映画 ○月○日、区長になる女。
映画 ○月○日、区長になる女。 | |
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監督 | ペヤンヌマキ |
製作 | 松尾雅人 |
出演者 | 岸本聡子、ペヤンヌマキ、東本久子、小関啓子 |
音楽 | 黒猫同盟(上田ケンジと小泉今日子)、向島ゆり子、ブランシャー明日香 |
撮影 | ペヤンヌマキ、吉見暁人、松尾雅人 |
製作会社 | 映画 ○月○日、区長になる女。製作委員会 |
配給 | 映画 ○月○日、区長になる女。製作委員会 |
公開 | 2024年1月2日 |
上映時間 | 110分 |
製作国 | 日本 |
言語 | 日本語 |
『映画 ○月○日、区長になる女。』(えいが まるがつまるにち くちょうになるおんな)[注 1]は、2024年公開の日本のドキュメンタリー映画。2022年6月19日に執行された杉並区長選挙で初当選した岸本聡子と岸本を擁立した市民グループ、支援した住民らに密着した作品である[2][3]。監督は、ビラ配りから区長選に関わったペヤンヌマキ(溝口真希子の別名)[4]。岸本のYouTubeチャンネルで同年6月1日から配信されていたシリーズ動画「○月○日、区長になる女」を元にしている[5][6][7]。
概要
[編集]背景
[編集]2019年春、劇作家のペヤンヌマキ(溝口真希子の別名)は体調を崩し、近所の杉並区成田東にある診療所を訪れた。そこで自宅アパートと当該診療所が対象となる道路拡張計画があることを初めて知った。東京都は中杉通りを青梅街道を突っ切り五日市街道まで延長する「都市計画道路補助第133号線」(890メートル)の計画を進めており[8]、実現すれば約20年慣れ親しんだ家から立ち退きを迫られることとなる[2]。政治に無縁だったペヤンヌは、地元で根強い反対運動があることも知らなかったが、そこから区政に興味を持ち始めた。同年7月、西荻窪の「都市計画道路補助第132号線」の拡張計画に反対する住民が区長の田中良と面会した際、田中は「工事は必ずやる」と宣言した[9]。田中が道路拡張推進の立場であることがわかり、さらに傍聴した区議会で一般質問中に田中が居眠りしているのを目撃した。「この区長では区民の声は届かない」とペヤンヌは思った[2][10]。
杉並区長選挙
[編集]2022年1月30日、前述の道路拡張事業や児童館統廃合などの田中区政の方針に批判的な区民らが、来るべき区長選挙(6月19日執行)に向けて、市民団体「住民思いの杉並区長をつくる会」を結成した[11][12]。事務局長には、「教育基本法『改正』反対市民連絡会」共同代表などを務めた東本久子が就いた[4][13]。2月9日には田中が4選出馬を表明[14]したが、候補者は3月に入っても決まらなかった[15]。
同年3月、ベルギーで長く環境問題に取り組んでいたNGO職員の岸本聡子が一時帰国した。岸本は3月24日に京都府知事選挙が告示されると、翌日京都に入り、連日にわたり元京都教職員組合書記長の梶川憲の応援演説を行った[16][17][18]。同月末、「住民思いの杉並区長をつくる会」メンバーで、NPO法人アジア太平洋資料センター共同代表の内田聖子が、旧知の間柄であった岸本に白羽の矢を立て、4月10日にようやく岸本の擁立が決定した[19][20][15]。
4月26日、ペヤンヌは阿佐ヶ谷駅前の街頭宣伝でビラ配りのボランティアの初めて参加した。同月28日、朝の街宣後、ペヤンヌは岸本にお茶に誘われ、「今日の夕方、ポレポレ東中野で上映される『香川1区』を見る予定だ」というと、岸本も「私も行きたい」と言った。見終わったあと、ペヤンヌは『香川1区』のようにカメラを回してドキュメンタリーとして発信したいと提案した[4]。5月5日、「住民思いの杉並区長をつくる会」の事務局会議にペヤンヌも参加し、カメラを回した。会議は3時間に及び、強い口調の意見もたびたび発せられた。市民運動グループの最古参の一人で、2003年の区長選挙に立候補した小関啓子は岸本に「はるかちゃんのつくる政策のほうが岸本さんのよりも市民に寄り添っている」と言い、「(つくる会と岸本とのあいだの)溝を埋めたい」と言った[21][22]。2017年10月の衆院選から吉田晴美を支援してきた保育士の寺田陽香は、2021年の衆院選では市民側の中心メンバーとして吉田を当選に導き、区長選においても選対の枢要に関わっていた[23][24]。
5月11日からペヤンヌは岸本の西荻窪のアパートに寝袋を持参して泊まり込みの撮影を始めた[4]。夜、街なかを歩きながら岸本はカメラに向かって語った。2018年に居住地のベルギーでコーチングを受けたとき「あなたは地方自治や地方政治の場で活動する方が適性がある」との指導があったこと、その頃から日本の民主主義のために日本に戻る責任があると思っていたことなどを打ち明けた[22][25]。6月5日、英語教室講師の小池恵は開設したばかりの選挙事務所に立ち寄った。事務所では、区内19駅で「一人街宣」する計画が協議されていた。小池は名乗りを上げ、翌6日から高円寺駅前に立った。小池の一人街宣は投票日の前日まで続いた[26]。
6月12日、杉並区長選挙が告示され、岸本、自民党・公明党の支援と連合東京の推薦を得た現職の田中良[27][28]、元区議の田中裕太郎の3人が立候補を届け出た[29]。カフェ経営者のブランシャー明日香は、岸本が著書などを通じて盛んに提唱している「ミュニシパリズム」[注 2]という用語を広く浸透させるべく、同名の歌を作詞作曲し、自ら歌い、告示日にYouTubeで公開した[10][31]。6月14日、小泉今日子は自身が代表を務める「株式会社明後日」のTwitterを更新。ブランシャー明日香の投稿をリツイートし、「毎朝聴きたい」とつぶやいた[32]。6月19日投票、6月20日開票。岸本が田中良を187票差で破り初当選した[20]。
上映
[編集]2022年7月11日、杉並区長の任期が開始。岸本は自宅から自転車に乗って初登庁した[33]。岸本のYouTubeチャンネルで同年6月1日から配信されていたシリーズ動画「○月○日、区長になる女」はほどなく、1時間30分の作品としてまとめられ、7月17日に西荻北の小劇場で『○月○日、区長になる女。~杉並区長就任記念 ver.~』のタイトルで上映された[34]。
2023年4月16日、杉並区議会議員選挙が告示される。前述の寺田陽香、小池恵、ブランシャー明日香のほか、市民グループ「杉並の問題をみんなで考える会」世話人の渡辺由紀子、元国会議員公設秘書の赤坂珠良など区長選を手伝った新人女性が数多く立候補した[23][35][36][37][38][39][注 3]。4月23日執行、24日開票。選挙の結果を受けて[40][41]、ペヤンヌはドキュメンタリー映画の制作にとりかかった。
同年12月28日、阿佐ヶ谷ロフトAで本作品の先行上映会が開かれた。上映後、ペヤンヌとプチ鹿島のトークショーも行われた[42]。
2024年1月2日、ポレポレ東中野にて一般公開。上田ケンジと小泉今日子のユニット「黒猫同盟」による「ミュニシパリズム」のカバーバージョンが映画の主題歌として使用された[43]。ポレポレ東中野では18日間連続ソールドアウトを記録。4か月におよぶ異例のロングランヒットとなった[44]。全国の映画館でも順次公開され、同年5月27日、映画の製作委員会は自主上映会の受付を公式サイトで開始した[45]。
スタッフ
[編集]- 監督 - ペヤンヌマキ
- プロデューサー - 松尾雅人
- 撮影 - ペヤンヌマキ、吉見暁人、松尾雅人
- 音楽 - 黒猫同盟(上田ケンジと小泉今日子)、向島ゆり子、ブランシャー明日香
- 法律監修 - 三浦佑哉
- 宣伝協力 - 半田桃子、山口雅
- 製作・配給・宣伝 - 映画 ○月○日、区長になる女。製作委員会
脚注
[編集]注釈
[編集]出典
[編集]- ^ “映画 ◯月◯日、区長になる女。全国公開中!!”. 2024年6月16日閲覧。
- ^ a b c 山口哲人 (2023年12月31日). “「岸本聡子区長」誕生した選挙の舞台裏に密着 ペヤンヌマキ監督「世の中にはやっても無駄という空気が…」”. 東京新聞. 2024年6月16日閲覧。
- ^ “映画 ○月○日、区長になる女。”. 映画.com. 2024年6月15日閲覧。
- ^ a b c d 「公式プログラム」映画 ○月○日、区長になる女。製作委員会、2024年1月2日。
- ^ “岸本聡子オフィス公報 Twitter 2022年6月2日 午後9:49”. 2024年6月16日閲覧。
- ^ “ぺヤンヌマキ Twitter 2022年6月10日 午後2:50”. 2024年6月16日閲覧。
- ^ 『映画 〇月〇日、区長になる女。』 (2024年4月14日). “『区長になる女』を観てみんなで語ろう! レポート”. note. 2024年6月16日閲覧。
- ^ “都市計画道路補助線街路第133号線について”. 東京都 (2019年11月27日). 2024年6月15日閲覧。
- ^ “マジで止めよう!! 杉並の都市計画道路”. 杉並の問題をみんなで考える会 (2019年11月13日). 2024年6月15日閲覧。
- ^ a b “ペヤンヌマキさんに聞いた:自分のアパートが立ち退き対象に。いち区民として撮った杉並区長選のドキュメンタリー『映画 〇月〇日、区長になる女。』”. マガジン9 (2023年12月27日). 2024年6月16日閲覧。
- ^ 井上恵一朗 (2022年6月20日). “杉並区長選、新顔の岸本氏が初当選 現職の田中良氏と約190票差”. 朝日新聞 2022年6月20日閲覧。
- ^ 田幸和歌子 (2023年5月18日). “「杉並区大改革」で女性議員比率が半数以上に…地方統一選挙で「杉並区」に何が起こっていたのか”. FRIDAY DIGITAL. 2024年6月18日閲覧。
- ^ 『朝日新聞』2006年5月4日付朝刊、2社会、26頁、「『愛国』巡り憲法論議 施行59年、各地で集会」。
- ^ “田中・杉並区長、4選出馬を表明 6月19日投票 /東京”. 毎日新聞. (2022年2月10日) 2022年7月1日閲覧。
- ^ a b デモクラシータイムス (2022年6月30日). “岸本さとこはなぜ勝てた!? 杉並区長選(内田聖子)【2022選挙に行こう】”. YouTube. 2022年7月1日閲覧。
- ^ “岸本聡子 Twitter 2022年3月25日 午後8:00”. 2024年6月15日閲覧。
- ^ “【府知事選挙】29日、かじかわ候補の予定。岸本聡子さん来援!”. こくた恵二site (2022年3月29日). 2024年6月15日閲覧。
- ^ “京都府知事選10日投票 地域の生業支える府政へ かじかわ候補訴え 府南部回る”. しんぶん赤旗 (2022年4月1日). 2024年6月15日閲覧。
- ^ 砂上麻子 (2022年4月12日). “NGO研究員の岸本さん擁立へ 杉並区長選で市民団体”. 東京新聞 2022年6月20日閲覧。
- ^ a b 砂上麻子、長竹祐子 (2022年6月20日). “「女性が頑張った選挙だった」 杉並区長選で岸本聡子さんが初当選 約190票差で現職破る”. 東京新聞 2022年6月21日閲覧。
- ^ 渡辺知子 (2024年5月3日). “【おすすめ映画】『映画 〇月〇日、区長になる女。』ペヤンヌマキ監督”. ウィメンズアクションネットワーク. 2024年6月16日閲覧。
- ^ a b 『映画 ○月○日、区長になる女。』本編。
- ^ a b “みんなの声がきちんと反映される地方議会に! 杉並区から始める「選挙のフェミナイゼーション」”. マガジン9 (2023年1月11日). 2024年6月20日閲覧。
- ^ “東京8区市民選対報告集会in阿佐ヶ谷駅前(2021.11.20)”. ちゃんねる杉並 (2021年11月20日). 2024年6月25日閲覧。
- ^ 小嶋麻友美 (2022年7月21日). “「日本の民主主義のために働く」岸本聡子・杉並区長が記者会見 気候変動やジェンダー平等に意欲”. 東京新聞. 2024年6月16日閲覧。
- ^ 原田遼 (2022年8月20日). “岸本聡子・杉並区長当選の原動力は…支持者による「一人街宣」活動だった”. 東京新聞. 2024年6月20日閲覧。
- ^ “杉並区長選、野党系の岸本聡子氏が初当選…自公推薦の現職・田中良氏と187票差”. 読売新聞. (2022年6月20日) 2022年6月21日閲覧。
- ^ “連合東京【公式】”. Twitter (2022年6月14日). 2022年6月21日閲覧。
- ^ 杉並区長選挙 選挙公報(2022年).
- ^ 岸本聡子 (2019年1月16日). “第1回:ミュニシパリズムとヨーロッパ その1(岸本聡子)”. マガジン9. 2024年6月16日閲覧。
- ^ “ブランシャー明日香 Twitter 2022年6月12日 午前6:54”. 2024年6月16日閲覧。
- ^ “株式会社明後日 Twitter 2022年6月14日 午前8:15”. 2024年6月16日閲覧。
- ^ 砂上麻子 (2022年7月11日). “「日本で一番透明性が高く、住民参加が活発な自治体に」 杉並区の岸本聡子区長が初登庁で抱負”. 東京新聞. 2024年6月18日閲覧。
- ^ “「立ち退きの危機から政治に興味」ぺヤンヌマキさん監督の杉並区長選挙ドキュメンタリー上映会”. 幻冬舎plus (2022年7月6日). 2024年11月25日閲覧。
- ^ 砂上麻子 (2021年9月18日). “ゴルフ場会合&飲酒会食 杉並区長の公用車出張問題に区民50人が抗議活動”. 東京新聞. 2024年6月18日閲覧。
- ^ “赤坂たまよ 杉並区議/立憲民主党”. 2024年6月20日閲覧。
- ^ “赤坂珠良 Twitter 2022年4月29日 午後8:50”. 2024年6月20日閲覧。
- ^ “チーム赤坂たまよ Twitter 2023年4月20日 午後4:15”. 2024年6月20日閲覧。
- ^ 杉並区議会議員選挙 選挙公報(2023年).
- ^ “「女性の時代だな」選挙で敗れた88歳現職がつぶやいた 女性が半数の議会も「ようやくスタートライン」”. 東京新聞 (2023年4月25日). 2023年4月25日閲覧。
- ^ “杉並区議会議員選挙 - 2023年04月23日投票”. 選挙ドットコム. 2024年6月15日閲覧。
- ^ “阿佐ヶ谷で見よう!『映画 ◯月◯日、区長になる女。』公開記念先行上映会”. LOFT PROJECT. 2024年6月20日閲覧。
- ^ “小泉今日子×上田ケンジの特別ユニット・黒猫同盟のカバー楽曲がドキュメンタリー映画『映画 〇月〇日、区長になる女。』の主題歌に決定”. FMステーション online (2023年11月22日). 2024年6月16日閲覧。
- ^ “映画 ◯月◯日、区長になる女。”. 豊岡劇場. 2024年6月16日閲覧。
- ^ “『映画 ◯月◯日、区長になる女。』Twitter 2024年5月25日 午後0:01”. 2024年6月16日閲覧。
参考文献
[編集]- “杉並区長選挙 選挙公報 令和4年6月19日執行”. 杉並区選挙管理委員会 (2022年6月12日). 2024年10月14日閲覧。
- “杉並区議会議員選挙 選挙公報 令和5年4月23日執行”. 杉並区選挙管理委員会 (2023年4月16日). 2024年10月14日閲覧。
外部リンク
[編集]- 映画 ○月○日、区長になる女。
- 『映画 ◯月◯日、区長になる女。』 (@eigakucho) - X(旧Twitter)
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