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:紀行の本流と言えるタイプ。主に著者自身の旅程中の出来事、現地の人々との交流といった「体験」を「時系列」に記述したもの。[[沢木耕太郎]]氏の「[[深夜特急]]」、[[森村桂]]氏の「[[天国にいちばん近い島]]」などが典型例。 |
:紀行の本流と言えるタイプ。主に著者自身の旅程中の出来事、現地の人々との交流といった「体験」を「時系列」に記述したもの。[[沢木耕太郎]]氏の「[[深夜特急]]」、[[森村桂]]氏の「[[天国にいちばん近い島]]」などが典型例。 |
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:旅行記型の一種。旅行記的要素に加え、ある特定の「テーマ」を切り口に訪れた国を概観する手法をとる紀行。'''歴史'''([[司馬遼太郎]]「[[街道をゆく]]」)、'''食文化'''([[辺見庸]]「もの食う人びと」、[[渡辺満里奈]]「満里奈の旅ぶくれ -たわわ台湾-」)、'''芸術'''([[和辻哲郎]]「イタリア古寺巡礼」)、'''建築'''([[陣内秀信]]「南イタリアへ!―地中海都市と文化の旅」)、'''宿'''([[池波正太郎]]「良い匂いのする一夜」、[[稲葉なおと]]「まだ見ぬホテルへ」)をテーマにする作品が多い。古くは[[内田百閒 |
:旅行記型の一種。旅行記的要素に加え、ある特定の「テーマ」を切り口に訪れた国を概観する手法をとる紀行。'''歴史'''([[司馬遼太郎]]「[[街道をゆく]]」)、'''食文化'''([[辺見庸]]「もの食う人びと」、[[渡辺満里奈]]「満里奈の旅ぶくれ -たわわ台湾-」)、'''芸術'''([[和辻哲郎]]「イタリア古寺巡礼」)、'''建築'''([[陣内秀信]]「南イタリアへ!―地中海都市と文化の旅」)、'''宿'''([[池波正太郎]]「良い匂いのする一夜」、[[稲葉なおと]]「まだ見ぬホテルへ」)をテーマにする作品が多い。古くは[[内田百閒]]をはじめ、[[宮脇俊三]]などの鉄道系紀行も多く存在するが、鉄道を交通手段の一つとしているものは''旅行記型''、鉄道に関する造詣の深い記述が多いものは''テーマ型''に含めても良い。 |
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:いわゆる、実用的な[[旅行ガイドブック|ガイドブック]]とは異なり、その国、都市に対し深い造詣を持つ著者が特定の都市、街を紹介するタイプ。その都市、国と強く関わりを持つか、或いはその都市に在住経験のある著者によるものが多い。旅程の記述が主目的では無いものの、著者自ら観察し、体験したことを記述されることが多く、''旅行記型''の範疇とすることもできる。書店では「ガイドブック」のコーナーに配置されることが多い。 |
:いわゆる、実用的な[[旅行ガイドブック|ガイドブック]]とは異なり、その国、都市に対し深い造詣を持つ著者が特定の都市、街を紹介するタイプ。その都市、国と強く関わりを持つか、或いはその都市に在住経験のある著者によるものが多い。旅程の記述が主目的では無いものの、著者自ら観察し、体験したことを記述されることが多く、''旅行記型''の範疇とすることもできる。書店では「ガイドブック」のコーナーに配置されることが多い。 |
2020年6月17日 (水) 08:03時点における版
紀行(きこう)は、旅行の行程をたどるように、体験した内容を記した文。紀行文・旅行記・道中記ともいう。
歴史
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『古事記』『日本書紀』に主人公が旅をしていくモチーフや、『万葉集』に地名と感情を読み込んだ歌群がある他、平安初期の旅行記として『入唐求法巡礼行記』や円珍『行歴抄』、成尋『参天台五台山記』がある。これらは紀行の前身と位置づけられる[1]。
一般的に、日本の紀行は平安時代の紀貫之『土佐日記』に始まる。同時代の紀行的な内容を含む作品として、熊野参詣を含む増基『いほぬし』のほか、『蜻蛉日記』『更級日記』にも紀行的な内容が含まれている。
鎌倉時代に入ると、社寺参詣の流行を背景にして、源通親『高倉院厳島御幸記』、藤原定家『後鳥羽院熊野御幸記』、鴨長明作と思われる『伊勢記』などの漢文体紀行が出現する[1]。また、京都と鎌倉を往復する文化人が増えたことで、『海道記』『東関紀行』といった和漢混淆体の紀行が出現する[1]。その後、南北朝時代・室町時代に入ると、社寺参詣や歌枕を訪ねる風流漂泊の旅のほか、戦乱や地方大名の勃興による文化人の移動が盛んになり、50編近くの紀行が誕生する[1]。
江戸時代に入ると、旅行が比較的容易になった影響で旅行者が増大し、おびただしい数の旅行が生まれた。江戸時代の紀行を専門とする板坂耀子によれば、江戸時代の紀行は2500点以上の作品が存在するが、そのほとんどがくずし字から活字になっていないとされる[2]。また板坂は、江戸時代の紀行文の特徴として、「旅行先の土地や旅の実態、見聞した事物とそれに関する知識、また旅によって変化する自己の内面を、できるだけ多く読者に伝えようとする姿勢」「感傷的にならず積極的に旅の困難に対処し、時には笑い飛ばす主人公の造形」「自己の内面も外部の風景も、常套句や共通の常識、既成の様式によりかからず、具体的で的確な語句を用いて確実に伝えようとする工夫」の3点を特徴として挙げている[2]。あわせて、江戸時代の紀行の代表作は、松尾芭蕉『おくのほそ道』ではなく、貝原益軒『木曽路記』と橘南𧮾『東西遊記』と小津久足『陸奥日記』と述べている[2]。
江戸時代以降、交通網の発達や中産階級の増大に伴い、膨大な数の紀行が生まれた。紀行の舞台となる場所も、日本だけでなく、世界各地に及んでいる。
日本の紀行文
古代
中世
近世
- 『東国紀行』(谷宗牧)
- 『善光寺紀行』(尭恵)
- 『北国紀行』(尭恵)
- 『丙辰紀行』(林羅山)
- 『更科紀行』(松尾芭蕉)
- 『野ざらし紀行』(松尾芭蕉)
- 『奥の細道』(松尾芭蕉)
- 『秋山紀行』(鈴木牧之)
近代
- 『はて知らずの記』(正岡子規)
- 『みちの記』(森鴎外)
- 『五足の靴』(与謝野鉄幹、北原白秋、木下杢太郎、吉井勇、平野万里)
- 『海南小記』(柳田國男)
- 『みなかみ紀行』(若山牧水)
- 『阿房列車』シリーズ(内田百閒)
- 『欧米の旅』(野上弥生子)
- 『日本脱出記』(大杉栄)
現代
- 『どくろ杯』『マレー蘭印紀行』ほか(金子光晴)
- 『なんでもみてやろう』(小田実)
- 『どくとるマンボウ航海記』(北杜夫)
- 『時刻表2万キロ』『最長片道切符の旅』ほか(宮脇俊三)
- 『南蛮阿房列車』(阿川弘之)
- 『街道をゆく』(司馬遼太郎)
- 『印度放浪』『全東洋街道』ほか(藤原新也)
- 『深夜特急』(沢木耕太郎)
- 『遠い太鼓』(村上春樹)
海外の紀行文の例
- 『仏国記』(法顕)
- 『大唐西域記』(玄奘)
- 『南海寄帰内法伝』(義浄)
- 『旅行記(リフラ)』(イブン・ジュバイル)
- 『旅行記(リフラ)』(イブン・バットゥータ)
- 『世界の記述(東方見聞録)』(マルコ・ポーロ)
- 『参天台五台山記』(成尋)
- 『入蜀記』(陸游)
- 『長春真人西遊記』(丘長春)
- 『さまよえる湖』ほか(スウェン・ヘディン)
- 『中央アジア踏査記』(オーレル・スタイン)
- 『日本奥地紀行』(イザベラ・バード)
- 『イタリア紀行』(ゲーテ)
- 『悲しき熱帯』(クロード・レヴィ=ストロース)
- 『モーターサイクル南米旅行日記』(チェ・ゲバラ)
- 『パタゴニア』(ブルース・チャトウィン)
- 『鉄道大バザール』(ポール・セロー)
紀行の種類
紀行は内容により、緩やかではあるが、以下のように類型化ができる(紀行と旅行記は同義とされているが、ここでは区別。後述の「補足」も参照のこと)
- 旅行記型
- 紀行の本流と言えるタイプ。主に著者自身の旅程中の出来事、現地の人々との交流といった「体験」を「時系列」に記述したもの。沢木耕太郎氏の「深夜特急」、森村桂氏の「天国にいちばん近い島」などが典型例。
- テーマ型
- 旅行記型の一種。旅行記的要素に加え、ある特定の「テーマ」を切り口に訪れた国を概観する手法をとる紀行。歴史(司馬遼太郎「街道をゆく」)、食文化(辺見庸「もの食う人びと」、渡辺満里奈「満里奈の旅ぶくれ -たわわ台湾-」)、芸術(和辻哲郎「イタリア古寺巡礼」)、建築(陣内秀信「南イタリアへ!―地中海都市と文化の旅」)、宿(池波正太郎「良い匂いのする一夜」、稲葉なおと「まだ見ぬホテルへ」)をテーマにする作品が多い。古くは内田百閒をはじめ、宮脇俊三などの鉄道系紀行も多く存在するが、鉄道を交通手段の一つとしているものは旅行記型、鉄道に関する造詣の深い記述が多いものはテーマ型に含めても良い。
- ガイド型
- いわゆる、実用的なガイドブックとは異なり、その国、都市に対し深い造詣を持つ著者が特定の都市、街を紹介するタイプ。その都市、国と強く関わりを持つか、或いはその都市に在住経験のある著者によるものが多い。旅程の記述が主目的では無いものの、著者自ら観察し、体験したことを記述されることが多く、旅行記型の範疇とすることもできる。書店では「ガイドブック」のコーナーに配置されることが多い。
- 文学型
- 紀行自体、文学の一つのカテゴリとして位置づけられるが、本来的にはノンフィクションの領域である。しかし紀行の中にも文学的要素が強い書籍もある。このような紀行を「紀行文学」と表現する出版社もある。事実を表現する、その表現手法が文学的色彩が濃いという点に特徴がある。最も線引きが難しいタイプであるが、エリアス・カネッティの「マラケシュの声 - あの旅のあとの断想」などが典型例。
- 学術型
- テーマ型の一種ではあるが、「観光的」要素が無いことでテーマ型と区別できる。主に「フィールドワーク」という学術的な「実地調査、研究」をテーマとしている。フィールドワークは様々な学問領域でとられるが、文化人類学、民俗学、言語学等をテーマとするものが多い。『悲しき熱帯』(クロード・レヴィ=ストロース)などが典型。
補足
いずれの紀行も特定の型におさめることは困難である。沢木耕太郎氏の「深夜特急」もエリアス・カネッティの「マラケシュの声 - あの旅のあとの断想」を意識をしたという発言もある(「coyote No.8/特集『深夜特急』ノート沢木耕太郎 旅がはじまる時」にて記載)。また紀行の多くは、上記の型を複合している。旅行記型+テーマ型、テーマ型+ガイド型というパターンが比較的多い。