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日本語の表記体系

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

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日本語の表記体系
類型: 表語文字 (漢字)、音節文字 (ひらがなカタカナ)
言語: 日本語
時期: 4世紀から
親の文字体系:
万葉仮名
  • 日本語の表記体系
Unicode範囲: U+4E00–U+9FBF 漢字
U+3040–U+309F ひらがな
U+30A0–U+30FF カタカナ
ISO 15924 コード: Jpan
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日本語の表記体系(にほんごのひょうきたいけい)とは、日本語の文章等を文字によって表記するための系統的な方法を意味する。本項目では現代日本語の表記システムとその歴史を扱っている。日本語の概略に関しては日本語を参照。

現代の日本語では、主に以下の三種類の文字体系が用いられる。

ローマ由来のアルファベットラテン文字)を用いて日本語を表記することもでき、日本ではローマ字と呼ばれる。個々のラテン文字を、イニシャルや略号として、漢字・かなと併用して記すことは普通に行われているが、文章全体をローマ字で記すことは、日本人自身においては稀である。

一例として朝日新聞のニュース記事(2004年4月19日)のヘッドラインを次に示す。ここでは上記四種類の文字システムがすべて用いられている。漢字オレンジひらがなカタカナローマ字アラビア数字灰色で示す:

ラドクリフマラソン五輪代表1m出場にも

日本語で書かれた単語の例を以下にいくつか示す:

漢字 ひらがな カタカナ ローマ字 英語
わたし ワタシ watashi I
金魚 きんぎょ キンギョ kingyo goldfish
煙草 たばこ タバコ tabako tobacco, cigarette

日本における単語の配列法は漢字ではなく、単語の発音を表記する「かな」を基盤とする。通常用いられる「かな」の配列には「五十音順」と「いろは順」の二種類がある。後者は古式である。漢字はまた部首によっても配列される。

文字種の使い分け

大部分の日本語文は漢字とひらがなで書かれ、一部にカタカナが混在して使用される。

漢字が使われる場面は、例えば:

等である。詳細については漢字を参照。

ひらがなが使われる場面は、例えば:

  • 形容詞動詞活用語尾(送り仮名)
  • 助詞
  • 漢字を持たない(あるいは漢字では読みづらい)日本語の単語
  • 漢字の読み方の指示(振り仮名)

等である。詳細についてはひらがなを参照。

カタカナが使われる場面は、例えば:

  • 外国の単語、名前
  • 擬態語
  • 強調。英語ではイタリック体で書くような場面
  • 技術、科学用語(生物の名前。「ヒト」、「ネコ」等)

等である。詳細についてはカタカナを参照。生物名のカタカナ表記の起源については和名を参照。

ローマ字が使われる場面は、例えば:

  • アクロニムイニシャル。例えばNATO(「北大西洋条約機構 North Atlantic Treaty Organisation」のアクロニム)
  • 日本国外で通用するように意図した場合。例えば名刺やパスポートの名前
  • 会社名、ブランド名、製品名等。日本国内外問わず用いられる
  • 日本語の文脈中にいきなり外国の単語やフレーズを挿入する場合。日本人向け民生品の宣伝等

等である。詳細についてはローマ字を参照。

しかしながら、上記の規則には多くの例外がある。例えば日本人の名前には漢字、ひらがな、カタカナの全てが用いられることがある。

加えて、横書きの文書ではアラビア数字が普通は用いられる。ラテン文字はアクロニムや国際単位系の単位等に用いられる。

文字種の意図的な選択

ひらがな、カタカナ、ローマ字のいずれでも、全ての日本語の単語を表記することができる。また、殆どの単語には漢字表記がある。どの文字種を用いるかは多くの要因によって決まる。

漢字表記によって異なる意味を表す場合もある(「熱い」「厚い」、「好み」「木の実」等)。場合によっては漢字の書き分けが難しく、誤記するよりましだというのでひらがなで表記する人もいる。

表記する方向

伝統的には日本語は「縦書き」で書かれた。文書は縦行に分かれ、各縦行は上から下に、縦行のあいだでは右から左に書かれる。ある縦行の最下部まで読み進んだら、次は左隣の縦行の最上部に移動することになる。これは中国の文と同じ順序である。

現代の日本語は他の方法も採用している。「横書き」といわれるもので、英語などのヨーロッパ諸語と同一の方法である。左から右に書かれた横向きの行が上から下に並んでいる。

初期の日本語表記系

現在の日本語表記系は中国語の古典文語である漢文の書き方が伝えられた4世紀にまで遡る。神代文字と称する更に古い表記法が発見されたともいわれているが、それらは絵文字っぽかったり、ルーン文字に似ていたり、ハングルに酷似していたりする。これらの内で真正なものと結論づけられたものは一つもなく、中国語の伝来以前に日本に文字があった証拠は全く存在しない。神代文字の一部はこのサイトで見られる。

最初のうちは中国の文字で日本語を表記することはなく、読み書きには漢文の能力を必要とした。それどころか、漢文の読み下しというシステムが考案され、中国の文字(漢字)を用い、正則のあるいは日本語の影響を受けた変則的な漢文を、日本語として読む技術が考案され、しばしばそのためのヒントとなる返り点などの符号を漢字の脇に表記するようになった。712年より以前に編纂されたと考えられている日本における最初期の文献「古事記」は漢文で書かれている。日本の中等教育では、現在でも漢文の初歩を教えている。

万葉仮名と訓読み

万葉仮名が開発されるに及んで、漸く日本語を表記するシステムが得られた。これは漢字を表意文字ではなく表音文字として(中国音から音を得て)用いるものである。万葉仮名ははじめ詩を記録するのに用いられ、例えば759年以前に編纂された万葉集にみられる。万葉仮名という名前もこの詩集に由来する。ひらがなは万葉仮名から発達したものである。また、漢文の読み下しを助けるために横に付した符号のうち、発音記号として使った漢字からカタカナが発達した。

大量の単語と概念が中国から日本に伝わったので、日本語には対応する単語がない場合が多かった。そのため、それらの単語は直接中国語から日本語にとり入れられ、中国語に似た発音で用いられるようになった。この中国語由来の読み方が「音読み」であり、その種の単語は漢語と呼ばれる。同時に、日本語に対応する単語がある場合にも、次第に漢字を表記に用い、本来の日本語に翻訳して発音するようになった。この日本語由来の読み方が「訓読み」である。

音読みと訓読み

一個の漢字には、一つまたは複数の「音読み」と「訓読み」があることが多い(ない場合もある)。まず、日本に様々な時代の、様々な地域の中国語の発音が伝えられたために、ひとつの漢字に当てられている音読みに複数のものがある。呉音漢音唐音といったものである。これは特定の時代の特定の地域では通常1つの発音しか認めてこなかった中国や朝鮮半島など他の漢字を受容した地域には見られない慣習である。

次に、ひとつの漢語の持つ意味の広がりが複数の日本語の単語の概念にまたがっていることがあるため、ひとつの漢字に複数の訓読みが生じることがある。「主」という漢字に「おも」、「ぬし」、「あるじ」といった訓読みが当てられているといった例が挙げられる。こうして、一つの漢字の読みが、用いられる単語によっていくつも存在する場合が生じるわけである。例えば、「行」は「行く」の「い」(または「ゆ」)であり、「行う」の「おこな」であり、熟語の「行列」では「ぎょう」であり、単語「銀行」では「こう」であり、「行灯」では「あん」である。

送り仮名は漢字で始まる動詞や形容詞の活用語尾を示すために、振り仮名は漢字の読みの曖昧さを解消するために用いられる。

教養語としての漢語

言語学者は日本語が漢字を借用し中国語の単語を日本語にとりいれたことを、時として英語に対するノルマン人ブリテン諸島征服による影響に匹敵するとする。英語と同様、日本語には語源を異にした多くの同義語がある。中国起源のものと日本起源のものとである。また、中国起源の単語はよりフォーマルで知的な文脈で用いられ、これは英語国民がラテン語由来の単語をしばしば上流の証として用いるのと似ている。

日本語表記法の変化

明治時代

明治の大変革は暫くの間日本語の表記には影響を与えなかった。しかし教育制度の変化に伴い、大量の新語が現れ、また文字を読み書きできる国民が増加してくると言語そのものに変化が現れた。大量の新語は他の言語から持ち込まれたものもあれば、新しく作られたものもあった。言文一致運動が完勝を収め、歴史的ないし古典的な文体(文語体)にとってかわって口語体が広く用いられるようになった。日本語の書きづらさについて議論があり、1800年代の終わりには表記に用いる漢字の数を制限しようという意見が見られるようになった。外国語との接触によって、漢字を廃止してカナまたはローマ字のみを用いるようにしようという主張もあったが、これは支持されなかった。西洋語風の句読点が用いられるようになったのもこの頃である (Twine, 1991) 。

1900年に、文部省は日本語表記教育の改善を狙って3つの改革を行った:

  • ひらがなの字体を標準化し、それ以外を変体仮名として排除しようとした。
  • 漢字の字母数制限。初等教育では1200字にしぼった。
  • 実際の発音に合わなくなっていた漢語のかな表現(旧かな遣い)の改革

最初の二つは次第に広く受け入れられたが、最後の項目は保守層を中心に激しい反発を呼び、1908年に取り下げられることとなった (Seeley, 1991) 。

第二次世界大戦前

1900年の改革が部分的に失敗したこととナショナリズムの勃興とが合わさり、日本語表記法の改良は進まなかった。漢字の制限については多くの要求があり、いくつかの新聞は自主的に漢字を減らして送り仮名を増やしたが、公的な支持はなく反対も多かった。

第二次世界大戦後

終戦直後、大きな改革が行われた。一部にはGHQの影響もあったが、それ以上に敗戦によって、これまで教育制度を牛耳り、改革に抵抗していた保守層が排除されたことが大きく、停滞していた動きを一気に加速することができたのである。大きな点は:

ある時期 GHQ 内の一部の方針としてローマ字表記への変更が要請されたことがあるが、他の専門家の反対によって沙汰止みとなった (Unger, 1996)。(あるいは、日本の文化人のなかにも、ローマ字表記を主張し試行するものがいたが、全かな表記と同様、漢字を表記しないと意味識別が困難であり、実用化されなかった。韓国北朝鮮においては、漢字混在表記を廃止してハングル一元表記に実際に変更してしまったが、その結果として漢字文化の伝統が若い世代に伝わらず、問題となっていることと対照的であるとも言える。参考:ハングル及び六十年文字戦争)。

加えて、横書き時の右横書き(右から左へ)は殆ど姿を消し、左横書きに事実上一本化された(縦書きと横書き参照)。

とはいえ、世界の書字体系では、横書きであって、左から右と、右から左が、両方とも可能なものがあり(例えば、古代エジプトヒエログリフの書字システム)、日本語での右書きも、縦書きの変種ではなく、純粋に横書きと考えられるものもある。実際、このような表記法は現在でも商用車や船舶の右側面に見られ、乗り物の前方から後方に向かって配置されるようになっている(トラックの左側面に「ヰキ商会」、右側面に「会商キヰ」と書くなど)。

ヒエログリフの場合、右書きか左書きかは、人や動物など、「顔の向き」のある文字で、顔の向いている方向でどちらの方向に読むかが決まっていたように、乗り物の側面のように、「進行方向から後ろ」へという読み方の方向性が自然に決まる場合は、右書き・左書きと両方用いられる。

戦後の改革は現在でも維持されているが、いくつかの制限は緩和された。1981年には当用漢字に代わって常用漢字が制定され、1945字に増えた他、「制限」から「目安」に変わっている。また総じてこれ以上の改革には当局は消極的になってきた (Gottlieb, 1996) 。

2004年に、法務省の手で人名用漢字が大量に追加された。

戦後の日本語表記に関して、ごく簡略に言えば「漢字→名詞・用言の語幹、ひらがな→用言の活用語尾・付属語」という書き分けの原則が存在する(詳細は上記文字種の使い分けの項参照)わかち書きを行わない日本語の表記においては、この原則が語と語の切れ目を表示する機能を担っている。

まぜ書き(例:拿捕→だ捕)や漢語の仮名表記(例:軋轢→あつれき)が頻繁に見られるようになった。漢字制限の理念に沿うものだが、上記のような事情があるため語と語の切れ目が見えにくくなり、かえって読みづらいとの批判がある。見苦しい、文化破壊である、といった批判も根強い。

これらの流れについては「国語国字問題」の項も参照されたい。

ニュアンスを伝える日本語表記系

他の言語では説明を追加したり単語自体を変更したりしなければならない情報でも、日本語の表記システムを用いれば同じ単語の表記を変えるだけで伝えることができる場合がある。例えば英語の「 I 」、ドイツ語の「 Ich 」、ロシア語の「 Я 」に相当する「私」は男女兼用でフォーマルな文章にしばしば用いられる。ひらがなで書いた「わたし」は、優しい感じがするので、男女ともにインフォーマルな場や、親しみやすさを表現したい場合に使用される。例えば、女性が日記や友人への手紙で用いるなどは、その典型である。

カタカナの「ワタシ」はほとんど用いられず(時々機械的なニュアンスや、外国人が片言で話すニュアンスを出す場合に用いられることがある)、ローマ字の「watashi」も用いられることは稀であるが、何かの理由で強調したい場合などは、ひらがな・漢字混在文のなかで使用される。全文がカタカナやローマ字表記の場合にも、使用される。

文体上の狙いで漢字の複合語を恣意的に読ませることもできる。例えば夏目漱石は短編『十五夜』の中で名詞の「接続」を動詞的に活用した「接続って」を「つながって」と読ませている。これは通常ならば「繋がって」「つながって」と書くものである。(ただし、このような複数の漢字を、それに意味的対応する日本語のかな読みする例は、古くから存在している。「天皇」は「すめらみこと・すめろぎ」と訓んでいたのであり、「日本」も「やまと」と訓んでいた)。

ローマ字表記

日本語をローマ字で表記する方法にはいくつかある。英語利用者向けのヘボン式は、実際的な標準の表記法として、広く日本国内外で用いられている(英語版ウィキペディアでも)。訓令式はカナとの対応がよく日本人には学びやすい。文部省が公式に支持しているのはこれであるが、日本国外で用いられることは稀である。 国際規格としてISO 3602がある。 他には日本式JSLワープロ式がある。

関連項目

文字の書体

仮名の異形

参考書

  • Nanette Gottlieb 『Kanji Politics - Language Policy and Japanese Script』 Kegan Paul, 1996 ISBN 0-7103-0512-5
  • Nanette Twine 『Language and the Modern State - The Reform of Written Japanese』 Routledge, 1991 ISBN 0-4150-0990-1
  • Christopher Seeley 『The Japanese Script since 1900』 Visible Language, XVIII 3, 267-302, 1984
  • Christopher Seeley 『A History of Writing in Japan』 University of Hawai'i Press, 1991 ISBN 0-8248-2217-X
  • Yaeko Sato Habein 『The History of the Japanese Written Language』 University of Tokyo Press, 1984 ISBN 0-86008-347-0
  • J. Marshall Unger 『Literacy and Script Reform in Occupation Japan: Reading Between the Lines』 OUP, 1996 ISBN 0-1951-0166-9

外部リンク

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