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川井巌

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川井 巌
生誕 1896年明治29年)9月2日
日本の旗 日本山形県東置賜郡宮内町(現:南陽市
死没 (1972-05-15) 1972年5月15日(75歳没)
日本の旗 日本東京都大田区[1]
所属組織 大日本帝国海軍
軍歴 1920年(大正9年) - 1945年(昭和20年)
最終階級 海軍少将
除隊後

第二復員省 人事局長(公職)
復員庁 第二復員局 人事部長〈人事課長を兼任〉(公職)
引揚援護庁 第二復員局残務処理部長(公職)
東京光学機械株式会社(現:トプコン) 営業部長
東光物産株式会社[注釈 1] 常務取締役(東京光学機械株式会社 営業部 顧問を兼任)

東光物産株式会社 社長
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川井 巌(かわい いわお、1896年明治29年)9月2日 - 1972年昭和47年)5月15日)は、日本海軍軍人実業家海兵47期・海大29期。山形県出身。

1943年(昭和18年)、海軍大佐・軽巡洋艦木曽」艦長としてキスカ島撤退作戦に参戦し、武功を挙げた。

帝国海軍での最終階級は海軍少将1945年(昭和20年)に帝国海軍が消滅した後も、公職追放を受けずに1950年(昭和25年)まで第二復員省人事局長などの公職に就き続け、海軍の残務を処理した。

1953年(昭和28年)に東京光学機械株式会社(現:トプコン)に入社し、実業界に転じた。東光物産株式会社[注釈 1] 社長に在任中の1972年(昭和47年)に75歳で死去した。

海軍士官時代

山形県東置賜郡宮内町(現:南陽市)で出生[3]。父の川井七三郎は商業を営んでいた[4]。山形中学校(現:山形県立山形東高等学校)を経て、1919年(大正8年)に海軍兵学校を卒業(第47期、卒業席次は36位/115名)。

川井の兵学校卒業席次は上位ではない。しかし兵47期の俊英と目された川井は、中佐で連合艦隊(司令長官:吉田善吾中将)参謀に起用された[5]。川井は海軍中央での勤務が多い「赤レンガ組」であり、中佐進級(昭和11年12月)は兵47期先頭組(光延東洋山本善雄など6名、昭和10年11月 中佐[6])より1年遅れであったが、大佐進級(昭和15年11月)以降は兵47期先頭組に入った。

1941年(昭和16年)12月、海軍大佐・第4艦隊(4F。司令長官:井上成美中将、参謀長:矢野志加三少将)先任参謀として、太平洋戦争の開戦を迎えた。

キスカ島撤退作戦での武功

煙突偽装の妙計

1942年(昭和17年)9月、4F先任参謀から、第5艦隊(5F)隷下の軽巡木曽」艦長に転じた。川井は5Fで「艦隊の智嚢[7]」として重きをなした[5]

川井は、翌年の1943年(昭和18年)に5Fが実施したキスカ島撤退作戦(総指揮官:第1水雷戦隊司令官 木村昌福少将)に「木曽」艦長として参戦した[8]

キスカ島撤退作戦の発動(昭和18年7月1日)が近づいた同年6月25日、木村少将は、片岡湾(占守島)所在の旗艦・軽巡「阿武隈」で「撤収作戦研究会」を行い、5F参謀・1水戦各参謀・各艦長/司令・各駆逐艦長が参集した[9]

1水戦先任参謀・有近六次中佐(兵50期[10]昭和30年に死去[11])は、この研究会につき下記のように記している。

計画は至れつくせりと思いますが、一つ付け加えさせていただきたいことは、霧中で万一、敵の潜水艦や哨戒艦艇に発見された場合、念のための偽装の一法として、阿武隈木曽の煙突一本を白灰色に塗装して、米海軍の軽巡のごとく二本煙突に見せ、駆逐艦はこれと反対に煙突一本を仮設増加して、三本煙突のごとく見せる工夫でありますが、いかがでしょうか — 木曽艦長 海軍大佐 川井巌[12]
それは気がつきませんでした。司令官、いま木曽艦長の申されました偽装案は妙計と思いますので、各艦に実施させていただきたいと思いますが、いかがでしょうか — 第一水雷戦隊先任参謀 海軍中佐 有近六次、[12]
よろしい、いまのご意見をそのまま採用いたします — 第一水雷戦隊司令官 海軍少将 木村昌福[12]

苦境の木村昌福少将を補佐

キスカ島撤退作戦は同年7月1日に発動され、第1水雷戦隊司令官・木村昌福少将が率いる日本艦隊は、同日に片岡湾(占守島)を出撃してキスカ島に向かったが(第1回実施[13])、木村少将は「勝算なし」と判断して作戦を中断し、同年7月7日に片岡湾に帰投した[14]

同年7月11日、日本艦隊は片岡湾を再度出撃してキスカ島に向かったが(第2回実施[14])、木村少将は同年7月16日に再度「勝算なし」と判断して作戦を中断して片岡湾に帰投した[14]

第2次実施でキスカ島に突入しなかったことを、木村少将は海軍部内から強く批判された[14]。第3次実施(アメリカ海軍の動向、燃料欠乏などから最後の機会となる)を控えた同年7月19日、木村少将は片岡湾所在の旗艦「阿武隈」で最終会議を行い、5F参謀・1水戦各参謀・各艦長/司令・各駆逐艦長が参集した[7]

1水戦先任参謀・有近六次中佐は、会議終了後の情景を下記のように記している。

皆が帰ったあと、私は今日の打ち合わせの模様を司令官に報告した。司令官と私の間では、今日の議題は全部打ち合わせずみのことばかりだった。
[7]
ウン、そうだったか。それでよし。ご苦労だったな — 第一水雷戦隊司令官 海軍少将 木村昌福[7]
これで司令官のもとを辞して幕僚室へ引き揚げようとすると、
[7]
オイ、夕食までまだ時間がある。この間のつづきの一局やろうか — 第一水雷戦隊司令官 海軍少将 木村昌福[7]
と碁盤を指したので、私もあと戻りして、公室のソファーの上で一局かこみはじめた。この二人の碁はだいたい互角であるが、よく考える長い碁だった。パチリパチリと無心に黒白を並べている最中、コツコツと室の入口をノックする音が聞こえる。
[7]
オーイ — 第一水雷戦隊司令官 海軍少将 木村昌福[7]
と振り向きもせず司令官が返事をすると、カーテンを揚げて入ってきたのが、艦隊の智嚢木曽艦長川井大佐である。
[7]
ヤッ、碁ですが。よろしいな。どちらがお強いんですか — 木曽艦長 海軍大佐 川井巌[7]
さあ、どちらが強いと見える。口はセサ(先任参謀の略称)の方が強いかも知れんが、俺の方はなあ — 第一水雷戦隊司令官 海軍少将 木村昌福。括弧内は出典のママ、[7]
道理で司令官は白をお持ちですね — 木曽艦長 海軍大佐 川井巌[7]
[7]
長幼礼ありですよ — 第一水雷戦隊先任参謀 海軍中佐 有近六次、[7]
とパチリ。そこへ従兵が
[7]
木曽艦長、内火艇が機械を止めてお待ちしておりましょうか、と聞いておりますが — 第一水雷戦隊司令部 従兵、[7]
いや、いますぐ帰るから、そのまま待たしておけ。では司令官、失礼いたします。ごゆっくり — 木曽艦長 海軍大佐 川井巌[7]
司令官はわれにかえり、
[7]
オイ、もう帰るのかい。何か用事があったんではないか — 第一水雷戦隊司令官 海軍少将 木村昌福[7]
いえ、用事はすみました。お二人の碁をかこんでおられるのを見ましたら、もう何も申し上げることがなくなりました。安心しましたから帰らしていただきます — 木曽艦長 海軍大佐 川井巌[7]
司令官ははじめて顔を上げて、木曽艦長を見ながら、
[7]
変だな。しばらく待っておれよ。いますぐセサを片づけてお相手をするから — 第一水雷戦隊司令官 海軍少将 木村昌福[7]
と髭をひねりながら笑顔で引き止める。しかし、木曽艦長はそのまま帰っていった。後は再び無言でパチリパチリ。幌筵の夕は静佳に暮れていく。
[7]


煙突偽装の計、敵潜を欺く

同年7月22日、第1水雷戦隊司令官・木村昌福少将が率いる日本艦隊は、片岡湾(占守島)を再々度出撃してキスカ島に向かった(第3回実施[15][16]

同年7月28日、キスカ島を厳重に封鎖するアメリカ海軍の隙を突いて、キスカ島への突入・撤退部隊収容に成功した日本艦隊は、キスカ島海域から離脱する寸前に、浮上中のアメリカ潜水艦1隻を至近距離に発見した[9]。木村少将は「何もせず、敵潜をやり過ごす」決断をした[9]。すると、煙突偽装を施した日本艦隊を、キスカ島封鎖中のアメリカ艦隊と誤認したのか、アメリカ潜水艦は「日本艦隊発見」の電報を打つことなく、浮上したままで日本艦隊の視界外に消えていった[9]

海軍消滅後も残務処理に従事

海軍少将・海軍省人事局長として1945年(昭和20年)8月の終戦を迎えた川井は、同年11月末に海軍が消滅した後も、公職追放を受けずに引き続き公職(第二復員省 人事局長、復員庁 第二復員局 人事部長〈人事課長を兼任〉引揚援護庁 第二復員局残務処理部長)に就いて海軍の残務処理にあたった[4][注釈 2]1950年(昭和25年)8月に公職を離れた[4][注釈 3]

実業家時代

1953年(昭和28年)、57歳の川井は東京光学機械株式会社(現:トプコン)に入社した[18]。当時の東京光学機械は、日本光学工業(現:ニコン)に次ぐ名門光学機器メーカーであり、カメラ双眼鏡などの光学機器は、敗戦で疲弊した日本が欧米に輸出できる、数少ない工業製品であった。

実業界に転身した川井は、東京光学機械株式会社 営業部長[18]東光物産株式会社[注釈 1]常務取締役(東京光学機械株式会社 営業部 顧問を兼任) [19]、東光物産株式会社 社長[20]を歴任した。

実業界で活躍する一方で、かつての上官である井上成美(敗戦責任を感じて隠棲し、貧窮生活を送っていた)を、4F先任参謀時代の仲間たちと共に支援した。

東光物産株式会社 社長に在任のまま[1]1972年(昭和47年)9月2日に死去[4]。75歳没。

年譜

※ 本文での言及、もしくは特記のない限り、出典は「秦 2005, p. 199-200, 第1部 主要陸海軍人の履歴:海軍:川井巌」。

以後、東京光学機械株式会社 営業部長、東光物産株式会社[注釈 1]常務取締役(東京光学機械株式会社 営業部 顧問を兼任)、東光物産株式会社 社長を歴任。
  • 1972年(昭和47年)5月15日 - 東光物産株式会社 社長に在任のまま死去(75歳没)。

脚注

注釈

  1. ^ a b c d 東光物産株式会社は、東京光学機械株式会社(現:トプコン)の製品販売会社[2]
  2. ^ 「川井は、1947年(昭和22年)11月28日付で『公職追放指定』を受けた」とする資料([17])があるが、川井は1950年(昭和30年)8月まで公職に就いている[4]
  3. ^ a b 出典([4])に「免 本官」とのみ記載されている。

出典

  1. ^ a b 『山形県年鑑』(1973年版)山形新聞社、1973年、716頁。 
  2. ^ 阿川 1992, p. 330
  3. ^ 『山形県年鑑(1957年版)』山形新聞社、1956年、431頁。 
  4. ^ a b c d e f g h i j 秦 2005, p. 199-200, 第1部 主要陸海軍人の履歴:海軍:川井巌
  5. ^ a b 阿川 1988, pp. 59–60
  6. ^ 『現役海軍士官名簿 昭和12年1月1日調』海軍省、1937年、90頁。 
  7. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w 有近 1948, 「丸 別冊:北海の戦いー千島・アリューシャン戦記」(潮書房、1990年):264-267頁。
  8. ^ 有近 1948, 「丸 別冊:北海の戦いー千島・アリューシャン戦記」(潮書房、1990年):216-219頁。
  9. ^ a b c d 有近 1948, 「丸 別冊:北海の戦いー千島・アリューシャン戦記」(潮書房、1990年):288-289頁。
  10. ^ 有近 1948, 「丸 別冊:北海の戦いー千島・アリューシャン戦記」(潮書房、1990年):250頁。
  11. ^ 有近六次『奇蹟作戦 キスカ撤退』「丸 別冊:北海の戦いー千島・アリューシャン戦記」(潮書房、1990年):216頁(解題)。
  12. ^ a b c 有近 1948, 「丸 別冊:北海の戦いー千島・アリューシャン戦記」(潮書房、1990年):253頁
  13. ^ 有近 1948, 「丸 別冊:北海の戦いー千島・アリューシャン戦記」(潮書房、1990年):259頁。
  14. ^ a b c d 有近 1948, 「丸 別冊:北海の戦いー千島・アリューシャン戦記」(潮書房、1990年):260頁。
  15. ^ 有近 1948, 「丸 別冊:北海の戦いー千島・アリューシャン戦記」(潮書房、1990年):262頁。
  16. ^ 有近 1948, 「丸 別冊:北海の戦いー千島・アリューシャン戦記」(潮書房、1990年):269-271頁。
  17. ^ 総理庁官房監査課 編『公職追放に関する覚書該当者名簿:正規海軍将校並びに海軍特別志願予備将校:昭和22年11月28日 仮指定者』日比谷政経会、1949年https://dl.ndl.go.jp/pid/1276156/1/153 
  18. ^ a b 『ダイヤモンド会社職員録 全上場会社版』(1955年版)ダイヤモンド社、1955年、447頁。 
  19. ^ 『日本紳士録』(第53版)交詢社、1962年、83頁。 
  20. ^ 『山形県年鑑』(1968年版)山形新聞社、1968年、592頁。 
  21. ^ 『各庁職員抄録(昭和21年)』印刷局図書課、1946年、7頁。 
  22. ^ 『全官公庁便覧』(昭和24年度版)日本週報社、1949年、73頁。 
  23. ^ 『時事年鑑』(昭和26年版)時事通信社、1950年、445頁。 
  24. ^ 『政府総覧』帝国地方行政学会、1950年、495頁。 

参考文献

  • 阿川弘之『私記キスカ撤退』文藝春秋〈文春文庫〉、1988年。 
  • 有近六次『奇蹟作戦 キスカ撤退』1948年。 
  • 秦郁彦 編著『日本陸海軍総合事典』(第2版)東京大学出版会、2005年。ISBN 4-13-030135-7 

関連項目