板倉工法
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板倉工法(いたくらこうほう、板倉構法) とは壁材に横板を用い、壁塗りを行わない簡素な木造建築の伝統工法である。中部の木曽川沿いや信州の山間部に多く見られるこの工法は、壁塗りを行わないため左官が必要なく、大工のみで建てることができたという[1][2]。施工の作業内容から、落とし板倉、落とし込み板壁工法とも呼ばれる[3][4]。
概要
[編集]木材の柱の側面に溝を彫り、その溝にそって横板を落としこむ。規格化された板倉工法では以下の手順で壁面を構築する。強度および防火性を確保するために板壁は6cm程度の厚みが必要であり、落とし込み板と木ずりの2重構造にすることで厚みを確保する[5][6][7]。
- 120mm角柱を通柱として約1mごと(規格上最大幅は2m)に立てる
- 厚さ30mm、幅135mm、長さ910mmの落とし込み板(杉材)を通柱に掘られた溝に合わせて横に落としこんでいく
- 厚さ24mm、幅150mmの木ずり(針葉樹材)を落とし込み板の外側に縦に並べる
- 木ずりの外側から柱の両側に21mm×45mmの柱際板で補強する
利点
[編集]- 落とし込んだ厚板がそのまま化粧材となる
- 板壁のみで適度な保温性、通気性、保湿性を保つ
- 保湿性を保ちつつ、適度な通気性もあるため、冬季の結露も起こりにくい
- 比較的高い防音性がある
- 柱や梁、壁と全て木材のみで構築できるため、自然素材の使用が増える
- 板壁自体が強度を持つため柱の強度を節約でき、同じ敷地面積で部屋が広く取れる[8]
- 従来工法と比べ板材が細くて済むため、国産材を利用しやすい
- 「壁倍率」、「防火構造」について国土交通省の認可
- 準防火地域内でも建築可能になった
- 落とし込み板の大きさが規格化され、国内で大量生産できる体制が整いつつあるため、材木量の割には安価に入手できる
- シックハウス症候群となる人工物を含まない形で建築可能
- 単純な構造なので改修しやすい[9]
欠点
[編集]- 落とし込み板の拘束が弱く滑りやすい[1]
- ダボで滑りを抑える場合、工数がかかる
- 落とし込み板が経年劣化で収縮したり反る
- 従来工法と比べ3倍以上の木材が必要になるため原価が高くなる
- 大量の木材を組み立てるため、人件費も高くなる
より発展的な工法
[編集]- パネル式板倉構法[8]
- 落とし板を予め並べて1枚のパネルにし、手作業でなくクレーンで一気に落としこむことで工数が大幅に削減される
- ささら板壁構法[10]
- 落とし板同士を楔蟻継(くさびありつぎ)でつなぎ合わせることで、通常の板壁工法(1.8m幅で壁倍率1.1倍)に比べ大幅に強度を増す(同壁倍率2.9-4.4倍)ことができる
脚注
[編集]- ^ a b 板倉工法について
- ^ 樋口貴彦, 安藤邦廣, 「八ケ岳山麓における板倉構法の類型とその特徴」『日本建築学会計画系論文集』 73巻 624号 2008年 p.303-310, doi:10.3130/aija.73.303
- ^ 「板倉構法(落とし込み板壁工法)」パーツリスト こころ現代民家研究所株式会社
- ^ 「板倉の家(落とし壁工法)」ってどんな家?[リンク切れ]
- ^ 板倉の家とは? 西垣林業株式会社[リンク切れ]
- ^ 防火性能 板倉の家 有限会社栗田建築設計事務所
- ^ 板倉構法の防火構造の大臣認定(伝統木造研究会) (PDF)
- ^ a b 厚板&構造露し(あらわし)工法 大和工務店
- ^ 板倉構法の家[リンク切れ]
- ^ ささら板壁構法【富士環境システム】[リンク切れ]
- ^ 河合直人, 「板倉構法の構造性能 普及のための技術開発 (特集 四寸角、里山にかえる 安藤邦廣+里山建築研究所--<まち>の暮らしと<農>の暮らしをつつみこむ四寸角の板倉住宅)」住宅建築 / 建築思潮研究所 編 (395) 2008-03 p.86-89
- ^ 安藤邦廣, 「民家の知恵と構法を現代に生かす--板倉構法の開発 (特集 伝統木構法の再構築)」『建築とまちづくり』 (369) 2008 p.6-13