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「甲状腺癌」の版間の差分

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; 放射性ヨウ素による被曝
; 放射性ヨウ素による被曝

2020年8月25日 (火) 00:06時点における版

甲状腺癌(こうじょうせんがん、thyroid cancer)は、甲状腺に生ずる癌腫。病理組織型から大きく4つに分けられる。

甲状腺癌のデータ
ICD-10 C73
統計 出典:
世界の患者数 '
日本の患者数 '
甲状腺癌学会
日本 日本内分泌学会
日本甲状腺学会
世界 国際内分泌学会
この記事はウィキプロジェクト雛形を用いています
顕微鏡写真( ​​ハイパワービュー)の甲状腺乳頭癌の診断特徴を示す( 細胞核のクリアリングおよび細胞核の重なり)。H&E染色済み。
甲状腺乳頭癌が発生したリンパ節の顕微鏡写真。

定義(概念)

甲状腺に生ずる悪性腫瘍のうち上皮由来のものをさす。甲状腺腫のうちの結節性甲状腺腫の1つである。

分類

乳頭癌

頻度は全甲状腺癌の70%から80%と、甲状腺癌のなかでは最多である。女性に多く、好発年齢は30-60歳代。画像診断としては超音波検査が多用される。エコーにおいては腫瘤像を認め、その内部エコーは不均一で低く、辺縁は不整である。また、しばしば内部に微細な石灰化による散在性の高エコー域を認める。肉眼的所見としては、硬い結節を持ち、表面に凹凸がある。病理診断においては微細な石灰化(砂粒小体)が指摘され、また、穿刺吸引細胞診では、集団を形成した腫瘍細胞が多数採取される。細胞集団は乳頭状またはシート状の配列を示し、細胞内にはすりガラス状の核がある。また、細胞質が核内に陥入して切れ込みを作り、封入体のように見えることもあり、これを核内細胞質封入体と呼ぶ。なお、血液検査においてはサイログロブリン値上昇が出現するが、これは特異的なものではないため、診断的価値は高くない。

腫瘍の成長は遅く、特に微小な腫瘍は倍加するのに数年を要する場合もある。主にリンパ行性の転移を示し、初診時に既にリンパ節転移を起こしているケースもあるが、発育が遅いため、予後はそれでも悪くない。浸潤傾向は強くないが、進行すると反回神経麻痺や、食道浸潤による嚥下困難を来たすこともある。

若年発症が多いにも関わらず、早期治療を行えば予後は極めて良好で、10年生存率は80%以上とされており、小さい腫瘍であった場合は95%以上の術後30年生存率を報告している施設もある。治療の第一選択は手術であるが、予後良好であることから、術後のクオリティ・オブ・ライフを勘案すると、どこまで摘出範囲を広げるべきかという点については議論がある。また、時に放射線外照射、放射性ヨード治療、TSH抑制療法なども行われる。なお、近年、1cm以下の小さな乳頭癌は症例を選べば手術をせずに定期的に経過をみるだけで十分であるという研究報告がなされている[1]。しかし、どんな症例にも適応できるわけではなく、それを行っている施設は限られているのが現状である。

濾胞癌

頻度は10〜15%。乳頭癌と同様に女性に多いが、好発年齢はやや高く、40〜60歳代である。血行性転移を示し、肺などへの遠隔転移が多い。このために予後は乳頭癌と比して不良であるが、進行は同様に緩徐であるので、10年生存率は50%を超えている。

超音波検査では、低エコー域の腫瘤状陰影を呈する。良性腫瘍である濾胞腺腫との鑑別は、かなり進展した場合を除いて困難である。境界の不整像を認めれば濾胞癌の公算は大きくなるが決定的ではなく、穿刺吸引細胞診での鑑別も困難である。従って、画像上、あるいは臨床的に濾胞癌を疑う場合は、そうと診断されなくとも手術を施行するのが一般的である。濾胞癌を疑って手術をする場合は、単発であれば一般的には甲状腺の片葉切除のみにとどめ、リンパ節郭清は行わないことが多い。これは乳頭癌と異なり、濾胞癌がリンパ節転移を起こす頻度は非常に低いためである。

未分化癌

甲状腺髄様癌 medullary carcinoma HE染色

頻度は2〜3%。乳頭癌と同様に女性に多いが、好発年齢はさらに高く、60歳代以上である。乳頭癌または濾胞癌が転化したものと考えられているが、すべての悪性腫瘍の中でもっとも予後不良とされており、診断後1年以内に80%が死亡する。27時間で腫瘍細胞が倍加する可能性があるという報告もある。急速に増大する頸部腫大を訴えることが多く、急激に周囲へ浸潤することから、頚部の圧迫感、疼痛、熱感を覚え、皮膚発赤、嗄声、呼吸困難、嚥下困難などを来たすこともある。発熱や体重減少などの全身症状もしばしば出現する。

超音波検査では、境界が著しく不整で不明瞭な腫瘤像が見られる。その内部は低エコーでかつ不均一であり、しばしば粗大な石灰化が認められる。穿刺吸引細胞診では、結合傾向の弱いばらばらの腫瘍細胞が採取でき、異形成が著しく、盛んに分裂している様子が観察される。また、全身の炎症症状を反映して、血沈の亢進、血清CRP値の上昇、白血球数の増加を認めるが、血清ホルモン値やサイログロブリン値は原則として正常である。

早期発見できたものは、抗がん剤、手術、放射線外照射を組み合わせた複合治療を行うが、腫瘍の増大が早いため早期発見できず緩和治療に移る場合が多い。放射性ヨード治療、TSH抑制療法は効果がない。未分化癌コンソーシアムができ、多くの施設の未分化癌が登録性になった。そこで前向き研究として切除不能な未分化癌に対してパクリタキセルを投与することが提案され可決された。

髄様癌

甲状腺髄様癌 medullary carcinoma of thyroid は免疫組織化学的に calcitonin に陽性を示す。

頻度は1〜2%。乳頭癌と同様に女性に多く、好発年齢は30-50歳代。80%は孤発性であるが、残りの20%は常染色体優性遺伝を示す。予後は家族性発症例のほうが良好で、10年生存率は、孤発例で40%、家族性発症例で80%とされている。

傍濾胞細胞(C細胞)に由来していることから、カルシトニンや、これとともにCEAなどを分泌する。多発性内分泌腺腫症として出現することが多く、孤発例の場合には結節性甲状腺腫で発症するケースが多いのに対して、家族性発症例の場合には、先行して発症している褐色細胞腫の精査中に発見されるケースが多くなっている。いずれも発育は緩徐で、周辺組織への浸潤もあまり強くない。

超音波検査では、比較的辺縁がスムーズな低エコー域となり、その内部にはしばしば粗い石灰沈着が認められるが、画像診断は困難な場合がある。穿刺吸引細胞診では、ゆるく結合した細胞集団が採取され、間質にはアミロイドが認められる。早期発見すれば、治療の第一選択は手術。放射性ヨード治療、TSH抑制療法は効果がない。

悪性リンパ腫

橋本病を母地として発症する。橋本病患者で甲状腺腫が急速に増大した時は積極的に疑う。治療は悪性リンパ腫の組織型によって異なるが、放射線外照射、化学療法、もしくはその組み合わせを行う。放射性ヨード治療、TSH抑制療法は効果がない。早期発見すれば予後はおおむね良好。

疫学

甲状腺腫のうち、甲状腺癌の割合は約1/5である。40歳以上に多発し、男女比は1:4と女性に多い疾患である。未分化癌と髄様癌では男女比は1:1と差異が見られない。

原因

解明は不十分であるが、いくつかの原因が判明し、また、示唆する研究報告がある。

転移がん
他の部位で発生したガンが転移する。
遺伝性
遺伝子の変異が原因となることがある。それらは家族性に発症する(常染色体優性遺伝)[2][3][4]
化学物質
米国国家毒性プログラム(NTP)による発癌性試験において、1日125mg/kg(体表面積換算でヒト最大推奨用量の約25倍)用量のドロナビノールをマウスへ2年間投与したところ、甲状腺濾胞細胞腺腫が発現した[注 1][5]
1日200mg/kg(体表面積換算でヒト最大推奨用量の約10倍)用量のミノサイクリンをラットへ最長104週間(2年間)経口投与した発癌性試験において、甲状腺濾胞細胞に腺腫と癌腫の発現が有意に増加した[注 2][6]。またミノサイクリン投与は、比較的高濃度のヨウ素飼料を与えたラットで、放射性ヨウ素の吸収が高まり、甲状腺腫が発現した[7]
ミノサイクリンまたはドキシサイクリンによる若年期の痤瘡(ニキビ)治療後に、持続的な重度の甲状腺機能障害が報告されているが、頻度は不明である。大多数の症例が、臨床において検出と診断を免れるている可能性が高いため、有病率や臨床的意義および重症度を判定するための前向き研究が必要とされている[注 3][8]
放射性ヨウ素による被曝

広島長崎の原爆被爆地[9]チェルノブイリ原子力発電所の事故で周辺の住人に甲状腺癌の患者が多発したことから、放射性ヨウ素(主に、ヨウ素131 , 131I)に誘発されることが判明している。特に低年齢の5歳から10歳未満では顕著で、この時期の被曝を回避すべきであるとされている[10]。また2011年に起きた福島第一原子力発電所事故後に福島県の子供(当時18歳以下、受診者数29万5,511人)を検査したところ、穿刺吸引細胞診を行った437人中90人が、悪性ないし悪性疑いの判定となり、手術を行った51人中50人の甲状腺にが見つかっている(術後の病理検査で低分化癌疑い1人・乳頭癌49人。1人は良性結節)が、検査を行った福島県立医科大学では「原発事故による放射線の影響によるものとは考えにくいが、断言はできないため今後も検査を継続する」としている[11]

発癌メカニズムとしては、がん幹細胞仮説を発展させた、芽細胞発癌説(fetal cell carcinogenesis)[12]が提唱されている。ただこれは従来の乳頭癌や濾胞癌のようないわゆる分化癌が、未分化癌に変異するという従来の学説を真っ向から否定するものであり、必ずしも広く受け入れられているとは言えない。

症状

のどにしこりを触知する。それ以外には典型的な症状はないが、嗄声やのどの痛み、嚥下障害が見られることがある。しかし最近は本人も無自覚無症状の状態で、健康診断で超音波検査を受けて偶然発見されることが多い。

検査

  • 触診
甲状腺腫の診断として行われる。
甲状腺腫の位置、内部構造や被膜、石灰化像、リンパ節転移の有無など非常に多くの情報が得られ、甲状腺癌の検査としてきわめて重要なものである。痛みを伴わず、簡便で無侵襲であり、安全な検査である。
放射性ヨードやテクネチウムという放射性物質を注射し、腫瘍に集まった様子を専用のカメラで写す。腫瘍の位置や転移の有無などの情報を得ることができる。しかし必ずしも感度はよいとは言えない。
  • 穿刺吸引細胞診
甲状腺腫が良性か悪性かを鑑別するのに重要。注射針で甲状腺を刺し、陰圧をかけて細胞を採取し、顕微鏡で判定する方法が一般的。乳頭癌についてはかなりの確率で診断を確定できる。濾胞癌については良性の濾胞腺腫と細胞の形は同じであるため。診断は困難である。また、髄様癌は典型的なアミロイドがあれば診断は可能であるが、熟練したcytologistや病理学者が検鏡しない場合、しばしば診断を誤ることがある。
具体的には血清サイログロブリン値を指す。診断よりもむしろ手術(全摘)後の再発マーカーとして重要。これがコンスタントに上昇してきた場合は、再発を疑わなくてはならない。

診断

触診、超音波、穿刺吸引細胞診を組み合わせて診断する。濾胞癌の場合、良性腺腫との鑑別は困難であり肉眼的に明らかな被膜浸潤や遠隔転移で発見されない限り細胞診、組織診では確定診断はほぼ不可能である。

治療

基本的に摘出術を行うが、1cm以下で症状のない微小乳頭癌では経過観察することもある。再発予防のためリンパ節廓清や放射性ヨード投与を行う。甲状腺を全摘した場合は一生甲状腺ホルモンを投与し続ける必要がある。甲状腺ホルモンを過量に投与して甲状腺刺激ホルモンを抑制し、再発を防止するTSH抑制療法を採用する場合もある。

  • 経過観察
乳頭癌は基本的に成長が遅く、長年にわたってほとんど進行しない例もある。そのため、1cm以下の微小な乳頭癌の場合に限り、直ちに手術を行わず、経過観察をする場合がある。腫瘍が増大したり、新たにリンパ節転移が生じてきた場合には、もちろん手術を施行する。もちろんこういった加療に関しては、患者に対する周到なインフォームド・コンセントが必要である。
  • 手術
乳頭癌に関して、全例甲状腺を全摘するべきだする意見と、小さい癌では部分切除で充分だとする意見が対立している。日本・ヨーロッパでは部分切除派(片葉切除、すなわち甲状腺の癌が存在する側のみを切除すること)が多く、アメリカでは全摘派が多い。近年部分切除派がアメリカでも影響を広めている。患者の追跡データによって小さい乳頭癌では部分切除も全摘も生存率に差がないことが指摘されたためである。また、リンパ節転移が多いため手術時に附属リンパ節を予防的に切除するべきだとする意見とその必要はないとする意見の対立がある。日本・ヨーロッパではリンパ節切除を推奨する専門家が多く、アメリカでは甲状腺全摘と強力な放射性ヨード治療を組み合わせればリンパ節の予防的切除は不要であるとする意見が根強い。
  • 放射性ヨード治療
ヨードは海藻類などに多く含まれるミネラル栄養素であり、血液中に入ったヨードのほとんどは甲状腺組織によって吸収される。放射線を出すヨードを作ってこれを内服すれば、放射性ヨードは甲状腺組織に集まり、甲状腺組織へ選択的に放射線を吸収させることができる。甲状腺由来の癌細胞にヨードを吸収する性質が残っていれば、この方法でリンパ節・肺などに転移した癌細胞に放射線を加えることができる。一般に正常な甲状腺組織の方が甲状腺由来の癌組織よりヨードの摂取が強いので、この治療を行うためには健康な甲状腺を全摘しておく必要がある。日本では主として転移が証明されている場合か強く疑われる場合に使用することが多いが、アメリカでは転移が証明されていない場合にも予防的に行われることが多い。この方針は近年見直されつつある。
  • TSH抑制療法
甲状腺ホルモンが不足すると下垂体から甲状腺刺激ホルモン(TSH)が分泌され、甲状腺にもっと働くように信号を送る。逆に甲状腺ホルモンが過剰な時はTSHは分泌されず、甲状腺は刺激を受けない。TSHが大量に分泌されると乳頭癌や濾胞癌は腫瘍の成長が早まることが知られている。このため、甲状腺ホルモンを過量に投与し、TSHを抑制することによって甲状腺癌の成長を抑制する治療方法がある。既に切除できない転移が証明されている場合、転移の成長を抑制するのに有効である。アメリカでは、転移が証明されていなくても、すべての甲状腺癌患者に予防的にTSH抑制療法を採用するべきだという意見が根強い。ただし、すべての甲状腺癌に等しく有効であるわけではなく、骨粗鬆症のリスクもあるため、早期手術できた例や予防的リンパ節切除を行った例では、転移が証明されるまでは、必ずしも必要ではないと考える専門家もいる。
  • 化学療法
抗がん剤を使用する化学療法は、一般に健康な組織に近い腫瘍には効果が低く、健康な組織に遠い腫瘍には効果が高い。悪性度の低い乳頭癌や濾胞癌は、比較的健康な組織に近く、抗がん剤の効果は低い。未分化癌は逆に悪性度が強すぎて抗がん剤の効果が低い。甲状腺由来の悪性リンパ腫にはR-CHOPなどの免疫化学療法が奏功する場合がある。
近年、分子標的薬が使用できるようになり、甲状腺癌の治療選択肢が広がっている。分子標的薬であるソラフェニブは甲状腺癌に適応があるが、未分化癌に対する有用性は確立しておらず、分化型および髄様癌へ投与される[13]レンバチニブはSELECT試験の結果から、分化型、髄様癌、未分化癌に対する適応を取得している[14]。またバンデタニブは髄様癌に対する有効性が証明されており、適応を有している[15]
  • 放射線外照射
体外から局所的に放射線を照射する治療方法である。手術の補助療法、転移の増殖抑制などにしばしば利用される。
  • その他の治療
外科的切除の難しい転移巣の腫瘍縮小を目的に、局所的にエタノールを注入する経皮エタノール注入療法(PEIT)が用いられることがある[16][17]。その他多くの実験的治療が現在開発中である。
  • 集学的治療
抗がん剤・手術・放射線などを組み合わせた複合型の治療を集学的治療という。甲状腺未分化癌などの非常に悪性度の高い癌に利用される。一部の専門施設では、さらに分子標的治療薬やHDAC阻害剤を加えて未分化癌に対して一定の成果を上げている[18]。また、少量の抗がん剤を毎週投与するウィークリー療法や、腫瘍を栄養する血管にチューブを埋め込み、高濃度の抗がん剤を局所投与する方法で未分化癌に良好な延命効果を報告している専門家もいる。

予後

甲状腺癌は予後の良好な悪性腫瘍として知られており、腫瘍の発育速度も遅い。10年生存率は一般的に乳頭癌が85%、濾胞癌が65 - 80%、髄様癌が65 - 75%である。しかし未分化癌は極めて予後が悪く、ヒトに発生する癌の中でも悪性度の高い癌の1つである。発育速度が非常に速く、手術や放射線、化学療法を行ってもほとんどが1年以内に死亡する。一方、予後のもっとも良い甲状腺乳頭癌は手術から再発までの期間がながいため、術後長期にわたって経過観察を要する。

 
甲状腺癌のタイプ
5年生存率 10年生存率
ステージ I ステージ II ステージ III ステージ IV 全体 全体
乳頭 100%[19] 100%[19] 93%[19] 51%[19] 96%[20] or 97%[21] 93%[20]
濾胞 100%[19] 100%[19] 71%[19] 50%[19] 91%[20] 85%[20]
延髄 100%[19] 98%[19] 81%[19] 28%[19] 80%[20], 83%[22] or 86%[23] 75%[20]
未分化 (常にステージIV)[19] 7%[19] 7%[19] or 14%[20] データなし

韓国での5年相対生存率と過剰医療

2011年から2015年の5年生存率は保健福祉部(省)などの統計によると同じ年齢と性別の一般人口を100とした場合甲状腺ガン罹患者は100.3である。100を下回る他のガン種類の罹患者と違って、韓国の一般人口より5年以上長生きしていることが分かっている。100を超えている理由は、ガン発見により健康に気に配った結果としている。過剰医療専門家である『過剰診断』の著者ギルバート・ウェルチ教授は2010年に米国がん協会誌に「がん過剰診断」が掲載した後に、2013年にアメリカ合衆国過剰診断予防学会が結成された。韓国の甲状腺がん患者が世界一であることにウェルチ教授は2014年に「韓国で流行病のように増えている甲状腺がんは環境毒素や病原菌ではなく過剰診断によるもの」「確実に危険な病気を看過するのと、大したことでないものを大騒ぎして見つけるのは違う」とする研究結果を報告した。中韓国では2009年度からガン患者数内訳1位が甲状腺がんだったが、患者数が世界平均の10倍なのは過剰検診が原因だと2014年に医師らが指摘した後に3位になって、2015年は胃がんが2008年以前の再び1位になっている[24][25][26]

診療科

  • 内分泌内科
  • 乳腺・甲状腺外科
  • 耳鼻咽喉科・頭頸部外科

参考文献

注釈

  1. ^ しかし、1日250mg/kgと500mg/kg用量では発現しなかった。同様に、ラットでは1日50mg/kg用量(体表面積換算でヒト最大推奨用量の約20倍)までは発癌性の証拠がなかった。
  2. ^ しかし、1日150mg/kg(体表面積換算でヒト最大推奨用量の約4倍)用量のミノサイクリンをマウスへ最長104週間(2年間)経口投与した発癌性試験では、腫瘍発現の有意な増加は認められなかった。
  3. ^ これらテトラサイクリン系抗生物質による長期治療を受けている若者の甲状腺機能の日常的なスクリーニングが正当かどうかを判断するためにさらなる調査が必要とされている。

出典

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  25. ^ 韓国国民が最も多くかかるがんは?…胃がんが再び第1位に2017年12月22日
  26. ^ 【噴水台】韓国の過剰医療、その代案は…2018年03月16日

関連項目

外部リンク