棒芯

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

棒芯(ぼうしん)とは、日本建設業界工場などで用いられる慣例的用語で、建築現場で作業に当たる各職種それぞれの技能工集団の統率者のことを言う。技能工の移動により流布したもので、語源や由来は確定していない。棒心とも表記される[1][2][3][4]

有力な語源説として、もとは海軍用語で英語boatswain(bosun, bos'n、甲板長こうはんちょう、水夫長)が訛って日本語で「ボーシン」となり、大日本帝国海軍工廠で組長や職長の意味で使われていたものとする説がある[5][4]鋳造工学が専門で東北大学工学部教授も務めた新山英輔[6]は連載エッセー「鋳物言葉」の中で「英語の海事用語 boatswain(甲板長)からきたという説が正しいと思います」と述べている[7]。また、「棒の芯」の意味で、技能工集団の中心部であることから施工班(職人)の親方がこう呼ばれたともいう。

鉄道関連工場でも用いられ、工場技工・工場工手のグループ作業を中心となって裁量する組頭くみがしらを職名に冠して特に棒心技工と呼んだ[8]鋳造など金属加工の分野でも用いられた[7]鉱山でも一定の責任を持つ鉱員を指して用いられた[9]

関連項目[編集]

脚注[編集]

  1. ^ 歴史が培った人づくり : 職人から棒芯、そして親方へ」(pdf)『CSRレポート2012 : 日本の明日へ 若い力がここにある』、向井建設株式会社、2012年、2頁“一昔前、建設現場には、必ず棒芯(心)と呼ばれる腕の良い職人がいました。棒芯は経験・勘・度胸、そして統率力を備え、あらゆる面で中心的存在でした。”  ※pdf配布元は公式ウェブサイト「CSRレポート」ページ。
  2. ^ 棒心 - 土木用語集”. 極東建設株式会社. 2024年5月17日閲覧。 “世話役。作業班長。ボースン。”
  3. ^ 棒心 - 空調用語辞典”. エアコンセンターAC. 株式会社ミタデン. 2024年5月17日閲覧。 “小グループで作業する職人を指揮するもの。「世話役」と同じ。”
  4. ^ a b 鉄道辞典 1958, p. 1620.
  5. ^ 田中重芳 1965, pp. 37–38, “ボーシン: 英語のboatswain bousn、[...] 海軍用語で水夫長、掌帆長の意、海軍工廠で組長、職長の意に用いられたらしい。心棒の隠語が棒心だとの説はこじつけ。”.
  6. ^ 「新山英輔教授著作目錄」『著作目録 (東北大学退職教員業績目録)』第640号、東北大学記念資料室 (東北大学史料館)、1997年3月。 
  7. ^ a b 新山英輔. “鋳物言葉 : 第9回「英語起源の外来語」” (pdf). ADSTEFAN. 日立産業制御ソリューションズ. p. 11. 2024年5月17日閲覧。 ※pdf配布元は「鋳造シミュレーションシステム ADSTEFAN」ページ。
  8. ^ 鉄道辞典 1958, p. 1620, “鉄道工場における工場技工および工場工手の作業は、大分部が組作業になっている。その組の中で、上位の指揮者との連絡打合せ、仕事の手順、各部署の人員の割り振り、未熟練工の指導等を自己の作業に従事するかたわら行い、自己の裁量によって組み全体の作業の推進をはかり、組の中心となって働く工場技工または工場工手をいう。特に職名に冠して棒心技工と通常いわれている。”.
  9. ^ 坪井利一郎 (元別子銅山文化遺産課長) (2021年6月6日). “銅山用語 : 別子銅山を読む講座XI-2”. 新居浜市立図書館. 新居浜市. 2024年5月17日閲覧。 “棒心: ボーシン、親分、一部の責任を持つ鉱員。” ※五十音順の鉱山用語集

参考文献[編集]

  • 田中重芳「現場俗語について」『生産と技術』第17巻第1号、生産技術振興協会・大阪大学生産技術研究会、1965年、ISSN 0387-2211 
  • 中嶋勇「ぼうしん 棒心」『鉄道辞典』下巻、日本国有鉄道、1958年、1620頁、国立国会図書館書誌ID:000000983083