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「板前」の版間の差分

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{{出典の明記|date=2017年2月5日 (日) 16:37 (UTC)}}
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'''板前'''(いたまえ)とは、[[日本]]店・[[料亭]]で[[料理]]をつくる人と。[[西洋料理]]の[[コック (職業)|コック]]に相当する。
'''板前'''(いたまえ)とは、[[料]][[割烹]]、小料理屋、各種和食専門店といった日本料理店調理作業に従事する職人を指す。[[和食]]の調理師、料理人同義である。[[西洋料理]]の[[コック (職業)|コック]]または[[フランス料理]]の[[シェフ]]に相当する。[[まな板]]の前に立つ事がその語源とされる。


板前が働く調理場、[[厨房]]、[[カウンター (インテリア)|カウンター]]は'''板場'''と呼ばれる。客前カウンター(晒し場)と裏方厨房(仕込み場)に分かれている店では客前カウンター内が板場と呼ばれる。
なお「板」とは、[[まな板]]であり、まな板の「前」で働く人、つまり[[料理人]]を指す言葉である。


== 的地位 ==
== 職位と職分 ==
板前の世界には修行の段階に見合った厳しい上下のヒエラルキーが存在する。この職位職分の名称と意味内容は各地域および各店舗によって様々な違いがあり、また各親方の趣向とも相まって千差万別である。板場のトップである親方は当然であるとして、味付けを決める「煮方」と、見習いである「追い回し」はどの板場でも共通の存在と言われる。また「焼方」も大抵は共通と見られる。その他の役目は店によっているいないの差が大きく、全くの別称になっているケースもある。
* 花板(はないた) - 板場を仕切る最上位者。料理長。板長(いたちょう)、立板(たていた)とも呼ばれる。
* 次板(つぎいた) - 副料理長。二番、脇板(わきいた)とも呼ばれる。
以上の二者は[[カウンター]]に立つ事が多い。「三番板前」というナンバースリーのいる料亭もある。
* 椀方(わんかた) - 椀(お吸い物など)を作る人。料理全体の味を引き立て調える汁物作りの統括。
* 煮方(にかた) - [[煮物]]を作る人。
板前と言えるのはここまで。以下の三者は裏方となる。
* 焼方(やきかた) - 焼き物([[焼き魚]])を作る人。[[アユ|鮎]]の塩焼きや、[[味噌田楽|田楽]]などを作る。
* 揚場(あげば) - 揚げ物([[天ぷら]]の事)を作る人。焼方と同程度の位。
* 追い回し - 盛り付けなどを担当する雑用係。「ボウズ」(坊主)、「小僧」とも呼ばれる。一番低い位。花板を目指す修行はここから始まる。



同様の[[ヒエラルキー]]は西洋料理にも存在する([[ブリゲード・ド・キュイジーヌ]])。
'''親方'''(おやかた)/ '''親父'''(おやじ)

: 板場の総責任者。店によって'''板長'''(いたちょう)または'''花板'''(はないた)と呼ばれる。板前と見習いたちを監督する。献立全般を定めて調理作業を指揮する。カウンターに立つ際は来客応対の中心になる。親方 / 親父が経営のみに専念してる場合は次の地位の者が、板長または花板もしくは'''立板'''(たていた)と呼ばれて板場の現場責任者となる。

'''二番'''(にばん)
: 板場の副責任者。'''次板'''(つぎいた)または'''脇板'''(わきいた)と呼ぶ店もある。親方と共にカウンターに立つ。

'''煮方'''(にかた)
: 煮物と鍋物を担当する。ダシ取りとタレ作りも担当するので下の者たちが作った料理の仕上げをする事になる。献立全体の味付けを決める重要な役目である。カウンター(晒し場)と厨房(仕込み場)に分かれてる店では仕込み場の責任者になる。'''立鍋'''(たてなべ)と呼ぶ店もある。店によっては'''脇鍋'''(わきなべ)という補佐役がいる事もある。

'''椀方'''(わんかた)
: 献立の華となる椀物を担当する。大抵は煮方に次ぐ立場とされ、脇鍋と同義である事も多い。

'''焼方'''(やきかた)
: 焼き物を担当する。焼き魚など。'''焼き場'''(やきば)と呼ぶ店もある。

'''向板'''(むこういた)
: 包丁捌きによる切り付けを担当する。晒し場の向こう側の裏方包丁という意味。

'''揚げ場'''(あげば)
: 揚げ物を担当する。天ぷらなど。

'''蒸し場'''(むしば)
: 蒸し料理を担当する。

'''八寸場'''(はっすんば)
: 八寸、先付けの盛り付けを担当する。その他料理の盛り付けもする。

'''洗い方'''(あらいかた)
: 魚介類および他の食材の下ごしらえを担当する。

'''追い回し'''(おいまわし)
: 下積み修行中の見習い。下準備、下ごしらえ、掃除など様々な雑務を担当する。板前修業はここから始まる。

== フランス料理との比較文化 ==
{{See also|ブリゲード・ド・キュイジーヌ}}板前の世界のヒエラルキーと、フランス料理の厨房のヒエラルキーを示す「[[ブリゲード・ド・キュイジーヌ|ブリガード・ド・キュイジーヌ]]」には数々の共通点が存在するので、比較文化学の一例として取り上げられ易いテーマになっている。

{| class="wikitable"
|+職位職分の比較
|-
!フランス料理!!日本料理!!説明
|-
|シェフ・ド・キュイジーヌ
(''Chef'')
|親方||シェフ・ド・キュイジーヌ(''chef de cuisine'')は料理長を意味する。双方ともに厨房、板場の総責任者である。
|-
|スーシェフ
(''Sous-chef'')
|二番||双方ともに厨房、板場の副責任者である。日本料理ではあくまで親方の補佐役に徹する傾向が強いが、フランス料理ではシェフとスーシェフの二人三脚で厨房を運営する風潮が高い。[[ヴァカンス]]の重視がその背景にある。
|-
|ソーシエ
(''Saucier'')
|煮方||ソーシエと煮方の立場および役目はよく似通っているものとして対比される。ソーシエは厨房内で最も名誉ある役目であり、煮方も板前たちの真打ちに例えられる。双方ともに献立全体の味付けに大きく影響してる点も共通している。ソーシエがソース作りを担当して主菜の仕上げをするのと同様に、煮方もダシ取りとタレ作りを担当して各料理の仕上げを行う。
|-
|ロティシュール
(''Rôtisseur'') 
|焼方||ロテイシュールは食肉のロースト(炙り焼き)またはグリル(直火焼き)を担当する。
焼方は主に魚介類になるが同様に火を使った調理を行う。
|-
|フリチュリエ
(''Friturier'')
|揚げ場||フリチュリエは油を使ったフライ(揚げ焼き)を担当する。
揚げ場もほとんど同じである。
|-
|アントルメティエ
(''Entremetier'')

        
|椀方<br />蒸し場||これはややこじ付けになるが、アントルメティエは肉と魚以外の温かい料理を担当し卵料理、野菜料理、ポタージュなどを作る。

蒸し料理は様々な食材を使った温かい料理。椀物は旬の具材に精緻な仕立て汁を張った料理である。
|-
|ガルドマンジェ
(''Garde manger'')
|向板<br />八寸場||ガルドマンジェは[[オードブル]]などの冷たい前菜を担当し、[[ビュッフェ]]の盛り付けおよび飾り付けを行い、[[パテ (料理)|パテ]]や食肉加工品など作り置きの仕込み料理を切り分けて提供する。

八寸は和食のオードブルに相当する。向板が扱うのは刺身などの冷菜である。
|-
|ブーシェ
(''Boucher'')
|洗い方||ブーシェは食肉の切り分けと下ごしらえを担当する。

洗い方は魚の下ごしらえがメインである。
|-
|トゥルナン
(''Tournant'')
|追い回し

    
|トゥルナンは厨房内の様々な部署を立ち回って臨機応変に調理を手伝う役目であり、新入りや見習いが就く事が多い。”''tournant”の語意は''「回す」なので名称的にも似通っている。
|}


== 関連項目 ==
== 関連項目 ==

2020年2月15日 (土) 22:51時点における版

板前(いたまえ)とは、料亭割烹、小料理屋、各種和食専門店といった日本料理店で調理作業に従事する職人を指す。和食の調理師、料理人と同義である。西洋料理コックまたはフランス料理シェフに相当する。まな板の前に立つ事がその語源とされる。

板前が働く調理場、厨房カウンター板場と呼ばれる。客前カウンター(晒し場)と裏方厨房(仕込み場)に分かれている店では客前カウンター内が板場と呼ばれる。

職位と職分

板前の世界には修行の段階に見合った厳しい上下のヒエラルキーが存在する。この職位職分の名称と意味内容は各地域および各店舗によって様々な違いがあり、また各親方の趣向とも相まって千差万別である。板場のトップである親方は当然であるとして、味付けを決める「煮方」と、見習いである「追い回し」はどの板場でも共通の存在と言われる。また「焼方」も大抵は共通と見られる。その他の役目は店によっているいないの差が大きく、全くの別称になっているケースもある。


親方(おやかた)/ 親父(おやじ)

板場の総責任者。店によって板長(いたちょう)または花板(はないた)と呼ばれる。板前と見習いたちを監督する。献立全般を定めて調理作業を指揮する。カウンターに立つ際は来客応対の中心になる。親方 / 親父が経営のみに専念してる場合は次の地位の者が、板長または花板もしくは立板(たていた)と呼ばれて板場の現場責任者となる。

二番(にばん)

板場の副責任者。次板(つぎいた)または脇板(わきいた)と呼ぶ店もある。親方と共にカウンターに立つ。

煮方(にかた)

煮物と鍋物を担当する。ダシ取りとタレ作りも担当するので下の者たちが作った料理の仕上げをする事になる。献立全体の味付けを決める重要な役目である。カウンター(晒し場)と厨房(仕込み場)に分かれてる店では仕込み場の責任者になる。立鍋(たてなべ)と呼ぶ店もある。店によっては脇鍋(わきなべ)という補佐役がいる事もある。

椀方(わんかた)

献立の華となる椀物を担当する。大抵は煮方に次ぐ立場とされ、脇鍋と同義である事も多い。

焼方(やきかた)

焼き物を担当する。焼き魚など。焼き場(やきば)と呼ぶ店もある。

向板(むこういた)

包丁捌きによる切り付けを担当する。晒し場の向こう側の裏方包丁という意味。

揚げ場(あげば)

揚げ物を担当する。天ぷらなど。

蒸し場(むしば)

蒸し料理を担当する。

八寸場(はっすんば)

八寸、先付けの盛り付けを担当する。その他料理の盛り付けもする。

洗い方(あらいかた)

魚介類および他の食材の下ごしらえを担当する。

追い回し(おいまわし)

下積み修行中の見習い。下準備、下ごしらえ、掃除など様々な雑務を担当する。板前修業はここから始まる。

フランス料理との比較文化

板前の世界のヒエラルキーと、フランス料理の厨房のヒエラルキーを示す「ブリガード・ド・キュイジーヌ」には数々の共通点が存在するので、比較文化学の一例として取り上げられ易いテーマになっている。

職位職分の比較
フランス料理 日本料理 説明
シェフ・ド・キュイジーヌ

(Chef)

親方 シェフ・ド・キュイジーヌ(chef de cuisine)は料理長を意味する。双方ともに厨房、板場の総責任者である。
スーシェフ

(Sous-chef)

二番 双方ともに厨房、板場の副責任者である。日本料理ではあくまで親方の補佐役に徹する傾向が強いが、フランス料理ではシェフとスーシェフの二人三脚で厨房を運営する風潮が高い。ヴァカンスの重視がその背景にある。
ソーシエ

(Saucier)

煮方 ソーシエと煮方の立場および役目はよく似通っているものとして対比される。ソーシエは厨房内で最も名誉ある役目であり、煮方も板前たちの真打ちに例えられる。双方ともに献立全体の味付けに大きく影響してる点も共通している。ソーシエがソース作りを担当して主菜の仕上げをするのと同様に、煮方もダシ取りとタレ作りを担当して各料理の仕上げを行う。
ロティシュール

(Rôtisseur) 

焼方 ロテイシュールは食肉のロースト(炙り焼き)またはグリル(直火焼き)を担当する。

焼方は主に魚介類になるが同様に火を使った調理を行う。

フリチュリエ

(Friturier)

揚げ場 フリチュリエは油を使ったフライ(揚げ焼き)を担当する。

揚げ場もほとんど同じである。

アントルメティエ

(Entremetier)

        

椀方
蒸し場
これはややこじ付けになるが、アントルメティエは肉と魚以外の温かい料理を担当し卵料理、野菜料理、ポタージュなどを作る。

蒸し料理は様々な食材を使った温かい料理。椀物は旬の具材に精緻な仕立て汁を張った料理である。

ガルドマンジェ

(Garde manger)

向板
八寸場
ガルドマンジェはオードブルなどの冷たい前菜を担当し、ビュッフェの盛り付けおよび飾り付けを行い、パテや食肉加工品など作り置きの仕込み料理を切り分けて提供する。

八寸は和食のオードブルに相当する。向板が扱うのは刺身などの冷菜である。

ブーシェ

(Boucher)

洗い方 ブーシェは食肉の切り分けと下ごしらえを担当する。

洗い方は魚の下ごしらえがメインである。

トゥルナン

(Tournant)

追い回し

    

トゥルナンは厨房内の様々な部署を立ち回って臨機応変に調理を手伝う役目であり、新入りや見習いが就く事が多い。”tournant”の語意は「回す」なので名称的にも似通っている。

関連項目