海兵沿岸連隊
海兵沿岸連隊(かいへいえんがんれんたい、英語: Marine Littoral Regiment, MLR)は、2020年代に入ってアメリカ海兵隊が編成を進めている新しい部隊編制[1]。中華人民共和国に対抗するための遠征前進基地作戦(Expeditionary Advanced Based Operations, EABO)構想の一環である[2]。従来の海兵連隊と比較し小規模な部隊となるが、諸兵科連合部隊として、有事には島嶼部に分散配置するとされる。端緒として、2022年に第3海兵連隊が第3海兵沿岸連隊(3rd Marine Littoral Regiment)に改編された[2][3]。
概要
[編集]中華人民共和国・人民解放軍の増強、特に接近阻止・領域拒否(A2/AD)能力の増強を受けた対抗策として、2016年にEABO構想が策定された。この構想のうち、敵が比較的有力な地域において、沿岸域における優勢を確保し、自軍のリスクを低減するため、対艦兵器・対空兵器を分散配置することが考えられた[2][4]。また、EABOへの対応も含めて、海兵隊全体の変革方針として、2020年3月に「戦力デザイン 2030」(Force Design2030: FD2030)を発表された[4]。これらの構想・方針に基づき、敵の脅威下の島嶼部に分散展開する、対艦攻撃・対空防御能力を有する諸兵科連合部隊として、海兵沿岸連隊が編成されることとなった[4]。改編に必要な人員・予算等の確保については、「戦力デザイン 2030」(フォース・デザイン2030)において、海兵隊の総定員の削減をはじめ、保有戦車の全廃や憲兵大隊の廃止、航空機の削減等が行われ、代わりにミサイル火力や無人航空機、新型輸送艦艇の増強等を行う[5]。
海兵沿岸連隊の主な編制は、以下のようなものが計画されている[1][2][4][6][7]。
- 連隊本部中隊(HQ)
- 沿岸戦闘部隊(Littoral Combat Team, LCT)1個
- 沿岸防空大隊(Littoral Anti-Air Battalion, LAAB)1個
- 戦闘兵站部隊(Combat Logistics Battalion, CLB)1個
- 長距離無人水上艇中隊(Long-range Unmanned SUrface Vessel company)1個
人員規模は従来の海兵連隊(歩兵)の約3,400名に対し、1,800から2,000名と小規模になる[1][2][6]。沿岸戦闘部隊は1個歩兵大隊(3個中隊)及び1個対艦ミサイル中隊等からなり、敵情の情報・監視・偵察や早期警戒等にあたり、長距離対艦攻撃を行い、友軍航空機への支援も行う[6][7]。沿岸防空大隊は、対空早期警戒や防空能力の提供を目的とし、1個防空ミサイル中隊のほか、海兵隊航空団を兵站支援する1個FARP中隊、航空統制等を行う航空統制中隊等からなる[6][7]。戦闘兵站部隊は、作戦展開地域における兵站活動を行う[6][7]。この編制は、研究途上であり、今後の運用により変更されることもあり得る[6]。
2022年にハワイ所在の第3海兵連隊が第3海兵沿岸連隊に改編されており、2025年には沖縄所在の第12海兵連隊が[2][8]、2027年には第4海兵連隊が改編予定となっている[2]。
脚注
[編集]出典
[編集]- ^ a b c 吉富 2021.
- ^ a b c d e f g 「米海兵隊を改編 沖縄に離島対応の部隊新設へ 日米で確認」『沖縄 NEWS WEB』日本放送協会、2023年1月12日。2023年1月14日閲覧。
- ^ 3rd Marine Division (2022年3月4日). “Redesignated: 3rd Marine Regiment becomes 3rd Marine Littoral Regiment”. インド太平洋軍. 2023年1月14日閲覧。
- ^ a b c d 内田 2022.
- ^ 北村 2021.
- ^ a b c d e f “MARINE LITTORAL REGIMENT (MLR)”. News Display. アメリカ海兵隊 (2023年1月11日). 2023年1月14日閲覧。
- ^ a b c d “TENTATIVE MANUAL FOR EXPEDITIONARY ADVANCED BASE OPERATIONS”. 海兵隊協会 (2022年2月). 2023年1月14日閲覧。
- ^ “日米安全保障協議委員会(日米「2+2」)(概要)”. 日本国外務省. 日本国外務省 (2023年1月11日). 2023年1月14日閲覧。
参考文献
[編集]- 内田恭裕『米軍のインサイド部隊は何を目指すのか - 陸軍と海兵隊との比較を通じて -』海上自衛隊幹部学校〈コラム〉、2022年3月8日 。
- 北村淳「中国軍に立ち向かう「米海兵隊の新戦略」『フォースデザイン2030』」『軍事研究』第56巻、第7号、ジャパン・ミリタリー・レビュー、41-53頁、2021年7月。 NAID 40022586373。
- 吉富望「狙いは中国A2ADの打破 自衛隊の協力で戦力不足を解消 米海兵隊「遠征前方基地作戦」構想」『軍事研究』第56巻、第8号、ジャパン・ミリタリー・レビュー、41-54頁、2021年8月。 NAID 40022645609。
関連項目
[編集]外部リンク
[編集]- 米海兵隊の作戦構想転換と日本の南西地域防衛 - 笹川平和財団、2020年、山口昇