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{{otheruses|カグラザメ目ラブカ科に属するサメで古代ザメ似のサメ|[[タイトー]]が発売した[[通信カラオケ]]の機種|Lavca}}
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|名称 = ラブカ
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|status_ref = <ref name="iucn">Smart, J.J., Paul, L.J. & Fowler, S.L. 2016. ''Chlamydoselachus anguineus''. The IUCN Red List of Threatened Species 2016: e.T41794A68617785. https://doi.org/10.2305/IUCN.UK.2016-1.RLTS.T41794A68617785.en. Downloaded on 15 June 2021.</ref>
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|種 = '''ラブカ''' ''C. anguineus''
|学名 = ''Chlamydoselachus anguineus''<br />[[サミュエル・ガーマン|Garman]], [[1884年|1884]]<ref name="iucn" /><ref name="froese_pauly">Froese, R. and D. Pauly. Editors. 2017. [http://www.fishbase.org/summary/Chlamydoselachus-anguineus.html ''Chlamydoselachus anguineus'']. FishBase. World Wide Web electronic publication. http://www.fishbase.org, version (10/2017).</ref><ref name="motomura">本村浩之 『日本産魚類全種目録 これまでに記録された日本産魚類全種の現在の標準和名と学名』、鹿児島大学総合研究博物館、2020年、11頁。</ref>
|学名 = ''Chlamydoselachus anguineus''<br />Garman, [[1884年|1884]]
|和名 = ラブカ<ref name="motomura" />
|英名 = [[:en:Frilled shark|Frilled shark]]
|英名 = Frill shark<ref name="froese_pauly" /><br />Fril-gilled shark<ref name="froese_pauly" /><br />[[:en:Frilled shark|Frilled shark]]<ref name="iucn" /><ref name="froese_pauly" /><ref name="tanaka_et_al">Tanaka Sho ''et al'', "The reproductive biology of the frilled shark, ''Chlamydoselachus anguineus'', from Suruga Bay<!-- 駿河湾産ラブカの生殖 -->," ''Japanese Journal of Ichthyology''<!-- 魚類学雑誌 -->, Volume 37, Number 3, [[日本魚類学会|Ichthyology Society of Japan]], 1990, Pages 273–291.</ref><br />Greenland shark<ref name="froese_pauly" /><br />Lizard shark<ref name="iucn" /><br />Scaffold shark<ref name="iucn" /><ref name="froese_pauly" /><br />Silk shark<ref name="froese_pauly" />
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|生息図キャプション = ラブカの生息域
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'''ラブカ'''(羅鱶、''Chlamydoselachus anguineus''、英: [[:en:Frilled shark|'''Frilled shark''']])は、[[カグラザメ目]]'''ラブカ科'''に属する[[サメ]]。ラブカ科の現生種は2種のみ。


'''ラブカ'''(羅鱶<ref>{{Citation|和書|year=2008|contribution=らぶか|editor=新村出|editor-link=新村出|title=[[広辞苑]]|edition=第6|publisher=[[岩波書店]]}}</ref>、[[学名]]: ''Chlamydoselachus anguineus'')は、軟骨魚綱カグラザメ目ラブカ科に分類されるサメ。
== 分布・生息地 ==

分布域は広く、ほぼ全世界の海域から知られている。[[日本]]では[[相模湾]]や[[駿河湾]]で比較的多く見られる。水深1,500mまでの深海に生息し、普通は水深500〜1,000 mの間に多い。ごく稀に海表面近くに現れることもあるが、基本的には[[大陸斜面]]に沿って海底付近で生活する。
== 分布 ==
稀種ではあるが分布域は広く、[[大西洋]]・[[太平洋]]全域から散発的に記録がある。東大西洋では[[ノルウェー]]北方・[[スコットランド]]北方・[[アイルランド]]西方・[[フランス]]から[[モロッコ]]・[[マデイラ諸島]]・[[モーリタニア]]<ref name="compagno"/>。中央大西洋では[[アゾレス諸島]]から[[ブラジル]]南方のリオグランデ海膨までの[[大西洋中央海嶺]]上・[[西アフリカ]]沖のバビロフ海嶺。西大西洋では[[ニューイングランド]]・[[ジョージア州]]・[[スリナム]]<ref name="jenner"/><ref name="kukuev and pavlov"/><ref name="ebert and compagno"/>。西太平洋では[[本州]]南東・[[台湾]]・[[ニューサウスウェールズ]]・[[タスマニア]]・[[ニュージーランド]]。中央・東太平洋では[[ハワイ]]・[[カリフォルニア]]・[[チリ]]北部<ref name="iucn"/><ref name="compagno"/>で確認されている。2009年、[[南アフリカ]]沖に生息する個体は別種 ''C. africana'' とされた<ref name="ebert and compagno"/>。日本では相模湾や駿河湾で比較的多く見られる。


== 形態 ==
== 形態 ==
[[Image:Frilled shark head2.jpg|thumb|left|ラブカの頭]]
[[画像:Frilled shark head2.jpg|thumb|頭。顎は長く、先端に位置する]]
[[Image:Frilled shark throat.jpg|thumb|ラブカの喉。切り込みは鰓である]]
[[画像:Frilled shark throat.jpg|thumb|喉。切り込みは鰓であり、第一鰓裂は繋がって襟状になる]]
[[Image:Chlamydoselachus anguineus (mouth and teeth) by OpenCage.jpg|thumb|ラブカの歯。細かく並んだ針状の歯は、イカなどの柔らかい獲物を引っ掛けるのに適している]]
[[画像:Chlamydoselachus anguineus (mouth and teeth) by OpenCage.jpg|thumb|歯。細かく並んだ針状の歯は、イカなどの柔らかい獲物を引っ掛けるのに適している]]
最大全長オス165センチメートル、メス196センチメートル<ref name="tanaka_et_al" />。体型は細長い円筒型。頭部は幅広くて平たく、短く丸い[[吻]]がある。[[鼻孔]]は縦に裂け、前鼻弁で二つに区切られている。眼は比較的大きく楕円形で、[[瞬膜]]を欠く。非常に大きい口は普通のサメと異なって体前端に開く。口角に溝・褶はない。歯列は隙間を開けて並び、上顎で19–28列、下顎で21–29列である<ref name="garman"/><ref name="ebert and compagno"/>。[[歯]]は合計で300本ほどで、個々は小さく、細い三尖頭をもち先は鋭くとがる。尖頭の間には小尖頭がある<ref name="ebert"/><ref name="martin"/>。鰓裂は6対で<ref name="froese_pauly" />、[[鰓弁]]の後部が伸びてひだ状になる。第一鰓裂は喉で繋がって襟状になっている<ref name="garman"/>。和名は皮膚の表面が滑らかで、[[ラシャ|羅紗]]を連想させることが由来とする説もある<ref name="sato">佐藤哲哉 「ラブカ考」『遠洋』第51号、水産庁遠洋水産研究所、1984年、5 - 6頁。</ref>。
全長 200 cm<ref>[http://fishbase.org/Summary/SpeciesSummary.php?id=635 FishBase_''Chlamydoselachus anguineus'']</ref>。体型は細長い円筒型。体色は黒褐色か灰色である。背鰭は1基のみで、体後方に存在する。尾鰭は上葉が長く伸び、下葉は発達しない。鰓裂は6対あり、鰓隔膜は大きくヒダ状になる。[[口]]は体の正面に開く。内側に向いた[[歯]]は、三尖頭をもち先は鋭くとがる。外見から'''ウナギザメ'''(鰻鮫)と呼ばれることもある。


[[胸鰭]]は短くて丸い。[[背鰭]]は1基で小さく、後縁は丸い。体後方の[[臀鰭]]上部に位置する。[[腹鰭]]・臀鰭は大きく、幅広くて丸く、体後方に位置する。[[尾鰭]]は非常に長く、下葉・欠刻がない。腹面には1対の厚い皮褶が走るが、その機能は不明である<ref name="garman"/>。腹部は雄より雌の方が長く、腹鰭がより後方にある<ref name="martin"/><ref name="last and stevens"/>。[[皮歯]]は小さく、[[鏨]]型である。尾鰭背面の皮歯は大きくて鋭い<ref name="garman"/>。体色は暗褐色や灰色<ref name="froese_pauly" /><ref name="ebert"/>。最大全長は雄で1.7メートル、雌で2.0メートルである<ref name="ebert"/>。
絶滅した[[クラドセラケ]]と形態的に類似し、原始的なサメの特徴をよく残している事から'''[[生きている化石]]'''と呼ばれる。一方、最近の研究では、頭の骨格構造に[[ツノザメ目|ツノザメ]]類に近い部分もあるとされ、この説に疑問を呈する声もある<ref>『深海生物ファイル』 北村雄一著 ネコパブリッシング ISBN 9784777051250
</ref>が、クラドセラケと同様の歯形状と、鰓穴の数が6つあるという説明と解明まではされていない。


== 生態 ==
== 分類 ==
[[画像:Chlamydoselachus anguineus by garman.png|thumb|left|1884年、種記載時のイラスト]]
数が少なく、比較的海の深い所に生息する種であるため、観察が難しく、詳しい生態はほとんど分かっていない。
[[ドイツ]]の[[魚類学者]][[ルートヴィヒ・デーデルライン]]は[[1879年]]から[[1881年]]に[[日本]]を訪れ、2個体の標本を[[ウィーン]]に持ち帰った。だが、デーデルラインの手稿によるとこの標本は失われたようである。そのため、最初の[[記載]]は1884年、アメリカの[[動物学者]][[サミュエル・ガーマン]]が ''Proceedings of the Essex Institute'' で公表した "An Extraordinary Shark" と題した記載論文とされている。[[タイプ標本]]は[[相模湾]]産の1.5メートルの雌個体である<ref name="garman"/><ref name="bright"/>。ガーマンは本種に科・属を新設し、[[古代ギリシア語]]で"chlamy"(外套)"selachus"(サメ)の意がある''Chlamydoselachus''、[[ラテン語]] "anguineus"(ウナギ型)に由来する ''Chlamydoselachus anguineus'' という学名を与えた<ref name="ebert"/>。


多尖頭の歯、眼の後方で[[頭骨]]と直接関節する顎(両接型)、[[椎骨]]が不明瞭で[[脊索]]のような[[脊柱]]に基づいて、昔の専門家は本種を絶滅した[[板鰓類]](サメ・[[エイ]]とその祖先)の生き残りだと考えていた<ref name="compagno2"/>。ガーマンは[[古生代]]の[[デボン紀]](約4億1600万年前から約3億5920万年前)に栄えた[[クラドセラケ]]と本種を同じグループ "cladodonts" に位置付けた。彼と同世代の[[テオドール・ギル]]と[[エドワード・ドリンカー・コープ]]は[[中生代]]に栄えた[[ヒボドゥス目]]との関連を指摘し、コープは本種を化石属の ''Didymodus'' に位置づけた<ref name="garman and gill"/><ref name="martin2"/>。
普段動きは緩慢で、ウナギのように体を波打たせて遊泳する。遊泳速度は速くない。自分よりも小柄な[[サメ]]や[[硬骨魚類]]、[[頭足類]]などを捕食する。歯はあまり大きくないとはいえ鋭い。他のサメに比べて、歯自体の硬度はそれほど強くはないが、顎の筋肉は発達している。


2011年の系統分析ではカグラザメ類は[[板鰓亜綱|板鰓類]]の中でも初期に分岐したグループであるとされているが<ref>{{Cite journal|last=Vélez-Zuazo|first=Ximena|last2=Agnarsson|first2=Ingi|date=2011-02|title=Shark tales: a molecular species-level phylogeny of sharks (Selachimorpha, Chondrichthyes)|url=https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21129490/|journal=Molecular Phylogenetics and Evolution|volume=58|issue=2|pages=207–217|doi=10.1016/j.ympev.2010.11.018|issn=1095-9513|pmid=21129490}}</ref>、少なくともクラドセラケが分類される[[全頭亜綱|全頭類]]<ref>{{Cite journal|last=Coates|first=Michael I.|last2=Gess|first2=Robert W.|last3=Finarelli|first3=John A.|last4=Criswell|first4=Katharine E.|last5=Tietjen|first5=Kristen|date=2017-01|title=A symmoriiform chondrichthyan braincase and the origin of chimaeroid fishes|url=https://www.nature.com/articles/nature20806|journal=Nature|volume=541|issue=7636|pages=208–211|language=en|doi=10.1038/nature20806|issn=1476-4687}}</ref><ref>{{Cite journal|last=Frey|first=Linda|last2=Coates|first2=Michael I.|last3=Tietjen|first3=Kristen|last4=Rücklin|first4=Martin|last5=Klug|first5=Christian|date=2020-11-17|title=A symmoriiform from the Late Devonian of Morocco demonstrates a derived jaw function in ancient chondrichthyans|url=https://www.nature.com/articles/s42003-020-01394-2|journal=Communications Biology|volume=3|issue=1|pages=1–10|language=en|doi=10.1038/s42003-020-01394-2|issn=2399-3642}}</ref>よりも後に分岐したものであるとされる。
[[胎生]]。[[胎盤]]は形成せず、卵は子宮内で孵化する。一度に6〜12尾の幼魚を産む。産まれてくる子どもの大きさは、全長40〜60cmである。成熟サイズは雄で全長97〜117cm、雌で全長135〜150cm。約2年という非常に長い妊娠期間をもつ<ref>深海ABYSS  著者クレール・ヌヴィアン 訳者伊部 百合子 2008年 晋遊舎 ISBN 978-4-88380-850-2 </ref>。


骨格や筋肉の特徴は明らかに現生のサメ(新サメ類、Neoselachii)のものであり、特に[[カグラザメ]]と類似する。また、[[分類学者]]の[[白井滋]]は単型のラブカ目 (Chlamydoselachiformes) を提唱している<ref name="compagno2"/><ref name="martin2"/>。それでも本種は現生サメの中で最も古い系統の一つに属し、[[白亜紀]]後期(9500万年前)、また、おそらく[[ジュラ紀]]後期(1億5000万年前)の化石が発見されている<ref name="martin3"/>。 原始的なサメの特徴をよく残していることから「[[生きている化石]]」と呼ばれる<ref name="bright"/>。
== 近縁種 ==
近縁種に[[アフリカ]]産の''C. africana'' (Ebert & Compagno, 2009) が知られている。ラブカ科は''C. anguineus''および''C. africana''の2種で構成される。


== 人との関わり ==
=== 近縁種 ===
近縁種に[[南アフリカ共和国|南アフリカ]]産の ''C. africana'' (Ebert & Compagno, 2009)([[ミナミアフリカラブカ]]) が知られている。この種は脊椎骨数が160–171でラブカの147より多く、[[腸]]の[[螺旋弁]]数が35–49でラブカの26–28より多い。また、頭部はより長く、鰓裂はより短い。これにより、現生のラブカ科は ''C. anguineus'' および ''C. africana'' の2種で構成されることになる<ref name="ebert and compagno"/>。
稀に底曵き網や底延縄で[[混獲]]されるが、漁業の対象にはならない。[[駿河湾]]では[[サクラエビ]]漁の[[網]]にかかる事がある。


== 生態 ==
[[1884年]]、[[相模湾]]で捕獲された個体の標本を以て、[[アメリカ]]の動物学者Samuel W. Garman により初記載された。以前から地元の漁網にかかることがあったが、その容貌から縁起が悪いとそのまま船上で捨てられているらしいと、[[静岡県]][[清水市]](現・[[静岡市]][[清水区]])[[三保]]にできた[[東海大学]]海洋学部の[[研究者]]たちが聞きつけ、捕まえたものを捨てずに持ち帰ってもらうように依頼をすることで[[標本]]が集まるようになったという。
数が少なく、比較的海の深い所に生息する種であるため、観察が難しく、詳しい生態はほとんどわかっていない。


[[大陸棚]]外縁と[[大陸斜面]]上から中部に生息し、[[湧昇流]]などの[[生物学的生産力]]の高い海域を好むようである<ref name="ebert"/>。水深1,570メートルまでの深度に生息するが、通常は120 - 1,280メートルの深度に生息する<ref name="froese_pauly" />。[[駿河湾]]では比較的浅い水深50–200メートルでよく見られるが、8–11月は100メートル以浅の水温が 15 {{℃}} を超えるため深場に移動する<ref name="kubota et al"/><ref name="tanaka_et_al" />。基本的には海底付近で生活し、小さな砂山の上を泳いでいる個体が観察されている<ref name="iucn"/><ref name="jenner"/>。だが、おそらく[[日周鉛直移動]]を行い、夜間には表層で摂餌すると考えられる<ref name="ebert"/><ref name="martin"/>。大きさや繁殖状況に応じて棲み分けが行われている<ref name="tanaka_et_al" />。
人に危害を加えることはない。漁網にかかったものを引き揚げる際に咬まれることもある。


普段動きは緩慢で、ウナギのように体を波打たせて遊泳する。遊泳速度は速くない。
== 捕獲例・展示 ==
[[画像:Chlamydoselachus anguineus NOOA.jpg|thumb|2004年8月26日、アメリカの[[ジョージア州]]沖の深海873メートル(2866フィート)で撮影されたラブカの写真。生きている状態で撮影された最初の写真である。]]
生体の展示は非常に稀で、あったとしてもごく短期間である。固定標本の展示は各所の水族館や博物館で行われている。


[[骨格]]の[[石灰化]]が弱く、低密度の[[脂質]]が詰まった大きな[[肝臓]]を持つ。これは体の密度を減らし、水中に浮かぶための適応である<ref name="martin"/>。開いた[[側線]]を持つ数少ないサメの一種で、[[機械受容器]]の[[有毛細胞]]が外部に露出している。これはサメの[[基底クレード]]に見られる形質であるが、獲物の細かい動きを捉えることができると考えられる<ref name="martin"/><ref name="martin4"/>。尾鰭の先端を欠損した個体がよく見つかるが、これは他種のサメに襲われたものと考えられる<ref name="tanaka_et_al" />。[[寄生虫]]として ''Monorygma'' 属の[[条虫]]、[[吸虫]]の ''Otodistomum veliporum''<ref name="collett"/>、[[旋尾線虫]]の ''Mooleptus rabuka''<ref name="machida et al"/>が知られる。
[[神戸市立須磨海浜水族園]]では、[[1978年]]に[[千葉県]][[犬吠埼]]沖の水深780mで捕獲された個体の標本展示を行っている。


; 摂餌
[[1997年]][[3月11日]] 静岡県[[熱海市]]沖の相模灘の、水深70〜80mに仕掛けたヒラメ刺網に混獲。全長1806.0mmの雌の個体で、[[神奈川県立生命の星・地球博物館]]に保管されている。
: 顎は柔軟で非常に大きく開くことができ、全長の半分を超える獲物を飲み込むことができる<ref name="ebert"/>。だが顎の長さと関節からすると、他のサメに比べあまり強く噛み付くことはできないようである<ref name="moss"/>。ほとんどの捕獲個体には胃内容物がなく、消化速度が速いか摂餌間隔が長いことを意味すると考えられる<ref name="kubota et al"/>。自分よりも小柄な[[サメ]]や[[硬骨魚類]]、[[頭足類]]などを捕食する<ref name="ebert"/>。[[銚子市]]で捕獲された1.6メートルの個体は590グラムの[[ニホンヘラザメ]]を飲み込んでいた<ref name="martin"/>。駿河湾では餌の60%が[[イカ]]であり、[[ユウレイイカ]]・[[クラゲイカ]]のような動きの遅い種だけでなく、[[ツメイカ]]・[[トビイカ]]・[[スルメイカ]]のような大型で高速遊泳する種も捕食していた<ref name="kubota et al"/>。
: 泳ぎの遅い本種がどのように高速遊泳するイカを捕えるのかは不明であるが、傷ついた、または繁殖後で弱った個体を狙っている可能性はある<ref name="kubota et al"/>。体後方に鰭が集中した体型は瞬間的な突進に適しており、蛇のように体をくねらせて獲物に食らいつくことができる。さらに、鰓裂を閉じることで風圧を生み出し、獲物を吸い込んでいるとも考えられる<ref name="martin"/>。鋭く小さい、内側に向いた歯は顎を突き出すことで外側に回転し、獲物を引っ掛けやすくなる。捕獲個体の観察からは口を開けたまま泳ぐことが分かっているが、これは白い歯と黒い口内の対比によって、疑似餌として機能するという仮説もある<ref name="ebert and compagno"/>。
; 生活史
: 無胎盤性[[胎生]]で、胎児は[[卵黄]]によって成長する。だが胎児間で体重が異なることがあり、母体からも何らかの形で栄養が供給されると考えられる。成体雌は2つの[[卵巣]]、1つの[[子宮]](右側)が機能する。深海は季節の影響が少ないため、繁殖期はない<ref name="tanaka_et_al" />。おそらく繁殖のために、大西洋中央海嶺の[[海山]]に15匹の雄、19匹の雌が集まったことが記録されている<ref name="kukuev and pavlov"/>。産仔数は2–15だが、平均6である<ref name="ebert"/>。雌は2週間おきに[[排卵]]するが、妊娠中は[[体腔]]に十分なスペースがないため、[[卵黄形成]]と卵巣卵の発達は停止する<ref name="tanaka_et_al" />。
: 受精卵は薄く楕円体で、茶色の[[卵鞘 (軟骨魚類)|卵鞘]]を持つ。3センチメートルに達した胎児では顎の形成が始まり、外鰓・すべての鰭が出現する。6–8センチメートルに達すると外鰓が完全に形成され、卵殻は脱ぎ捨てられて母体から排出される<ref name="tanaka_et_al" /><ref name="nishikawa"/>。40センチメートルに達するまで[[卵黄嚢]]の大きさはほぼ一定であるが、50センチメートルに達するまでに急速に消失する。成長率は1.4センチメートル/月であり、他のあらゆる[[脊椎動物]]より長い3.5年の[[妊娠期間]]を持つ<ref name="tanaka_et_al" /><ref name="martin"/>。出生時は全長40 - 60センチメートル<ref name="froese_pauly" />。雄で全長97–117センチメートル、雌で全長135–150センチメートルで[[性成熟]]する<ref>{{cite book|和書|author=クレール・ヌヴィアン|title=深海|others=伊部百合子訳|year=2008|publisher=晋遊舎|ISBN=978-4-88380-850-2}}</ref>。


== 人との関わり ==
[[2007年]][[1月21日]] 静岡県[[沼津市]]の水族館[[淡島 (沼津市)|あわしまマリンパーク]]が全長1.6mの雌の個体を[[駿河湾|奥駿河湾]]の内浦湾で捕獲、生きている姿を撮影した。衰弱が激しく、捕獲後数時間で死亡した<ref>ロイター通信 「[http://today.reuters.co.jp/news/articlenews.aspx?type=entertainmentNews&storyID=2007-01-24T165735Z_01_NOOTR_RTRJONC_0_JAPAN-244037-1.xml あわしまマリンパーク、珍しい深海ザメの撮影に成功」]</ref>。
[[画像:Chlamydoselachus anguineus NOOA.jpg|thumb|2004年8月26日、アメリカの[[ジョージア州]]沖、ブレーク海台の深海873メートルで撮影されたラブカの写真。生きている状態で撮影された最初の写真である]]
日本では方言名として、東京近郊でオカグラ・ハブザメ、房州でトカゲウオ・マムシ、静岡県の一部地方ではカイマンリョウ<!-- tanaka_et_alでもkai-man-ryoの記述あり -->などがある<ref name="sato" />。


食用とされることや魚粉が利用されることもあり、主に日本では飼育施設で展示されることもある<ref name="iucn" />。日本の[[駿河湾]]ではタイ類やムツ類を対象とする[[刺網]]や、[[サクラエビ]]漁の網にかかることがある<ref name="tanaka_et_al" />。
[[2008年]][[4月2日]]、[[神奈川県]][[横須賀市]][[長井漁港]]沖でヒラメ刺し網漁により全長1.5mの雌の個体が混獲され、翌三日、[[藤沢市]][[片瀬海岸]]の[[新江ノ島水族館]]で生体展示された。衰弱が予想され一日のみの公開となった<ref>{{cite web
| authorlink = 毎日新聞
| date = 2008-04-04
| url = http://mainichi.jp/area/kanagawa/news/20080404ddlk14040231000c.html
| title = ラブカ:生きた化石、相模湾で捕獲 100年間に6例報告 /神奈川
| accessdate = 2008年4月5日
}}</ref><ref>{{cite web
| authorlink = 新江ノ島水族館
| date = 2008-04-03
| url = http://www.enosui.com/animalsentry.php?eid=00037
| title = 深海にすみ、生きた化石と呼ばれるサメの一種「ラブカ」の生体を収容
| accessdate = 2008年4月3日
}}</ref>。


[[漁網]]を傷つけることがあるため、漁師から嫌われることもある<ref name="tanaka_et_al" />。
[[2010年]][[11月17日]]、長崎県野母崎沖の水深600 mで[[長崎大学]]水産学部の練習船「長崎丸」がビームトロールによって捕獲した。2011年9月より学部棟内に個体標本が展示されている。


本種を対象とした漁業はないが、トロール網漁や刺し網漁や延縄で[[混獲]]されることもある<ref name="iucn" />。深海漁業の拡大による混獲の影響が懸念されているが、本種の発見例がある欧米やオーストラリアなどでは深海漁業の規制が進められていることから、影響は大きなものではないと考えられている<ref name="iucn" />。
2012年3月8日ならびに5月20日、[[沼津港深海水族館]]で生きた個体を展示。それぞれ別個体で、どちらも一晩で死亡<ref>

{{cite news
2004年8月27日、アメリカのブレーク海台で[[遠隔操作無人探査機]] (ROV) の{{仮リンク|ジョンソン・シーリンク|en|Johnson Sea Link|label=ジョンソン・シーリンクII}}により、初めて深海での姿が観察された<ref name="jenner"/>。多くの専門家は、[[シーサーペント]]の目撃報告の一部は本種によって説明できると考えている。本種はそれほど大きくないが、より大型の化石種が生き残っていると信じている[[未確認動物学者]]もいる<ref name="garman"/><ref name="bright"/>。
| title = ラブカ:深海ザメ捕獲 沼津港の水族館、生きたまま展示 /静岡

| url = http://mainichi.jp/area/shizuoka/news/20120520ddlk22040123000c.html
=== 研究 ===
| newspaper = 毎日新聞
[[東海大学]]海洋科学博物館(静岡県静岡市)が[[アクアマリンふくしま]](福島県いわき市)と共同で2016年以降、研究プロジェクトに取り組んでいる。漁業者からの聞き取りなどによる生息調査、受精卵の人工保育などである<ref>[http://www.umi.muse-tokai.jp/news/single.php?id=117 東海大学海洋科学博物館×アクアマリンふくしま「ラブカ研究プロジェクト」](2017年12月30日閲覧)</ref>。
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現在(2024年)時点でラブカを[[飼育]]している[[施設]]はないが、過去には[[沼津港深海水族館]]、アクアマリンふくしま、[[鴨川シーワールド]]、[[東海大学海洋科学博物館]]、[[横浜・八景島シーパラダイス|八景島シーパラダイス]]、串本海中公園などで飼育されていた<ref>{{Cite web|和書|title=ラブカのいる水族館は?飼育展示水族館とラブカ情報まとめ |url=https://www.ariescom.jp/entry/frilledshark |website=アリエスコム ARIEScom |date=2020-12-16 |access-date=2023-06-17 |language=ja |last=tsukunepapa}}</ref>。
{{cite web
| authorlink = 沼津港深海水族館・シーラカンスミュージアム公式ブログ
| date = 2012-05-21
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| title = ラブカ死亡のお知らせ
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}}</ref>。


== ギャラリー ==
== ギャラリー ==
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== 脚注 ==
== 脚注 ==
{{reflist|refs=
<references/>
<ref name="bright">{{cite book|title=The Private Life of Sharks: The Truth Behind the Myth|author=Bright, Michael|publisher=Stackpole Books|location=Mechanicsburg|year=2000|isbn=0-8117-2875-7|pages=210–213}}</ref>
<ref name="collett">{{cite journal|author=Collett, R.|year=1897|title=On ''Chlamydoselachus anguineus'' Garman. A remarkable shark found in Norway 1896|journal=Christiania|volume=11|pages=1–17}}</ref>
<ref name="compagno">{{cite book|author=Compagno, Leonard J. V.|year=1984|title=Sharks of the World: An Annotated and Illustrated Catalogue of Shark Species Known to Date|publisher=Food and Agricultural Organization of the United Nations|location=Rome|isbn=92-5-101384-5|pages=14–15}}</ref>
<ref name="compagno2">{{cite journal|author=Compagno, Leonard J. V.|title=Phyletic Relationships of Living Sharks and Rays|journal=American Zoologist|year=1977|volume=17|issue=2|pages=303–322}}</ref>
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<ref name="garman and gill">{{cite journal|title='The Oldest Living Type of Vertebrata,' ''Chlamydoselachus''|author=Garman, Samuel; Gill, Theo.|journal=Science|volume=3|issue=59|date=March 21, 1884|pages=345–346|doi=10.1126/science.ns-3.59.345-a|pmid=17838181}}</ref>
<ref name="jenner">{{cite web|author=Jenner, Jeff|year=2004|url=http://oceanexplorer.noaa.gov/explorations/04etta/logs/aug27/aug27.html|title=Estuary to the Abyss: Excitement, Realities, and "Bubba"|work=Ocean Explorer|publisher=National Oceanic and Atmospheric Administration|accessdate=2012-06-03}}</ref>
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<ref name="kukuev and pavlov">{{cite journal|author=Kukuev, E. I.; Pavlov, V. P.|title=The First Case of Mass Catch of a Rare Frill Shark ''Chlamydoselachus anguineus'' over a Seamount of the Mid-Atlantic Ridge|journal=Journal of Ichthyology|year=2008|volume=48|issue=8|pages=676–678|doi=10.1134/S0032945208080158}}</ref>
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<ref name="machida et al">{{cite journal|author=Machida, Masaaki; Ogawa, Kazuo; Okiyama, Muneo|title=A new nematode (Spirurida, Physalopteridae) from frill shark of Japan|journal=Bulletin of the National Science Museum Series A (Zoology)|volume=8|issue=1|pages=1–5|year=1982|naid=110004311970}}</ref>
<ref name="martin">{{cite web|author=Martin, R. Aidan|url=http://elasmo-research.org/education/ecology/deepsea-frilled_shark.htm|title=Deep Sea: Frilled Shark|publisher=ReefQuest Centre for Shark Research|work=Biology of Sharks and Rays|accessdate=2010-04-25}}</ref>
<ref name="martin2">{{cite web|author=Martin, R. Aidan|url=http://elasmo-research.org/education/shark_profiles/chlamydoselachiformes.htm|title=Chlamydoselachiformes: Frilled Sharks|publisher=ReefQuest Centre for Shark Research|work=Biology of Sharks and Rays|accessdate=2010-04-25}}</ref>
<ref name="martin3">{{cite web|author=Martin, R. Aidan|url=http://elasmo-research.org/education/evolution/rise_modern.htm|title=The Rise of Modern Sharks|publisher=ReefQuest Centre for Shark Research|work=Biology of Sharks and Rays|accessdate=2010-04-25}}</ref>
<ref name="martin4">{{cite web|author=Martin, R. Aidan|url=http://www.elasmo-research.org/education/white_shark/hearing.htm Hearing and|title=Vibration Detection|publisher=ReefQuest Centre for Shark Research|work=Biology of Sharks and Rays|accessdate=2010-04-25}}</ref>
<ref name="moss">{{cite journal|author=Moss, Sanford A.|title=Feeding Mechanisms in Sharks|journal=American Zoologist|year=1977|volume=17|issue=2|pages=355–364|doi=10.1093/icb/17.2.355}}</ref>
<ref name="nishikawa">{{cite journal|title=Notes on some embryos of ''Chlamydoselachus anguineus'', Garm.|author=Nishikawa, T.|journal=Annotationes Zoologicae Japonenses|volume=2|pages=95–102 |year=1898|naid=110003368234}}</ref>
}}

== 関連文献 ==
* {{Cite journal |和書|author =新間脩子|author2=新間弥一郎|title =ラブカ肝油について|date =1970|publisher =日本水産学会|journal =日本水産学会誌|volume =36|issue =11|doi=10.2331/suisan.36.1157|pages =1157-1162|ref = }}
* {{Cite journal |和書|author =後藤仁敏|author2=橋本巌|title =生きている古代魚ラブカChlamydoselachus anguineusの歯に関する研究 I. 歯の形態・構造・組成について|date =1976|publisher =歯科基礎医学会|journal =歯科基礎医学会雑誌|volume =18|issue =3|doi=10.2330/joralbiosci1965.18.362|pages =362-377|ref = }}
* {{Cite journal |和書|author =後藤仁敏|author2=橋本巌|title =生きている古代魚ラブカChlamydoselachus anguineusの歯に関する研究 II. 歯と皮歯の発生について|date =1977|publisher =歯科基礎医学会|journal =歯科基礎医学会雑誌|volume =19|issue =1|doi=10.2330/joralbiosci1965.19.159|pages =159-175|ref = }}


== 関連項目 ==
== 関連項目 ==
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{{Wikispecies|Chlamydoselachus anguineus}}
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* [[魚の一覧]]
* [[魚の一覧]]
* [[生きている化石]]
* [[深海生物]]


== 外部リンク ==
== 外部リンク ==
* [http://www.marinepark.jp/shark.html 生きた化石!ラブカの撮影に成功!(あわしまマリンパーク)]
* [http://www.marinepark.jp/shark.html 生きた化石!ラブカの撮影に成功!(あわしまマリンパーク)]


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[[vi:Chlamydoselachus anguineus]]
[[zh:皺鰓鯊]]
[[zh-yue:皺鰓鯊]]

2024年11月24日 (日) 13:19時点における最新版

ラブカ
保全状況評価[1]
LEAST CONCERN
(IUCN Red List Ver.3.1 (2001))
分類
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
: 軟骨魚綱 Chondrichthyes
: カグラザメ目 Hexanchiformes
: ラブカ科 Chlamydoselachidae
: ラブカ属 Chlamydoselachus
: ラブカ C. anguineus
学名
Chlamydoselachus anguineus
Garman, 1884[1][2][3]
和名
ラブカ[3]
英名
Frill shark[2]
Fril-gilled shark[2]
Frilled shark[1][2][4]
Greenland shark[2]
Lizard shark[1]
Scaffold shark[1][2]
Silk shark[2]
ラブカの生息域

ラブカ(羅鱶[5]学名: Chlamydoselachus anguineus)は、軟骨魚綱カグラザメ目ラブカ科に分類されるサメ。

分布

[編集]

稀種ではあるが分布域は広く、大西洋太平洋全域から散発的に記録がある。東大西洋ではノルウェー北方・スコットランド北方・アイルランド西方・フランスからモロッコマデイラ諸島モーリタニア[6]。中央大西洋ではアゾレス諸島からブラジル南方のリオグランデ海膨までの大西洋中央海嶺上・西アフリカ沖のバビロフ海嶺。西大西洋ではニューイングランドジョージア州スリナム[7][8][9]。西太平洋では本州南東・台湾ニューサウスウェールズタスマニアニュージーランド。中央・東太平洋ではハワイカリフォルニアチリ北部[1][6]で確認されている。2009年、南アフリカ沖に生息する個体は別種 C. africana とされた[9]。日本では相模湾や駿河湾で比較的多く見られる。

形態

[編集]
頭。顎は長く、先端に位置する
喉。切り込みは鰓裂であり、第一鰓裂は繋がって襟状になる
歯。細かく並んだ針状の歯は、イカなどの柔らかい獲物を引っ掛けるのに適している

最大全長オス165センチメートル、メス196センチメートル[4]。体型は細長い円筒型。頭部は幅広くて平たく、短く丸いがある。鼻孔は縦に裂け、前鼻弁で二つに区切られている。眼は比較的大きく楕円形で、瞬膜を欠く。非常に大きい口は普通のサメと異なって体前端に開く。口角に溝・褶はない。歯列は隙間を開けて並び、上顎で19–28列、下顎で21–29列である[10][9]は合計で300本ほどで、個々は小さく、細い三尖頭をもち先は鋭くとがる。尖頭の間には小尖頭がある[11][12]。鰓裂は6対で[2]鰓弁の後部が伸びてひだ状になる。第一鰓裂は喉で繋がって襟状になっている[10]。和名は皮膚の表面が滑らかで、羅紗を連想させることが由来とする説もある[13]

胸鰭は短くて丸い。背鰭は1基で小さく、後縁は丸い。体後方の臀鰭上部に位置する。腹鰭・臀鰭は大きく、幅広くて丸く、体後方に位置する。尾鰭は非常に長く、下葉・欠刻がない。腹面には1対の厚い皮褶が走るが、その機能は不明である[10]。腹部は雄より雌の方が長く、腹鰭がより後方にある[12][14]皮歯は小さく、型である。尾鰭背面の皮歯は大きくて鋭い[10]。体色は暗褐色や灰色[2][11]。最大全長は雄で1.7メートル、雌で2.0メートルである[11]

分類

[編集]
1884年、種記載時のイラスト

ドイツ魚類学者ルートヴィヒ・デーデルライン1879年から1881年日本を訪れ、2個体の標本をウィーンに持ち帰った。だが、デーデルラインの手稿によるとこの標本は失われたようである。そのため、最初の記載は1884年、アメリカの動物学者サミュエル・ガーマンProceedings of the Essex Institute で公表した "An Extraordinary Shark" と題した記載論文とされている。タイプ標本相模湾産の1.5メートルの雌個体である[10][15]。ガーマンは本種に科・属を新設し、古代ギリシア語で"chlamy"(外套)"selachus"(サメ)の意があるChlamydoselachusラテン語 "anguineus"(ウナギ型)に由来する Chlamydoselachus anguineus という学名を与えた[11]

多尖頭の歯、眼の後方で頭骨と直接関節する顎(両接型)、椎骨が不明瞭で脊索のような脊柱に基づいて、昔の専門家は本種を絶滅した板鰓類(サメ・エイとその祖先)の生き残りだと考えていた[16]。ガーマンは古生代デボン紀(約4億1600万年前から約3億5920万年前)に栄えたクラドセラケと本種を同じグループ "cladodonts" に位置付けた。彼と同世代のテオドール・ギルエドワード・ドリンカー・コープ中生代に栄えたヒボドゥス目との関連を指摘し、コープは本種を化石属の Didymodus に位置づけた[17][18]

2011年の系統分析ではカグラザメ類は板鰓類の中でも初期に分岐したグループであるとされているが[19]、少なくともクラドセラケが分類される全頭類[20][21]よりも後に分岐したものであるとされる。

骨格や筋肉の特徴は明らかに現生のサメ(新サメ類、Neoselachii)のものであり、特にカグラザメと類似する。また、分類学者白井滋は単型のラブカ目 (Chlamydoselachiformes) を提唱している[16][18]。それでも本種は現生サメの中で最も古い系統の一つに属し、白亜紀後期(9500万年前)、また、おそらくジュラ紀後期(1億5000万年前)の化石が発見されている[22]。 原始的なサメの特徴をよく残していることから「生きている化石」と呼ばれる[15]

近縁種

[編集]

近縁種に南アフリカ産の C. africana (Ebert & Compagno, 2009)(ミナミアフリカラブカ) が知られている。この種は脊椎骨数が160–171でラブカの147より多く、螺旋弁数が35–49でラブカの26–28より多い。また、頭部はより長く、鰓裂はより短い。これにより、現生のラブカ科は C. anguineus および C. africana の2種で構成されることになる[9]

生態

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数が少なく、比較的海の深い所に生息する種であるため、観察が難しく、詳しい生態はほとんどわかっていない。

大陸棚外縁と大陸斜面上から中部に生息し、湧昇流などの生物学的生産力の高い海域を好むようである[11]。水深1,570メートルまでの深度に生息するが、通常は120 - 1,280メートルの深度に生息する[2]駿河湾では比較的浅い水深50–200メートルでよく見られるが、8–11月は100メートル以浅の水温が 15 °C を超えるため深場に移動する[23][4]。基本的には海底付近で生活し、小さな砂山の上を泳いでいる個体が観察されている[1][7]。だが、おそらく日周鉛直移動を行い、夜間には表層で摂餌すると考えられる[11][12]。大きさや繁殖状況に応じて棲み分けが行われている[4]

普段動きは緩慢で、ウナギのように体を波打たせて遊泳する。遊泳速度は速くない。

骨格石灰化が弱く、低密度の脂質が詰まった大きな肝臓を持つ。これは体の密度を減らし、水中に浮かぶための適応である[12]。開いた側線を持つ数少ないサメの一種で、機械受容器有毛細胞が外部に露出している。これはサメの基底クレードに見られる形質であるが、獲物の細かい動きを捉えることができると考えられる[12][24]。尾鰭の先端を欠損した個体がよく見つかるが、これは他種のサメに襲われたものと考えられる[4]寄生虫として Monorygma 属の条虫吸虫Otodistomum veliporum[25]旋尾線虫Mooleptus rabuka[26]が知られる。

摂餌
顎は柔軟で非常に大きく開くことができ、全長の半分を超える獲物を飲み込むことができる[11]。だが顎の長さと関節からすると、他のサメに比べあまり強く噛み付くことはできないようである[27]。ほとんどの捕獲個体には胃内容物がなく、消化速度が速いか摂餌間隔が長いことを意味すると考えられる[23]。自分よりも小柄なサメ硬骨魚類頭足類などを捕食する[11]銚子市で捕獲された1.6メートルの個体は590グラムのニホンヘラザメを飲み込んでいた[12]。駿河湾では餌の60%がイカであり、ユウレイイカクラゲイカのような動きの遅い種だけでなく、ツメイカトビイカスルメイカのような大型で高速遊泳する種も捕食していた[23]
泳ぎの遅い本種がどのように高速遊泳するイカを捕えるのかは不明であるが、傷ついた、または繁殖後で弱った個体を狙っている可能性はある[23]。体後方に鰭が集中した体型は瞬間的な突進に適しており、蛇のように体をくねらせて獲物に食らいつくことができる。さらに、鰓裂を閉じることで風圧を生み出し、獲物を吸い込んでいるとも考えられる[12]。鋭く小さい、内側に向いた歯は顎を突き出すことで外側に回転し、獲物を引っ掛けやすくなる。捕獲個体の観察からは口を開けたまま泳ぐことが分かっているが、これは白い歯と黒い口内の対比によって、疑似餌として機能するという仮説もある[9]
生活史
無胎盤性胎生で、胎児は卵黄によって成長する。だが胎児間で体重が異なることがあり、母体からも何らかの形で栄養が供給されると考えられる。成体雌は2つの卵巣、1つの子宮(右側)が機能する。深海は季節の影響が少ないため、繁殖期はない[4]。おそらく繁殖のために、大西洋中央海嶺の海山に15匹の雄、19匹の雌が集まったことが記録されている[8]。産仔数は2–15だが、平均6である[11]。雌は2週間おきに排卵するが、妊娠中は体腔に十分なスペースがないため、卵黄形成と卵巣卵の発達は停止する[4]
受精卵は薄く楕円体で、茶色の卵鞘を持つ。3センチメートルに達した胎児では顎の形成が始まり、外鰓・すべての鰭が出現する。6–8センチメートルに達すると外鰓が完全に形成され、卵殻は脱ぎ捨てられて母体から排出される[4][28]。40センチメートルに達するまで卵黄嚢の大きさはほぼ一定であるが、50センチメートルに達するまでに急速に消失する。成長率は1.4センチメートル/月であり、他のあらゆる脊椎動物より長い3.5年の妊娠期間を持つ[4][12]。出生時は全長40 - 60センチメートル[2]。雄で全長97–117センチメートル、雌で全長135–150センチメートルで性成熟する[29]

人との関わり

[編集]
2004年8月26日、アメリカのジョージア州沖、ブレーク海台の深海873メートルで撮影されたラブカの写真。生きている状態で撮影された最初の写真である

日本では方言名として、東京近郊でオカグラ・ハブザメ、房州でトカゲウオ・マムシ、静岡県の一部地方ではカイマンリョウなどがある[13]

食用とされることや魚粉が利用されることもあり、主に日本では飼育施設で展示されることもある[1]。日本の駿河湾ではタイ類やムツ類を対象とする刺網や、サクラエビ漁の網にかかることがある[4]

漁網を傷つけることがあるため、漁師から嫌われることもある[4]

本種を対象とした漁業はないが、トロール網漁や刺し網漁や延縄で混獲されることもある[1]。深海漁業の拡大による混獲の影響が懸念されているが、本種の発見例がある欧米やオーストラリアなどでは深海漁業の規制が進められていることから、影響は大きなものではないと考えられている[1]

2004年8月27日、アメリカのブレーク海台で遠隔操作無人探査機 (ROV) のジョンソン・シーリンクII英語版により、初めて深海での姿が観察された[7]。多くの専門家は、シーサーペントの目撃報告の一部は本種によって説明できると考えている。本種はそれほど大きくないが、より大型の化石種が生き残っていると信じている未確認動物学者もいる[10][15]

研究

[編集]

東海大学海洋科学博物館(静岡県静岡市)がアクアマリンふくしま(福島県いわき市)と共同で2016年以降、研究プロジェクトに取り組んでいる。漁業者からの聞き取りなどによる生息調査、受精卵の人工保育などである[30]

飼育

[編集]

現在(2024年)時点でラブカを飼育している施設はないが、過去には沼津港深海水族館、アクアマリンふくしま、鴨川シーワールド東海大学海洋科学博物館八景島シーパラダイス、串本海中公園などで飼育されていた[31]

ギャラリー

[編集]

脚注

[編集]
  1. ^ a b c d e f g h i j Smart, J.J., Paul, L.J. & Fowler, S.L. 2016. Chlamydoselachus anguineus. The IUCN Red List of Threatened Species 2016: e.T41794A68617785. https://doi.org/10.2305/IUCN.UK.2016-1.RLTS.T41794A68617785.en. Downloaded on 15 June 2021.
  2. ^ a b c d e f g h i j k Froese, R. and D. Pauly. Editors. 2017. Chlamydoselachus anguineus. FishBase. World Wide Web electronic publication. http://www.fishbase.org, version (10/2017).
  3. ^ a b 本村浩之 『日本産魚類全種目録 これまでに記録された日本産魚類全種の現在の標準和名と学名』、鹿児島大学総合研究博物館、2020年、11頁。
  4. ^ a b c d e f g h i j k Tanaka Sho et al, "The reproductive biology of the frilled shark, Chlamydoselachus anguineus, from Suruga Bay," Japanese Journal of Ichthyology, Volume 37, Number 3, Ichthyology Society of Japan, 1990, Pages 273–291.
  5. ^ 新村出 編「らぶか」『広辞苑』(第6)岩波書店、2008年。 
  6. ^ a b Compagno, Leonard J. V. (1984). Sharks of the World: An Annotated and Illustrated Catalogue of Shark Species Known to Date. Rome: Food and Agricultural Organization of the United Nations. pp. 14–15. ISBN 92-5-101384-5 
  7. ^ a b c Jenner, Jeff (2004年). “Estuary to the Abyss: Excitement, Realities, and "Bubba"”. Ocean Explorer. National Oceanic and Atmospheric Administration. 2012年6月3日閲覧。
  8. ^ a b Kukuev, E. I.; Pavlov, V. P. (2008). “The First Case of Mass Catch of a Rare Frill Shark Chlamydoselachus anguineus over a Seamount of the Mid-Atlantic Ridge”. Journal of Ichthyology 48 (8): 676–678. doi:10.1134/S0032945208080158. 
  9. ^ a b c d e Ebert, David A.; Compagno, Leonard J. V. (2009). Chlamydoselachus africana, a new species of frilled shark from southern Africa (Chondrichthyes, Hexanchiformes, Chlamydoselachidae)”. Zootaxa 2173: 1–18. http://www.mlml.calstate.edu/system/files/private/Ebert%2526Compagno%20C_africana%20sp%20n%202009.pdf. 
  10. ^ a b c d e f Garman, Samuel (January 17, 1884). “An Extraordinary Shark”. Bulletin of the Essex Institute 16: 47–55. https://books.google.co.jp/books?id=JiIFAAAAQAAJ&dq=garman+%22An+extraordinary+shark%22&pg=PA47&redir_esc=y&hl=ja#v=onepage&q. 
  11. ^ a b c d e f g h i Ebert, David A.; Squillante, Mathew D. (2003). Sharks, Rays, and Chimaeras of California. University of California Press. pp. 50–52. ISBN 0-520-23484-7. https://books.google.co.jp/books?id=1SjtuAs702kC&pg=PA149&redir_esc=y&hl=ja 
  12. ^ a b c d e f g h Martin, R. Aidan. “Deep Sea: Frilled Shark”. Biology of Sharks and Rays. ReefQuest Centre for Shark Research. 2010年4月25日閲覧。
  13. ^ a b 佐藤哲哉 「ラブカ考」『遠洋』第51号、水産庁遠洋水産研究所、1984年、5 - 6頁。
  14. ^ Last, Peter R.; Stevens, John D. (2009). Sharks and Rays of Australia (second ed.). Harvard University Press. pp. 34–35. ISBN 0-674-03411-2 
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関連文献

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  • 後藤仁敏、橋本巌「生きている古代魚ラブカChlamydoselachus anguineusの歯に関する研究 I. 歯の形態・構造・組成について」『歯科基礎医学会雑誌』第18巻第3号、歯科基礎医学会、1976年、362-377頁、doi:10.2330/joralbiosci1965.18.362 
  • 後藤仁敏、橋本巌「生きている古代魚ラブカChlamydoselachus anguineusの歯に関する研究 II. 歯と皮歯の発生について」『歯科基礎医学会雑誌』第19巻第1号、歯科基礎医学会、1977年、159-175頁、doi:10.2330/joralbiosci1965.19.159 

関連項目

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外部リンク

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