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== 関連化合物 ==
== 関連化合物 ==
非常に類似した分子(ベンゾ[c]フェナントレン)は以前から知られており、ちょうどオリンピセン分子から中央の-CH2-スペーサーを取り除いた構造である
非常に類似した分子(ベンゾ[c]フェナントレン)は以前から知られており、ちょうどオリンピセン分子から中央の-CH2-スペーサーを取り除いた構造である
<ref>{{Cite journal|last=Cook|first=J. W.|year=1931|title=CCCL.&mdash;Polycyclic aromatic hydrocarbons. Part VI. 3 : 4-Benzphenanthrene and its quinone|journal=[[J. Chem. Soc.]]|pages=2524–2528|DOI=10.1039/jr9310002524}}</ref> 。この分子は、X線結晶学により研究されており、2つの水素原子間の立体的な衝突のために、分子は平面状にはならない<ref>{{Cite journal|last=Hirshfled|first=F. L.|year=1963|title=398. The structure of overcrowded aromatic compounds. Part VI. The crystal structure of benzo[''c'']phenanthrene and of 1,12-dimethylbenzo[''c'']phenanthrene|journal=[[J. Chem. Soc.]]|pages=2108–2125|DOI=10.1039/jr9630002108}}</ref> 。 一方、オリンピセンでは、2つの環の間に立体的衝突が存在せず、平面構造を取ることができる。
<ref>{{Cite journal|last=Cook|first=J. W.|year=1931|title=CCCL.&mdash;Polycyclic aromatic hydrocarbons. Part VI. 3 : 4-Benzphenanthrene and its quinone|journal=[[J. Chem. Soc.]]|pages=2524–2528|doi=10.1039/jr9310002524}}</ref> 。この分子は、X線結晶学により研究されており、2つの水素原子間の立体的な衝突のために、分子は平面状にはならない<ref>{{Cite journal|last=Hirshfled|first=F. L.|year=1963|title=398. The structure of overcrowded aromatic compounds. Part VI. The crystal structure of benzo[''c'']phenanthrene and of 1,12-dimethylbenzo[''c'']phenanthrene|journal=[[J. Chem. Soc.]]|pages=2108–2125|doi=10.1039/jr9630002108}}</ref> 。 一方、オリンピセンでは、2つの環の間に立体的衝突が存在せず、平面構造を取ることができる。


オリンピセンの-CH<sub>2</sub>-スペーサーが[[ケトン]]基 (C=O)で置換されている ナフトアントロンが、数十年前から知られている<ref>{{Cite journal|last=Fujisawa|first=S.|year=1976|title=The Crystal and Molecular Structure of Naphthanthrone|journal=[[Bull. Chem. Soc. Jpn.]]|volume=49|issue=12|pages=3454–3456|DOI=10.1246/bcsj.49.3454}}</ref> 。また、CH<sub>2</sub> スペーサーが、酸素や硫黄原子で置換された分子も知られている<ref>{{Cite journal|last=Donovan|first=P. M.|year=2004|title=Elaboration of diaryl ketones into naphthalenes fused on two or four sides: A naphthoannulation procedure|journal=[[J. Am. Chem. Soc.]]|volume=126|issue=10|pages=3108–3112|DOI=10.1021/ja038254i|PMID=15012140}}</ref> 。硫黄原子に置換された分子は、C-S-C角が104.53°であり、これは硫黄原子がsp<sup>2</sup> ではなく、むしろsp<sup>3</sup>混成軌道であることを示すと考えられている。これは、硫黄原子が分子のπ軌道の一部ではないことを示唆している。
オリンピセンの-CH<sub>2</sub>-スペーサーが[[ケトン]]基 (C=O)で置換されている ナフトアントロンが、数十年前から知られている<ref>{{Cite journal|last=Fujisawa|first=S.|year=1976|title=The Crystal and Molecular Structure of Naphthanthrone|journal=[[Bull. Chem. Soc. Jpn.]]|volume=49|issue=12|pages=3454–3456|doi=10.1246/bcsj.49.3454}}</ref> 。また、CH<sub>2</sub> スペーサーが、酸素や硫黄原子で置換された分子も知られている<ref>{{Cite journal|last=Donovan|first=P. M.|year=2004|title=Elaboration of diaryl ketones into naphthalenes fused on two or four sides: A naphthoannulation procedure|journal=[[J. Am. Chem. Soc.]]|volume=126|issue=10|pages=3108–3112|doi=10.1021/ja038254i|pmid=15012140}}</ref> 。硫黄原子に置換された分子は、C-S-C角が104.53°であり、これは硫黄原子がsp<sup>2</sup> ではなく、むしろsp<sup>3</sup>混成軌道であることを示すと考えられている。これは、硫黄原子が分子のπ軌道の一部ではないことを示唆している。


[[ノッティンガム大学]]の[[マーティン・ポリアコフ]]は、オリンピセンのオリンピック環は、[[カテナン]]のように鎖状のつながりでなく、「触っている」だけであると指摘している。カテナンのような鎖状のオリンピック分子は、1994年にFraser Stoddartによって合成され、[[オリンピアダン]]と名付けられた<ref>[http://www.periodicvideos.com/videos/mv_olympicene.htm The Problem with Olympicene] at ''[[:en:The_Periodic_Table_of_Videos|The Periodic Table of Videos]]'' (University of Nottingham)</ref>。
[[ノッティンガム大学]]の[[マーティン・ポリアコフ]]は、オリンピセンのオリンピック環は、[[カテナン]]のように鎖状のつながりでなく、「触っている」だけであると指摘している。カテナンのような鎖状のオリンピック分子は、1994年にFraser Stoddartによって合成され、[[オリンピアダン]]と名付けられた<ref>[http://www.periodicvideos.com/videos/mv_olympicene.htm The Problem with Olympicene] at ''[[:en:The_Periodic_Table_of_Videos|The Periodic Table of Videos]]'' (University of Nottingham)</ref>。
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== 合成 ==
== 合成 ==
オリンピセンの合成は、ピレンカルボキシアルデヒドの[[ウィッティヒ反応]]を用いて開始する。必要な[[イリド]]を得るために、まず[[トリフェニルホスフィン]]をブロモ酢酸エチルと反応させて[[ホスホニウム]]塩を形成する。 この塩を穏やかな塩基で処理した後、[[トルエン]]中でイリドを[[アルデヒド]]と反応させる。 [[酢酸エチル]]中、水素と[[パラジウム]]を用いて、α,β不飽和[[カルボニル]]化合物を[[水素化]]した後、エステルを[[水酸化カリウム]]、酸、次いで[[塩化チオニル]]を用いて酸塩化物に変換する。 [[ジクロロメタン]]中、[[塩化アルミニウム]]を用いて[[フリーデル・クラフツ反応]]させ、[[ケトン]]を形成する。このケトンを[[水素化アルミニウムリチウム]]を用いて[[還元]]すると、[[アルコール]]の3,4-ジヒドロ-5H-ベンゾ[cd]ピレン-5-オールが得られ、その化合物を酸性の[[イオン交換樹脂]]で処理して、最終生成物のオリンピセンを得る<ref>{{Cite journal|last=Mistry|first=A.|year=2014|title=The Synthesis and STM/AFM Imaging of ‘Olympicene’ Benzo[cd]pyrenes|journal=[[Chemistry, A European Journal]]|volume=21|issue=5|pages=2011–2018|DOI=10.1002/chem.201404877}}</ref>。
オリンピセンの合成は、ピレンカルボキシアルデヒドの[[ウィッティヒ反応]]を用いて開始する。必要な[[イリド]]を得るために、まず[[トリフェニルホスフィン]]をブロモ酢酸エチルと反応させて[[ホスホニウム]]塩を形成する。 この塩を穏やかな塩基で処理した後、[[トルエン]]中でイリドを[[アルデヒド]]と反応させる。 [[酢酸エチル]]中、水素と[[パラジウム]]を用いて、α,β不飽和[[カルボニル]]化合物を[[水素化]]した後、エステルを[[水酸化カリウム]]、酸、次いで[[塩化チオニル]]を用いて酸塩化物に変換する。 [[ジクロロメタン]]中、[[塩化アルミニウム]]を用いて[[フリーデル・クラフツ反応]]させ、[[ケトン]]を形成する。このケトンを[[水素化アルミニウムリチウム]]を用いて[[還元]]すると、[[アルコール]]の3,4-ジヒドロ-5H-ベンゾ[cd]ピレン-5-オールが得られ、その化合物を酸性の[[イオン交換樹脂]]で処理して、最終生成物のオリンピセンを得る<ref>{{Cite journal|last=Mistry|first=A.|year=2014|title=The Synthesis and STM/AFM Imaging of ‘Olympicene’ Benzo[cd]pyrenes|journal=[[Chemistry, A European Journal]]|volume=21|issue=5|pages=2011–2018|doi=10.1002/chem.201404877}}</ref>。


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2020年1月25日 (土) 16:46時点における版

オリンピセン
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識別情報
PubChem 14008926
ChemSpider 19896409
特性
化学式 C19H12
モル質量 240.3 g mol−1
外観 白色粉体
密度 1.28 g/cm3
沸点

511.754 °C, 785 K, 953 °F (at 760 mmHg)

危険性
引火点 254.195 °C (489.551 °F; 527.345 K)
特記なき場合、データは常温 (25 °C)・常圧 (100 kPa) におけるものである。

オリンピセン(Olympicene)は5つの環からなる有機炭素系分子であり、それらの環のうち4つはベンゼン環であり、オリンピックの五輪マークの形に結合されている。

オリンピセンは、オックスフォード大学のグレアム・リチャーズとアントニー・ウィリアムズにより、2012年のロンドンオリンピック開催を祝して、2010年3月に考えられた。この分子は、英国のウォーリック大学の研究者Anish Mistryとデビッド・フォックスにより初めて合成された[1][2][3] 。また、シカゴ大学のアンドリュー・バレンタインとDavid Mazziottiが、オリンピセンとその異性体の相対エネルギーを量子電子構造計算で最初に予測した[4]

電子数

オリンピセンは、その環系に18個のπ(パイ)電子を持ち、平面構造の分子であるため、芳香族分子になる。ただし、中央の環は芳香環ではない。

関連化合物

非常に類似した分子(ベンゾ[c]フェナントレン)は以前から知られており、ちょうどオリンピセン分子から中央の-CH2-スペーサーを取り除いた構造である [5] 。この分子は、X線結晶学により研究されており、2つの水素原子間の立体的な衝突のために、分子は平面状にはならない[6] 。 一方、オリンピセンでは、2つの環の間に立体的衝突が存在せず、平面構造を取ることができる。

オリンピセンの-CH2-スペーサーがケトン基 (C=O)で置換されている ナフトアントロンが、数十年前から知られている[7] 。また、CH2 スペーサーが、酸素や硫黄原子で置換された分子も知られている[8] 。硫黄原子に置換された分子は、C-S-C角が104.53°であり、これは硫黄原子がsp2 ではなく、むしろsp3混成軌道であることを示すと考えられている。これは、硫黄原子が分子のπ軌道の一部ではないことを示唆している。

ノッティンガム大学マーティン・ポリアコフは、オリンピセンのオリンピック環は、カテナンのように鎖状のつながりでなく、「触っている」だけであると指摘している。カテナンのような鎖状のオリンピック分子は、1994年にFraser Stoddartによって合成され、オリンピアダンと名付けられた[9]

合成

オリンピセンの合成は、ピレンカルボキシアルデヒドのウィッティヒ反応を用いて開始する。必要なイリドを得るために、まずトリフェニルホスフィンをブロモ酢酸エチルと反応させてホスホニウム塩を形成する。 この塩を穏やかな塩基で処理した後、トルエン中でイリドをアルデヒドと反応させる。 酢酸エチル中、水素とパラジウムを用いて、α,β不飽和カルボニル化合物を水素化した後、エステルを水酸化カリウム、酸、次いで塩化チオニルを用いて酸塩化物に変換する。 ジクロロメタン中、塩化アルミニウムを用いてフリーデル・クラフツ反応させ、ケトンを形成する。このケトンを水素化アルミニウムリチウムを用いて還元すると、アルコールの3,4-ジヒドロ-5H-ベンゾ[cd]ピレン-5-オールが得られ、その化合物を酸性のイオン交換樹脂で処理して、最終生成物のオリンピセンを得る[10]

画像

 走査型トンネル顕微鏡により最初に撮影された。2012年には、チューリッヒのIBMの研究者らが、もっと詳細な画像を得るために非接触式の原子間力顕微鏡で撮影を行なった[11][12]

参照

参考文献

  1. ^ Williams, A. J. (2012年5月27日). “The Story of Olympicene from Concept to Completion”. ChemConnector. Royal Society of Chemistry. 2012年5月28日閲覧。
  2. ^ Mistry, A. (2012年5月31日). “Dehydration of 3,4-dihydro-5H-Benzo[cd]pyren-5-ol; 6H-Benzo[cd]pyrene”. ChemSpider. Royal Society of Chemistry. 2016年1月3日閲覧。
  3. ^ Williams, A. J. (2012年3月14日). “Step by Step to the Synthesis of Olympicene”. ChemConnector. Royal Society of Chemistry. 2012年6月6日閲覧。
  4. ^ Valentine, A. J. S.; Mazziotti, D. A. (2013). “Theoretical Prediction of the Structures and Energies of Olympicene and its Isomers”. J. Phys. Chem. A 117 (39): 9746–9752. doi:10.1021/jp312384b. 
  5. ^ Cook, J. W. (1931). “CCCL.—Polycyclic aromatic hydrocarbons. Part VI. 3 : 4-Benzphenanthrene and its quinone”. J. Chem. Soc.: 2524–2528. doi:10.1039/jr9310002524. 
  6. ^ Hirshfled, F. L. (1963). “398. The structure of overcrowded aromatic compounds. Part VI. The crystal structure of benzo[c]phenanthrene and of 1,12-dimethylbenzo[c]phenanthrene”. J. Chem. Soc.: 2108–2125. doi:10.1039/jr9630002108. 
  7. ^ Fujisawa, S. (1976). “The Crystal and Molecular Structure of Naphthanthrone”. Bull. Chem. Soc. Jpn. 49 (12): 3454–3456. doi:10.1246/bcsj.49.3454. 
  8. ^ Donovan, P. M. (2004). “Elaboration of diaryl ketones into naphthalenes fused on two or four sides: A naphthoannulation procedure”. J. Am. Chem. Soc. 126 (10): 3108–3112. doi:10.1021/ja038254i. PMID 15012140. 
  9. ^ The Problem with Olympicene at The Periodic Table of Videos (University of Nottingham)
  10. ^ Mistry, A. (2014). “The Synthesis and STM/AFM Imaging of ‘Olympicene’ Benzo[cd]pyrenes”. Chemistry, A European Journal 21 (5): 2011–2018. doi:10.1002/chem.201404877. 
  11. ^ 'Olympic rings' molecule olympicene in striking image”. BBC News (2012年5月28日). 2016年1月3日閲覧。
  12. ^ Olympicene: Doodle to Stunning image of smallest possible 5 rings”. IBM Research (2012年5月28日). 2012年5月28日閲覧。