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煮ぼうとう

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
煮ぼうとう

煮ぼうとう(にぼうとう)は、煮込みうどんの一種で、日本埼玉県深谷市郷土料理にぼうと[1]武州煮ぼうとう[2][3]とも呼ばれる。

小麦粉をこねて伸ばした幅の広い生麺と、特産品深谷ねぎ、地元で収穫した根菜類とを煮込み、醤油で味付けした料理である[4][5]

埼玉県を代表するB級グルメとも評される[6]

埼玉県内の他地域でも類似したうどん料理がみられるが、それらは入間郡比企郡ではひもかわ打ち入れ秩父地域ではおっきりこみと呼ばれる[7]

概要

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麺は中力粉や強力粉を用いた腰の強い幅広のもの(およそ2.5cm、厚さ1.5mm程度[4])を用い、生麺のまま野菜を中心とした具とともに煮込んだうえ、醤油で味付けを行ったものである。生麺から煮込むことで、適度なとろみが生まれる[4][6]

具には深谷特産の深谷ねぎのほか、根菜類がよく使われる。

調理法

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深谷市はホームページ上で、「家庭で作れる煮ぼうとうレシピ」として次のように紹介している(『武州煮ぼうとう研究会』の情報提供による)[4]

  1. 1070ccの水に、昆布干し椎茸などを入れ、ダシを作ります。
  2. 1.のダシに、粉末ダシ(市販のダシでOK)を入れ、沸騰したら鶏肉とごぼうを入れます。
  3. ひと煮立ちしたら、残りの具材(編注:深谷ねぎ、白菜大根人参しめじ油揚げ、季節の野菜など)を入れます。
  4. 全体に火が通ったら、麺を入れ、菜箸でよくかき回します。
  5. 麺に透明感が出たら、しょう油を入れ、味を調えます。
  6. 煮上がったら火を止め、ふたをし、2~3分蒸らしたら完成です。

他、深谷市内の飲食店のひとつ『洋食と煮ぼうとうの店 虎ひげ』では、出汁には鰹節を用い、具材にはねぎの他にニンジンサトイモ鶏肉などの11種類を用いるという[6]

他地域の類似料理との関係

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幅の広い麺を生から地元の食材で煮込む同様の料理として、山梨県ほうとう岩手県南部はっとひっつみ九州だんご汁などが挙げられる。青森県八戸せんべい汁も、広義には共通点がある。

甲州山梨県)の郷土料理である『ほうとう』とは名称・外見ともに類似しているが、ほうとうは一般的に味噌味でカボチャが入り甘みが強いとされる[6]。一方、煮ぼうとうは醤油味でありカボチャは入らず、深谷ねぎなどの野菜を多く煮込むほか、生麺を煮込むためとろみが強く冷めづらい特徴があるとされる[6]

上州群馬県)のおっきりこみとは似た料理ではあるが、おっきりこみは主に味噌仕立てである(一部醤油仕立てのものが存在する)のに対し、煮ぼうとうは醤油仕立てである。また、醤油味のおっきりこみを煮ぼうとうと呼ぶ場合もある。

ほうとうなど太い麺を生の状態から地元の野菜と一緒に煮込んだ料理は、戦国時代の武田信玄の領地や影響のあった地域である山梨県のほか、埼玉、群馬のおっきりこみ、長野などにある。このため、「ほうとうが食べられている地域は信玄の勢力範囲と一致する。武田軍の陣中食だった可能性がある。」とする説がある。

歴史

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深谷を含む埼玉県では、稲作の裏作として小麦を多く生産していた(二毛作)ことから、の原料となる小麦粉を入手しやすかった[4]。深谷では古くより家庭料理として『ほうとう』を食べる文化があり[8]、「ほうとうを打てない女はにいけない」と言い伝えられたという[9]江戸時代末期に血洗島村(現在の深谷市内)で生まれた実業家渋沢栄一も煮ぼうとうを好物としており[10]帰郷の際には必ず食べていた[11]、と伝承されている。

しかし、1980年代後半まではあくまで煮ぼうとうはの代用食であり[11]、農作業の合間に食べる「郷土の味」[9]「家庭の味」として認識されており、飲食店で販売されるようなものではなかったという[8]

煮ぼうとうが深谷の名物として有名となった契機は、1988年昭和63年)に深谷市の製麺会社『新吉(しんよし[12])』が商品化したことであったという[8]。同社社長の小内陸夫の母である政が「おいしいし、特徴があるのだから、出せば売れる」と判断したことによる[8]。発売後はたちまち同社を代表する商品となった[8]

2003年平成15年)には市民十数人によって『武州煮ぼうとう研究会』が発足し、煮ぼうとうと(甲州の)ほうとうとで屋台の売り上げを競うといった『ほうとう対決』も行われた[6][8]。売り上げ対決では二年連続で甲州ほうとうが勝り、煮ぼうとうは敗れたものの、話題性から知名度の向上につながった。

2007年(平成19年)には埼玉県行田市にて「埼玉B級グルメ王決定戦」が開催され、13市町から出品された14種の料理を、1万人以上の参加者が食べ比べて好みの食品に投票した[13]。結果、煮ぼうとうが最多の票を獲得した(第2位は行田市の『ゼリーフライ』、第3位は同じく『フライ(鉄板焼き)』であった)[13]。武州煮ぼうとう研究会長の小林仲治は「B級とは正直心外だが、先祖から伝わる味を評価されてうれしい。全国区の味をめざしていきたい」と述べた[13]

以後も各地で普及活動が進められ[6]、結果、煮ぼうとうは市内の飲食店でも販売されるようになるなど、深谷の名物料理として確立されていった[8]。深谷では学校給食として煮ぼうとうが提供される[7]ほか、渋沢栄一の命日である11月11日には、『煮ぼうとう会』が開催されることとなった[6]

2010年代には大手コンビニエンスストアセブン-イレブンが期間限定で煮ぼうとうを製造・販売し、2021年(令和3年)にも埼玉県政150周年を記念して販売した[6]

2019年に渋沢栄一の肖像画が2024年度以降の一万円紙幣に用いられることが決定すると、新吉は渋沢の生誕地の隣に煮ぼうとう専門店を出店した[11]

2022年令和4年)時点で、深谷市内で煮ぼうとうを提供する飲食店は約20強が公表されている[4]

脚注

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  1. ^ 『コムギ粉料理探求時点』東京堂出版、1999  。ISBN 4-490-10518-5 
  2. ^ “セブンイレブン、埼玉県産食材使ったコラボ商品”. 日本経済新聞. (2021年11月2日). https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCC023J40S1A101C2000000/ 2022年7月3日閲覧。 
  3. ^ “セブン1200店、埼玉150周年の記念グルメ販売 12月中旬まで 知事「買って帰りたい。おいしい」”. 埼玉新聞. (2021年11月10日). https://www.saitama-np.co.jp/articles/10349 2022年7月3日閲覧。 
  4. ^ a b c d e f 煮ぼうとう”. 深谷市役所 商工振興課 (2021年5月21日). 2022年7月3日閲覧。
  5. ^ “あぶくま抄 煮ぼうとう(11月11日)”. 福島民報. (2021年11月11日). https://www.minpo.jp/news/moredetail/2021111191941 2022年7月3日閲覧。 
  6. ^ a b c d e f g h i 砂本紅年 (2019年11月16日). “<食卓ものがたり>新一万円の顔が愛した郷土食 煮ぼうとう(埼玉県深谷市)”. 東京新聞. https://www.tokyo-np.co.jp/article/11970 2022年7月5日閲覧。 
  7. ^ a b 大臣官房 新事業・食品産業部外食・食文化課食文化室. “うちの郷土料理 埼玉県 煮ぼうとう/ひもかわ(にぼうとう/ひもかわ)”. 農林水産省. 2022年7月5日閲覧。
  8. ^ a b c d e f g 内田優作 (2019年7月11日). “新札効果 渋沢栄一のうどん好調 新吉 (1/2ページ)”. SankeiBiz. https://web.archive.org/web/20190711131818/https://www.sankeibiz.jp/business/news/190711/bsd1907110500003-n1.htm 2022年7月3日閲覧。 
  9. ^ a b “【40代からの毎日を応援する大人くらぶ】歩いてみよう 渋沢栄一ゆかりの地 埼玉県深谷で史跡探訪”. サンケイスポーツ. (2021年7月19日). https://www.sanspo.com/article/20210719-3LDL2B6QOJHRDOVMPH5365DXCU/ 2022年7月5日閲覧。 
  10. ^ 渡部穣 (2021年11月12日). “藍色に浮かぶ渋沢栄一 命日ちなみ深谷で献花、ライトアップ”. 東京新聞. https://www.tokyo-np.co.jp/article/142366 2022年7月3日閲覧。 
  11. ^ a b c 菅原佳己 (2021年2月13日). “(お宝発見ご当地食)煮ぼうとう 新吉 埋蔵エリア・埼玉県深谷市”. 朝日新聞. https://www.asahi.com/articles/DA3S14797075.html 2022年7月22日閲覧。 
  12. ^ “(お宝発見ご当地食)煮ぼうとう 新吉 埋蔵エリア・埼玉県深谷市”. 朝日新聞. (2021年2月13日). https://www.asahi.com/articles/DA3S14797075.html 2022年7月5日閲覧。 
  13. ^ a b c “コミミ口コミグルメ 深谷の「煮ぼうとう」初の栄冠”. 朝日新聞. (2007年11月20日). https://www.asahi.com/komimi/TKY200711130128.html 2022年7月22日閲覧。