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注射剤

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

注射剤(ちゅうしゃざい、Injections)とは、注射針を用いて皮内、皮下の組織または血管内などに直接投与する液状または用時溶解して液状にして用いる医薬品製剤である。

種類

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物理的性状により以下のように分類される

水性注射剤
溶媒に使ったもの。
非水性注射剤
植物油プロピレングリコール溶媒に使ったもの。有効成分が水に難溶の場合や、持続化を目的とする場合などに用いられる。
懸濁性注射剤
溶媒に溶解しない成分を微細に粉砕して加えたもので、用時振り混ぜて使用する。
固形注射剤
使用する際に溶解または懸濁して用いるもの。薬剤を凍結乾燥させたものが多い。抗生物質ペプチド製剤などでよく用いられる。

製造

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添加剤

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通例注射剤には、有効成分、溶媒の他に以下のような添加剤が加えられている。着色料の使用は認められていない。

溶解補助剤
有効成分が溶媒に難溶な場合に用いられる。テオフィリンに対してエチレンジアミンオキシテトラサイクリンに対しプロピレングリコールなどが用いられる。
緩衝剤
pHを一定に保つために加えられる。リン酸塩類がよく用いられる。
等張化剤
浸透圧の低い薬液に加えて、血清の浸透圧に近づけるために用いる。塩化ナトリウムグリセリンなどが用いられる。
安定剤
抗酸化剤の亜硫酸塩などが用いられる。容器の中の空気窒素などに置換してあるものもある。
保存剤
注射剤は無菌であるため本来保存剤は不要であるが、分割使用するものなどにフェノールなどが用いられる。輸液のような容量の大きいものには保存剤は使えない。
無痛化剤
pHや浸透圧の調整で痛みが軽減できない場合に用いられる。リドカインなどの局所麻酔剤が用いられる。

工程

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一般的なアンプル入りの水溶性注射剤の製造工程について記す。

  1. 計量
  2. 混合・溶解
  3. 濾過
  4. 充填
  5. 熔封
  6. 滅菌
  7. 異物検査
  8. 包装・表示

バイアル入りの場合は、『熔封』が『打栓』になる。固形注射剤は、一般的に充填の後に凍結乾燥の工程が入る。プラスチック容器入りの生理食塩水などでは、充填と同時に容器形成を行う場合もある。滅菌は加圧加熱滅菌が一般的である。熱により成分が変成してしまい加熱滅菌できないものは、充填前に濾過滅菌を行う。

容器

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アンプルとバイアル

注射剤の容器は、薬剤に対し安定でかつ無菌性を確保できるものが求められる。ガラス製のアンプルやバイアルが一般的だったが、近年はプラスチック容器が増えてきている。

アンプル (ampoule)
ガラスの筒に薬剤を入れた後に先端を熔封したもの。頭部を折って薬剤を取り出す。従来のものはアンプルカッターと呼ばれるヤスリを用いて首に傷を付けて折っていたが近年は傷を付けなくても頭部が折れるよう加工されたワンポイントカットアンプルが主流である。頭部を折ったときに微少なガラス片が発生し注射剤の中に混入することがある。遮光のため着色されたものもある。主に小容量の液剤に用いられる。
バイアル (vial)
ガラス瓶にゴム栓をしアルミニウムなどのキャップで巻締めたもの。栓には複数回針を刺すことが可能なので、薬剤を分けて使ったり、固形注射剤に溶解液を加えて溶かしたり、複数の薬剤をバイアル内で混ぜ合わせたりすることができる。アンプルのようにガラス片が発生することはないが、針を刺す際に栓の一部が削り取られて異物となることがある。これをコアリングという。輸液に使われる大型のボトルも基本的にはバイアルと同じである。
プラスチック容器 (plastic bag)
容量が少ないものは硬質プラスチック、大きなものは軟質プラスチックが主に使われている。破損しにくい、軽い、潰せるので廃棄物のかさが減るなどの利点があり、特に容量の大きなものでプラスチック容器が増えている。ガラス製の輸液ボトルの場合、エアー針を刺さないと薬液が流れ出てこないが、軟質プラスチック容器は容器自体が変形するのでエアー針を必要とせず微生物汚染などに対する安全性が高い。
素材によっては耐熱性が低く加熱滅菌の条件設定が難しくなる欠点がある。またガラスと異なり酸素を透過するので注射剤の安定性に影響が出ることがある。透析に用いる補液など、混合しておくと不安定になる薬剤を、隔壁で分け使用する際に片方の部屋を押して隔壁を破り、開通混合して用いる二層バッグといった特殊な容器もある。
その他
あらかじめ注射器に充填したプレフィルド・シリンジや、インスリンなどの自己注射用ペン型注射器に用いるカートリッジ型のもの、トランスファー・ニードル付属生理食塩水・5%ブドウ糖液キット製剤などがある。

品質

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注射剤はまず無菌であることが求められる。このため製造工程中で滅菌してあるが、原料が細菌汚染されていた場合、菌が死滅しても菌の産生した毒素が残っている場合があり、そういったものも注射剤としては使えない。この毒素は、発熱性物質(pyrogen)と呼ばれるものの一種で、発熱性物質にはこのほかに容器などに由来するものもある。また、不溶性異物がないこと、浸透圧やpHが血清とほぼ等しいこと、組織障害性がないことなどが求められる。

混注

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注射剤、特に輸液は複数の薬剤を混合して使用することが多い。この注射剤を混合調整することを一般に混注という。

輸液の場合は、リンゲル液などの基本となる製剤に、利尿剤抗生物質栄養剤などが加えられる。従来は病棟で看護師が調整することが多かったが、保険適用になったことから調剤室で薬剤師が行うことが増えてきている。特に抗がん剤は、被曝の危険性を考慮して安全キャビネットと呼ばれる装置内で混合することが望ましい。

注射剤を混合する時には、沈殿を生じたり有効成分が分解されてしまうなどの配合変化を生じることがある。

自己注射

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注射剤を患者に投与できるのは原則医師および看護師に限られる。ただし、近年インスリンなどのように毎日投与が必要なものについては、患者が自己注射する注射剤がある。これは、ディスポーザブルの注射器の出現により可能になった。

当初は、普通の注射器を使いバイアルから1回ごとに薬液を取り使用していたが、現在では薬液の入ったカートリッジを装填し、針を交換することで連続して使用できるペン型注射器が普及している。ペン型注射器には、本体が再利用できるものとディスポーザブルのものがある。自己注射用の注射剤としてはインスリン製剤のほかにヒト成長ホルモン剤やヒト血液凝固因子製剤などがある。

長所と短所

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消化器官を通らないため効果の発現が早く、投与量も少なくてすむ。消化管から吸収されにくいものや消化代謝を受けることで効果が無くなるものも投与することができる。また、患者に意識が無くても投与が可能である。

欠点としては、投与するのに器具が必要なこと、一部を除き患者自ら使えないこと、痛みや注射部位の硬化などの苦痛を与えること、副作用が発現しやすいこと、感染があることである。

注射剤と感染症

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ヒトの血液由来の製剤には、感染症を起こす微生物が混入していることがある。特に生活に困窮している者の売血を原料とした場合に、病原微生物の混入の可能性が高くなる。タンパク質ペプチドの製剤は加熱すると、変質してしまうため滅菌することも困難である。これらのことから薬害エイズ事件など注射剤由来のウイルス感染症が発生している。そのため献血者の選択や、原料血の検査、低温加熱によるウイルスの不活化などが行われているが、感染のリスクを完全に払拭できるものではない。

関連項目

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外部リンク

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