アドクス・センゴクエンシス
アドクス・センゴクエンシス Adocus sengokuensis | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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地質時代 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||
前期白亜紀 - 1億2000万年から1億1000万年前[2] | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||
分類 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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学名 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||
Adocus sengokuensis Enoda et al., 2015[3][4] |
アドクス・センゴクエンシス[1][5](学名 Adocus sengokuensis、「千石峡のアドクス」)は、 西南日本の下部白亜系より産出したアドクス科アドクス属の一種[6]。
発見と語源
約20年前に福岡県宮若市千石峡の千石層(約1億2千万年前の地層)から産出された前期白亜紀のカメが、福井県立恐竜博物館による研究結果によりカメの甲羅の化石が[7]、これまで未発見の新種のものだったと発表し、アドクス属として発見当時[8][9]世界最古(約1億2000万年から1億1000万年前)の新種であることが判明した[10]。
アドクス・センゴクエンシス(Adocus sengokuensis)と名付け、種小名であるセンゴクエンシスは化石産地の地名千石峡意味し、属名と種小名を合わせ、「千石峡のアドクス」を意味し、日本古生物学会欧文誌「Paleontological Research」に論文が掲載された[3][6][1][11]。
概要
アドクス・センゴクエンシスの化石は、背中側(頚板、左第2肋板、左第1縁板、右第1縁板、左第4縁板)および腹部側(左上腹甲、右下腹甲)の計7点の甲羅パーツからなる一個体分の部分化石から知られる[7][1][10]。背中側の頚板および第4縁板に、アドクス属のどの種にもない特徴をもつことから、新種と判明した。アドクスは最大で甲羅の長さだけで70センチメートル、全長は1メートルを超えているが[3]、アドクス・センゴクエンシスの推定される甲羅の全長は約29センチメートルであり、アドクス属の中では最小の種となる。化石の見つかった福岡県宮若市宮田の関門層群千石層は、前期白亜紀の後半(約1億2000万~1億1000万年前[2])の地層と考えられている。アドクス・センゴクエンシスの化石は、佐藤政弘により、1994年に発見されたもであり[7]、北九州市立自然史・歴史博物館に調査で発掘された後、詳しく調べられないままに収蔵されていたが[1]、2009年に別の調査で自然史・歴史博物館を訪れた薗田主事が「今まで見たことがない模様をしている」と北九州市側に共同研究を持ち掛けた[10]。そのため数年前より恐竜博物館研究員の薗田哲平らが共同研究で研究を進めてきた[6]。
アドクス属は、中生代前期白亜紀から新生代始新世後期(約1億2500万~約3400万年前)にかけて、アジアと北アメリカに生息していた原始的な絶滅したスッポン上科。現在のスッポンのように甲羅表面が皮膚状に柔らかく、全体に扁平な形ではなく、イシガメやクサガメのような一般的なカメ類と同様に甲羅は角質の鱗で覆われていた。化石は中央アジア(タジキスタン・ウズベキスタン・キルギス)、モンゴル、カナダ、アメリカからも産出しており、日本では福岡県の他に鹿児島県、熊本県、徳島県[12]、福井県、石川県、岐阜県、岩手県[2]、北海道の広範囲で見つかっている。これらのほとんどは後期白亜紀のものであり、前期白亜紀の古い記録は、世界中でも福岡県、徳島県[12][8][9]、石川県および福井県のみ[6]。
これまで発見されているアドクス属とそれに近縁なカメ類との比較から、アドクス・センゴクエンシスに見られる頚鱗の形態や小さな甲羅大きさは、カメ類における原始的な特徴を示していると考えらる[6]。アドクス・センゴクエンシスの発見により、アドクス属の歴史が1千万年ほど古くなったという意義が当時大かったが、後の徳島県によるアドクス属の発見により、さらに1千万年ほど歴史が古くなった[8](約1億3千万年前)[9]。つまり日本(当時はアジア大陸と地続き)を含めた東アジアに彼らの生息範囲があったということである。実は、アドクス以外のカメでもスッポン上科が、同じように日本や中国などで世界最古の化石が見つかってきている。アジアは、カメを始めとする様々な動物が生まれて進化し、そこから世界に拡がっていく重要な地域であった。今回のアドクスは、後のより進化した種類に比べるとサイズが小さいという特徴がある。動物は進化するほど体が大きくなる傾向があるが、カメの仲間も例外ではなかった。甲羅を覆っていた鱗の一部に他の種類と識別できる特徴が認められた[3]。薗田哲平はこれにより今後、「アドクス属では世界最古の発見例。カメの進化の過程を探るうえで重要な資料となる[10]」と述べた[6][1][11]。
脚注
- ^ a b c d e f “福岡で見つかったカメ化石は新種だった”. Science Portal. 2023年12月1日閲覧。
- ^ a b c d “【新種のカメの化石発見!】約9000万年前の地層から 岩手 久慈”. NHK|日本放送協会. 2023年12月1日閲覧。
- ^ a b c d “スッポンの仲間 世界最古のアドクス(カメ類)の化石と発表”. 早稲田大学. 2023年11月30日閲覧。
- ^ “西南日本白亜紀前期に産出するアドクス属(Adocidae, Testudines)の新種”. 地質文献検索(GEOLIS)(地質調査総合センター/産総研). 2023年12月1日閲覧。
- ^ “遠賀川~母なる河との共生~”. 筑豊百景. 2023年11月28日閲覧。
- ^ a b c d e f “福岡県からの白亜紀前期の新種のカメ化石について”. 福井県立恐竜博物館. 2023年11月27日閲覧。
- ^ a b c “20年前の化石、実は新種のカメ 福岡・宮若市で発掘”. 琉球新報. 2023年12月1日閲覧。
- ^ a b c “勝浦町でカメ類化石発見 「アドクス属」では最古時代のものか”. NHK|日本放送協会. 2023年12月1日閲覧。
- ^ a b c “世界最古のスッポン類の化石発見 勝浦の1億3千万年前の地層から”. NHK|朝日新聞デジタル. 2023年12月1日閲覧。
- ^ a b c d “カメの化石、実は新種 20年前に福岡で発見”. 日本経済新聞. 2023年12月1日閲覧。
- ^ a b “福岡で見つかったカメ化石は新種だった”. TECH+. 2023年12月1日閲覧。
- ^ a b “スッポンの仲間「アドクス属」 最古の化石、徳島で発掘”. 日本経済新聞. 2023年12月1日閲覧。