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「ファシリテイテッド・コミュニケーション」の版間の差分

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FCにおいて、発話によるコミュニケーションが困難となる障害を持つ人の腕を支える者はファシリテーター(介助者)あるいはコミュニケーションパートナーと呼ばれる<ref name=":1">{{Cite book |title=Facilitated communication training |url=https://www.worldcat.org/oclc/29388345 |publisher=Teachers College Press |date=1994 |location=New York |isbn=0-8077-3327-X |oclc=29388345 |first=Rosemary |last=Crossley}}</ref>。ファシリテーターは障害者がキーボードやデバイス上のアルファベットを指し示す間、障害者の肘、手首、手、袖などの体の部位を支えたり触れたりする<ref name=":1" /><ref name=":4">{{Cite journal|last=Biklen|first=Douglas|date=1990-09-01|title=Communication Unbound: Autism and Praxis|url=https://doi.org/10.17763/haer.60.3.013h5022862vu732|journal=Harvard Educational Review|volume=60|issue=3|pages=291–315|doi=10.17763/haer.60.3.013h5022862vu732|issn=0017-8055}}</ref>。
FCにおいて、発話によるコミュニケーションが困難となる障害を持つ人の腕を支える者はファシリテーター(介助者)あるいはコミュニケーションパートナーと呼ばれる<ref name=":1">{{Cite book |title=Facilitated communication training |url=https://www.worldcat.org/oclc/29388345 |publisher=Teachers College Press |date=1994 |location=New York |isbn=0-8077-3327-X |oclc=29388345 |first=Rosemary |last=Crossley}}</ref>。ファシリテーターは障害者がキーボードやデバイス上のアルファベットを指し示す間、障害者の肘、手首、手、袖などの体の部位を支えたり触れたりする<ref name=":1" /><ref name=":4">{{Cite journal|last=Biklen|first=Douglas|date=1990-09-01|title=Communication Unbound: Autism and Praxis|url=https://doi.org/10.17763/haer.60.3.013h5022862vu732|journal=Harvard Educational Review|volume=60|issue=3|pages=291–315|doi=10.17763/haer.60.3.013h5022862vu732|issn=0017-8055}}</ref>。
[[ファイル:Canon communicator.jpg|代替文=キャノン・コミュニケーター|サムネイル|キャノン・コミュニケーター]]
初期のFCユーザーに人気のあったデバイスのひとつは、キヤノン・コミュニケーターであり、起動させタイプするとテープに印字していくミニタイプライターだった<ref name=":2" /><ref name=":10">{{Cite journal|author=Dillon, Kathleen M.|year=1993|title=Facilitated Communication, Autism and Ouija|journal=Skeptical Inquirer|volume=17|issue=3|page=281–287}}</ref>。しかし、FCに使用するミニタイプライターを販売するアメリカの企業(Crestwood Co.とAbovo Co.)は、ミニタイプライターをFCに使用することで障害者がコミュニケーションを取れるようになるという「虚偽で裏付けのない主張」をしているとして、後に連邦取引委員会から告発された。企業は和解し、広告キャンペーンでFCに言及するのをやめた<ref name=":14">{{Cite web |url=https://www.washingtonpost.com/archive/lifestyle/wellness/1995/01/17/can-autistic-children-be-reached-through-facilitated-communication-scientists-say-no/0f703028-81ac-4d4a-877e-daf6f98cd0fc/ |title=Can Autistic Children be Reached through 'Facilitated Communication'? Scientists Say No. |access-date=2023-05-03 |author=Boodman, Sandra G. |date=1995-01-17}}</ref>。
初期のFCユーザーに人気のあったデバイスのひとつは、キヤノン・コミュニケーターであり、起動させタイプするとテープに印字していくミニタイプライターだった<ref name=":2" /><ref name=":10">{{Cite journal|author=Dillon, Kathleen M.|year=1993|title=Facilitated Communication, Autism and Ouija|journal=Skeptical Inquirer|volume=17|issue=3|page=281–287}}</ref>。しかし、FCに使用するミニタイプライターを販売するアメリカの企業(Crestwood Co.とAbovo Co.)は、ミニタイプライターをFCに使用することで障害者がコミュニケーションを取れるようになるという「虚偽で裏付けのない主張」をしているとして、後に連邦取引委員会から告発された。企業は和解し、広告キャンペーンでFCに言及するのをやめた<ref name=":14">{{Cite web |url=https://www.washingtonpost.com/archive/lifestyle/wellness/1995/01/17/can-autistic-children-be-reached-through-facilitated-communication-scientists-say-no/0f703028-81ac-4d4a-877e-daf6f98cd0fc/ |title=Can Autistic Children be Reached through 'Facilitated Communication'? Scientists Say No. |access-date=2023-05-03 |author=Boodman, Sandra G. |date=1995-01-17}}</ref>。


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== 歴史 ==
== 歴史 ==
1950年代以降、喋ることが困難な障害者のために様々なコミュニケーション介助法開発が世界各地で試みられた<ref name=":51">Barsch, S. (2013). The globalisation of disability: Rise and fall of Facilitated Communication in Germany. In S. Barsch, A. Klein, & P. Verstraeten (Eds.), ''The Imperfect Historian: Disability Histories in Europe'' (pp. 155–166). Peter Lang.</ref>。FCに類似したテクニックは、1960年代に現れた。エルセ・ハンセン(デンマーク)、[[ローナ・ウィング]](英国)、ロザリンド ・オッペンハイマー (米国)により、自閉症の子供たちの教育補佐に関する初期の観察結果が発表されている<ref>{{Cite journal|author=Pilvang, Maureen|year=2002|title=Facilitated Communication in Denmark|url=http://fc2000.dk/wp-content/uploads/2015/07/Pilvang-Facilitated-Communication-in-Denmark.pdf|journal=The proceedings of the Seventh Biennial ISAAC Research Symposium, Odense, Denmark, August 2002}}</ref>。このテクニックの研究は1960年代と1970年代にデンマークで行われたが、国外には影響を与えなかった<ref name=":12">{{Cite journal|last=von Tetzchner|first=Stephen|date=1997-01|title=Historical issues in intervention research: hidden knowledge and facilitating techniques in Denmark|url=http://doi.wiley.com/10.3109/13682829709021453|journal=International Journal of Language & Communication Disorders|volume=32|issue=1|pages=1–18|language=en|doi=10.3109/13682829709021453|issn=1368-2822}}</ref>。科学的根拠が欠如していたため、1980年代初頭にはその議論は終息した<ref name=":12" /> 。
1950年代以降、喋ることが困難な障害者のために様々なコミュニケーション介助法開発が世界各地で試みられた<ref name=":51">Barsch, S. (2013). The globalisation of disability: Rise and fall of Facilitated Communication in Germany. In S. Barsch, A. Klein, & P. Verstraeten (Eds.), ''The Imperfect Historian: Disability Histories in Europe'' (pp. 155–166). Peter Lang.</ref>。FCに類似したテクニックは、1960年代に現れた。エルセ・ハンセン(デンマーク)、[[ローナ・ウィング]](英国)、ロザリンド ・オッペンハイマー (米国)により、自閉症の子供たちの教育補佐に関する初期の観察結果が発表されている<ref>{{Cite journal|author=Pilvang, Maureen|year=2002|title=Facilitated Communication in Denmark|url=http://fc2000.dk/wp-content/uploads/2015/07/Pilvang-Facilitated-Communication-in-Denmark.pdf|journal=The proceedings of the Seventh Biennial ISAAC Research Symposium, Odense, Denmark, August 2002}}</ref>。このテクニックの研究は1960年代と1970年代にデンマークで行われたが、国外には影響を与えなかった<ref name=":12">{{Cite journal|last=von Tetzchner|first=Stephen|date=1997-01|title=Historical issues in intervention research: hidden knowledge and facilitating techniques in Denmark|url=http://doi.wiley.com/10.3109/13682829709021453|journal=International Journal of Language & Communication Disorders|volume=32|issue=1|pages=1–18|language=en|doi=10.3109/13682829709021453|issn=1368-2822}}</ref>。科学的根拠が欠如していたため、1980年代初頭にはその議論は終息した<ref name=":12" /> 。
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[[ファイル:Anne McDonald Centre.jpg|サムネイル|メルボルンのAnne McDonald Centre(旧DEAL Communication Centre)。初期FC実践の中心的機関でありローズマリー・クロスリーが率いていた。]]
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FCは世界的に[[重度障害者用意思伝達装置|拡大代替コミュニケーション(AAC)]]開発が盛んな機運の中で開発された<ref name=":51" />。1977年、豪州メルボルンに所在するセント・ニコラス病院で重度障害児のプレイリーダーとして特別支援教育に従事していたローズマリー・クロスリーは独自にFCを開発し<ref>{{Cite web |title=Served people with severe communication impairments |url=https://www.smh.com.au/national/served-people-with-severe-communication-impairments-20230531-p5dctg.html |website=The Sydney Morning Herald |date=2023-05-31 |access-date=2023-07-02 |language=en |first=Jan Ashford and Chris |last=Borthwick}}</ref>、「ファシリテイテッド・コミュニケーション」と名付けた<ref name=":17">{{Cite journal|author=落合俊郎|last2=小畑耕作|last3=井上和久|year=2017|title=Facilitated Communication( FC)と表出援助法の比較研究 ―― 肢体不自由,重複障害のある児童生徒への効果を求めて ――|url=https://web.archive.org/web/20200710164614/https://ir.lib.hiroshima-u.ac.jp/files/public/4/42877/20170427112306739206/CSNERP_15_11.pdf|journal=特別支援教育実践センター研究紀要|volume=15|page=11-22}}</ref>。FCは脳性麻痺の人々へのコミュニケーション介助法として始まり、次第に他のコミュニケーションに困難を伴う障害へと広められ、自閉症介助を中心に使用されるようになった<ref name=":3" />。
FCは世界的に[[重度障害者用意思伝達装置|拡大代替コミュニケーション(AAC)]]開発が盛んな機運の中で開発された<ref name=":51" />。1977年、豪州メルボルンに所在するセント・ニコラス病院で重度障害児のプレイリーダーとして特別支援教育に従事していたローズマリー・クロスリーは独自にFCを開発し<ref>{{Cite web |title=Served people with severe communication impairments |url=https://www.smh.com.au/national/served-people-with-severe-communication-impairments-20230531-p5dctg.html |website=The Sydney Morning Herald |date=2023-05-31 |access-date=2023-07-02 |language=en |first=Jan Ashford and Chris |last=Borthwick}}</ref>、「ファシリテイテッド・コミュニケーション」と名付けた<ref name=":17">{{Cite journal|author=落合俊郎|last2=小畑耕作|last3=井上和久|year=2017|title=Facilitated Communication( FC)と表出援助法の比較研究 ―― 肢体不自由,重複障害のある児童生徒への効果を求めて ――|url=https://web.archive.org/web/20200710164614/https://ir.lib.hiroshima-u.ac.jp/files/public/4/42877/20170427112306739206/CSNERP_15_11.pdf|journal=特別支援教育実践センター研究紀要|volume=15|page=11-22}}</ref>。FCは脳性麻痺の人々へのコミュニケーション介助法として始まり、次第に他のコミュニケーションに困難を伴う障害へと広められ、自閉症介助を中心に使用されるようになった<ref name=":3" />。

2023年7月8日 (土) 11:43時点における版

ファシリテイテッド・コミュニケーション(Facilitated Communication: FC)は、自閉症やその他のコミュニケーション障害で発話困難な障害者の身体をファシリテーター(介助者)が支えながら意思伝達を支援する手段として広められているが、科学的に否定されている介助法である[1]。FCのファシリテーターは、障害者の腕や手を支え誘導し、キーボードやコミュニケーション・ボード(文字盤など)の文字、絵、物体を指していく介助を行うが[2][3]、FCで生成されるメッセージの発信源は介助対象者ではなくファシリテーターであることが分かっている[4][5][6][7]。FC使用は多くの冤罪事件を起こし[8][9][10]、障害者に閉じ込められた才能があるなどの誤った希望を与えてきたが[11][12]、いずれの場合も障害者に対する虐待である[13]

科学界や障害者支援団体の間では、FCは疑似科学であるという合意が広く共有されている[5][7][14]。FCを通じて得られるメッセージの発信源は障害者ではなくファシリテーターであるが、ウィジャボード効果やイデオモーター効果英語版により、ファシリテーターはメッセージの発信源は自分ではなく介助対象者だと思い込む[15][16][4][17][18][19]。FCを通じて単純な質問をしても、ファシリテーターが質問の答えを知らない場合は(例:介助対象者にのみ物体を見せファシリテーターには見せずに、何を見たかFCを通して介助対象者に質問する)、正しい回答が得られないという一貫した結果を、数多くの研究が再現している[20][21][6][22]。FC実施中に、介助対象者が目を閉じていたり、文字盤から目をそらしていたり、文字盤に特に興味を示していない状態にもかかわらず、介助対象者が一貫したメッセージをタイピングしているとファシリテーターが思い込んでいるケースも数多くあると報告されている[23]

FCは、「発達障害分野において最も科学的信憑性の欠けた介入法」[24]と呼ばれている。推進者は、FCの有効性を検証するテスト環境が被験者の自信を失わせる可能性とその影響を考慮すると、FCが明確に誤りであるとは証明できないと主張する[25][26]。 しかし、FCは有効なコミュニケーション介助法ではないという科学的合意に達しており[27][28][5]、多くの言語・発達障害の専門家団体がFCの使用を強く否定している[29]FCを通してこれまで数多くの虚偽の虐待の申し立て英語版が起こされ、介助対象者のみならず家族など周囲の人々にも害を及ぼすことが懸念されている[9][30][31]

概要

FCは、重いコミュニケーション障害のある人達が自立したコミュニケーションをとれるように、アルファベットボード、キーボード、その他の装置上の文字を障害者が指差していくのを支援する手段として広められている。開発者のローズマリー・クロスリー英語版は、FCを「重度のコミュニケーション障害のある人々が、コミュニケーション補助器を自立して使うのに必要なハンドスキル習得を助けるために使用される教授法」[32]と定義している。FCは「サポート付きタイピング(supported typing)」[33][34]、「プログレッシブ・キネステティック・フィードバック(progressive kinesthetic feedback)」[4]、「リトゥン・ライティング・アウトプット・コミュニケーション・エンハンスメント(written output communication enhancement)」[4]とも呼ばれる。FCは、「インフォーマティブ・ポインティング(informative pointing)」[4]とも呼ばれる「ラピッド・プロンプティング・メソッド(Rapid Prompting Method: RPM)」[35]や「スペリング・トゥ・コミュニケート(Spelling to Communicate: S2C)」にも関連しているが[18]、RPM、 S2Cのいずれにも有効性を示すエビデンスはない [36][37][38][39][40][41][42][43]

FCにおいて、発話によるコミュニケーションが困難となる障害を持つ人の腕を支える者はファシリテーター(介助者)あるいはコミュニケーションパートナーと呼ばれる[44]。ファシリテーターは障害者がキーボードやデバイス上のアルファベットを指し示す間、障害者の肘、手首、手、袖などの体の部位を支えたり触れたりする[44][3]。 初期のFCユーザーに人気のあったデバイスのひとつは、キヤノン・コミュニケーターであり、起動させタイプするとテープに印字していくミニタイプライターだった[2][45]。しかし、FCに使用するミニタイプライターを販売するアメリカの企業(Crestwood Co.とAbovo Co.)は、ミニタイプライターをFCに使用することで障害者がコミュニケーションを取れるようになるという「虚偽で裏付けのない主張」をしているとして、後に連邦取引委員会から告発された。企業は和解し、広告キャンペーンでFCに言及するのをやめた[46]

FCの支持者たちは、コミュニケーションが取れないために知的障害があると誤解されがちな障害者は、神経運動の問題を抱えているために、言葉を発信できない牢獄に閉じ込められているような状態であり、身体的支援によりコミュニケーションが可能となると主張する[44]。自閉症の人々が効果的にコミュニケーションをとれない理由は、失行などの運動の問題が関係しており、「自分の能力に自信がない」[3][47]などの心理的要因を取り除き、身体的支援を提供することにより、克服可能であると主張している[48]。しかし、それらの主張には根拠がない。研究が示すところによると、話せない自閉症者がコミュニケーション困難であるのは知的障害のためである[4]

FCのファシリテーターは、障害者の腕の不随意運動を制御しつつ、障害者が誤ってタイプせぬよう、精神的にも支えながら、口頭で促しタイピングを開始させ、障害者が文字を指し示すのを支援するとされている[28]。また、ファシリテーターは障害者のコミュニケーション能力を信じる必要があるともされている[3][49][50][51]。ダブルブラインド試験に参加した後にFCを否定するようになった元ファシリテーターのジャニス・ボイントンは、FCの研修がFCは機能するものと決めつけていたことや、ファシリテーションの複雑さが、メッセージの発信源は患者ではなく彼女自身の期待であると気づくのを困難としていたと報告した[52][53]

ファシリテーションを行っているときは他のことに気を取られすぎる。ファシリテーターは会話を継続したり、質問をしたり、質問に答えたり、介助対象者がキーボードを見ているか確認しようとしたり...頭がフル回転状態となり自分の手の動きを見失ってしまう。そのせいで、FCが機能しているかのように感じてしまうのだ。練習を積めば積むほど、ファシリテーションが実にスムーズに進行しているかのように感じられてしまうのだ。[52][53][54]

エモリー大学心理学教授スコット・リリエンフェルド英語版は、『Neuroethics Blog』に寄せた記事で、精神保健の実践者は自らに「専門職としての認識義務―正確な知識を求め、正確な知識を持つという専門職としての義務」がある[55]ことを無視せぬよう戒めた。そしてリリエンフェルドは次のように述べた。

結局のところ、FCの支持者たちは、自閉症の人々を支援したいと強く願っていたのだ。しかし、FCがもたらす悲劇が我々に教示するところは、善意だけでは不十分ということだ。善意に、著しく不正確な知識と自己批判観点の欠如が組み合わさると、悲惨な結末をもたらすリスクがある。また、FCの悲劇は、専門家が自らの認識義務に注意を払わなければ、意図せずに重大な害を与え得ることを我々に教示している[56]

歴史

1950年代以降、喋ることが困難な障害者のために様々なコミュニケーション介助法開発が世界各地で試みられた[57]。FCに類似したテクニックは、1960年代に現れた。エルセ・ハンセン(デンマーク)、ローナ・ウィング(英国)、ロザリンド ・オッペンハイマー (米国)により、自閉症の子供たちの教育補佐に関する初期の観察結果が発表されている[58]。このテクニックの研究は1960年代と1970年代にデンマークで行われたが、国外には影響を与えなかった[59]。科学的根拠が欠如していたため、1980年代初頭にはその議論は終息した[59] 。

メルボルンのAnne McDonald Centre(旧DEAL Communication Centre)。初期FC実践の中心的機関でありローズマリー・クロスリーが率いていた。

FCは世界的に拡大代替コミュニケーション(AAC)開発が盛んな機運の中で開発された[57]。1977年、豪州メルボルンに所在するセント・ニコラス病院で重度障害児のプレイリーダーとして特別支援教育に従事していたローズマリー・クロスリーは独自にFCを開発し[60]、「ファシリテイテッド・コミュニケーション」と名付けた[61]。FCは脳性麻痺の人々へのコミュニケーション介助法として始まり、次第に他のコミュニケーションに困難を伴う障害へと広められ、自閉症介助を中心に使用されるようになった[4]

FCの思想として特徴的なのは、知的障害を認めずに障害者に隠れた能力があると想定する点である[3]。FCは障害者脱施設運動としての役割も担っていた[57]。クロスリーはセント・ニコラス病院に入所していた知的障害のある12人の子供たちがFCを通して洗練された言葉を紡いだと主張し、知的障害の診断を再考するよう求めたが、病院側は認めなかった。1979年、クロスリーはセント・ニコラス病院を退院したいとFCを通して申し出たとされるアン・マクドナルド英語版が退所を認められなかったとして訴え、ビクトリア州最高裁判所はアン・マクドナルドがクロスリーとともに退院することを認めた[62]。それを受けて同年、残る11人の子どもたちの知的障害に関する調査委員会が設置され、調査の結果2.5歳以上の知的能力のある子はいないと報告された[63][64]。1983年、クロスリーは21歳に達した知的障害の女性をセント・ニコラス病院から退所させようとしたが、調査委員会は本人に意思決定能力がないとして退けた[62][65]。また、調査委員会はクロスリーがFCのキーボードを操作している可能性を示唆した[62]

1986年、クロスリーはメルボルンに教育と言語を通じコミュニケーション促進を目指す施設(Dignity through Education and Language [DEAL] Communication Centre [現アン・マクドナルドセンター])を設立した。DEALに通った自閉症とされる子供たちの一部は、自閉症の診断がないにもかかわらず、DEAL入学手続き過程で「自閉症」のラベリングが付けられた[66]。FCの有効性に対する疑惑が高まりつつあったビクトリア州では、1988年にDEALを中心にFCが実施されていることに対し懸念を示すレポートが提出され[67]、翌年FCの効果を検証するビクトリア州知的障害レビュー委員会が結成され調査が行われた結果、FCの効果は確認できず、メッセージはファシリテーターの影響によるものであろうと示された[66]。1990年代には、豪州でFCを通した複数の虐待冤罪事件が発生した[62][68]

1989年、米国シラキュース大学特別支援教育教授のダグラス・ビクレン英語版は、DEALを訪れFCを体験した。ビクレンはそのとき体験したFC介入の様子を『Harvard Educational Review』誌にて紹介した[3]。『Harvard Educational Review』は大学院生が編集する査読のない雑誌である[57]。1992年、シラキュース大学の客員教授として渡米したクロスリーは、ビクレンと共にFCを米国で広めた[61]。米国では、アーサー・ショーローとダグラス・ビクレンが、1980年代後半からFCの普及活動を始めていた[69][70][47][3][45][28]。FCはアジアやヨーロッパでも注目を集めた[71][8][72][11][73][74][75]

FCの早期ユーザーは、FCの介入法がシンプルである点を賞賛した[47][49][50][76]。FCは、客観的評価や細かいモニタリングを要さない「教育戦略」として宣伝された[77][50]。しかし、1991年という早い時期から40を超える査読付き研究がFCの有効性実証に失敗しただけでなく、報告された成功例もファシリテーターの影響であることを示していた[62][78][79][80][28][81][6][5][82]。ファシリテーターの影響は、ファシリテーターの無意識の動作に起因しており[83][84]、ファシリテーターは自分がコミュニケーションをコントロールしているという事実に本当に気づいていないのだろうと考えられている[46][10]

1994年、アメリカ心理学会(American Psychological Association: APA) は、FCの科学的根拠の欠如を理由にFC使用に対し警告を発する決議を採択した[85][46]。APAはまた、FCを通じて得られた情報を使い虐待の告発を確認または否定したり、診断や治療の決定をするべきではないと宣言した[10][85][86][87]。FCに否定的な科学的エビデンスが継続的に示されていることを受けて、米国児童青年精神医学会英語版(American Academy of Child & Adlescent Psychiatry: AACAP)[88]アメリカ言語聴覚学会英語版(American Speech-Language-Hearing Association: ASHA)[89]拡大・代替コミュニケーション国際学会英語版(International Society for Augmentative and Alternative Communication: ISAAC)[90]がAPAに続き同様のFC反対声明を発表した[91][28][92][7]。1998年、英国政府の報告書は、「ファシリテーターの影響が制御される途端、FCの効果とされていた現象は生じなくなるのだ。これ以上の研究を正当化するのは難しいだろう」と結論づけた[23][93]

多数のブラインドテスト(ファシリテーターが答えを知らない質問をする)と非ブラインドテスト(ファシリテーターが答えを知っている質問をする)の比較研究が実施され、ファシリテーターがFCを通してメッセージを生成していることを再現した[94][17][95][96][97][98][99][20]。さらに、多数の包括的レビュー論文が発表されFCが無効なコミュニケーション介助法であることを示した[100][101][102][5][28][103][6][104][105][14][7]。「2001年までに、自閉症および関連した障害があり意思伝達が困難な人々への介入法としてFCは信頼できないことが、ほぼ実証された。FCの主要な実証研究は、コミュニケーションを生じさせているのはファシリテーターでありクライアントではないことを一貫して示している」[6]という理解は、学術界においてコンセンサスに達した。

多くの人々が、FCの流行は一時的なものであり、流行のピークは過ぎ、疑似科学でしかないと位置づけた[36][106][107]。しかし、FCの支持者たちは、実証的調査を的外れであるとしたり、実証研究に欠陥があるとしたり、研究は不要であるとして退け、FCを「効果的で正当な介入」と評価し、その推進運動を継続している[36][82][6][108]。2014年の時点においてもFC推進運動は衰えず、FCは多くの国で使用され続けていた[109][4]。FCのレビュー論文で知られるマーク・モスタートは次のように述べている。

FCを支持しようとする近年の研究のほとんどは、FCは機能し、自閉症やその他の重度コミュニケーション障害を持つ人々に関連するあらゆる現象の探求に使用されるべき正当な介助法であるという前提に立脚している。このような前提は、FCは実証研究で否定されているという事実を知らず、確たる研究と疑わしい研究とを区別するスキルを持たない読者たちにとってのFCというものを、ますます正当な介入法であるかのように変えてしまう。そのような状況下で、FCは有効であるという保護者や実務者の思い込みが強化され続けることになろう。シラキュース大学のファシリテイテッド・コミュニケーション研究所のような専門組織の存在、FCの国際的規模での広まり、確かな実証研究であっても信奉者の考えを改めさせるようなものは今後もなかろうという欠乏状態。そのような状況下で、FC支持者の誤認識は今後も強化されていくだろう[6]

FCは、のちに開発されたファシリテーターが患者に触れずに文字板を持つRPMというコミュニケーション介助法と密接に関係している[110][40]。RPMの支持者はFCとの類似性を否定し、RPMのプロンプトは介助対象者に特定の行動を促すようなものではないと述べている[111][112][113]。しかしRPMには微妙な合図(キューイング)が含まれているため、介助対象者はファシリテーターの影響を非常に受けやすくなる[110][40]

RPMとFCの類似点には、次のようなものがある。統制された環境での検証に対する抵抗や拒否(検証のプロセスはファシリテーターとクライアントの間の信頼関係を壊すからという理由)、介助対象者に能力があると決め込むこと、効果の証拠を事例的報告に依存すること、研究知見と相容れない技術の実践や主張の固持、介助対象者が並外れた言語力を発揮し知的障害を克服するといった主張、ファシリテーターが特定の反応を引き出すために無意識に行う口頭または身体的キューイングなどのファシリテーターの影響を除去するプロトコルが不十分あるいは存在しないこと[114][115]

2019年、米国ペンシルベニア州ローワーメリオン学区英語版とその学区の公立校に通う児童の保護者との間で、RPMのブランドであるS2Cの使用に関する争議が起きた。保護者は学区がS2Cに基づく教育プログラムへの支払いを拒否したせいで子が無償の教育を奪われたと主張した。同年12月、ペンシルベニア州紛争解決局の審理官は、S2Cによって当該児童のコミュニケーションが可能になったというエビデンスはないと判断し、学区側の勝訴となった[116][117][118]

現在も、FCと同様の問題を抱えた介入効果のないコミュニケーション介助法が、名称と形態を変えながら次々開発され続けている[18][36][43][40]。教育現場でのFCおよびFC類の使用も問題視されている[40][119][120][121][122][123]

FCを支持する組織と反対する組織

FC支持組織

実際にコミュニケーションを行っていたのはファシリテーターであると1990年半ばには研究により明らかになったにもかかわらず、その後もFC推進を続ける主要組織のひとつとして、全米自閉症委員会(Autism National Committee:AutCom)が挙げられる[124]。AutComは自閉症児の保護者による非営利団体であり、FCを拡大・代替コミュニケーション(Augmentative and Alternative Communication: AAC)英語版として推進することを組織の方針として維持している[125]。2022年には「自閉症の人々、そして自閉症の人々を尊重する家族、友人、味方と共に、確かな自律的な声を得るために取り組んでいる」と述べており、その方法として「ファシリテイテッド・コミュニケーション・トレーニング(FCT)、RPM、S2C、インフォーマティブ・ポインティング・メソッド」などを認めるとする見解を表明している[125]

自閉症セルフアドボカシーネットワーク(Autistic Self Advocacy Network: ASAN)英語版重度障害者支援協会(The Association for Persons with Severe Handicaps: TASH)英語版もFCを支持する他の組織として知られる[126]。ASANは自閉症者の非営利アドボカシー組織であり、米国にFCを広めたビクレンとも協働していた[36][126]。ASANはFCのみならずRPMも支持している[127]。ASANのFC推進において特徴的なのは、当事者権利運動を前面に押し出し、重度自閉症の当事者がFCを通して語ることの価値をニューロダイバーシティ運動の一環と位置づけ強調した点であると指摘されている[36][127][128]。ASANは「我々のことを我々抜きで勝手に決めるな(Nothing About Us Without Us)」英語版をモットーに掲げ、自閉症者が自閉症について自ら語り決定する権利があると唱えたが、その方法として自閉症者の声も自己決定権も奪うFCを使用していた[127]。ASANは2009年に自閉症者支援組織であるDan Marino Foundationと共同でFCを通して当事者がビデオで語るイベントを開催し[129]、2011年にシラキューズ大学でFCを使用したニューロダイバーシティイベントを開催した[130]

TASHは重度障害者の人権尊重とインクルージョンを目指す1970年代創設の影響力のある主要な非営利アドボカシー組織である[131]。TASHは罰を伴う支援に反対するなど重度障害者の権利と生活の質を向上させることを目標として活動を行ってきたが[132]、政治的性質が強く科学的基盤に薄いポジティブ行動支援を広めるなど問題視されており[133][134]、自閉症児から有効な教育機会を奪う等の懸念が提示されている[135][136][134]。TASHはFCについては重度障害者のコミュニケーションを可能とするとして、FCが論争の的となっていることを認めつつ支持してきた[137]。また、TASHはFCが無効であるとする研究結果に言及しながらも、どんな介入にもリスクはあるなどと論じ、組織としての反対声明は出さずに個々の見解に任せるとした[138]。さらに、重度障害者がコミュニケーションを取る権利を主張するTASHの決議には、その方法としてFCの使用推進が含まれていた[139]。TASHのFC推進は批判を呼び[140]、それまで明示的にFCを推進していた記述はその後の決議では削除された[141][142]。しかし、2019年に開催されたTASH会議における発表にもFCを推進する内容のものがあり[143][144]、組織としてFCに反対する段階には至っていない。

心理学者のスティーブン・グリーンスパンは組織のFC推進にインクルーシブ教育推進運動が関連している点を指摘し[145]、以下のように述べている。

FCと完全包摂(フルインクルージョン)の間にある政治的・イデオロギー的なつながりは、個人的なものでもある。というのも、FC運動の先駆的役割を担った個人(例:ビクレンなど)や組織(例:TASHなど)の多くは、完全包摂を積極的に支持表明していることで知られていた。実際、ビクレンは完全包摂教育実践を学ぶためオーストラリア滞在中にFCと出会った[146]。FCが完全包摂支持者を魅了する理由は、成功しているように見えるFCの事例の多くが、障害者の能力が専門家に過小評価されていただけで実際には障害者は能力を持つという主張を裏付けているようだからなのは間違いないだろう。しかし、ノーマライゼーション理論で知られるヴォルフ・ヴォルフェンスベルガー英語版が指摘するように[147]、普通の社会的役割を得るには普通の能力の証明が必要とする考えが誤りなのであり、その能力の証明が偽である場合はなおさら誤りである[145]

2018年にはASANやTASHを含む複数のFC支持組織が、FCおよびRPMの使用反対声明を出したASHAに声明を撤回するよう共同で呼びかけた[148]

ASANとともにASHAにFC・RPM反対声明の撤回を呼びかけたのは以下のFC支持組織である。

Alliance for Citizen Directed Supports, The Arc of the United States, Autism and Communication Center, Autism National Committee, Autistic Self Advocacy Network, Autistic Women & Nonbinary Network, Burton Blatt Institute, Center for Public Representation, Council of Parent Attorneys and Advocates, Foundations for Divergent Minds, Gamaliel Network, Inclusion International, Institute on Communication and Inclusion, National Disability Rights Network, Nonspeaking Community Consortium, Ollibean, PEAK Parent Center, Quality Trust, Reid’s Gift, SLP Neurodiversity Collective, TASH, Thinking Person’s Guide to Autism, United for Communication Choice.[148]

FC反対組織

以下の学会や組織がFC使用に反対する見解を表明している。

主張とエビデンス

FCを通じて得られるメッセージの発信源はファシリテーターであり、介入対象者の腕をファシリテーターが誘導(イデオモーター効果を伴う)しているというエビデンスが示されている[15][17][16][4][175]。ファシリテーターが答えを知らない質問を投げかけられると、FCは単純な質問に対してさえ正しい回答を提供できないことを、研究は一貫して示している[95]。そのため、科学界や複数の障害者支援団体の間で、FCは有効な手法ではないと広く合意されている[14]

FCが有効なコミュニケーション介助法だと主張するものとして、障害者がFCを通じてコミュニケーションをとる様子や、自立してタイピングを習得するためにFCを利用している様子を映す多数の動画が存在する。しかし、これらは不正確でミスリーディングであると考えられており、国際行動分析学会の会長を務めていた心理学者のジーナ・グリーンは、「ビデオは見せたいものだけを見せるように編集できる。ビデオ制作者はキーボード上で動いている指をクローズアップして見せる。しかし、それ以外の情報は提供されないのだから、実施に何が起こっているかは不明だ」と指摘している[176]

メッセージのオーサーシップ

19世紀にファラデーが行ったイデオモーター反応の実証実験

ファシリテーターが自らメッセージを生成しているにもかかわらず、介助対象者にオーサーシップがあると信じるのは、イデオモーター効果(クレバーハンス効果やウィジャ効果などが含まれる)に起因する。FC推進者たちは、介助対象者を誘導してはならないとしているが、1993年にFC講座に参加した研究者たちは、介助対象者がキーボードから手を離さないようファシリテーターに物理的に力を加えられたのを目撃した[177]。また、ファシリテーターは自覚なく動きに影響を与えてしまうことがある[52][108]。心理学者ジーナ・グリーンは「非常に微細なキューイングが人の行動に作用するもので、ファシリテーターが身体に触れなくても、微細な音や視覚的なキューが介助対象者の動きに影響する」と述べている[86]

FCの実践者たちは被介助者に能力があると仮定すること、被介助者の驚くべき隠された能力や個人情報が明かされるのを期待すること、状況に依存した主観的データを使いオーサーシップを立証すること、被介助者が口頭で発した言葉よりもFCで得られた言葉を強調すること、検証や客観的批判を避けることといったイデオロギーを植えつけられていると、グリーンは説明する[47]。さらに、FCにおけるオーサーシップに疑問を抱く人々が、そのようなFCのイデオロギーに直面するとき、疑問を呈したいが呈しづらいという板挟み状態に至るとグリーンは指摘している[47]

FCのオーサーシップが被介助者ではなくファシリテーターにあると示すエビデンスに対して、FCが機能するためには被介助者への「心理的支え」が必要であり[178][179][180]、オーサーシップを検証するブラインドテスト等の場に曝されるとFCの効果は消えてしまうとFC支持者たちは説明する[181][182][44][179][183]。しかし、FCを通して裁判の場で告発したり大勢の前で発表したりできるとするのに、ブラインドテストの場では機能しないとするのはおかしいと指摘されている[30]。FC支持者は、検証の場の外でしかアクセスできない種の自閉症者のテレパシー能力や神聖なインスピレーションがあるのだという説明も提供している[184][185]

FCが実施されている様子にも、オーサーシップの所在に疑問を生じさせるものがある。ファシリテーターが文字盤を見ている一方、介助対象者は上の空で宙を見つめていたり、床の上を転がっていたり[186]、眠っていたり[50]、文字盤に注意を向けていなかったりするケースが報告されている[187][77]。能力が高いとされる介助対象者が、FCを通すと単純な質問に間違った返答をしたり、ファシリテーターは知らないけれど介助対象者は答えを知っているはずの問いに(例:ペットの犬の名前、家族の名前、自分の名のスペルなど)、間違った返答をすることが知られている[3][188]。また、介助対象者がタイプしているとされる言葉とは矛盾する内容の言葉を口頭で話していたというケースも知られてる[26]。口頭言語が少し喋れる自閉症者が、FCを通した会話の最中に突然会話の文脈とは無関連な言葉を発するとき、自閉症児の口から出る言葉は本心ではなく反射のようなものだと説明されたり[75]、直後のFCでの会話で無関係な言葉はフラッシュバックであった等の説明が加えられることがある[189]。また、インタビューの場で「詩が美しいと思うところに惹かれる歌もあります」とFCを通して回答している最中に、被介助者が突然口頭で「30分になったら!」「35分になったら!」と繰り返したが、インタビューが終わってほしいという意味ではなく「『〇分になったら終わり』と言ってもらいたい」というこだわりが被介助者にあるのだという解釈が下された[190]。自閉症者がFC類(RPM/S2C等も含む)実施中に口頭で発する言葉はエコラリアの場合もあるが、「悲しい」「お母さんに会いたい」等のFCを拒否する意思表示の場合もあり、それら口頭言語を無意味なものと切り捨て、FCを通した言葉のみを本心と見做しエビデンスのあるAACへのアクセスを阻むなどの人権侵害が問題視されている[191][30]

FCの支持者たちはオーサーシップに疑問を感じず、読み書きや数学を教わったことがない患者が複雑な思考を書き留めたり、掛け算の問題を解いたりする能力があると信じていた[59][49][77][192]。また、障害者がFCを通して本や詩を書いたり[193][194][195][75][11][196]、TEDでプレゼンテーションを行ったり[197]、障害者の待遇改善を提唱したり[198]、結婚の意思を表明したり[4][51]、性的関係を持ったり[4][129][199]、重要な医療に関わる意思決定を下したり家庭内で起きているとされる虐待を告発したりするとされてきた[8][200][201]。心理学者のアドリアン・ペリーは、そのようなケースについて「自閉症の大人や子どもは、ファシリテーターの敵意、希望、信念、疑惑を反映する『スクリーン』にされている」と述べている[200]

自閉症

自閉症者の身体を支えるファシリテイテッド・コミュニケーションの様子(A:手を支える;B:腕を支える;C:肘を支える;D:支えなし)[202]

FC推進者たちは自閉症は主に運動制御の問題であり、喋れないのは運動失行に起因しており身体的サポートを受けることで克服可能としているが[3][44]、この見方は科学的見解と矛盾する[7][14][41][6][5][203][204]。自閉症は言語やコミュニケーションに影響する知的障害を伴いがちであり、それは手を支えてあげることで克服可能なものではない[4][205]

FC支持者の描く自閉症者像は、自閉症に関する神経心理学および言語学的エビデンスと相入れない[177]。科学的な方法で観察されてきた自閉症者の言語特徴が、FCを通すと突然消失し、微細な他者視点や社会性を感じさせる野心に溢れた文章を綴るようになるとされ、その言語は英文科の学部生レベル以上のものである[177]。FC支持者は、自閉症者の発話困難は発話するための運動システムの神経学的基盤と関連しているとし、また単語(特に名詞)を見つけるのが困難であるためでもあると説明している[177]。そのような発話困難は自閉症のエビデンスと異なるが、仮にそのような発話困難があるとしても、それは協調運動障害や発語障害と呼ばれるものであり、FC支持者が運動失行と呼ぶのは誤っている[177]

FCを推進する者は客観的データを拒絶し、一般人の意見や質的研究に依拠することでFCの有効性や可能性を主張する[206][207][208][209]。中には被介助者がファシリテーターのキューイングに特定のリスポンスを出すようになる場合があり、ファシリテーターが被介助者の肩に触れるだけでも、直接触れないキューイングのみでも反応する[91][18]。FCを使用していた障害者が自立したタイピングができるようになった例があるとFC推進者たちは指摘するが[210]、それらの主張は逸話的なものであり、適切な方法で実証されていない[4][36][211]。多くのファシリテーターは自分が被介助者の動作に影響を与えていることを否定しようのない種のエビデンスを目の前にしても否定する[109][91]

2020年1月に発表された米国小児科学会(AAP)の臨床報告書『自閉症スペクトラムのある子どもの識別、評価、管理』によると、「現在の科学的エビデンスは、言葉を発しない自閉症者のコミュニケーションを誘導するFCの使用を支持しない。FCは、本人が自立してコミュニケーションできるように指導するAACとは異なる」とする[212]

保護者が論理的整合性に欠ける非科学的なFCのような代替療法を信じるのは、子供に障害があることを知りストレスや悲しみに沈んでいるときに奇跡の支援法を提示され、希望を見出すからだ[177][36]。子どもの障害は発達上のものではなく身体的なものであると信じ自閉症の診断を拒否し、FCやRPMを実施すると、豊かな言葉を紡ぎ出す。その瞬間、子の障害は身体的なものであり運動失行であったのだ、自分の信じていたことは本当であったと保護者は確証するに至る[203][213]

そのような自閉症界の状況に関連して、自閉症児の保護者であり、自閉症ワクチン説やFCといった非科学的流行を批判してきたウィンブルは、「反ワクチン批判よりもFC批判のほうが弾圧される。反ワクチン運動を批判していた仲間すら私がFCを批判するのを咎める。FCに傾倒する保護者たちが、自閉症の子供たちがFCに出会い学校で良い成績を取り卒業スピーチを行い大学へ進学するのを批判しオーサーシップに疑義を挟むなんてひどいと言うのだ」と述べた。

ジェームズ・ミュリック(精神科医)、ジョン・ジェイコブソン(心理学者)、フランク・コービー(臨床心理学者)は、専門家が保護者をFCへ誘導する慣習を問題視し、以下のように述べている[177]

少数の教授や治療者が、障害者やその家族に望みを叶えてあげましょうと空っぽの約束をしてFCに誘導し、全力で検証を避けつつ、個人的・政治的報酬を得るのを、専門家組織、科学コミュニティ、公的支援機関は許してはならない。(中略)我々の経験では、障害者は「奇跡の支援」を用いることなしに、家庭や共同体の大切な成員になれる。科学的に理にかなった効果的な支援法があり、科学的訓練を受けた思いやりのある専門家の真摯な努力は、流行の治療法に勝るものであり続ける。

日本における研究

1973年若林慎一郎日本精神神経学会会誌『精神神経学雑誌』75巻6号に掲載した「書字によるコミュニケーションが可能となった幼児自閉症の1例」は日本におけるFC研究の初期の事例の1つである[61]。1955年生まれで、折れ線型自閉症といわれるタイプの男児について、1959年から13年間フォローアップした報告である[61]。この対象児は10歳2か月から文字カードによる文字指導を受け、12歳9か月時には母親が対象児の手に触れることで「筆談」が可能が可能となり、15歳1か月のときには介助なしで筆談を行っている[214]

上述のようにアメリカ合衆国では1992年ごろからFCが知られるようになったわけだが、日本でも同時期に以下のような研究発表が行われている[61]

  • 落合俊郎、久田信行「表出援助の方法をめぐって(1)-書字・描画の援助を通して-」、日本特殊教育学会、1992年。 
  • 片倉信夫「筆談自閉症」、発達協会、1992年。 
  • 石井聖『「自閉」を超えて』 上、学苑社ISBN 978-4761493073  - コロロ・メソッド
  • 高橋秀敏「特別発表「レット症候群の未央ちゃんとの抱っこ」」『第2回抱っこ法研究会報告集』1993年。 

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出典

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関連項目

外部リンク