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「アラビア語」の版間の差分

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<!-- かつては南レバント方言にajpが、北レバント方言にapcが割り当てられていたが、2023年の改訂でapcに片寄せする形で南北レバント方言に同一コードを割り当て。 -->
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<!-- かつてはbbzがあったが、言語そのものの存在に疑義があり2019年削除。 -->
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|lc28=ssh|ld28=アラビア語シフフ方言
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<!-- https://iso639-3.sil.org/code/ara も参照。-->
|map=[[ファイル:Arabic speaking world.png|thumb|center|3000px|アラビア語が公用語の国・地域<br />緑:アラビア語が唯一の公用語<br />青:アラビア語がいくつかの公用語の一つ]]
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|image=[[File:Arabic_albayancalligraphy.svg|center|200px]]
|caption=「アラビア語」と書いたアラビア語([[ナスフ体]])
}}
}}
'''アラビア語'''(アラビアご、{{lang|ar|'''اللغة العربية'''}}, [[国際連合地名標準化会議|UNGEGN]]式:{{lang|ar-Latn|al-lughatu l-ʻarabīyah}}, アッ=ルガトゥル=アラビーヤ)は、[[アフロ・アジア語族]]の[[セム語派]]に属する言語の一つ。主に[[西アジア]]や[[北アフリカ]]の[[アラブ世界]]で話されている。[[ISO 639]]による言語コードは、2字が '''ar''' 、3字が '''ara''' で表される
'''アラビア語'''(アラビアご、亜剌比亜語、{{lang|ar|'''اللغة العربية'''}}, al-lughah al-ʿarabīyah, アッ=ルガ・アル=アラビーヤ, 実際の発音:アッ=ルガトゥル=アラビーヤ、略称:{{lang|ar|'''العَرَبِيَّة'''}}, {{transl|ar|al-ʿarabīyah}} {{IPA-ar|ʔalʕaraˈbij.ja||Al_arabic.ogg}})は、[[アフロ・アジア語族]]の[[セム語派]]に属する言語の一つ。


もともと[[アラビア半島]]で話されていたが、現在では主に[[西アジア]]や[[北アフリカ]]の[[アラブ世界]]で広く話されている。世界で3番目に多くの国と地域で使用されている言語であり、27か国で公用語とされている。また、[[国際連合|国連]]の[[公用語]]であり、国連発足後に追加された唯一の言語である。
日本語では'''亜語'''あるいは'''亜'''と表記される。


== フスハーとアーンミーヤ ==
世界で3番目に多くの国と地域で使用されている言語であり、アラビア半島やその周辺、[[サハラ砂漠]]以北のアフリカ北部の領域を中心に(非独立地域を含めて)27か国で公用語とされており、また、[[国際連合|国連]]の[[公用語]]においては、後から追加された唯一の言語でもある。
現代のアラビア語は、次の2つに大きく分類されている。

* [[フスハー]](正則アラビア語・現代標準アラビア語・MSA<ref group="注釈">Modern Standard Arabic</ref>) :文章や公的な場面で用いられる。
== 概要 ==
* [[アーンミーヤ]]:各地の[[方言]]。日常会話で用いられる。
{{See also|en:Arabic languages}}
[[言語学]]においてアラビア語は[[ダイグロシア|二言語使い分け]]の典型とされる。同様の二言語使い分けには[[中世]]の[[カトリック教会]]地域における[[ラテン語]]と[[ロマンス諸語]]がある。
「アラビア語」は、もともと[[アラビア半島]]で話されていたが、北アフリカやイラク、シリア方面まで広がった。次の2つに大きく分類する。
* 文語(昔のアラビア語、もしくはクルアーンに使用されている):[[フスハー]](正則アラビア語・現代標準アラビア語 (MSA) とも。[[古典アラビア語]]を基盤とし、現代世界に対応する語彙を大きく加えたもの)
* 口語:[[アーンミーヤ]](各地の[[方言]]に分かれる)


=== フスハー ===
'''フスハー'''(正則アラビア語)はアラブ諸国の[[共通語]]であり、[[アラビア文字]]で書かれる。起源は西暦[[4世紀]]ごろの[[アラビア半島]]にさかのぼるといわれ、[[イスラーム文明]]の出現と拡大にともなって[[北アフリカ]]にまで使用地域が広がり、現在まで言語として大きく変わらずに使われている。
'''フスハー'''(正則アラビア語)はアラブ諸国の[[共通語]]であり、[[アラビア文字]]で書かれる。起源は西暦[[4世紀]]ごろの[[アラビア半島]]にさかのぼるといわれ、[[イスラーム文明]]の出現と拡大にともなって[[北アフリカ]]にまで使用地域が広がり、現在まで言語として大きく変わらずに使われている。


[[イスラーム]]の聖典である[[クルアー]]は古典アラビア語で書かれている、これはムハンマドがいたヒジャーズ地方のアラビア語をかなり反映している考えらる。'''クルアーン'''の記述によればイスラームを伝えるために神が選んだのがアラビア語だったことから、[[ムスリム]]を「[[アッラー]]の言葉」としてとらえてい[[クルアーン]](コーラン)はアラビア語で詠唱して[[音韻]]をふむように書かれ、またアラビア語原典がアッラーが人類に与えたオリジナル版とされるため、翻訳は教義上原則禁じられる。クルアーンの勉強や暗誦敬虔なイスラム教徒の必須の義務とされるが、クルアーンを学ぶためには必然的にアラビア語を読めなくてはならず、アフリカから[[トルコ]]、[[インド]]、[[東南アジア]]にかけてのイスラム圏では、アラビア語がイスラム[[知識人]]の共通語として通用している。
イスラームにおいては、[[アッラー]]がムハンマドに対してアラビア語で教え与えたれ、アラビア語は特別視さる。[[イスラー]]の聖典である[[クルアーン]](コーラン)は古典アラビア語で書かれている。クルアーンは他言語に翻訳されることもあるが、礼拝おいて詠唱されるの古典アラビア語のクルアーンである。アフリカから[[トルコ]]、[[インド]]、[[東南アジア]]にかけてのイスラム圏では、アラビア語が[[知識人]]の共通語として通用している。なお、クルアーンで用いられるアラビア語はムハンマドがいた[[ヒジャーズ]]地方の方言をかなり反映していると考えられる。

[[オスマン帝国]]時代までに書き言葉としてのフスハーは衰退したが、話し言葉としては続けて用いられていた。近代になると書き言葉は簡単なものとして練り直され、近代以降の新しい概念に対応する新語が大量に追加されることで、現代において使用されている現代のフスハーが成立した<ref>「イスラーム世界のことばと文化」(世界のことばと文化シリーズ)p84-85 佐藤次高・岡田恵美子編著 早稲田大学国際言語文化研究所 成文堂 2008年3月31日初版第1刷</ref>。

フスハーはアラビア語において公的な面を代表する言語であり、宗教関係のほかに、学術関係や[[書籍]]・[[雑誌]]・[[新聞]]などの文章はもちろん、公的な場での会話やテレビニュースなどの改まった場においても使用される<ref>「イスラーム世界のことばと文化」(世界のことばと文化シリーズ)p85-86 佐藤次高・岡田恵美子編著 早稲田大学国際言語文化研究所 成文堂 2008年3月31日初版第1刷</ref>。また、非ネイティブ向けのアラビア語教育もフスハーで行われる。


一方で、日常会話においてはフスハーが使用されることは少ない。
『[[マカーマ|マカーマート]]』〈訳は[[平凡社東洋文庫]]全3巻〉のような古典に見られる書き言葉は、とくにオスマン帝国の時代に一時期衰退したが、話し言葉は続けて用いられていた。文語は近代になってより簡単なものとして練り直され、書籍・雑誌・新聞などの文章はもちろん、公的な場での会話やテレビニュースなどでも使われるようになった。


=== アーンミーヤ ===
一方、'''アーンミーヤ'''(方言)は、日常会話で用いられる話し言葉を指す。現代の話し言葉としてのアラビア語は、国・地域によって異なる[[言語変種|地域変種]](ラハジャ)に分かれ、これには[[正字法]]が無い。日常会話はこの話し言葉で話されるが、私信などではこれを文字化して表現する。また、大衆向けの小説や演劇、詩歌は現代口語の諸変種で書かれる。 
アーンミーヤないし方言は日常会話で用いられる話し言葉であり、国・地域ごとに異なる。[[正字法]]は無いが、私信や、大衆向けの小説や演劇、詩歌はアーンミーヤで書かれる。 


[[アラビア語湾岸方言|湾岸方言]]、[[アラビア語ヒジャーズ方言|ヒジャーズ方言]]、[[アラビア語イラク方言|イラク方言]]、{{仮リンク|アラビア語シリア方言|en|Syrian Arabic|label=シリア方言}}、{{仮リンク|アラビア語レバノン方言|en|Lebanese Arabic|label=レバノン方言}}、[[アラビア語パレスチナ方言|パレスチナ方言]]、[[アラビア語エジプト方言|エジプト方言]]、[[アラビア語スーダン方言|スーダン方言]]、{{仮リンク|アラビア語マグリブ方言|en|Maghrebi Arabic|label=マグリブ方言}}、[[アラビア語ハッサニヤ方言|ハッサニヤ方言]]などに大別され、それぞれの地域のなかでも違いがある。地域によっては、宗派ごとに話されるアラビア語に差異があるなどする。また、生活形態によって、地域を越えてそれぞれ共通の特徴がある。遊牧民方言、農村方言、都市方言の3つに分けられる。
[[アラビア語湾岸方言|湾岸方言]]、[[アラビア語ヒジャーズ方言|ヒジャーズ方言]]、[[アラビア語イラク方言|イラク方言]]、{{仮リンク|アラビア語シリア方言|en|Syrian Arabic|label=シリア方言}}、[[アラビア語レバノン方言|レバノン方言]]、[[アラビア語パレスチナ方言|パレスチナ方言]]、[[アラビア語エジプト方言|エジプト方言]]、[[アラビア語スーダン方言|スーダン方言]]、[[マグリブ|マグリブ方言]]、[[アラビア語ハッサニヤ方言|ハッサニヤ方言]]などに大別され、それぞれの地域のなかでも違いがある。地域によっては、宗派ごとに話される差異があるとされる。また、遊牧民・農村・都市といった生活形態によって、地域を越え共通の特徴があるとされる。


エジプト方言、シリア方言、レバノン方言などは[[マスメディア]]で多用されるためアラブ世界各地で理解される一方、異なる地域の住民同士では会話に支障が出ることもある。
現代アラブ世界での書き言葉と話し言葉の関係は、[[中世]]の[[カトリック教会]]地域における[[ラテン語]]と[[ロマンス諸語]]の関係に似ている。後者が前者から派生し(異論もある)、多くの変種に分かれていること。前者が日常語としては死語であるが、公的な話し言葉、書き言葉として通用し、後者は基本的に書かれることはまれであることが、その理由である。


また、非ネイティブ向けのアラビア語教育は主にフスハーで行われるが、日常会話をスムーズに行うには現地のアーンミーヤを習得する必要がある。
なお、エジプト方言、シリア方言、レバノン方言などは[[マスメディア]]で多用されるためアラブ世界各地で理解される一方、異なる地域同士の住民では方言での会話に支障が出ることもある。また、書き言葉が日常で話されることはほぼ皆無であり、読み書き・演説や報道番組での使用に限定される。従って、非ネイティヴが現地でスムーズな日常の会話を行うためには当地の話し言葉を習得する必要があり、読み書きも習得する場合には話し言葉と重ねて学習しなければならない。


== アラビア語の特徴 ==
== アラビア語の特徴 ==
83行目: 91行目:
=== 文字 ===
=== 文字 ===
{{main|アラビア文字}}
{{main|アラビア文字}}
アラビア語の表記には、通常は[[アラビア文字]]が用いられる。[[フスハー]]はアラビア文字による正書法を持ち、[[アーンミーヤ]]も文字化する際は一般にアラビア文字が用いられる。ただし、[[マルタ語]]は[[ラテン文字]]による正書法を持つ。以下は、アラビア文字の主な特徴である。

* 文字一覧は[[アラビア文字]]の項を参照。それぞれの'''独立形'''が左右の文字と繋がっていく(ただし例外が6文字ある)。
* 文字一覧は[[アラビア文字]]の項を参照。それぞれの'''独立形'''が左右の文字と繋がっていく(ただし例外が6文字ある)。
* 右から左へと読む。数字は左から右に綴られる。
* 右から左へと読む。数字は左から右に綴られる。
* 多くの書体が存在する。「[[イスラームの書法]]」を参照。
* 多くの書体が存在する。「[[イスラームの書法]]」を参照。
* '''文語'''([[フスハー]])はもっぱら[[アラビア文字]]で表される。アラビア文字の[[アルファベット]]は28文字(学説ては[[ハムザ]]を1文字数え29文字する。27文字とすることもある)からなり[[大文字]]と[[小文字]]区別はない
* '''文語'''([[フスハー]])はもっぱら[[アラビア文字]]で表される。アラビア文字の[[アブジャド]](慣用名称:[[アルファベット]]従来の[[アブジャド]]おける第1番目の子音であ[[声門破裂音|声門閉鎖音(声門破裂音)]]としてのアリフ(後世にハムザ([[ء]]分離されたもの)文字アリフ([[ا]]を同時に1番目に置くか、文字アリフを[[لا]](ラーム・アリフ)して終盤に置くかで28文字と数えるか・29文字と数えるか学説に分かれる
* [[大文字]]と[[小文字]]の区別はない。ラテン文字転写では人名などの語頭が大文字で書かれるが、転写の都合上によるもので、もとのアラビア語では固有名詞の語頭を何らかの違う形で書くということはされない。
* '''口語'''([[アーンミーヤ]])には[[正書法]]がない。
* '''口語'''([[アーンミーヤ]])には[[正書法]]がない。
* アラビア文字には母音を示す文字は存在せず、[[アブジャド]]に含まれる子音字のみでつづられる。長母音の一部は弱文字を表すためのアリフ([[ا]])や弱文字と呼ばれる半母音のワーウ([[و]])ならびにヤー([[ي]])を用いるがこれらは母音ではなく無母音の子音という扱いとなる。母音の情報は読む側が補って読まなければならないが、不便が生じることから[[ウマイヤ朝]]期に発音記号が開発された。[[コーラン|クルアーン]](コーラン)や低年齢向け児童書籍には正確な発音を示すために'''母音符号'''などの符号([[シャクル]])が付記される。[[イスラームの書法|書道作品]]においても、母音符号は装飾を兼ねて付記されることが多い。まれに、成人対象の詩や小説であっても誤読を避けるため自著に母音符号を付記する作家もいる。


=== 発音 ===
=== 発音 ===
{{main|アラビア語の音韻}}
{{main|アラビア語の音韻}}
* 子音には[[喉]]の奥のほうで {{IPA|h}} や {{IPA|&#x261;}} などを発音するような独特の発音がある。
* 子音には[[喉]]の奥のほうで {{IPA|k}} や {{IPA|&#x261;}} などを発音するような独特の発音がある。
* 母音は[[音韻論]]的には {{ipa|a}}、{{ipa|i}}、{{ipa|u}} の3つの[[短母音]]とその[[長母音]]、[[二重母音]] ({{ipa|ai}}、{{ipa|au}}) を弁別する。
* 母音は[[音韻論]]的には {{ipa|a}}、{{ipa|i}}、{{ipa|u}} の3つの[[短母音]]とその[[長母音]]、[[二重母音]] ({{ipa|ai}}、{{ipa|au}}) を弁別する。
* 発音例 - [https://m.youtube.com/watch?v=rHTv9FuhBkE アラビア語 曜日]
* [[綴り字法]]は一部を除き子音字のみを用いるため、母音の情報は、読む側が補って読まなければならない。[[コーラン]]や子供向けの読み物には、'''母音符号'''などの符号([[シャクル]])が付記されている。まれに、大人向けの詩や小説であっても、自分の作品に母音符号を付記する作家もいる。


=== 文法 ===
=== 文法 ===
101行目: 113行目:
* 女性形、男性・女性複数形には基本となる規則形があるもののそれ以外にもとりうる形が無数に存在するため、個別に記憶しなければならないものが多い。例えば、{{lang|ar|مُدَرِّسٌ}} ({{lang|ar-Latn|mudarrisun}}, 先生) の複数形は規則形であり、語尾に {{lang|ar-Latn|-ūna}} を付けて、{{lang|ar|مُدَرِّسُونَ}} ({{lang|ar-Latn|mudarrisūna}}) になるが、{{lang|ar|صَدِيقٌ}}({{lang|ar-Latn|ṣadīqun}}, 友人)の複数は不規則形であるため、{{lang|ar-Latn|صَدِيقُونَ }} ({{lang|ar-Latn|ṣadīqūna}}) とはならず、{{lang|ar|أَصْدِقَاءُ}} ({{lang|ar-Latn|'aṣdiqā'u}}) になる。
* 女性形、男性・女性複数形には基本となる規則形があるもののそれ以外にもとりうる形が無数に存在するため、個別に記憶しなければならないものが多い。例えば、{{lang|ar|مُدَرِّسٌ}} ({{lang|ar-Latn|mudarrisun}}, 先生) の複数形は規則形であり、語尾に {{lang|ar-Latn|-ūna}} を付けて、{{lang|ar|مُدَرِّسُونَ}} ({{lang|ar-Latn|mudarrisūna}}) になるが、{{lang|ar|صَدِيقٌ}}({{lang|ar-Latn|ṣadīqun}}, 友人)の複数は不規則形であるため、{{lang|ar-Latn|صَدِيقُونَ }} ({{lang|ar-Latn|ṣadīqūna}}) とはならず、{{lang|ar|أَصْدِقَاءُ}} ({{lang|ar-Latn|'aṣdiqā'u}}) になる。
* [[動詞]]は'''3人称男性単数完了形'''を原形とし、語根順配列の辞典では、その形で引くことになる。原型を'''基本型'''、'''第一型'''ともいう。これに加えて、第二型から第十五型までの'''派生型'''が存在するが、現代アラビア語は原則として第十型まで用い、第十一型以降は色の変化などといった限られた場合にしか用いられず、第九型は原則として色彩や人体の障害に関する意味を持つ単語である(ただし、派生型は西欧の学者が考案した学習概念であり、アラビア語を母語とする者は用いない)。[[ハンス・ヴェーア]]による『[[現代文語アラビア語辞典]]』をはじめとして、多くの辞書は語根順に語が配列されているため、派生型の動詞を辞書で参照するには、動詞からその語根すなわち原形を抽出しなければならず、これが、アラビア語を母語としない初学者にとっての辞書引きを困難にしている。
* [[動詞]]は'''3人称男性単数完了形'''を原形とし、語根順配列の辞典では、その形で引くことになる。原型を'''基本型'''、'''第一型'''ともいう。これに加えて、第二型から第十五型までの'''派生型'''が存在するが、現代アラビア語は原則として第十型まで用い、第十一型以降は色の変化などといった限られた場合にしか用いられず、第九型は原則として色彩や人体の障害に関する意味を持つ単語である(ただし、派生型は西欧の学者が考案した学習概念であり、アラビア語を母語とする者は用いない)。[[ハンス・ヴェーア]]による『[[現代文語アラビア語辞典]]』をはじめとして、多くの辞書は語根順に語が配列されているため、派生型の動詞を辞書で参照するには、動詞からその語根すなわち原形を抽出しなければならず、これが、アラビア語を母語としない初学者にとっての辞書引きを困難にしている。

== アラビア語を起源とする語彙 ==
{{See also|Category:アラビア語の語句}}
* [[トタン]]、じょうろ、[[コーヒー]]、[[ラケット]]、[[シロップ]]、[[アルコール]]、[[アルカリ]]、[[ソーダ]]、[[シャーベット]]、[[チェス]]、[[チェック]](小切手)、[[ソファー]]、[[モンスーン]]、アベレージ([[平均値]])、[[ジャケット]]、[[0|ゼロ]](零)、タリフ(関税率) 、[[リスク]]、[[アルゴリズム]]、[[アドベ]]、[[タマリンド]]、[[コットン (曖昧さ回避)|コットン]]、[[サフラン]]、[[海軍大将|アドミラル]]、[[センナ]]、[[シュガー]](砂糖)、[[キャメル]](ラクダ)、[[カラット]]、[[ガーゼ]]、[[カンフル]](樟脳)、[[ギプス]]など。
* 科学用語にはアラビア語起源の用語が多く、とりわけ化学に多い。これは中世から近世にかけてのアラビア語圏が科学分野において発展しており、当時の欧州が積極的にその知識と語彙を取り入れたためである。
* 星の名前
** [[アルタイル]](「飛ぶ鷲」という熟語の「飛ぶ」という部分。単独では「鳥」という意味)
** [[アルデバラン]](従うもの、後に続くもの。[[プレアデス星団]]に続いて地平線より昇ることから)
** [[アルゴル]](「[[グール]]の頭」という熟語の「グールの」という部分)
** [[アルビレオ]](「雌鳥のくちばし」の意味の語が西洋人の誤訳と誤解を経て)
** [[ベガ|ヴェガ]](「降り立つ鷲」という熟語の「降り立つ」という部分)
** [[デネブ]](「鶏の尾」という熟語の「尾」という部分)
** [[フォーマルハウト]](大魚の口)
** [[ベテルギウス]](巨人の腋の下)
** [[リゲル]](脚)
* その他
** [[ゼロ]]
** [[アシッド]]
** [[グール]]
「アル」で始まる言葉が多いのは、'''{{lang|ar-Latn|al-}}''' が[[定冠詞]]だからである。''[[アラビア語の冠詞]]も参照。''

他にも[[ペルシア語]]、[[テュルク諸語]](オグズ、キプチャク、チャガタイ語群)、[[スペイン語]]、[[ヒンドゥスターニー語]]、[[マレー語]]、[[スワヒリ語]]などの言語にはアラビア語からの[[借用語]]が少なくない。これらの言語は現在もアラビア文字で書かれているか、過去の一時期にアラビア文字で書かれていたという歴史を持つ(ペルシア語を除き、現在はそれぞれ別の文字で表記されている)。


== 方言 ==
== 方言 ==
{{See also|en:Varieties of Arabic}}
{{See also|en:Varieties of Arabic}}
[[ファイル:Arabic Dialects.svg|800px]]
[[ファイル:Arabic Varieties Map.svg|center|thumb|800px|アラビア語諸方言の分布図]]
*Arabic, Ancient North†【[http://multitree.org/codes/xna xna]】—[[古代北アラビア語]]†
*Arabic, Ancient North†【[http://multitree.org/codes/xna xna]】—[[古代北アラビア語]]†
*Arabic, Andalusian†【[http://multitree.org/codes/xaa xaa]】—[[アル・アンダルス=アラビア語]]
*Arabic, Andalusian†【[http://multitree.org/codes/xaa xaa]】—[[アル・アンダルス=アラビア語]]
*Arabic, Algerian Saharan【[http://multitree.org/codes/aao aao]】—[[アルジェリサハラ・アラビア語]]
*Arabic, Algerian Saharan【[http://multitree.org/codes/aao aao]】—[[アラビサハラ方言]]
*Arabic, Tajiki【[http://multitree.org/codes/abh abh]】[[タジク・アラビア語]]
*Arabic,Central Asian 【[http://multitree.org/codes/ara]】[[アラビア語中央アジア方言]]
*Arabic, Baharna【[http://multitree.org/codes/abv abv]】—[[バハルナ・アラビア語]]
*Arabic, Tajiki【[http://multitree.org/codes/abh abh]】—[[アラビア語タジク方言]]
*Arabic, Mesopotamian【[http://multitree.org/codes/acm acm]】—[[メソポタミア・アラビア語]]
*Arabic, Baharna【[http://multitree.org/codes/abv abv]】—[[アラビア語バーレーン方言]]
*Arabic, Ta'izzi-Adeni【[http://multitree.org/codes/acq acq]】—[[タイズィ=アデン・アラビア語]]
*Arabic, Mesopotamian【[http://multitree.org/codes/acm acm]】—[[アラビア語イラク方言]]
*Arabic, Hijazi【[http://multitree.org/codes/acw acw]】—[[ヒジャーズ・アラビア語]]
*Arabic, Ta'izzi-Adeni【[http://multitree.org/codes/acq acq]】—[[アラビア語南イエメン方言]]
*Arabic, Omani【[http://multitree.org/codes/acx acx]】—[[オマーン・アラビア語]]
*Arabic, Hijazi【[http://multitree.org/codes/acw acw]】—[[アラビア語ヒジャーズ方言]]
*Arabic, Dhofari【[http://multitree.org/codes/adf adf]】—[[ゾファール・アラビア語]]
*Arabic, Omani【[http://multitree.org/codes/acx acx]】—[[アラビア語オマーン方言]]
*Arabic, Tunisian【[http://multitree.org/codes/aeb aeb]】—[[チュニジア・アラビア語]]
*Arabic, Dhofari【[http://multitree.org/codes/adf adf]】—[[アラビア語ドファール方言]]
*Arabic, Saidi【[http://multitree.org/codes/aec aec]】—[[サイード・アラビア語]]
*Arabic, Tunisian【[http://multitree.org/codes/aeb aeb]】—[[アラビア語チュニジア方言]]
*Arabic, Gulf【[http://multitree.org/codes/afb afb]】—[[湾岸アラビア語]]
*Arabic, Saidi【[http://multitree.org/codes/aec aec]】—[[アラビア語サイード方言]]
*Arabic, Gulf【[http://multitree.org/codes/afb afb]】—[[アラビア語湾岸方言]]
* {{仮リンク|アラビア語レヴァント方言|en|Levantine Arabic}}
* {{仮リンク|アラビア語レヴァント方言|en|Levantine Arabic}}
**Arabic, South Levantine【[http://multitree.org/codes/ajp ajp]】—[[アラビア語南レヴァント方言]]
**Arabic, South Levantine【[http://multitree.org/codes/ajp ajp]】—[[アラビア語南レヴァント方言]]
***{{仮リンク|アラビア語レバノン方言|en|Lebanese Arabic}}
***[[アラビア語レバノン方言]]
***{{仮リンク|アラビア語ヨルダン方言|en|Jordanian Arabic}}
***[[アラビア語ヨルダン方言]]
***[[アラビア語パレスチナ方言]]
***[[アラビア語パレスチナ方言]]
***{{仮リンク|アラビア語シリア方言|en|Syrian Arabic}}
***{{仮リンク|アラビア語シリア方言|en|Syrian Arabic}}
150行目: 141行目:
**Arabic, Cypriot【[http://multitree.org/codes/acy acy]】—[[アラビア語キプロス方言]]
**Arabic, Cypriot【[http://multitree.org/codes/acy acy]】—[[アラビア語キプロス方言]]
**Arabic, Eastern Egyptian Bedawi【[http://multitree.org/codes/avl avl]】—{{仮リンク|アラビア語東部エジプト・ベダウィ方言|en|Bedawi Arabic}}
**Arabic, Eastern Egyptian Bedawi【[http://multitree.org/codes/avl avl]】—{{仮リンク|アラビア語東部エジプト・ベダウィ方言|en|Bedawi Arabic}}
*Arabic, Sudanese【[http://multitree.org/codes/apd apd]】—[[スーダン・アラビア語]]
*Arabic, Sudanese【[http://multitree.org/codes/apd apd]】—[[アラビア語スーダン方言]]
*Arabic, Standard【[http://multitree.org/codes/arb arb]】—標準アラビア語
*Arabic, Standard【[http://multitree.org/codes/arb arb]】—標準アラビア語
*Arabic, Algerian【[http://multitree.org/codes/arq arq]】—[[アルジェリア・アラビア語]]
*Arabic, Algerian【[http://multitree.org/codes/arq arq]】—[[アラビア語アルジェリア方言]]
*Arabic, Najdi【[http://multitree.org/codes/ars ars]】—[[ナジュド・アラビア語]]
*Arabic, Najdi【[http://multitree.org/codes/ars ars]】—[[アラビア語ナジュド方言]]
*Arabic, Moroccan【[http://multitree.org/codes/ary ary]】—[[モロッコ・アラビア語]]
*Arabic, Moroccan【[http://multitree.org/codes/ary ary]】—[[アラビア語モロッコ方言]]
*Arabic, Egyptian【[http://multitree.org/codes/arz arz]】—[[エジプト・アラビア語]]
*Arabic, Egyptian【[http://multitree.org/codes/arz arz]】—[[アラビア語エジプト方言]]
*Arabic, Uzbeki【[http://multitree.org/codes/auz auz]】—[[ウズベク・アラビア語]]
*Arabic, Uzbeki【[http://multitree.org/codes/auz auz]】—[[アラビア語ウズベク方言]]
*Arabic, Hadrami【[http://multitree.org/codes/ayh ayh]】—[[ハドラミ・アラビア語]]
*Arabic, Hadrami【[http://multitree.org/codes/ayh ayh]】—[[アラビア語ハドラマウト方言]]
*Arabic, Libyan【[http://multitree.org/codes/ayl ayl]】—[[リビア・アラビア語]]
*Arabic, Libyan【[http://multitree.org/codes/ayl ayl]】—[[アラビア語リビア方言]]
*Arabic, Sanaani【[http://multitree.org/codes/ayn ayn]】—[[サヌア・アラビア語]]
*Arabic, Sanaani【[http://multitree.org/codes/ayn ayn]】—[[アラビア語北イエメン方言]]
*Arabic, North Mesopotamian【[http://multitree.org/codes/ayp ayp]】—[[北メソポタミア・アラビア語]]
*Arabic, North Mesopotamian【[http://multitree.org/codes/ayp ayp]】—[[アラビア語北メソポタミア方言]]
*Hassaniyya【[http://multitree.org/codes/mey mey]】—[[ハッサーヤ語]]
*Hassaniyya【[http://multitree.org/codes/mey mey]】—[[アラビア語ハッサニア方言]]
*Maltese【[http://multitree.org/codes/mlt mlt]】—[[マルタ語]]
*Maltese【[http://multitree.org/codes/mlt mlt]】—[[マルタ語]]
*Arabic, Chadian【[http://multitree.org/codes/shu shu]】—[[チャド・アラビア語]]〔Shuwa Arabic:シュワー・アラビア語〕
*Arabic, Chadian【[http://multitree.org/codes/shu shu]】—[[アラビア語チャド方言]]〔Shuwa Arabic:シュワー・アラビア語〕
*Arabic, Shihhi【[http://multitree.org/codes/ssh ssh]】—[[シヒ・アラビア語]]
*Arabic, Shihhi【[http://multitree.org/codes/ssh ssh]】—[[アラビア語シフフ方言]]
*Arabic, Siculo†【[http://multitree.org/codes/sqr sqr]】—[[シークロ・アラビア語]]†
*Arabic, Siculo†【[http://multitree.org/codes/sqr sqr]】—[[アラビア語シチリア方言]]†
*Judeo-Arabic【[http://multitree.org/codes/jrb jrb]】—[[ユダヤ・アラビア語|ユダヤ=アラビア語]]
*Judeo-Arabic【[http://multitree.org/codes/jrb jrb]】—[[ユダヤ・アラビア語|ユダヤ=アラビア語]]
**Arabic, Judeo-Iraqi【[http://multitree.org/codes/yhd yhd]】—[[ユダヤ=イラク・アラビア語]]
**Arabic, Judeo-Iraqi【[http://multitree.org/codes/yhd yhd]】—[[ユダヤ=イラク・アラビア語]]
173行目: 164行目:
**Arabic, Judeo-Yemeni【[http://multitree.org/codes/jye jye]】—[[ユダヤ=イエメン・アラビア語]]
**Arabic, Judeo-Yemeni【[http://multitree.org/codes/jye jye]】—[[ユダヤ=イエメン・アラビア語]]


== 言語分布 ==
== アラビア語を公用語とする国家等 ==
[[File:Arabic Dispersion.svg|thumb|300px|アラビア語話者の分布。濃い緑はアラビア語話者が多数を占める地域、薄い緑は少数のアラビア語話者が居住する地域を指す]]
=== 現代標準アラビア語を公用語とする国家 ===
=== 現代標準アラビア語を公用語とする国家 ===
; [[アジア]]
; [[アジア]]
: [[アラブ首長国連邦]] - [[イエメン|イエメン共和国]] - [[イスラエル|イスラエル国]] - [[イラク|イラク共和国]] - [[オマーン|オマーン国]] - [[カタール|カタール国]] - [[クウェート|クウェート国]] - [[サウジアラビア|サウジアラビア王国]] - [[シリア|シリア・アラブ共和国]] - [[バーレーン|バーレーン王国]] - [[パレスチナ|パレスチナ自治区]] - [[ヨルダン|ヨルダン・ハシミテ王国]] - [[レバノン|レバノン共和国]]
: {{flagicon|ARE}} [[アラブ首長国連邦]] - {{flagicon|YEM}} [[イエメン|イエメン共和国]] - {{flagicon|IRQ}} [[イラク|イラク共和国]] -{{flagicon|OMN}} [[オマーン|オマーン国]] - <br>{{flagicon|QAT}} [[カタール|カタール国]] - {{flagicon|KWT}} [[クウェート|クウェート国]] - {{flagicon|SAU}} [[サウジアラビア|サウジアラビア王国]] - {{flagicon|SYR}} [[シリア|シリア・アラブ共和国]] - <br>{{flagicon|BHR}} [[バーレーン|バーレーン王国]] - {{flagicon|Palestine}} [[パレスチナ]] - {{flagicon|JOR}} [[ヨルダン|ヨルダン・ハシミテ王国]] - {{flagicon|LBN}} [[レバノン|レバノン共和国]]


; [[アフリカ]]
; [[アフリカ]]
: [[アルジェリア|アルジェリア民主人民共和国]] - [[エジプト|エジプト・アラブ共和国]] - [[エリトリア|エリトリア国]] - [[ガンビア|ガンビア・イスラム共和国]] - [[コモロ|コモロ連合]] - [[ジブチ|ジブチ共和国]] - [[スーダン|スーダン共和国]] - [[ソマリア]] - [[チャド|チャド共和国]] - [[チュニジア|チュニジア共和国]] - [[モーリタニア|モーリタニア・イスラム共和国]] - [[モロッコ|モロッコ王国]] - [[リビア|リビア共和国]]
: {{flagicon|DZA}} [[アルジェリア|アルジェリア民主人民共和国]] - {{flagicon|EGY}} [[エジプト|エジプト・アラブ共和国]] - {{flagicon|ERI}} [[エリトリア|エリトリア国]] - {{flagicon|COM}} [[コモロ|コモロ連合]] - <br>{{flagicon|ESH}} [[サハラ・アラブ民主共和国|西サハラ]] - {{flagicon|DJI}} [[ジブチ|ジブチ共和国]] - {{flagicon|SDN}} [[スーダン|スーダン共和国]] - {{flagicon|SOM}} [[ソマリア]] - {{Flagicon|ソマリランド}} [[ソマリランド]] - {{flagicon|TCD}} [[チャド|チャド共和国]] - {{flagicon|TUN}} [[チュニジア|チュニジア共和国]] - <br>{{flagicon|MRT}} [[モーリタニア|モーリタニア・イスラム共和国]] - {{flagicon|MAR}} [[モロッコ|モロッコ王国]] - {{flagicon|LBY}} [[リビア|リビア国]]


アラビア語を公用語としている国家のうち、アラブ首長国連邦、イエメン、オマーン、カタール、クウェート、サウジアラビア、シリア、バーレーン、パレスチナ、ヨルダン、レバノン、エジプト、リビア、チュニジアにおいては国民のほとんどが[[アラブ人]]で構成されており、公用語としてのフスハーと日常語としてのアーンミーヤのみを使用している。これはイスラム教徒以外のアラブ人も同様で、たとえばレバノンには[[マロン派]]などの[[キリスト教徒]]も多数存在するが、民族的にはアラブ人であるためそのほとんどはフスハーとアラビア語レバノン方言を話す。アルジェリアにおいては国民の大半がアラビア語を話すものの、[[カビール語]]などの[[ベルベル語]]諸語話者も存在する。レバノン、アルジェリアでは旧宗主国語の[[フランス語]]も通じる。ただし同国の公用語はアラビア語のみとなっている<ref>https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/algeria/data.html#section1 「アルジェリア基礎データ」日本国外務省 2017年6月21日閲覧</ref>。アラブ人多数の上で[[ベルベル人]]がかなりの数存在するのは隣国のモロッコにおいても同様であるが、モロッコでは公用語はアラビア語とベルベル語の2言語体制となっている<ref>https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/morocco/data.html 「モロッコ基礎データ」日本国外務省 2017年6月21日閲覧</ref>。モロッコと領有権を争っている西サハラではアラビア語と共に[[スペイン語]]も使われる。イラクにおいては北部に[[クルド人]]が居住しているために[[クルド語]]も公用語となっているが、アラビア語話者は多数派を占めている<ref>https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/iraq/data.html#section1 「イラク基礎データ」日本国外務省 2017年6月21日閲覧</ref>。モーリタニアはアラビア語を使用する[[ムーア人]]が多数を占め、アラビア語が公用語となっているが、南部を中心にアラビア語を使用しない黒人も多く、また旧フランス領だったためフランス語の影響力も強い。スーダンもアラブ系が多数を占めるものの、西部の[[フール人]]などのようにアラビア語を使用しない民族も多く存在し、紛争が絶えない。公用語はアラビア語と英語の二言語使用となっている。
アラビア語を公用語としている国家は増加傾向にある。これは、かつてイギリスやフランスの植民地だったアラブ人国家が独立したのち、公用語を英語やフランス語からアラビア語に変更する傾向が強いためである。特にアフリカにおいては、アラビア語圏以外のほとんどの新独立国が旧宗主国の公用語をそのまま使用し続けているのと明確な対比をなしている。

こうしたアラブ人が多数を占める国家に対し、住民のほとんどが[[ソマリ語]]を話す[[ソマリ人]]であるソマリアや、同じく[[アファル人]]と[[イッサ人]]が多数を占めるジブチ、スワヒリ語に近い[[コモロ語]]を主に使用するコモロなどのような、日常語としてアラビア語をほとんど使用しない地域においてもアラビア語が公用語とされることがある。これはこれら諸国がアラブ諸国との経済的・文化的結びつきが強く、またイスラム教徒がほとんどであるため典礼用言語であるフスハーを理解できるものが多く存在するためである。

アラビア語を公用語としている国家は増加傾向にある。これは、かつてイギリスやフランスの植民地だったアラブ人国家が独立後、公用語を英語やフランス語からアラビア語に変更する傾向が強いためである。特にアフリカにおいては、アラビア語圏以外のほとんどの新独立国が旧宗主国の公用語の使用を継続していることと明確な対比をなしている。こうした公用語の切り替えはアラブ人国家すべてで行われたものの、その深度や速度には国によって違いがみられた。旧英領諸国ではほとんどの国で公用語のアラビア語切り替えが実施されたものの、旧フランス領諸国ではモロッコやモーリタニアのように公用語をフランス語とアラビア語の2言語とする国家がいくつか存在し、アルジェリアのように積極的に言語切り替えが行われた国との差異が目立った。またアルジェリアにおいても、教育課程のアラビア語化は進んだものの官僚など政府の指導層がフランス語話者によって占有されている状況を打破することはできなかった<ref>「アルジェリアを知るための62章」p357 私市正年編著 明石書店 2009年4月30日初版第1刷</ref>。アラビア語教育によって大衆のアラビア語化は進んだものの、エリート層はフランス語話者のままだったため、この二言語の話者間に階層的な対立が生じた<ref>「アルジェリアを知るための62章」p153 私市正年編著 明石書店 2009年4月30日初版第1刷</ref>。さらにアルジェリアにおけるアラビア語化は[[イスラム主義]]と結びついていたために、イスラム主義の台頭を招き<ref>「アルジェリアを知るための62章」p358 私市正年編著 明石書店 2009年4月30日初版第1刷</ref>、1990年代の[[アルジェリア内戦]]へとつながっていくこととなった。


=== 現代口語アラビア語を公用語とする国 ===
=== 現代口語アラビア語を公用語とする国 ===
[[マルタ|マルタ共和国]]の[[マルタ語]]は、現代アラビア語口語の一変種である。語彙などの面でヨーロッパ諸語からの借用が多く、また[[ラテン文字]]で綴られる。現代アラビア語口語諸語の中で国家の公用語となっているのはマルタ・アラビア語のみである。
[[マルタ|マルタ共和国]]の[[マルタ語]]は、現代アラビア語口語の一変種である。語彙などの面でヨーロッパ諸語、特に[[イタリア語]]からの借用が多く、また[[ラテン文字]]で綴られる<ref>「アラビア語の世界 歴史と現在」p415-416 ケース・フェルステーヘ著 長渡陽一訳 三省堂 2015年9月20日第1刷</ref>。現代アラビア語口語諸語の中で国家の公用語となっているのはマルタ・アラビア語のみである。


===イスラエルにおけるアラビア語の状況===
===イスラエルにおけるアラビア語の状況===
[[File:Map of Arabic speaking localities in Israel.png|thumb|250px|イスラエルにおけるアラビア語自治体の分布]]
[[英国委任統治領パレスチナ|英国委任統治領時代のパレスチナ]]においては、英語、アラビア語、ならびにヘブライ語の3か国語が公用語とされ、当時のパレスチナにおける通貨や切手などは左記の3か国語で記載されていた。そして、イスラエル建国後は、アラビア語とヘブライ語のみがイスラエルの公用語とされ、英語は公用語ではなくなった。しかしながら、ユダヤ系イスラエル人の児童や生徒を対象とした初等教育ならびに中等教育機関においては、公用語であるアラビア語よりも公用語ではない英語の教育を重視している。しかし、アラブ系イスラエル人の児童や生徒を対象とした初等教育ならびに中等教育機関においては、ユダヤ系イスラエル人よりもアラビア語やアラブ文学などに割り当てられる時間数が多い。また、イスラエルにおける雇用条件において、多くの場合は「ヘブライ語と英語が話せること」が語学的な条件として課されており、公用語であるアラビア語は全く理解できなくても、イスラエル社会においては特に問題視されない。それ故、イスラエルにおけるアラビア語は、公式には公用語であるにもかかわらず、事実上はアラブ系イスラエル人というマイノリティのみが用いる言語になっている。また、現在のイスラエルにおける通貨や切手などは、ヘブライ語、アラビア語、ならびに、英語の3か国語で記載される。
[[イギリス委任統治領パレスチナ|英国委任統治領時代のパレスチナ]]においては、英語、アラビア語、ならびに[[ヘブライ語]]の3か国語が公用語とされた。そして、[[1948年]]のイスラエル建国後は、アラビア語とヘブライ語のみがイスラエルの公用語とされ<ref>http://mfa.gov.il/MFA_Graphics/MFA%20Gallery/Documents%20languages/FactsJapanese08.pdf 「イスラエルの情報」p142 イスラエル外務省 2017年6月21日閲覧</ref>、英語は公用語ではなくなった。しかしながら、ユダヤ系イスラエル人の児童や生徒を対象とした初等教育ならびに中等教育機関においては、公用語であるアラビア語よりも公用語ではない英語の教育を重視している。[[イスラエルのアラブ系市民|アラブ系イスラエル人]]の児童や生徒を対象とした初等教育ならびに中等教育機関においては、ユダヤ系イスラエル人よりもアラビア語やアラブ文学などに割り当てられる時間数が多い。また、イスラエルにおける雇用条件において、多くの場合は「ヘブライ語と英語が話せること」が語学的な条件として課されており、公用語であるアラビア語は全く理解できなくても、イスラエル社会においては特に問題視されない。それ故、イスラエルにおけるアラビア語は、公式には公用語であるにもかかわらず、事実上はアラブ系イスラエル人というマイノリティのみが用いる言語になっている。イスラエルのアラブ人のかなりが、アラビア語のほかにヘブライ語も使用することができる<ref>「イスラエルを知るための60章」p342 立山良司編著 明石書店 2012年7月31日初版第1刷 </ref>。また、現在のイスラエルにおける通貨や切手などは、ヘブライ語、アラビア語、ならびに、英語の3か国語で記載される。このような状況は建国以来70年近く続いてきたが、[[ベンヤミン・ネタニヤフ]]政権は[[2017年]]5月7日にアラビア語を公用語から外して[[国語]]へと格下げし、ヘブライ語のみを公用語とする閣議決定を行った。この閣議決定に対し、同国のアラブ人政党からは強い反発が起こった<ref>https://www.afpbb.com/articles/-/3127540 「イスラエル、アラビア語を公用語から外す法案を閣議決定」AFPBB 2017年05月08日 2017年6月21日閲覧</ref>。

===その他諸国におけるアラビア語===
[[File:Mother language in 1965 Turkey census - Arabic.png|thumb|300px|[[トルコ]]各県におけるアラビア語を母語とする住民の割合([[1965年]]統計)]]
[[File:Map of Arabian-inhabited provinces of Iran, according to a poll in 2010.PNG|thumb|250px|[[イラン]]各州におけるアラビア語を母語とする住民の割合([[2010年]]統計)]]
イスラム教においてアラビア語は典礼用言語となっており、アラビア語のもの以外は[[クルアーン]]として扱われないため、礼拝においては必ずアラビア語によってクルアーンを唱えることとなる。ただしクルアーンが翻訳されたものが注釈書として多くの言語圏において出版されているため、イスラム教徒にとってアラビア語は礼拝において必要であっても、内容の理解までは必ずしも必要ではない。このためアラビア語ができないイスラム教徒も非常に多く存在する。ただしクルアーンの内容を詳しく知るためにはアラビア語の知識は不可欠であり、このためイスラム教諸国においては熱心な信徒を中心に薄く広くアラビア語話者が存在する。

このほか、少数民族としてアラブ人が居住している地域においてもアラビア語は使用されている。トルコ南東部の[[ハタイ県]]、[[マルディン県]]、[[スィイルト県]]、[[シャンルウルファ県]]、イランの南西部にある[[フーゼスターン州]]にはアラブ人が多く住み、アラビア語が多く話されている<ref>『イランを知るための65章』 岡田久美子・北原圭一、鈴木珠里編著 明石書店  2009年11月20日 p.74 ISBN 9784750319803</ref>。


=== アラビア語を公用語とする国際機関 ===
=== アラビア語を公用語とする国際機関 ===
アラビア語は世界で4番目の話者人口を持ち、さらにその話者が一地方に集住しているため、言語として大きな影響力を持つ。このため、アラビア語は多くの国際機関において公用語とされている。なかでも[[アラブ連盟]]はアラブ人国家の地域協力機構であるため、アラビア語は唯一の公用語となっている。[[イスラム協力機構]]も、イスラム教の典礼用言語がアラビア語でありイスラム教圏のほとんどにアラビア語が広まっているためにアラビア語の影響力は大きく、英語、フランス語とともに公用語の一つとなっている。[[アフリカ連合]]においても、大陸北部を中心にアラビア語諸国は一大勢力を保っているため、英語、フランス語、[[ポルトガル語]]、[[スワヒリ語]]とともに公用語とされている。アラビア語使用諸国は数も多くひとつの文明圏を形成しているため、[[国際連合]]においても[[1973年]]にアラビア語は公用語に追加され<ref>http://www.unic.or.jp/info/un/charter/membership_language/ 「加盟国と公用語」 国際連合広報センター 2017年6月21日閲覧</ref>、英語、フランス語、[[ロシア語]]、[[中国語]]、[[スペイン語]]とともに6つの公用語のひとつとされている。
* [[国際連合]]
* [[アラブ連盟]]
* [[イスラム協力機構]]
* [[アフリカ連合]]


== 参考文献 ==
== 他言語への影響 ==
=== アラビア語を起源とする語彙 ===
* 『現代アラビア語入門』黒柳恒男、飯森嘉助(大学書林)
{{See also|Category:アラビア語の語句}}
* 『アラビア語入門』[[池田修]](岩波書店、絶版)

* [[トタン]]、じょうろ、[[コーヒー]]、[[ラケット]]、[[シロップ]]、[[アルコール]]、[[アルカリ]]、[[ソーダ]]、[[シャーベット]]、[[チェス]]、[[チェック]](小切手)、[[ソファー]]、[[モンスーン]]、アベレージ([[平均値]])、[[ジャケット]]、[[0|ゼロ]](零)、タリフ(関税率) 、[[リスク]]、[[アルゴリズム]]、[[アドベ]]、[[タマリンド]]、[[コットン (曖昧さ回避)|コットン]]、[[サフラン]]、[[海軍大将|アドミラル]]、[[センナ]]、[[シュガー]](砂糖)、[[ラクダ|キャメル]](ラクダ)、[[カラット]]、[[ガーゼ]]、[[カンフル]](樟脳)、[[ギプス]]など。
* 科学用語にはアラビア語起源の用語が多く、とりわけ化学に多い。これは中世から近世にかけてのアラビア語圏が科学分野において発展しており、当時の欧州が積極的にその知識と語彙を取り入れたためである。
* 星の名前
** [[アルタイル]](「飛ぶ鷲」という熟語の「飛ぶ」という部分。単独では「鳥」という意味)
** [[アルデバラン]](従うもの、後に続くもの。[[プレアデス星団]]に続いて地平線より昇ることから)
** [[アルゴル]](「[[グール]]の頭」という熟語の「グールの」という部分)
** [[アルビレオ]](「雌鳥のくちばし」の意味の語が西洋人の誤訳と誤解を経て)
** [[ベガ|ヴェガ]](「降り立つ鷲」という熟語の「降り立つ」という部分)
** [[デネブ]](「鶏の尾」という熟語の「尾」という部分)
** [[フォーマルハウト]](大魚の口)
** [[ベテルギウス]](巨人の腋の下)
** [[リゲル]](脚)
* その他
** [[0|ゼロ]]
** [[酸|アシッド]]
** [[グール]]

「アル」で始まる言葉が多いのは、'''{{lang|ar-Latn|al-}}''' が[[定冠詞]]だからである。{{see also|[[アラビア語の冠詞]]}}

=== 影響を受けた諸言語 ===
アラビア語から大きな影響を受けた言語は多く存在する。

特に[[北アフリカ]]や[[西アフリカ]]、[[東アフリカ]]の海岸部においては、それまで文字を持っていなかった言語がイスラム教およびその典礼用言語であるアラビア語の影響を受けて語法を整備し、文字を導入したケースが多く存在する。[[ハウサ語]]、[[ソマリ語]]などはこうした言語であり、現代では表記法は[[ラテン文字]]に改められたものの、アラビア語からの借用語は非常に多く存在している。[[インド洋]]の季節風交易によってアラブ人商人が多く訪れた東アフリカの海岸部においては、[[バントゥー諸語]]の語幹に語彙の35%から40%にものぼる大量のアラビア語からの借用語を取り入れた[[スワヒリ語]]が16世紀ごろまでには成立し、地域の商業言語として広く使用されるようになった。

このほか、[[ペルシア語]]、[[トルコ語]]を含む[[テュルク諸語]]、[[スペイン語]]、[[ヒンドゥスターニー語]]、[[マレー語]]などの言語は古くから独自の文字を持っていたが、イスラム教の伝播によってアラビア文字を使用するようになり、同時に大量の語彙がアラビア語から流入した。これらの言語は現代でもアラビア語からの[[借用語]]が多い。ただしペルシア語を除き、現在はそれぞれ別の文字で表記されている。

== 統制機関 ==
アラビア語の統制機関としては、最も古い[[ダマスカス]]・アラビア語アカデミー([[1919年]]創立)<ref name="ReferenceA">「アラビア語の世界 歴史と現在」p345 ケース・フェルステーヘ著 長渡陽一訳 三省堂 2015年9月20日第1刷</ref>や、[[カイロ]]にある[[アラブ語学院]]([[1932年]]創立)<ref name="ReferenceA"/>をはじめ、いくつかの国家に設けられたアラビア語アカデミーがその役割を担っている。こうした統制機関は科学分野を除いて外国語からの借用語をできるだけ制限し、新たな概念に対しては単語の意味の拡張などアラビア語内の対応によって処理する傾向が強い<ref>「アラビア語の世界 歴史と現在」p348-354 ケース・フェルステーヘ著 長渡陽一訳 三省堂 2015年9月20日第1刷</ref>。


== 脚注 ==
== 脚注 ==
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=== 注釈 ===
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=== 出典 ===
{{Reflist}}
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== 参考文献 ==
* 『現代アラビア語入門』黒柳恒男、飯森嘉助(大学書林)
* 『アラビア語入門』[[池田修 (アラブ文学者)|池田修]](岩波書店、絶版)


== 関連項目 ==
== 関連項目 ==
{{ウィキポータルリンク|言語学|[[画像:Logo sillabazione.png|none|38px]]}}
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* [[ネイティブスピーカーの数が多い言語の一覧]]
<!-- テンプレートと重複する項目は削除した -->
* [[国際連合安全保障理事会決議528]]
* [[アラブ語学院]] - [[エジプト]]の[[カイロ]]にあるアラビア語の発展・統制を目的とする[[研究機関]]
* [[母語話者の数が多い言語の一覧]]


== 外部リンク ==
== 外部リンク ==
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* [http://glottolog.org/resource/languoid/id/arab1395 Glottolog - Arabic] {{en icon}}([[マックス・プランク進化人類学研究所]]によるデーターベース)
* [http://glottolog.org/resource/languoid/id/arab1395 Glottolog - Arabic] {{en icon}}([[マックス・プランク進化人類学研究所]]によるデーターベース)
* [http://www.gulfarabic.com/ Learn Arabic (with audio)] {{en icon}}
* [http://www.gulfarabic.com/ Learn Arabic (with audio)] {{en icon}}
* {{Kotobank}}


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2024年11月30日 (土) 03:03時点における最新版

アラビア語
اللغة العربية
「アラビア語」と書いたアラビア語(ナスフ体
発音 IPA: [alːuɣatu‿lʕarabiːja]
話される国 アラブ首長国連邦アルジェリアイエメンイスラエルイラクイランエジプトエリトリアオマーンカタールガンビアクウェートコモロサウジアラビア西サハラシリアスーダンソマリアソマリランド含む)、チャドチュニジアパレスチナガザ地区ヨルダン川西岸地区)、バーレーンマリモーリタニアモロッコヨルダンリビアレバノン
地域 西アジアアフリカ
話者数 約2億3500万人
言語系統
表記体系 アラビア文字
ギリシャ文字キプロス
シリア文字(シリア)
ラテン文字(キプロス)
公的地位
公用語 アラブ首長国連邦
アルジェリア
イエメン
イラク
エジプト
エリトリア
オマーン
カタール
クウェート
コモロ
サウジアラビア
西サハラ
シリア
スーダンソマリア
ソマリランド
チャド
チュニジア
パレスチナ国
バーレーン
モーリタニア
モロッコ
ヨルダン
リビア
レバノン
国際連合
アラブ連盟
イスラム協力機構
アフリカ連合
少数言語として
承認
イスラエルの旗 イスラエル
キプロスの旗 キプロス
セネガルの旗 セネガル
ニジェールの旗 ニジェール
フィリピンの旗 フィリピン
マリ共和国の旗 マリ
南アフリカ共和国の旗 南アフリカ共和国
統制機関 エジプトの旗 アラビア語アカデミー
言語コード
ISO 639-1 ar
ISO 639-2 ara
ISO 639-3 araマクロランゲージ
個別コード:
aao — アラビア語アルジェリア・サハラ方言
abh — アラビア語タジク方言
abv — アラビア語バーレーン方言
acm — アラビア語メソポタミア方言英語版
acq — アラビア語タイズ=アデン方言
acw — アラビア語ヒジャーズ方言
acx — アラビア語オマーン方言
acy — アラビア語キプロス方言
adf — アラビア語ドファール方言
aeb — アラビア語チュニジア方言
aec — アラビア語サイード方言
afb — アラビア語湾岸方言
apc — アラビア語レバント方言英語版
apd — アラビア語スーダン方言
arb — 標準アラビア語(フスハー
arq — アラビア語アルジェリア方言
ars — アラビア語ナジュド方言
ary — アラビア語モロッコ方言
arz — アラビア語エジプト方言
auz — アラビア語ウズベク方言
avl — アラビア語東エジプト・ベドウィン方言英語版
ayh — アラビア語ハドラマウト方言
ayl — アラビア語リビア方言
ayn — アラビア語サナア方言英語版
ayp — アラビア語北メソポタミア方言英語版
pga — スーダン・クレオールアラビア語英語版
shu — アラビア語チャド方言
ssh — アラビア語シフフ方言
アラビア語が公用語の国・地域
緑:アラビア語が唯一の公用語
青:アラビア語がいくつかの公用語の一つ
水色:アラビア語が地域/マイノリティ言語
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アラビア語(アラビアご、亜剌比亜語、اللغة العربية, al-lughah al-ʿarabīyah, アッ=ルガ・アル=アラビーヤ, 実際の発音:アッ=ルガトゥ・ル=アラビーヤ、略称:العَرَبِيَّة, al-ʿarabīyah [ʔalʕaraˈbij.ja] ( 音声ファイル))は、アフロ・アジア語族セム語派に属する言語の一つ。

もともとアラビア半島で話されていたが、現在では主に西アジア北アフリカアラブ世界で広く話されている。世界で3番目に多くの国と地域で使用されている言語であり、27か国で公用語とされている。また、国連公用語であり、国連発足後に追加された唯一の言語である。

フスハーとアーンミーヤ

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現代のアラビア語は、次の2つに大きく分類されている。

言語学においてアラビア語は二言語使い分けの典型とされる。同様の二言語使い分けには中世カトリック教会地域におけるラテン語ロマンス諸語がある。

フスハー

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フスハー(正則アラビア語)はアラブ諸国の共通語であり、アラビア文字で書かれる。起源は西暦4世紀ごろのアラビア半島にさかのぼるといわれ、イスラーム文明の出現と拡大にともなって北アフリカにまで使用地域が広がり、現在まで言語として大きく変わらずに使われている。

イスラームにおいては、アッラーがムハンマドに対してアラビア語で教えを与えたとされ、アラビア語は特別視される。イスラームの聖典であるクルアーン(コーラン)は古典アラビア語で書かれている。クルアーンは他言語に翻訳されることもあるが、礼拝において詠唱されるのは古典アラビア語のクルアーンである。アフリカからトルコインド東南アジアにかけてのイスラム圏では、アラビア語が知識人の共通語として通用している。なお、クルアーンで用いられるアラビア語はムハンマドがいたヒジャーズ地方の方言をかなり反映していると考えられる。

オスマン帝国時代までに書き言葉としてのフスハーは衰退したが、話し言葉としては続けて用いられていた。近代になると書き言葉は簡単なものとして練り直され、近代以降の新しい概念に対応する新語が大量に追加されることで、現代において使用されている現代のフスハーが成立した[1]

フスハーはアラビア語において公的な面を代表する言語であり、宗教関係のほかに、学術関係や書籍雑誌新聞などの文章はもちろん、公的な場での会話やテレビニュースなどの改まった場においても使用される[2]。また、非ネイティブ向けのアラビア語教育もフスハーで行われる。

一方で、日常会話においてはフスハーが使用されることは少ない。

アーンミーヤ

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アーンミーヤないし方言は日常会話で用いられる話し言葉であり、国・地域ごとに異なる。正字法は無いが、私信や、大衆向けの小説や演劇、詩歌はアーンミーヤで書かれる。 

湾岸方言ヒジャーズ方言イラク方言シリア方言英語版レバノン方言パレスチナ方言エジプト方言スーダン方言マグリブ方言ハッサニヤ方言などに大別され、それぞれの地域のなかでも違いがある。地域によっては、宗派ごとに話される差異があるとされる。また、遊牧民・農村・都市といった生活形態によって、地域を越えた共通の特徴があるとされる。

エジプト方言、シリア方言、レバノン方言などはマスメディアで多用されるためアラブ世界各地で理解される一方、異なる地域の住民同士では会話に支障が出ることもある。

また、非ネイティブ向けのアラビア語教育は主にフスハーで行われるが、日常会話をスムーズに行うには現地のアーンミーヤを習得する必要がある。

アラビア語の特徴

[編集]

多くの単語は、三つの子音語根として分析することができる。そこに、母音接頭辞接尾辞接中辞を付けて、語彙を派生したり、活用したりする。形態論的には屈折語である。

文字

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アラビア語の表記には、通常はアラビア文字が用いられる。フスハーはアラビア文字による正書法を持ち、アーンミーヤも文字化する際は一般にアラビア文字が用いられる。ただし、マルタ語ラテン文字による正書法を持つ。以下は、アラビア文字の主な特徴である。

  • 文字一覧はアラビア文字の項を参照。それぞれの独立形が左右の文字と繋がっていく(ただし例外が6文字ある)。
  • 右から左へと読む。数字は左から右に綴られる。
  • 多くの書体が存在する。「イスラームの書法」を参照。
  • 文語フスハー)はもっぱらアラビア文字で表される。アラビア文字のアブジャド(慣用名称:アルファベット)は従来のアブジャドにおける第1番目の子音であった声門閉鎖音(声門破裂音)としてのアリフ(後世にハムザ(ء)として分離されたもの)と弱文字アリフ(ا)を同時に1番目に置くか、弱文字アリフをلا(ラーム・アリフ)として終盤に置くかで28文字と数えるか・29文字と数えるかの学説に分かれる。
  • 大文字小文字の区別はない。ラテン文字転写では人名などの語頭が大文字で書かれるが、転写の都合上によるもので、もとのアラビア語では固有名詞の語頭を何らかの違う形で書くということはされない。
  • 口語アーンミーヤ)には正書法がない。
  • アラビア文字には母音を示す文字は存在せず、アブジャドに含まれる子音字のみでつづられる。長母音の一部は弱文字を表すためのアリフ(ا)や弱文字と呼ばれる半母音のワーウ(و)ならびにヤー(ي)を用いるがこれらは母音ではなく無母音の子音という扱いとなる。母音の情報は読む側が補って読まなければならないが、不便が生じることからウマイヤ朝期に発音記号が開発された。クルアーン(コーラン)や低年齢向け児童書籍には正確な発音を示すために母音符号などの符号(シャクル)が付記される。書道作品においても、母音符号は装飾を兼ねて付記されることが多い。まれに、成人対象の詩や小説であっても誤読を避けるため自著に母音符号を付記する作家もいる。

発音

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文法

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  • 定冠詞前置詞が存在し、名詞形容詞(アラビア語では名詞に分類される)は格(主格・属格・対格)・(男性・女性)・数(単数・双数・複数)によって変化する。
  • 女性形、男性・女性複数形には基本となる規則形があるもののそれ以外にもとりうる形が無数に存在するため、個別に記憶しなければならないものが多い。例えば、مُدَرِّسٌ (mudarrisun, 先生) の複数形は規則形であり、語尾に -ūna を付けて、مُدَرِّسُونَ (mudarrisūna) になるが、صَدِيقٌṣadīqun, 友人)の複数は不規則形であるため、صَدِيقُونَ (ṣadīqūna) とはならず、أَصْدِقَاءُ ('aṣdiqā'u) になる。
  • 動詞3人称男性単数完了形を原形とし、語根順配列の辞典では、その形で引くことになる。原型を基本型第一型ともいう。これに加えて、第二型から第十五型までの派生型が存在するが、現代アラビア語は原則として第十型まで用い、第十一型以降は色の変化などといった限られた場合にしか用いられず、第九型は原則として色彩や人体の障害に関する意味を持つ単語である(ただし、派生型は西欧の学者が考案した学習概念であり、アラビア語を母語とする者は用いない)。ハンス・ヴェーアによる『現代文語アラビア語辞典』をはじめとして、多くの辞書は語根順に語が配列されているため、派生型の動詞を辞書で参照するには、動詞からその語根すなわち原形を抽出しなければならず、これが、アラビア語を母語としない初学者にとっての辞書引きを困難にしている。

方言

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アラビア語諸方言の分布図

言語分布

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アラビア語話者の分布。濃い緑はアラビア語話者が多数を占める地域、薄い緑は少数のアラビア語話者が居住する地域を指す

現代標準アラビア語を公用語とする国家

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アジア
アラブ首長国連邦の旗 アラブ首長国連邦 - イエメンの旗 イエメン共和国 - イラクの旗 イラク共和国 -オマーンの旗 オマーン国 -
カタールの旗 カタール国 - クウェートの旗 クウェート国 - サウジアラビアの旗 サウジアラビア王国 - シリアの旗 シリア・アラブ共和国 -
バーレーンの旗 バーレーン王国 - パレスチナの旗 パレスチナ国 - ヨルダンの旗 ヨルダン・ハシミテ王国 - レバノンの旗 レバノン共和国
アフリカ
アルジェリアの旗 アルジェリア民主人民共和国 - エジプトの旗 エジプト・アラブ共和国 - エリトリアの旗 エリトリア国 - コモロの旗 コモロ連合 -
西サハラの旗 西サハラ - ジブチの旗 ジブチ共和国 - スーダンの旗 スーダン共和国 - ソマリアの旗 ソマリア - ソマリランドの旗 ソマリランド - チャドの旗 チャド共和国 - チュニジアの旗 チュニジア共和国 -
モーリタニアの旗 モーリタニア・イスラム共和国 - モロッコの旗 モロッコ王国 - リビアの旗 リビア国

アラビア語を公用語としている国家のうち、アラブ首長国連邦、イエメン、オマーン、カタール、クウェート、サウジアラビア、シリア、バーレーン、パレスチナ、ヨルダン、レバノン、エジプト、リビア、チュニジアにおいては国民のほとんどがアラブ人で構成されており、公用語としてのフスハーと日常語としてのアーンミーヤのみを使用している。これはイスラム教徒以外のアラブ人も同様で、たとえばレバノンにはマロン派などのキリスト教徒も多数存在するが、民族的にはアラブ人であるためそのほとんどはフスハーとアラビア語レバノン方言を話す。アルジェリアにおいては国民の大半がアラビア語を話すものの、カビール語などのベルベル語諸語話者も存在する。レバノン、アルジェリアでは旧宗主国語のフランス語も通じる。ただし同国の公用語はアラビア語のみとなっている[3]。アラブ人多数の上でベルベル人がかなりの数存在するのは隣国のモロッコにおいても同様であるが、モロッコでは公用語はアラビア語とベルベル語の2言語体制となっている[4]。モロッコと領有権を争っている西サハラではアラビア語と共にスペイン語も使われる。イラクにおいては北部にクルド人が居住しているためにクルド語も公用語となっているが、アラビア語話者は多数派を占めている[5]。モーリタニアはアラビア語を使用するムーア人が多数を占め、アラビア語が公用語となっているが、南部を中心にアラビア語を使用しない黒人も多く、また旧フランス領だったためフランス語の影響力も強い。スーダンもアラブ系が多数を占めるものの、西部のフール人などのようにアラビア語を使用しない民族も多く存在し、紛争が絶えない。公用語はアラビア語と英語の二言語使用となっている。

こうしたアラブ人が多数を占める国家に対し、住民のほとんどがソマリ語を話すソマリ人であるソマリアや、同じくアファル人イッサ人が多数を占めるジブチ、スワヒリ語に近いコモロ語を主に使用するコモロなどのような、日常語としてアラビア語をほとんど使用しない地域においてもアラビア語が公用語とされることがある。これはこれら諸国がアラブ諸国との経済的・文化的結びつきが強く、またイスラム教徒がほとんどであるため典礼用言語であるフスハーを理解できるものが多く存在するためである。

アラビア語を公用語としている国家は増加傾向にある。これは、かつてイギリスやフランスの植民地だったアラブ人国家が独立後、公用語を英語やフランス語からアラビア語に変更する傾向が強いためである。特にアフリカにおいては、アラビア語圏以外のほとんどの新独立国が旧宗主国の公用語の使用を継続していることと明確な対比をなしている。こうした公用語の切り替えはアラブ人国家すべてで行われたものの、その深度や速度には国によって違いがみられた。旧英領諸国ではほとんどの国で公用語のアラビア語切り替えが実施されたものの、旧フランス領諸国ではモロッコやモーリタニアのように公用語をフランス語とアラビア語の2言語とする国家がいくつか存在し、アルジェリアのように積極的に言語切り替えが行われた国との差異が目立った。またアルジェリアにおいても、教育課程のアラビア語化は進んだものの官僚など政府の指導層がフランス語話者によって占有されている状況を打破することはできなかった[6]。アラビア語教育によって大衆のアラビア語化は進んだものの、エリート層はフランス語話者のままだったため、この二言語の話者間に階層的な対立が生じた[7]。さらにアルジェリアにおけるアラビア語化はイスラム主義と結びついていたために、イスラム主義の台頭を招き[8]、1990年代のアルジェリア内戦へとつながっていくこととなった。

現代口語アラビア語を公用語とする国

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マルタ共和国マルタ語は、現代アラビア語口語の一変種である。語彙などの面でヨーロッパ諸語、特にイタリア語からの借用が多く、またラテン文字で綴られる[9]。現代アラビア語口語諸語の中で国家の公用語となっているのはマルタ・アラビア語のみである。

イスラエルにおけるアラビア語の状況

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イスラエルにおけるアラビア語自治体の分布

英国委任統治領時代のパレスチナにおいては、英語、アラビア語、ならびにヘブライ語の3か国語が公用語とされた。そして、1948年のイスラエル建国後は、アラビア語とヘブライ語のみがイスラエルの公用語とされ[10]、英語は公用語ではなくなった。しかしながら、ユダヤ系イスラエル人の児童や生徒を対象とした初等教育ならびに中等教育機関においては、公用語であるアラビア語よりも公用語ではない英語の教育を重視している。アラブ系イスラエル人の児童や生徒を対象とした初等教育ならびに中等教育機関においては、ユダヤ系イスラエル人よりもアラビア語やアラブ文学などに割り当てられる時間数が多い。また、イスラエルにおける雇用条件において、多くの場合は「ヘブライ語と英語が話せること」が語学的な条件として課されており、公用語であるアラビア語は全く理解できなくても、イスラエル社会においては特に問題視されない。それ故、イスラエルにおけるアラビア語は、公式には公用語であるにもかかわらず、事実上はアラブ系イスラエル人というマイノリティのみが用いる言語になっている。イスラエルのアラブ人のかなりが、アラビア語のほかにヘブライ語も使用することができる[11]。また、現在のイスラエルにおける通貨や切手などは、ヘブライ語、アラビア語、ならびに、英語の3か国語で記載される。このような状況は建国以来70年近く続いてきたが、ベンヤミン・ネタニヤフ政権は2017年5月7日にアラビア語を公用語から外して国語へと格下げし、ヘブライ語のみを公用語とする閣議決定を行った。この閣議決定に対し、同国のアラブ人政党からは強い反発が起こった[12]

その他諸国におけるアラビア語

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トルコ各県におけるアラビア語を母語とする住民の割合(1965年統計)
イラン各州におけるアラビア語を母語とする住民の割合(2010年統計)

イスラム教においてアラビア語は典礼用言語となっており、アラビア語のもの以外はクルアーンとして扱われないため、礼拝においては必ずアラビア語によってクルアーンを唱えることとなる。ただしクルアーンが翻訳されたものが注釈書として多くの言語圏において出版されているため、イスラム教徒にとってアラビア語は礼拝において必要であっても、内容の理解までは必ずしも必要ではない。このためアラビア語ができないイスラム教徒も非常に多く存在する。ただしクルアーンの内容を詳しく知るためにはアラビア語の知識は不可欠であり、このためイスラム教諸国においては熱心な信徒を中心に薄く広くアラビア語話者が存在する。

このほか、少数民族としてアラブ人が居住している地域においてもアラビア語は使用されている。トルコ南東部のハタイ県マルディン県スィイルト県シャンルウルファ県、イランの南西部にあるフーゼスターン州にはアラブ人が多く住み、アラビア語が多く話されている[13]

アラビア語を公用語とする国際機関

[編集]

アラビア語は世界で4番目の話者人口を持ち、さらにその話者が一地方に集住しているため、言語として大きな影響力を持つ。このため、アラビア語は多くの国際機関において公用語とされている。なかでもアラブ連盟はアラブ人国家の地域協力機構であるため、アラビア語は唯一の公用語となっている。イスラム協力機構も、イスラム教の典礼用言語がアラビア語でありイスラム教圏のほとんどにアラビア語が広まっているためにアラビア語の影響力は大きく、英語、フランス語とともに公用語の一つとなっている。アフリカ連合においても、大陸北部を中心にアラビア語諸国は一大勢力を保っているため、英語、フランス語、ポルトガル語スワヒリ語とともに公用語とされている。アラビア語使用諸国は数も多くひとつの文明圏を形成しているため、国際連合においても1973年にアラビア語は公用語に追加され[14]、英語、フランス語、ロシア語中国語スペイン語とともに6つの公用語のひとつとされている。

他言語への影響

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アラビア語を起源とする語彙

[編集]

「アル」で始まる言葉が多いのは、al-定冠詞だからである。

影響を受けた諸言語

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アラビア語から大きな影響を受けた言語は多く存在する。

特に北アフリカ西アフリカ東アフリカの海岸部においては、それまで文字を持っていなかった言語がイスラム教およびその典礼用言語であるアラビア語の影響を受けて語法を整備し、文字を導入したケースが多く存在する。ハウサ語ソマリ語などはこうした言語であり、現代では表記法はラテン文字に改められたものの、アラビア語からの借用語は非常に多く存在している。インド洋の季節風交易によってアラブ人商人が多く訪れた東アフリカの海岸部においては、バントゥー諸語の語幹に語彙の35%から40%にものぼる大量のアラビア語からの借用語を取り入れたスワヒリ語が16世紀ごろまでには成立し、地域の商業言語として広く使用されるようになった。

このほか、ペルシア語トルコ語を含むテュルク諸語スペイン語ヒンドゥスターニー語マレー語などの言語は古くから独自の文字を持っていたが、イスラム教の伝播によってアラビア文字を使用するようになり、同時に大量の語彙がアラビア語から流入した。これらの言語は現代でもアラビア語からの借用語が多い。ただしペルシア語を除き、現在はそれぞれ別の文字で表記されている。

統制機関

[編集]

アラビア語の統制機関としては、最も古いダマスカス・アラビア語アカデミー(1919年創立)[15]や、カイロにあるアラブ語学院1932年創立)[15]をはじめ、いくつかの国家に設けられたアラビア語アカデミーがその役割を担っている。こうした統制機関は科学分野を除いて外国語からの借用語をできるだけ制限し、新たな概念に対しては単語の意味の拡張などアラビア語内の対応によって処理する傾向が強い[16]

脚注

[編集]

注釈

[編集]
  1. ^ Modern Standard Arabic

出典

[編集]
  1. ^ 「イスラーム世界のことばと文化」(世界のことばと文化シリーズ)p84-85 佐藤次高・岡田恵美子編著 早稲田大学国際言語文化研究所 成文堂 2008年3月31日初版第1刷
  2. ^ 「イスラーム世界のことばと文化」(世界のことばと文化シリーズ)p85-86 佐藤次高・岡田恵美子編著 早稲田大学国際言語文化研究所 成文堂 2008年3月31日初版第1刷
  3. ^ https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/algeria/data.html#section1 「アルジェリア基礎データ」日本国外務省 2017年6月21日閲覧
  4. ^ https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/morocco/data.html 「モロッコ基礎データ」日本国外務省 2017年6月21日閲覧
  5. ^ https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/iraq/data.html#section1 「イラク基礎データ」日本国外務省 2017年6月21日閲覧
  6. ^ 「アルジェリアを知るための62章」p357 私市正年編著 明石書店 2009年4月30日初版第1刷
  7. ^ 「アルジェリアを知るための62章」p153 私市正年編著 明石書店 2009年4月30日初版第1刷
  8. ^ 「アルジェリアを知るための62章」p358 私市正年編著 明石書店 2009年4月30日初版第1刷
  9. ^ 「アラビア語の世界 歴史と現在」p415-416 ケース・フェルステーヘ著 長渡陽一訳 三省堂 2015年9月20日第1刷
  10. ^ http://mfa.gov.il/MFA_Graphics/MFA%20Gallery/Documents%20languages/FactsJapanese08.pdf 「イスラエルの情報」p142 イスラエル外務省 2017年6月21日閲覧
  11. ^ 「イスラエルを知るための60章」p342 立山良司編著 明石書店 2012年7月31日初版第1刷 
  12. ^ https://www.afpbb.com/articles/-/3127540 「イスラエル、アラビア語を公用語から外す法案を閣議決定」AFPBB 2017年05月08日 2017年6月21日閲覧
  13. ^ 『イランを知るための65章』 岡田久美子・北原圭一、鈴木珠里編著 明石書店  2009年11月20日 p.74 ISBN 9784750319803
  14. ^ http://www.unic.or.jp/info/un/charter/membership_language/ 「加盟国と公用語」 国際連合広報センター 2017年6月21日閲覧
  15. ^ a b 「アラビア語の世界 歴史と現在」p345 ケース・フェルステーヘ著 長渡陽一訳 三省堂 2015年9月20日第1刷
  16. ^ 「アラビア語の世界 歴史と現在」p348-354 ケース・フェルステーヘ著 長渡陽一訳 三省堂 2015年9月20日第1刷

参考文献

[編集]
  • 『現代アラビア語入門』黒柳恒男、飯森嘉助(大学書林)
  • 『アラビア語入門』池田修(岩波書店、絶版)

関連項目

[編集]

外部リンク

[編集]