無理回転
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力学系の数学理論において、無理回転(むりかいてん、英: irrational rotation)とは、次の写像のことを言う:
但し θ は無理数である。円を R/Z、あるいは境界が貼り合わされる区間 [0, 1] と見なすと、この写像は全回転に対する割合 θ(すなわち、2πθ ラジアンのある角)による円の回転を表すことになる。θ は無理数であるので、この回転は円周群において無限の位数を持ち、写像 Tθ は周期軌道を持たない。
上の代わりに、無理回転は乗法を用いて次の写像のように表すことも出来る:
これら加法と乗法の記法の間にある関係は、群同型
- .
である。φ は等長であることを示すことも出来る。
θ が有理数であるか無理数であるかに応じて、円周の回転には明確な区別が存在する。有理回転は、 および であれば に対して になるという事実より、力学系において無理回転ほどの興味を引くものではない。 であれば を示すことも出来る。
意義
[編集]無理回転は、力学系の理論において基礎となる例を与える。ダンジョワの定理に従うと、回転数 θ が無理数であるような円板の向き付け保存 C2-微分同相写像はすべて、Tθ と位相共役である。無理回転は測度保存エルゴード変換であるが、混合的ではない。角度が θ であるトーラス上のクロネッカー葉層と関連する力学系に対するポアンカレ写像は、θ による無理回転である。無理回転に関連するC*-環は、無理回転環として知られ、幅広く研究されている。
性質
[編集]- θ が無理数であるなら、回転 Tθ の下での [0,1] の元の軌道は [0,1] において稠密である。したがって、無理回転は位相的に推移可能である。
- θ が無理数であるなら、Tθ は一意的にエルゴード的である。
- 無理回転および有理回転は、位相的に混合ではない。
- 無理回転はルベーグ測度に関してエルゴード的である。
- 無理回転は、唯一つの不変な確率測度であるルベーグ測度を伴い、一意的にエルゴード的である。
- [a,b] ⊂ [0,1] を仮定する。Tθ はエルゴード的であるため、次が成り立つ。
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一般化
[編集]- 円周回転は群の並進(group translation)の例である。
- S1 からそれ自身への一般の向き付け保存同型写像 f に対し、位相同型写像 は を満たすなら、f のリフトと呼ばれる。但し である[1]。
応用
[編集]- 円周の回転に関する歪積(Skew product)について:1969年にウィリアム・ヴィーチ(William Veech)は、極小であるが一意にエルゴード的ではない力学系の例を次の様に構成した[2]:「単位円周の二つのコピーを用意し、それぞれ終点が 0 となるような長さ 2πα の区分 J を反時計回りに取る。θ を無理数とし、次の力学系を考える。第一の円周のある点 p を始点とする。軌道が J に到達するまで、2πθ によって反時計回りに回転する。その後、第二の円周の対応する点に移動し、J に到着するまで 2πθ によって回転する。再び第一の円の対応する点に戻り、以下この手順を繰り返す。ヴィーチは、θ が無理数であるなら、システムは極小であるがルベーグ測度が一意にエルゴード的でないような無理数 α が存在することを示した」[3]。
関連項目
[編集]参考文献
[編集]- ^ Fisher, Todd (2007年). “Circle Homomorphisms”. 2015年2月6日閲覧。
- ^ Veech, William (August 1968). “A Kronecker-Weyl Theorem Modulo 2”. Proceedings of the National Academy of Science (USA) 60 (4): 1163–1164. PMC 224897 .
- ^ Masur, Howard; Tabachnikov, Serge (2002). “Rational Billiards and Flat Structures”. In Hasselblatt, B.; Katok, A.. Handbook of Dynamical Systems. IA. Elsevier
発展的な文献
[編集]- C. E. Silva, Invitation to ergodic theory, Student Mathematical Library, vol 42, American Mathematical Society, 2008 ISBN 978-0-8218-4420-5