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排除アート

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
座ったり眠ったりできないよう、フランスの建築物の前の階段に設置されたボルト。
排除アートの例であるロンドンのカムデン・ベンチ英語版
ドイツのベルリンにある “Sitzkiesel”(「座る石」)は、以前のベンチのかわりとして設置された。

排除アート(はいじょアート、Hostile architecture)とは、パブリックスペースが損壊されたり、予め想定された用途以外で使われたりしないよう建造物に手を加えるアーバンデザインの造形物で、アーバンデザインにおける1つの手法である[1][2][3]。施設管理者が意図した用途を利用者に対して強制するための設計手法である。施設管理者によって犯罪・マナー違反防止の目的で設置される[2]

排除アートは都市住民の中でも社会的弱者を対象とし、その中でもホームレス排除が主要な目的であることが多く、しばしば物議をかもすものとなる[2][3]。座り込んだり、うろついたり、スケートボードをしたりすることを防ぐ意図を持って設置されることもあれば、意図せずにあらゆる公衆、とくに高齢者障害者子どもなどにとって都市空間を使いにくいものにしてしまうこともある[4][2]。その点で、排除アートにはバリアフリーの設計方針と対立する設計も含む。日本語の用語について、そもそも排除を目的とする障害物をアートと呼ぶべきではないとの意見もある[5]2020年11月16日東京都渋谷区幡ヶ谷ホームレス女性が殺害された事件では、女性は普段から襲われるのを避けるためか灯りのあるバス停のベンチに座って寝ていたのだが、そこのベンチも傾斜をつけて着座ですら長時間は困難な排除アートであった[6]

呼称

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都市空間において「社会的困窮者の追い出し」の作用がある構造物などに対し、日本語では「排除アート」という呼称がある[7][8][2]。1990年代以降に「アート」と称されるようになったとされる[2]

設置目的

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ホームレス排除

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野宿が困難になるようを平らな表面に打ち込むなどする「アンチホームレススパイク」など、ホームレスの人々に対する攻撃的な対策が最も典型的な排除アートの例である[9][10]。その他、ベンチに横になって寝転がれないような肘掛けを設置したり[8][2][11]、滑りやすい棒状の腰掛けにする、日除けに隙間を作り日差しや雨を凌げないようにするなどの手法がある[3]

シアトル交通局ではホームレスの人々がキャンプできないような駐輪ラックを設置している[12]

その他

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新宿駅西口地下広場にある排除アートの一種。

ホームレス排除以外に排除アートが設置される目的としては、スケートボードの走行、ゴミポイ捨て、無目的なうろつき、排尿などを防ぐことが普通である。窓台に人が座れないように傾けたり、「断続的に稼働するが、実際は何にも放水していない」スプリンクラーを設置するなどしてこうした行為を妨害する[13][14]

歴史

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“urine deflectors” の例。立ち小便をすると本人に戻る仕組みになっている。

土木工学を用いて社会工学的な目的を達成しようとすることは古くから行われている。19世紀には「尿阻板」(なお、「板」とは限らない)という、立ち小便ができないよう家の外壁につける板があり、これは先行例とみなせる[15][16]

現代においては、自然監視、自然アクセス制御、域内強制執行という三つの戦略で犯罪を防ぎ、不動産を守ることを目指す環境デザインを通した防犯というデザイン哲学が基礎になっている[要説明][17]

批判

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排除アートは批判を浴びており、規範的に認められているような行動以外はとれないようになり、公共空間を商業的で「ニセ公共」的な空間にし、設けられた物は「社会の分断をもたらす」ために使用していると言われている[18][19]

仕切りのあるベンチは使い勝手が悪いという指摘もある[2]

評論家の佐々木敦は、「排除アート」という日本語について「路上生活者を排除するために公共スペースにしつらえられた障害物を「アート」と称するもので、そんなのはアートでもなんでもない[5]」と批判的なコメントを出している。

2018年にイギリスの芸術家スチュアート・センプルは、周囲に排除アートの例を見つけたらそれを示すステッカーを貼るよう公衆にすすめる啓発キャンペーンをソーシャルメディアではじめた[20][21][22]

2023年には平塚市市議の活動により、平塚駅前に設置された仕切りのあるベンチの改修に合わせ、仕切りが無い物に交換された[2]。仕切りが無いベンチに苦情は寄せられていないという[2]

脚注

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  1. ^ hostile architecture”. Macmillan Dictionary. 23 February 2015閲覧。
  2. ^ a b c d e f g h i j 「排除ベンチ」の排除に初めて成功…野宿者支援に取り組む市議が平塚駅前ベンチ改修に込めた思いは”. 東京新聞 TOKYO Web (2023年9月4日). 2023年9月4日閲覧。
  3. ^ a b c 意地悪なベンチ バス停にも公園にも 公共の場で増殖する「排除アート」”. 沖縄タイムス+プラス (2023年9月4日). 2023年9月4日閲覧。
  4. ^ Chellew, Cara (January 21, 2018). “Documenting the use of defensive urban design in the Greater Toronto Area and beyond.”. #defensiveTO. 2020年3月23日閲覧。
  5. ^ a b 佐々木敦「(書評)野良ビトたちの燃え上がる肖像」『日本経済新聞』2017年1月8日、朝刊、20面。
  6. ^ 五十嵐太郎『誰のための排除アート? 不寛容と自己責任論』岩波書店〈岩波ブックレット No.1064〉、2022年6月3日、4頁。ISBN 978-4-00-271064-8 
  7. ^ 山下宗利「アートプロジェクトと都市空間」『日本地理学会発表要旨集』2017年度日本地理学会春季学術大会、日本地理学会、2017年、100176頁、CRID 1390001205694354560doi:10.14866/ajg.2017s.0_100176 
  8. ^ a b 五十嵐太郎 (2020年12月12日). “排除アートと過防備都市の誕生。不寛容をめぐるアートとデザイン”. 美術手帖. 2023年9月4日閲覧。
  9. ^ Omidi, Maryam (12 June 2014). “Anti-homeless spikes are just the latest in 'defensive urban architecture'”. The Guardian. https://www.theguardian.com/cities/2014/jun/12/anti-homeless-spikes-latest-defensive-urban-architecture 23 February 2015閲覧。 
  10. ^ Andreou, Alex (18 February 2015). “Anti-homeless spikes: 'Sleeping rough opened my eyes to the city's barbed cruelty'”. The Guardian. https://www.theguardian.com/society/2015/feb/18/defensive-architecture-keeps-poverty-undeen-and-makes-us-more-hostile 23 February 2015閲覧。 
  11. ^ 仕切りのあるベンチを考える”. NHK福岡放送局 (2024年6月12日). 2024年7月4日閲覧。
  12. ^ Groover, Heidi (19 December 2017). “Seattle Uses Bike Racks to Discourage Homeless Camping”. The Stranger. https://www.thestranger.com/slog/2017/12/19/25638433/seattle-uses-bike-racks-to-discourage-homeless-camping 17 December 2017閲覧。 
  13. ^ Quinn, Ben (13 June 2014). “Anti-homeless spikes are part of a wider phenomenon of 'hostile architecture'”. The Guardian. https://www.theguardian.com/artanddesign/2014/jun/13/anti-homeless-spikes-hostile-architecture 23 February 2015閲覧。 
  14. ^ Mills, Chris (21 February 2015). “How 'Defensive Architecture' Is Ruining Our Cities”. Gizmodo.com. 23 February 2015閲覧。
  15. ^ Swain, Frank (2 December 2013). “Secret city design tricks manipulate your behaviour”. BBC. http://www.bbc.com/future/story/20131202-dirty-tricks-of-city-design 
  16. ^ Lee, Jackson (23 July 2013). “Urine Deflectors in Fleet Street”. The Cat's Meat Shop. 23 February 2014閲覧。
  17. ^ Chellew, Cara (September 2016). “Design Paranoia” (PDF). Ontario Planning Journal 31 (5): 18-20. https://www.researchgate.net/profile/Cara_Chellew/publication/314762975_Design_Paranoia/links/58c5d3d745851538eb8b009e/Design-Paranoia.pdf. 
  18. ^ Swain, Frank (5 December 2013). “Designing the Perfect Anti-Object”. Medium. 23 February 2015閲覧。
  19. ^ Shea, Michael (5 August 2014). “On the frontline: The architectural policing of social boundaries”. Discover Society. 23 February 2015閲覧。
  20. ^ “Hostile Architecture: 'Design Crimes' Campaign Gets Bars Removed from Benches - 99% Invisible” (英語). 99% Invisible. https://99percentinvisible.org/article/design-crimes-artist-launches-campaign-highlight-hostile-architecture/ 2018年2月15日閲覧。 
  21. ^ ANNY SHAW. “Stuart Semple launches campaign to eradicate ‘hostile design’ around the world”. www.theartnewspaper.com. 2018年2月4日時点のオリジナルよりアーカイブ。2018年2月15日閲覧。
  22. ^ “Artist Launches Campaign to Call Out Hostile Urban Design” (英語). Hyperallergic. (2018年2月1日). https://hyperallergic.com/424567/stuart-semple-launches-campaign-to-call-out-hostile-urban-design/ 2018年2月15日閲覧。 

関連項目

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外部リンク

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