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「マインドコントロール」の版間の差分

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'''マインドコントロール'''({{lang-en-short|Mind control}})は、他人の思想や情報をコントロール、個人が意思決定する際に、特定の結論へと誘導する技術<ref>[http://www.weblio.jp/content/マインドコントロール 三省堂『大辞林』『実用日本語表現辞典』]</ref> <!--教団退会者による一次資料であるめ、定義にはふさわしくない出典<ref name="mcnokyoufu">スティーヴン・ハッサン著 [[浅見定雄]] (訳) 『マインド・コントロールの恐怖』(恒友出版]1993年6月) ISBN 978-4765230711 </ref>-->を指す概念である。「'''マインドコントロール理論'''」とも呼ばれる。「マインドコントロール」の存在について、[[心理学]]的にも[[医学]]的にも[[宗教学]]的にも議論されたが、理論的学問的な根拠はなく、[[虚構]]や[[似非科学]]とも言われ、一般社会で言われる'''心理操作'''(マインド・トリック)ないしは[[コマーシャルメッセージ]]と同じ手法であると結論づけられている{{Sfn|櫻井義秀 |1997|p=116}}。暴力等の強制力を用いる[[洗脳]]とは異なる<ref>[http://www.weblio.jp/content/マインドコントロール 『実用日本語表現辞典』]</ref>。
'''マインドコントロール'''({{lang-en-short|Mind control}})は、強制によらず、さも自分で選択たかのように、あらかじめ決められた結論へと誘導する技術、その行為のこと<ref name="mcnokyoufu">[[スティーヴン・ハッサン]] ( [[浅見定雄]] (訳) 『マインド・コントロールの恐怖』([[恒友出版]] 1993年6月) ISBN 978-4765230711 </ref>。


== 発祥 ==
== 概略 ==
日本では、[[1992年]]の[[世界基督教統一神霊協会|統一教会]]の[[合同結婚式]]に参加した[[山崎浩子]]が、翌[[1993年]]に婚約の解消と統一教会から脱会を表明した記者会見で、「マインドコントロールされていました。」と発言したことと、同日、発売された、元統一教会員の[[スティーヴン・ハッサン]] の『マインド・コントロールの恐怖』という本が[[ベストセラー]]となったことから、“マインドコントロール”という言葉が広く認知されるようになった<ref name="21seikino">紀藤正樹(著)『21世紀の宗教法人法』([[朝日新聞社]] [[1995年]]11月 ISBN 9784022730688 )</ref> <ref name="sinseikino">宗教社会学の会(編) 『新世紀の宗教―「聖なるもの」の現代的諸相』([[創元社]] [[2002年]]11月)ISBN 978-4422140223 )</ref>。また、 [[サリン]]を使った無差別[[テロリズム|テロ]]である[[地下鉄サリン事件]]は、[[オウム真理教]]という宗教団体の教祖の指示で行われたということ自体が衝撃であったが、その団体に多くの高[[学歴]]の青年たちが[[出家]]して所属していたこと、[[事件]]が明らかになってからも教団を離れない多くの信者の姿などが「マインドコントロール」というものの威力を印象づけるものとなった(もっとも後述する厳密な定義に従えば、オウム真理教事件の場合は、マインドコントロールと[[洗脳]](ブレイン・ウォッシング)の双方を行っていた)。
[[1970年代]]の[[アメリカ合衆国|アメリカ]]において、「マインド・コントロール理論」が生まれ、信者と利害関係にある反カルト(アンチカルト)集団が、「信者の奪回・脱会を促進するという自らの行動を正当化するため」に、「対抗的ドグマ」として用いられ,当初から価値中立的な使用はされなかった{{Sfn|櫻井義秀|1997|p=115}}。まったく別人のようになった理由は、複数の解釈が成り立つものであり、心理操作のみが要因とは言えない{{Sfn|櫻井義秀|1997|p=115}}。


「マインドコントロール」は教祖を絶対視し、反社会的な行動をする[[カルト]]的な宗教が、信者勧誘や信者管理のために、駆使する心理的手法として、その是非や有無を巡って議論を呼んでいる。日本では[[1994年]]に、[[社会心理学]]者の[[西田公昭]]が「マインドコントロール」に関する学術[[論文]]を発表したが、「マインドコントロール」が実在するかどうかは、現在[[心理学]]的にも[[医学]]的にも論争の対象となっている。但しマインドコントロールの手法の中に、違法となりうる手法が存在することには、最高裁判例もあり、裁判の実務上では争いがない<ref name="cultsyuukyo">紀藤正樹ほか(著・訳)『カルト宗教―性的虐待と児童虐待はなぜ起きるのか』([[アスコム (出版社)|アスコム]] [[2007年]]3月 ISBN 978-4776203933)</ref>。
1970年代後半-80年代にかけて、社会心理学的操作理論としての「マインドコントロール理論」についての議論が尽くされた結果、[[カルト]]的な行動支配とは限らない、一般的な心理操作技術であるという結論に達した。つまり、マインドコントロールは、通常の心理操作、すなわち、消費社会におけるコマーシャルと同じ手法を指す{{Sfn|櫻井義秀|1997|p=114}}。


== マインドコントロール理論の起源 ==
=== 日本 ===
[[1970年代]]の[[アメリカ合衆国|アメリカ]]では、既成宗教とは異なった新興宗教、すなわち「カルト的教団」が出現し始めていた。そのような中、脱会者らの要請により[[人民寺院]]という教団の調査に立ち入った[[レオ・ライアン]]下院議員(民主党選出)一行が教団の人間によって銃殺され、直後に教団幹部の指示により900人もの信者らが集団自殺を図るという悲劇的事件が起きた。
[[世界基督教統一神霊協会|統一教会]]の信者の奪回・脱会を目的とした弁護士らからなる反カルト集団により、概念が持ち込まれた{{Sfn|櫻井義秀 |1997|p=115}}。反カルト集団の代表弁護士[[紀藤正樹]]によると、[[1992年]]の統一教会の[[合同結婚式]]に参加した[[山崎浩子]]が、翌[[1993年]]に婚約の解消と統一教会から脱会を表明した記者会見で、「マインドコントロールされていました」と発言したことと、同日発売の、元統一教会員による『マインド・コントロールの恐怖』という本により、“マインドコントロール”という言葉が広く認知されるようになった、としている<ref name="21seikino">紀藤正樹(著)『21世紀の宗教法人法』([[朝日新聞社]] [[1995年]]11月 ISBN 9784022730688 )</ref> <ref name="sinseikino">宗教社会学の会(編) 『新世紀の宗教―「聖なるもの」の現代的諸相』([[創元社]] [[2002年]]11月)ISBN 978-4422140223 )</ref>。
それを期に、信者たちの入信のプロセスを心理学者らが調べてゆくうちに、本人の自由な意思で入ったのではなく、外部からの影響力によって入信させられたのではないかという仮説が生まれ、それが「マインドコントロール理論」が生まれるきっかけとなったという。


== 「マインドコントロール」に利用される人間心理 ==
1995年に[[オウム真理教事件]]が起こると、マスコミや反カルト運動家は、犯罪を犯した信者の心理状態を示す格好の言葉として使用した{{Sfn|櫻井義秀 |1997|p=115}}。さらに、信者の裁判で、一部の反カルト集団の[[心理学者]]が心理鑑定の際に、「マインド・コントロール論」を根拠としたため、教団側がマインドコントロールを行っていたと、社会的に認知されてしまった{{Sfn|櫻井義秀 |1997|p=115}}。また、一部の弁護士による法的戦術として、被告の信者が「マインドコントロールされていた」と主張し,「通常の判断能力が欠損しており、責任能力をかけていた」などの弁護がされた{{Sfn|櫻井義秀 |1997|p=115}}。そのため、反社会的宗教団体が信者を動員して犯罪をなした理由として、ジャーナリズムにより宣伝され、世論に根付いた{{Sfn|櫻井義秀 |1997|p=115}}。
マインドコントロールは、人間の誰でもが持つ心理に働きかける。西田公昭によれば、この人間心理を利用して勧誘対象者を一定の結論に誘導することが「マインドコントロール」である。通常の商業活動にも一時的な効果として用いられているが、特に[[キャッチセールス]]などでは[[経験|経験則]]によって培われた様々な心理誘導テクニックによって高額商品が販売される。[[悪徳商法]]や[[カルト]]に限らず、[[成功哲学]]に基づいた[[マルチ商法]]や[[自己啓発セミナー]]などの団体においても同種の手法が導入されており、[[マニュアル]]化されている場合もある。これらは一般の物販とは異なり、被害者やその家族を巻き込んで、人生を通じた被害をもたらすケースがある。

理論的な根拠がないにもかかわらず、社会的に概念が受け入れられている背景としては、現代国家において、「消費者の欲望を喚起して需要を掘り起こすコマーシャリズムの戦略」が常にとられているために、「いつの間にか誰かに操られているのではないか」という感じる体験は特殊でないためとも言われる{{Sfn|櫻井義秀 |1997|p=117}}。

== 現代の学者の見解 ==
* [[北海道大学]]教授をつとめる[[宗教学者]][[櫻井義秀]]は、学者間の議論において、反カルト集団による「対抗的ドグマ以外の何ものでもないことが明白である」ことが結論づけられているとし、宗教学的ないしは心理学的な研究結果による概念ではなく、[[資本主義社会]]で使用される[[コマーシャルメッセージ]]と同様の手法であると述べている{{Sfn|櫻井義秀 |1997|pp=114-115}}。
* [[立正大学]][[心理学部]]教授([[社会心理学]])の[[西田公昭]]が、[[1994年]]に発表した「マインドコントロール」に関する学術[[論文]]で、「マインドコントロールとは、[[虚構]]ないしは[[似非科学]]である」と述べている。

== 心理操作 ==
=== 実例 ===
{{一次資料|date=2015年8月}}
{{独自研究範囲|[[コマーシャル]]で用いられる心理操作の手法が、[[悪徳商法]]や[[カルト]]、[[マルチ商法]]、[[自己啓発セミナー]]、軍隊などにおいても用いられている。
; [[返報性の原理|好意の返報性]]
; [[返報性の原理|好意の返報性]]
: 人から好意を受けると、その好意に応えたくなる心理のこと。この心理を利用して、勧誘側から讃美の言葉や手書きの手紙などによって、被勧誘者へ向けて好意が繰り返し示される(「この乱れた風潮の中で人生を真剣に考えているなんて、すごい! 貴方は素晴らしいです!」など)。
: 人から好意を受けると、その好意に応えたくなる心理のこと。この心理を利用して、勧誘側から讃美の言葉や手書きの手紙などによって、被勧誘者へ向けて好意が繰り返し示される(「この乱れた風潮の中で人生を真剣に考えているなんて、すごい! 貴方は素晴らしいです!」など)。
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: 著名人との関係を強調されることで、人間は心理的に人や団体を信用しやすくなる。団体の代表とその著名人との接触が、たとえ過去の数時間の1度限りであったとしても、その対談・握手写真などが、その後、長期間にわたり被勧誘者や支持者に対して繰り返し利用されることがある(例:「[[ゴルバチョフ]]と団体の代表」)。また、その団体が関連性を隠して、別の団体名でイメージ戦略等で行っている社会的に受け入れられやすい活動(福祉活動、平和活動、家庭再建、青少年教育など)に賛同を示した著名人が、あたかもその団体の理念や活動に賛同しているかのように宣伝されることもある。また、著名芸能人がその団体のメンバーであることなども利用される(広告塔効果)。
: 著名人との関係を強調されることで、人間は心理的に人や団体を信用しやすくなる。団体の代表とその著名人との接触が、たとえ過去の数時間の1度限りであったとしても、その対談・握手写真などが、その後、長期間にわたり被勧誘者や支持者に対して繰り返し利用されることがある(例:「[[ゴルバチョフ]]と団体の代表」)。また、その団体が関連性を隠して、別の団体名でイメージ戦略等で行っている社会的に受け入れられやすい活動(福祉活動、平和活動、家庭再建、青少年教育など)に賛同を示した著名人が、あたかもその団体の理念や活動に賛同しているかのように宣伝されることもある。また、著名芸能人がその団体のメンバーであることなども利用される(広告塔効果)。
; 希少性
; 希少性
: 「限定○○個!」「期間限定!」「あなただけにプレゼント!」「ここだけの話」など、数量や期間・対象を限られることによって惹きつけられる心理のこと。また、団体への勧誘時に「'''転換期'''って知っていますか?」、「'''今なら'''もっと偉い先生に見てもらえます!」、「貴方は'''選ばれた人'''なのです」といった言葉で希少性の心理に訴えかける。
: 「限定○○個!」「期間限定!」「あなただけにプレゼント!」「ここだけの話」など、数量や期間・対象を限られることによって惹きつけられる心理のこと。カルトなどの勧誘では「'''転換期'''って知っていますか?」、「'''今なら'''もっと偉い先生に見てもらえます!」、「貴方は'''選ばれた人'''なのです」といった言葉で希少性の心理に訴えかける。
; [[一貫性の原理|コミットメント(関与)の一貫性]]
; [[一貫性の原理|コミットメント(関与)の一貫性]]
: 「つじつまの合う自分でいたい」という人間心理。日常的な場面では「せっかく名前や住所を書いて入会無料で作った会員カードなのだから、使ってみよう」と考えること。宗教の導入部分では「ここまで時間をかけて話を聞いてしまったのだから、試しにやってみよう」と思うこと。マインドコントロールの最終的な局面では、「ここまで、この教えで歩んで来たのだから、○○に参加しよう」「全身全霊をかけて信仰すると誓ったから、全財産を献金して献身生活に入ろう」など、「何のために今まで…」という考えかたにあらわれる。
: 「つじつまの合う自分でいたい」という人間心理。日常的な場面では「せっかく名前や住所を書いて入会無料で作った会員カードなのだから、使ってみよう」と考えること。宗教の導入部分では「ここまで時間をかけて話を聞いてしまったのだから、試しにやってみよう」と思うこと。マインドコントロールの最終的な局面では、「ここまで、この教えで歩んで来たのだから、○○に参加しよう」「全身全霊をかけて信仰すると誓ったから、全財産を献金して献身生活に入ろう」など、「何のために今まで…」という考えかたにあらわれる。
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: 心理的に対照的な刺激を受けると、人間の知覚や認識に対比効果が出ることを「知覚のコントラスト」という。「原爆展などの戦争写真展を見た後では、何気ない普段どおりの公園の風景でも光り輝いて見える」という心理のこと。日常的には「高級店で高価な値札を見た後で安価な店に立ち寄った際に、普段は手が出ない商品でも安く感じられる」という人間心理にあらわれる。一部宗教団体や思想団体での勧誘では、「戦争・飢え・差別・殺人・自殺・不倫・離婚」など、世の中の暗い面を過剰に強調した映画やビデオ等で被勧誘者に対して叩き込まれ、被勧誘者は一時的に絶望的な心理に追い込まれる。被勧誘者は、その暗く八方ふさがりな心理にある中で、明るい出口としてその団体の理想や行動が示されたり、その流れで教祖の名前や写真が明かされたりするため、それらが実際以上に光り輝いて見えてしまう。
: 心理的に対照的な刺激を受けると、人間の知覚や認識に対比効果が出ることを「知覚のコントラスト」という。「原爆展などの戦争写真展を見た後では、何気ない普段どおりの公園の風景でも光り輝いて見える」という心理のこと。日常的には「高級店で高価な値札を見た後で安価な店に立ち寄った際に、普段は手が出ない商品でも安く感じられる」という人間心理にあらわれる。一部宗教団体や思想団体での勧誘では、「戦争・飢え・差別・殺人・自殺・不倫・離婚」など、世の中の暗い面を過剰に強調した映画やビデオ等で被勧誘者に対して叩き込まれ、被勧誘者は一時的に絶望的な心理に追い込まれる。被勧誘者は、その暗く八方ふさがりな心理にある中で、明るい出口としてその団体の理想や行動が示されたり、その流れで教祖の名前や写真が明かされたりするため、それらが実際以上に光り輝いて見えてしまう。
; 恐怖心
; 恐怖心
: 一部の宗教団体では「脱会すると不幸になる」と教えられる。教義として教えられなくとも、脱会して不幸になった事例が、まことしやかに繰り返し示され、恐怖心が喚起される。「不幸になる」と言われる対象はその宗教によって異なり、「霊界の先祖」「本人」「親・兄弟・親戚」「子孫」など様々である。「教えを聞く前ならともかく、教えを知ってから脱会すると絶対に救われない」というレトリックも利用される。また、脱会の場合だけではなく、仮にその団体から一時的に距離を取りたいと申し出ても、「悪魔が入る」「地獄に行く」などと言われ、その表現は様々であるものの、刷り込まれた恐怖心によって、団体から距離と時間を置くことが出来なくなる。|date=2015年8月}}
: 一部の宗教団体では「脱会すると不幸になる」と教えられる。教義として教えられなくとも、脱会して不幸になった事例が、まことしやかに繰り返し示され、恐怖心が喚起される。「不幸になる」と言われる対象はその宗教によって異なり、「霊界の先祖」「本人」「親・兄弟・親戚」「子孫」など様々である。「教えを聞く前ならともかく、教えを知ってから脱会すると絶対に救われない」というレトリックも利用される。また、脱会の場合だけではなく、仮にその団体から一時的に距離を取りたいと申し出ても、「悪魔が入る」「地獄に行く」などと言われ、カルトによってその表現は様々であるものの、刷り込まれた恐怖心によって、団体から距離と時間を置くことが出来なくなる。


===手法===
==マインド・コントロールの手法==
{{独自研究範囲|この技法は、ある特定の目的に向かうよう、そのように思い、考え、行動するべく誘導するものである。本来、[[自由]]であるべき[[個人]]の行動原則を誘導・操作するため、道義的な問題をはらむ部分があり、マインドコントロールの手法に対する批判が多々あるが、この技法を利用して[[社会規範]]意識の刷り込みによる[[犯罪者]]の矯正や、心理的に手を出してしまいやすい[[薬物依存]]に悩む人の意識改革を目指すグループも存在する<ref name="mcnokyoufu">スティーヴン・ハッサン著 [[浅見定雄]] (訳) 『マインド・コントロールの恐怖』([[恒友出版]] 1993年6月) ISBN 978-4765230711 </ref>。
この技法は、ある特定の目的に向かうよう、そのように思い、考え、行動するべく誘導するものである。本来、[[自由]]であるべき[[個人]]の行動原則を誘導・操作するため、道義的な問題をはらむ部分があり、ト宗教問題とも関わって、これに対する批判が多々あるが、この技法を利用して[[社会規範]]意識の刷り込みによる[[犯罪者]]の矯正や、心理的に手を出してしまいやすい[[薬物依存]]に悩む人の意識改革を目指すグループも存在する<ref name="mcnokyoufu"/>。
; 泣き落とし
: 近年、振り込め詐欺などでも使われる人の情に付け入る手法である。宗教においては教祖がいかに苦難の道を歩んだか等が語られ、特にカルトの教祖は信者に向けて「さめざめと泣いてみせる」形の説教を行う。
; グループ活動
; グループ活動
: グループによる勧誘活動や訪問販売活動を行わせる。それが頻繁かつ長時間であればあるほど「コミットメントの一貫性」(なんの為に今まで)の心理が働き、たとえ教義に疑問を持ったとしても信仰生活を無駄だったとは思えなくなり従来の生活を長引かせる。|date=2015年8月}}{{要出典|date=2015年1月}}
: グループによる勧誘活動や訪問販売活動を行わせる。それが頻繁かつ長時間であればあるほど「コミットメントの一貫性」(なんの為に今まで)の心理が働き、たとえ教義に疑問を持ったとしても信仰生活を無駄だったとは思えなくなりカルト生活を長引かせる。
; しつけ的な手法(入信後)
: マインドコントロールの手法として特に顕著なのは、さまざまな局面に対しての膨大な規則を与えて、それらに従うように仕向け、時にはその理由を知る事や考える事を禁止し、その通りに行動すれば非常に賞賛し、僅かでも外れれば厳しく罰して、次第にその規則に無意識に従うように「しつける(犬に芸を教えるように仕込む)」事である。
: この「躾(しつけ)」が繰り返されると、[[常識]]や個人的[[価値観]]、果ては良心や善悪感までもが失われてしまうことがある。そのためコントロールされている者は非常識な振る舞いをしても、当の本人はそれに何の疑問も感じないことにもなる。ただし、怨念、依存、執着といった一般には歓迎されない感情・精神的状態を抑制するために、マインドコントロールが有効であるとの見解もある{{要出典|date=2015年1月}}。
; (参考)洗脳的手法
: マインドコントロールをより効果的とするために、「孤独・極度の不眠や疲労・薬物・栄養失調等」によって、一時的な精神機能や思考能力の低下状態を引き起こさせ、その際にある特定の行動規範や[[思想]]を、文字通り「叩き込む」事も行われる。
: さらに、それらの思想には、幾つかの条件付けを行い、繰り返し強化させる事で、当人の思想そのものになるようにしてしまうことがある。この結果としてマインドコントロールされている者は指示者のいいなりとなり、反社会的活動でさえも平然と行うことになる。
: ある種の[[権威]]者とそれへの追随者との間にも同様な関係が見られる(教祖と信者など)。もちろん、これがコントロールされる者の利益となるのならば問題は少ないのだろうが、現実にはコントロールされる側の者が[[搾取]]され、経済的・社会的に被害を受ける者となっていることが多いところに大きな問題がある(カルト宗教の問題など)。


== 応用 ==
== 洗脳との相違 ==
[[洗脳]]の場合は強制力を伴うのに対し、マインドコントロールの場合には明らかにそれと解る強制的な力を自覚する事が無く、ありふれた状況によって始まるのが普通である。また[[社会心理学]]的テクニックの要素が強い。習慣化・強化された偏った価値観等により、個人の考え方がカルト・セクト集団に取り込まれて大きく歪められてしまう。時間の経過と共にカルト・セクト集団の要求がエスカレートする為に徐々に個人にとって大きな被害に発展する。回復するためには早い段階での救出カウンセリング、自発的脱会後であれば早目の脱会カウンセリングなどが効果的である。''[[ヨーゼフ・ゲッベルス#宣伝手法・考えを巡る強敵との相克]]も参照の事。''
往々にして、人間の精神を蝕み、破壊するかのように考えられているマインドコントロールではあるが、自己[[暗示]]の一つとして能力開発への応用すること<ref name="mcnosusume">小林惠智著『マインド・コントロールのすすめ―そのメカニズムと積極的活用法』(1995年11月)ISBN 978-4769807377 </ref>や[[犯罪]]抑止や[[タバコ]]や[[アルコール (食品)|アルコール]]等を含む[[薬物依存]]の治療などに効果的だと考える動きもある<ref name="jiyuheno">マデリン・ランドー トバイアス (著), ジャンジャ ラリック (著), Madeleine Landau Tobias (原著), Janja Lalich (原著), 南 暁子 (訳), 上牧 弥生 (訳) 『自由への脱出―カルトのすべてとマインドコントロールからの解放と回復』(中央アート出版社 [[1998年]]9月) ISBN 978-4886398703</ref>。
<!--カルトに限らずマインドコントロールは存在すると考えられるため、編集の方向性をいったん変える上でのコメントアウト
== 破壊的カルトのマインドコントロール ==
破壊的な[[カルト]]の多くは、マインドコントロールを、集団を統治し莫大な利益を吸い上げるために非常に有効な手段だと考えており、事実、そのようなマインドコントロール技術を用いて、メンバーの心理的な自由を奪い、縛り付ける団体は後を絶たない。


=== 目的があれば手段は正当化されてしまう ===
{{独自研究範囲|しかし、人心を操作する手法であり、[[倫理]]面での問題があるため、慎重論が多いのもまた事実である。
彼らは修行の名目で、肉体的心理的な[[暴力]]や監禁、多額の[[布施]]を強要したり、同じ文句の復唱、街頭での宣伝活動に(時に強制的に)参加させる等の行為を通じてメンバーを精神的に追い込み、疲弊させて教義の正当性を繰り返し教え込む。また薬物・電気ショック等の違法な手段を用いて心理状態を変化させる場合があるが、これらは団体内における「戒律に則った処罰」というオブラートで正当化される。

その一方で、様々な[[科学]]的に説明可能な非日常的な現象をもって[[奇跡]]と吹聴し、それらを科学的に理解する事を禁止して、「理解できない=奇跡=絶対的に帰依すべきもの」とする[[幻想]]を築き上げる。こうして出来上がった、歪な価値観念がマインドコントロールとして機能し、カルトメンバーの脱会を困難にしている事は、今日良く知られている所である。

=== マニュアル化されるマインドコントロール ===
また、これらマインドコントロール手法は、これらカルトの中で[[経験則]]として培われ、マニュアル化されている場合もあり、過去の破壊的カルトが何等かの理由によって解散した際に、これらマニュアルが新しいカルト団体成立の際に再利用され、多くのメンバーを獲得する事がある。

=== 彼らは破壊する ===
更には破壊的なカルト団体が活動的に行き詰まった場合に、稀に歯止めが利かなくなり、これらマインドコントロール状態にあるメンバーを使って[[破壊活動]]を行ったり、[[殉教]]というオブラートで包んだ[[集団自殺]]といった自己破壊的な行動を起こす場合もあり、いずれにしても悲劇的な結末を迎える事がある。

=== マインドコントロールされた人間は巣に帰る ===
マインドコントロールを受けた人間に共通するのは、自分の帰依する団体には非常に従順で、逆にそれから引き離そうとする者には大変頑固である。多くの場合において、コントロールされている人間は、その帰依している団体から脱落してしまう事を恐怖に感じる事が多く、そのために無理に引き離せば心神耗弱状態に陥る事も珍しくない。また団体から引き離された際にと団体内部で「繰り返し[[呪文]]を唱える」等の思考停止の方法を教え込まれている場合もあり、この方法を取られてしまった場合に、引き離しを行った者は、単純に昼夜を問わない呪文に悩まされ続けるだけではなく、説得を行おうとしても当人が何も聞く気が無いので、徒労に終わる事がある。

更には帰依する団体が解散してしまうなどして永遠に失われてしまうと、新しい帰依対象を見出して、その団体に取り込まれてしまう事も多い。
-->

== 宗教以外のカルト ==
なお[[日本]]では、[[オウム真理教]]の様々な事件により、[[宗教]](特に新興宗教)とマインドコントロールが関連付けられて考えられる事が多いが、これらの破壊的なカルトの中には、宗教的な概念を含まない物も存在している。一部ではビジネスセミナー等と称して、これらのマインドコントロール手法(エンカウンターグループ、Tグループ、自己啓発セミナー)を用いる団体の存在も指摘されている。またカルトではないが、[[連鎖販売取引]]や[[マルチまがい商法]]の中にも、半ば公然とマインドコントロールを行う団体も存在している。

なお、オウム真理教は薬物などを用いており、マインドコントロールではなく、洗脳であり、その中には、実質的にかつての[[冷戦]]時代に[[ソビエト連邦|旧ソ連]]などで行われていたと報告のあった手法を使っていたことも確認されている。

== 類似する現象 ==
一般にはマインドコントロールとはみなされないものの、[[ドメスティックバイオレンス]]に絡んで、マインドコントロール的な現象も報告されている。

たとえばこれら[[暴力]]の被害者は、実質的に軟禁されてはいるものの、完全には[[監禁]]されておらず、逃げようと思えば幾らでも逃げられる状況が見られる。しかし実際にはこれら[[被害者]]は、公的な[[保護]]の手が差し伸べられるまでは、逃げ出すことができない。

これらの被害者は、[[加害者]]より絶えず[[暴行]]と平行して、逃げ出せば殺すと[[脅迫]]されていたり、[[世間]]は絶対助けてくれないとするイメージを絶えず与えられ、この精神的な暴行により精神活動を、ひいては実質的な行動を制限されてしまっている事情が伺える。

このような[[虐待]]行為による精神支配では、その本質においてマインドコントロールに類似する事例も見られ、過去の[[児童虐待]]事件や[[誘拐]]監禁事件においても、[[心的外傷後ストレス障害|PTSD]]にも関連して、「より支配されやすくなっていた」状態の見られる事例が報告されている。

以上は、いわゆる「[[ストックホルム症候群]]」とは似て非なるものである(同症候群では被害者が加害者に共感する現象が見られる)。

== マインドコントロール状態からの解放に関して ==
<!--理由も示さず、削除しないで下さい・ノートでの議論を求めます-->
マインドコントロール状態を維持するためには多くの場合、その対象となる物に疑問を持たないよう厳しく規制されている場合が多い。カルト団体では、そのような疑問は「悪しき考え」として禁止され、そのような考えに至ったら、その過程を考察したりせず、呪文を唱えるように強要される。無論、当初こそは暴力的な方法ではなく、友好的に語り掛け、思考停止に至るように誘導するのではあるが、それらが続くうちに、条件反射で自発的に呪文を唱えるようになってしまう。また、教団に関する批判的な情報に関しては、「信憑性がないから」とか、「修行や心霊によくないから」などの理由で、触れないように強調される。

この段階に入ると、外部からの否定的な干渉があっても、逆にマインドコントロールを強化する結果になる事があるため、対処法は行動をコントロールする団体から引き離して、与えられた条件付け行動を規制し、日常生活を通して徐々に自分で考えさせるように仕向ける方法が有効とされている。また、コントロールされた人間が、過剰な拒絶行動を示さないような当り障りのない話題を選んで与え、それらを基盤に信頼関係を築いて、そこから徐々に「コントロールしようとしていた団体は、実は常識的に見て、おかしかったんじゃないか?」と本人に気付かせる方法がある。

真っ向から否定するのではなく、当人に気付かせ、問題行動や自己規制を止めさせていくためにも、信頼関係の回復は重要である。[[誘拐]]同然に強引にマインドコントロールをしていると目される団体から引き離した場合、支配を被っている側は精神的な支柱を団体側に依存しているなどの傾向があるため、強い精神的ショックを受ける。強引に引き離す行為は、その手段にもよって[[心的外傷]](トラウマ)を被る可能性があることがS.ハッサン『マインドコントロールの恐怖』にも示されており、こういった心理面でのケアも併せて必要だといえよう。

なおこういった離脱プロセスに対しては、コントロール側が離脱を助けようとする活動にネガティブなイメージを予め被支配側に教え込んでいる場合もあり、例えば家族がそういった離脱プロセス関連の組織・団体に依頼した場合、「家族が敵に騙されたのだ」という情報を与えているなどといった問題もみられる。その面でも、信頼と相互関係の回復は、被支配側が「コントロールする側と、それらからの引き離しを希望する側の、どちらがより[[善意]]に基いているか」という自分自身の考えによる判断を始めるための重要な前段階だと解されている。

これらの過程では、自らの価値観を再構築する段階にもよって、無気力感や情緒不安定など、脱会してからの「後遺症」を示す。この長さは、カルトで生活していた期間分にわたって続くことが平均的である。過去に大きな問題となっているような団体では、各々に元信者(脱退者)等から成る脱退グループ(被害者グループとも)も存在しており、それらが救出カウンセリングを行っているケースも多く見られる。

* 参照:[http://www.jscpr.org/advise.htm 日本脱カルト協会「カルト対処法」]

== マインドコントロールの可能性 ==
往々にして、人間の精神を蝕み、破壊するかのように考えられているマインドコントロールではあるが、自己[[暗示]]の一つとして能力開発への応用すること<ref name="mcnosusume">[[小林惠智 ]] 『マインド・コントロールのすすめ―そのメカニズムと積極的活用法』(1995年11月)ISBN 978-4769807377 </ref>や[[犯罪]]抑止や[[タバコ]]や[[アルコール (食品)|アルコール]]等を含む[[薬物依存]]の治療などに効果的だと考える動きもある<ref name="jiyuheno">マデリン・ランドー トバイアス (著), ジャンジャ ラリック (著), Madeleine Landau Tobias (原著), Janja Lalich (原著), 南 暁子 (訳), 上牧 弥生 (訳) 『自由への脱出―カルトのすべてとマインドコントロールからの解放と回復』([[中央アート出版社]] [[1998年]]9月) ISBN 978-4886398703</ref>。
<!--電磁波云々は客観的に見て、アレなんでコメントアウト:脳機能を一時的に低下させる目的に大量の糖を摂取させ昏睡にかなり近い状態にもっていくようなケースもあるようだ、それら低迷した際に低周波の音声によって大部分は無意識に受け入れてしまう、脳は防備できない状態でクリティカルに受け入れる、違法な薬物を必要としないところに合理性を増しているとする説だ。また無線LANなどのインターネット環境において電波の干渉性を利用してスピン効果をねらい生体反応のその効果で微量なホルモン類の欠乏を促す手法も考えられる。さらに超指向性のスピーカが開発販売されている事実関係から現実性を帯びている。-->

しかし本来、人心を操作する手法であり、[[倫理]]面での問題があるため、慎重論が多いのもまた事実である。
; 性犯罪者への利用
; 性犯罪者への利用
: 一般的に[[性犯罪]]者の多くは、衝動的に犯行を重ねるケースが多いが、このマインドコントロール手法を使って、性的興奮を条件反射で押え付ける犯罪抑止の実験が、[[アメリカ合衆国|アメリカ]]などの[[刑務所]]が飽和状態にある国で研究されている。特に児童を対象とした性犯罪者の多くは、自律的な自己抑制が効きにくい事から、当人の了解の上で刑期の短縮や再就職先の斡旋を含め、条件付けを行い、社会復帰を促す臨床実験段階にあるという。そう遠くない未来には、それらの犯罪行為は、治療を必要とする物という認識も出てくるのかもしれない。
: 一般的に[[性犯罪]]者の多くは、衝動的に犯行を重ねるケースが多いが、このマインドコントロール手法を使って、性的興奮を条件反射で押え付ける犯罪抑止の実験が、[[アメリカ合衆国|アメリカ]]などの[[刑務所]]が飽和状態にある国で研究されている。特に児童を対象とした性犯罪者の多くは、自律的な自己抑制が効きにくい事から、当人の了解の上で刑期の短縮や再就職先の斡旋を含め、条件付けを行い、社会復帰を促す臨床実験段階にあるという。そう遠くない未来には、それらの犯罪行為は、治療を必要とする物という認識も出てくるのかもしれない。
; 薬物使用者への利用
; 薬物使用者への利用
: 薬物依存の場合、禁断症状の苦しさもさることながら、薬物使用に対して心理的なハードルが低い代わりに、止めた際の心理的ダメージの大きさが一部から挙げられている。たとえば薬物依存に陥っていたという負い目から、社会的に孤立しやすく再依存しやすいこれらの人々にとって、安易な薬物使用だけが唯一の心の支えになってしまっている場合である。しかし実質的に悪循環であるため、この連鎖を断ち切る上で、マインドコントロール手法を用いられないか?というものである。これらはまだ、理論的な検証段階にあるが、[[グループセラピー]]と併用すれば、格段に再使用防止に役立つのではないかという考えである。|date=2015年8月}}
: 薬物依存の場合、禁断症状の苦しさもさることながら、薬物使用に対して心理的なハードルが低い代わりに、止めた際の心理的ダメージの大きさが一部から挙げられている。たとえば薬物依存に陥っていたという負い目から、社会的に孤立しやすく再依存しやすいこれらの人々にとって、安易な薬物使用だけが唯一の心の支えになってしまっている場合である。しかし実質的に悪循環であるため、この連鎖を断ち切る上で、マインドコントロール手法を用いられないか?というものである。これらはまだ、理論的な検証段階にあるが、[[グループセラピー]]と併用すれば、格段に再使用防止に役立つのではないかという考えである。


== 批判的見解 ==
== マインド・コントロール理論への批判的見解 ==
{{独自研究範囲|ある種の宗教団体が信者に対してマインドコントロールをしているといういわゆる「マインドコントロール理論」は、米国の裁判においては採用されなかった。この理論の主唱者であった心理学者の[[マーガレット・シンガー]]は、米国心理学会内の有志によって、彼女の主張は科学的な裏付けが乏しく心理学者の間で一般に認められてはいないことを指摘する法定助言書が提出されたことにより、裁判で専門家として証言することを裁判官から許されなかった。このように、この理論は[[疑似科学]]と見なされるべきだとする学者もいる。
ある種の宗教団体が信者に対してマインドコントロールをしているといういわゆる「マインドコントロール理論」は、米国の裁判においては採用されなかった。この理論の主唱者であった心理学者の[[マーガレット・シンガー]]は、米国心理学会内の有志によって、彼女の主張は科学的な裏付けが乏しく心理学者の間で一般に認められてはいないことを指摘する法定助言書が提出されたことにより、裁判で専門家として証言することを裁判官から許されなかった。このように、この理論は[[疑似科学]]と見なされるべきだとする学者もいる。


シンガーを議長とした米国心理学会 (APA) の「説得と支配の欺瞞的・間接的テクニックに関する特別委員会 (DIMPAC)」報告書のマインド・コントロール理論は、1987年APAの社会的倫理的責任委員会 (BSERP) によって「科学的厳密さとAPAの承認を得るのに必要な批判的方法に欠ける」とされ却下された。BSERPはDIMPACメンバーに対し、「BSERPはこの報告書を容認できないとした」ことを明示した上でなければ報告書を公表しないように、またDIMPACメンバー任命の事実をもって「米国心理学会が報告書の内容に支持あるいは賛意を与えた」と示唆するような主張をしないように警告した。|date=2015年8月}}
シンガーを議長とした米国心理学会 (APA) の「説得と支配の欺瞞的・間接的テクニックに関する特別委員会 (DIMPAC)」報告書のマインド・コントロール理論は、1987年APAの社会的倫理的責任委員会 (BSERP) によって「科学的厳密さとAPAの承認を得るのに必要な批判的方法に欠ける」とされ却下された。BSERPはDIMPACメンバーに対し、「BSERPはこの報告書を容認できないとした」ことを明示した上でなければ報告書を公表しないように、またDIMPACメンバー任命の事実をもって「米国心理学会が報告書の内容に支持あるいは賛意を与えた」と示唆するような主張をしないように警告した。


(より詳細な情報は、「外部リンク」にある「宗教社会学者によるマインドコントロール理論への批判」「『マインド・コントロール』論争と裁判-『強制的説得』と『不法行為責任』をめぐって」を参照のこと)
=== 信教の自由との問題 ===
[[人権|基本的人権]]には「[[信教の自由]]」があり、これは当人が如何なる信教を支持しようとも、それは当人の[[自由]]であるという理念が存在する。ただ、これがマインドコントロールの問題では、反カルト集団の弁護士は、当人の[[価値観]]が操作され、健全な判断能力を失っていると主張する。この場合において、信教の自由と当人の保護という問題の狭間で、議論も見られる。


=== 信教の自由とマインドコントロール問題 ===
[[世界基督教統一神霊協会|統一教会]]の裁判では、反カルト団体の裁判戦術として、同団体がマインドコントロール手法を用いているという訴えがなされ、脱会説得をめぐり、当人の自由意志が「信用できない」「責任能力がない状態」等の主張がなされた。当人の主観(→[[客体]])とっては「不当な拉致監禁や人権に対する侵害」となり、一方の当人がマインドコントロールされているとみなしている側にとっては「保護と説得による霊感商法からの離脱」となる。当人が信教の自由を訴え、第三者がマインドコントロールを主張する場合には、憲法で保障されている権利侵害にあたる可能性もあるため、慎重な判断が求められる。
[[人権|基本的人権]]には「[[信教の自由]]」があり、これは当人が如何なる信教を支持しようとも、それは当人の[[自由]]であるという理念が存在する。ただ、これがマインドコントロールの問題では、当人の[[価値観]]が操作され、健全な判断能力を失っているとみなされる。この場合において、信教の自由と当人の保護という問題の狭間で、議論も見られる。


[[世界基督教統一神霊協会|統一教会]]の問題では、同団体がマインドコントロール手法を用いていることが指摘され、脱会説得をめぐり、当人の自由意志が「信用できない」という問題を含んでいるため、当人の主観(→[[客体]])とっては「不当な拉致監禁や人権に対する侵害」となり、一方の当人がマインドコントロールされているとみなしている側にとっては「保護と説得による霊感商法からの離脱」となる。こういった問題は、第三者が当人がマインドコントロールされているか否かという判定を下す必要があり、難しい問題を含んでいる。
== 裁判実例 ==

== マインド・コントロールをめぐる裁判 ==
; [[オウム真理教]]の裁判
; [[オウム真理教]]の裁判
: 死者12人を出した「[[地下鉄サリン事件]]」の実行犯、[[横山真人]]被告に対し、[[1999年]]10月1日、東京地裁は「マインドコントロール下の能力減退は認められない」として死刑判決を出した。
: 死者12人を出した「[[地下鉄サリン事件]]」の実行犯、[[横山真人]]被告に対し、[[1999年]]10月1日、東京地裁は「マインドコントロール下の能力減退は認められない」として死刑判決を出した。
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: 元「[[世界基督教統一神霊協会|統一教会]]」の信者が、教団のマインドコントロールという不当な手段を用いての勧誘、教化の違法性を問う裁判。教団側は、マインドコントロールというものの存在を否定し、入信は自由意思によるものであると主張してきた。訴訟の当初、裁判所は「原告らの主張するいわゆるマインドコントロールは、それ自体多義的であるほか、一定の行為の積み重ねにより一定の思想を植え付けることをいうと捉えたとしても、原告らが主張するような強い効果があるとは認められない」([[1998年]]3月26日 名古屋地裁)などとして元信者側の主張を退けてきたが、[[1997年]]4月19日の奈良地裁の「『[[世界基督教統一神霊協会|統一教会]]』の献金勧誘システムは、不公正な方法を用い、教化の過程を経てその批判力を衰退させて献金させるものと言わざるを得ず、違法と評価するのが相当である」とした判決や、 [[2001年]] 最高裁において「[[世界基督教統一神霊協会|統一教会]]」の上告が棄却され、元信者側の勝訴として確定した広島高裁岡山支部判決では、不法行為が成立するかどうかの認定判断にマインドコントロールという概念は使えないとしたものの、「教義の実践の名のもとに他人の法益を侵害するものであって、違法なものというべく、故意による一体的な一連の不法行為と評価される」と述べた判決は、実質的には「マインドコントロール」を認めたのと同然と評価する向きもある[http://www.asahi-net.or.jp/~am6K-kzhr/a0009han.htm]。
: 元「[[世界基督教統一神霊協会|統一教会]]」の信者が、教団のマインドコントロールという不当な手段を用いての勧誘、教化の違法性を問う裁判。教団側は、マインドコントロールというものの存在を否定し、入信は自由意思によるものであると主張してきた。訴訟の当初、裁判所は「原告らの主張するいわゆるマインドコントロールは、それ自体多義的であるほか、一定の行為の積み重ねにより一定の思想を植え付けることをいうと捉えたとしても、原告らが主張するような強い効果があるとは認められない」([[1998年]]3月26日 名古屋地裁)などとして元信者側の主張を退けてきたが、[[1997年]]4月19日の奈良地裁の「『[[世界基督教統一神霊協会|統一教会]]』の献金勧誘システムは、不公正な方法を用い、教化の過程を経てその批判力を衰退させて献金させるものと言わざるを得ず、違法と評価するのが相当である」とした判決や、 [[2001年]] 最高裁において「[[世界基督教統一神霊協会|統一教会]]」の上告が棄却され、元信者側の勝訴として確定した広島高裁岡山支部判決では、不法行為が成立するかどうかの認定判断にマインドコントロールという概念は使えないとしたものの、「教義の実践の名のもとに他人の法益を侵害するものであって、違法なものというべく、故意による一体的な一連の不法行為と評価される」と述べた判決は、実質的には「マインドコントロール」を認めたのと同然と評価する向きもある[http://www.asahi-net.or.jp/~am6K-kzhr/a0009han.htm]。


* イギリスではマインドコントロールが刑法の概念に組み込まれている。
* 学者からは「マインドコントロール論」が否定されており、法律も存在しないが、反カルト集団の弁護人が「マインドコントロールされていたために、ふつうの判断ができる状態ではなかった」と責任能力の欠如を主張するために裁判戦略としてしばしば用いられる。判例のレベルで概念の蓄積が成されている場合もあるが、国によって態度に違いがある。同じ国でも正反対の判決が出る場合もあり、未だ微妙な領域といわざるを得ない。
* フランスにおいては物議をかもした後、セクト(カルト)団体対策として限定的に取り入れられた。
* 法律は存在しないが判例のレベルで概念の蓄積が成されている場合もあるが、国によって態度に違いがある。同じ国でも正反対の判決が出る場合もあり、未だ微妙な領域といわざるを得ない。

=== 備考 ===
なお統一教会の問題に関して名古屋裁判などで言及された「多義的用法」とは、原告である元信者側の主張する「違法なマインドコントロール」という表現が、誰かが他者を意のままにコントロールしようとする動機面に着目した表現で、同教団への勧誘や教義に従わせたのが「催眠術」「洗脳」「詐欺」にあたる行為なのか、悪徳商法のように意図的に錯覚させることなのか、いわゆる説得なのか、あるいは実際に何か宗教上の心霊的感化なのかは不明確であることを指している。S.ハッサンの『マインドコントロールの恐怖』においても、特にこの「手法による定義」は明確ではなく、マインドコントロールという語に集約された「心理操作手法全般」を指している。

これらは、同教会側が「マインドコントロール」を手法としては定義できない原告側への反論として用いたが、広島高裁岡山支部判決ではマインドコントロールという行為の手法的定義は脇にのけた形で、動機面より故意に他者の利益を違法に侵害したとして原告側の請求を認めている。


== 関連項目 ==
== 関連項目 ==
* [[コマーシャルメッセージ]]
* [[サブリミナル効果]]
* [[サブリミナル効果]]
* [[悪徳商法]]
* [[悪徳商法]]
78行目: 140行目:
* [[妄想]] - [[妄執]]
* [[妄想]] - [[妄執]]
* [[自己啓発セミナー]]
* [[自己啓発セミナー]]
* [[プロパガンダ]]
* [[MKウルトラ計画]]
* [[マッチポンプ]]
* [[サイコトロニクス]]
* [[心理操作]]<sub>([[w:en:Psychological manipulation|英]])</sub>
* [[心理操作]]<sub>([[w:en:Psychological manipulation|英]])</sub>


== 脚注 ==
== 脚注 ==
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== 参考文献 ==
== 参考文献 ==
* [[紀藤正樹]](著) 『マインド・コントロール』([[アスコム (出版社)|アスコム]] 2012年6月) ISBN-10 4776207311 ISBN-13 978-4776207313 - カルトやマインドコントロール問題の教科書的存在の良書
* {{Cite |和書 |author = 櫻井義秀 |authorlink = 櫻井義秀 |title = 新宗教の形成と社会変動 : 近・現代日本における新宗教 研究の再検討 |date = 1997-09-30 |publisher = [[北海道大学]] |url=http://eprints.lib.hokudai.ac.jp/dspace/bitstream/2115/33694/1/46(1)_PL111-194.pdf |format=PDF |ref={{Sfnref|櫻井義秀 |1997}} }}
* [[紀藤正樹]]外(著・訳) 『カルト宗教―性的虐待と児童虐待はなぜ起きるのか』([[アスコム (出版社)|アスコム]] 2007年3月) ISBN 978-4776203933 - カルト被害者の救済を多数手がける紀藤正樹弁護士が、カルトの定義、マインドコントロールの手法やその違法性を判例を踏まえて詳細に論じた部分(特に83頁まで)が、カルトやマインドコントロールの問題に悩む家族たちへの推奨図書として、幅広く読まれている。
{{参照方法|date=2015年7月}}
* [[紀藤正樹]] (著) 『21世紀の宗教法人法』(朝日新聞社 1995年11月) ISBN 9784022730688 - カルト被害者の救済を多数手がける紀藤正樹弁護士が、オウム真理教事件がおきた年に出版した本で、当時のオウム真理教に関する議論、カルトの定義、マインドコントロールの違法性の問題を巡る議論、宗法法人法の改正にまつわる議論が参考になる。
* [[西田公昭]] ([[静岡県立大学]]/[[社会心理学]])著 『マインド・コントロールとは何か』 ([[紀伊國屋書店]] 1995年) ISBN 978-4314007139 -
* [[西田公昭]] (著) セレクション 社会心理学 18 『「信じるこころ」の科学 ― マインド・コントロールとビリーフ・システムの社会心理学』([[サイエンス社]] [[1998年]]2月) ISBN 978-4781908700
* 安藤清志・ [[西田公昭]] 編 現代のエスプリ369 『「マインド・コントロール」と心理学』 ([[至文堂]] 1998年4月) ISBN 4-7843-5369-0
* 渡邉学著 [http://nirc.nanzan-u.ac.jp/Shuppanbutsu/Shoho_to_burechin/pdf/S9-Watanabe.pdf 『アメリカのマインド・コントロール論争』]
* 渡邉学著 [http://nirc.nanzan-u.ac.jp/Shuppanbutsu/Shoho_to_burechin/pdf/S9-Watanabe.pdf 『アメリカのマインド・コントロール論争』]
* 島田裕巳著 [http://agora-web.jp/archives/1434957.html 『洗脳は可能なのか?』]
* [[下條信輔]] 『サブリミナル・マインド ― 潜在的人間観のゆくえ([[中公新書]] 1324)』 ([[中央公論社]] 1996年10月) ISBN 978-4121013248
* トーマス・W. カイザー(著)マインド・コントロール問題研究会(訳) 『あやつられる心―破壊的カルトのマインド・コントロール戦略』[[福村出版]] ([[1995年]]9月) ISBN 4762822116
* [[スタンレー・ミルグラム]] (著) [[岸田秀]](訳) 『河出・現代の名著 服従の心理〔新装版〕』 ([[河出書房新社]] 1995年10月) ISBN 978-4309706146
* [[スティーヴン・ハッサン]](著) [[浅見定雄]](訳) 『マインド・コントロールの恐怖』(恒友出版 1993年6月) ISBN 978-4765230711 - 一度は統一教会に入会し、考え方や感じ方までも変えられてしまった筆者が、周囲の助けを得て脱会し、その後、数多くの脱会者を助けた実例に基づいた内容で、「マインドコントロールとは何か」を知るための本として、幅広く読まれている。(絶版)
<!--以下、反カルト集団による。用いる際は、慎重に扱い定義等では出典としないこと-->
* スティーヴン・ハッサン著『マインド・コントロールからの救出―愛する人を取り戻すために』(教文館 2007年11月) 中村周而・山本ゆかり(訳)  ISBN 4764266687 ISBN 978-4764266681 - 前項の著者が、25年間の脱会カウンセリングの集大成として書き下ろした最新作。各国で救出にあたる家族の必読書とされている書籍 ''Releasing the Bond: Empowering People to Think for Themselves''の日本語版。 マインドコントロールとは何か、カルトとは、救出とは、救出のためのに何ができるのか等、具体的な戦略を含めて紹介されている。
* トーマス・W. カイザー著 マインド・コントロール問題研究会訳 『あやつられる心―破壊的カルトのマインド・コントロール戦略』[[福村出版]] ([[1995年]]9月) ISBN 4762822116
* [[西田公昭]] ([[静岡県立大学]]/[[社会心理学]])著 『マインド・コントロールとは何か』 ([[紀伊國屋書店]] 1995年) ISBN 978-4314007139 - 裁判の参考資料として提出されたこともある資料を含む書籍で、上記の書籍と共にこの問題について客観的(学術的にも)に知るための極めて重要な参考文献とされる。
* スティーヴン・ハッサン著『マインド・コントロールからの救出―愛する人を取り戻すために』(教文館 2007年11月) 中村周而・山本ゆかり(訳)  ISBN 4764266687 ISBN 978-4764266681 - ''Releasing the Bond: Empowering People to Think for Themselves''の日本語版。
* [[西田公昭]] (著) セレクション 社会心理学 18 『「信じるこころ」の科学 ― マインド・コントロールとビリーフ・システムの社会心理学』([[サイエンス社]] [[1998年]]2月) ISBN 978-4781908700
* 安藤清志・ [[西田公昭]] 編 [[現代のエスプリ]] 369 『「マインド・コントロール」と心理学』 ([[至文堂]] 1998年4月) ISBN 4-7843-5369-0
* [[郷路征記]](著) 『統一協会マインド・コントロールのすべて―人はどのようにして文鮮明の奴隷になるのか』([[教育史料出版会]] 1993年12月) ISBN 978-4876522507 (統一教会の伝道の違法性などを、いわゆる「青春を返せ裁判」を訴え続けてきた弁護士による著作。元信者への聞き取りから得た、統一教会の教化の手法を詳細に説明)
* R.チャルディーニ (著) 社会行動研究会 訳 『影響力の武器――なぜ,人は動かされるのか』 ([[誠信書房]] 1991年9月1日) ISBN 978-4414302691
* R.チャルディーニ (著) 社会行動研究会 訳 『影響力の武器――なぜ,人は動かされるのか』 ([[誠信書房]] 1991年9月1日) ISBN 978-4414302691
* [[スタンレー・ミルグラム|S.ミルグラム]] (著) [[岸田秀]](訳) 『河出・現代の名著 服従の心理〔新装版〕』 ([[河出書房新社]] 1995年10月) ISBN 978-4309706146
* 郷路征記著 『統一協会マインド・コントロールのすべて―人はどのようにして文鮮明の奴隷になるのか』([[教育史料出版会]] 1993年12月) ISBN 978-4876522507
* [[紀藤正樹]]『マインド・コントロール』([[アスコム (出版)|アスコム]] 20126月) ISBN-10 4776207311 ISBN-13 978-4776207313 
* [[下條信輔]] サブリミナル・マインド ― 潜在的人間観のゆくえ([[中公新書]] 1324)』 ([[中央公論社]] 199610月) ISBN 978-4121013248
* [[リチャード・キャメリアン]](著)、[[兼近修身]](訳) 『洗脳の科学』([[第三書館]] 1994年6月) ISBN 978-4807494224 - タイトルは洗脳となっているが[[中央情報局|CIA]]の[[MKウルトラ計画]]を取り上げており参考になる。


== 外部リンク ==
== 外部リンク ==
* [http://suotani.com/ 「洗脳」「マインドコントロール」の虚構を暴く]統一教会の天宙平和連合(UPF)日本事務次長の作成による資料
* [http://suotani.com/ 「洗脳」「マインドコントロール」の虚構を暴く]資料
**[http://suotani.com/materials/kyokou 「マインド・コントロール理論」その虚構の正体]
* [http://www.jscpr.org/ 日本脱カルト研究会(JDCC)]
* [http://nursing.u-shizuoka-ken.ac.jp/~nishidak/mc.htm マインド・コントロール]-[http://nursing.u-shizuoka-ken.ac.jp/~nishidak/ 現代社会を社会心理学で考察するサイト(西田公昭/静岡県立大学)]内のページ
* [http://nursing.u-shizuoka-ken.ac.jp/~nishidak/mc.htm マインド・コントロール]-[http://nursing.u-shizuoka-ken.ac.jp/~nishidak/ 現代社会を社会心理学で考察するサイト(西田公昭/静岡県立大学)]内のページ
* [http://www.n-seiryo.ac.jp/~usui/mc/index.html マインドコントロール研究所](碓井真史・[[新潟青陵大学]]大学院臨床心理学研究科教授のウェブサイト)<!-- リンク切れ ―上記 [http://www.asahi-net.or.jp/~am6k-kzhr/nisida.htm講演『マインドコントロールとは何か』] --><!--リンク切れ* [http://www.hucc.hokudai.ac.jp/~n16260/karuto.htm カルト問題、マインドコントロール論] - 櫻井義秀(北海道大学) -->
* [http://www.n-seiryo.ac.jp/~usui/mc/index.html マインドコントロール研究所]([[碓井真史]]・[[新潟青陵大学]]大学院臨床心理学研究科教授のウェブサイト)
* [http://www.asahi-net.or.jp/~am6k-kzhr/ カルト被害を考える会]<!-- リンク切れ ―上記 [http://www.asahi-net.or.jp/~am6k-kzhr/nisida.htm講演『マインドコントロールとは何か』] -->
<!--リンク切れ * [http://www.hucc.hokudai.ac.jp/~n16260/karuto.htm カルト問題、マインドコントロール論] - 櫻井義秀(北海道大学) -->
* [http://www.hucc.hokudai.ac.jp/~n16260/pdf2003/bulltinemindcontrolandlawsuit2003.pdf 『マインド・コントロール』論争と裁判-『強制的説得』と『不法行為責任』をめぐって(北海道大学外学院文学研究科 櫻井義秀)] (PDFファイル)
* [http://www.hucc.hokudai.ac.jp/~n16260/pdf2003/bulltinemindcontrolandlawsuit2003.pdf 『マインド・コントロール』論争と裁判-『強制的説得』と『不法行為責任』をめぐって(北海道大学外学院文学研究科 櫻井義秀)] (PDFファイル)
* [http://changingminds.org/index.htm changingminds](英語)


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2015年12月18日 (金) 13:25時点における版

マインドコントロール: Mind control)は、強制によらず、さも自分の意思で選択したかのように、あらかじめ決められた結論へと誘導する技術、またその行為のこと[1]

概略

日本では、1992年統一教会合同結婚式に参加した山崎浩子が、翌1993年に婚約の解消と統一教会から脱会を表明した記者会見で、「マインドコントロールされていました。」と発言したことと、同日、発売された、元統一教会員のスティーヴン・ハッサン の『マインド・コントロールの恐怖』という本がベストセラーとなったことから、“マインドコントロール”という言葉が広く認知されるようになった[2] [3]。また、 サリンを使った無差別テロである地下鉄サリン事件は、オウム真理教という宗教団体の教祖の指示で行われたということ自体が衝撃であったが、その団体に多くの高学歴の青年たちが出家して所属していたこと、事件が明らかになってからも教団を離れない多くの信者の姿などが「マインドコントロール」というものの威力を印象づけるものとなった(もっとも後述する厳密な定義に従えば、オウム真理教事件の場合は、マインドコントロールと洗脳(ブレイン・ウォッシング)の双方を行っていた)。

「マインドコントロール」は教祖を絶対視し、反社会的な行動をするカルト的な宗教が、信者勧誘や信者管理のために、駆使する心理的手法として、その是非や有無を巡って議論を呼んでいる。日本では1994年に、社会心理学者の西田公昭が「マインドコントロール」に関する学術論文を発表したが、「マインドコントロール」が実在するかどうかは、現在心理学的にも医学的にも論争の対象となっている。但しマインドコントロールの手法の中に、違法となりうる手法が存在することには、最高裁判例もあり、裁判の実務上では争いがない[4]

マインドコントロール理論の起源

1970年代アメリカでは、既成宗教とは異なった新興宗教、すなわち「カルト的教団」が出現し始めていた。そのような中、脱会者らの要請により人民寺院という教団の調査に立ち入ったレオ・ライアン下院議員(民主党選出)一行が教団の人間によって銃殺され、直後に教団幹部の指示により900人もの信者らが集団自殺を図るという悲劇的事件が起きた。 それを期に、信者たちの入信のプロセスを心理学者らが調べてゆくうちに、本人の自由な意思で入ったのではなく、外部からの影響力によって入信させられたのではないかという仮説が生まれ、それが「マインドコントロール理論」が生まれるきっかけとなったという。

「マインドコントロール」に利用される人間心理

マインドコントロールは、人間の誰でもが持つ心理に働きかける。西田公昭によれば、この人間心理を利用して勧誘対象者を一定の結論に誘導することが「マインドコントロール」である。通常の商業活動にも一時的な効果として用いられているが、特にキャッチセールスなどでは経験則によって培われた様々な心理誘導テクニックによって高額商品が販売される。悪徳商法カルトに限らず、成功哲学に基づいたマルチ商法自己啓発セミナーなどの団体においても同種の手法が導入されており、マニュアル化されている場合もある。これらは一般の物販とは異なり、被害者やその家族を巻き込んで、人生を通じた被害をもたらすケースがある。

好意の返報性
人から好意を受けると、その好意に応えたくなる心理のこと。この心理を利用して、勧誘側から讃美の言葉や手書きの手紙などによって、被勧誘者へ向けて好意が繰り返し示される(「この乱れた風潮の中で人生を真剣に考えているなんて、すごい! 貴方は素晴らしいです!」など)。
ローボール(低い球)
いきなり「○○会に入りませんか?」「××が教祖です」と言われても、一般に人は心理的抵抗を感じるが、「お時間あります?」「手相の勉強をしています」「ちょっとだけ時間ください、ここでいいですから」「お金はかかりません」「そこの喫茶店で30分だけ話を聞いてください」「やってみなければ、わからない」という誘い方をされると、心理的抵抗感が薄れやすくなる。このような心理を利用した勧誘テクニックのことを、まず受け取りやすい低いボールを投げることからローボールテクニックと呼ぶ。投げられるボールは適当な期間を置いて、少しずつ高くなっていく。最初は無料チケットで絵画展やコンサートに誘い、次の誘いに応えやすい心理が作り出される(団体への勧誘する目的などは、当初、意図的に伏せられる場合が多い)。
権威性
著名人との関係を強調されることで、人間は心理的に人や団体を信用しやすくなる。団体の代表とその著名人との接触が、たとえ過去の数時間の1度限りであったとしても、その対談・握手写真などが、その後、長期間にわたり被勧誘者や支持者に対して繰り返し利用されることがある(例:「ゴルバチョフと団体の代表」)。また、その団体が関連性を隠して、別の団体名でイメージ戦略等で行っている社会的に受け入れられやすい活動(福祉活動、平和活動、家庭再建、青少年教育など)に賛同を示した著名人が、あたかもその団体の理念や活動に賛同しているかのように宣伝されることもある。また、著名芸能人がその団体のメンバーであることなども利用される(広告塔効果)。
希少性
「限定○○個!」「期間限定!」「あなただけにプレゼント!」「ここだけの話」など、数量や期間・対象を限られることによって惹きつけられる心理のこと。カルトなどの勧誘では「転換期って知っていますか?」、「今ならもっと偉い先生に見てもらえます!」、「貴方は選ばれた人なのです」といった言葉で希少性の心理に訴えかける。
コミットメント(関与)の一貫性
「つじつまの合う自分でいたい」という人間心理。日常的な場面では「せっかく名前や住所を書いて入会無料で作った会員カードなのだから、使ってみよう」と考えること。宗教の導入部分では「ここまで時間をかけて話を聞いてしまったのだから、試しにやってみよう」と思うこと。マインドコントロールの最終的な局面では、「ここまで、この教えで歩んで来たのだから、○○に参加しよう」「全身全霊をかけて信仰すると誓ったから、全財産を献金して献身生活に入ろう」など、「何のために今まで…」という考えかたにあらわれる。
知覚のコントラスト(対比)
心理的に対照的な刺激を受けると、人間の知覚や認識に対比効果が出ることを「知覚のコントラスト」という。「原爆展などの戦争写真展を見た後では、何気ない普段どおりの公園の風景でも光り輝いて見える」という心理のこと。日常的には「高級店で高価な値札を見た後で安価な店に立ち寄った際に、普段は手が出ない商品でも安く感じられる」という人間心理にあらわれる。一部宗教団体や思想団体での勧誘では、「戦争・飢え・差別・殺人・自殺・不倫・離婚」など、世の中の暗い面を過剰に強調した映画やビデオ等で被勧誘者に対して叩き込まれ、被勧誘者は一時的に絶望的な心理に追い込まれる。被勧誘者は、その暗く八方ふさがりな心理にある中で、明るい出口としてその団体の理想や行動が示されたり、その流れで教祖の名前や写真が明かされたりするため、それらが実際以上に光り輝いて見えてしまう。
恐怖心
一部の宗教団体では「脱会すると不幸になる」と教えられる。教義として教えられなくとも、脱会して不幸になった事例が、まことしやかに繰り返し示され、恐怖心が喚起される。「不幸になる」と言われる対象はその宗教によって異なり、「霊界の先祖」「本人」「親・兄弟・親戚」「子孫」など様々である。「教えを聞く前ならともかく、教えを知ってから脱会すると絶対に救われない」というレトリックも利用される。また、脱会の場合だけではなく、仮にその団体から一時的に距離を取りたいと申し出ても、「悪魔が入る」「地獄に行く」などと言われ、カルトによってその表現は様々であるものの、刷り込まれた恐怖心によって、団体から距離と時間を置くことが出来なくなる。

マインド・コントロールの手法

この技法は、ある特定の目的に向かうよう、そのように思い、考え、行動するべく誘導するものである。本来、自由であるべき個人の行動原則を誘導・操作するため、道義的な問題をはらむ部分があり、カルト宗教の問題とも関わって、これに対する批判が多々あるが、この技法を利用して社会規範意識の刷り込みによる犯罪者の矯正や、心理的に手を出してしまいやすい薬物依存に悩む人の意識改革を目指すグループも存在する[1]

泣き落とし
近年、振り込め詐欺などでも使われる人の情に付け入る手法である。宗教においては教祖がいかに苦難の道を歩んだか等が語られ、特にカルトの教祖は信者に向けて「さめざめと泣いてみせる」形の説教を行う。
グループ活動
グループによる勧誘活動や訪問販売活動を行わせる。それが頻繁かつ長時間であればあるほど「コミットメントの一貫性」(なんの為に今まで)の心理が働き、たとえ教義に疑問を持ったとしても信仰生活を無駄だったとは思えなくなりカルト生活を長引かせる。
しつけ的な手法(入信後)
マインドコントロールの手法として特に顕著なのは、さまざまな局面に対しての膨大な規則を与えて、それらに従うように仕向け、時にはその理由を知る事や考える事を禁止し、その通りに行動すれば非常に賞賛し、僅かでも外れれば厳しく罰して、次第にその規則に無意識に従うように「しつける(犬に芸を教えるように仕込む)」事である。
この「躾(しつけ)」が繰り返されると、常識や個人的価値観、果ては良心や善悪感までもが失われてしまうことがある。そのためコントロールされている者は非常識な振る舞いをしても、当の本人はそれに何の疑問も感じないことにもなる。ただし、怨念、依存、執着といった一般には歓迎されない感情・精神的状態を抑制するために、マインドコントロールが有効であるとの見解もある[要出典]
(参考)洗脳的手法
マインドコントロールをより効果的とするために、「孤独・極度の不眠や疲労・薬物・栄養失調等」によって、一時的な精神機能や思考能力の低下状態を引き起こさせ、その際にある特定の行動規範や思想を、文字通り「叩き込む」事も行われる。
さらに、それらの思想には、幾つかの条件付けを行い、繰り返し強化させる事で、当人の思想そのものになるようにしてしまうことがある。この結果としてマインドコントロールされている者は指示者のいいなりとなり、反社会的活動でさえも平然と行うことになる。
ある種の権威者とそれへの追随者との間にも同様な関係が見られる(教祖と信者など)。もちろん、これがコントロールされる者の利益となるのならば問題は少ないのだろうが、現実にはコントロールされる側の者が搾取され、経済的・社会的に被害を受ける者となっていることが多いところに大きな問題がある(カルト宗教の問題など)。

洗脳との相違

洗脳の場合は強制力を伴うのに対し、マインドコントロールの場合には明らかにそれと解る強制的な力を自覚する事が無く、ありふれた状況によって始まるのが普通である。また社会心理学的テクニックの要素が強い。習慣化・強化された偏った価値観等により、個人の考え方がカルト・セクト集団に取り込まれて大きく歪められてしまう。時間の経過と共にカルト・セクト集団の要求がエスカレートする為に徐々に個人にとって大きな被害に発展する。回復するためには早い段階での救出カウンセリング、自発的脱会後であれば早目の脱会カウンセリングなどが効果的である。ヨーゼフ・ゲッベルス#宣伝手法・考えを巡る強敵との相克も参照の事。

宗教以外のカルト

なお日本では、オウム真理教の様々な事件により、宗教(特に新興宗教)とマインドコントロールが関連付けられて考えられる事が多いが、これらの破壊的なカルトの中には、宗教的な概念を含まない物も存在している。一部ではビジネスセミナー等と称して、これらのマインドコントロール手法(エンカウンターグループ、Tグループ、自己啓発セミナー)を用いる団体の存在も指摘されている。またカルトではないが、連鎖販売取引マルチまがい商法の中にも、半ば公然とマインドコントロールを行う団体も存在している。

なお、オウム真理教は薬物などを用いており、マインドコントロールではなく、洗脳であり、その中には、実質的にかつての冷戦時代に旧ソ連などで行われていたと報告のあった手法を使っていたことも確認されている。

類似する現象

一般にはマインドコントロールとはみなされないものの、ドメスティックバイオレンスに絡んで、マインドコントロール的な現象も報告されている。

たとえばこれら暴力の被害者は、実質的に軟禁されてはいるものの、完全には監禁されておらず、逃げようと思えば幾らでも逃げられる状況が見られる。しかし実際にはこれら被害者は、公的な保護の手が差し伸べられるまでは、逃げ出すことができない。

これらの被害者は、加害者より絶えず暴行と平行して、逃げ出せば殺すと脅迫されていたり、世間は絶対助けてくれないとするイメージを絶えず与えられ、この精神的な暴行により精神活動を、ひいては実質的な行動を制限されてしまっている事情が伺える。

このような虐待行為による精神支配では、その本質においてマインドコントロールに類似する事例も見られ、過去の児童虐待事件や誘拐監禁事件においても、PTSDにも関連して、「より支配されやすくなっていた」状態の見られる事例が報告されている。

以上は、いわゆる「ストックホルム症候群」とは似て非なるものである(同症候群では被害者が加害者に共感する現象が見られる)。

マインドコントロール状態からの解放に関して

マインドコントロール状態を維持するためには多くの場合、その対象となる物に疑問を持たないよう厳しく規制されている場合が多い。カルト団体では、そのような疑問は「悪しき考え」として禁止され、そのような考えに至ったら、その過程を考察したりせず、呪文を唱えるように強要される。無論、当初こそは暴力的な方法ではなく、友好的に語り掛け、思考停止に至るように誘導するのではあるが、それらが続くうちに、条件反射で自発的に呪文を唱えるようになってしまう。また、教団に関する批判的な情報に関しては、「信憑性がないから」とか、「修行や心霊によくないから」などの理由で、触れないように強調される。

この段階に入ると、外部からの否定的な干渉があっても、逆にマインドコントロールを強化する結果になる事があるため、対処法は行動をコントロールする団体から引き離して、与えられた条件付け行動を規制し、日常生活を通して徐々に自分で考えさせるように仕向ける方法が有効とされている。また、コントロールされた人間が、過剰な拒絶行動を示さないような当り障りのない話題を選んで与え、それらを基盤に信頼関係を築いて、そこから徐々に「コントロールしようとしていた団体は、実は常識的に見て、おかしかったんじゃないか?」と本人に気付かせる方法がある。

真っ向から否定するのではなく、当人に気付かせ、問題行動や自己規制を止めさせていくためにも、信頼関係の回復は重要である。誘拐同然に強引にマインドコントロールをしていると目される団体から引き離した場合、支配を被っている側は精神的な支柱を団体側に依存しているなどの傾向があるため、強い精神的ショックを受ける。強引に引き離す行為は、その手段にもよって心的外傷(トラウマ)を被る可能性があることがS.ハッサン『マインドコントロールの恐怖』にも示されており、こういった心理面でのケアも併せて必要だといえよう。

なおこういった離脱プロセスに対しては、コントロール側が離脱を助けようとする活動にネガティブなイメージを予め被支配側に教え込んでいる場合もあり、例えば家族がそういった離脱プロセス関連の組織・団体に依頼した場合、「家族が敵に騙されたのだ」という情報を与えているなどといった問題もみられる。その面でも、信頼と相互関係の回復は、被支配側が「コントロールする側と、それらからの引き離しを希望する側の、どちらがより善意に基いているか」という自分自身の考えによる判断を始めるための重要な前段階だと解されている。

これらの過程では、自らの価値観を再構築する段階にもよって、無気力感や情緒不安定など、脱会してからの「後遺症」を示す。この長さは、カルトで生活していた期間分にわたって続くことが平均的である。過去に大きな問題となっているような団体では、各々に元信者(脱退者)等から成る脱退グループ(被害者グループとも)も存在しており、それらが救出カウンセリングを行っているケースも多く見られる。

マインドコントロールの可能性

往々にして、人間の精神を蝕み、破壊するかのように考えられているマインドコントロールではあるが、自己暗示の一つとして能力開発への応用すること[5]犯罪抑止やタバコアルコール等を含む薬物依存の治療などに効果的だと考える動きもある[6]

しかし本来、人心を操作する手法であり、倫理面での問題があるため、慎重論が多いのもまた事実である。

性犯罪者への利用
一般的に性犯罪者の多くは、衝動的に犯行を重ねるケースが多いが、このマインドコントロール手法を使って、性的興奮を条件反射で押え付ける犯罪抑止の実験が、アメリカなどの刑務所が飽和状態にある国で研究されている。特に児童を対象とした性犯罪者の多くは、自律的な自己抑制が効きにくい事から、当人の了解の上で刑期の短縮や再就職先の斡旋を含め、条件付けを行い、社会復帰を促す臨床実験段階にあるという。そう遠くない未来には、それらの犯罪行為は、治療を必要とする物という認識も出てくるのかもしれない。
薬物使用者への利用
薬物依存の場合、禁断症状の苦しさもさることながら、薬物使用に対して心理的なハードルが低い代わりに、止めた際の心理的ダメージの大きさが一部から挙げられている。たとえば薬物依存に陥っていたという負い目から、社会的に孤立しやすく再依存しやすいこれらの人々にとって、安易な薬物使用だけが唯一の心の支えになってしまっている場合である。しかし実質的に悪循環であるため、この連鎖を断ち切る上で、マインドコントロール手法を用いられないか?というものである。これらはまだ、理論的な検証段階にあるが、グループセラピーと併用すれば、格段に再使用防止に役立つのではないかという考えである。

マインド・コントロール理論への批判的見解

ある種の宗教団体が信者に対してマインドコントロールをしているといういわゆる「マインドコントロール理論」は、米国の裁判においては採用されなかった。この理論の主唱者であった心理学者のマーガレット・シンガーは、米国心理学会内の有志によって、彼女の主張は科学的な裏付けが乏しく心理学者の間で一般に認められてはいないことを指摘する法定助言書が提出されたことにより、裁判で専門家として証言することを裁判官から許されなかった。このように、この理論は疑似科学と見なされるべきだとする学者もいる。

シンガーを議長とした米国心理学会 (APA) の「説得と支配の欺瞞的・間接的テクニックに関する特別委員会 (DIMPAC)」報告書のマインド・コントロール理論は、1987年APAの社会的倫理的責任委員会 (BSERP) によって「科学的厳密さとAPAの承認を得るのに必要な批判的方法に欠ける」とされ却下された。BSERPはDIMPACメンバーに対し、「BSERPはこの報告書を容認できないとした」ことを明示した上でなければ報告書を公表しないように、またDIMPACメンバー任命の事実をもって「米国心理学会が報告書の内容に支持あるいは賛意を与えた」と示唆するような主張をしないように警告した。

(より詳細な情報は、「外部リンク」にある「宗教社会学者によるマインドコントロール理論への批判」「『マインド・コントロール』論争と裁判-『強制的説得』と『不法行為責任』をめぐって」を参照のこと)

信教の自由とマインドコントロール問題

基本的人権には「信教の自由」があり、これは当人が如何なる信教を支持しようとも、それは当人の自由であるという理念が存在する。ただ、これがマインドコントロールの問題では、当人の価値観が操作され、健全な判断能力を失っているとみなされる。この場合において、信教の自由と当人の保護という問題の狭間で、議論も見られる。

統一教会の問題では、同団体がマインドコントロール手法を用いていることが指摘され、脱会説得をめぐり、当人の自由意志が「信用できない」という問題を含んでいるため、当人の主観(→客体)とっては「不当な拉致監禁や人権に対する侵害」となり、一方の当人がマインドコントロールされているとみなしている側にとっては「保護と説得による霊感商法からの離脱」となる。こういった問題は、第三者が当人がマインドコントロールされているか否かという判定を下す必要があり、難しい問題を含んでいる。

マインド・コントロールをめぐる裁判

オウム真理教の裁判
死者12人を出した「地下鉄サリン事件」の実行犯、横山真人被告に対し、1999年10月1日、東京地裁は「マインドコントロール下の能力減退は認められない」として死刑判決を出した。
2000年 6月6日、「地下鉄サリン事件」など10事件で起訴されたオウム真理教井上嘉浩被告に対して、東京地裁は、検察の死刑求刑に対し無期懲役との判決を下した。井上弘通裁判長は「死刑を選択することは当然に許されるべきで、むしろそれを選択すべきであるとすらいえる」としながらも、西田公昭の「修行を通してマインドコントロールを受け、松本被告の命令に反することができなかった」との鑑定結果を受け、「有利な情状の一つとして評価できる」として極刑選択を避けた。但し、控訴審では死刑判決を受け、2009年12月10日上告棄却[7]2010年1月12日に上告審判決に対する訂正申し立てが棄却され[8]、死刑が確定した。
統一教会」(統一協会)に対する青春を返せ訴訟
元「統一教会」の信者が、教団のマインドコントロールという不当な手段を用いての勧誘、教化の違法性を問う裁判。教団側は、マインドコントロールというものの存在を否定し、入信は自由意思によるものであると主張してきた。訴訟の当初、裁判所は「原告らの主張するいわゆるマインドコントロールは、それ自体多義的であるほか、一定の行為の積み重ねにより一定の思想を植え付けることをいうと捉えたとしても、原告らが主張するような強い効果があるとは認められない」(1998年3月26日 名古屋地裁)などとして元信者側の主張を退けてきたが、1997年4月19日の奈良地裁の「『統一教会』の献金勧誘システムは、不公正な方法を用い、教化の過程を経てその批判力を衰退させて献金させるものと言わざるを得ず、違法と評価するのが相当である」とした判決や、 2001年 最高裁において「統一教会」の上告が棄却され、元信者側の勝訴として確定した広島高裁岡山支部判決では、不法行為が成立するかどうかの認定判断にマインドコントロールという概念は使えないとしたものの、「教義の実践の名のもとに他人の法益を侵害するものであって、違法なものというべく、故意による一体的な一連の不法行為と評価される」と述べた判決は、実質的には「マインドコントロール」を認めたのと同然と評価する向きもある[1]
  • イギリスではマインドコントロールが刑法の概念に組み込まれている。
  • フランスにおいては物議をかもした後、セクト(カルト)団体対策として限定的に取り入れられた。
  • 法律は存在しないが判例のレベルで概念の蓄積が成されている場合もあるが、国によって態度に違いがある。同じ国でも正反対の判決が出る場合もあり、未だ微妙な領域といわざるを得ない。

備考

なお統一教会の問題に関して名古屋裁判などで言及された「多義的用法」とは、原告である元信者側の主張する「違法なマインドコントロール」という表現が、誰かが他者を意のままにコントロールしようとする動機面に着目した表現で、同教団への勧誘や教義に従わせたのが「催眠術」「洗脳」「詐欺」にあたる行為なのか、悪徳商法のように意図的に錯覚させることなのか、いわゆる説得なのか、あるいは実際に何か宗教上の心霊的感化なのかは不明確であることを指している。S.ハッサンの『マインドコントロールの恐怖』においても、特にこの「手法による定義」は明確ではなく、マインドコントロールという語に集約された「心理操作手法全般」を指している。

これらは、同教会側が「マインドコントロール」を手法としては定義できない原告側への反論として用いたが、広島高裁岡山支部判決ではマインドコントロールという行為の手法的定義は脇にのけた形で、動機面より故意に他者の利益を違法に侵害したとして原告側の請求を認めている。

関連項目

脚注

  1. ^ a b スティーヴン・ハッサン (著) 浅見定雄 (訳) 『マインド・コントロールの恐怖』(恒友出版 1993年6月) ISBN 978-4765230711
  2. ^ 紀藤正樹(著)『21世紀の宗教法人法』(朝日新聞社 1995年11月 ISBN 9784022730688
  3. ^ 宗教社会学の会(編) 『新世紀の宗教―「聖なるもの」の現代的諸相』(創元社 2002年11月)ISBN 978-4422140223
  4. ^ 紀藤正樹ほか(著・訳)『カルト宗教―性的虐待と児童虐待はなぜ起きるのか』(アスコム 2007年3月 ISBN 978-4776203933
  5. ^ 小林惠智 『マインド・コントロールのすすめ―そのメカニズムと積極的活用法』(1995年11月)ISBN 978-4769807377
  6. ^ マデリン・ランドー トバイアス (著), ジャンジャ ラリック (著), Madeleine Landau Tobias (原著), Janja Lalich (原著), 南 暁子 (訳), 上牧 弥生 (訳) 『自由への脱出―カルトのすべてとマインドコントロールからの解放と回復』(中央アート出版社 1998年9月) ISBN 978-4886398703
  7. ^ “地下鉄サリン事件、井上被告の死刑確定へ 最高裁”. 日本経済新聞. (2009年12月10日). http://www.nikkei.co.jp/news/shakai/20091210AT1G1001H10122009.html 2009年12月10日閲覧。 
  8. ^ “オウム事件、井上被告の死刑確定 9人目”. 共同通信. (2010年1月13日). http://www.47news.jp/CN/201001/CN2010011301000753.html 2010年1月14日閲覧。 

参考文献

  • 紀藤正樹(著) 『マインド・コントロール』(アスコム 2012年6月) ISBN-10 4776207311 ISBN-13 978-4776207313 - カルトやマインドコントロール問題の教科書的存在の良書
  • 紀藤正樹外(著・訳) 『カルト宗教―性的虐待と児童虐待はなぜ起きるのか』(アスコム 2007年3月) ISBN 978-4776203933 - カルト被害者の救済を多数手がける紀藤正樹弁護士が、カルトの定義、マインドコントロールの手法やその違法性を判例を踏まえて詳細に論じた部分(特に83頁まで)が、カルトやマインドコントロールの問題に悩む家族たちへの推奨図書として、幅広く読まれている。
  • 紀藤正樹 (著) 『21世紀の宗教法人法』(朝日新聞社 1995年11月) ISBN 9784022730688 - カルト被害者の救済を多数手がける紀藤正樹弁護士が、オウム真理教事件がおきた年に出版した本で、当時のオウム真理教に関する議論、カルトの定義、マインドコントロールの違法性の問題を巡る議論、宗法法人法の改正にまつわる議論が参考になる。
  • 渡邉学著 『アメリカのマインド・コントロール論争』
  • 島田裕巳著 『洗脳は可能なのか?』
  • トーマス・W. カイザー(著)マインド・コントロール問題研究会(訳) 『あやつられる心―破壊的カルトのマインド・コントロール戦略』福村出版 (1995年9月) ISBN 4762822116
  • スティーヴン・ハッサン(著) 浅見定雄(訳) 『マインド・コントロールの恐怖』(恒友出版 1993年6月) ISBN 978-4765230711 - 一度は統一教会に入会し、考え方や感じ方までも変えられてしまった筆者が、周囲の助けを得て脱会し、その後、数多くの脱会者を助けた実例に基づいた内容で、「マインドコントロールとは何か」を知るための本として、幅広く読まれている。(絶版)
  • スティーヴン・ハッサン著『マインド・コントロールからの救出―愛する人を取り戻すために』(教文館 2007年11月) 中村周而・山本ゆかり(訳)  ISBN 4764266687 ISBN 978-4764266681 - 前項の著者が、25年間の脱会カウンセリングの集大成として書き下ろした最新作。各国で救出にあたる家族の必読書とされている書籍 Releasing the Bond: Empowering People to Think for Themselvesの日本語版。 マインドコントロールとは何か、カルトとは、救出とは、救出のためのに何ができるのか等、具体的な戦略を含めて紹介されている。
  • 西田公昭静岡県立大学/社会心理学)著 『マインド・コントロールとは何か』 (紀伊國屋書店 1995年) ISBN 978-4314007139 - 裁判の参考資料として提出されたこともある資料を含む書籍で、上記の書籍と共にこの問題について客観的(学術的にも)に知るための極めて重要な参考文献とされる。
  • 西田公昭 (著) セレクション 社会心理学 18 『「信じるこころ」の科学 ― マインド・コントロールとビリーフ・システムの社会心理学』(サイエンス社 1998年2月) ISBN 978-4781908700
  • 安藤清志・ 西田公昭現代のエスプリ 369 『「マインド・コントロール」と心理学』 (至文堂 1998年4月) ISBN 4-7843-5369-0
  • 郷路征記(著) 『統一協会マインド・コントロールのすべて―人はどのようにして文鮮明の奴隷になるのか』(教育史料出版会 1993年12月) ISBN 978-4876522507 (統一教会の伝道の違法性などを、いわゆる「青春を返せ裁判」を訴え続けてきた弁護士による著作。元信者への聞き取りから得た、統一教会の教化の手法を詳細に説明)
  • R.チャルディーニ (著) 社会行動研究会 訳 『影響力の武器――なぜ,人は動かされるのか』 (誠信書房 1991年9月1日) ISBN 978-4414302691
  • S.ミルグラム (著) 岸田秀(訳) 『河出・現代の名著 服従の心理〔新装版〕』 (河出書房新社 1995年10月) ISBN 978-4309706146
  • 下條信輔 『サブリミナル・マインド ― 潜在的人間観のゆくえ(中公新書 1324)』 (中央公論社 1996年10月) ISBN 978-4121013248
  • リチャード・キャメリアン(著)、兼近修身(訳) 『洗脳の科学』(第三書館 1994年6月) ISBN 978-4807494224 - タイトルは洗脳となっているがCIAMKウルトラ計画を取り上げており参考になる。

外部リンク