「ピペラシリン」の版間の差分
36行目: | 36行目: | ||
|StdInChIKey=IVBHGBMCVLDMKU-GXNBUGAJSA-N |
|StdInChIKey=IVBHGBMCVLDMKU-GXNBUGAJSA-N |
||
|StdInChIKey_Ref={{stdinchicite|correct|chemspider}}}} |
|StdInChIKey_Ref={{stdinchicite|correct|chemspider}}}} |
||
'''ピペラシリン'''(Piperacillin)は広域スペクトラムの [[Β-ラクタム系抗生物質|β-ラクタム抗生物質]] 、中でも[[ウレイドペニシリン]]・クラスのひとつ<ref>{{Cite journal|year=1995|title=Antipseudomonal penicillins|journal=Med. Clin. North Am.|volume=79|issue=4|pages=679–93| |
'''ピペラシリン'''(Piperacillin)は広域スペクトラムの [[Β-ラクタム系抗生物質|β-ラクタム抗生物質]] 、中でも[[ウレイドペニシリン]]・クラスのひとつ<ref>{{Cite journal|year=1995|title=Antipseudomonal penicillins|journal=Med. Clin. North Am.|volume=79|issue=4|pages=679–93|pmid=7791416}}</ref>。 日本での製品名は「ペントシリン」([[富山化学工業]]製造販売)。ピペラシリンとその他のウレイドペニシリンの化学構造は、極性側鎖を持つ。これは[[グラム陰性菌]]に対して高い浸透性と、グラム陰性菌βラクタマーゼによる分解感受性を低下させる。 これらの性質は病院での重要な病原菌である[[緑膿菌]]に対する活性を持つ。 このような性質から、ピペラシリンはときに「抗緑膿菌ペニシリン」と呼ばれる。 |
||
ピペラシリンは単独で用いられる時には [[黄色ブドウ球菌]]のなどの[[グラム陽性菌]]への強い活性を持たない。またβ-ラクタム構造は細菌の [[β-ラクタマーゼ]]で加水分解される。<ref>Hauser, AR ''Antibiotic Basics for Clinicians'', 2nd Ed., Wolters Kluwer, 2013, pg 26-27</ref> |
ピペラシリンは単独で用いられる時には [[黄色ブドウ球菌]]のなどの[[グラム陽性菌]]への強い活性を持たない。またβ-ラクタム構造は細菌の [[β-ラクタマーゼ]]で加水分解される。<ref>Hauser, AR ''Antibiotic Basics for Clinicians'', 2nd Ed., Wolters Kluwer, 2013, pg 26-27</ref> |
||
ピペラシリンは最も一般的には β-ラクタマーゼ阻害剤である[[タゾバクタム]](Piperacillin/Tazobactam)(製品名「ゾシン」「タゾシン」「Zosyn」または「Tazocin」)とピペラシリンとの組み合わせで用いられる。タゾバクタムは多くのβラクタマーゼを阻害する。[[ピペラシリン・タゾバクタム]]の合剤は [[メチシリン耐性黄色ブドウ球菌|MRSA]]に対しては投与されない。他のペニシリン/βラクタム系抗生物質同様、MRSAのペニシリン結合蛋白に結合しないからである。<ref>{{Cite journal|year=2008|title=Antimicrobial-resistant pathogens in intensive care units in Canada: results of the Canadian National Intensive Care Unit (CAN-ICU) study, 2005-2006|journal=Antimicrob. Agents Chemother.|volume=52|issue=4|pages=1430–7| |
ピペラシリンは最も一般的には β-ラクタマーゼ阻害剤である[[タゾバクタム]](Piperacillin/Tazobactam)(製品名「ゾシン」「タゾシン」「Zosyn」または「Tazocin」)とピペラシリンとの組み合わせで用いられる。タゾバクタムは多くのβラクタマーゼを阻害する。[[ピペラシリン・タゾバクタム]]の合剤は [[メチシリン耐性黄色ブドウ球菌|MRSA]]に対しては投与されない。他のペニシリン/βラクタム系抗生物質同様、MRSAのペニシリン結合蛋白に結合しないからである。<ref>{{Cite journal|year=2008|title=Antimicrobial-resistant pathogens in intensive care units in Canada: results of the Canadian National Intensive Care Unit (CAN-ICU) study, 2005-2006|journal=Antimicrob. Agents Chemother.|volume=52|issue=4|pages=1430–7|doi=10.1128/AAC.01538-07|pmid=18285482|pmc=2292546}}</ref> |
||
51行目: | 51行目: | ||
== 医療 == |
== 医療 == |
||
ピペラシリンは、βラクタマーゼ阻害剤タゾバクタムとの組み合わせで、深刻な院内感染でしばしば用いられる。 この組み合わせのが最も広く使用されている。低コストの後発医薬品を用いているにもかかわらず、米国の非連邦病院では総額388百万ドルが使われている。<ref>{{Cite journal|year=2015|title=National trends in prescription drug expenditures and projections for 2015|journal=Am J Health Syst Pharm|volume=72|issue=9|pages=717–36| |
ピペラシリンは、βラクタマーゼ阻害剤タゾバクタムとの組み合わせで、深刻な院内感染でしばしば用いられる。 この組み合わせのが最も広く使用されている。低コストの後発医薬品を用いているにもかかわらず、米国の非連邦病院では総額388百万ドルが使われている。<ref>{{Cite journal|year=2015|title=National trends in prescription drug expenditures and projections for 2015|journal=Am J Health Syst Pharm|volume=72|issue=9|pages=717–36|doi=10.2146/ajhp140849|pmid=25873620}}</ref> |
||
ピペラシリン・タゾバクタムは、[[多剤耐性菌]]の[[院内感染]]が疑わる場合の推奨されている三剤処方の一つである<ref>Mandell LA, Wunderink R, in ''Harrison's Principles of Internal Medicine'' 18th Ed., Chapter 257, pp 2139-2141</ref>。またこれは嫌気性グラム陰性桿菌の感染症に対する推奨される抗菌剤の一つである。<ref>Kasper DL, Cohen-Poradosu R, in ''Harrison's Principles of Internal Medicine'' 18th Ed., Chapter 164, pp 1331-1339</ref> |
ピペラシリン・タゾバクタムは、[[多剤耐性菌]]の[[院内感染]]が疑わる場合の推奨されている三剤処方の一つである<ref>Mandell LA, Wunderink R, in ''Harrison's Principles of Internal Medicine'' 18th Ed., Chapter 257, pp 2139-2141</ref>。またこれは嫌気性グラム陰性桿菌の感染症に対する推奨される抗菌剤の一つである。<ref>Kasper DL, Cohen-Poradosu R, in ''Harrison's Principles of Internal Medicine'' 18th Ed., Chapter 164, pp 1331-1339</ref> |
||
ピペラシリン・タゾバクタムは[[NIH]]により、[[好中球]]減少に伴う[[敗血症]]の初期経験的治療に推奨されている。<ref>{{Cite journal|date=2012|title=Neutropenic Sepsis: Prevention and Management of Neutropenic Sepsis in Cancer Patients| |
ピペラシリン・タゾバクタムは[[NIH]]により、[[好中球]]減少に伴う[[敗血症]]の初期経験的治療に推奨されている。<ref>{{Cite journal|date=2012|title=Neutropenic Sepsis: Prevention and Management of Neutropenic Sepsis in Cancer Patients|pmid=26065059}}</ref> |
||
== 副作用 == |
== 副作用 == |
||
61行目: | 61行目: | ||
== 投与 == |
== 投与 == |
||
ピペラシリンは経口投与では吸収されず、 [[点滴静脈注射|静脈内]] または [[筋肉内注射]]により投与される。持続投与と間欠投与の特徴も検討されている。<ref>{{Cite journal|year=2006|title=Randomized, open-label, comparative study of piperacillin-tazobactam administered by continuous infusion versus intermittent infusion for treatment of hospitalized patients with complicated intra-abdominal infection|journal=Antimicrob Agents Chemother|volume=50|issue=11|pages=3556–61| |
ピペラシリンは経口投与では吸収されず、 [[点滴静脈注射|静脈内]] または [[筋肉内注射]]により投与される。持続投与と間欠投与の特徴も検討されている。<ref>{{Cite journal|year=2006|title=Randomized, open-label, comparative study of piperacillin-tazobactam administered by continuous infusion versus intermittent infusion for treatment of hospitalized patients with complicated intra-abdominal infection|journal=Antimicrob Agents Chemother|volume=50|issue=11|pages=3556–61|doi=10.1128/AAC.00329-06|pmid=16940077|pmc=1635208}}</ref> |
||
== 脚注 == |
== 脚注 == |
2020年1月25日 (土) 16:32時点における版
![]() | |
IUPAC命名法による物質名 | |
---|---|
| |
臨床データ | |
販売名 | ペントシリン, Pipracil |
Drugs.com |
患者向け情報(英語) Consumer Drug Information |
胎児危険度分類 |
|
法的規制 | |
投与経路 | 経静脈的投与、筋肉内注射 |
薬物動態データ | |
生物学的利用能 | 経口投与では0% |
血漿タンパク結合 | 30% |
代謝 | 多くが代謝されない |
半減期 | 36–72 分 |
排泄 | 20% 胆汁, 80% が未変化体で尿中 |
識別 | |
CAS番号 |
61477-96-1 ![]() |
ATCコード | J01CA12 (WHO) |
PubChem | CID: 43672 |
IUPHAR/BPS | 422 |
DrugBank |
DB00319 ![]() |
ChemSpider |
39798 ![]() |
UNII |
9I628532GX ![]() |
KEGG |
D08380 ![]() |
ChEBI |
CHEBI:8232 ![]() |
ChEMBL | CHEMBL702 |
化学的データ | |
分子量 | 517.555 g/mol |
| |
ピペラシリン(Piperacillin)は広域スペクトラムの β-ラクタム抗生物質 、中でもウレイドペニシリン・クラスのひとつ[1]。 日本での製品名は「ペントシリン」(富山化学工業製造販売)。ピペラシリンとその他のウレイドペニシリンの化学構造は、極性側鎖を持つ。これはグラム陰性菌に対して高い浸透性と、グラム陰性菌βラクタマーゼによる分解感受性を低下させる。 これらの性質は病院での重要な病原菌である緑膿菌に対する活性を持つ。 このような性質から、ピペラシリンはときに「抗緑膿菌ペニシリン」と呼ばれる。
ピペラシリンは単独で用いられる時には 黄色ブドウ球菌のなどのグラム陽性菌への強い活性を持たない。またβ-ラクタム構造は細菌の β-ラクタマーゼで加水分解される。[2]
ピペラシリンは最も一般的には β-ラクタマーゼ阻害剤であるタゾバクタム(Piperacillin/Tazobactam)(製品名「ゾシン」「タゾシン」「Zosyn」または「Tazocin」)とピペラシリンとの組み合わせで用いられる。タゾバクタムは多くのβラクタマーゼを阻害する。ピペラシリン・タゾバクタムの合剤は MRSAに対しては投与されない。他のペニシリン/βラクタム系抗生物質同様、MRSAのペニシリン結合蛋白に結合しないからである。[3]
薬理
- 抗菌作用[4]
- ピペラシリンは緑膿菌を含むグラム陰性菌、腸球菌属を含むグラム陽性菌、またバクテロイデス属を含む嫌気性菌に対し効果があり、幅広い抗菌スペクトルを有する。グラム陰性のインフルエンザ菌に対するMIC90は2μg/mL、グラム陽性の肺炎球菌に対するMIC90は2μg/mLであり、セフェム系のフロモキセフより優れた抗菌力を示した(in vitro)。
- 作用機序[5]
- 細菌の細胞壁合成を阻害し、殺菌作用を有する。
医療
ピペラシリンは、βラクタマーゼ阻害剤タゾバクタムとの組み合わせで、深刻な院内感染でしばしば用いられる。 この組み合わせのが最も広く使用されている。低コストの後発医薬品を用いているにもかかわらず、米国の非連邦病院では総額388百万ドルが使われている。[6]
ピペラシリン・タゾバクタムは、多剤耐性菌の院内感染が疑わる場合の推奨されている三剤処方の一つである[7]。またこれは嫌気性グラム陰性桿菌の感染症に対する推奨される抗菌剤の一つである。[8]
ピペラシリン・タゾバクタムはNIHにより、好中球減少に伴う敗血症の初期経験的治療に推奨されている。[9]
副作用
ピペラシリン・タゾバクタム合剤の最も一般的な副作用は、下痢、便秘、吐き気、頭痛や不眠である。あまりみられない副作用には、アナフィラキシー、Stevens-Johnson症候群、 Clostridium difficile 関連下痢等がある[10]。
投与
ピペラシリンは経口投与では吸収されず、 静脈内 または 筋肉内注射により投与される。持続投与と間欠投与の特徴も検討されている。[11]
脚注
- ^ “Antipseudomonal penicillins”. Med. Clin. North Am. 79 (4): 679–93. (1995). PMID 7791416.
- ^ Hauser, AR Antibiotic Basics for Clinicians, 2nd Ed., Wolters Kluwer, 2013, pg 26-27
- ^ “Antimicrobial-resistant pathogens in intensive care units in Canada: results of the Canadian National Intensive Care Unit (CAN-ICU) study, 2005-2006”. Antimicrob. Agents Chemother. 52 (4): 1430–7. (2008). doi:10.1128/AAC.01538-07. PMC 2292546. PMID 18285482 .
- ^ 松崎薫ほか:Jpn. J. Antibiot. 200; 53(8), 573-81.
- ^ 尾健次ほか:Chemotherapy 1977; 25(5), 700-9.
- ^ “National trends in prescription drug expenditures and projections for 2015”. Am J Health Syst Pharm 72 (9): 717–36. (2015). doi:10.2146/ajhp140849. PMID 25873620.
- ^ Mandell LA, Wunderink R, in Harrison's Principles of Internal Medicine 18th Ed., Chapter 257, pp 2139-2141
- ^ Kasper DL, Cohen-Poradosu R, in Harrison's Principles of Internal Medicine 18th Ed., Chapter 164, pp 1331-1339
- ^ Neutropenic Sepsis: Prevention and Management of Neutropenic Sepsis in Cancer Patients. (2012). PMID 26065059.
- ^ “Higlights of Prescribing Information - Zosyn (Piperacillin/Tazobactam)”. 2017年3月30日閲覧。
- ^ “Randomized, open-label, comparative study of piperacillin-tazobactam administered by continuous infusion versus intermittent infusion for treatment of hospitalized patients with complicated intra-abdominal infection”. Antimicrob Agents Chemother 50 (11): 3556–61. (2006). doi:10.1128/AAC.00329-06. PMC 1635208. PMID 16940077 .