車不要論に背反するかの用に、各国は新型戦車を開発している。
2022年ロシア・ウクライナ戦争、2023年パレスチナ・イスラエル戦争では、対戦車ミサイルとドローン(小型無人機、民生用のホビー用途)に撃破される戦車の映像が次々と映し出されており、「現代では戦車は使えない兵器」とする懐疑論が出てきているが、どちらも成功した映像が流れているのであって、その華々しい成功の裏にはそれ以上の失敗が隠れている。 ジャベリンをはじめとした対戦車ミサイルは、じっくり狙える時間のある待ち伏せや陣地戦などでは威力を発揮するが、攻勢局面では機動力が劣り、自走化して機動力を足しても咄嗟の発射には対応できない。ドローンは電波障害に弱く、突入スピードも遅く、既に日傘装甲で対策されている戦車が多い。ドローンに対して防御していない敵を探して攻撃するよりも偵察や敵の位置把握に用いる方がより効果的である。 2022年夏に行われたウクライナ軍の反転作戦にあるように、機動力と火力を持った戦力は依然として必要不可欠であり、戦車は戦場での地位を保っている。
また、自軍側が戦車を持っている場合、敵軍側は自軍側が持つ戦車よりも高性能な戦車を持ってくるため、自軍側の戦車の能力が高くなれば、敵軍側は更に強力な戦車を開発せざるを得なくなり、結果としてそれが抑止力となるとする見方がある[10]。
アメリカ
[編集]ワシントンD.C.にて開催されたアメリカ陸軍協会主催の武器展示会「AUSA」に合わせ、ジェネラル・ダイナミクス・ランド・システムズ(GDLS)が「エイブラムスX」を発表。またアメリカ陸軍は事実上の軽戦車とされる機動防護火力車両「グリフィンII,後にM10ブッカー戦闘車」の導入を決定した[11]。
ロシア
[編集]2021年以降、最新型戦車のT-14を整備・部隊配備していく予定[12]。また、T-14に興味を示す国が複数あるともいう[13]。
脚注
[編集]出典
[編集]- ^ “対戦車ミサイルはゲームチェンジャーではない(JSF) - エキスパート”. Yahoo!ニュース. 2023年11月7日閲覧。
- ^ “戦車はもう不要なの? 台頭する無人兵器 英は生産終了…「陸戦の王者」今後のあり方は”. 乗りものニュース (2021年7月9日). 2023年11月7日閲覧。
- ^ “Oryx Blog - ジャパン”. spioenkopjp.blogspot.com. 2023年11月7日閲覧。
- ^ Oryx. “A Monument Of Victory: The Bayraktar TB2 Kill List”. Oryx. 2023年11月9日閲覧。
- ^ “10式戦車は、欠点・弱点があまりにも多い”. 東洋経済オンライン (2015年4月19日). 2023年11月7日閲覧。
- ^ “「74式戦車」もうすぐ退役 丸っこい戦車はもう出ないのか? カクカクへ変わった合理的な理由”. 乗りものニュース (2023年8月12日). 2023年11月7日閲覧。
- ^ 菊池雅之 (2022年6月17日). “【最新国防ファイル】兵器の進化に即応し戦車一掃「陸上自衛隊第3師団」 改変計画での主力装備は機動力高い「16式機動戦闘車」(1/2ページ)”. zakzak:夕刊フジ公式サイト. 2023年11月7日閲覧。
- ^ 「第十回懇談会 資料1 part5」(内閣府)
- ^ “米海兵隊が戦車大隊廃止を開始、M1A1エイブラムスは倉庫送りに”. grandfleet.info (2020年8月2日). 2023年11月7日閲覧。
- ^ “「専守防衛に戦車不要」は大間違い 陸上自衛隊に戦車が必要なわかりやすい理由”. 乗りものニュース (2018年9月19日). 2023年11月7日閲覧。
- ^ “「戦車不要論」は一蹴された? 2022年を彩った世界の戦車5選 日本の安全保障に影響はあるか”. 乗りものニュース (2023年1月1日). 2023年11月7日閲覧。
- ^ “ロシア 2021年より最新鋭戦車T-14「アルマタ」の部隊配備を開始か”. 乗りものニュース (2020年12月9日). 2023年11月7日閲覧。
- ^ International, Sputnik (20150604T0259+0000). “China, India Interested in Purchasing Russia’s Armata - Putin's Aide” (英語). Sputnik International. 2023年11月7日閲覧。