渋谷女子大生誘拐事件
渋谷女子大生誘拐事件(しぶやじょしだいせいゆうかいじけん)は、2006年(平成18年)6月26日に東京都渋谷区で発生した誘拐事件。
経過
[編集]事件発生
[編集]美容外科医で、池田ゆう子クリニックの院長を務める池田優子の長女(当時21歳で、大学4年生)が、渋谷区の自宅から通学のため外出した26日午後0時25分ごろ、男性2人から強引にワゴン車に無理矢理連れ込まれ、誘拐された。この際に目撃者が2名おり1名が110番、1名が近所の交番に目撃情報を申し出た[1]。
犯人たちから、池田優子あてに身代金3億円を要求する電話が計14回かかり、「警察に通報すれば殺す」といった脅迫も受ける[2]。池田は自身の母に相談を行い、母から相談を受けた池田の兄が警察に通報、警察はマスコミに対し報道協定を結び、事件が外部に漏れないように対応した。
逮捕
[編集]同日午後5時ごろ、警察は誘拐した男たちが利用していたワゴン車と同じナンバーの車を神奈川県川崎市中原区の路上で発見[3]。翌日の6月27日午前0時過ぎに川崎駅付近でこのワゴン車を運転している中国国籍の無職の男X(当時29歳)と韓国国籍の電気工の男Y(当時54歳)の2名を監禁、誘拐容疑で逮捕した[4]。
両被疑者逮捕により被害者の居所が判明し、同日午前1時25分ごろに中原区のマンションに警察が強行突入。マンション室内にいたマカロフ拳銃で武装した元韓国籍で帰化し日本人となった無職の男Z(当時49歳)と銃撃戦となるも、被害者を無傷で解放した[4]。その際、犯人が発砲した銃弾が警官の顔をかすめたが、幸い頭部に軽い怪我を負う軽傷で済んだ[5]。
犯行に及んだ理由
[編集]事の発端はXが池田優子が出演していたテレビ番組で、高額所得者で豪邸に住んでいる姿をみて、大金を奪い取れると思って誘拐事件を計画したのが始まりである[6]。その後、Xは数年来の飲み仲間であったZに犯行を持ちかけた[6]。これを承諾したZは事件の数日前、Yに事件の計画を知らせることなく自動車の運転と手配を依頼した[6]。また、彼ら3人は千葉、埼玉、静岡で3,000万円を奪う強盗を数件おこなっていたことも発覚し[7][8]、強盗致傷でも逮捕された[9][10]。
事件後
[編集]池田優子と被害者の長女は解放後、親子で記者会見をおこなっている[11]。
裁判
[編集]2006年10月4日、東京地裁(小池勝雅裁判長)で初公判が開かれ、 X、Y、Zの3人はいずれも起訴事実を全面的に認めた[12]。一連の裁判はX、Zが千葉県内の強盗致傷事件などで起訴されたため、X、ZとYの裁判が分離された[13]。
2006年11月1日、Yに対する論告求刑公判で、検察側は「卑劣な犯罪と認識しながら、報酬ほしさから誘いに積極的に応じた」としてYに懲役15年を求刑した[13]。
2006年12月11日、東京地裁でYに対する判決公判が開かれ、「娘を慈しみ、大切にしている親心につけ込んで、3億円という多額の身代金を要求した卑劣で悪質な犯行」としてYに懲役10年を言い渡した[14]。判決では運転手役だったYについて「報酬欲しさから犯行に加わっており、酌むべき事情はない」と非難した[14]。
2007年5月23日、X、Zに対する論告求刑公判で、検察側は「資産家の娘を白昼誘拐した犯行で世間を震撼させた」としてX、Zに無期懲役を求刑した[15]。
2007年7月4日、東京地裁でX、Zに対する判決公判が開かれ、X、Zに求刑通り無期懲役の判決を言い渡した[16]。判決では「拳銃を使った上、多数回にわたり不安、恐怖をあおって現金を要求するなど用意周到で、大胆、粗暴、危険な犯行。白昼の閑静な住宅街で女子大生を標的とし、近隣住民を不安に陥れるなど社会的影響も重大」と述べ、X、Zに対する情状酌量を認めなかった[16]。
2007年12月26日、東京高裁(池田耕平裁判長)は「極めて卑劣な犯行。母娘が受けた精神的苦痛は計り知れない」としてX、Zに対する一審の無期懲役判決を支持、X、Z側の控訴を棄却した[17]。
2008年4月22日、最高裁第二小法廷(今井功裁判長)はX、Z側の上告を棄却した[18][19]。これによりX、Zの無期懲役が確定した[19]。
その他の波紋
[編集]容疑者らが「『世界バリバリ★バリュー』で池田優子がテレビなどで活躍している姿をみて犯行に及んだ」と供述したため、番組自体も波紋と論議を呼んだ。
納税者とその親族が窃盗・誘拐などの犯罪に巻き込まれる恐れやプライバシーの観点から後に長者番付制度を廃止する遠因となった。
参考文献
[編集]- 週刊新潮2006年7月6日号『豊胸手術で年収12億円!「誘拐犯」に狙われた有名「美容整形クリニック」のカネと評判』
- 最高裁判所の判決文
- “平成20年4月22日宣告 平成20年(あ)第268号 被告人Aに対する身の代金目的拐取,拐取者身の代金要求,監禁致傷,銃砲刀剣類所持等取締法違反,強盗致傷,強盗,強盗未遂,出入国管理及び難民認定法違反,被告人Bに対する身の代金目的拐取,拐取者身の代金要求,監禁致傷,銃砲刀剣類所持等取締法違反,強盗致傷,強盗,強盗未遂各被告事件” (PDF). 最高裁判所第二小法廷 (2008年). 2024年11月13日閲覧。
脚注
[編集]- ^ “誘拐現場、自宅から30メートル 早期解決に目撃情報”. 朝日新聞. (2006年6月26日) 2006年6月29日閲覧。
- ^ “女子大生誘拐・保護 13時間、未明の急転”. 朝日新聞. (2006年6月27日) 2006年6月28日閲覧。
- ^ “容疑者の動き、携帯の微弱電波でキャッチ 女子大生誘拐”. 朝日新聞. (2006年6月27日) 2006年6月29日閲覧。
- ^ a b “女子大生誘拐、無事保護 監禁容疑で男3人逮捕 警視庁”. 朝日新聞. (2006年6月26日) 2006年6月29日閲覧。
- ^ “突入、頭かすめる弾丸 別の部屋も捜査 女子大生誘拐”. 朝日新聞. (2006年6月27日) 2006年6月29日閲覧。
- ^ a b c “女子大生誘拐、テレビで知り犯行計画”. 朝日新聞. (2006年6月27日) 2006年6月29日閲覧。
- ^ “輸送車襲われ警備員けが、3千万~4千万円被害…船橋”. 読売新聞. (2006年2月3日) 2006年2月5日閲覧。
- ^ “パチンコ店に拳銃強盗、1100万円奪い逃走…静岡”. 読売新聞. (2006年4月17日) 2006年4月24日閲覧。
- ^ “女子大生誘拐の容疑者ら、パチンコ店の拳銃強盗容疑も”. 朝日新聞. (2006年6月27日) 2006年6月29日閲覧。
- ^ “身代金目的誘拐容疑、3容疑者を再逮捕 女子大生誘拐”. 朝日新聞. (2006年7月6日) 2006年7月15日閲覧。
- ^ “「怖かったでしょう」 池田さん母娘、手握りしめ会見”. 朝日新聞. (2006年6月27日) 2006年6月29日閲覧。
- ^ “3被告、罪状認める 東京・渋谷の女子大生誘拐”. 中日新聞. (2006年10月4日) 2006年10月5日閲覧。
- ^ a b 『読売新聞』2006年11月2日 東京朝刊 2社38頁「女子大生誘拐 検察側、実行犯に懲役15年を求刑/東京地裁」(読売新聞東京本社)
- ^ a b 『読売新聞』2006年12月12日 東京朝刊 2社38頁「女子大生誘拐事件 運転手役に懲役10年判決/東京地裁」(読売新聞東京本社)
- ^ 『産経新聞』2007年5月23日 大阪夕刊 第1社会 「渋谷の女子大生誘拐 2被告に無期求刑 東京地裁」(産経新聞大阪本社)
- ^ a b “渋谷の女子大生誘拐事件犯人に無期懲役”. 日刊スポーツ. (2007年7月4日) 2007年7月7日閲覧。
- ^ “東京・渋谷の女子大生誘拐:2審も無期判決 「凶悪、模倣性高い」--東京高裁”. 毎日新聞. (2007年12月26日) 2008年1月24日閲覧。
- ^ 最高裁判所第二小法廷 2008, p. 1.
- ^ a b 『読売新聞』2008年4月24日 東京朝刊 3社37頁「渋谷女子大生誘拐 最高裁も無期懲役」(読売新聞東京本社)
関連項目
[編集]- 個人情報の保護に関する法律
- 長者番付廃止(2006年~)
- 世界バリバリ★バリュー - 犯人らが参考にしたとされる番組。