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期待権

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

期待権(きたいけん)とは、特定の状況下において特定の結果を期待することそのものを権利として定義した法律用語である。

日本法における議論

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定義

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日本法においてこの権利は制定法により定義がなされているものではなく、権利の認められる範囲や、個々の権利がどの程度までの法的保護を受けるかは明確ではない。一般的には、「ある一定の事実が存在する場合に、その事実から予測される法律上の利益が将来的に発生することを期待できるとする権利」のように解釈されている。

期待権が訴訟で争われた事例

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医療現場での期待権

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医療訴訟においては、「適切な診療が行われれば救命された(後遺症を残さなかった)相当程度の可能性がある」と判断された事例で、適切な治療が行われることへの期待権侵害を認めた事例が複数存在する。

報道内容に対する期待権

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2001年(平成13年)にNHKが放送したドキュメンタリー番組に関して、取材にあたった孫請け会社が約束した内容に反して一部取材内容をカットして番組を作成したことにより、取材元である市民団体(『戦争と女性への暴力』日本ネットワーク(バウネットジャパン)) の期待権を侵害したと認めた事例[1]が存在する(旧日本軍の「従軍慰安婦」問題を特集したNHK番組改変問題)。

もっとも、2008年(平成20年)6月12日の最高裁判決は、放送事業者等から放送番組のための取材を受けた者が、取材担当者の言動等によって当該取材で得られた素材が一定の内容、方法により放送に使用されるものと期待し、信頼したが、放送された番組の内容が取材担当者の説明と異なるものとなった場合は原則としてその期待は法律上保護されるものではないとして否定した。例外的に期待権が認められる場合として、取材対象者に取材に応じることにより格別の負担が生じ、そのことを取材担当者が認識した上で必ず一定の内容、方法により放送することを説明し、その説明が客観的にみても取材対象者が取材に応じる意思を形成する原因となった場合にのみ認められ、その場合でも当初の説明と異なる場合がやむを得ない事情の場合は不法行為責任は認められないとするなど、限定的にしか認められないこととなっている。

就職活動の内々定に対する期待権

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就職活動において、就職協定日本経済団体連合会(経団連)による「新規学卒者の採用選考に関する企業の倫理憲章」(通称:倫理憲章)や「採用選考に関する指針」(通称:採用選考指針)で定められた正式な内定日である特定の期日の前に採用サイドが内々定を出すことがあるが、採用サイドが内々定を取り消すことについて、就活生にとって採用内定が確実であると期待すべき段階で、合理的な理由なく内定通知をしない場合は、期待権侵害として不法行為を構成するとする[2]

期待権に関連した議論

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2005年(平成17年)12月8日最高裁判決(東京拘置所内での脳梗塞発症の事例)の補足意見にて、判事才口千晴は「『(拘置所内で勾留中の)患者が適時に適切な医療機関へ転送され,同医療機関において適切な検査,治療等を受ける利益』を侵害されたことを理由として損害賠償責任を認める反対意見には,同調することができない」とし、「(期待権に基づく賠償を認めるべきとした)反対意見は、実定法に定めのない『期待権』という抽象的な権利の侵害につき、不法行為による損害賠償を認めるものであるから、医師が患者の期待権を侵害すれば過失があるとされて直ちに損害賠償責任が認められ、賠償が認められる範囲があまりに拡大されることになる」と述べ、純粋な期待権による損害賠償を認めるべきではないと指摘した。[3]

期待権の侵害は医療訴訟においてしばしば問題となるが、患者が抱く過剰に高い期待に応えられなかったとして期待権侵害が認められる場合があることや、司法が賠償責任を認める際の根拠となる「生存していた相応程度の可能性」などの司法的判断が臨床上の常識的判断よりも過大に見積もられることが少なくないことに対し、医師をはじめとする医療従事者からは「公平性を著しく欠いている」という反発が根強い。

2011年2月25日最高裁判所第二小法廷判決において、「患者が適切な医療行為を受けることができなかった場合に、医師が、患者に対して、適切な医療行為を受ける期待権の侵害のみを理由とする不法行為責任を負うことがあるか否かは、当該医療行為が著しく不適切なものである事案について検討し得るにとどまるべきものである」と判断するに至っている。

参考文献

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  1. ^ 平成19年01月29日東京高等裁判所判決
  2. ^ 判例として東京地判平成15年6月20日。もっとも本件では「雇用契約の成立が確実であると相互に期待すべき段階に至ったとはいえない」として採用内定の成立を認めなかった。以降も新日本製鐵事件(東京高判平成16年1月22日)、コーセーアールイー事件(福岡高判平成23年2月16日)等、内々定による労働契約の成立を否定する判例が多い。
  3. ^ 平成17年12月08日最高裁第一小法廷判決文