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[[ニューヨーク大学]]・医学倫理部・部長のアーサー・キャップラン(Arthur Caplan)教授は、[[捏造 (科学)|捏造]]、[[改竄 (科学)|改竄]]、[[盗用]]と同じように、捕食出版は、医療専門家に対する公衆の信頼を損ない、まともな科学を破壊し、証拠に基づく政策に対する公的支援を弱めると警告している<ref name="Caplan2015">{{cite journal |last1=Caplan |first1=Arthur L. |title=The Problem of Publication-Pollution Denialism |journal=Mayo Clinic Proceedings |volume=90 |issue=5 |year=2015 |pages=565-566 |issn=0025-6196 |doi=10.1016/j.mayocp.2015.02.017|pmid=25847132 }}</ref>。 |
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当初は、研究者たちは出版社に騙されて餌食になっていると推測されていた。そのため、このビジネスモデルは、出版社が研究者を捕食(predatory)して出版(publishing)する行為であるとして、捕食出版(predatory publishing)と命名された。しかし、一部の研究者はそのような実態を承知の上で捕食学術誌に投稿しているという。[[ニューヨーク・タイムズ]]の2017年の記事によれば、自分の論文を捕食学術誌に掲載したいと望む研究者は多数いて、出版社と研究者の関係は[[捕食-被食関係]]というよりも、「醜悪な[[共生]]関係」("ugly symbiosis")だと指摘している<ref name="NYT-20171030">{{Cite news |url=https://www.nytimes.com/2017/10/30/science/predatory-journals-academics.html |title=Many Academics Are Eager to Publish in Worthless Journals |last=Kolata |first=Gina |date=30 October 2017 |work=The New York Times |access-date=8 November 2017 |issn=0362-4331 |archive-url=https://web.archive.org/web/20171108014011/https://www.nytimes.com/2017/10/30/science/predatory-journals-academics.html |archive-date=8 November 2017 |dead-url=no |df=}}</ref>。 |
当初は、研究者たちは出版社に騙されて餌食になっていると推測されていた。そのため、このビジネスモデルは、出版社が研究者を捕食(predatory)して出版(publishing)する行為であるとして、捕食出版(predatory publishing)と命名された。しかし、一部の研究者はそのような実態を承知の上で捕食学術誌に投稿しているという。[[ニューヨーク・タイムズ]]の2017年の記事によれば、自分の論文を捕食学術誌に掲載したいと望む研究者は多数いて、出版社と研究者の関係は[[捕食-被食関係]]というよりも、「醜悪な[[共生]]関係」("ugly symbiosis")だと指摘している<ref name="NYT-20171030">{{Cite news |url=https://www.nytimes.com/2017/10/30/science/predatory-journals-academics.html |title=Many Academics Are Eager to Publish in Worthless Journals |last=Kolata |first=Gina |date=30 October 2017 |work=The New York Times |access-date=8 November 2017 |issn=0362-4331 |archive-url=https://web.archive.org/web/20171108014011/https://www.nytimes.com/2017/10/30/science/predatory-journals-academics.html |archive-date=8 November 2017 |dead-url=no |df=}}</ref>。 |
2021年4月23日 (金) 00:33時点における版
捕食出版(ほしょくしゅっぱん、英: Predatory publishing)は、研究者の投稿した論文原稿をまともな査読過程や編集過程を経ることなく、そのままオープンアクセスの学術誌で出版する行為である。捕食出版を行う出版社のことを捕食出版社(Predatory publisher)またはハゲタカ出版社[1]と呼び、その学術誌を捕食学術誌(Predatory journal)またはハゲタカジャーナル[2][3]などと呼ぶ。
このビジネスモデルは、研究者が論文掲載料を払い、その対価として出版社が電子的な学術誌に論文を掲載するというものである。論文掲載料を払うと、投稿後2-3か月以内に論文が掲載される。
研究者は自分の論文が簡単に掲載されるので論文発表件数を稼ぐことができ、メリットがある。論文掲載料を研究者に配分された研究費から支払えば私費から出さずに済む。捕食出版社は電子的に投稿された論文原稿の体裁をパーソナルコンピュータで整えてウェブサイト上で公開するだけで、手間と経費をあまりかけずに、たとえば1報あたり20万円の論文掲載費で毎月論文を20報出版したとすれば、毎月400万円の売り上げが得られることになる。
批判
まともな査読や編集を経ていないので捕食学術誌に掲載された論文の質や正当性は保証されない。それだけでなく、捏造、改竄、盗用の潜在的な温床でもある。
ニューヨーク大学・医学倫理部・部長のアーサー・キャップラン(Arthur Caplan)教授は、捏造、改竄、盗用と同じように、捕食出版は、医療専門家に対する公衆の信頼を損ない、まともな科学を破壊し、証拠に基づく政策に対する公的支援を弱めると警告している[4]。
当初は、研究者たちは出版社に騙されて餌食になっていると推測されていた。そのため、このビジネスモデルは、出版社が研究者を捕食(predatory)して出版(publishing)する行為であるとして、捕食出版(predatory publishing)と命名された。しかし、一部の研究者はそのような実態を承知の上で捕食学術誌に投稿しているという。ニューヨーク・タイムズの2017年の記事によれば、自分の論文を捕食学術誌に掲載したいと望む研究者は多数いて、出版社と研究者の関係は捕食-被食関係というよりも、「醜悪な共生関係」("ugly symbiosis")だと指摘している[5]。
勢力
捕食学術誌は急速に増加している。2010年には捕食学会誌の出版した論文は5万3000報だったが、2014年には約8000の捕食学術誌から推定42万報の論文が出版された[6][7]。
出版社と論文著者の地域分布は非常に偏っている。論文著者はアジア・アフリカが4分の3を占める[6]。
2018年1月に発表された調査によれば、開発途上国の研究者は、評判の良い西洋の学術誌が彼らに対して偏見をもっているので、途上国の学術誌に発表する方が快適だと感じている。また、一般的に、開発途上国の研究者は、学術誌の評判についてあまり知らないので、捕食学術誌と知らずに投稿してしまう。研究者は適切な指針を持っておらず、より評判の良いジャーナルに投稿する知識が不足している[8]。
歴史
2008年3月、オープンアクセス学術誌に初期から貢献していたグンター・アイゼンバッハ(Gunther Eysenbach)は、過剰に魅力的な電子メールで研究者からの論文投稿を呼び込む出版社を「オープンアクセス出版の黒い羊」と呼び、注意を喚起した。特にベンタム科学出版社 (Bentham Science Publishers)、ドーヴ医学出版社 (Dove Medical Press)、Libertas Academica(Libertas Academica)を「オープンアクセス出版の黒い羊」と批判した[9]。
2008年10月、ウェルカム・トラスト主催によるロンドンでのオープンアクセスデーのセレブレーションで、「黒い羊[要リンク修正]」に対処するため、オープンアクセス学術出版社協会が設立された[10][11][12]。
しかし、2009年にも論文出版の誠実さに疑念が抱かれた[13][14]。
例えば、2009年、中国の科学研究出版社 (SCIRP:Scientific Research Publishing) が出版している学術誌の論文がすでに他の学術誌で発表された論文と重複しているとImprobable Researchのブログが指摘した[15]。
SCIgen実験
SCIgenは文脈自由文法を使用してコンピュータサイエンスの学術論文をランダムに生成するコンピュータプログラムである。
2010年、コーネル大学のPhil Davis(Scholarly Kitchenブログの編集者)は、SCIgenを使って、全くデタラメな論文原稿を作り、学術誌に投稿した。すると、その論文原稿は、学術誌に受理された。つまり、デタラメな内容でも論文として出版してくれる学術誌があったことを証明した。なお、受理後、Phil Davisは原稿を取り下げ、論文は出版されていない[16]。
ボハノンの実験
2013年、科学ライターのジョン・ボハノン(John Bohannon)は、内容は全くデタラメな論文原稿を作り、世界中の305のオープンアクセス学術誌に投稿した。すると、Journal of Natural Pharmaceuticalsを含め、学術誌の約60%が「出版します(出版受理)」と返事してきた。一方、PLOS ONEを含め、約40%は不採択と返事してきた。
判定基準
捕食出版と判定する基準は以下のようである。
- 査読を含めた論文の質的管理がほとんど、あるいはまったく無く、投稿原稿をすぐ受理する。明らかにデタラメな原稿も受理する[17][16][18][19]。
- 論文が受理された後にのみ論文掲載費用を通知する[17]。
- 研究者に論文を投稿するよう積極的にキャンペーンする。また、編集委員になることも積極的にキャンペーンする[20]。
- 本人の許可なく研究者を編集委員にし[21][22]、編集委員の辞任を認めない[21][23]。
- 偽の研究者を編集委員にする[23]。
- より確立された学術誌の名前またはウェブサイトのスタイルを模倣する[24]。
- 誤った連絡先を示し、出版・編集に関する苦情をミスリードする[21]
- デタラメなISSN番号を使う[21]。
- デタラメなインパクトファクターの値を使う[25][26]。
対策
ビールのリスト
コロラド大学デンバー校のジェフリー・ビールは、捕食学術誌と判定する基準を定め、捕食学術誌のリストをビールのリストとして公開し、定期的に更新していた。しかし、捕食出版社と指摘された出版社からの激しい攻撃、そして、コロラド大学デンバー大学からの激しいプレッシャーに直面した[27]。2017年1月、失職することを恐れ、リストを削除した。
キャベルのブラックリスト
Cabell's International 社による有償のリスト。
他の対策
公開査読 (open peer review)や出版後査読など、より透明性の高い査読が、捕食学術誌と戦うために提唱されている[28]。一方、査読の欠点と関連づけるのではなく、捕食学術誌は、詐欺、欺瞞、無責任と関連づけるべきだと主張する考えもある[29]。
まともな学術誌を捕食学術誌から分けるのに、透明性と善行が有効だと、学術出版規範委員会、DOAJ、オープンアクセス学術出版社協会、世界医学編集者協会(World Association of Medical Editors)は主張している[30]。いくつかの学術誌は査読サイトを設置した。査読プロセスの質に重点を置いていて、オープンアクセスでない学術誌まで広がっているものもある[31][32]。
図書館と出版社は、意識向上キャンペーンを開始した[33][34]。
さらに捕食学術誌と戦うために、いくつかの対策が提案されている。他の研究機関は、発展途上国の若手研究者の著しい出版リテラシーを改善するよう、研究機関に要請している[35]。いくつかの組織では、捕食学術誌略の目印となる基準を見つけようとしている[36]。
日本での対策
柴山昌彦文部科学大臣は、2018年12月の会見でハゲタカジャーナルの問題に対して「深刻な問題になっている」との認識を示した。また、「論文投稿先について慎重に検討するように注意喚起してほしい」と大学などに対して要望を述べた[37]。その後、京都大学や早稲田大学などが注意喚起の文書を発表した[38][39]。
関連項目
脚注・文献
- ^ 栗山正光「ハゲタカオープンアクセス出版社への警戒」『情報管理』第58巻5号、科学技術振興機構、2015年5月1日、92-99頁、doi:10.1241/johokanri.58.92、2018年12月3日閲覧。
- ^ 『ハゲタカジャーナル』 - コトバンク
- ^ 「シリーズ◎医師を狙う悪い奴ら《3》被害者の告白2 ハゲタカジャーナルに奪われた私の1500ドル」 日経メディカル 2018/10/16
- ^ Caplan, Arthur L. (2015). “The Problem of Publication-Pollution Denialism”. Mayo Clinic Proceedings 90 (5): 565-566. doi:10.1016/j.mayocp.2015.02.017. ISSN 0025-6196. PMID 25847132.
- ^ Kolata, Gina (30 October 2017). “Many Academics Are Eager to Publish in Worthless Journals”. The New York Times. ISSN 0362-4331. オリジナルの8 November 2017時点におけるアーカイブ。 8 November 2017閲覧。
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|archiveurl=
を指定した場合、|archivedate=
の指定が必要です。 1 October 2015閲覧。. - ^ Carl Straumsheim (October 2015). “Study finds huge increase in articles published by 'predatory' journals”. 4 February 2016時点のオリジナルよりアーカイブ。15 February 2016閲覧。
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- ^ “京都大学図書館機構 - 【図書館機構】粗悪学術誌「ハゲタカジャーナル」に関する注意喚起について”. www.kulib.kyoto-u.ac.jp. 2019年6月1日閲覧。
- ^ “粗悪学術誌・出版社(Predatory Journals/Publishers)への論文投稿に関する注意喚起について”. 早稲田大学 研究倫理オフィス. 2019年6月1日閲覧。
外部リンク
- “Beall's List of Predatory Journals”. 2 December 2016時点のオリジナルよりアーカイブ。28 January 2017閲覧。
- “Beall's List of Predatory Publishers”. 22 December 2016時点のオリジナルよりアーカイブ。24 January 2017閲覧。
- Updated Beall's List of Predatory Journals 欧州のポスドクが匿名で維持しているビール・リスト
- Updated Beall's List of Predatory Publishers 欧州のポスドクが匿名で維持しているビール・リスト
- List at predatory journals
- List of predatory publishers
- ジェフリー・ビール:「ハゲタカ出版社から学んだこと」(日本語訳、京都大学図書館) 原文はJeffery Beall: "What I learned from predatory publishers"
- 午後の講座 オープンアクセスとハゲタカジャーナル(2018年10月北海道大学北キャンパス図書室)