「シュスワプ語」の版間の差分
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'''シュスワプ語'''(シュスワプご)または'''シュスワップ語'''(シュスワップご、{{Lang-en-short|Shuswap}}; 原語名: Secwepemctsín<ref name="mplf">Lewis ''et al.'' (2015f).</ref> {{Ipa|sxʷəpmxˈt͡sin}}<ref name="mo1989a">大島 |
'''シュスワプ語'''(シュスワプご)または'''シュスワップ語'''(シュスワップご、{{Lang-en-short|Shuswap}}; 原語名: Secwepemctsín<ref name="mplf">Lewis ''et al.'' (2015f).</ref> {{Ipa|sxʷəpmxˈt͡sin}}<ref name="mo1989a">大島 (1989a).</ref>)とは、カナダ西部の[[ブリティッシュコロンビア州]]で話されている[[ファースト・ネーション]]の[[言語]]の一つである。原語名の ''Secwepemctsín'' は民族名 ''Secwepemc'' 〈[[シュスワップ族]]〉と ''-tsín'' 〈口〉の合成語である<ref name="mo1989a" />。[[セイリッシュ語族]]内陸語派に属する。 |
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近年は話者の高齢化が進む一方で若い世代の[[第一言語]]が[[英語]]に[[言語交替|切り替わる]]傾向にあり、教育によるシュスワプ語再興への取り組みが行われている(参照: [[#言語教育]])。 |
近年は話者の高齢化が進む一方で若い世代の[[第一言語]]が[[英語]]に[[言語交替|切り替わる]]傾向にあり、教育によるシュスワプ語再興への取り組みが行われている(参照: [[#言語教育]])。 |
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言語自体の特徴としては、[[音韻論|音韻]]的には子音の数が多く(参照: [[#子音]])、[[形態論|形態]]的には[[重複]]({{Lang-en-short|reduplication}})と[[接辞]]による語の変化が見られ(参照: [[#形態論]])、[[統語論|統語]]的には動詞が他の要素より先頭に来る語順の傾向(参照: [[#語順]])や2種類の格(参照: [[#格]])が見られ、また形態統語的には[[主要部#主要部標示と従属部標示|主要部標示]]({{Lang-en-short|head marking}})型言語である(参照: [[#統語論における代名詞]])といった点が挙げられる。 |
言語自体の特徴としては、[[音韻論|音韻]]的には子音の数が多く(参照: [[#子音]])、[[形態論|形態]]的には[[重複]]({{Lang-en-short|reduplication}})と[[接辞]]による語の変化が見られ(参照: [[#形態論]])、[[統語論|統語]]的には動詞が他の要素より先頭に来る語順の傾向(参照: [[#語順]])や2種類の格(参照: [[#格]])が見られ、また形態統語的には[[主要部#主要部標示と従属部標示|主要部標示]]({{Lang-en-short|head marking}})型言語である(参照: [[#統語論における代名詞]])といった点が挙げられる。 |
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== 分布 == |
== 分布 == |
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== 歴史 == |
== 歴史 == |
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⚫ | シュスワップ族への[[民族学]]的調査は20世紀初頭に{{仮リンク|ジェサップ探検隊|en|Jesup North Pacific Expedition}}({{Lang-en-short|Jesup North Pacific Expedition}})の{{仮リンク|ジェームズ・テイト|label=ジェームズ・アレクサンダー・テイト|en|James Teit}}(James Alexander Teit)によって行われたものの、その言語についての研究の発展は[[ライデン大学]]のクイパーズ(Aert Hendrik Kuipers{{enlink|Aert H. Kuipers|a=on}}){{Refnest|group="注"|なお、クイパーズはシュスワプ語の本調査(1968年–70年)に取りかかる以前の段階で、同じセイリッシュ語族の{{仮リンク|スクォミッシ語|en|Squamish language}}(Squamish)についての記述も行い<ref name="mo1989a" />、1967年に刊行させている。}}による1953年以降の3度にわたる調査を待たねばならなかった。クイパーズによる1974年の[[モノグラフ]]は個別言語全体の記述が不足していたセイリッシュ語族に関して貴重な文献であった<ref name="mo1989a" /><ref group="注">なお他のセイリッシュ諸語に関しては、内陸語派ではトンプソン語についてローレンス・C・トンプソン(Laurence C. Thompson)とM・テリー・トンプソン(M. Terry Thompson)が1992年に ''The Thompson Language''、リルエット語についてヤン・ファン・アイク(Jan van Eijk)が1997年に ''The Lillooet Language: Phonology, Morphology, Syntax'' を、海岸語派({{Lang-en-short|Coast}})では、{{仮リンク|カリスペル語|en|Salish-Spokane-Kalispel language}}(Kalispel)について Hans Vogt が1940年に ''The Kalispel Language''、ブレンダ・J・スペック(Brenda J. Speck)が1980年に ''An editon of Father Post's Kalispel grammar'' を、{{仮リンク|コモックス語|label=コモックス語(Comox)またはコモックス・スライアモン語(Comox-Sliammon)|en|Comox language}}についてクロード・アジェージュ(Claude Hagège)が1981年に {{Lang|fr|''Le Comox Lhaamen de Colombie Britannique: présentation d’une langue amerindienne''}}、H・ハリス(H. Harris)が同年に ''A grammar of Comox''、[[渡邊己|渡辺己]]が2003年に ''A Morphological Description of Sliammon, Mainland Comox Salish with a Sketch of Syntax'' を、[[ハルコメレム語]](Halkomelem{{enlink|Halkomelem|a=on}})については {{Harvcoltxt|Galloway|1993}}、孤立したセイリッシュ語では{{仮リンク|ベラクーラ語|en|Nuxalk language}}(Bella Coola)についてフィリップ・W・デイヴィス(Philip W. Davis)と Ross Saunders が 1978年に "Bella Coola Syntax"(E. Cook and J. Kaye (eds.), ''Linguistic Studies of Native Canada'' 所収)、1997年に ''A Grammar of Bella Coola''、また H. F. Nater が1984年に ''The Bella Coola Language'' と、それぞれ個別言語の文法に関する著作を発表している。</ref>。その後学界においては、Gardiner (1998) がシュスワプ語の[[話題]]({{Lang-en-short|topic}})や[[焦点 (言語学)|焦点]]({{Lang-en-short|focus}})について研究し、また Lai (1998a, b) や Déchaine & Wiltschko (2003) がシュスワプ語の独立代名詞をDP仮説などを通して分析しているが、後者は他の複数の言語も跨いだものとなっている(参照: [[#統語論]])。 |
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=== 言語教育 === |
=== 言語教育 === |
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19世紀中頃から後期にかけて流行した[[天然痘]]によりシュスワップ族の文化は弱体化したが、その時期にはカナダ政府による先住民「文明化」の目論見が進められていた<ref>{{Harvcoltxt|Michel|2005|p=1–2}}.</ref>。1876年の[[インディアン法 (カナダ)|インディアン法]]({{Lang-en-short|Indian Act}})により先住民問題は法制化され、先住民人口をイギリス系カナダ人社会へ同化させる植民地的な動機から、イギリス系カナダ人の行政官らはそれまで地方にあった産業学校{{Refnest|group="注"|{{Lang-en-short|industrial school(s)}}。主に農業技術の向上が重視され、生徒たちは1学年のほぼ大半の時間を学校で過ごすこととなっていた<ref name="km2005_6">{{Harvcoltxt|Michel|2005|p=6}}.</ref>。}}を[[インディアン寄宿学校|アメリカ式の寄宿学校]]{{Refnest|group="注"|{{Lang-en-short|residential school(s)}}。教育と宗教が重視され、生徒たちは1学年につき10ヶ月を学校で過ごすこととなっていた<ref name="km2005_6" />。宗教に関しては、寄宿学校制の施行を促した1879年のデイヴィン・リポート({{Lang-en-short|Davin Report}})において、先住民集団との深いつながりを持つ[[キリスト教]]の宗派による学校運営はどうか、との提案が見える<ref name="km2005_3">{{Harvcoltxt|Michel|2005|p=3}}.</ref>。}}に置き換えることを考えた<ref>{{Harvcoltxt|Michel|2005|p=2–3}}.</ref>。寄宿学校を始め、産業学校、昼間学校{{Refnest|group="注"|{{Lang-en-short|day school(s)}}。ファースト・ネーションの子どもたちが最初に入る学校で、日中に出席するだけでよいこととなっていた<ref name="km2005_6" />。}}など様々な形態の学校の取り組みが行われたものの、学校を卒業した先住民たちはイギリス系カナダ人の社会に適応できておらず、政府から見ても成果が思わしくないことは明らかであった (Titley 1986: 81)<ref name="km2005_3" />。1920年になるとインディアン法に7歳から15歳の先住民にルーツを持つ子どもたちを学校に通わせることを義務とする規定が、また1930年には同法に従わなかった親に罰金刑や懲役刑を課す節が新たに設けられるなど、むしろ学校の先住民共同体への接近が悪影響をもたらしたと考えられる側面も存在する<ref name="km2005_3" />。こうした過程によりシュスワップ族の言語も文化も共に衰退の一途を辿ることとなる。学校でシュスワプ語を話そうとすると罰せられるため、親たちは子どもを守るためにシュスワプ語は教えず、英語だけで育てるようになった (Haig-Brown 1989: 109–110)<ref>{{Harvcoltxt|Michel|2005|p=3–4}}.</ref>。こうして寄宿学校生活を耐え抜いた者たちの孫世代にとって、シュスワプ語とは消滅の瀬戸際にある言語であった<ref name="km2005_3" />。 |
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このような状況の中、1987年になるとシュスワプ語を消滅の危機から救う取り組みが始められるが、それは[[ニュージーランド]]の[[マオリ族]]による{{仮リンク|言語の巣|en|Language nest}}([[マオリ語]]: {{仮リンク|テ・コーハンガ・レオ|label=Te Kōhanga Reo|en|Māori language revival}}; 英語: language nest)を模範とする、生後まもなくから5歳にかけての子どもを対象とした取り組みであった<ref name="km2005_4">{{Harvcoltxt|Michel|2005|p=4}}.</ref>。後には初等教育を[[イマージョン・プログラム|イマージョン]]方式で行ったり<ref group="注">先住民向けのイマージョン・スクールとしては{{仮リンク|チェイス (ブリティッシュコロンビア州)|label=チェイス|en|Chase, British Columbia}}の Chief Atahm School{{enlink|Chief Atahm School|a=on}}(1991/92年設立)が存在する。[[#外部リンク]]も参照。</ref>、4年生から7年生を対象としたバイリンガル教育、成人を対象とした授業、ファースト・ネーション共同体のための教員養成課程も州内外で行われたりするようになった<ref name="km2005_4" />。 |
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=== 研究史 === |
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⚫ | シュスワップ族への[[民族学]]的調査は20世紀初頭に{{仮リンク|ジェサップ探検隊|en|Jesup North Pacific Expedition}}({{Lang-en-short|Jesup North Pacific Expedition}})の{{仮リンク|ジェームズ・テイト|label=ジェームズ・アレクサンダー・テイト|en|James Teit}}(James Alexander Teit)によって行われたものの、その言語についての研究の発展は[[ライデン大学]]のクイパーズ(Aert Hendrik Kuipers{{enlink|Aert H. Kuipers|a=on}}){{Refnest|group="注"|なお、クイパーズはシュスワプ語の本調査(1968年–70年)に取りかかる以前の段階で、同じセイリッシュ語族の{{仮リンク|スクォミッシ語|en|Squamish language}}(Squamish)についての記述も行い<ref name="mo1989a" />、1967年に刊行させている。}}による1953年以降の3度にわたる調査を待たねばならなかった。クイパーズによる1974年の[[モノグラフ]]は個別言語全体の記述が不足していたセイリッシュ語族に関して貴重な文献であった<ref name="mo1989a" /><ref group="注">なお他のセイリッシュ諸語に関しては、内陸語派ではトンプソン語についてローレンス・C・トンプソン(Laurence C. Thompson)とM・テリー・トンプソン(M. Terry Thompson)が1992年に ''The Thompson Language''、リルエット語についてヤン・ファン・アイク(Jan van Eijk)が1997年に ''The Lillooet Language: Phonology, Morphology, Syntax'' を、海岸語派({{Lang-en-short|Coast}})では、{{仮リンク|カリスペル語|en|Salish-Spokane-Kalispel language}}(Kalispel)について Hans Vogt が1940年に ''The Kalispel Language''、ブレンダ・J・スペック(Brenda J. Speck)が1980年に ''An editon of Father Post's Kalispel grammar'' を、{{仮リンク|コモックス語|label=コモックス語(Comox)またはコモックス・スライアモン語(Comox-Sliammon)|en|Comox language}}についてクロード・アジェージュ(Claude Hagège)が1981年に {{Lang|fr|''Le Comox Lhaamen de Colombie Britannique: présentation d’une langue amerindienne''}}、H・ハリス(H. Harris)が同年に ''A grammar of Comox''、[[渡邊己|渡辺己]]が2003年に ''A Morphological Description of Sliammon, Mainland Comox Salish with a Sketch of Syntax'' を、[[ハルコメレム語]](Halkomelem{{enlink|Halkomelem|a=on}})については {{Harvcoltxt|Galloway|1993}}、孤立したセイリッシュ語では{{仮リンク|ベラクーラ語|en|Nuxalk language}}(Bella Coola)についてフィリップ・W・デイヴィス(Philip W. Davis)と Ross Saunders が 1978年に "Bella Coola Syntax"(E. Cook and J. Kaye (eds.), ''Linguistic Studies of Native Canada'' 所収)、1997年に ''A Grammar of Bella Coola''、また H. F. Nater が1984年に ''The Bella Coola Language'' と、それぞれ個別言語の文法に関する著作を発表している。</ref>。その後学界においては、Gardiner (1998) がシュスワプ語の[[話題]]({{Lang-en-short|topic}})や[[焦点 (言語学)|焦点]]({{Lang-en-short|focus}})について研究し、また Lai (1998a, b) や Déchaine & Wiltschko (2003) がシュスワプ語の独立代名詞をDP仮説などを通して分析しているが、後者は他の複数の言語も跨いだものとなっている(参照: [[#統語論]])。 |
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== 正書法について == |
== 正書法について == |
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=== 子音 === |
=== 子音 === |
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大島 |
大島 (1989a)や Maddieson (2013)<ref group="注">このうち Maddieson (2013) はシュスワプ語を含め全部で563種類の言語の子音数を比較した上で、シュスワプ語は5段階中最も多い Large の区分としている。</ref>が評価したように、シュスワプ語の[[子音]]の種類は非常に豊富で、[[放出音]]({{Unicode|p̓、t̓、c̓、k̓、k̓°、q̓、q̓°}})や{{仮リンク|声門化|en|Glottalization}}された[[共鳴音]]({{Unicode|m̓、n̓、l̓、y̓、γ̓、ʕ̓、ʕ̓°、w̓}})が見られる。子音の一覧は以下の通りである。見やすさを考慮し、資料の違いによる表記揺れ等に関する情報は各欄に設けた注にて説明を行っている。 |
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|+ シュスワプ語の子音一覧<ref name="ahk1974_20">{{Harvcoltxt|Kuipers|1974|p=20}}.</ref> |
|+ シュスワプ語の子音一覧<ref name="ahk1974_20">{{Harvcoltxt|Kuipers|1974|p=20}}.</ref> |
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| style="text-align:center;" | t |
| style="text-align:center;" | t |
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| style="text-align:center;" | c<ref group="注">音声表記は大島 |
| style="text-align:center;" | c<ref group="注">音声表記は大島 (1989a)によると {{IPA|ts}} であるが、Lai (1998a:131) によれば[[破擦音]]の一種 {{Ipa|tʃ}} である。</ref> |
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| style="text-align:center;" | k |
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| style="text-align:center;" | k°<ref group="注">大島 |
| style="text-align:center;" | k°<ref group="注">大島 (1989a)や Lai (1998a:131) では {{Unicode|kʷ}} と表記されている。</ref> |
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| style="text-align:center;" | q |
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| style="text-align:center;" | q°<ref group="注">大島 |
| style="text-align:center;" | q°<ref group="注">大島 (1989a)や Lai (1998a:131) では {{Unicode|qʷ}} と表記されている。</ref> |
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! 声門化 |
! 声門化 |
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| style="text-align:center;" | {{Unicode|p̓}}<ref group="注">大島 |
| style="text-align:center;" | {{Unicode|p̓}}<ref group="注">大島 (1989a)や Lai (1998a:131) では p' と表記されている。</ref> |
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| style="text-align:center;" | {{Unicode|t̓}}<ref group="注">大島 |
| style="text-align:center;" | {{Unicode|t̓}}<ref group="注">大島 (1989a)では t' と表記されており、実際の音声は {{IPA|tɬˀ, tˀ}} であるとされている。Lai (1998a:131) は t に対応する声門化音の欄を空欄としており、正書法で t' と示される音素は声門化された{{仮リンク|側面破擦音|en|Lateral affricate}}({{Lang-en-short|glottalized lateral affricate}})という音素であるとしている。</ref> |
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| style="text-align:center;" | {{Unicode|c̓}}<ref group="注">大島 |
| style="text-align:center;" | {{Unicode|c̓}}<ref group="注">大島 (1989a)では c' と表記されており、Lai (1998a:131) は [[国際音声記号|IPA]] で[[歯茎破擦音]]({{Lang-en-short|alveolar affricate}}){{Ipa|ts}} であるとしている。</ref> |
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| style="text-align:center;" | {{Unicode|k̓}}<ref group="注">大島 |
| style="text-align:center;" | {{Unicode|k̓}}<ref group="注">大島 (1989a)や Lai (1998a:131) では k' と表記されている。</ref> |
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| style="text-align:center;" | {{Unicode|k̓°}}<ref group="注">大島 |
| style="text-align:center;" | {{Unicode|k̓°}}<ref group="注">大島 (1989a)では {{Unicode|k'ʷ}}、Lai (1998a:131) はIPAで {{Ipa|kʷʼ}} と表している。</ref> |
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| style="text-align:center;" | {{Unicode|q̓}}<ref group="注">大島 |
| style="text-align:center;" | {{Unicode|q̓}}<ref group="注">大島 (1989a)や Lai (1998a:131) では q' と表記されている。</ref> |
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| style="text-align:center;" | {{Unicode|q̓°}}<ref group="注">大島 |
| style="text-align:center;" | {{Unicode|q̓°}}<ref group="注">大島 (1989a)では {{Unicode|q'ʷ}}、Lai (1998a:131) はIPAで {{Ipa|qʷʼ}} と表している。</ref> |
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| style="text-align:center;" | {{Unicode|ʔ}}<ref group="注">大島 |
| style="text-align:center;" | {{Unicode|ʔ}}<ref group="注">大島 (1989a)によると実際の音声は {{IPA|ʔ, ʕˀ}} である。</ref> |
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! colspan="2" | [[摩擦音]](fricatives) |
! colspan="2" | [[摩擦音]](fricatives) |
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| style="text-align:center;" | λ<ref group="注">大島 |
| style="text-align:center;" | λ<ref group="注">大島 (1989a)によると音声表記は {{IPA|ɬ}} であるが、Lai (1998a:131) はこの IPA に対応する正書法表記を ll としている。</ref> |
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| style="text-align:center;" | x |
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| style="text-align:center;" | x°<ref group="注">大島 |
| style="text-align:center;" | x°<ref group="注">大島 (1989a)や Lai (1998a:131) では {{Unicode|xʷ}} と表記されている。</ref> |
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| style="text-align:center;" | {{Unicode|x̌}}<ref group="注">大島 |
| style="text-align:center;" | {{Unicode|x̌}}<ref group="注">大島 (1989a)では {{Unicode|x̣}} と表記されており、実際の音声は {{IPA|χ}} であるとされている。</ref> |
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| style="text-align:center;" | {{Unicode|x̌°}}<ref group="注">大島 |
| style="text-align:center;" | {{Unicode|x̌°}}<ref group="注">大島 (1989a)では {{Unicode|x̣ʷ}} と表記されている。</ref> |
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! 声門化 |
! 声門化 |
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| style="text-align:center;" | {{Unicode|m̓}}<ref group="注">大島 |
| style="text-align:center;" | {{Unicode|m̓}}<ref group="注">大島 (1989a)や Lai (1998a:131) では m' と表記されている。</ref> |
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| style="text-align:center;" | {{Unicode|n̓ l̓}}<ref group="注">大島 |
| style="text-align:center;" | {{Unicode|n̓ l̓}}<ref group="注">大島 (1989a)や Lai (1998a:131) ではそれぞれ n'、l' と表記されており、後者において l' は側面音扱いとされている。</ref> |
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| style="text-align:center;" | {{Unicode|ʕ}} |
| style="text-align:center;" | {{Unicode|ʕ}} |
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| style="text-align:center;" | {{Unicode|ʕ°}}<ref group="注">大島 |
| style="text-align:center;" | {{Unicode|ʕ°}}<ref group="注">大島 (1989a)や Lai (1998a:131) では {{Unicode|ʕʷ}} と表記されている。</ref> |
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| style="text-align:center;" | w |
| style="text-align:center;" | w |
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| style="text-align:center;" | {{Unicode|y̓}}<ref group="注">大島 |
| style="text-align:center;" | {{Unicode|y̓}}<ref group="注">大島 (1989a)では y' と表記されている。</ref> |
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| style="text-align:center;" | {{Unicode|γ̓}}<ref group="注">大島 |
| style="text-align:center;" | {{Unicode|γ̓}}<ref group="注">大島 (1989a)では γ' と表記されている。</ref> |
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| style="text-align:center;" | [{{Unicode|ʕ̓}}] |
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| style="text-align:center;" | {{Unicode|ʕ̓°}}<ref group="注">大島 |
| style="text-align:center;" | {{Unicode|ʕ̓°}}<ref group="注">大島 (1989a)では {{Unicode|ʕ'ʷ}}、Lai (1998a) は {{Ipa|ʕʷʼ}} であるとしている。</ref> |
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| style="text-align:center;" | {{Unicode|w̓}}<ref group="注">大島 |
| style="text-align:center;" | {{Unicode|w̓}}<ref group="注">大島 (1989a)では w' と表記されている。</ref> |
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セイリッシュ祖語の *r に由来する {{Ipa|l}} に後続された母音は[[舌根]]の後退により暗い音色を帯びたものとなる({{Lang-en-short|darkened}})という特徴がある<ref name="mo1989a" />。 |
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=== 強勢 === |
=== 強勢 === |
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275行目: | 283行目: | ||
シュスワプ語の主な語構成の方法は、重複によるものと接辞によるものの2つである<ref name="mo1989a" />。Dryer (2013a) は {{Harvcoltxt|Kuipers|1974|p=passim}} から、シュスワプ語の[[語形変化|屈折変化]]において[[接頭辞]]が関わる傾向と[[接尾辞]]が関わる傾向とは同じ程度であると判断している。 |
シュスワプ語の主な語構成の方法は、重複によるものと接辞によるものの2つである<ref name="mo1989a" />。Dryer (2013a) は {{Harvcoltxt|Kuipers|1974|p=passim}} から、シュスワプ語の[[語形変化|屈折変化]]において[[接頭辞]]が関わる傾向と[[接尾辞]]が関わる傾向とは同じ程度であると判断している。 |
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シュスワプ語に限らずセイリッシュ語族の言語は動詞と名詞の区別がつけにくいとされている<ref>大島 |
シュスワプ語に限らずセイリッシュ語族の言語は動詞と名詞の区別がつけにくいとされている<ref>大島 (1989b).</ref><ref name="mt2000_17" />が、その原因はある1つの語根が場合によって名詞を表したり、〈…である〉という状態を動詞を表したりすることにある。このうち後者を指して「叙述名詞」と呼称する例も見られる<ref name="mo1989a" />。 |
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以下ではシュスワプ語において見られる重複について説明した後、接辞絡みの現象については明解さを期すために、敢えて一般的な括りの品詞分類という切り口から述べていくこととする。 |
以下ではシュスワプ語において見られる重複について説明した後、接辞絡みの現象については明解さを期すために、敢えて一般的な括りの品詞分類という切り口から述べていくこととする。 |
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===== 「冠詞」 ===== |
===== 「冠詞」 ===== |
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{{Harvcoltxt|Kuipers|1974|p=57}} では冠詞とも称される5種類の前接的不変化詞<ref group="注">『[[学術用語集]] 言語学編』による。大島 |
{{Harvcoltxt|Kuipers|1974|p=57}} では冠詞とも称される5種類の前接的不変化詞<ref group="注">『[[学術用語集]] 言語学編』による。大島 (1989a)では「前倚辞化した小詞」と訳されている。</ref>({{Lang-en-short|proclitic particles}})に触れられているが、これは[[絶対格]]({{Lang-en-short|absolutive}})と関係格({{Lang-en-short|relative}})、定<ref group="注" name="mo1989a_tr">大島 (1989a)における訳に基づく。</ref>({{Lang-en-short|actual-determinate}})と不定<ref group="注" name="mo1989a_tr" />({{Lang-en-short|hypothetical indeterminate}})で形が異なり、更には絶対格の定のうち現存({{Lang-en-short|present}})と不在({{Lang-en-short|absent}})との間にも区別が認められる。 |
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{| class="wikitable" |
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|+ シュスワプ語の「冠詞」<ref name="ahk1974_57">{{Harvcoltxt|Kuipers|1974|p=57}}.</ref> |
|+ シュスワプ語の「冠詞」<ref name="ahk1974_57">{{Harvcoltxt|Kuipers|1974|p=57}}.</ref> |
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* 「限定詞句」 Matthews, P. H. 著、中島平三・瀬田幸人 監訳 (2009b).『オックスフォード言語学辞典』朝倉書店。ISBN 978-4-254-51030-0 (原書: ''The Concise Oxford Dictionary of Linguistics'', 1997.) |
* 「限定詞句」 Matthews, P. H. 著、中島平三・瀬田幸人 監訳 (2009b).『オックスフォード言語学辞典』朝倉書店。ISBN 978-4-254-51030-0 (原書: ''The Concise Oxford Dictionary of Linguistics'', 1997.) |
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* 「項」 Matthews, P. H. 著、中島平三・瀬田幸人 監訳 (2009c).『オックスフォード言語学辞典』朝倉書店。ISBN 978-4-254-51030-0 (原書: ''The Concise Oxford Dictionary of Linguistics'', 1997.) |
* 「項」 Matthews, P. H. 著、中島平三・瀬田幸人 監訳 (2009c).『オックスフォード言語学辞典』朝倉書店。ISBN 978-4-254-51030-0 (原書: ''The Concise Oxford Dictionary of Linguistics'', 1997.) |
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* 大島稔 (1989a).「シュスワプ語」 [[亀井孝 (国語学者)|亀井孝]]、[[河野六郎]]、[[千野栄一]] 編『[[言語学大辞典]]』第2巻、三省堂、225-227頁。ISBN 4-385-15216-0 |
* 大島稔 (1989a).「シュスワプ語」 [[亀井孝 (国語学者)|亀井孝]]、[[河野六郎]]、[[千野栄一]] 編『[[言語学大辞典]]』第2巻、三省堂、225-227頁。ISBN 4-385-15216-0 |
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* 大島稔 (1989b).「セイリッシュ語族」 [[亀井孝 (国語学者)|亀井孝]]、[[河野六郎]]、[[千野栄一]] 編『[[言語学大辞典]]』第2巻、三省堂、434-435頁。ISBN 4-385-15216-0 |
* 大島稔 (1989b).「セイリッシュ語族」 [[亀井孝 (国語学者)|亀井孝]]、[[河野六郎]]、[[千野栄一]] 編『[[言語学大辞典]]』第2巻、三省堂、434-435頁。ISBN 4-385-15216-0 |
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* Demirdache, Hamida, Dwight Gardiner, Peter Jacobs, and Lisa Matthewson (1994). "[http://lingserver.arts.ubc.ca/linguistics/icsnl/1994 The Case for D-Quantification in Salish: ‘All’ in St'át'imcets, Squamish and Secwepemctsín]." In ''Papers for the 29th International Conference on Salish and Neighbouring Languages'', 145–203. Pablo, Montana: Salish Kootenai College. |
* Demirdache, Hamida, Dwight Gardiner, Peter Jacobs, and Lisa Matthewson (1994). "[http://lingserver.arts.ubc.ca/linguistics/icsnl/1994 The Case for D-Quantification in Salish: ‘All’ in St'át'imcets, Squamish and Secwepemctsín]." In ''Papers for the 29th International Conference on Salish and Neighbouring Languages'', 145–203. Pablo, Montana: Salish Kootenai College. |
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* {{Cite book|last=Galloway|first=Brent D.|authorlink=:en:Brent Galloway|year=1993|url=http://ci.nii.ac.jp/ncid/BA21159032|title=A Grammar of Upriver Halkomelem|location=Berkeley|publisher=University of California Press|ref=harv}} |
* {{Cite book|last=Galloway|first=Brent D.|authorlink=:en:Brent Galloway|year=1993|url=http://ci.nii.ac.jp/ncid/BA21159032|title=A Grammar of Upriver Halkomelem|location=Berkeley|publisher=University of California Press|ref=harv}} |
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* Haig-Brown (1989). ''Resistance and Renewal: Surviving the Indian Residential School''. Vancouver, B.C.: Tillacum Library. |
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* Noguchi, T. (1997). "Two types of pronouns and variable binding." In ''Language'' 73: 770–797. |
* Noguchi, T. (1997). "Two types of pronouns and variable binding." In ''Language'' 73: 770–797. |
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* Titley, E. Brian (1986). ''Duncan Campbell Scott and the Administration of Indian Affairs in Canada''. Vancouver: University of British Columbia Press. |
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== 関連項目 == |
== 関連項目 == |
2017年5月13日 (土) 15:16時点における版
シュスワプ語 シュスワップ語 | |
---|---|
Secwepemctsín | |
話される国 | カナダ |
地域 | ブリティッシュコロンビア州 |
民族 | シュスワップ族 |
話者数 | 流暢に話すことが可能である話者は197人、semi-speakers は1千187人[1] |
言語系統 | |
公的地位 | |
公用語 | なし |
統制機関 | Secwepemc文化教育協会 (en) |
言語コード | |
ISO 639-3 |
shs |
消滅危険度評価 | |
Definitely endangered (Moseley 2010) |
シュスワプ語(シュスワプご)またはシュスワップ語(シュスワップご、英: Shuswap; 原語名: Secwepemctsín[2] /sxʷəpmxˈt͡sin/[3])とは、カナダ西部のブリティッシュコロンビア州で話されているファースト・ネーションの言語の一つである。原語名の Secwepemctsín は民族名 Secwepemc 〈シュスワップ族〉と -tsín 〈口〉の合成語である[3]。セイリッシュ語族内陸語派に属する。
近年は話者の高齢化が進む一方で若い世代の第一言語が英語に切り替わる傾向にあり、教育によるシュスワプ語再興への取り組みが行われている(参照: #言語教育)。
言語自体の特徴としては、音韻的には子音の数が多く(参照: #子音)、形態的には重複(英: reduplication)と接辞による語の変化が見られ(参照: #形態論)、統語的には動詞が他の要素より先頭に来る語順の傾向(参照: #語順)や2種類の格(参照: #格)が見られ、また形態統語的には主要部標示(英: head marking)型言語である(参照: #統語論における代名詞)といった点が挙げられる。
2000年から公開されているウェブサイト FirstVoicesでは他の様々なファースト・ネーションの言語と共にシュスワプ語の語彙や成句が音声つきで紹介されている。
分布
シュスワプ語が話されているのはブリティッシュコロンビア州の東寄りの中央部[2]のフレーザー川沿い[4]の地域であるが、その周囲では他の先住民語が話されている。南側では同じセイリッシュ語族内陸語派のリルエット語(Lillooet; 原語名: St'at'imcets[5][6])やトンプソン語(Thompson; 原語名: nɬeʔkepmxcín または Nlaka'pamux[7])、オカナガン語(Okanagan; 原語名: Nsilxcín または nsíylxcən[8])が話されているが、他の方位の諸言語は語族の分類すら異なり、それぞれ西はアサバスカ語族のチルコティン語(Chilcotin; 原語名: Tsilhqot'in[9])やキャリア語(Carrier; 原語名: Dakelh[10])、北もアサバスカ語族のセカニ語(Sekani; 別名: Tse'khene[11])、東はアルゴンキン語族のブラックフット語(英: Blackfoot)となっている[12]。
Golla (2007) で Marianne Boelscher Ignace が伝えるところによると、現代のシュスワプ族はカムループスにおける定住地を最大とする17のバンドに分かれている。
方言
Kuipers (1974) はシュスワプ語の方言としてアルカリ湖(英: Alkali Lake)方言やカニム湖(英: Canim Lake)方言、シュガーケーン居留地(英: Sugar Cane Reserve)方言、デッドマンズクリーク(英: Deadman's Creek)方言などといった括りを用いているが、Lewis et al. (2015) や Hammarström (2016) などでは単純に西部方言(英: Western)と東部方言(英: Eastern)とに二分されている。
歴史
言語教育
19世紀中頃から後期にかけて流行した天然痘によりシュスワップ族の文化は弱体化したが、その時期にはカナダ政府による先住民「文明化」の目論見が進められていた[13]。1876年のインディアン法(英: Indian Act)により先住民問題は法制化され、先住民人口をイギリス系カナダ人社会へ同化させる植民地的な動機から、イギリス系カナダ人の行政官らはそれまで地方にあった産業学校[注 1]をアメリカ式の寄宿学校[注 2]に置き換えることを考えた[16]。寄宿学校を始め、産業学校、昼間学校[注 3]など様々な形態の学校の取り組みが行われたものの、学校を卒業した先住民たちはイギリス系カナダ人の社会に適応できておらず、政府から見ても成果が思わしくないことは明らかであった (Titley 1986: 81)[15]。1920年になるとインディアン法に7歳から15歳の先住民にルーツを持つ子どもたちを学校に通わせることを義務とする規定が、また1930年には同法に従わなかった親に罰金刑や懲役刑を課す節が新たに設けられるなど、むしろ学校の先住民共同体への接近が悪影響をもたらしたと考えられる側面も存在する[15]。こうした過程によりシュスワップ族の言語も文化も共に衰退の一途を辿ることとなる。学校でシュスワプ語を話そうとすると罰せられるため、親たちは子どもを守るためにシュスワプ語は教えず、英語だけで育てるようになった (Haig-Brown 1989: 109–110)[17]。こうして寄宿学校生活を耐え抜いた者たちの孫世代にとって、シュスワプ語とは消滅の瀬戸際にある言語であった[15]。
このような状況の中、1987年になるとシュスワプ語を消滅の危機から救う取り組みが始められるが、それはニュージーランドのマオリ族による言語の巣(マオリ語: Te Kōhanga Reo; 英語: language nest)を模範とする、生後まもなくから5歳にかけての子どもを対象とした取り組みであった[18]。後には初等教育をイマージョン方式で行ったり[注 4]、4年生から7年生を対象としたバイリンガル教育、成人を対象とした授業、ファースト・ネーション共同体のための教員養成課程も州内外で行われたりするようになった[18]。
Ignace によると、2007年以前の段階で話者の大半は50歳以上であり、1983年に設立されたSecwepemc文化教育協会(Secwepemc Cultural Education Society (en) )はイマージョン・プログラムの実施を含め、シュスワプ語再興のための努力を払ってきている[4]。しかし、民族の第一言語は英語に取って代わられつつある[2]。
研究史
シュスワップ族への民族学的調査は20世紀初頭にジェサップ探検隊(英: Jesup North Pacific Expedition)のジェームズ・アレクサンダー・テイト(James Alexander Teit)によって行われたものの、その言語についての研究の発展はライデン大学のクイパーズ(Aert Hendrik Kuipers (en) )[注 5]による1953年以降の3度にわたる調査を待たねばならなかった。クイパーズによる1974年のモノグラフは個別言語全体の記述が不足していたセイリッシュ語族に関して貴重な文献であった[3][注 6]。その後学界においては、Gardiner (1998) がシュスワプ語の話題(英: topic)や焦点(英: focus)について研究し、また Lai (1998a, b) や Déchaine & Wiltschko (2003) がシュスワプ語の独立代名詞をDP仮説などを通して分析しているが、後者は他の複数の言語も跨いだものとなっている(参照: #統語論)。
正書法について
Lewis et al. (2015) はシュスワプ語について独自の正書法が採用されているとしているが、本記事の主要な典拠となっている Kuipers (1974)において見られる綴り方と先述の FirstVoices において見られる綴り方には差異が認められる。このうち FirstVoices におけるものは Lai (1998a:131) に示されたものと部分的に共通するところが見られる。以下では Kuipers (1974) と Lai (1998a) とを比較し、特に差が顕著であるものを挙げる。
Kuipers (1974) | Lai (1998a:131) |
---|---|
k° | kw |
c | ts |
q° | qw |
c̓ | ts' |
ʔ | 7 |
x | c |
x° | cw |
x̌ | x |
x̌° | xw |
γ | r |
ʕ | g |
ʕ° | gw |
γ̓ | r' |
ʕ̓° | gw' |
音韻論
子音の種類の多さが目立つ。
子音
大島 (1989a)や Maddieson (2013)[注 7]が評価したように、シュスワプ語の子音の種類は非常に豊富で、放出音(p̓、t̓、c̓、k̓、k̓°、q̓、q̓°)や声門化された共鳴音(m̓、n̓、l̓、y̓、γ̓、ʕ̓、ʕ̓°、w̓)が見られる。子音の一覧は以下の通りである。見やすさを考慮し、資料の違いによる表記揺れ等に関する情報は各欄に設けた注にて説明を行っている。
唇音(labial) | 歯音(dental) | 歯側面音(dent.-lateral) | 歯硬口蓋音(dent.-palatal) | 口蓋音(palatal-velar) | 軟口蓋音(velar) | 口蓋垂音(uvular) | 喉頭口蓋垂音(laryngal-uvular) | 喉頭音(laryngal) | ||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
軟口蓋化 (velarized) |
円唇化 | 円唇化 | 口蓋垂化(uvularized) | |||||||||||||
円唇化 | 円唇化 | |||||||||||||||
阻害音(OBSTRUENTS) | 破裂音(plosives) | p | t | c[注 8] | k | k°[注 9] | q | q°[注 10] | ||||||||
声門化 | p̓[注 11] | t̓[注 12] | c̓[注 13] | k̓[注 14] | k̓°[注 15] | q̓[注 16] | q̓°[注 17] | ʔ[注 18] | ||||||||
摩擦音(fricatives) | λ[注 19] | s | x | x°[注 20] | x̌[注 21] | x̌°[注 22] | h | |||||||||
共鳴音(RESONANTS) | 鼻音および流音(NASALS and LIQUIDS) | m | n l[注 23] | |||||||||||||
声門化 | m̓[注 24] | n̓ l̓[注 25] | ||||||||||||||
わたり音(GLIDES) | y | γ | ʕ | ʕ°[注 26] | w | |||||||||||
声門化 | y̓[注 27] | γ̓[注 28] | [ʕ̓] | ʕ̓°[注 29] | w̓[注 30] |
上表のうち、c、c̓、s の3つについては実際の発音において [c c̓ s] から [č č̓ š] までの揺れが見られる[20]。
母音
母音の一覧は以下の通りである。ただし i、u は強勢のある音節のみに、ə は対照的に強勢のない音節のみにしか現れず、また ʌ は極めてまれにしか見られない[21]。
前舌 | 中舌 | 後舌円唇 | |
---|---|---|---|
狭母音 | i | u | |
中段母音 | e | (ʌ) ə | o |
広母音 | a |
セイリッシュ祖語の *r に由来する /l/ に後続された母音は舌根の後退により暗い音色を帯びたものとなる(英: darkened)という特徴がある[3]。
強勢
長い単語の場合、その中の1音節にのみ強勢が置かれる[22]。強勢の無い音節の母音は弱化したり消失したりする(例: səxʷep- : sxʷəp- 〈シュスワプ〉[3])。
文法
シュスワプ語には一人称単数・複数、二人称単数・複数、三人称の区別が見られるが、このうち一人称複数には更に聞き手を含める包含(英: inclusive)と聞き手を含めない除外(英: exclusive)の違いが存在する。この包含と除外の区別はセイリッシュ語族の言語の中ではシュスワプ語にしか見られないものである[23]。こうした人称や数の区別は名詞の所有形や動詞の活用に現れる。
形態論
シュスワプ語の主な語構成の方法は、重複によるものと接辞によるものの2つである[3]。Dryer (2013a) は Kuipers (1974:passim) から、シュスワプ語の屈折変化において接頭辞が関わる傾向と接尾辞が関わる傾向とは同じ程度であると判断している。
シュスワプ語に限らずセイリッシュ語族の言語は動詞と名詞の区別がつけにくいとされている[24][23]が、その原因はある1つの語根が場合によって名詞を表したり、〈…である〉という状態を動詞を表したりすることにある。このうち後者を指して「叙述名詞」と呼称する例も見られる[3]。
以下ではシュスワプ語において見られる重複について説明した後、接辞絡みの現象については明解さを期すために、敢えて一般的な括りの品詞分類という切り口から述べていくこととする。
重複(法)
シュスワプ語には様々な種類の重複(英: reduplication)が見られる[25]。たとえば動詞や名詞の複数性を表すための全体重複(英: total reduplication; 例: kicx 〈彼/彼女が着く〉 → kəc-kícx 〈彼らが着く〉)や指小化を表す子音重複(英: consonant reduplication; 例: pésəλk°e 〈湖〉 → pépsəλk°e 〈小さな湖〉)などである。このうち子音重複はもともと一人称単数の謙遜を表すためのものと思われ、デッドマンズクリーク方言ではまれである一方、カニム湖方言やアルカリ湖方言では義務的ではないものの当たり前のように見られる[26]。
名詞
叙述名詞については、#自動詞と叙述名詞を参照されたい。
所有
所有は名詞に以下のような人称・数を表す専用の接辞を付加したり不変化詞を加えることにより表現される[27]。一人称複数除外形は名詞に三人称の接尾辞 -s が付加され、その前後のいずれかに不変化詞 k°əx°が置かれることとなり、また三人称は s の後では -c となり、それ以外の場合は -s となる。
単数 | 複数 | ||
---|---|---|---|
一人称 | 包含 | n- | -kt |
除外 | -s + k°əx° | ||
二人称 | ʔ- | -mp | |
三人称 | -s/-c |
実際の所有表現の例として citx° 〈家〉を挙げると以下のようになる。γ は絶対格の定冠詞である(参照: #冠詞、#格)。また先述のように一人称単数形には子音重複が見られるという点に留意されたい。
単数 | 複数 | ||
---|---|---|---|
一人称 | 包含 | γ-n-cictx° | γ-citx°-kt |
除外 | γ-citx°-s k°əx° または k°əx° γ-citx°-s | ||
二人称 | γ-ʔ-cictx° | γ-citx°-mp | |
三人称 | γ-citx°-s |
代名詞
シュスワプ語の独立代名詞に関しては、同じセイリッシュ語族の言語であるハルコメレム語のそれや日本語の「彼」・「彼女」とは異なる性質を持つとする研究が存在する。詳しくは#統語論における代名詞を参照されたい。
独立代名詞
Kuipers (1974:59) では「人称直示体系」(英: personal deixis)と呼称されている体系が存在するが、これは Lai (1998a:132) では独立代名詞として読み取られている。本節では以下、Kuipers (1974) における表記を左側、Lai (1998a) における表記を右側に併記して説明を進めることとする。いずれの独立代名詞も特定の語幹に所有接辞(参照: #所有)を組み合わせるという構造は共通しているが、その語幹は一人称単数のみ -céwe / tse というもので、他は (-)nwiʔ(-) というものが基本となっている。更に、数が複数である場合には wλ- / wll- という接頭辞が付加される。各独立代名詞は以下の表の通りである。なお、一人称単数には子音重複が見られる場合があるという点に留意されたい。また、Lai (1998a) の方はグロスも付しているため、併せて参考とされたい。
Kuipers (1974:59) | Lai (1998a:131) | ||||
---|---|---|---|---|---|
正書法表記 | グロス | ||||
単数[注 31] | 一人称 | n-céwe / n-cecwe(ʔ) | n-tse~ts-we7 | 1sg.poss-tse(red)-deic | |
二人称 | ʔ-nwiʔ | 7-enwi7 | 2sg.poss-emph | ||
三人称 | nwiʔ-s | newi7-s | emph-3sg.poss | ||
複数 | 一人称 | 包含 | wλ-nwiʔ-kt | wll-enwi7-kt | pl-emph-1pl.incl.poss |
除外 | wλ-nwiʔ-s k°əx° | wll-enwi7-s-kucw | pl-emph-3sg.poss-excl | ||
二人称 | wλ-nwiʔ-mp | wll-enwi7-mp | pl-emph-2pl.poss | ||
三人称 | wλ-nwiʔ-s | wll-enwi7-s | pl-emph-3sg.poss |
動詞
シュスワプ語においては叙述名詞と自動詞を表すための体系は共通している一方、他動詞の活用の体系はこれらとは全く異なるものとなっている。
自動詞と叙述名詞
自動詞ならびに叙述名詞は以下のような要素を加えることにより活用が行われる。なお、三人称に数の区別は存在しない[28]。
単数 | 複数 | ||
---|---|---|---|
一人称 | 包含 | -k-n | -k-t |
除外 | + k°əx°[注 32] | ||
二人称 | -k | -k-p | |
三人称 | (-ək°e)[注 33] |
自動詞の実際の活用の例として cut- 〈意図する〉を挙げると以下のようになる。なお先述のように、一人称単数では子音重複が発生する点に留意されたい。
単数 | 複数 | ||
---|---|---|---|
一人称 | 包含 | cuct-kn | cut-kt |
除外 | cút k°əx° | ||
二人称 | cut-k | cut-kp | |
三人称 | cút(-ək°e) |
また叙述名詞の例としては以下のようなものが挙げられる[28]。自動詞と同様に一人称単数形には子音重複が見られる点に留意されたい。
- səx°éx°pmx-kn 〈私はシュスワップ族である〉[注 34]
- səx°épmx-k 〈あなたはシュスワップ族である〉
他動詞
他動詞には基本的に目的語と主語を表す接尾辞がつく。以下はその一覧であるが、斜線で区切られている2通りのうち左側は強勢なし、右側は強勢ありの場合の形であり、また目的語接尾辞の一人称単数形は唇音(p、p̓、m、m̓)の前で -c(é)l-、それ以外の場合は -c(é)m- となる[29]。
目的語 | 主語 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
単数 | 複数 | 単数 | 複数 | ||||
一人称 | 包含 | -cm-, -cl- / -cém-, -cél- | -l- / -él- | 一人称 | 包含 | -n / -én | (受動形と同形となる。後述) |
除外 | + 不変化詞 k°əx°(接尾辞の付加はなし) | 除外 | + 不変化詞 k°əx° | ||||
二人称 | -c- / -cí- | -lm- / -úlm- | 二人称 | -x / -éx | -p / -ép | ||
三人称 | 接尾辞の付加なし | 三人称 | -s / -és- |
直説法の場合、他動詞には「動詞本体 + 他動詞化接尾辞(-t-、-nt、-st- のいずれか) + 目的格接尾辞 + 主格接尾辞」という構造となる傾向が見られる[30]。他動詞には語幹に強勢が置かれるタイプのもの(例: pic̓- 〈搾る〉)と接尾辞に強勢が置かれるタイプのもの(例: lx̌- 〈告げ口する〉)とが存在し、以下はその2つの活用表である。一人称複数が二人称要素と共起する場合は必ず除外を表すという点[31]、またカニム湖方言、アルカリ湖方言、シュガーケーン居留地方言では一人称単数が絡むもののうち一部に子音重複が見られる[29]という点にも留意されたい。
目的格 | |||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
一人称 | 二人称 | 三人称 | |||||||
単数 | 複数 | 単数 | 複数 | ||||||
包含 | 除外 | ||||||||
主語 | 一人称 | 単数 | - | píc̓-n-c-n | píc̓-nt-lm-n | pípc̓-n | |||
複数 | 包含 | - | píc̓-nt-m | ||||||
除外 | píc̓-n-c-t | píc̓-nt-lm-t | píc̓-nt-m k°əx° | ||||||
二人称 | 単数 | pípc̓-n-cm-x | - | 未検証 | - | píc̓-n-x | |||
複数 | pípc̓-n-cl-p | 未検証 | píc̓-nt-p | ||||||
三人称 | pípc̓-n-cm-s | píc̓-nt-l-s | píc̓-n-s k°əx° | píc̓-n-c-s | píc̓-nt-lm-s | píc̓-n-s |
目的格 | |||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
一人称 | 二人称 | 三人称 | |||||||
単数 | 複数 | 単数 | 複数 | ||||||
包含 | 除外 | ||||||||
主格 | 一人称 | 単数 | - | lx̌-n-cí-n | lx̌-nt-úlm-n | lx̌-ntétn | |||
複数 | 包含 | - | lx̌-nt-ém | ||||||
除外 | lx̌-n-cí-t | lx̌-nt-úlm-t | 未検証 | ||||||
二人称 | 単数 | lx̌-n-cécm-x | - | 未検証 | - | lx̌-nt-éx | |||
複数 | lx̌-n-cécl-p | 未検証 | lx̌-nt-ép | ||||||
三人称 | lx̌-n-cécm-s | lx̌-nt-él-s | 未検証 | lx̌-n-cí-s | lx̌-nt-úlm-s | lx̌-nt-és |
また、受動形の構成は「語幹 + 他動詞化接尾辞 + 目的格接尾辞 + -m/-ém または -t/-ét」であるが、実はこれは直説法(能動)において一人称複数を主格とする形(上の2つの活用表のうち赤背景で示されたもの)と同じ構造である[31]。つまり、シュスワプ語においてはたとえば lx̌-n-cí-t という形の動詞は〈私たちがあなたのことを告げ口する〉と〈あなたは告げ口される〉の2通りに解釈され得る。Kuipers (1974:48) に記載があるもののうち、二人称や三人称を主格とするものは上の直説法(能動)の活用表に示した通りであるが、一人称を主格とするものは未紹介であるため、以下に掲載することとする。
- 一人称:
- 単数: pípc̓-n-cl-m; lx̌-n-cécl-m
- 複数:
- 包含: píc̓-nt-l-t; lx̌-nt-él-t
- 除外: lx̌-nt-ém k°əx°
なお、動詞に再帰(英: reflexive)や相互(英: reciprocal)の意味を持たせる場合には、他動詞化接尾辞の直後にそれぞれ -cút 〈自分自身を〉、-wéx° 〈お互いを〉という接尾辞をつなげるが、いずれの場合も強勢は必ずその接尾辞に置かれることとなり、また全体の活用も自動詞のパターンと同様となる[29]。
命令
自動詞の命令形は主体が単数の場合 -e または -x-e を後ろにつけるが、直前の要素の最後が母音または声門閉鎖音で終わる場合には必ず -x-e の方となる。また、主体が複数である場合には x°-y-e を後ろにつける[33]。
例[33]:
- ʔəmút-(x-)e - (お前は)座れ!
- p̓eʔíl̓e-x-e - (お前は)子供をおんぶしろ!
- stéʔ-x°-y-e - (お前ら)飲め!
他動詞の命令形は -e(主体が複数の場合は-y-e )で終わる形式となり、-y-e の直前に軟口蓋音が存在する場合その軟口蓋音は唇音化される[31]。pic̓- と lx̌- を例にとると以下のようになるが、後者のように接尾辞に強勢が見られ、かつ他動詞化接尾辞に -nt- を用いるタイプの動詞においては -ék という接尾辞が付加される点[31]、直説法同様に一人称単数が目的格となる形には子音重複が見られるという点などに留意されたい。
目的格 | ||||
---|---|---|---|---|
一人称 | 三人称 | |||
単数 | 複数(除外のみ) | |||
主格(二人称のみ) | 単数 | pípc̓-n-cm-e / pípc̓-n-cm-x-e | píc̓-nt-e k°əx° | píc̓-nt-e |
複数 | pipc̓-n-cl-m-y-e | pic̓-nt-ye k°əx° / pic̓-nt-p k°əx° | pic̓-nt-y-e |
目的格 | ||||
---|---|---|---|---|
一人称 | 三人称 | |||
単数 | 複数(除外のみ) | |||
主格(二人称のみ) | 単数 | lx̌-n-cécm-e / lx̌-n-cécm-x-e | 未検証 | lx̌-nt-ék-e |
複数 | lx̌-n-cécl-m-y-e | 未検証 | lx̌-nt-ék°-y-e |
否定
シュスワプ語における否定表現には全般的に taʔ 〈事実ではない〉が関わっている。まず、基本的には taʔ の後に冠詞 k を置き、更にその後に否定される要素を名詞化したものがくる構造となる[34]。名詞化の要素は s- である[35]。
- 例: táʔ x°um k-n-s-néns[34]
また否定表現には以下のように t̓γiʔ という直示的な(英: deictic)要素が伴われる場合もある[36]。
- 例: táʔ (t̓γíʔ) k-s-q°əníməqλs[37]
- グロス: neg (deic) abs-nmlz-蚊
- 訳: 「それは蚊(など)ではない」
ただし〈…は存在しない〉という表現を行う際には、否定される要素の名詞化は起こらない[38]。
- 例: táʔ t̓γíʔ k-q°əníməqλ[38]
- グロス: neg deic abs-蚊
- 訳: 「蚊などはいない」
否定命令は taʔ に三人称を表す接尾辞 -wəs をつけたものを用いて表現する[38]。
- 例: táʔwəs k-s-ləx̌-n-cécm-x[38]
時制・相
Dryer (2013b) は Kuipers (1974:passim) を根拠に、シュスワプ語に時制や相を示す屈折変化は見られないとしている。しかし、時制や相の区別が存在しないという訳ではなく、後述のような表現が見られる。時制・相いずれにも関わる要素としては前接語(英: proclitic)である m- が見られる。
時制
時制に関しては、Dahl & Velupillai (2013a, b) は Bybee et al. (1994) を根拠として、過去時制も屈折変化による未来時制も見られないとしている。しかし Kuipers (1974:57) は、直示体系(英: deixis)のうち〈現存しないもの〉を表す luʔ を文中に用いれば、その文はほぼ英語における過去時制の文に対応するものとなる旨を述べている。Gardiner (1998:275) も焦点などについての探究の過程で、以下のように luʔ を不変化詞として含む文を用いている。
- 例: γ-John luʔ l-m-wik-t-ø-s
また、クイパーズは複数のインフォーマントにより提供された情報として、意図や期待を意味する不変化詞 meʔ やその縮約形の m- が特定の時制を指している事例として、以下の2つを挙げている[39]。
- 例a: meʔ q°əcéc
- グロス: fut 出発する
- 訳: 「彼は出て行くのだ」
- 例b: m-q°əcéc
- グロス: pst-出発する
- 訳: 「彼は出て行ったのだ」
ただし、このうち過去時制の m- は省略することが可能である上、以下のように現在のことを表す際にも用いることができる[39]。
- 例c: t̓kλúne m-wʔex-wəs
- グロス: deic prs-居る-3
- 訳: 「彼はあちらにいるのだ」
相
英語の進行形に対応する形は ʔex 〈be動詞〉と冠詞 γ、および接尾辞の付加によって得られる[40]。この接尾辞は他動詞の主語を表すものに類似している[3]。
単数 | 複数 | ||
---|---|---|---|
一人称 | 包含 | ʔex γ-ʔíʔλn-wn | ʔex γ-ʔíλn-ət |
除外 | ʔex γ-ʔíλn-əs k°əx° / ʔex k°əx° γ-ʔíλn-əs | ||
二人称 | ʔex γ-ʔíλn-əx° | ʔex γ-ʔíλn-əp | |
三人称 | ʔex γ-ʔíλn-əs |
また、#時制で挙げられた Gardiner (1998:275) の例文にも -m- が完結相を表す要素として現れているが、Kuipers (1974:80–81) は m- はロシア語などの完結相とは異なり、事実がそのまま述べられ、持続性については触れられないという点においてアオリストを髣髴させるという旨を述べている。
前接的要素
Kuipers (1974:74) ではシュスワプ語の前接的要素(英: proclitic elements)として冠詞、前置詞、それに相を表す不変化詞 m-(参照: #時制・相)などの存在が挙げられている。
「冠詞」
Kuipers (1974:57) では冠詞とも称される5種類の前接的不変化詞[注 36](英: proclitic particles)に触れられているが、これは絶対格(英: absolutive)と関係格(英: relative)、定[注 37](英: actual-determinate)と不定[注 37](英: hypothetical indeterminate)で形が異なり、更には絶対格の定のうち現存(英: present)と不在(英: absent)との間にも区別が認められる。
定 | 不定 | ||
---|---|---|---|
現存 | 不在 | ||
絶対格 | γ | l | k |
関係格 | t / t̓ | tk / t̓k(まれに tkeʔ) |
なお、Lai (1998a:132) は Kuipers (1974) からの引用として上表とほぼ同じ構造のものを掲載しているが、パラダイムの呼び名は「限定詞」(英: determiner)としており、更に絶対格は「直接」(英: direct)、関係格は「斜格」(英: oblique)と呼びかえている上、不定に属する2種類には新たに「非現実」(英: irrealis)という属性も付与している。
また、Kuipers (1974) より後に発表されたシュスワプ語研究のグロスにおいては、絶対格の γ や l は Gardiner (1998) や Lai (1998a)(γ に該当するものは re 表記)で「限定詞」、また関係格 t に該当するものは Gardiner (1998) で tə、Lai (1998a) で te 表記と揺れは見られるもののいずれにおいても「斜格」として扱われている。
2種類の格の詳細については#格を、一部冠詞の用法については#否定を参照されたい。
セイリッシュ諸語においては、述語となる要素は基本的に冠詞はとらない[43]。
「前置詞」
シュスワプ語の前置詞としては n- 〈…上(へ)〉あるいは〈…の中(へ)〉、mt̓- / mt- 〈…と(共に)〉が見られる[44]。位置の表現に関しては、#関係格/斜格も参照されたい。
統語論
統語的な特徴は、動詞が他の要素より先に来る語順や2種類の格の存在、また主要部標示型である点である。
格
先の#冠詞にも見られるように、シュスワプ語では絶対格(英: absolutive case)と関係格(英: relative case)という2種類の格が区別される。
絶対格
まず絶対格は叙述名詞[注 38]や自動詞、他動詞の主語、また他動詞の目的語を表す[45]。
- 例: wíst γ-cítx°[46]
- グロス: 高い abs-家
- 訳: 「家が高くそびえ立っている」
また、絶対格は所有表現の2番目の要素としても現れる。
- 例: cítx°-s γ-k°úk°py̓[46]
- グロス: 家-3poss abs-首長
- 訳: 「首長の家」
この例では「被所有物-所有者」の語順となっており、Dryer (2013f) はこの例が含まれている Kuipers (1974:78) のほか p. 95 も根拠として、属格と名詞との順に関しては、シュスワプ語では「名詞-属格」の順が優勢であるとしている。しかし、p. 78 にはそれとは対照的に以下のような「所有者-被所有物」の順の例も挙げられている。
- 例: t-k°ósw γ-sq̓°éx̌t-s
- グロス: rel-豚 abs-足-3poss
- 訳: 「豚の足で/と共に」すなわち「ハム」
関係格/斜格
一方の関係格の用法は多岐にわたるものとなっている。まず、限定的表現を用いた際に被修飾語の前に付加される用法が挙げられる[46]。
- 例: wíst t-cítx°[46]
- グロス: 高い rel-家
- 訳: 「高くそびえ立つ家」
また、関係格は自動詞の目標・目的語(英: goal-object)を示すためにも用いられる[46]。
- 例: m-ck°néməs t-cít̓[46]
- グロス: ptl-取る rel-ピッチ
- 訳: 「彼はピッチを手に取った」
更に、受け身の動詞が存在する場合、動作主を関係格、主語となる被動者を絶対格で表す。
- 例: m-cúnt-ø-m-əs γ-sq°yíc t-x̌°ʕ°élmx[46]
- グロス: ptl-教える.trans-3obj-pass-3 abs-兎 rel-狐
- 訳: 「兎は狐に教えられた」
他には λʕ°ílx t-tqéltk 〈彼は高く跳んだ〉のような「副詞的」用法が存在するが、これには場所(英: local)、向格(英: allative)、結果格(英: factitive)も含まれる[46]。
- 場所を表す用法の例: l-wʔe~ʔ~x-wn t-sk°lk̓°élt[46]
- グロス: abs-居る(red)-1sg.s rel-雪山
- 訳: 「私が雪山にいたとき」
- 向格的用法の例: né~n~s-kn t-Williams Lake[46]
- 結果格的用法の例: m-k̓°últ-əs t-stíq̓səλ[46]
また、関係格の t- は知覚動詞(ラテン語: verba sentiendi et declarandi)の後に続く接続詞としての機能も有する[46]。
- 例: clx̌mstés t-m-ckí~k~cx-kn[46]
- グロス: 知る[注 40] rel-ptl-着く(red)-1sg.s
- 訳: 「彼は私が着いたと知っている」
- 例: cúnt-ø-m t-m-q°əl-n-cí-n
- グロス: 言う.trans-3obj-pass rel-ptl-伝える-trans-2sg.obj-1sg.sbj
- 訳: 『彼女は彼に「君には伝えたよ」と言われた』
語順
シュスワプ語の語順に関しては、動詞が他の要素に先行するとしている資料が散見される。
まず Kuipers (1974:77)[注 41] は語順の制限は厳格では無いが通常は述語類が文頭にくると述べており、Dryer (2013d, e) は同ページから「動詞-主語」、「動詞-目的語」の順が優勢と読み取っている。更にDryer (2013c) は Kuipers (1974:passim) から、シュスワプ語において優勢な語順は VSO もしくは VOS であると判断している。
一方 Lai (1998b) は Abney (1987) のDP仮説(英: DP Hypothesis)[注 42]に則りつつ、シュスワプ語においては限定詞句の表示は必ずしも義務的ではないことを前提とした上で、仮にいくつかの限定詞句が表示された際に最もありふれた語順であるのは SVO と VSO であり、VOS の順については述部より後の名詞類の語順が自由であるため有り得ると述べるに留めている。
統語論における代名詞
Déchaine & Wiltschko (2003) においては、そもそも代名詞(英: pronoun)はその名称とは裏腹に実際には少なくとも3つの型に分けられるものであると提唱されている。その3つとは限定詞句型(英: pro-DP)、名詞句型(英: pro-NP)、左2つのいずれでもないもの(英: pro-φP)であるが、このうちの pro-φP 型の例としてシュスワプ語の独立人称代名詞が挙げられている。以下では、シュスワプ語の独立代名詞が、限定詞句型に分類されたハルコメレム語(Halkomelem)の独立人称代名詞や、名詞句型に分類された日本語の「彼」・「彼女」とどの様な点において異なっているかを比較も交えて説明することとする。
まず、ハルコメレム語はシュスワプ語と同じセイリッシュ語族の言語で、項[注 43]を述語への接語や代名詞接辞によって表示する主要部標示(英: head marking)型言語である[50]点もシュスワプ語とほぼ共通しているが、ハルコメレム語の場合は以下の文のように独立代名詞が冠詞のような働きもしていると見做すことが可能である[51]。
(1) | ハルコメレム語(Galloway 1993: 174)[51] | ||||||||||||||||||||
Tl'ó-cha-l-su | qwemcíwe-t | [thú-tl'ò q'ami]arg | |||||||||||||||||||
それから-fut-1sg.s-なので | 抱きしめる-trans | det.fem-3.indep 少女 | |||||||||||||||||||
そういう訳なので、私はあの娘を抱きしめてやるのだ。 |
一方、シュスワプ語の場合は以下の文例のように独立代名詞の前に限定詞が現れているため、独立代名詞は限定詞句型ではないと見ることが可能である[52]。
(2) | シュスワプ語(Lai 1998a: 28) | ||||||||||||||||||||
[Wí~w~k-t-ø-en]pred | [re n-tsétswe7]arg | ||||||||||||||||||||
見る(red)-trans-3sg.obj-1sg.sbj | det 1sg.indep | ||||||||||||||||||||
私は彼を見た。 |
さて、日本語の「彼」(や「彼女」)の場合は以下の通り、前に形容詞や所有代名詞、指示代名詞を取ることが可能で(Kuroda 1965: 105; Noguchi 1997: 777)、その統語的特徴は名詞のものであるといえる[53]。
しかしシュスワプ語の場合、以下に挙げるように名詞を複合的な名詞的述語(英: complex nominal predicate)の一部とすることは可能であるが、独立代名詞を複合的な名詞的述語の一部として用いることは不可能であると Lai (1998a) は見ており、したがってシュスワプ語独立代名詞の性質は名詞的なものでもないと結論づけることが可能である[52][注 44]。
(4) シュスワプ語(Lai 1998a: 41) | a. | [Yirí7 te sqélemcw] | l | wí~w~k-t-sem-s | |||||||||||||||||
deic obl 人 | det | 見る(red)-trans-1sg.obj-3sg.sbj | |||||||||||||||||||
私を見たのはこの人だ。 |
(4) シュスワプ語(Lai 1998: 41) | b. | *[Yirí7 te newí7-s] | wí~w~k-t-sem-s | ||||||||||||||||||
deic obl 3sg.indep | 見る(red)-trans-1sg.obj-3sg.sbj | ||||||||||||||||||||
私を見たのはこの彼だ。 |
以上により、Déchaine & Wiltschko はシュスワプ語の独立代名詞は限定詞句的でも名詞句的でもないものと結論づけている。なお以下のように、シュスワプ語の独立代名詞は述語(5a.)と項(5b.)いずれの機能も果たし得る[54]。
(5) シュスワプ語 | a. | (Lai 1998a: 28) | |||||||||||||||||||
[Newí7-s]pred | [re wík-t-ø-m-es]arg | ||||||||||||||||||||
3sg.indep | det 見る-trans-3sg.obj-pass-3sg.conj | ||||||||||||||||||||
彼/彼女を見たのは彼だ。 |
(5) シュスワプ語 | b. | (Lai 1998a: 60) | |||||||||||||||||||
[wi~w~k-t-ø-en]pred | [newí7-s]arg | ||||||||||||||||||||
見る(red)-trans-3sg.obj-1sg.sbj | 3sg.indep | ||||||||||||||||||||
私は彼を見た。 |
脚注
注釈
- ^ 英: industrial school(s)。主に農業技術の向上が重視され、生徒たちは1学年のほぼ大半の時間を学校で過ごすこととなっていた[14]。
- ^ 英: residential school(s)。教育と宗教が重視され、生徒たちは1学年につき10ヶ月を学校で過ごすこととなっていた[14]。宗教に関しては、寄宿学校制の施行を促した1879年のデイヴィン・リポート(英: Davin Report)において、先住民集団との深いつながりを持つキリスト教の宗派による学校運営はどうか、との提案が見える[15]。
- ^ 英: day school(s)。ファースト・ネーションの子どもたちが最初に入る学校で、日中に出席するだけでよいこととなっていた[14]。
- ^ 先住民向けのイマージョン・スクールとしてはチェイスの Chief Atahm School (en) (1991/92年設立)が存在する。#外部リンクも参照。
- ^ なお、クイパーズはシュスワプ語の本調査(1968年–70年)に取りかかる以前の段階で、同じセイリッシュ語族のスクォミッシ語(Squamish)についての記述も行い[3]、1967年に刊行させている。
- ^ なお他のセイリッシュ諸語に関しては、内陸語派ではトンプソン語についてローレンス・C・トンプソン(Laurence C. Thompson)とM・テリー・トンプソン(M. Terry Thompson)が1992年に The Thompson Language、リルエット語についてヤン・ファン・アイク(Jan van Eijk)が1997年に The Lillooet Language: Phonology, Morphology, Syntax を、海岸語派(英: Coast)では、カリスペル語(Kalispel)について Hans Vogt が1940年に The Kalispel Language、ブレンダ・J・スペック(Brenda J. Speck)が1980年に An editon of Father Post's Kalispel grammar を、コモックス語(Comox)またはコモックス・スライアモン語(Comox-Sliammon)についてクロード・アジェージュ(Claude Hagège)が1981年に Le Comox Lhaamen de Colombie Britannique: présentation d’une langue amerindienne、H・ハリス(H. Harris)が同年に A grammar of Comox、渡辺己が2003年に A Morphological Description of Sliammon, Mainland Comox Salish with a Sketch of Syntax を、ハルコメレム語(Halkomelem (en) )については Galloway (1993)、孤立したセイリッシュ語ではベラクーラ語(Bella Coola)についてフィリップ・W・デイヴィス(Philip W. Davis)と Ross Saunders が 1978年に "Bella Coola Syntax"(E. Cook and J. Kaye (eds.), Linguistic Studies of Native Canada 所収)、1997年に A Grammar of Bella Coola、また H. F. Nater が1984年に The Bella Coola Language と、それぞれ個別言語の文法に関する著作を発表している。
- ^ このうち Maddieson (2013) はシュスワプ語を含め全部で563種類の言語の子音数を比較した上で、シュスワプ語は5段階中最も多い Large の区分としている。
- ^ 音声表記は大島 (1989a)によると [ts] であるが、Lai (1998a:131) によれば破擦音の一種 /tʃ/ である。
- ^ 大島 (1989a)や Lai (1998a:131) では kʷ と表記されている。
- ^ 大島 (1989a)や Lai (1998a:131) では qʷ と表記されている。
- ^ 大島 (1989a)や Lai (1998a:131) では p' と表記されている。
- ^ 大島 (1989a)では t' と表記されており、実際の音声は [tɬˀ, tˀ] であるとされている。Lai (1998a:131) は t に対応する声門化音の欄を空欄としており、正書法で t' と示される音素は声門化された側面破擦音(英: glottalized lateral affricate)という音素であるとしている。
- ^ 大島 (1989a)では c' と表記されており、Lai (1998a:131) は IPA で歯茎破擦音(英: alveolar affricate)/ts/ であるとしている。
- ^ 大島 (1989a)や Lai (1998a:131) では k' と表記されている。
- ^ 大島 (1989a)では k'ʷ、Lai (1998a:131) はIPAで /kʷʼ/ と表している。
- ^ 大島 (1989a)や Lai (1998a:131) では q' と表記されている。
- ^ 大島 (1989a)では q'ʷ、Lai (1998a:131) はIPAで /qʷʼ/ と表している。
- ^ 大島 (1989a)によると実際の音声は [ʔ, ʕˀ] である。
- ^ 大島 (1989a)によると音声表記は [ɬ] であるが、Lai (1998a:131) はこの IPA に対応する正書法表記を ll としている。
- ^ 大島 (1989a)や Lai (1998a:131) では xʷ と表記されている。
- ^ 大島 (1989a)では x̣ と表記されており、実際の音声は [χ] であるとされている。
- ^ 大島 (1989a)では x̣ʷ と表記されている。
- ^ l は Lai (1998a:131) においては側面音(英: lateral)扱いである。
- ^ 大島 (1989a)や Lai (1998a:131) では m' と表記されている。
- ^ 大島 (1989a)や Lai (1998a:131) ではそれぞれ n'、l' と表記されており、後者において l' は側面音扱いとされている。
- ^ 大島 (1989a)や Lai (1998a:131) では ʕʷ と表記されている。
- ^ 大島 (1989a)では y' と表記されている。
- ^ 大島 (1989a)では γ' と表記されている。
- ^ 大島 (1989a)では ʕ'ʷ、Lai (1998a) は /ʕʷʼ/ であるとしている。
- ^ 大島 (1989a)では w' と表記されている。
- ^ Kuipers (1974:59) は、単数のものは冠詞 γ-、t- のみが前に現れたものが録音されたとしている。
- ^ これは動詞の後に置かれる不変化詞である。
- ^ これは接語である。
- ^ なお、Lai (1998b) においては全く同じ意味の表現が Secwécwpemc-ken と表記されている。
- ^ 〈行く〉を表す形態素はクイパーズの語彙解説(Kuipers 1974: 191)では nes として掲載されている。また Kuipers (1974:79) にもほぼ同じ内容の例文が見られ、その英訳の横には (nes) と記されている。以上を踏まえると、néns は一人称単数が絡んでいる他の表現(参照: #自動詞と叙述名詞、#他動詞、#命令)の場合と同様に子音重複が起きている状態と見ることができる。néns が nes の重複によるものである場合、グロスにおける書式は一行目: "né~n~s"、二行目: 「行く(red)」のようになる。
- ^ 『学術用語集 言語学編』による。大島 (1989a)では「前倚辞化した小詞」と訳されている。
- ^ a b 大島 (1989a)における訳に基づく。
- ^ Kuipers (1974:77) では「名詞的述語」(英: nominal predicate)と表現されている。
- ^ a b 厳密には、英語で silver trout (en) と呼ばれる魚を指す[47]。
- ^ 目的格、主格いずれも三人称である。
- ^ なお、このページには既出の「兎は狐に教えられた」の文も例として挙げられている。
- ^ DP とは Determiner Phrase、つまり限定詞句を意味する略語である。限定詞句とは、たとえば名詞句に限定詞が含まれている場合に、その限定詞を名詞句の主要部(英: head)と見做す考え方であり、このアプローチは1980年代半ばから普及しているものである[48]。「限定詞」あるいは「限定辞」(英: determiner)の定義は場合によって様々であるが、Matthews (2009a) は英語の定冠詞や不定冠詞、指示詞、所有代名詞を例に挙げており、Matthews (2009b) における限定詞句の例も英語の定冠詞 the を用いたものとなっている。
- ^ 英: argument。1つの動詞、つまり1つの述語が必要とする他のあらゆる統語要素のこと[49]。「主語」や「目的語」も項の一種である。
- ^ なお、Déchaine & Wiltschko (2003) は日本語の「彼」の分布を項と述語の2択では述語の方であるとしている。
出典
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関連項目
外部リンク
- chiefatahm.html - シュスワプ語のイマージョンスクール、T'selcéwtqen Clleqmél'ten(別名: Chief Atahm School)のサイト。2017年4月2日閲覧。
- STEN - Shared Teacher Education Network 2017年4月2日閲覧。