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'''ヴァイオリンソナタ'''は、[[フランス]]の作曲家[[モーリス・ラヴェル]](1875年 - 1937年)が[[ヴァイオリン]]と[[ピアノ]]のために作曲した[[ソナタ]]であり、創作初期に書かれた[[1897年]]の作品と晩年に近い[[1927年]]に書かれた作品の'''2曲が存在する'''。かつては後者(1927年)のみが知られていたが、これとは別の若書きによるヴァイオリンソナタの存在が[[1975年]]になって明らかになった。この、後から見つかった作品は出版される際に「遺作のヴァイオリンソナタ」として、それまで知られていた1927年のソナタと区別されている{{Refnest|group="注"|作曲された順に、『ヴァイオリンソナタ第1番』『ヴァイオリンソナタ第2番』として区別する場合もある<ref>ロジャー・ニコルス『Ravel』、YALE UNIVERSITY BOOKS、2012年、ISBN 978-0-300-18776-2、426頁(索引)</ref>。}}。1927年のソナタは[[ジャズ]]の要素を取り入れた作品であり、ラヴェルのヴァイオリンソナタとしてはこちらの方が有名である<ref name="井上27">井上さつき『作曲家◎人と作品 ラヴェル』、音楽之友社、2019年11月5日、ISBN 978-4-276-22197-0、27頁</ref>。 |
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'''ヴァイオリンソナタ第2番 ト長調 M. 77''' は、[[モーリス・ラヴェル]]が[[1923年]]から[[1927年]]にかけて作曲した<ref name="平島75">平島正郎(項目執筆)『作曲家別名曲解説ライブラリー⑪-ラヴェル』音楽之友社、1993年9月10日、ISBN 4-276-01051-9、75頁</ref>[[ヴァイオリンソナタ]]。本項目では[[1975年]]に再発見された第1番についても扱う。 |
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ラヴェルは生涯に8曲の[[室内楽曲|室内楽作品]]を残しているが{{Refnest|group="注"|(1)『'''ヴァイオリンソナタ(遺作)'''』、(2)『[[弦楽四重奏曲 (ラヴェル)|弦楽四重奏曲]]』、(3)『[[序奏とアレグロ (ラヴェル)|序奏とアレグロ]]』、(4)『[[ピアノ三重奏曲 (ラヴェル)|ピアノ三重奏曲]]』、(5)『[[ヴァイオリンとチェロのためのソナタ (ラヴェル)|ヴァイオリンとチェロのためのソナタ]]』、(6)『フォーレの名による子守歌』、(7)『[[ツィガーヌ#モーリス・ラヴェルによる作品|ツィガーヌ]]』、(8)『'''ヴァイオリンソナタ'''』の8曲。}}、2曲のヴァイオリンソナタはその最初と最後に位置づけられる<ref>ニコルス(2012)、400頁(作品目録)</ref>。 |
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== 概要 == |
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ラヴェル最後の[[室内楽曲]]であり、4年にわたる創作期間についてはっきりした事情は分かっていない。{{要出典|範囲=ラヴェルは「無駄な音符を削るのに」これだけの年数が必要だったと断言している|date=2018年12月}}。また別の場面では、[[ヴァイオリン]]という楽器はラヴェルにとって、[[ピアノ]]と「本質的に相容れないもの」と思われたとも訴えている。 |
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== ヴァイオリンソナタ(遺作)イ短調 == |
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初演は[[1927年]][[5月30日]]に[[パリ]]のサル・エラールにて、作曲者自身のピアノと[[ジョルジェ・エネスク]]のヴァイオリンによって行われた。親友の女性ヴァイオリニストの[[エレーヌ・ジュルダン=モランジュ]]に献呈されたが、当時の彼女は[[リウマチ|リューマチ]]を患っていて初演で演奏することが出来なかった。 |
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『'''ヴァイオリンソナタ(遺作)'''({{Lang-fr|''Sonate Posthume, pour violon et piano''}})イ短調』は、ラヴェルが22歳、[[アンドレ・ジェダルジュ]]の元で[[対位法]]と[[オーケストレーション]]を個人的に学んでいた時期の作品であり{{Refnest|group="注"|ラヴェルは1925年に[[パリ音楽院]]のピアノのクラスと和声のクラスを除籍になり、この時期はパリ音楽院からは一時的に離れていた<ref>井上、前掲書22-23頁</ref>}}<ref name="井上29">井上、前掲書29頁</ref>、自筆譜には「1897年4月」の日付がある{{Refnest|group="注"|ヴァイオリンソナタ(遺作)の自筆譜はアクレサンドル・タヴェルヌ夫人の個人コレクションにある<ref name="美山74">美山良夫(「ヴァイオリンソナタ(遺作)」項目執筆)『作曲家別名曲解説ライブラリー⑪-ラヴェル』音楽之友社、1993年9月10日、ISBN 4-276-01051-9、74頁</ref>。これはラヴェルの叔父エドゥアール・ラヴェルが持っていた大量の自筆譜とスケッチのコレクションの一部であり、ラヴェル生誕100年の1975年には、紛失または破棄されたと思われていた9つの作品がこの中から発見されている<ref>アービー・オレンシュタイン、井上さつき訳『ラヴェル-生涯と作品』音楽之友社、2006年12月31日、ISBN 4-276-13155-3、5頁(前書き)</ref>。}}。単一楽章で、古典的な[[ソナタ形式]]により書かれている<ref name="井上233">井上、前掲書233頁</ref>。演奏時間は約16分<ref name="美山73">美山、前掲書73頁</ref>。 |
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作曲の経緯は不明で初演の記録も残っていない。ただし、[[1929年]]にラヴェルがヴァイオリニストのポール・オベルデルフェール( ''Paul Oberdoerffer'' )の記念帳に記した「未完のヴァイオリンソナタ第1番(18・・)の初演の思い出に」という一文が残っていることから、このオベルデルフェールとラヴェルが初演を行ったものと考えられている{{Refnest|group="注"|かつては、1927年のソナタと同様、ジョルジュ・エネスコが初演のヴァイオリニストであると考えられていた<ref name="オレンシュタイン29">オレンシュタイン、前掲書29頁</ref>。}}<ref>ニコルス(2012)、25頁</ref><ref name="井上233" />。また「'''未完の'''」という表現が用いられていることから、この曲がもともとは複数の楽章からなる作品として構想されていたことも窺える<ref name="井上29" />。楽譜の出版はおろか再演された記録も残っておらず<ref name="美山74"/>、作品の存在は永らく知られていなかったが、ラヴェルの生誕100周年にあたる[[1975年]]にニューヨークにおいて蘇演され{{Refnest|group="注"|1975年2月23日、ニューヨークのオーディトリウム・チャールズ・コルデンにて、ジェラルド・タラックのヴァイオリン、アービー・オレンシュタインのピアノによる<ref name="美山73" />。}}<ref name="美山73" />、[[サラベール社]]から楽譜が出版された<ref name="美山73" />。 |
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なお、遺作のヴァイオリンソナタが再発見されるまでは単に『'''ヴァイオリンソナタ ト長調'''』と呼ばれていたが、現在は下記の作品と区別するために『'''ヴァイオリンソナタ第2番 ト長調'''』と呼ばれている。 |
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作品には[[ガブリエル・フォーレ]]の『[[ヴァイオリンソナタ第1番 (フォーレ)|ヴァイオリンソナタ第1番]]』(1876年)や[[セザール・フランク]]の『[[ヴァイオリンソナタ (フランク)|ヴァイオリンソナタ]]』(1886年)<ref name="オレンシュタイン188">オレンシュタイン、前掲書188頁</ref>、あるいは当時パリに住んでいた[[フレデリック・ディーリアス]]の作曲様式からの影響が窺えるが<ref>ロジャー・ニコルス、渋谷和邦訳『ラヴェル-生涯と作品』泰流社、1987年9月10日、ISBN 4-88470-604-8、25頁</ref>、一方ではラヴェル特有の叙情性や和声の特徴も見られ<ref name="オレンシュタイン188" />、冒頭の主題やその展開方法には後年の『[[ピアノ三重奏曲 (ラヴェル)|ピアノ三重奏曲 イ短調]]』(1914年)との類似が指摘されている(譜例を参照)<ref name="オレンシュタイン187">オレンシュタイン、前掲書187頁</ref>。 |
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== 構成 == |
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以下のように3楽章で構成され、全曲を通じて約18分<ref name="平島75" />。 |
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* '''第1楽章''' アレグレット([[ト長調]]) |
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* '''第2楽章''' [[ブルース]]:モデラート([[変イ長調]]) |
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* '''第3楽章''' [[無窮動]]:アレグロ(ト長調) |
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'''ヴァイオリンソナタ(遺作)の冒頭''' |
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{{要出典|範囲=古典的な緊密で厳格な形式が追究されている|date=2018年12月}}反面、{{要出典|範囲=後輩の[[ダリウス・ミヨー]]に影響されて|date=2018年12月}}[[複調]]を積極的に採っている。中間楽章は、({{要出典|範囲=たとえば[[ジョージ・ガーシュウィン]]に伴われてラヴェルがしばしば訪れた[[ニューヨーク]]のナイト・クラブを髣髴させる|date=2018年12月}})[[ジャズ]]の[[雰囲気]]が加味されている。第3楽章は超絶技巧が要求され、[[ヴィルトゥオーゾ]]の[[ヴァイオリン]]奏者には腕の見せ所となっている。 |
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:<score> |
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\relative c'' { \key a \minor \time 7/8 |
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\tuplet 3/2 {e8( d e } c8[ e g fis d] | \time 6/8 c8[ b c] a) } |
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</score> |
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'''ピアノ三重奏曲の冒頭'''(旋律線のみを示し、和音は省略してある。) |
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:<score> |
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\relative c'' { \key a \minor \time 8/8 |
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e8-. e8.( d16 e8. fis16 g8-.) fis4-- | e8-. e8.( d16 e8. d16 a8-.) b4-- } |
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</score> |
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== ヴァイオリンソナタ |
== ヴァイオリンソナタ ト長調 == |
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=== 概要 === |
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ラヴェルはすでに[[1897年]]にもこの楽種に手を染め、作曲者自身のピアノとエネスクのヴァイオリンで初演されているが、存命中には出版されなかった。作曲者の生誕100周年の[[1975年]]に再発見され、[[ニューヨーク]]で蘇演されるまで、永らくその実像を知られてはいなかった。晩年の多楽章の活気あるソナタとは対照的に、{{要出典|範囲=哀調を帯びた瞑想的な曲調を持つ[[フレデリック・ディーリアス|ディーリアス]]風の作品で|date=2020年2月}}[[イ短調]]、長大な単一楽章で構成されている(全曲を通して演奏するのに17~18分を要する)。現在は晩年のソナタと区別するために『'''ヴァイオリンソナタ第1番 イ短調'''』と呼ばれるほか、『'''遺作のヴァイオリンソナタ'''』や『'''1897年のヴァイオリンソナタ'''』などと呼ばれている。 |
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『'''ヴァイオリンソナタ'''({{Lang-fr|''Sonate pour violon et piano''}})ト長調』は1927年に作曲された、ラヴェルにとって最後の室内楽作品である。3つの楽章で構成され、演奏時間は約18分<ref name="平島75">平島正郎(「ヴァイオリンソナタ」項目執筆)『作曲家別名曲解説ライブラリー⑪-ラヴェル』音楽之友社、1993年9月10日、ISBN 4-276-01051-9、75頁</ref>。 |
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緩徐楽章の代わりに置かれた第2楽章「[[ブルース]]」には、第一次世界大戦後にパリの若手知識人を魅了していた'''ジャズ'''の影響が見られる<ref name="シュトゥッケンシュミット267">ハンス・ハインツ・シュトゥッケンシュミット、岩淵達治訳『モリス・ラヴェル-その生涯と作品』音楽之友社、1983年8月20日、ISBN 4-276-22631-7、267頁</ref>{{Refnest|group="注"|パリでは第一次世界大戦前からジャズバンドが登場していた<ref name="シュトゥッケンシュミット267" />。フランスにおいてジャズの要素をいち早く取り入れた例としては[[クロード・ドビュッシー]]の「ゴリウォーグのケークウォーク」(『[[子供の領分]]』の第6曲、1908年)がある<ref name="ジャンケレヴィッチ124">ヴラディーミル・ジャンケレヴィッチ、福田達夫訳『ラヴェル』、白水社、1970年9月25日、ISBN 4-560-02652-1、124頁</ref>。}}。ラヴェルが自作にジャズの要素を取り入れたのは歌劇『[[子供と魔法]]』における[[フォックストロット]]([[ウェッジウッド]]のティーポットと中国茶碗の二重唱)に次いでこれが二度目となる<ref name="オレンシュタイン241">オレンシュタイン、前掲書241頁</ref><ref name="オレンシュタイン245">オレンシュタイン、前掲書245頁</ref>。ラヴェルは本作品を完成させた翌年(1928年)に行った初のアメリカ演奏旅行の際に本場のジャズに触れており<ref name="オレンシュタイン126">オレンシュタイン、前掲書126頁</ref>{{Refnest|group="注"|ラヴェルは数夜にわたって[[ジョージ・ガーシュウィン]]や[[アレクサンドル・タンスマン]]とともにハーレムでジャズを聴いたとされる<ref name="オレンシュタイン126" />。}}、1930年代に書かれた『[[左手のためのピアノ協奏曲 (ラヴェル)|左手のためのピアノ協奏曲]]』(1930年)や『[[ピアノ協奏曲 (ラヴェル)|ピアノ協奏曲 ト長調]] 』(1931年)ではジャズの語法がさらに上手く作品に統合されている<ref name="オレンシュタイン246">オレンシュタイン、前掲書246頁</ref>。『ヴァイオリンソナタ』はこれらの協奏曲の先駆けとも言える作品であり<ref>諸井誠『わたしのラヴェル』、音楽之友社、1984年5月10日、ISBN 4-276-37032-9、前掲書82頁</ref>、特に『ピアノ協奏曲 ト長調』とはジャズの影響だけでなく、[[ト長調]]という調性や終楽章の[[無窮動]]などの共通点がある<ref name="平島78">平島、前掲書78頁</ref>。 |
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作曲にあたり、ラヴェルはヴァイオリンとピアノを「'''本質的に相容れない楽器'''」の組み合わせと見ており<ref name="ジャンケレヴィッチ253">ジャンケレヴィッチ、前掲書253頁</ref>、本作品では両者の独立性が強調されている<ref name="平島75" />。声部の独立性や[[複調]]の多用、簡潔さといった特徴は、並行して作曲された歌曲集『[[マダガスカル島民の歌]]』(1926年完成)でも見られたものであり、本作品ではそれらの特徴がさらに明確になっている<ref name="ジャンケレヴィッチ253" /><ref name="平島75" />。 |
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=== 作曲の経緯 === |
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[[Image: RicardVinyesRavel.jpg |thumb|240px|左から、ラヴェル、ジュルダン=モランジュ、[[リカルド・ビニェス]]。(1923年)]] |
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ヴァイオリンソナタの作曲には[[1923年]]から1927年までの4年間が費やされた<ref name="井上240">井上、前掲書240頁</ref>。ラヴェルは少なくとも1920年頃にはヴァイオリン協奏曲を作曲する構想を持っていたが<ref name="モランジュ217">エレーヌ・ジュルダン=モランジュ、安川加寿子・嘉乃海隆子共訳『ラヴェルと私たち』、音楽之友社、1968年8月20日、217頁</ref>、ハンガリー出身のヴァイオリニスト、[[イェリー・ダラーニ|ジェリー・ダラニー]]との交流をきっかけとして<ref name="井上164">井上、前掲書164頁</ref>、協奏曲ではなくソナタの作曲を思い立った<ref name="モランジュ217" />。 |
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作曲に着手した1923年の夏には最初のスケッチが完成し<ref name="オレンシュタイン115">オレンシュタイン、前掲書115頁</ref>、10月にはソナタの初演を含む演奏会の告知もなされたが<ref name="オレンシュタイン121">オレンシュタイン、前掲書121頁</ref>作品は完成せず、ダラニーにはソナタの代わりの作品として作曲した『[[ツィガーヌ#モーリス・ラヴェルによる作品|ツィガーヌ]]』が献呈された<ref name="井上153">井上、前掲書153頁</ref>(1924年4月、ダラニーによって初演<ref name="井上154">井上、前掲書154頁</ref>)。なお、ラヴェルは『ツィガーヌ』を作曲する際、友人のヴァイオリニストである'''[[エレーヌ・ジュルダン=モランジュ]]'''の協力を得ながら、[[ニコロ・パガニーニ]]の『[[24の奇想曲]]』を題材としてヴァイオリンの技巧について研究している<ref name="モランジュ217" />。 |
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その後ソナタの作曲は『子供と魔法』、『マダガスカル島民の歌』と並行して断続的に進められ、1927年にようやく完成した<ref name="オレンシュタイン120">オレンシュタイン、前掲書120頁</ref>。作品はジュルダン=モランジュに献呈され<ref name="平島76">平島、前掲書76頁</ref>、楽譜は[[デュラン (出版社)|デュラン社]]から出版された<ref name="オレンシュタイン120" />。[[マニュエル・ロザンタル|マニュエル・ロザンタール]]によれば、作曲を進める過程でラヴェルは一旦書き終えた第3楽章を「第1楽章に似ている」という理由から破棄し、現行の「無窮動」に差し替えている<ref name="ニコルス182">ニコルス(1987)、182頁</ref>。 |
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初演は1927年[[5月30日]]に[[パリ]]の{{仮リンク|サル・エラール|fr|Salle Érard}}で開かれたデュラン社の演奏会で行われた<ref name="平島75" />。ラヴェルはジュルダン=モランジュが演奏することを望んでいたが<ref name="オレンシュタイン122">オレンシュタイン、前掲書122頁</ref>当時の彼女は[[リウマチ|リューマチ]]を患っていて演奏できなかったため<ref name="平島76" />、初演のヴァイオリニストは[[ジョルジェ・エネスク|ジョルジュ・エネスコ]]が務め{{Refnest|group="注"|エネスコはラヴェルのパリ音楽院時代の友人でもある<ref name="井上29" />。}}、ラヴェル自身がピアノを担当した<ref name="平島75" />。初演に対する批評は好意的であり、特に第2楽章「ブルース」が注目された<ref name="オレンシュタイン120" />。 |
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=== 構成 === |
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==== 第1楽章 ==== |
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アレグレット、ト長調。「提示部-展開部-再現部」の構造を有するが伝統的なソナタ形式の枠組みには当てはまらず<ref name="平島77">平島、前掲書77頁</ref>、複数の音楽的な素材(主題あるいは動機)を対位法的に組み合わせることで構成されている<ref name="平島77" />。 |
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第1の素材は旋法的でアルカイックな優美さをもつ主題であり<ref name="平島76" />、冒頭でピアノの単音により提示された後、音高を変えてヴァイオリンが応答する(譜例)。作品を献呈されたジュルダン=モランジュは、この主題を演奏する場合、ヴィヴラートのかけ過ぎや歌い過ぎは禁物であり、[[オーボエ]]か[[クラリネット]]が吹いているかのごとく淡々と流れるように演奏するべきだと述べている<ref name="モランジュ229">ジュルダン=モランジュ、前掲書229頁</ref>{{Refnest|group="注"|ジュルダン=モランジュは、このソナタは「単純さ」ゆえに演奏が難しいと述べている<ref name="モランジュ229" />。}}。なお、この主題は第3楽章の集結部分で再現される。 |
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:<score> |
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\relative a'' { \key g \major \time 6/8 |
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a8(-_\p g16 f e8-_) f( e) d | e( d16 c) g8~ g4.~ | g8 d'( c) e( c) a | e'( d16 c) g8~ g4. } |
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</score> |
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間もなくピアノの左手に第2の素材が出る(譜例)。第1の素材とは対照的な性格であり、ジュルダン=モランジュは「どんなにスタッカートしても足りないくらいである<ref name="モランジュ229" />」と述べている。また、彼女はこの素材を「'''狼の怒り'''」と表現しているが<ref name="モランジュ229" />、これは、[[ウラジミール・ジャンケレヴィッチ]]がラヴェルの作風の特徴の一つとして挙げている「だしぬけの激しさ、狼のようにいきなり現れる怒り<ref name="ジャンケレヴィッチ188">ジャンケレヴィッチ、前掲書188頁</ref>」を踏まえたものである。この素材は第3楽章の序奏としても使われる。 |
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:<score> |
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\relative a { \key g \major \time 6/8 \partial 4. |
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\acciaccatura bis8 cis-. \acciaccatura bis8 cis-. \acciaccatura bis8 cis-. |\acciaccatura bis8 cis-. cis16-. cis-. cis-. fis-. cis8-. cis16-. cis-. cis-. fis-. | cis2. } |
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</score> |
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上記の2つ以外に提示部に登場する主要な素材については諸説あり、文献によって異なっている。 |
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{{仮リンク|ロジャー・ニコルス (音楽学者)|label=ロジャー・ニコルス|en|Roger Nichols (musical scholar) }}は、第2の素材に応答するようにピアノが奏でる動機(譜例)を第3の素材としている<ref name="ニコルス181">ニコルス(1987)、181頁</ref>。 |
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:<score> |
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\relative c''' { \key g \major \time 6/8 |
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r8 <bes g>16( ees, <c' a> f, <d' b > g, <e' cis > a, <fis'! dis > b,) } |
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</score> |
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{{仮リンク|アービー・オレンシュタイン|en|Arbie Orenstein}}及び[[平島正郎]]は、次の2つを第3、第4の素材として挙げている(譜例)<ref name="オレンシュタイン245" /><ref name="平島77" />。 |
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(長7度の跳躍を含む主題) |
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:<score> |
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\relative c' { \key g \major \time 6/8 |
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r8 g8( a) bes4.(~ | bes8 a' fis) a( cis, fis) | bes,8( a' fis) a( cis, fis) | e4.~ e8 } |
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</score> |
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(減8度が平行する主題) |
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:<score> |
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\relative c''' { \key g \major \time 6/8 |
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r4. <d! dis, >-_ | <c! cis, >-_ <d! dis, >-_ | <gis, a,! >-_ <d'! dis, >-_ | <c! cis, >-_ <d! dis, >-_ | <gis, a,! >-_ } |
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</score> |
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ジャンケレヴィッチは、ヴァイオリンが奏でる次の表情豊かな主題(譜例・上)が第3の素材<ref name="ジャンケレヴィッチ83">ジャンケレヴィッチ、前掲書83頁</ref>、これに続くピアノの主題(譜例・下)が第4の素材であるとしている<ref name="ジャンケレヴィッチ83" />。これらはオレンシュタインと平島が挙げる2つの素材に続いて登場する。 |
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:<score> |
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\relative c''' { \key g \major \time 6/8 \partial 8 |
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b8~\pp\< | b2.~ |b4.\p a4( g8) | fis4. g8( fis d) |fis4. e4( d8) | b4. a~ |a8 g'( fis) e( fis d) |a4. b } |
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</score> |
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:<score> |
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\relative c'' { \key g \major \time 6/8 \partial 4. |
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<e a, e>4.\pp(~ | \time 2/4 <e a, e>2 | <g c, g>4. <bes ees, bes>8 | <e, a, e>2.~ |<e a, e>) } |
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</score> |
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これらの素材が組み合わされながら曲は進行するが、デュナーミクは ''pp'' や ''p'' に抑えられ、再現部の直前になってようやく ''f'' 、''ff'' が登場する<ref name="オレンシュタイン245" /><ref>諸井、前掲書83頁</ref>。再現部では『[[ダフニスとクロエ (ラヴェル)|ダフニスとクロエ]]』の「夜明け」の音楽を思わせる<ref name="ニコルス181">ニコルス(1987)、181頁</ref>新しい主題(譜例)がヴァイオリンに登場し<ref name="ニコルス181" />、ピアノによる主要主題に重ねられる<ref name="オレンシュタイン245" />。 |
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:<score> |
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\relative c' { \key g \major \time 3/4 |
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e4(\mp^\markup { cantabile } d) fis |fis( e4.) g8 | a4.( b8) d4 | d2. | d4( e fis) |fis( g) g,8( a) | e'2 d4 | b( d,) fis | e4.( d8 e4) |a2. } |
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</score> |
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==== 第2楽章「ブルース」==== |
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モデラート、変イ長調。冒頭のヴァイオリンの[[ピチカート]]は[[バンジョー]]や[[ギター]]を模しており<ref name="オレンシュタイン246" />、拍節をずらすようにアクセントが不規則に付けられている<ref name="ジャンケレヴィッチ130">ジャンケレヴィッチ、前掲書130頁</ref>。7小節目からはピアノが入ってくるが、ヴァイオリンがト長調の主和音を弾いているのに対しピアノは変イ長調である(譜例)。 |
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:<score> |
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\relative c' { |
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<< |
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\new Staff { \clef "treble" \key g \major \time 4/4 |
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<g d' b'>4^\markup { (pizz) } <g d' b'> <g d' b'> <g d' b'> |<g d' b'>4 <g d' b'> <g d' b'> <g d' b'>\f\> | <g d' b'>4\! <g d' b'> <g d' b'> <g d' b'> | <g d' b'>4 <g d' b'> <g d' b'>\f\> <g d' b'>\! | |
|||
} |
|||
\new GrandStaff << |
|||
\new Staff { \clef "treble" \key aes \major |
|||
r1\p | r2 r8. c16-. des8-.[ r16 c16-.] | fis,8-. r8 r4 r2 | r2 r8. c'16-. des8-.[ r16 c16-.] | |
|||
} |
|||
\new Staff { \clef "bass" \key aes \major |
|||
<as, es'>1~ | <as es'> | <as es'>~ |<as es'> |
|||
} |
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>> |
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>> |
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} |
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</score> |
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間もなくヴァイオリンが旋律を奏でる(譜例)。[[ブルー・ノート・スケール|ブルーノート]]や[[シンコペーション]]が使われ、[[サクソフォーン]]の[[ポルタメント]]奏法を模している<ref name="オレンシュタイン246" />。ジュルダン=モランジュは、この楽章でのヴァイオリニストは「あらん限りの官能美を出しつくしてチガーヌ風に弾いてよい<ref name="モランジュ232">ジュルダン=モランジュ、前掲書232頁</ref>」と述べている。 |
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:<score> |
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\relative a'' { \key aes \major \time 4/4 |
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r2 g8\p( f~ \tuplet 3/2 {f16) f( fis } g8~ | g2~ g8) r8 r4 | |
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r2 f8( g4) f8~ |f4 es8( f) a,16( bes b8~ b4~ | b2~b8) r8 r4 |} |
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</score> |
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==== 第3楽章「無窮動」 ==== |
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アレグロ、ト長調。『ツィガーヌ』の系譜に連なる華やかなフィナーレ楽章である<ref name="オレンシュタイン245" /><ref name="井上240" />。第1楽章の第2の素材(「狼の怒り」)の変形による序奏の後<ref name="平島78" />、ジャンケレヴィッチが「名誉回復されたパガニーニの名人芸(ヴィルテュオジテ)」と表現するように<ref>ジャンケレヴィッチ、前掲書84頁</ref>、ヴァイオリンが息つぐ暇を与えず急速に動き回る<ref name="平島78" />。ラヴェルはこの楽章について「できるだけ速く弾いてよろしい<ref name="モランジュ232" />」と語っている{{Refnest|group="注"|アメリカ演奏旅行中の1928年1月15日、ニューヨークのガロ劇場で[[ヨーゼフ・シゲティ]]のヴァイオリン、ラヴェルのピアノによってソナタが演奏された際、ラヴェルは第3楽章をリハーサルを上回る速いテンポで開始し、シゲティは非人間的なハイスピードでこの曲を弾くことになった<ref>井上、前掲書167-168頁</ref>。}}。ピアノのパートは単なる伴奏にとどまらず、第1楽章、第2楽章の主題の変形を弾いており<ref name="オレンシュタイン246" /><ref name="平島78" />、ジュルダン=モランジュはヴァイオリンだけが前面に出る演奏を戒めている<ref name="モランジュ232" />。 |
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前の楽章からの引用については主題や動機が変形されているため、特に第2楽章からの引用はやや分かりにくい<ref name="オレンシュタイン246" />。次ののモチーフ(譜例・上)は、第2楽章に由来しているが(譜例・下)リズムが変えられている。音程に着目すると「4度下降、3度上行、3度下降…」という同じ動き方をしている<ref name="オレンシュタイン246" />。 |
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(第3楽章) |
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:<score> |
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\relative c''' { \key g \major \time 3/4 |
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\ottava #1 a'8-. a-. a4-. e-. | g-. e-. a8 g | b8 a g b a g |e } |
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</score> |
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(第2楽章) |
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:<score> |
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\relative c'' { \key d \major \time 4/4 \partial 2 |
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r8 d( a) c->( | a2) r8 d( c) e->( | d c) e->( c b) d->( c a) | } |
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</score> |
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次のモチーフ(譜例・上)も第2楽章に由来している(譜例・下)。ここではリズムもほぼ同じである<ref name="オレンシュタイン246" />。 |
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(第3楽章) |
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:<score> |
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\relative c''' { \key g \major \time 3/4 |
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\ottava #1 e8 \ottava #0 r16 cis,16 dis8 e-> dis cis | fis8[ r16 cis16 dis8 e-> dis cis] | fis8[ r16 cis16 dis8 e-> dis cis] | b4-. g2~ } |
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</score> |
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(第2楽章) |
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:<score> |
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\relative c' { \key d \major \time 4/4 \partial 2 |
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r8 r16 fis( gis8.) a16->( | gis8[ fis) b8.->( fis16] gis8) a->( gis fis) | b8.->[( fis16 gis8) a->]( gis fis) r8 \acciaccatura dis8 e-> | c1 } |
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</score> |
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次のモチーフ(譜例・上)も第2楽章のモチーフ(譜例・下)に由来しており、音の動く音程がほぼ同じである。このモチーフは低音部でも演奏される<ref name="オレンシュタイン246" />。 |
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(第3楽章) |
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:<score> |
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\relative c' { \key g \major \time 3/4 |
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r8 d-. e-. d-. f4-. | d4-. e-. d-. | f8-. d-. e-. d-. f4-. } |
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</score> |
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(第2楽章) |
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:<score> |
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\relative c'' { \key fis \major \time 4/4 |
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r8. cis16( dis8-.[) r16 cis16]( eis8-.) r4 r4 | r4 \tuplet 3/1 {cis8 dis cis } eis8-.[ r16 cis16]( dis8-.[) r16 cis16-.] | r8. cis16( dis8-.[) r16 cis16]( eis8-.) } |
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</score> |
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長7度の跳躍をもつ次のモチーフ(譜例・上)は、第1楽章のモチーフ(譜例・下)に由来している<ref name="オレンシュタイン246" />。 |
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(第3楽章) |
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:<score> |
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\relative c'' { \key aes \major \time 3/4 \partial 4 |
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c8( d | es8) d'4->( b8 d4) |es,8 d'4->( b8 d4) |es,8( d' b d es, fis |a[ des, c' a]) } |
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</score> |
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(第1楽章(再掲)) |
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:<score> |
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\relative c' { \key g \major \time 6/8 |
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r8 g8( a) bes4.(~ | bes8 a' fis) a( cis, fis) | bes,8( a' fis) a( cis, fis) | e4.~ e8 } |
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</score> |
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終結部分では、第1楽章冒頭の主題が [[完全五度]]の響きを伴い ''ff'' で再現された後(譜例)<ref name="オレンシュタイン246" />、ト長調の主和音と[[嬰ヘ長調]]の主和音が同時に[[アルペジオ]]で鳴らされ<ref name="オレンシュタイン246" />{{Refnest|group="注"|『ピアノ協奏曲 ト長調』の冒頭でも、ト長調と嬰へ長調のアルペジオが同時に鳴らされる<ref name="ニコルス181" />。}}、ト長調の主和音で曲を閉じる。 |
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(第3楽章) |
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:<score> |
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\relative c''' { \key g \major \time 3/4 |
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<c g>4\ff <fis, b,>8 <e a,> <d g,>4 |<e a,> <c f,> <b e,> |
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| <g c,> <e a,>8 <g c,> <ais dis,>4-> | <g c,> <e a,>8 <g c,> <b e,>4-> | |
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<g c,> <a d,> <c f,> | <d g,> <e a,> <g c,> |<fis'-> b,>2 <e a,>4 | <fis-> b,>2 <e a,>4 } |
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</score> |
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(第1楽章の冒頭) |
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:<score> |
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\relative c'' { \key g \major \time 6/8 |
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d8\p( cis16 b a8 b g fis | \time 9/8 d b16 d fis8 d e g a b d) | \time 6/8 fis4->( e8) fis4->( e8) } |
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</score> |
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== 脚注 == |
== 脚注 == |
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<references group="注" /> |
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== 出典 == |
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== 参考文献 == |
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* 井上さつき『作曲家◎人と作品 ラヴェル』、音楽之友社、2019年11月5日、ISBN 978-4-276-22197-0 |
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* オレンシュタイン,アービー、井上さつき訳『ラヴェル-生涯と作品』音楽之友社、2006年12月31日、ISBN 4-276-13155-3 |
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* ジャンケレヴィッチ,ヴラディーミル、福田達夫訳『ラヴェル』、白水社、1970年9月25日、ISBN 4-560-02652-1 |
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* シュトゥッケンシュミット,ハンス・ハインツ、岩淵達治訳『モリス・ラヴェル-その生涯と作品』音楽之友社、1983年8月20日、ISBN 4-276-22631-7 |
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* ジュルダン=モランジュ,エレーヌ、安川加寿子・嘉乃海隆子共訳『ラヴェルと私たち』、音楽之友社、1968年8月20日 |
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* ニコルス,ロジャー、渋谷和邦訳『ラヴェル-生涯と作品』泰流社、1987年9月10日、ISBN 4-88470-604-8 |
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* ニコルス,ロジャー『Ravel』、YALE UNIVERSITY BOOKS、2012年、ISBN 978-0-300-18776-2 |
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* 平島正郎(「ヴァイオリンソナタ」項目執筆)『作曲家別名曲解説ライブラリー⑪-ラヴェル』音楽之友社、1993年9月10日、ISBN 4-276-01051-9 |
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* 美山良夫(「ヴァイオリンソナタ(遺作)」項目執筆)『作曲家別名曲解説ライブラリー⑪-ラヴェル』音楽之友社、1993年9月10日、ISBN 4-276-01051-9 |
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* 諸井誠『わたしのラヴェル』、音楽之友社、1984年5月10日、ISBN 4-276-37032-9 |
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== 外部リンク == |
== 外部リンク == |
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*{{IMSLP2|work=Violin Sonata No.1 (Ravel, Maurice)|cname=ヴァイオリンソナタ |
*{{IMSLP2|work=Violin Sonata No.1 (Ravel, Maurice)|cname=ヴァイオリンソナタ(遺作)イ短調}} |
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*{{IMSLP2|work=Violin Sonata No.2 (Ravel, Maurice)|cname=ヴァイオリンソナタ |
*{{IMSLP2|work=Violin Sonata No.2 (Ravel, Maurice)|cname=ヴァイオリンソナタ ト長調}} |
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[[Category:ラヴェルの楽曲|うあいおりんそなた]] |
[[Category:ラヴェルの楽曲|うあいおりんそなた]] |
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[[Category:ヴァイオリンソナタ|らうえる]] |
[[Category:ヴァイオリンソナタ|らうえる]] |
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[[Category:1897年の楽曲|うあいおりんそなた らうえる]] |
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[[Category:1927年の楽曲|うあいおりんそなた らうえる]] |
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[[category:ト長調]] |
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[[category:ト長調]] |
2020年2月23日 (日) 01:14時点における版
ヴァイオリンソナタは、フランスの作曲家モーリス・ラヴェル(1875年 - 1937年)がヴァイオリンとピアノのために作曲したソナタであり、創作初期に書かれた1897年の作品と晩年に近い1927年に書かれた作品の2曲が存在する。かつては後者(1927年)のみが知られていたが、これとは別の若書きによるヴァイオリンソナタの存在が1975年になって明らかになった。この、後から見つかった作品は出版される際に「遺作のヴァイオリンソナタ」として、それまで知られていた1927年のソナタと区別されている[注 1]。1927年のソナタはジャズの要素を取り入れた作品であり、ラヴェルのヴァイオリンソナタとしてはこちらの方が有名である[2]。
ラヴェルは生涯に8曲の室内楽作品を残しているが[注 2]、2曲のヴァイオリンソナタはその最初と最後に位置づけられる[3]。
ヴァイオリンソナタ(遺作)イ短調
『ヴァイオリンソナタ(遺作)(フランス語: Sonate Posthume, pour violon et piano)イ短調』は、ラヴェルが22歳、アンドレ・ジェダルジュの元で対位法とオーケストレーションを個人的に学んでいた時期の作品であり[注 3][5]、自筆譜には「1897年4月」の日付がある[注 4]。単一楽章で、古典的なソナタ形式により書かれている[8]。演奏時間は約16分[9]。
作曲の経緯は不明で初演の記録も残っていない。ただし、1929年にラヴェルがヴァイオリニストのポール・オベルデルフェール( Paul Oberdoerffer )の記念帳に記した「未完のヴァイオリンソナタ第1番(18・・)の初演の思い出に」という一文が残っていることから、このオベルデルフェールとラヴェルが初演を行ったものと考えられている[注 5][11][8]。また「未完の」という表現が用いられていることから、この曲がもともとは複数の楽章からなる作品として構想されていたことも窺える[5]。楽譜の出版はおろか再演された記録も残っておらず[6]、作品の存在は永らく知られていなかったが、ラヴェルの生誕100周年にあたる1975年にニューヨークにおいて蘇演され[注 6][9]、サラベール社から楽譜が出版された[9]。
作品にはガブリエル・フォーレの『ヴァイオリンソナタ第1番』(1876年)やセザール・フランクの『ヴァイオリンソナタ』(1886年)[12]、あるいは当時パリに住んでいたフレデリック・ディーリアスの作曲様式からの影響が窺えるが[13]、一方ではラヴェル特有の叙情性や和声の特徴も見られ[12]、冒頭の主題やその展開方法には後年の『ピアノ三重奏曲 イ短調』(1914年)との類似が指摘されている(譜例を参照)[14]。
ヴァイオリンソナタ(遺作)の冒頭
ピアノ三重奏曲の冒頭(旋律線のみを示し、和音は省略してある。)
ヴァイオリンソナタ ト長調
概要
『ヴァイオリンソナタ(フランス語: Sonate pour violon et piano)ト長調』は1927年に作曲された、ラヴェルにとって最後の室内楽作品である。3つの楽章で構成され、演奏時間は約18分[15]。
緩徐楽章の代わりに置かれた第2楽章「ブルース」には、第一次世界大戦後にパリの若手知識人を魅了していたジャズの影響が見られる[16][注 7]。ラヴェルが自作にジャズの要素を取り入れたのは歌劇『子供と魔法』におけるフォックストロット(ウェッジウッドのティーポットと中国茶碗の二重唱)に次いでこれが二度目となる[18][19]。ラヴェルは本作品を完成させた翌年(1928年)に行った初のアメリカ演奏旅行の際に本場のジャズに触れており[20][注 8]、1930年代に書かれた『左手のためのピアノ協奏曲』(1930年)や『ピアノ協奏曲 ト長調 』(1931年)ではジャズの語法がさらに上手く作品に統合されている[21]。『ヴァイオリンソナタ』はこれらの協奏曲の先駆けとも言える作品であり[22]、特に『ピアノ協奏曲 ト長調』とはジャズの影響だけでなく、ト長調という調性や終楽章の無窮動などの共通点がある[23]。
作曲にあたり、ラヴェルはヴァイオリンとピアノを「本質的に相容れない楽器」の組み合わせと見ており[24]、本作品では両者の独立性が強調されている[15]。声部の独立性や複調の多用、簡潔さといった特徴は、並行して作曲された歌曲集『マダガスカル島民の歌』(1926年完成)でも見られたものであり、本作品ではそれらの特徴がさらに明確になっている[24][15]。
作曲の経緯
ヴァイオリンソナタの作曲には1923年から1927年までの4年間が費やされた[25]。ラヴェルは少なくとも1920年頃にはヴァイオリン協奏曲を作曲する構想を持っていたが[26]、ハンガリー出身のヴァイオリニスト、ジェリー・ダラニーとの交流をきっかけとして[27]、協奏曲ではなくソナタの作曲を思い立った[26]。 作曲に着手した1923年の夏には最初のスケッチが完成し[28]、10月にはソナタの初演を含む演奏会の告知もなされたが[29]作品は完成せず、ダラニーにはソナタの代わりの作品として作曲した『ツィガーヌ』が献呈された[30](1924年4月、ダラニーによって初演[31])。なお、ラヴェルは『ツィガーヌ』を作曲する際、友人のヴァイオリニストであるエレーヌ・ジュルダン=モランジュの協力を得ながら、ニコロ・パガニーニの『24の奇想曲』を題材としてヴァイオリンの技巧について研究している[26]。
その後ソナタの作曲は『子供と魔法』、『マダガスカル島民の歌』と並行して断続的に進められ、1927年にようやく完成した[32]。作品はジュルダン=モランジュに献呈され[33]、楽譜はデュラン社から出版された[32]。マニュエル・ロザンタールによれば、作曲を進める過程でラヴェルは一旦書き終えた第3楽章を「第1楽章に似ている」という理由から破棄し、現行の「無窮動」に差し替えている[34]。
初演は1927年5月30日にパリのサル・エラールで開かれたデュラン社の演奏会で行われた[15]。ラヴェルはジュルダン=モランジュが演奏することを望んでいたが[35]当時の彼女はリューマチを患っていて演奏できなかったため[33]、初演のヴァイオリニストはジョルジュ・エネスコが務め[注 9]、ラヴェル自身がピアノを担当した[15]。初演に対する批評は好意的であり、特に第2楽章「ブルース」が注目された[32]。
構成
第1楽章
アレグレット、ト長調。「提示部-展開部-再現部」の構造を有するが伝統的なソナタ形式の枠組みには当てはまらず[36]、複数の音楽的な素材(主題あるいは動機)を対位法的に組み合わせることで構成されている[36]。
第1の素材は旋法的でアルカイックな優美さをもつ主題であり[33]、冒頭でピアノの単音により提示された後、音高を変えてヴァイオリンが応答する(譜例)。作品を献呈されたジュルダン=モランジュは、この主題を演奏する場合、ヴィヴラートのかけ過ぎや歌い過ぎは禁物であり、オーボエかクラリネットが吹いているかのごとく淡々と流れるように演奏するべきだと述べている[37][注 10]。なお、この主題は第3楽章の集結部分で再現される。
間もなくピアノの左手に第2の素材が出る(譜例)。第1の素材とは対照的な性格であり、ジュルダン=モランジュは「どんなにスタッカートしても足りないくらいである[37]」と述べている。また、彼女はこの素材を「狼の怒り」と表現しているが[37]、これは、ウラジミール・ジャンケレヴィッチがラヴェルの作風の特徴の一つとして挙げている「だしぬけの激しさ、狼のようにいきなり現れる怒り[38]」を踏まえたものである。この素材は第3楽章の序奏としても使われる。
上記の2つ以外に提示部に登場する主要な素材については諸説あり、文献によって異なっている。
ロジャー・ニコルスは、第2の素材に応答するようにピアノが奏でる動機(譜例)を第3の素材としている[39]。
アービー・オレンシュタイン及び平島正郎は、次の2つを第3、第4の素材として挙げている(譜例)[19][36]。
(長7度の跳躍を含む主題)
(減8度が平行する主題)
ジャンケレヴィッチは、ヴァイオリンが奏でる次の表情豊かな主題(譜例・上)が第3の素材[40]、これに続くピアノの主題(譜例・下)が第4の素材であるとしている[40]。これらはオレンシュタインと平島が挙げる2つの素材に続いて登場する。
これらの素材が組み合わされながら曲は進行するが、デュナーミクは pp や p に抑えられ、再現部の直前になってようやく f 、ff が登場する[19][41]。再現部では『ダフニスとクロエ』の「夜明け」の音楽を思わせる[39]新しい主題(譜例)がヴァイオリンに登場し[39]、ピアノによる主要主題に重ねられる[19]。
第2楽章「ブルース」
モデラート、変イ長調。冒頭のヴァイオリンのピチカートはバンジョーやギターを模しており[21]、拍節をずらすようにアクセントが不規則に付けられている[42]。7小節目からはピアノが入ってくるが、ヴァイオリンがト長調の主和音を弾いているのに対しピアノは変イ長調である(譜例)。
間もなくヴァイオリンが旋律を奏でる(譜例)。ブルーノートやシンコペーションが使われ、サクソフォーンのポルタメント奏法を模している[21]。ジュルダン=モランジュは、この楽章でのヴァイオリニストは「あらん限りの官能美を出しつくしてチガーヌ風に弾いてよい[43]」と述べている。
第3楽章「無窮動」
アレグロ、ト長調。『ツィガーヌ』の系譜に連なる華やかなフィナーレ楽章である[19][25]。第1楽章の第2の素材(「狼の怒り」)の変形による序奏の後[23]、ジャンケレヴィッチが「名誉回復されたパガニーニの名人芸(ヴィルテュオジテ)」と表現するように[44]、ヴァイオリンが息つぐ暇を与えず急速に動き回る[23]。ラヴェルはこの楽章について「できるだけ速く弾いてよろしい[43]」と語っている[注 11]。ピアノのパートは単なる伴奏にとどまらず、第1楽章、第2楽章の主題の変形を弾いており[21][23]、ジュルダン=モランジュはヴァイオリンだけが前面に出る演奏を戒めている[43]。
前の楽章からの引用については主題や動機が変形されているため、特に第2楽章からの引用はやや分かりにくい[21]。次ののモチーフ(譜例・上)は、第2楽章に由来しているが(譜例・下)リズムが変えられている。音程に着目すると「4度下降、3度上行、3度下降…」という同じ動き方をしている[21]。
(第3楽章)
(第2楽章)
次のモチーフ(譜例・上)も第2楽章に由来している(譜例・下)。ここではリズムもほぼ同じである[21]。
(第3楽章)
(第2楽章)
次のモチーフ(譜例・上)も第2楽章のモチーフ(譜例・下)に由来しており、音の動く音程がほぼ同じである。このモチーフは低音部でも演奏される[21]。
(第3楽章)
(第2楽章)
長7度の跳躍をもつ次のモチーフ(譜例・上)は、第1楽章のモチーフ(譜例・下)に由来している[21]。
(第3楽章)
(第1楽章(再掲))
終結部分では、第1楽章冒頭の主題が 完全五度の響きを伴い ff で再現された後(譜例)[21]、ト長調の主和音と嬰ヘ長調の主和音が同時にアルペジオで鳴らされ[21][注 12]、ト長調の主和音で曲を閉じる。
(第3楽章)
(第1楽章の冒頭)
脚注
- ^ 作曲された順に、『ヴァイオリンソナタ第1番』『ヴァイオリンソナタ第2番』として区別する場合もある[1]。
- ^ (1)『ヴァイオリンソナタ(遺作)』、(2)『弦楽四重奏曲』、(3)『序奏とアレグロ』、(4)『ピアノ三重奏曲』、(5)『ヴァイオリンとチェロのためのソナタ』、(6)『フォーレの名による子守歌』、(7)『ツィガーヌ』、(8)『ヴァイオリンソナタ』の8曲。
- ^ ラヴェルは1925年にパリ音楽院のピアノのクラスと和声のクラスを除籍になり、この時期はパリ音楽院からは一時的に離れていた[4]
- ^ ヴァイオリンソナタ(遺作)の自筆譜はアクレサンドル・タヴェルヌ夫人の個人コレクションにある[6]。これはラヴェルの叔父エドゥアール・ラヴェルが持っていた大量の自筆譜とスケッチのコレクションの一部であり、ラヴェル生誕100年の1975年には、紛失または破棄されたと思われていた9つの作品がこの中から発見されている[7]。
- ^ かつては、1927年のソナタと同様、ジョルジュ・エネスコが初演のヴァイオリニストであると考えられていた[10]。
- ^ 1975年2月23日、ニューヨークのオーディトリウム・チャールズ・コルデンにて、ジェラルド・タラックのヴァイオリン、アービー・オレンシュタインのピアノによる[9]。
- ^ パリでは第一次世界大戦前からジャズバンドが登場していた[16]。フランスにおいてジャズの要素をいち早く取り入れた例としてはクロード・ドビュッシーの「ゴリウォーグのケークウォーク」(『子供の領分』の第6曲、1908年)がある[17]。
- ^ ラヴェルは数夜にわたってジョージ・ガーシュウィンやアレクサンドル・タンスマンとともにハーレムでジャズを聴いたとされる[20]。
- ^ エネスコはラヴェルのパリ音楽院時代の友人でもある[5]。
- ^ ジュルダン=モランジュは、このソナタは「単純さ」ゆえに演奏が難しいと述べている[37]。
- ^ アメリカ演奏旅行中の1928年1月15日、ニューヨークのガロ劇場でヨーゼフ・シゲティのヴァイオリン、ラヴェルのピアノによってソナタが演奏された際、ラヴェルは第3楽章をリハーサルを上回る速いテンポで開始し、シゲティは非人間的なハイスピードでこの曲を弾くことになった[45]。
- ^ 『ピアノ協奏曲 ト長調』の冒頭でも、ト長調と嬰へ長調のアルペジオが同時に鳴らされる[39]。
出典
- ^ ロジャー・ニコルス『Ravel』、YALE UNIVERSITY BOOKS、2012年、ISBN 978-0-300-18776-2、426頁(索引)
- ^ 井上さつき『作曲家◎人と作品 ラヴェル』、音楽之友社、2019年11月5日、ISBN 978-4-276-22197-0、27頁
- ^ ニコルス(2012)、400頁(作品目録)
- ^ 井上、前掲書22-23頁
- ^ a b c 井上、前掲書29頁
- ^ a b 美山良夫(「ヴァイオリンソナタ(遺作)」項目執筆)『作曲家別名曲解説ライブラリー⑪-ラヴェル』音楽之友社、1993年9月10日、ISBN 4-276-01051-9、74頁
- ^ アービー・オレンシュタイン、井上さつき訳『ラヴェル-生涯と作品』音楽之友社、2006年12月31日、ISBN 4-276-13155-3、5頁(前書き)
- ^ a b 井上、前掲書233頁
- ^ a b c d 美山、前掲書73頁
- ^ オレンシュタイン、前掲書29頁
- ^ ニコルス(2012)、25頁
- ^ a b オレンシュタイン、前掲書188頁
- ^ ロジャー・ニコルス、渋谷和邦訳『ラヴェル-生涯と作品』泰流社、1987年9月10日、ISBN 4-88470-604-8、25頁
- ^ オレンシュタイン、前掲書187頁
- ^ a b c d e 平島正郎(「ヴァイオリンソナタ」項目執筆)『作曲家別名曲解説ライブラリー⑪-ラヴェル』音楽之友社、1993年9月10日、ISBN 4-276-01051-9、75頁
- ^ a b ハンス・ハインツ・シュトゥッケンシュミット、岩淵達治訳『モリス・ラヴェル-その生涯と作品』音楽之友社、1983年8月20日、ISBN 4-276-22631-7、267頁
- ^ ヴラディーミル・ジャンケレヴィッチ、福田達夫訳『ラヴェル』、白水社、1970年9月25日、ISBN 4-560-02652-1、124頁
- ^ オレンシュタイン、前掲書241頁
- ^ a b c d e オレンシュタイン、前掲書245頁
- ^ a b オレンシュタイン、前掲書126頁
- ^ a b c d e f g h i j k オレンシュタイン、前掲書246頁
- ^ 諸井誠『わたしのラヴェル』、音楽之友社、1984年5月10日、ISBN 4-276-37032-9、前掲書82頁
- ^ a b c d 平島、前掲書78頁
- ^ a b ジャンケレヴィッチ、前掲書253頁
- ^ a b 井上、前掲書240頁
- ^ a b c エレーヌ・ジュルダン=モランジュ、安川加寿子・嘉乃海隆子共訳『ラヴェルと私たち』、音楽之友社、1968年8月20日、217頁
- ^ 井上、前掲書164頁
- ^ オレンシュタイン、前掲書115頁
- ^ オレンシュタイン、前掲書121頁
- ^ 井上、前掲書153頁
- ^ 井上、前掲書154頁
- ^ a b c オレンシュタイン、前掲書120頁
- ^ a b c 平島、前掲書76頁
- ^ ニコルス(1987)、182頁
- ^ オレンシュタイン、前掲書122頁
- ^ a b c 平島、前掲書77頁
- ^ a b c d ジュルダン=モランジュ、前掲書229頁
- ^ ジャンケレヴィッチ、前掲書188頁
- ^ a b c d ニコルス(1987)、181頁
- ^ a b ジャンケレヴィッチ、前掲書83頁
- ^ 諸井、前掲書83頁
- ^ ジャンケレヴィッチ、前掲書130頁
- ^ a b c ジュルダン=モランジュ、前掲書232頁
- ^ ジャンケレヴィッチ、前掲書84頁
- ^ 井上、前掲書167-168頁
参考文献
- 井上さつき『作曲家◎人と作品 ラヴェル』、音楽之友社、2019年11月5日、ISBN 978-4-276-22197-0
- オレンシュタイン,アービー、井上さつき訳『ラヴェル-生涯と作品』音楽之友社、2006年12月31日、ISBN 4-276-13155-3
- ジャンケレヴィッチ,ヴラディーミル、福田達夫訳『ラヴェル』、白水社、1970年9月25日、ISBN 4-560-02652-1
- シュトゥッケンシュミット,ハンス・ハインツ、岩淵達治訳『モリス・ラヴェル-その生涯と作品』音楽之友社、1983年8月20日、ISBN 4-276-22631-7
- ジュルダン=モランジュ,エレーヌ、安川加寿子・嘉乃海隆子共訳『ラヴェルと私たち』、音楽之友社、1968年8月20日
- ニコルス,ロジャー、渋谷和邦訳『ラヴェル-生涯と作品』泰流社、1987年9月10日、ISBN 4-88470-604-8
- ニコルス,ロジャー『Ravel』、YALE UNIVERSITY BOOKS、2012年、ISBN 978-0-300-18776-2
- 平島正郎(「ヴァイオリンソナタ」項目執筆)『作曲家別名曲解説ライブラリー⑪-ラヴェル』音楽之友社、1993年9月10日、ISBN 4-276-01051-9
- 美山良夫(「ヴァイオリンソナタ(遺作)」項目執筆)『作曲家別名曲解説ライブラリー⑪-ラヴェル』音楽之友社、1993年9月10日、ISBN 4-276-01051-9
- 諸井誠『わたしのラヴェル』、音楽之友社、1984年5月10日、ISBN 4-276-37032-9