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「アミガサタケ」の版間の差分

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形態・生態・分布・類似種・食毒性(飲酒の影響や、農薬の影響を含む)・栽培法・名称に分けて再構成:追って、具体的な調理方法についても加筆する予定.
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| 和名 = アミガサタケ
| 和名 = アミガサタケ
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'''アミガサタケ'''(''Morchella esculenta'' (L.: Fr.) Pers. var. ''esculenta'')は[[アミガサタケ科]][[アミガサタケ属]]に属する[[キノコ]]。類似名のキノコで[[シャグマアミガサタケ]]があり、同じ子嚢菌であるが、科が異なる。[[マルミアミガサタケ]](Var. ''rotunda'' Pers.:Fr.)、[[チャアミガサタケ]](Var. ''umbrina''(Boud.)Imai)ある。
'''アミガサタケ'''(''Morchella esculenta'' (L.) Pers. var. ''esculenta'')は[[アミガサタケ科]][[アミガサタケ属]]に属する[[子嚢菌門|子嚢菌類]][[キノコ]]のある。


==形態==
[[子実体]]の高さ5-12cm、頭部は卵形~卵状円錐形、柄に直生する。脈は縦、横ともによく発達していて、これに囲まれた網目は類多角形か不正形、子実層は灰褐色。柄は円筒形、表面に凸凹がある。白~帯黄色。断面は頭部から柄まですべて空洞となっている。一見そうは見えにくいものの[[チャワンタケ]]の仲間であり、頭部の網目状の部分の一つ一つのくぼみが、通常のチャワンタケ類の子実体に相当する。つまり、このくぼみの内側に[[子実層]]が発達し、[[子嚢]]が林立している。
[[子実体]]は類球形ないし卵形の頭部と太くて明瞭な柄とで構成され、全体の高さは5-12 cm(あるいはそれ以上)に達する。頭部は淡黄白色ないし黄褐色または帯赤褐色を呈し、肋脈に囲まれた多数の蜂の巣状の窪みの集合体となる。柄は歪んだ円筒状をなし、白色ないし淡黄褐色で表面はざらつく。頭部・柄を通じて中実で、肉は薄くてもろく、ほぼ白色で傷つけても変色することはなく、ほとんど無味無臭である。


頭部の窪みの内面に多数の[[子嚢]]が林立した'''子実層'''を形成し、子嚢の内部に[[胞子]]を生じる。子嚢は細長い円筒状で無色・薄壁、[[ヨウ素]]溶液で青く染まることはなく、先端に薄い円盤状の蓋を有し、成熟すれば蓋が外れて胞子を射出する。胞子は卵状楕円形あるいは広楕円形で油滴を欠く。子実層には、子嚢とともに多数の側糸([[重相]]の不稔菌糸)が混在する。
このキノコは[[春]]先に人家の[[庭]]や[[芝生]]などによく生えることもある。日本ではほとんど見向きもされないが[[フランス]]では一流の食用キノコであり、乾燥品も売られている。


==生態==
食用で、肉質はもろいが、ゆでると[[弾力]]が出てしこしことした歯触りがある。[[バター]]を使ってじっくり煮込む料理に合う。日本産のものはフランス産のものと比べると香りが弱いと云われている。[[菌糸体]]の生態や栄養源については未解明の部分が大きく、まだ栽培には成功していない。
おもに春、林内や庭園内の地上、あるいは路傍などに孤生ないし群生する。山火事跡や焚き火跡などを好むという報告もある<ref>Wurtz, T. L., Wilta, A. L., Weber, N. S., and D. Pilz, 2005. Hervesting morels after wildfire in Araska. Research Note RN-PNW-546. Portland, OR: U.S. Forest Service Pacific Northwest Research Station.</ref>。

周囲の条件によって、随意に腐生菌としてふるまうことも菌根を形成することもあり、菌根についても外生菌根を作る場合と内生菌根となる場合とがある。外生菌根を形成する相手となる樹種としては、[[マツ科]]の[[オウシュウトウヒ]]<ref>Buscot, F., and I. Kottke, 1990. Histocytological study of the association between Morchella esculenta and the root system of Picea abies. New Phytologist 116:425-430.</ref>・ニシカラマツ([[:en:''Larix occidentalis''|''Larix occidentalis'']])・[[コントルタマツ]] ([[:en:Lodgepole Pine|''Pinus contorta'']] Douglas ex Loudon)・[[ポンデローサマツ]]([[:en:''Pinus ponderosa''|''Pinus ponderosa'' ]] Douglas ex C.Lawson)・[[トガサワラ属]]の一種([[:en:''Pseudotsuga menziesii''|''Pseudotsuga menziesii'' (Mirb.) Franco var. ''menziessi'']])<ref name=Pinaceae>Dahlstrom, J. L., Smith, J. E., and N. S. Weber, 2000. Mycorrhiza-like interaction by Morchella with species of the Pinaceae in pure culture synthesis. Mycorrhiza 9: 279-285.</ref>などが挙げられている。一方、[[イチゴノキ属]]の一種(([[:en:''Arbutus menziesii''|Arbutus menziesii'']] Pursh)との間では、菌根状の構造は形成するが、厳密な意味での外生菌根ではないという<ref name=Pinaceae/>。

[[菌糸]]の集合体である'''菌核(きんかく:Sclerotium)'''を形成する性質があり、子実体を作るにさきだって菌核形成が必要になるともいわれる<ref name=Sclerotia>Miller, S.L., Torres, P., and T. M. McClean, 1994. Persistence of basidiospores and sclerotia of ectomycorrhizal fungi and ''Morchella'' in soil. Mycologia 86: 89-95.</ref>。この菌核は黒い粒状をなし、自然環境下では路傍などの浅い地中に埋没している<ref name=Sclerotia/>。なお、アミガサタケの菌核は、表皮層と髄層との分化がほとんどなく、さらに内部に植物の組織片や土塊・砂粒などの異物を包含する性質があることから、厳密には'''偽菌核(ぎきんかく:Pseudosclerotium)'''であるとみなされている
<ref> Volk, T., and T. J. Leonard, 1990. Cytology of the life-cycle of ''Morchella''. Mycological Research 94: 399-406.</ref>。菌核の形成促進には、基質中における空隙の存在が重要であるといわれている<ref name=JapaneseMorchella>坂本裕一・小倉健夫、2003.日本産アミガサタケの菌核形成.日本応用きのこ学会誌11: 85-91.</ref>。

異なる胞子由来の菌糸の[[接合]]により形成された[[重相]]菌糸は、遺伝的に異質な複数の[[核]]を同時に含んだ[[異核共存体|異核共存状態]]で生長する<ref>Volk, T. J., and T. J. Leonard, 1989. Experimental studies on the morel Ⅰ. Heterokaryon formation between monoascosporous strains of ''Morchella'. Mycologia 81: 523-531.</ref>。まれに、胞子発芽で形成された[[単相]]菌糸(唯一個の核を含むのみ)と、単相菌糸同士の接合を経た重相菌糸との間で菌糸融合が起こり、核の交換が行われる[[ダイ・モン交配]]が認められることがある<ref name=HerveySingle> Hervey, A., Bistis, G., and I. Leong, 1978. Cultural studies of single ascospore isolates of ''Morchella esuclenta”. Mycologia 70: 1269-1274.</ref>。

==分布==
北半球の温帯以北に広くみられ、日本にも全土に産する<ref name=IandHandT>今関六也・本郷次雄・椿啓介、1970.標準原色図鑑全集14 菌類(きのこ・かび).保育社. ISBN 978-4-58632-014-1.</ref>。

==類似種==
頭部が丸く、そのくぼみが丸みを帯びるとともに粗雑なものをチャアミガサタケ(''Morchella esculenta'' var. ''umbrina''(Boud.)Imai)、肋脈の稜が幼時は白っぽい(次第に暗褐色を帯びてくる)ものをマルアミガサタケ(''Morchella esculenta'' var. ''rotunda'' Pers.: Fr.)の名で呼び、おのおの変種レベルで区別される<ref name=Imai> Imai, S. 1954. Elvellaceae Japoniae. Science Reports of the Yokohama National University, Sec II. No. 3: 1-35 + 2 plates.</ref>が、これらを同一種の変異とする意見もある。

頭部が長卵形をなすとともにその肋脈が厚く、全体に黄白色ないしクリーム色を帯びるものにアシボソアミガサタケ(''Morchella deliciosa'' Fr.)がある<ref name=Kawamura>川村清一、1908.本邦産あみがさたけ属ニ就テ.植物学雑誌22: 206-213.</ref>が、これをアミガサタケの一変種としたり、あるいは同一種として扱う研究者もある<ref name=Ower> Ower, R., 1982. Notes on the development of the morel ascocarp: ''Morchella esculenta''. Mycologia 74: 1442-143.</ref>。

日本からは、このほかにアシブトアミガサタケ(''Morchella crassipes'' (Vent.) Pers.)・トガリアミガサタケ(''Morchella conica'' Krombh.)・オオアミガサタケ(''Morchella smithiana'' Cooke)<ref name=Kawamura/>・コトガリアミガサタケ(''Morchella angusticeps'' Peck var. ''angusticeps'')・オオトガリアミガサタケ(''Morchella elata'' Fr.)・ヒロメノトガリアミガサタケ(''Morchella costata'' (Vent.) Pers.)・フカアミガサタケ(''Morchella patula'' Pers. var. ''patula'')・トガリフカアミガサタケ(''Morchella patula'' var. ''semilibera'' (DC) S. Imai = ''Mitrophora semilibera'' (DC) Lév.)・オオフカアミガサタケ(''Morchella patula'' var. ''gigas'' (Pers.) S. Imai =''Mitrophora gigas'' Lév.)<ref name=Imai/>などが知られている。

種レベルでの分類は、子実体の大きさと色調・頭部と柄部との接続の状態・頭部のくぼみの形態などに基づいているが、これらの形質は必ずしも安定したものとはいえず、同定は容易とはいえない。産地を異にするいくつかの標本をもとにした解析では、アミガサタケとアシブトアミガサタケとは[[分子系統]]学的差異がほとんどなく、同一分類群に属すると判定されたという<ref>Masaphy, S., Zabari, L., Gokdberg, D., and G. Jander-Shagug, 2010. The complexity of ''Morchella'' systematics: A case of the yellow Morel from Israel. Fungi 3: 14-18.</ref>。

==特殊な成分==
[[子実体]]には、非[[タンパク質|タンパク]]性[[アミノ酸]]の一種である'''シス-3-アミノ-L-プロリン'''が遊離状態で含まれている<ref name=Hatanaka>Hatanaka, S., 1969. A new amino acid isolated from ''Morchella esculenta'' and related species. Phytochemistry 8: 1305-1308.</ref>。この成分は、本種と同属に置かれるトガリアミガサタケやアシブトアミガサタケの子実体からも検出され、これらのきのこの呈味成分の一つであると推定されている<ref name=Hatanaka/>が、アミガサタケ属のきのこ以外からは見出された例がない<ref name=AminoAcid>Moriguchi, M., Sada, S., and S. Hatanaka, 1979. Isolation of cis-3-Amino-L-Proline from cultured mycelia of ''Morchella esculenta'' Fr. Applied and Environmental Microbiology 38: 1018-1019.</ref>。なお、このアミノ酸は、アミガサタケの培養菌糸からも検出されている<ref name=AminoAcid/>。

==食・毒性==
優秀な[[食用キノコ]]の一つであるが、子実体には微量の[[ヒドラジン]]を含むため、生食することは避けるべきであるとされる<ref>Stamets, P., 2005. Mycelium Running (how mushrooms can help save the world). Ten Speed Press, Berkeley, California. ISBN 978-1580085793.</ref>。また、調理されたものであっても、アルコールとともに食べると酔いを深め、悪心や嘔吐の原因になるともいわれている<ref>Groves, J.W. Poisoning by morels when taken with alcohol. Mycologia 56: 779-780.</ref>。

廃棄されたリンゴ園の跡に発生した場合、[[農薬]]の成分として土壌に撒布された[[ヒ酸水素鉛(II)|ヒ酸鉛]]に含まれる[[ヒ素]]や[[鉛]]が子実体に蓄積され、これを食用とした場合に健康に好ましくない影響を与える可能性も指摘されている<ref name=shav10>{{cite journal| title=Lead and Arsenic in ''Morchella esculenta'' Fruitbodies Collected in Lead Arsenate Contaminated Apple Orchards in the Northeastern United States: A Preliminary Study| first=Elinoar| last=Shavit| first2=Efrat| last2=Shavit| journal=Fungi| volume=3| month=Spring| year=2010| pages=11–18| url=http://www.fungimag.com/winter-2010-articles/shavit-morels.pdf| issue=2}}</ref>

==栽培==
特に欧米では食用菌として珍重されるため、人工栽培の方法についてはさまざまな模索がなされてきたが、商業的に安定した栽培法はいまだ確立されていない<ref name=JapaneseMorchella/>。

胞子を発芽させて純粋培養菌株を得るのは比較的に容易で、ジャガイモ=ブドウ糖寒天[[培地]]や[[麦芽]]エキス寒天[[培地]]などを用いて生育させることができ、これらの培地上では20℃の温度条件下で24時間以内にほぼ100パーセントの胞子が発芽する<ref name=HerveySingle/><ref>Kalm, E., and F. Kalyoncu, 2008. Mycerial grouth rate of some Morels (''Morchella'' spp.) in four different microbiological media. American-Eurasian Journal of Agriculture and Environmental Science 3: 861-864.</ref>。ちなみに、[[セロハン]]膜に付着させた胞子を地中に埋没する実験によれば、発芽管伸長は2℃程度でも起こり得るがその頻度は小さく、地温が10℃程度に上昇することで、より高率になるいっぽう、地表に落ちた胞子は一年程度でおおむね発芽力を失うとされる<ref>Schmidt, E. L., 1983. Spore germination of and carbohydrate colonization by ''Morchella esculenta'' at different soil temperatures. Mycologia 75: 870-875.</ref>。なお、炭素源としては[[マルトース]]が最適であるという<ref>Amir, R., Levanon, D., Hadar, Y., and I. Chet, 1994. The role of source-sink relationships in translocation during sclerotial formation by ''Morchella esculenta''. Mycological Research 98: 1409-1414.</ref>。

栽培の試みの一例として、[[コムギ|小麦]]粒を培地として使用し、重量比で50パーセントの水分を加えて120℃で一時間の滅菌を行った後に純粋培養した種菌を接種し、これを15-18℃の室温と85パーセントの関係湿度のもとで管理することにより、菌核を作らせる。この菌核を小麦粒培地から取り出し、5℃前後で低温処理した後で20℃の常温下に管理することで、子実体を形成させることができる<ref name=Ower/>という報告がある。この技術は特許化もなされている<ref>Ower, R. D., September, 19th of 1989. Cultivation of ''Morchella''. Patent Number 4866878.</ref>が、まだ市場化されていない<ref name=JapaneseMorchella/>。

==和名・学名・方言名・英名==
岩崎常正が文政11年(1829年)に著した植物図鑑である'''本草図譜'''(第七巻)に、本種とおぼしきものが図説され、和名「あみがさたけ」、漢名「仙人帽」と記されている<ref name=Kawamura/>。ただし、仙人帽の漢名は、天保6(1835)年に坂本浩然が著した「菌譜」においては[[キヌガサタケ]]に当てられている。この和名は「編笠蕈」の意<ref name=Makino>牧野富太郎、2008. 植物一日一題(ちくま学芸文庫).筑摩書房、東京. ISBN 978-4-48009-139-0.</ref>で、多数のくぼみを備えるとともに褐色系の色調をあらわす頭部を深編み笠にみたてたものと考えられる。

属名の''Morchella'' は、ドイツ名の Morchel をラテン語化したものである。また、種小名の''esculenta'' もラテン語で「食用になる」の意である<ref name=Makino/><ref name=IandHandT/>。

日本では食用としてはあまりかえりみられることがなく、方言名は少ない。秋田県下で「うど」・「がらんど」・「しわがら」、また青森県や長野県などで「みそっこ」などと呼んでいるに過ぎない<ref>奥沢康正・奥沢正紀、1999. きのこの語源・方言事典.山と渓谷社、東京.ISBN 978-4-63588-031-2.</ref>。

古く明治時代の初頭には、東京都の四谷付近で「カナメゾツネ」という名が当てられていたが、その語源については明らかになっていない<ref name=Makino/>。

英語圏では'''モレル(Morel)'''の呼称で親しまれるが、また Dryland-Fish あるいは[[:en:Hickory|hickory]]-Chickenと称されることもある。


条件によっては、非加熱で生食すると[[中毒]]する場合があることが知られるが、通常の調理では[[炒める|炒めたり]][[煮る|煮たり]]するため毒性が問題になることは少ない。なお、形態が類似した[[シャグマアミガサタケ]]の毒性ははるかに強く、揮発性の毒成分を[[煮沸]]して除去するときの蒸気を吸って中毒となることすらある。


== 近縁 ==
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File:Morchella sp.jpg|ヒロメノトガリアミガサタケ(''Morchella'' sp.)<br/>栃木県レッドデータ カテゴリ「要注
File:Morchella sp.jpg|ヒロメノトガリアミガサタケ(''Morchella'' sp.)<br/>栃木県レッドデータ カテゴリ「要注
File:Morchella elata.jpg|オオトガリアミガサタケ(''Morchella elata'')
File:Morchella elata.jpg|オオトガリアミガサタケ(''Morchella elata'')
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==脚注==
<references/>


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2012年3月28日 (水) 18:25時点における版

アミガサタケ

Morchella esculenta (L.: Fr.) Pers.
var. esculenta

アミガサタケ Morchella esculenta
ポーランドビャウォヴィエジャの森のアミガサタケ
分類
: 菌界 Fungus
: 子嚢菌門 Ascomycota
亜門 : チャワンタケ亜門 Pezizomycotina
: チャワンタケ綱 Pezizomycetes
亜綱 : チャワンタケ亜綱 Pezizomycetidae
: チャワンタケ目 Pezizales
: アミガサタケ科 Morchellaceae
: アミガサタケ属 Morchella Dill.:Fr.
: アミガサタケ M. esculenta(L.:Fr.)Pers.
学名
Morchella esculenta(L.)Pers.

var. esculenta

和名
アミガサタケ

アミガサタケMorchella esculenta (L.) Pers. var. esculenta)は、アミガサタケ科アミガサタケ属に属する子嚢菌類キノコの一種である。

形態

子実体は類球形ないし卵形の頭部と太くて明瞭な柄とで構成され、全体の高さは5-12 cm(あるいはそれ以上)に達する。頭部は淡黄白色ないし黄褐色または帯赤褐色を呈し、肋脈に囲まれた多数の蜂の巣状の窪みの集合体となる。柄は歪んだ円筒状をなし、白色ないし淡黄褐色で表面はざらつく。頭部・柄を通じて中実で、肉は薄くてもろく、ほぼ白色で傷つけても変色することはなく、ほとんど無味無臭である。

頭部の窪みの内面に多数の子嚢が林立した子実層を形成し、子嚢の内部に胞子を生じる。子嚢は細長い円筒状で無色・薄壁、ヨウ素溶液で青く染まることはなく、先端に薄い円盤状の蓋を有し、成熟すれば蓋が外れて胞子を射出する。胞子は卵状楕円形あるいは広楕円形で油滴を欠く。子実層には、子嚢とともに多数の側糸(重相の不稔菌糸)が混在する。

生態

おもに春、林内や庭園内の地上、あるいは路傍などに孤生ないし群生する。山火事跡や焚き火跡などを好むという報告もある[1]

周囲の条件によって、随意に腐生菌としてふるまうことも菌根を形成することもあり、菌根についても外生菌根を作る場合と内生菌根となる場合とがある。外生菌根を形成する相手となる樹種としては、マツ科オウシュウトウヒ[2]・ニシカラマツ(Larix occidentalis)・コントルタマツPinus contorta Douglas ex Loudon)・ポンデローサマツPinus ponderosa Douglas ex C.Lawson)・トガサワラ属の一種(Pseudotsuga menziesii (Mirb.) Franco var. menziessi[3]などが挙げられている。一方、イチゴノキ属の一種((Arbutus menziesii Pursh)との間では、菌根状の構造は形成するが、厳密な意味での外生菌根ではないという[3]

菌糸の集合体である菌核(きんかく:Sclerotium)を形成する性質があり、子実体を作るにさきだって菌核形成が必要になるともいわれる[4]。この菌核は黒い粒状をなし、自然環境下では路傍などの浅い地中に埋没している[4]。なお、アミガサタケの菌核は、表皮層と髄層との分化がほとんどなく、さらに内部に植物の組織片や土塊・砂粒などの異物を包含する性質があることから、厳密には偽菌核(ぎきんかく:Pseudosclerotium)であるとみなされている [5]。菌核の形成促進には、基質中における空隙の存在が重要であるといわれている[6]

異なる胞子由来の菌糸の接合により形成された重相菌糸は、遺伝的に異質な複数のを同時に含んだ異核共存状態で生長する[7]。まれに、胞子発芽で形成された単相菌糸(唯一個の核を含むのみ)と、単相菌糸同士の接合を経た重相菌糸との間で菌糸融合が起こり、核の交換が行われるダイ・モン交配が認められることがある[8]

分布

北半球の温帯以北に広くみられ、日本にも全土に産する[9]

類似種

頭部が丸く、そのくぼみが丸みを帯びるとともに粗雑なものをチャアミガサタケ(Morchella esculenta var. umbrina(Boud.)Imai)、肋脈の稜が幼時は白っぽい(次第に暗褐色を帯びてくる)ものをマルアミガサタケ(Morchella esculenta var. rotunda Pers.: Fr.)の名で呼び、おのおの変種レベルで区別される[10]が、これらを同一種の変異とする意見もある。

頭部が長卵形をなすとともにその肋脈が厚く、全体に黄白色ないしクリーム色を帯びるものにアシボソアミガサタケ(Morchella deliciosa Fr.)がある[11]が、これをアミガサタケの一変種としたり、あるいは同一種として扱う研究者もある[12]

日本からは、このほかにアシブトアミガサタケ(Morchella crassipes (Vent.) Pers.)・トガリアミガサタケ(Morchella conica Krombh.)・オオアミガサタケ(Morchella smithiana Cooke)[11]・コトガリアミガサタケ(Morchella angusticeps Peck var. angusticeps)・オオトガリアミガサタケ(Morchella elata Fr.)・ヒロメノトガリアミガサタケ(Morchella costata (Vent.) Pers.)・フカアミガサタケ(Morchella patula Pers. var. patula)・トガリフカアミガサタケ(Morchella patula var. semilibera (DC) S. Imai = Mitrophora semilibera (DC) Lév.)・オオフカアミガサタケ(Morchella patula var. gigas (Pers.) S. Imai =Mitrophora gigas Lév.)[10]などが知られている。

種レベルでの分類は、子実体の大きさと色調・頭部と柄部との接続の状態・頭部のくぼみの形態などに基づいているが、これらの形質は必ずしも安定したものとはいえず、同定は容易とはいえない。産地を異にするいくつかの標本をもとにした解析では、アミガサタケとアシブトアミガサタケとは分子系統学的差異がほとんどなく、同一分類群に属すると判定されたという[13]

特殊な成分

子実体には、非タンパクアミノ酸の一種であるシス-3-アミノ-L-プロリンが遊離状態で含まれている[14]。この成分は、本種と同属に置かれるトガリアミガサタケやアシブトアミガサタケの子実体からも検出され、これらのきのこの呈味成分の一つであると推定されている[14]が、アミガサタケ属のきのこ以外からは見出された例がない[15]。なお、このアミノ酸は、アミガサタケの培養菌糸からも検出されている[15]

食・毒性

優秀な食用キノコの一つであるが、子実体には微量のヒドラジンを含むため、生食することは避けるべきであるとされる[16]。また、調理されたものであっても、アルコールとともに食べると酔いを深め、悪心や嘔吐の原因になるともいわれている[17]

廃棄されたリンゴ園の跡に発生した場合、農薬の成分として土壌に撒布されたヒ酸鉛に含まれるヒ素が子実体に蓄積され、これを食用とした場合に健康に好ましくない影響を与える可能性も指摘されている[18]

栽培

特に欧米では食用菌として珍重されるため、人工栽培の方法についてはさまざまな模索がなされてきたが、商業的に安定した栽培法はいまだ確立されていない[6]

胞子を発芽させて純粋培養菌株を得るのは比較的に容易で、ジャガイモ=ブドウ糖寒天培地麦芽エキス寒天培地などを用いて生育させることができ、これらの培地上では20℃の温度条件下で24時間以内にほぼ100パーセントの胞子が発芽する[8][19]。ちなみに、セロハン膜に付着させた胞子を地中に埋没する実験によれば、発芽管伸長は2℃程度でも起こり得るがその頻度は小さく、地温が10℃程度に上昇することで、より高率になるいっぽう、地表に落ちた胞子は一年程度でおおむね発芽力を失うとされる[20]。なお、炭素源としてはマルトースが最適であるという[21]

栽培の試みの一例として、小麦粒を培地として使用し、重量比で50パーセントの水分を加えて120℃で一時間の滅菌を行った後に純粋培養した種菌を接種し、これを15-18℃の室温と85パーセントの関係湿度のもとで管理することにより、菌核を作らせる。この菌核を小麦粒培地から取り出し、5℃前後で低温処理した後で20℃の常温下に管理することで、子実体を形成させることができる[12]という報告がある。この技術は特許化もなされている[22]が、まだ市場化されていない[6]

和名・学名・方言名・英名

岩崎常正が文政11年(1829年)に著した植物図鑑である本草図譜(第七巻)に、本種とおぼしきものが図説され、和名「あみがさたけ」、漢名「仙人帽」と記されている[11]。ただし、仙人帽の漢名は、天保6(1835)年に坂本浩然が著した「菌譜」においてはキヌガサタケに当てられている。この和名は「編笠蕈」の意[23]で、多数のくぼみを備えるとともに褐色系の色調をあらわす頭部を深編み笠にみたてたものと考えられる。

属名のMorchella は、ドイツ名の Morchel をラテン語化したものである。また、種小名のesculenta もラテン語で「食用になる」の意である[23][9]

日本では食用としてはあまりかえりみられることがなく、方言名は少ない。秋田県下で「うど」・「がらんど」・「しわがら」、また青森県や長野県などで「みそっこ」などと呼んでいるに過ぎない[24]

古く明治時代の初頭には、東京都の四谷付近で「カナメゾツネ」という名が当てられていたが、その語源については明らかになっていない[23]

英語圏ではモレル(Morel)の呼称で親しまれるが、また Dryland-Fish あるいはhickory-Chickenと称されることもある。


脚注

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