服部文祥
服部 文祥(はっとり ぶんしょう、旧姓・村田、1969年 - )は、日本の登山家、著述家。神奈川県横浜市出身[1]。1994年、東京都立大学フランス文学科卒業[1]。山岳雑誌『岳人』の編集部員[1]。
「山に対してフェアでありたい」という考えから[2]、いつ死ぬかわからない山に住む生き物達と対等の関係で向き合う「サバイバル登山」と自ら名付けた登山を実践する。食料を現地調達し、装備を極力廃した登山スタイル[3][4]。
経歴
[編集]1969年横浜生まれ。1994年、東京都立大学フランス文学科とワンダーフォーゲル部卒。
大学時代からオールラウンドに登山を始める。1996年にカラコルム山脈のK2登頂、1997年の冬から黒部横断を行い、黒部別山や剱岳東面、薬師岳東面の初登攀など、国内外に複数の登山記録がある[1][4][注釈 1]。
登山以外の活動では海外自転車旅行などを行っている。1992年のシルクロード陸路旅行、1994年のデリー - コモリン岬(インド)の自転車旅行、1997年のハノイ - ホーチミン(ベトナム)、1998年のマダガスカル周遊、南北アイルランド周遊。
1996年から山岳雑誌「岳人」編集部に参加。1999年から長期山行に装備と食料を極力持ち込まず[注釈 2]、食料を現地調達するサバイバル登山を始める[1]。そのスタイルで南アルプス・大井川~三峰川、八幡平・葛根田川~大深沢、白神山地、会津只見、下田川内、日高全山、北アルプス縦断、南アルプス縦断など日本の主な山域を踏破。それらの記録と半生をまとめた山岳ノンフィクション『サバイバル登山家』を出版した[注釈 3]。
フリークライミング、沢登り、山スキー、アルパイン・クライミングなど登山全般を実践する一方、近年[いつ?]は毛針釣り、魚突き、山菜・キノコなど獲物系の野遊びの割合が増え、2005年からは狩猟も始める。
2010年、南アルプス聖沢の滝で20m滑落し、その模様がTBS「情熱大陸」で放送された。2012年には趣味で行う中距離走で全日本マスターズ陸上に参加し、40歳以上800m競走の部でタイムは2分05秒09で優勝。
2013年、北東シベリアのエリギギトギン湖へ固有種のイワナを釣りに行く。旅の模様がNHK「地球!アドベンチャー〜冒険者たち〜」で放送された。
2015年現在、山岳雑誌「岳人」誌上で自身の活動を報告する「今夜も焚き火をみつめながら」を連載中。他に「本の雑誌」や「Fielder」で連載を行っている。
「情熱大陸」等のテレビ番組において「栗城君や野口君は市民ランナー」「登山家として3.5流」「野口君もアルピニストと言うけど、本当にアルピニストを目指している人を侮辱している」と論じて話題になった[6]。
主な登山歴
[編集]- 1993年3 - 4月:知床半島全山縦走(単独)
- フリーソロ完登。劔岳チンネ・中央チムニー、左稜線 谷川岳一ノ倉沢・烏帽子奥壁・南稜、変形チムニー、滝沢第三スラブ(冬季)、南アルプス三峰川支流岳沢など
- 1996年:標高世界第2位のK2登頂
- 1997年:黒部横断・大滝尾根冬季第二登
- 1998年4月:南アルプス甲斐駒ヶ岳黄蓮谷右俣初滑降(山スキー)
- 2001年正月:黒部横断・北薬師岳東稜冬季初登[注釈 4]
- 2002年:黒部横断・黒部別山中尾根主稜、剱岳八ツ峰II峰北面滝ノ谷下部氷瀑、袖ノ稜冬季初登
- 2005年:北アルプス黒部別山東面主峰ルンゼ初滑降(山スキー)
海外登山は、ウシュルバ(ロシア)・アシニボイン(カナダ)など、スキーツアーでは、カナディアン・ロッキー、オートルート(アルプス)、ヒマラヤ(インド)など。
受賞・候補歴
[編集]- 2016年、『ツンドラ・サバイバル』で第5回梅棹忠夫・山と探検文学賞受賞
- 2018年、『息子と狩猟に』で第31回三島由紀夫賞候補
著書
[編集]- 『サバイバル登山家』(みすず書房) 2006.6 ISBN 4-622-07220-3
- 『サバイバル! 人はズルなしで生きられるのか』(ちくま新書) 2008、のちちくま文庫『増補 サバイバル!』 2016.7 ISBN 978-4-480-43369-5
- 『狩猟サバイバル』(みすず書房) 2009.11 ISBN 978-4-622-07500-4
- 『百年前の山を旅する』(東京新聞出版部) 2010.10、のち新潮文庫 2014 ISBN 978-4-10-125321-3
- 「岳人」の連載記事を書籍化したもの
- 『サバイバル登山入門』(デコ) 2014.12 ISBN 978-4-906-905-09-6
- 『ツンドラ・サバイバル』(みすず書房) 2015.6 ISBN 978-4-622-07918-7
- 『獲物山』(笠倉出版社) 2017.2 ISBN 978-4-7730-5800-0
- 『アーバンサバイバル入門』(デコ) 2017.5 ISBN 978-4-906905-14-0
- 『息子と狩猟に』(新潮社) 2017.6 ISBN 978-4-10-351021-5 - 小説
- 『獲物山2 生命大河論』(笠倉出版社) 2019.5 ISBN 978-4-7730-2624-5
- 『サバイバル家族』(中央公論新社) 2020.9 ISBN 978-4-12-005336-8
- 『あなたは読んだものに他ならない』(本の雑誌社) 2021.2 ISBN 978-4-86011-454-1
- 『お金に頼らず生きたい君へ 廃村「自力」生活記』(河出書房新社、14歳の世渡り術) 2022.10 ISBN 978-4-309-61745-9
- 『北海道犬旅サバイバル』(みすず書房) 2023.9 ISBN 978-4-622-09653-5
共著
[編集]- 『森と水の恵み』(高桑信一編・共著、みすず書房) 2005.8 ISBN 4-622-07153-3
- 『登山家が愛したルート50』(「岳人」編集部編・共著、東京新聞出版局) 2006.4 ISBN 4-808-30846-0
編著
[編集]- 『狩猟文学マスターピース』(みすず書房、大人の本棚) 2011年 ISBN 978-4-622-08095-4 C1395
- 『富士の山旅』(河出文庫) 2014年 ISBN 978-4-309-41270-2
出演
[編集]テレビ番組
[編集]- 情熱大陸(毎日放送、2010年10月31日放送)[7]
- 週刊ブックレビュー(NHK BS2、2010年8月21日放送)書評出演[8]
- 「地球アドベンチャー ~冒険者たち~北極圏サバイバル ツンドラの果ての湖へ ~登山家 服部文祥」(NHK BS2、2014年1月2日放送)
- 「秘境秋山郷 マタギの里のめぐみ」(長野朝日放送、2014年12月2日
- [カリギュラ]第一シーズン アマゾンプライムビデオ 東野、鹿を狩るシリーズ
- SWITCHインタビュー 達人達(NHK2018年9月22日、井浦新と対談)
- ヒューマニエンス 〜40億年のたくらみ〜「“スリル” 限界を超える翼」(NHK BSプレミアム 2021年2月4日)
- アドベンチャー魂「サバイバル登山」(BS-TBS 2021年12月21日)[2]
映画
[編集]- WILL(2024年2月16日公開予定)[9]
DVD
[編集]- 『日本パワースポット巡り 日本聖地浪漫~霊峰・富士 DVD』(コロムビアミュージックエンタテインメント、2010年6月、ASIN B003DRMFP0 富士山の登頂の場面に出演)
脚注
[編集]注釈
[編集]- ^ この時のK2隊はいくつかの大学の山岳部で編成され、当時立正大学山岳部に所属していた竹内洋岳も参加している。
- ^ 通常米と出汁に使う岩魚の干物のみ使用[5]。
- ^ 1999年、南アルプス大井川・三峰川源流を遡行した時に、現地調達の山行を企画したことが、後の一連の「サバイバル登山」の始まりとなる。2003年、サバイバル登山の技術や知識を駆使して日高山脈全山無積雪期縦断に初めて成功した。単独無補給で行われたその山行は、『サバイバル登山家』で報告。
- ^ 4人のパーティで、2000年12月28日に長野県大町市の七倉山荘から入山し、ブナ立尾根を登った。裏銀座を歩き赤牛岳から黒部川に降り渡渉し、北薬師岳東稜を登攀して2001年1月6日に薬師岳登頂した。1月7日に寺地山を経て、岐阜県飛騨市側へ下山した。著書『サバイバル登山』でその山行記録を記載。
出典
[編集]- ^ a b c d e 服部文祥『ツンドラ・サバイバル』みすず書房、2015年6月 p.274
- ^ a b TBS. “アドベンチャー魂 #9 「サバイバル登山(再)」”. 2022年5月12日閲覧。
- ^ 服部文祥『サバイバル登山入門』デコ、2014年12月、8-10頁。
- ^ a b 服部文祥『息子と狩猟に』新潮社、2017年6月、著者紹介頁。ISBN 978-4-10-351021-5。
- ^ 「Number Do」2012年夏号。
- ^ 「情熱大陸」『毎日放送』2010年10月31日。
- ^ 服部文祥(登山家): 過去の放送 - 2011年1月15日閲覧。
- ^ 週刊ブックレビュー 【BS2】 2010年8月21日(土)の放送内容 - 2011年1月15日閲覧。[リンク切れ]
- ^ “東出昌大の狩猟ドキュメンタリー映画『WILL』2024年2月16日公開へ 監督はエリザベス宮地”. リアルサウンド映画部. blueprint (2023年11月9日). 2023年11月9日閲覧。
外部リンク
[編集]- 服部文祥(公式) (@hattoribunsho) - X(旧Twitter)
- 服部文祥の愛用の装備 - 山旅々
- 服部文祥 - YouTubeチャンネル