キリスト教福音宣教会
キリスト教福音宣教会(キリストきょうふくいんせんきょうかい、Christian Gospel Mission[1])は、韓国のキリスト教の土壌から生まれた新宗教で、創設者は鄭明析。教団は名称変更を頻繁に行っている[2]。1980年の設立時は愛天教会、韓国では教祖のイニシャルと同じJMS(Jesus Morning Star)とよばれ、日本ではMS教と呼ばれていた[3]。
概要
通称は「摂理」で、教団は「すべてが神の配慮によって導かれている」という意味のキリスト教用語であると説明している[1]。日本の信者が自らを「摂理人」と呼ぶことから、日本のメディアでも摂理と呼ばれている[2]。
1981年3月に韓国で設立され[4][5][6]、公称で世界約30か国に300の教会があり、数万人の会員がいるとされ[6]、韓国で4万人、日本で2千人、その6割が女性といわれる[3]。
1999年3月の韓国テレビ局のドキュメンタリー番組の報道で、鄭明析による女性信者へのわいせつ行為・性的暴行が一気に社会問題になり、教祖は2009年に実刑判決を受けた[3]。(詳細→女性信者の性的被害)ジャーナリストの野方いぐさは、教祖逮捕で事件が幕切れしたように見えるが、性的暴行の被害者だけでなく、元信者たちも、教団の影響からなかなか抜け出せなかったり、このような教団の勧誘をしていたことの罪悪感に苦しむなど、その心の傷は大きいと述べている[3]。
日本では統一教会と同じく、正体を隠した勧誘が行われており、勧誘対象の中心は大学生だが、2006年に高校生の入信も確認されている[3]。「50の大学に信者」をもち「サークル装い勧誘」していると報道され、大学では被害者をこれ以上増やさないよう対策が取られている[2]。
宗教社会学者の櫻井義秀は、「摂理の宣教活動や教義はかなりの程度統一教会の影響を受けたもの」であり、真似をされたからと言って統一教会にキリスト教福音宣教会の監督責任があるわけではなく、同教団が起こした諸問題に統一教会が関わっているわけではないが、韓国では両者を比較して特徴を論じる研究書が少なくないと指摘している[2]
韓国の毎日放送(MBN)は、鄭明析の一連の性的暴行事件に関する過去の報道内容に対して一部の内容を訂正するプレスリリースを出しており[7]、YTNは過去の報道の内容の一部を修正している[8]。
教団の起源
キリスト教福音宣教会は教団設立者である鄭明析が1981年3月に設立した「MS宣教会」を起源とする[6]。その後、MS宣教会はいくつかの変遷を経て、1999年に「キリスト教福音宣教会」となり現在に至る[6]。日本支部の設立は1985年。[5]
教典および教義
団体の基本理念・目標
イエス・キリストの福音を伝えることに対する至上命令を基本に、21世紀最大のトピックである平和をこの地に実現しようという全世界と全世代への「愛すれば平和が来るだろう」という精神を伝え、実践することを設立理念としている。[9] 「信じて死んでから天国に行こうという単純な救いの論理から抜け出し、生きているとき地上でも天国を成すべきだ。」という意味で、天国ではなく、生きている現実の世の中で、理想世界を具現しようということを目標に置いている。[10] また、「宗教は理論ではなく生活」であり、神を愛することで神の性格に似ようとし、御言葉を聞いて実践することを重視し、[11]実際の生活の中で、聖書に記録された神とキリストの教えと愛を実践することによって、生活に息づかせ、真に平和な世界の実現を目指している。[1][10]
キリスト教福音宣教会では御言葉を重要視しており、特に主日、水曜日に伝えられる御言葉を重要視している。
30個論
教理として『30個論』というものがある。[10][12]これは、鄭明析が長年の修道生活の中で、聖書を通読しながら御言葉を文書に整理し、120ページの図にまとめたあと、これを体系化して、30個の講義にまとめたものである。[10]
人間は、神に創られた、神の御言葉を肉体をもって表す尊い存在であるにもかかわらず、価値を失って生きてしまいがちであるが、この30個論を聞けば、聖書の問題だけでなく、人生のすべての問題が、雪が融けるように解ける教理であると説く。[10][12]
摂理の教えは世界基督教統一神霊協会のそれに類似している[13][14]。宗教研究者卓明煥によれば、30個論のうち、26・27・28・29・30ら「高級編」を含む9講論には、統一教会の教典「原理講論(원리강론)」と「相当程度」の共通点がみられるという[15][16]。
宣教方法
「一人が 一人を布教しよう」というスローガンが掲げられ、布教の実績をメンバー同士で競わせている。勧誘は、大学の偽装サークルなどといった非宗教的な団体を通じて、宗教的な性質や教義、本当の目的を明らかにせずに行われている[17][18][19]。その勧誘方法は、法律家により「詐欺」と説明された[20]。日本においては東京大学、東京外国語大学、早稲田大学などで大学生の信者を獲得したが、「宗教団体であることを隠した悪質な信者勧誘や、脱会希望者への執拗な引き留め行為」が問題視された[21]。その後、駅前のカフェや書店の宗教・思想コーナーで高校生を勧誘する傾向が見られるようになる[22]。
献金
他のキリスト教の教会と同様に毎週日曜日に行われる「主日礼拝」の際に献金が行われる。第一週の全ての献金は韓国人女性幹部に送金され、残りが教会運営費に充てられる[23]。
社会人の場合は月給の10分の1を献金し、ボーナスがあればボーナス献金を要求される。ウォルミョンドンにある施設の建設費として信者一人あたり10万円の献金を命じられた[23]。
献金が多額であれば信仰心の厚い信者として扱われるため、多額を寄付しなければならない状況に追い込まれる[23]。
1997年には、幹部より1人10万円の献金ノルマが日本の信者に課せられた[23]。他にも教祖の逃亡先での高級住宅購入費用に数千万円を提供した信者もいたという[23]。
会員への指導
まずは自分自身が成長すること、そして将来に良い結婚、良い家庭を作ることが教義にある。聖書に基づく婚姻、結婚に関する教育を結婚適齢期の会員にはしている。教義上の理由により男女の交際を禁じている。結婚できるかどうかは最終的に教祖が決定し、信徒に選択の自由はない[24]。 2006年の春までに、日本人信者を対象にした「祝福式」が6回行われ、少なくとも150組以上が参加した。祝福行事は2泊3日ほどの合宿形式で行われ、男女とも27歳以上、信仰歴3年以上、3人以上を教団に伝道したことが参加条件とされる[24]。
飲酒は「霊が死ぬ」として禁じられている[23]。
女性信者の性的被害
カルトとして批判されており[25][26]、韓国では近年社会問題となっている[27]。1999年に教団が元信者の女性を拉致・監禁したことが明らかになり[27][3]、同年脱会者団体「エクソダス」が設立された[27]。日本でも、少なくとも十数人の女性信者の被害も確認されている[3]。女性参加者は鄭明析との面談を受けるが、鄭はその際に婦人病を予防する「健康チェック」などと称して、わいせつ行為や性的暴行を繰り返していた[3][24]。
教祖・鄭明析による女性信者への性的暴行があったことが次々判明し[27]、鄭は1999年に海外逃亡し[2]、2007年に北京で拘束され[3]、2009年に女性信者への強姦及び準強姦罪で懲役10年の実刑判決を受けた[3]。
年表
- 1978年
- 鄭明析が宣教を始める[3]。
- 1980年
- 鄭明析が愛天教会を設立[3]。
- 1981年
- 1983年
- 鄭明析がキリスト教メソジスト派の牧師となる。[要出典]
- 1985年
- 1987年
- アメリカ支部設立[5]
- 1988年
- 台湾支部設立[5]
- 1991年
- 4月 - 月明洞の開発着工[5]
- 1993年
- 3月 - 摂理神学校開校[5]
- 1996年
- 国際クリスチャン連合として組織を改編[要出典]。
- 1999年
- 2001年
- 鄭明析が強姦や詐欺などの容疑でソウル中央地検にICPO(国際刑事警察機構)を通じて国際指名手配される[3]。
- 2006年
- 2007年
- 中国公安当局が遼寧省鞍山市郊外の鄭明析の隠れ家を強制捜索し、翌月鄭を拘束[3]。
- 2008年 中国国務院は鄭の身柄引き渡しを決定し、2月に韓国のソウルに送還されソウル拘置所に収容された[3]。
- 2009年
- 2013年
- 鄭明析著の「詩の女」「詩で語る」を出版[30]
年間行事
キリスト教福音宣教会では、様々な年間行事が行われ、それぞれの行事を通じて信仰生活がなされている。
神様の日 栄光週間(1月1日~1月15日)
毎年新年に、神様の日・栄光週間として、世界各地の教会や各自で、神に感謝と讃美を捧げる時間を持つこととなっている。[31]
「神様に栄光を帰す時、人を意識してはいけない。観客を意識してはいけない。すべての芸術は神様のものだ」という方針で、全世界の教会で、この期間に讃美し、祈り、聖書を読み、多様な文化行事を行うのが恒例となっている。[32]
復活節(キリスト教福音宣教会では、毎年4月第2または第3週の主日)
復活節(復活祭)は、イエス・キリストの復活を祝うキリスト教最大の祝日であり、一般的には春分のあとの満月に続く日曜日で(年によって移動する)、キリスト教福音宣教会でも毎年4月の第2または第3週の日曜日を復活節の礼拝として行っている。 [33] [34] [35] [36]
キリスト教福音宣教会での復活節の御言葉の特徴は、次の御言葉にあるように、肉体がよみがえることではなく、死んだ精神や行い、霊魂がよみがえることであり、ひいては霊魂が天国の霊に変化して引き上げをなすことを重視している。[10][11]
2015年4月15日 主日の御言葉「引き上げの復活」(要約)[33]
2014年4月13日 主日の御言葉「最後の最高の復活は「引き上げ」だ」(要約)[34]
2013年4月14日 主日の御言葉「霊の復活、霊の引き上げだ」(要約)[35]
2012年4月8日 主日の御言葉「永遠な霊の復活」(要約)[36]
花の祝祭(4~5月)
春には、ツツジやユリが咲くウォルミョンドン自然聖殿では、2011年より、毎年、美しい花々を愛で、花々を咲かせる神を讃える「花の祝祭」を行っている。花の祝祭では、美しいソメイヨシノや 、数万本のツツジ、クロフネツヅジ、ユリ、赤いサツキなどが美しく咲き、色とりどりの花の数々を鑑賞することができる。[37][38][39][40][41]
例年、花々の散策ツアーなどの観覧のほか、オーケストラ等の芸術祭が行われる。2012年の場合は、開幕式からはじまり、自然と美術祝祭、美術展示会、花の道散策ツアー、祝祭写真コンテストなどが行なわれた。[37][38][39]
子供の日(5月5日)
韓国でも、日本と同様に5月5日が子供の日であり[42]、毎年5月5日前後には、子供の日の祝祭を月明洞(ウォルミョンドン)自然聖殿で実施し、各教会でも同様に子供の日を祝っている。[43]
自然聖殿では、記念式のほか、運動会を実施したり、子供たちが舞台で讃美や祈りを捧げ、神に栄光を帰する時間を持つことが恒例になっている。[43][44]
また、摂理の2013年5月5日の主日礼拝の御言葉は「子供を飼育しないで、放牧しなさい」となっており、「子供たちと信仰の幼い人たちを教え、管理をするときは、自由にさせておいて、線を越えていくことについてだけ話をすべきです。そうしてこそ、神様と聖霊様と御子がその人にその都度感動を与えて、個性通りにお育てになります。」と説き、自分式の教育ではなく、天の方法で個性尊重の教育をすべきことを説いている。[45]
ウォルミョンドン(月明洞) 自然聖殿
鄭明析が摂理の信徒たちと共に1989年から10年以上をかけて開発し、造園した自然聖殿である。[9][46] 摂理の本部が置かれており、住所は、大韓民国忠清南道錦山郡珍山面石幕里(月明洞)である。[9][47] ウォルミョンドン自然聖殿は、石の多い土地として名付けられた 「石幕里(ソンマンリ)」に位置しており、数多くの岩々が景観を形作っている。また、自然聖殿には、広い芝生、広い運動場、池、滝、八角亭、薬水の泉、多くの松の木々が広がっている。[40][48][47]
信徒たちは、ウォルミョンドン自然聖殿で野外礼拝を行い、ほかに様々な摂理の行事において、運動場では例えばサッカーを行い、また、岩々の間に座って自然聖殿の運動場で行われる行事を観覧している。広い芝生の上や丘の上など様々な場所では、静かに祈りを行い、あるいは集まって祈り、讃美を歌うこともできる。 [49] [47] [50] [37] ウォルミョンドン自然聖殿は、年間数十万人が訪問する場所であり、夏には若者たちが心身を鍛錬し修錬する夏季修練会、四季の美しい景色のなか、春には花の祝祭、秋には岩の祝祭が毎年執り行われている。 [9] [40]
「野心作」等の岩々
自然聖殿のなかで、特に高さ35m、長さ150mの自然石を積み上げてつくられた巨大な岩々の庭園「野心作」が目を引く。自然聖殿の顔ともいえる「野心作」の岩々の特徴は、数多くの岩々が寝かせるのではなく、立てて設置されていることであり、これにより壮大な景観を生み出している。[9][40][48] 「野心作」の中央には、摂理の精神を表す、鄭明析自筆の「命を愛しなさい」と書かれた石碑があり[46]、また、「野心作」のいちばん上にも、鄭明析自筆の 『このすべての構想は神様、感動は聖霊様、保護はイエス・キリスト、技術・実践は私と弟子たち』という定礎の言葉が刻まれており、ここが神の霊感によって設計された場所であり、キリストの保護のもと、実践した成果であることを説明している。[40][48][46]また、自然聖殿のあちこちには、小さくて数トン、大きいものは数百トンの重さ の、30種以上の岩々が配置されている。これらのほとんどは人の手を全くつけずに、自然に形作られた自然石であり、104トンの「大きな顔の岩」、人魚の岩、虎の岩、藁葺き家の岩、5年間かけて掘り出された500トン余りの「ラクダ岩」など様々な形象石がある。[40][48]
開発の経緯と成果
摂理の草創期は、お金のない青年層が多く集まったので、同じ場所で集まって共に讃美し、祈ることができる場所がなかった。そこで、鄭明析の故郷であるウォルミョンドンの土地を少しずつ切り拓いて、開発し、そこを使って集まるようになった。[46]ウォルミョンドンは、もともとは誰も訪れないような山奥の寂しい谷だったが、開発を繰り返すことで、ついに自然聖殿として作られ、毎日数百、数千人が訪れる名所に変貌したように、摂理では 「人間は作り方次第だ」という人生の教訓が強調されている。[40][46]
散策路等の体験
自然聖殿には、周辺の山々に連なる散策路が多数設けられている。[47][41]ツツジのやサツキの花々が密集して咲く散策路のほか、周辺の山々や峰々を巡る登山コース・散策コースがあり、信徒たちによって、各コースを散歩しながら自然聖殿とその周辺にある多様な種類の木が聖書の中でどういう意味を持っているのか、またそれぞれの木が持っている多様な経緯や象徴を探るなど、自然を通した体験学習が行われている。[41]
関連項目
脚注
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- ^ “YTN” (Korean). 2015年5月5日閲覧。 “정명석 총재 관련 보도에 대한 정정보도문”"본 방송은 지난 2014년 5월 22일부터 7월 26일 사이 방송된 내용 중 "JMS의 정명석 총재가 여신도들을 성폭행하고 외국으로 달아났다가 중국공안에 붙잡혀 송환됐다", "밀항했다", "여신도들에게서 성상납을 받았다"는 취지의 언급을 한 바 있습니다. 그러나 확인 결과 정 총재의 성폭행 혐의는 검찰에서 무혐의 처분됐던 것으로 정 총재는 당시 정상적으로 해외일정을 소화했고 여러 차례 입국해 검찰 조사를 받았기 때문에 관련 보도는 사실과 다르며, 성상납 혐의 또한 무혐의 처분되었기에 해당 보도를 바로잡습니다.또한 'JMS'란 칭호는 해당 선교회의 공식명칭이 아닌 것으로 확인돼 '기독교복음선교회'로 바로잡습니다. "
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- ^ 卓明煥 (탁명환)『기독교 이단 연구』국제 종교 문제 연구소、1986年。[要ページ番号]
- ^ 櫻井 2006, pp. 2–3 [143–4]: ”研究家、卓明煥『キリスト教異端研究』(国際宗教問題研究所、1986)によれば(表2)、14,17,19,20,26,27,28,29,30 の各章に統一教会の『原理講論』と相当程度の類似がある。”
- ^ 櫻井 2007c, p. 2
- ^ “How to Spot a Woolly Wolf”. The Keimyung Gazette. (2006年8月18日) 2014年3月1日閲覧. "Although its members come from all works of life: university lectures, soldiers, doctors, teacher, nurse, housewives, and children, JMS is essentially a university cult, Most of the former members I have spoken to encountered JMS on a university campus. Younger girls are also targeted for recruitment: in Hong Kong the cult has high school liaison officers, and in Seoul a church especially for schoolgirls. Soccer, cheerleading, modelling, photography, martial arts, dance, drama, and music festivals are all activities JMS uses to acquire new members, Hosting there events are front organizations: organization with no obvious links to JMS. Totally deceptive in nature, members routinely lie to hide their JMS connections, An international student studying at Ewha Women's University found herself at Wolmyungdong after being invited to a martial arts display."
- ^ “Alleged Cult Sows Seeds Via Campus Event |”. The Guardian, University of California, San Diego, USA (2006年11月13日). 2014年3月1日閲覧。 “Members of a controversial religious group, led by an international fugitive wanted for numerous instances of alleged rape and sexual assault of female members, recently held an event at UCSD, which included a modeling show featuring young women, singing and videotaped religious messages from the group’s founder — hallmarks of the group’s tactics to recruit new members. The group, known as the Global Association of Culture and Peace, was established by 61-year-old South Korean national Jung Myung Seok, who also goes by the name Joshua Jung. The group, widely regarded by international press as a cult, also goes by several other names, including JMS, Providence, Setsuri and the Bright Smile Movement.”
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出典
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