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{{Otheruses|自然現象|[[テレビ]]用語|スノーノイズ}}
{{Otheruses|自然現象|[[テレビ]]用語|スノーノイズ}}
[[Image:Dust storm approaching Stratford, Texas.jpg|right|thumb|300px|アメリカ合衆国[[テキサス州]]、[[1935年]]]]
[[File:Sand storm in Salmiya, Kuwait.jpg|thumb|300px|砂塵嵐に包まれた町([[クウェート]]]]
[[File:Sand Storm in Afghanistan MOD 45158327.jpg|thumb|300px|迫ってくる砂塵嵐(ハブーブ)に伴う砂塵の壁。前面に凹凸構造が見えている。([[アフガニスタン]])]]
[[Image:Sahara sandstorm.JPG|right|thumb|300px|[[大西洋]]を渡る[[サハラ砂漠]]の砂嵐、2000年]]
[[Image:Sand storm in Salmiya, Kuwait.jpg|right|thumb|300px|砂嵐に包まれた[[クウェート]]の町]]
[[File:Sandsturm in der Namib (2017).jpg|thumb|200px|航空機から見た[[ナミブ砂漠]]]]
[[File:Sahara sandstorm.JPG|thumb|200px|[[大西洋]]を渡る[[サハラ砂漠]]の砂塵嵐の衛星画像]]
'''砂嵐'''(すなあらし、{{lang-en-short|sandstorm}})あるいは'''砂塵嵐'''(さじんあらし、{{lang|en|duststorm}})とは、[[塵]]や[[砂]]が強風により激しく吹き上げられ、空高くに舞い上がる[[気象]]現象。サンド・ダストストームと総称されるが砂塵嵐等の定義は国や研究者により異なる<ref name="yoshino" />。空中の砂塵により、見通しが著しく低下する。[[砂漠]]などの[[乾燥]]地域において発生する。
'''砂嵐'''(すなあらし)または砂塵嵐(さじんあらし)とは、[[塵]]や[[砂]]が[[風|強風]]により激しく吹き上げられ、空高くに舞い上がる現象。空中の砂塵により、見通しが著しく低下する。[[砂漠]]や半[[乾燥帯|乾燥地]]において発生する{{Sfn|地形学辞典|1981|p=301|ps=「砂嵐」(著者:[[小野有五]])}}{{Sfn|気象科学事典|1998|pp=272-273|ps=「砂あらし」(著者:大野久雄)}}{{Sfn|気象科学事典|1998|pp=215-216|ps=「砂じん嵐」(著者:齋藤三行)}}{{Sfn|Nick|Utchang|2017|p=1-2}}。なお砂嵐という語は、砂を主体とする狭義の砂嵐を指す場合と{{Sfn|地形学辞典|1981|p=301|ps=「砂嵐」(著者:[[小野有五]])}}、より広く砂塵嵐と同じものを指す場合とがある{{Sfn|地形学辞典|1981|p=301|ps=「砂嵐」(著者:[[小野有五]])}}{{Sfn|気象科学事典|1998|pp=272-273|ps=「砂あらし」(著者:大野久雄)}}{{Sfn|気象科学事典|1998|pp=215-216|ps=「砂じん嵐」(著者:齋藤三行)}}。


== 定義 ==
== 定義 ==
土壌粒子([[砕屑物]])には[[粒径]]による「砂」(2 - 0.0625[[ミリメートル]](mm))「[[シルト]]」(62.5 - 4[[マイクロメートル]](μm))「[[粘土]]」(4 μm以下)の区分がある{{Sfn|Nick|Utchang|2017|p=2}}。風に巻き上げられている地表物質が、砂を主体とするとき「砂嵐」({{lang-en-short|sandstorm}})、シルトを主体とするとき「塵嵐」(duststorm)と呼び分けることもある{{Sfn|地形学辞典|1981|p=301|ps=「砂嵐」(著者:[[小野有五]])}}{{Sfn|地形学辞典|1981|p=416|ps=「塵嵐」(著者:小野有五)}}。しかし、どの砂嵐・塵嵐も粒径の分布は連続的であるため、この区別は厳密なものではない{{Sfn|Nick|Utchang|2017|p=2}}。
サンド・ダストストームと総称される現象には、日本語の砂塵嵐、中国語の砂塵暴のような気象現象を含むが、これらは国や研究者により定義が異なることが問題点として指摘されている<ref name="yoshino">[http://iccs.aichi-u.ac.jp/archives/report/030/030_04_03.pdf 吉野 正敏「中国の沙漠における人間活動と砂塵あらし」] 愛知大学国際中国学研究センター、2020年2月8日閲覧。</ref>。


[[気象観測]]における'''砂塵嵐'''(duststorm)は、塵や砂が強風により空中高く大量に吹き上げられ、目の高さの[[視程]](見通し)が1[[キロメートル]](km)未満となるものをいい、[[世界気象機関]]による共通の定義となっている{{Sfn|Nick|Utchang|2017|p=2}}<ref name="jmag1">[[#jmag|気象観測の手引き (2007)]]、64-65頁</ref>。猛烈な砂塵嵐では、視程がゼロとなることさえある{{Sfn|Nick|Utchang|2017|p=2}}。なお、視程の低下が弱かったり、砂塵が目の高さより低い程度に吹き上げられたりしているものは[[風塵]](blowing dust)という{{Sfn|Nick|Utchang|2017|p=2}}{{R|jmag1}}。(前述の)狭義の砂嵐の視程が悪化したものが砂塵嵐{{Sfn|地形の辞典|2017|pp=769-770|ps=「風成塵」(著者:成瀬敏郎)}}とも位置付けできる。
まず"duststorm"と"sandstorm"は厳密な定義が異なる。"duststorm"は、吹き上げられている土壌粒子の多くが[[粒径]]1/16[[ミリメートル]]以下、[[砕屑物]]の分類上「[[シルト]]」や「[[粘土]]」等であるものをいう。
一方"sandstorm"は、吹き上げられている土壌粒子の多くが粒径 2 - 1/16 ミリメートルの「砂」であるものをいう<ref name="amsg1">[[アメリカ気象学会]] ''Glossary of Meteorology'' "[http://amsglossary.allenpress.com/glossary/search?id=duststorm1 duststorm]", "[http://amsglossary.allenpress.com/glossary/search?id=sandstorm1 sandstorm]"、2012年12月29日閲覧。</ref>。


砂塵嵐に強度区分を設けている国もある。アメリカでは"duststorm"のうち視程が5/16[[マイル]](約500 m)未満と極端に悪化したものを"severe duststorm"(激しい砂塵嵐)<ref name="ams1">{{Cite web|url=https://glossary.ametsoc.org/wiki/Duststorm |title=duststorm |work=[[#ams|AMS気象学用語集]] |date=2024-03-27 |accessdate=2024-06-01}}</ref>とする。中国では"{{zh|沙尘暴}}"(砂塵嵐)のうち視程が500 m未満のものを"{{zh|强沙尘暴}}"、さらに50 m未満のものを"{{zh|特强沙尘暴}}"とする<ref>{{Cite web|和書|url=https://www.cma.gov.cn/zfxxgk/gknr/flfgbz/bz/202209/t20220921_5098367.html |title=GB/T 20480-2017 {{zh|沙尘天气等级}} |language=zh |publisher=中国気象局 |date=2017-05-12 |access-date=2024-06-01}}</ref>。
"duststorm"は乾燥した土地であれば発生しうるのに対して、"sandstorm"はいわゆる「砂砂漠」の[[砂丘]]のように、粒径の小さい微粒子よりも砂の方が多いところでしか発生し得ない。また、"duststorm"は上空数千メートルの高さまで舞い上がり、時には砂の壁を形成するほどに発達するのに対し、"sandstorm"は砂粒が地面を跳ねながら進む運動の動きをするためせいぜい数メートルまでしか舞い上がらず、15メートルを超えるようなものは稀と言われる<ref name="amsg1"/>。


研究や政策立案の場面でsandstormとduststormを総称するSand and dust storms (SDS) という用語を用いることもある{{Sfn|Nick|Utchang|2017|p=1}}。
[[日本語]]では"duststorm"は「砂塵嵐」、"sandstorm"は「砂嵐」と訳すが、「砂塵嵐」が砂と塵の2つの語を含んでいることから"duststorm""sandstorm"2つを総称して「砂塵嵐」と呼ぶ場合もある<ref>文部省,日本気象学会 編 『学術用語集 気象学編(増訂版)』、丸善、1987年 ISBN 978-4-8181-8703-0。</ref>。


=== 観測 ===
[[気象観測]]において[[天気]]を通報する際には、国際気象通報式の[[地上実況気象通報式|SYNOP]]および[[海上実況気象通報式|SHIP]]において砂嵐や砂塵嵐を表すものは以下の8種類ある<ref>気象業務支援センター [http://www.jmbsc.or.jp/hp/online/f-online3y.html ファイル形式配信データ] 「{{PDFLink|[http://www.jmbsc.or.jp/hp/online/data/surface_format.pdf 地上気象観測フォーマット]}}」、2012年12月29日閲覧。</ref>。
[[気象通報式#国際気象通報式|国際気象通報式]]<ref group="注釈">[[地上実況気象通報式|SYNOP]]・[[海上実況気象通報式|SHIP]]などに用いる96種天気。[[地上天気図#天気]]参照。</ref>では、観測時に砂塵嵐があるかどうか、観測所付近になくとも遠方に見えるかどうか、砂塵嵐の3段階の強度、前1時間内の濃度変化(薄くなった/変化がない/濃くなった)、雷を伴うかどうかの組み合わせで区分される天気から選択して報告する。砂塵嵐の基本の記号は、弱または並の強度が[[File:Symbol_code_ww_31.svg|18px]]、強い強度が[[File:Symbol_code_ww_34.svg|18px]](参考として、風塵は[[File:Symbol code ww 06.svg|14px]])。ただし、自動観測では「地ふぶき又は風じん」の視程1 km以上または1 km未満の区分だけが定義されている<ref>{{Cite web|和書|url=https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/kurashi/symbols.html |title=国際式の天気記号と記入方式 |publisher=気象庁 |access-date=2023-01-21 }}</ref><ref>{{Cite web|和書|url=https://www.data.jma.go.jp/obd/stats/data/mdrr/man/tenki_kigou.html |title=過去の気象データ検索 > 天気欄と記事欄の記号の説明 |publisher=気象庁 |access-date=2023-01-21 }}</ref>。
*09.現在観測所にはないが視程内に砂じんあらしがある、または前1時間内に砂じんあらしがあった→[[ファイル:Symbol_code_ww_09.svg|30px]]
*30.弱または並の<ref group="注" name="注1">日本においては視程500m以上と定められている。</ref>砂じんあらし。前1時間内にうすくなった→[[ファイル:Symbol_code_ww_30.svg|30px]]
*31.弱または並の<ref group="注" name="注1"/>砂じんあらし。前1時間内に変化なし→[[ファイル:Symbol_code_ww_31.svg|30px]]
*32.弱または並の<ref group="注" name="注1"/>砂じんあらし。前1時間内に濃くなった→[[ファイル:Symbol_code_ww_32.svg|30px]]
*33.強い<ref group="注" name="注2">日本においては視程500m未満と定められている。</ref>砂じんあらし。前1時間内にうすくなった→[[ファイル:Symbol_code_ww_33.svg|30px]]
*34.強い<ref group="注" name="注2"/>砂じんあらし。前1時間内に変化なし→[[ファイル:Symbol_code_ww_34.svg|30px]]
*35.強い<ref group="注" name="注2"/>砂じんあらし。前1時間内に濃くなった→[[ファイル:Symbol_code_ww_35.svg|30px]]
*98.観測時に雷電。砂じんあらしを伴う→[[ファイル:Symbol_code_ww_98.svg|30px]]


[[定時飛行場実況気象通報式|METAR]]や[[運航用飛行場予報気象通報式|TAF]]では、「視程障害現象」の欄のDUがちり、SAが砂を表し、「特性」の欄の低いを表すDR、高いを表すBLと組み合わせて用いる<ref>那覇航空測候所 「[http://www.jma-net.go.jp/naha-airport/koku_kishojyoho/metar_taf.htm METAR報とTAF報の解説]」、20121229日閲覧。</ref>。<br>
航空気象の通報式<ref group="注釈">[[定時飛行場実況気象通報式|METAR]]や[[運航用飛行場予報気象通報式|TAF]]</ref>では、「その他の現象」欄にて、sandstormを表すSSおよび、duststormを表すDSを用いて特記する。ほかに「視程障害現象」の欄のDUがちり、SAが砂を表し、「特性」の欄の低いを表すDR、高いを表すBLと組み合わせて用いる<ref>{{Cite book|和書|url=https://www.jma.go.jp/jma/kishou/books/tsuhoshiki/tsuhoshiki.html |title=航空気象通報式第3版 第16号 |date=2017-03-08 |publisher=気象庁 |pages=9-10 |access-date=2024-06-01 }}</ref><ref>{{Cite web|和書|url=https://www.jma-net.go.jp/naha-airport/metar_taf.html |title=METAR報とTAF報の解説 |publisher=那覇航空測候所 |access-date=2012-12-29 }}</ref>。
「その他の現象」欄ではSSがsandstorm、DSがduststormを表す。


ラジオ[[気象通報]]などの[[地上天気図#日本式天気図|日本式天気図]]における「砂じんあらし」の[[天気記号]]は「[[File:Japanese Weather symbol (Dust storm or Sand storm).svg|20px|砂じんあらし]]」。観測時に視程1 km未満の砂塵嵐があって、雨や雪が降ったり、雷が鳴ったり霧が出ていないとき、天気を砂じんあらしと記録する<ref>{{Cite web|和書|author=山内豊太郎 |url=https://official.rikanenpyo.jp/posts/6653 |title=理科年表FAQ > 天気の種類はいくつあるのですか。その記号も教えてください。 |publisher=国立天文台、丸善出版 |website=[[理科年表]]オフィシャルサイト |year=2008 |month=03 |access-date=2022-01-21 }}</ref><ref>[[#jmag|気象観測の手引き (2007)]]、58-60頁</ref>。なお日本では、気象台で目視により砂塵嵐などの観測を行っていたが、2019年から2024年にかけてほとんどの気象台で天気が自動観測に代替された影響で、東京と大阪を除き観測を終了している<ref>{{Cite web|和書|title=天気の「快晴」がなくなった 「歴史的転換」迎えた観測:朝日新聞デジタル|url=https://www.asahi.com/articles/ASN427F3CN3RUTIL02L.html|website=朝日新聞デジタル|accessdate=2020-04-03|language=ja}}</ref><ref>{{Cite web|和書|author=森田正光 |title=3.26気象観測の歴史が変わる 目視観測自動化へ |url=https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/2b89e64ad0912e648fdaba607ffeb5fe9c1d3327 |website=Yahoo!ニュース エキスパート |date=2024-02-26 |accessdate=2020-04-03 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20240601091018/https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/2b89e64ad0912e648fdaba607ffeb5fe9c1d3327 |archivedate=2024-06-01 |url-status=live }}</ref><ref>{{Cite web|和書|url=https://www.data.jma.go.jp/tokyo/shosai/news/pdf/2024/20240209_kansoku_jidou.pdf |format=pdf |title=地方気象台における目視観測通報を自動化します |publisher=東京管区気象台 |date=2024-02-09 |access-date=2024-06-01 }}</ref>。
日本では、「塵または砂」が強風により空中高く舞い上がっていて、視程1キロメートル未満のときに天気を「砂じんあらし」とする<ref>[[気象庁]] 『[https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/kansoku_guide/tebiki.pdf 気象観測の手引き 平成10年(1998年)9月]』、2012年12月29日閲覧。</ref><ref>気象庁 「[https://www.jma.go.jp/jma/kids/faq/a5_51.html はれるんライブラリー 質問一覧 天気図の記号って何種類あるのですか?それと、どんなのがあるのですか?]」、「{{PDFLink|[https://www.jma.go.jp/jma/kids/faq/kigou.pdf 天気図記号の例]}}」、2012年12月29日閲覧。</ref>。


砂嵐・砂塵嵐の強さを[[粒子状物質]]PM10やPM2.5の濃度で表すこともある。濃い砂塵嵐ではPM2.5の1時間あたり最大濃度が1000[[マイクログラム毎立方メートル]](μg/m<sup>3</sup>)を超え、猛烈なものではPM10が15,000 μg/m<sup>3</sup>を超えることがある{{Sfn|Nick|Utchang|2017|p=2}}。
== 観測 ==
日本では、天気を自動で判別する機械が導入され、目視[[気象観測|観測]]を2019年2月から順次終了したことに伴い、「砂じん嵐」の記録を終了した<ref>{{Cite web|和書|title=天気の「快晴」がなくなった 「歴史的転換」迎えた観測:朝日新聞デジタル|url=https://www.asahi.com/articles/ASN427F3CN3RUTIL02L.html|website=朝日新聞デジタル|accessdate=2020-04-03|language=ja}}</ref>。


== 発生 ==
== 発生機構 ==
[[File:KelsoSand.JPG|thumb|200px|(粗粒の)砂嵐]]
[[北アメリカ]]の[[グレートプレーンズ]]、[[アラビア半島]]、[[ゴビ砂漠]]、[[タクラマカン砂漠]]、[[サハラ砂漠]]などにおけるものが有名である。地表の乾燥した地域では珍しい現象ではなく、砂嵐の多い地域では、1日に数回も発生したり、1回の砂嵐が数日間続いたりする例もある。一般的に砂漠と呼ばれる地域ではほぼ例外なく砂嵐が発生しうるが、地表面の状態によっては発生しにくい砂漠もある。
[[File:Dust storm approaching @ Inata Gold Mine - panoramio.jpg|thumb|200px|[[アーチ雲]]に平行な砂塵の壁]]
[[File:Phoenix DustStorm.webm|thumb|200px|砂塵の壁の接近時の動画]]
狭義の砂嵐と砂塵嵐のプロセスや気象条件は以下の通り。


=== 砂嵐 ===
例えば、地表のほとんどが[[岩石]]で覆われていて砂塵の少ない岩石砂漠地帯では、強風が吹いても砂嵐は発生しにくい。また同様に、土砂漠や[[サバナ (植生)|サバンナ]]などで、[[雨期]]に入って湿ったり、[[植生]]に覆われたりして、[[土壌]]が固定されると砂嵐は発生しにくくなる。このような性質から、多くの地域では砂嵐に[[季節]]性があり、[[乾期]]の特に風の強い時期に、砂嵐が最も多く、激しくなる。
狭義の砂嵐では、飛散する砂の粒径はおおむね1 - 0.08 mm程度<ref name="ams2">{{Cite web|url=https://glossary.ametsoc.org/wiki/Sandstorm |title=sandstorm |work=[[#ams|AMS気象学用語集]] |date=2024-03-29 |accessdate=2024-06-01}}</ref>。移動のほとんどは跳ね上がる跳動の様式([[運搬作用]]参照)をとり、砂粒が跳ね上がる高さはふつう4 m以内で、15 mを超えることはほとんどないとされている{{R|ams2}}。[[地形学]]では砂が跳動と匍行で移動する現象を飛砂(sand drift)と定義し、弱い風、例えば[[風速]]10[[メートル毎秒]](m/s)では跳ね上がる高さは50 cm以内とされるが{{Sfn|松倉|2021|pp=237-238}}、より強い風で多量の飛砂が生じているものを(狭義の)砂嵐に位置付けることができる{{Sfn|地形学辞典|1981|p=301|ps=「砂嵐」(著者:[[小野有五]])}}{{Sfn|松倉|2021|pp=238}}。


なお、飛砂の量は風速の3乗(あるいは[[摩擦速度]]の3乗と同等)に比例することが分かっている{{Sfn|松倉|2021|pp=237-238}}。
砂嵐の原因には大きく2つある。1つは地表面の状態であり、乾燥しているほど、土壌[[粒子]]が細かいほど、土壌が柔らかく移動性の砂塵層が厚いほど、砂嵐は発生しやすい。もう1つは天候の状態である。ある程度の広範囲に強風が吹くと、砂嵐が発生する。地形の影響で差があるが、多くの乾燥地域では、風速約10[[メートル毎秒|メートル/s]]以上の風が吹き続ける天候下では砂嵐が発生しやすいとされている。一般的に、[[低気圧]]の接近や[[寒冷前線]]の通過による強風が、砂嵐を発生させる。また、[[大気不安定|大気が不安定]]な状況下で局地的に[[突風]]が吹いて、砂嵐を発生させることもある。


狭義の砂嵐は、固結せずあまり塵の粒子(ダスト粒子、シルト以下の粒子)と混交していないような緩い砂が広がる砂漠地帯、特に[[砂丘]]で発達しやすい{{R|ams2}}。狭義の砂嵐が生じる範囲は砂塵嵐より狭く、砂丘の侵食などを生じるが局所的である{{Sfn|Nick|Utchang|2017|p=2}}。地表の加熱に伴い風が強まる効果により、日中に発生し夜間に消滅することが多い傾向がある{{R|ams2}}。
大抵の場合、砂嵐の中は周囲よりも[[温度|高温]]で乾燥している。砂嵐の中に含まれる砂塵が空気中の[[水分]]を奪うとともに、空気へと熱を放出するためである。しかし、時に[[雨]]を伴った砂嵐が発生することがあり、湿った砂嵐も存在する。


ただし、狭義の砂嵐は主に突風によって生じ、その発生頻度は通常の風の頻度と必ずしも相関しない{{Sfn|地形学辞典|1981|p=301|ps=「砂嵐」(著者:[[小野有五]])}}。
発生点から砂嵐の発生を見た場合、地表付近からにわかに砂が舞い上がり始めて[[濃度]]が増していく様子が観察される。一方、少し離れた地点からやってくる砂嵐を見た場合、砂嵐の塊、いわゆる「砂の壁」が迫ってくる様子が観察される。弱い砂嵐は地表から上空数十[[メートル]]程度までしか砂塵が舞い上がらないが、強い砂嵐の場合は上空2,000~5,000メートル程度まで達する。ただし、粒子が大きいものは高く上がらないので、濃い砂嵐は大体高さ数百m程度になるのが普通である。


=== 砂塵嵐 ===
[[昼|昼間]]でも[[視程|視界]]が数メートルになるような濃い砂嵐であっても、低気圧などの強風帯とともに数百~数千[[キロメートル]]を移動して各地に被害をもたらすことがしばしばある。発生地では砂丘がごっそり数キロメートル移動してしまうような場合もある。飛来地でも、数糎もの砂が積もり、町の景色が一変するような場合がある。一般的に、砂嵐が濃いと日光が[[散乱]]されるため周囲が赤みを帯びてきて、さらに濃くなると日光が完全に遮られて[[夜]]のように暗くなる。
砂塵嵐(塵嵐)では、強い風によって粒子は上空高く数千 mに吹き上げられる浮遊の移動様式(運搬作用参照)をとり遠くまで移動する{{Sfn|松倉|2021|pp=237-238}}。一部の粗粒な砂も浮遊運動が見られるものの{{Sfn|松倉|2021|pp=237-238}}、大きな粒子ほどすぐに地表に落ちる傾向がある{{Sfn|Nick|Utchang|2017|p=2}}。ふつう浮遊して運ばれるのはシルト以下の細粒の粒子{{Sfn|松倉|2021|pp=237-238}}。文献によって多少差があるが、例えば発生源から100 km以上運ばれる粒子はおおむね粒径20 μm未満{{Efn|出典における被引用文献は<ref>{{Cite book|author=Gillette, D.A. |url=https://scope.dge.carnegiescience.edu/SCOPE_14/SCOPE_14.html |title=Environmental factors affecting dust emission by wind erosion |chapter=Scope.14-Chapter.2.4 |editor=Morales, C. |journal=Saharan dust |publisher=John Wiley & Sons |location=Chichester, UK |year=1979 |pages=71–91 |isbn=0-471-99680-7 }}</ref>。}}などとされる{{Sfn|Nick|Utchang|2017|p=2}}。


砂塵嵐を発生させる気象要因として、[[低気圧]]の接近や[[前線 (気象)|前線]]の通過による強風と、昼の日射による不安定が挙げられる{{Sfn|沙漠の事典|2009|p=33|ps=「砂塵嵐」(著者:甲斐憲次)}}。
屋外で砂嵐に遭遇した場合、砂が体に付着したり吸い込んだりすることで不快感を覚えたり、吸い込んだ砂が気道や肺に達することで健康に影響が及んだりすることがある。これらに対処するため、砂嵐のときには外出を控えるなどし、やむを得ず外出する場合は、体の広範囲を覆える長袖の衣服を着用したり、帽子やスカーフ、布などで頭を覆って砂の侵入を防いだりする対策がとられる。砂嵐の常襲地域である中東などでは、砂の侵入が少ない、一枚布や体を広く覆える形状の衣装が一般化している。


低気圧や前線に伴う砂塵嵐は、広範囲に砂塵を巻き上げ、発生の初期には(前記とは別の)前線状の構造が現れることがある{{Sfn|沙漠の事典|2009|p=33|ps=「砂塵嵐」(著者:甲斐憲次)}}。少し離れた地点から見た場合、その進行してくる前面は幅が広く背の高い茶色の壁"dust wall"(砂塵の壁{{Small|(仮訳)}})となって、これが迫ってくる様子が観察される{{R|jmag1}}{{Sfn|気象科学事典|1998|pp=272-273|ps=「砂あらし」(著者:大野久雄)}}。
粒子の細かい砂塵は、高く舞い上がって上空の強い気流に乗り、長距離を移動する。アラビア半島やゴビ砂漠、サハラ砂漠などの砂嵐は大規模な長距離移動をすることで知られており、砂嵐とは無縁にも思える、温帯や熱帯の湿潤地帯にも届いて砂塵を降らせることがある。

砂塵の壁は、水平方向の長さ数百 mから数 km、高さ1 - 2 kmほどに達することがある{{R|ams1}}{{Sfn|気象科学事典|1998|pp=272-273|ps=「砂あらし」(著者:大野久雄)}}。壁の通過に伴い、日中でも[[夜]]のように暗くなることがある{{Sfn|沙漠の事典|2009|p=33|ps=「砂塵嵐」(著者:甲斐憲次)}}。このような砂塵嵐は'''ハブーブ'''(haboob)とも呼ばれる<ref name="ams3">{{Cite web|url=https://glossary.ametsoc.org/wiki/Haboob |title=haboob |work=[[#ams|AMS気象学用語集]] |date=2024-03-30 |accessdate=2024-06-01}}</ref>。

砂塵の壁の後方に[[積乱雲]]が控えることもある{{Sfn|気象科学事典|1998|pp=272-273|ps=「砂あらし」(著者:大野久雄)}}。[[ドライライン]]の通過に伴う場合{{R|ams3}}、侵入してくる寒気の前面に雲を伴わず発生する場合もある{{R|jmag1}}。

積乱雲からの冷気外出流やその先端の[[ガストフロント]]は[[密度流|重力流]]の性質をもち、その運動が砂塵嵐発生のきっかけのひとつとなっている{{Sfn|気象科学事典|1998|pp=249-250|ps=「重力流」(著者:[[新野宏]])}}。また、砂塵の壁の垂直な表面に観察される小さな出っ張り(ローブ)と裂け目(クレフト)の構造は、重力流の先端に生じる凹凸構造を可視化したものとなっていてその性質をよく表している{{Sfn|気象科学事典|1998|pp=249-250|ps=「重力流」(著者:[[新野宏]])}}。

砂塵の壁の前方の空気は、ふつう高温で風は弱い{{R|ams1}}。壁が頭上を通過して砂塵の中に入ると、視程は急激に低下し風が強まる{{R|ams3}}。

ガストフロントなどに伴う砂塵の壁は、[[総観気象学|総観規模]]の擾乱(低気圧など)の下で起こる砂塵の壁に比べると、持続時間は短いことが多いが、より濃い砂嵐となる場合がある{{R|ams1}}。

なお進行する砂塵の壁の前方には[[塵旋風]]ができることがある。離れていくものもあれば、砂塵の壁に取り込まれるものもある{{R|ams1}}。

一方乾燥地域では、日中加熱により地面付近の大気の不安定度が増してしばしば塵旋風が生じ、[[大気境界層|混合層]]内に砂塵を巻き上げて砂塵嵐を生じさせる。特に夏期の晴れた午後にはこれが毎日繰り返される{{Sfn|沙漠の事典|2009|p=33|ps=「砂塵嵐」(著者:甲斐憲次)}}。

=== その他の砂塵嵐の性質 ===
砂嵐が濃いと日光が[[散乱]]されるため周囲が赤みを帯びてきて、さらに濃くなると日光が完全に遮られて夜のように暗くなる。

砂塵嵐は乾燥した土地で発生する{{Sfn|地形学辞典|1981|p=416|ps=「塵嵐」(著者:小野有五)}}。狭義の砂嵐と異なり、耕作可能な土地で少雨が続き乾燥したときにも発生する{{R|ams1}}。

(狭義の)砂嵐や砂塵嵐の継続時間は、数時間程度のものもあれば数日続くものもある{{Sfn|Nick|Utchang|2017|p=2}}。

砂嵐や砂塵嵐の強度や頻度は、乾燥に伴い[[季節]]的に変化する。より長期的な変化もみられる{{Sfn|Nick|Utchang|2017|p=2}}。

砂塵嵐の成分は主に[[シリカ]]で多くは[[石英]]の形で含まれ、ほかに[[アルミニウム]]、[[鉄]]、[[カルシウム]]、[[マグネシウム]]、[[カリウム]]、[[塩 (化学)|塩類]]が含まれる{{Sfn|Nick|Utchang|2017|p=3}}。[[有機化合物|有機物]]、[[細菌]]などの[[微生物]]、人為的な[[大気汚染|大気汚染物質]]なども含まれる{{Sfn|Nick|Utchang|2017|p=3}}。

=== 長距離移動 ===
砂塵嵐は発生地から数千 km運ばれ、国境をまたいで[[ちり煙霧]]を生じさせる{{Sfn|Nick|Utchang|2017|p=2}}。これは[[堆積学]]の観点からは広域に運搬される風成塵となる{{Sfn|松倉|2021|pp=237-238}}{{Sfn|松倉|2021|pp=245-246}}。

発生地から離れるに従い濃度は低下していき、風下へ移動しながら乾性・湿性沈着のプロセスで固定されていく{{Sfn|Nick|Utchang|2017|p=2}}{{Efn|[[大気汚染#輸送・拡散]]、[[:en:Deposition (aerosol physics)]]も参照。}}。

例えば、[[サハラ砂漠]]では塵(ダスト)の粒子は高さ約2,500 mに達し、北東風の[[ハルマッタン]]に乗り西に流れ、平均20 m/sで約6000 kmを移動する。塵の中央粒径は、供給源から1,000 kmで20 μm、2,000 kmで20 - 8 μm、5,000 kmで2 μmという報告があるように、遠くに到達するものほど小さくなっていく{{Sfn|松倉|2021|pp=245-246}}。[[タクラマカン砂漠]]の地表の塵粒子は中央粒径70 - 20 μmで、地表付近に6 - 10 m/sの風が吹くとき数千m上空まで舞い上がる{{Sfn|松倉|2021|pp=245-246}}。中国[[黄土高原]]の[[黄土]](レス)は中央粒径約40 - 10 μm、[[黄砂]]として日本に到達するものは約15 - 3 μm{{Sfn|松倉|2021|pp=245-246}}。

砂塵嵐がもとで遠方に運ばれた塵の粒子は、[[雨]]に混じって降ることもある(塵雨)。この雨は赤みや黄色みを呈する{{Sfn|地形学辞典|1981|p=416|ps=「塵嵐」(著者:小野有五)}}。

== 砂嵐の影響と対応 ==
(狭義の)砂嵐や砂塵嵐の主な影響を挙げる。塵の粒子が漂う大気環境では、[[呼吸器疾患]]や[[心血管疾患]]を筆頭として健康への影響が生じる{{Sfn|Nick|Utchang|2017|p=1}}。農作物は損傷を受けたり、生育に必要な肥沃な表土を吹き飛ばされたりする{{Sfn|Nick|Utchang|2017|p=1}}。砂塵嵐による視界不良は交通事故のリスクを上げ、交通機関の停止なども生じる{{Sfn|Nick|Utchang|2017|p=1}}。生活や産業における砂塵の清掃は経済的負担にもなっている{{Sfn|Nick|Utchang|2017|p=1}}。

砂塵を防ぐ格好として、長袖の衣服や帽子、スカーフなどが挙げられる。中東などでは、砂の侵入が少ない、一枚布や体を広く覆える形状の衣装が一般化している。

なお、乾燥地域に住む住民の半数である約10億人の人々は[[貧困|貧困層]]とされ、経済的に天然資源に依存しており環境変化の影響を受けやすい{{Sfn|Nick|Utchang|2017|p=10}}。

砂塵嵐の監視や予測も行われている。観測網が構築され、予測モデルに必要な発生の物理過程がよく理解されていることが必要であるが、いくつかの地域で予報が運用されている。[[世界気象機関]]の砂塵嵐警戒評価システム(SDS-WAS)は各国の取り組みを支援するもので、2015年時点でこれを受けた15の機関が毎日の予報を提供している{{Sfn|Nick|Utchang|2017|p=9-11}}。

また、予報に基づいて[[報道]]や[[携帯端末]]への通知を行う[[早期警報システム]]を運用しているところもある。[[大韓民国|韓国]]には黄砂の注意報・警報を通知するシステムがある{{Sfn|Nick|Utchang|2017|pp=9-11}}。健康影響の観点でも、このような通知や[[空気質指数|空気質の悪化]]の報道が行われることは、[[大気汚染]]物質への曝露を減らす行動変化に繋がるとする報告がいくつかある{{Sfn|Nick|Utchang|2017|pp=9-11}}。

砂塵嵐との関連が指摘されている特定の疾病もある。「髄膜炎ベルト」とも呼ばれる[[サヘル]]地域における[[髄膜炎]]の流行は、ハルマッタンに伴う砂塵嵐との相関を示す報告、その因果関係を示す仮説が報告されている。一方、砂塵嵐自体ではなく、これが多い時期に人々が密集することが原因とする説もある{{Sfn|Nick|Utchang|2017|pp=11-12}}。

[[アメリカ合衆国南西部|アメリカ南西部]]の州間高速道路では砂塵嵐、特にハブーブによる視界不良を電子標識により利用者に警告するシステムがある{{Sfn|Nick|Utchang|2017|pp=11-12}}。

このほか、砂塵嵐が陸と海の両方で、[[栄養塩]]の移動などの[[生物地球化学的循環]]や、[[水質]]、[[気候]]などに影響を及ぼすことが知られている{{Sfn|Nick|Utchang|2017|p=1}}。[[大気放射]]や[[大気物理学#雲物理学|雲物理]]過程における土壌[[大気エアロゾル粒子|エアロゾル]]の効果は、気候変動の重要な研究テーマのひとつである{{Sfn|沙漠の事典|2009|p=33|ps=「砂塵嵐」(著者:甲斐憲次)}}。

== 発生地と影響地 ==
砂塵嵐の発生地を地球規模で見ていく。単位面積当たりの発生量が多い砂塵嵐が活発なところは北半球に偏っていて、[[北アフリカ]]の[[北西アフリカ|西海岸]]から[[中東]]、[[南アジア]]、[[中央アジア]]、[[北東アジア]]の乾燥地帯に連なって分布する。この帯を"dust belt"(ダストベルト)と呼ぶこともある。北アメリカの[[グレートベースン]]、南アメリカの[[アタカマ砂漠]]、[[南部アフリカ]]、[[オーストラリア大陸]]中央部などにも分布するが発生量は少なく、影響は地域的である{{Sfn|Nick|Utchang|2017|p=3}}。

人口や家畜のデータを加味した分析も行われている。これによると、砂塵嵐の人口リスクが高い地域は、[[サハラ砂漠]]の南東部・南西部・北西部、[[ルブアルハリ砂漠]]の北部・南東部、インド西部の[[タール砂漠]]周辺、[[イラン]]と[[トルコ]]にまたがる砂漠地帯、[[タクラマカン砂漠]]、[[中華人民共和国|中国]]・[[モンゴル]]の農牧地域と[[ゴビ砂漠]]、[[アメリカ合衆国南西部]]の砂漠地帯、[[グレートプレーンズ]]から[[メキシコ]]北部、南アメリカの西海岸、[[ブラジル]]北東部が挙げられる{{Sfn|Nick|Utchang|2017|p=3}}。家畜のリスクが高いのは、サハラ砂漠、[[アラビア砂漠]]南部、タール砂漠、イランと[[トルキスタン]]地域の砂漠、タクラマカン砂漠、ゴビ砂漠、オーストラリアの中央部・南部、北アメリカの砂漠、グレートプレーンズ中央部、メキシコ北部、南アメリカの西海岸・北東部の各乾燥地帯に隣接する地域が挙げられる{{Sfn|Nick|Utchang|2017|p=3}}。

また、主に非乾燥地帯の農地で、適切な管理が行われないことに起因する[[風食]](土壌劣化と言及されることもある)が生じている地域がある。[[地中海]]沿岸の半乾燥地や北半球の温帯に分布していて、ヨーロッパの農地では問題となっていている{{Sfn|Nick|Utchang|2017|p=3}}。水資源の過剰使用により干上がった[[湖]]底や地下水が後退したその周辺域が、砂塵嵐の新たな発生地となる例も多くみられる{{Sfn|Nick|Utchang|2017|p=9}}。

狭義の粗粒の砂嵐は例えば、サハラ砂漠北部では前線の南下する冬に、南部でもハルマッタンが強くなる冬に強い砂嵐が多くなる。これに対してサハラ砂漠中央部には砂嵐の年間発生日20日以下の地域が分布するが、砂が少ない[[礫砂漠]](レグ)が広く分布することが原因と考えられている{{Sfn|地形学辞典|1981|p=301|ps=「砂嵐」(著者:[[小野有五]])}}。
中央アジアの乾燥地帯では、大きな昼夜の気温差に起因する突風が砂嵐をよく発生させ、容易に移動する[[バルハン]](三日月型砂丘)の形成に寄与している{{Sfn|地形学辞典|1981|p=301|ps=「砂嵐」(著者:[[小野有五]])}}。

サハラ砂漠の塵(ダスト)の粒子は北アメリカや南アメリカに到達するほか、[[北ヨーロッパ]]でも観測される{{Sfn|Nick|Utchang|2017|p=3}}。地中海沿岸に分布する土壌[[テラロッサ]]では、母岩である石灰岩が変質して土壌化する過程にサハラ砂漠由来の風成塵が関与している{{Sfn|土の百科事典|2014|p=493|ps=「風成塵」(著者:東照雄)}}。サハラ砂漠の塵が及ぼす影響は、土壌形成のほか、[[サンゴ礁]]の健康度、[[降水量]]、[[海面水温]]、[[ハリケーン]]の活動などさまざまなものが研究されている{{Sfn|Nick|Utchang|2017|p=3}}([[:en:Saharan dust|Saharan dust]]も参照)。

[[南極]]にはオーストラリアや南アメリカ[[パタゴニア]]由来の風成塵が堆積している{{Sfn|Nick|Utchang|2017|p=3}}。その堆積量は[[氷期]]に増加するため{{Sfn|地形の辞典|2017|pp=769-770|ps=「風成塵」(著者:成瀬敏郎)}}、[[氷床コア]]中の風成塵から得られるデータは、10から100年の精度で解析でき変動に対する応答が早い[[古気候]]の指標となっている{{Sfn|土の百科事典|2014|pp=930-931|ps=「レス」(著者:太田武洋、成瀬敏郎)}}。古いものでは74万年前まで遡る([[:en:European Project for Ice Coring in Antarctica|EPICA]]/Dome C){{Sfn|土の百科事典|2014|pp=930-931|ps=「レス」(著者:太田武洋、成瀬敏郎)}}。

非乾燥地帯でも、例えば[[ウクライナ]]の農地からの塵(ダスト)の粒子は中央ヨーロッパに到達している{{Sfn|Nick|Utchang|2017|p=3}}。


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File:Tormenta de arena en Jemaa el Fna.jpg|[[モロッコ]]・[[マラケシュ]]の砂嵐
Tormenta de arena en Jemaa el Fna.jpg|[[モロッコ]]・[[マラケシュ]]の砂
Dust storm Dubai.JPG|砂塵嵐にかすむ[[ドバイ]]のビル群
File:Haboob, Taji, Iraq, 2006.JPG|[[イラク]]の砂嵐
File:Dust storm Dubai.JPG|砂嵐にかすむ[[ドバイ]]のビル群
Sydney Dust Storm 6am.JPG|朝日に赤く染まる(2009年9月、[[ニー]]
File:Redsea sandstorm May13-2005.jpg|紅海を横断する砂嵐の帯
Redsea sandstorm May13-2005.jpg|[[紅海]]を横断する砂嵐の帯
2003 Mitsubishi Mirage (CE2 MY02) 3-door hatchback (2009-09-25).jpg|車に積もった砂
File:Sydney Dust Storm 6am.JPG|朝日に赤く染まる砂嵐、2009年9月シドニーにて
Sand Storm.jpg|砂塵嵐による道路の視界不良
File:2003 Mitsubishi Mirage (CE2 MY02) 3-door hatchback (2009-09-25).jpg|車に積もった砂
Man in sandstorm, Afghanistan.jpg|砂塵嵐から頭部を守るために布をかぶった男性
File:2009 Australian dust on car.jpg|雨に流されて車のボディーにこびりついた砂
File:Man in sandstorm, Afghanistan.jpg|砂嵐から頭部を守るために布をかぶった男性
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== 砂嵐の地方名 ==
=== 地方名 ===
各地の砂嵐や砂嵐をもたらすには、固有名詞がついたものも多い
そのものや砂嵐をもたらす風には、固有名詞がついたものがある
*[[ハブーブ]] - [[スーダン]]。アラビア語由来の言葉で、アメリカなどでも強風に伴い発生し砂塵の壁をつくるような砂塵嵐を表す気象用語となっている{{R|ams3}}。
*[[ハブーブ]] - [[北アフリカ]]、[[中東]]。アメリカでは砂嵐を伴った強風を表す気象用語として採用されている<ref name="amsg2">アメリカ気象学会 ''Glossary of Meteorology'' "[http://amsglossary.allenpress.com/glossary/search?id=haboob1 haboob]"、2012年12月29日閲覧。</ref>。
*[[シャマール]] - イラン、イラク、アラビア半島。6月から7月頃に多くなる、高温で乾燥した砂塵を伴う北・北西の風<ref>{{Cite web|url=https://www.britannica.com/science/shamal |title=shamal |work=Encyclopædia Britannica([[ブリタニカ百科事典]]) |date=1998-07-20 |accessdate=2024-06-03}}</ref>。
*[[シャマール]] - [[ペルシャ湾]]沿岸
*[[ハムシン]] - 北アフリカ、アラビア半島。主に晩秋から初冬に吹く、温かく乾燥した砂塵を伴う南寄りの風<ref>{{Cite web|url=https://www.britannica.com/science/khamsin |title=khamsin |work=Encyclopædia Britannica |date=2013-09-19 |accessdate=2024-06-03}}</ref>。
*[[ハムシン]] - 北アフリカ、[[アラビア半島]]
*[[シムーン]] - サハラ地域、アラビア半島。非常に高温で著しく乾燥した風で、熱中症のリスクが高い<ref>{{Cite web|url=https://www.britannica.com/science/simoom |title=simoom |work=Encyclopædia Britannica |date=2011-01-17 |accessdate=2024-06-03}}</ref>。
*[[シムーン]] - 北アフリカ、中東
*[[ギブリ]] - [[リビア]]で内陸から地中海沿岸に向かって吹く。主に春から初夏に吹く、高温で乾燥した塵交じりの風<ref>{{Cite web|url=https://www.britannica.com/science/ghibli |title=ghibli |work=Encyclopædia Britannica |date=2012-06-19 |accessdate=2024-06-03}}</ref>。[[モロッコ]]でも同様の風ギブラが吹く<ref>{{Cite web|url=https://www.britannica.com/science/ghibli |title=Ghibli |work=[[#ams|AMS気象学用語集]] |date=2024-03-29 |accessdate=2024-06-03}}</ref>。
*[[ギブリ]] - [[リビア]]
*[[シロッコ]] - 地中海北部・南ヨーロッパ。元は乾燥しているが北アフリカからやってくる途中に変質した、暖かく湿った塵交じりの南・南東寄りの風。霧や雨を伴うこともある<ref>{{Cite web|url=https://www.britannica.com/science/sirocco-wind |title=sirocco |work=Encyclopædia Britannica |date=2008-11-26 |accessdate=2024-06-03}}</ref><ref>{{Cite web|url=https://glossary.ametsoc.org/wiki/Sirocco |title=sirocco |work=[[#ams|AMS気象学用語集]] |date=2024-03-30 |accessdate=2024-06-03}}</ref>。
*[[シロッコ]] - [[イタリア]]
*lebeche({{Small|[[:es:Lebeche|スペイン語版]]}}) - スペイン東部[[レバンテ地方]]で春に吹く、高温で乾燥した砂塵を伴う東風<ref>{{Cite web|url=https://www.britannica.com/place/Spain/Climate#ref587888 |title=Climate of Spain |work=Encyclopædia Britannica |date=2024-04-14 |accessdate=2024-06-03}}</ref>。
*[[ハルマッタン]] - [[西アフリカ]]
*[[ハルマッタン]] - サハラ西部地域。主に晩秋から冬に吹く、冷涼で乾燥した大量の砂塵を伴う北東・東の風。砂塵は大西洋を越えて運ばれ、航行する船に積もったり航空機の運航に影響を与えたりする<ref>{{Cite web|url=https://www.britannica.com/science/harmattan |title=harmattan |work=Encyclopædia Britannica |date=2019-01-18 |accessdate=2024-06-03}}</ref>。
*[[ブリックフィールダー]] - [[オーストラリア]]
*{{仮リンク|サンタ・アナ (風)|label=サンタ・アナ|en|Santa Ana winds}} - アメリカカリフォルニア州南部で砂漠から周辺に向かって吹く。主に晩秋から冬に吹く、高温で乾燥した砂塵を伴う風<ref>{{Cite web|url=https://glossary.ametsoc.org/wiki/Santa_ana |title=Santa Ana |work=[[#ams|AMS気象学用語集]] |date=2024-03-29 |accessdate=2024-06-03}}</ref>。
*[[黄砂]] - [[東アジア]]
*[[ゾンダ]] - [[アルゼンチン]]。冬を中心に吹く温かい[[フェーン]]風で、乾季には砂塵を伴う<ref>{{Cite web|url=https://www.britannica.com/science/zonda |title=Zonda |work=[[#ams|AMS気象学用語集]] |date=2024-03-31 |accessdate=2024-06-03}}</ref>。
*[[黄砂]] - 東アジアの内陸部の砂漠や乾燥地域から発生し風に運ばれてくる塵の粒子のこと{{Sfn|沙漠の事典|2009|p=32|ps=「黄砂」(著者:三上正男)}}。中国北部では冬を中心に塵を伴った冷涼な強い西風が吹き、東アジア一帯に広がる<ref>{{Cite web|url=https://glossary.ametsoc.org/wiki/Yellow_wind |title=yellow wind |work=[[#ams|AMS気象学用語集]] |date=2024-03-31 |accessdate=2024-06-03}}</ref>。春や秋には飛来する塵が[[靄]]となる<ref>{{Cite web|url=https://glossary.ametsoc.org/wiki/Bai |title=bai |work=[[#ams|AMS気象学用語集]] |date=2024-03-26 |accessdate=2024-06-03}}</ref>。
*カラブラン - 中央アジア。春から夏に吹く、大量の砂塵を伴う北東の風<ref>{{Cite web|url=https://glossary.ametsoc.org/wiki/Karaburan |title=karaburan |work=[[#ams|AMS気象学用語集]] |date=2024-03-26 |accessdate=2024-06-03}}</ref>。
*peesash, peshash, pisacheeなど - インド。高温で乾燥した砂塵を伴う風<ref>{{Cite web|url=https://glossary.ametsoc.org/wiki/Peesash |title=peesash |work=[[#ams|AMS気象学用語集]] |date=2024-03-29 |accessdate=2024-06-03}}</ref>。
*Kali Andhi({{Small|[[:hi:काली_आँधी|ヒンディー語版]]}}) - インド北西部で主に雨期前の晩春に発生する、突風に伴う激しい砂嵐<ref>{{Cite web|url=https://www.weatheronline.co.uk/reports/wind/The-Andhi.htm |title=Andhi (Kali Andhi) |website=WeatherOnline |date=2024-03-29 |accessdate=2024-06-03}}</ref>。


== 顕著な砂嵐被害の例 ==
== 顕著な被害の例 ==
[[File:Dust storm approaching Stratford, Texas.jpg|right|thumb|200px|ダストボウルの時期の砂塵嵐(アメリカテキサス州、1935年)]]
{{節スタブ}}
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* [[1930年代]] - [[アメリカ合衆国|アメリカ]] グレートプレーンズ - 急速な農地拡大大量の耕作放棄地が発生し乾燥により砂塵嵐が頻発した。[[ダストボウル]]と呼ばれている。
* [[1930年代]] - アメリカ グレートプレーンズ - 急速な農地拡大により地表が根浅い植物で占められ起の効果もあって表土の侵食や流失進行、過剰耕作による水不足も発生した。乾燥により砂塵嵐が頻発し、大量の農地が表土むき出しのまま放棄され、その発生に拍車をかけた。[[ダストボウル]]と呼ばれている{{Sfn|Nick|Utchang|2017|pp=12-13}}<ref>{{Cite web|author1=Chris Johnson |author2=Matthew D. Affolter |author3=Paul Inkenbrandt |author4=Cam Mosher |url=https://geo.libretexts.org/@go/page/6868 |title=An Introduction to Geology |chapter=5.4. Weathering and Erosion |language=en |publisher=Salt Lake Community College |website=LibreTexts Geosciences |date=2023-11-07 |accessdate=2024-06-10 }}</ref>
* [[1993年]] - [[5月5日]] 中国北西部[[寧夏回族自治区]]、[[内モンゴル自治区]][[アルシャー盟]]、[[甘粛省]] - 「黒風暴」と呼ばれる激しい砂塵嵐が集落を襲い、耕地21万[[ヘクタール]]、森林18万ヘクタールが被災、電柱倒壊による停電、鉄道や道路の埋没も発生した。家畜の死亡・行方不明48万頭、負傷者386人、死者・行方不明者112人に上り、記録が残る中で中国史上最悪の砂塵嵐であった<ref>環境省・海外環境協力センター 黄砂問題検討会『[https://www.env.go.jp/air/dss/report/01/index.html 黄砂問題検討会中間報告書]』、2004年9月、2012年12月29日閲覧。</ref>。
* [[1993年]] - [[5月5日]] 中国北西部[[寧夏回族自治区]]、[[内モンゴル自治区]][[アルシャー盟]]、[[甘粛省]] - 「黒風暴」と呼ばれる激しい砂塵嵐が集落を襲い、耕地21万[[ヘクタール]]、森林18万ヘクタールが被災、電柱倒壊による停電、鉄道や道路の埋没も発生した。家畜の死亡・行方不明48万頭、負傷者386人、死者・行方不明者112人に上り、記録が残る中で中国史上最悪の砂塵嵐であった<ref>環境省・海外環境協力センター 黄砂問題検討会『[https://www.env.go.jp/air/dss/report/01/index.html 黄砂問題検討会中間報告書]』、2004年9月、2012年12月29日閲覧。</ref>。
* [[2012年]] - [[3月13日]] アメリカ [[ワシントン州]] - アメリカの都市では珍しい大規模な砂塵嵐が来襲。視界がゼロに近い状態になり、交通事故が多発した<ref>{{Cite news
* [[2012年]] - [[3月13日]] アメリカ [[ワシントン州]] - アメリカの都市では珍しい大規模な砂塵嵐が来襲。視界がゼロに近い状態になり、交通事故が多発した<ref>{{Cite news
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|accessdate=2011-03-29
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== 緩和策 ==
飛砂など大規模な自然要因の砂塵嵐の発生を防ぐことは難しく、発生のたびに対処していくことが現実的である。一方、特に非乾燥地帯での風食の形をとる砂塵嵐は、対策によって発生を低減することが可能と考えられている{{Sfn|Nick|Utchang|2017|pp=6-8}}。

例えば、乾燥の強い土地では前回の作付けの[[土壌有機物|植物残渣]]をわずかに残すだけで比較的高い飛散防止の効果が得られる。[[不耕起栽培]]は風食抑制に加えて管理効率が向上する効果もあるとされる。土地利用の効率化のため除去される傾向にある[[防風林]]を維持することも効果がある{{Sfn|Nick|Utchang|2017|pp=6-8}}。[[過放牧]]を防ぎ草原を回復させる取り組みは、特に中国で政策的に多く導入されている{{Sfn|Nick|Utchang|2017|pp=6-8}}。

道路や鉄道の近くではフェンスによる砂の侵入防止がしばしば行われる。砂地への人工的な被覆、土壌に適した[[草本]]・[[低木]]・[[高木]]を植えることも効果がある。なお緑化の初期には[[塩害|塩類]]の多い環境に耐える種を選ぶことが必要とされる{{Sfn|Nick|Utchang|2017|pp=8-9}}。


== 地球以外の砂嵐 ==
== 地球以外の砂嵐 ==
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=== 注釈 ===
=== 注釈 ===
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=== 出典 ===
=== 出典 ===
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== 参考文献 ==
* {{Cite book|和書|editor=町田貞 ほか |title=地形学辞典 |publisher=二宮書店 |year=1981 |month=07 |id={{全国書誌番号|81045253}} |doi=10.11501/9584324 |ref={{SfnRef|地形学辞典|1981}} }}
* {{Cite book|和書|editor=[[日本気象学会]] |title=気象科学事典 |publisher=東京書籍 |year=1998 |month=10 |isbn=4-487-73137-2 |ref={{SfnRef|気象科学事典|1998}} }}
* {{Cite book|和書|editor=日本沙漠学会 |title=沙漠の事典 |publisher=丸善出版 |year=2009 |month=07 |isbn=978-4-621-08139-6 |ref={{SfnRef|沙漠の事典|2009}} }}
* {{Cite book|和書|editor=土の百科事典編集委員会 |title=土の百科事典 |publisher=丸善出版 |year=2014 |isbn=978-4-621-08584-4 |ref={{SfnRef|土の百科事典|2014}} }}
* {{Cite book|和書|editor=[[日本地形学連合]]、鈴木隆介、砂村継夫、[[松倉公憲]] |title=地形の辞典 |publisher=朝倉書店 |year=2017 |isbn=978-4-254-16063-5 |ref={{SfnRef|地形の辞典|2017}} }}
* {{Cite journal|last=Nick |first=Middleton |last2=Utchang |first2=Kang |title=Sand and Dust Storms: Impact Mitigation |journal=[[:en:Sustainability (journal)|Sustainability]] |publisher=[[MDPI]] |year=2017 |volume=9 |issue=6 |page=1053 |doi=10.3390/su9061053 }}
* {{Cite book|和書|author=松倉公憲 |year=2021 |title=地形学 |publisher=朝倉書店 |isbn=978-4-254-16077-2 |ref={{Sfnref|松倉|2021}} }}
* {{Cite book|和書|url=https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/kansoku_guide/hpc.html |title=気象観測の手引き |edition=2訂 |publisher=[[気象庁]] |date=2007-12 |ref=jmag }}
* {{Cite book|title=Glossary of Meteorology(気象学用語集) |publisher=American Meteorological Society([[アメリカ気象学会]]) |language=en |ref=ams }}


== 関連項目 ==
== 関連項目 ==
{{Commons|Dust storm}}
{{Commons|Dust storm}}
* [[塵旋風]]
* [[塵旋風]] - 地表から垂直な漏斗のように砂塵が舞い上がる現象。
* [[風塵]]
* [[ダストボウル]] - 土地利用の失敗などにより、砂嵐が頻発したアメリカの例。
* [[風食]]
* [[スノーノイズ]] - 通称「砂嵐」。アナログテレビなどで見られる映像、及び音声にノイズが入る現象。
* [[運搬作用]]
* [[黄土]](レス)
* [[ダストボウル]]
* [[スノーノイズ]]


== 外部リンク ==
== 外部リンク ==
* {{Kotobank|砂塵嵐}}
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* [https://community.wmo.int/en/activity-areas/gaw/science-for-services/sds-was Sand and Dust Storm Warning Advisory and Assessment System (SDS-WAS)]{{En icon}} - 世界気象機関
* [https://www.unccd.int/land-and-life/sand-dust-storm/overview Sand & dust storms]{{En icon}} - [[国連砂漠化対処条約]]


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2024年6月23日 (日) 10:19時点における版

砂塵嵐に包まれた町(クウェート
迫ってくる砂塵嵐(ハブーブ)に伴う砂塵の壁。前面に凹凸構造が見えている。(アフガニスタン
航空機から見た砂塵嵐(ナミブ砂漠
大西洋を渡るサハラ砂漠の砂塵嵐の衛星画像

砂嵐(すなあらし)または砂塵嵐(さじんあらし)とは、強風により激しく吹き上げられ、空高くに舞い上がる現象。空中の砂塵により、見通しが著しく低下する。砂漠や半乾燥地において発生する[1][2][3][4]。なお砂嵐という語は、砂を主体とする狭義の砂嵐を指す場合と[1]、より広く砂塵嵐と同じものを指す場合とがある[1][2][3]

定義

土壌粒子(砕屑物)には粒径による「砂」(2 - 0.0625ミリメートル(mm))「シルト」(62.5 - 4マイクロメートル(μm))「粘土」(4 μm以下)の区分がある[5]。風に巻き上げられている地表物質が、砂を主体とするとき「砂嵐」(: sandstorm)、シルトを主体とするとき「塵嵐」(duststorm)と呼び分けることもある[1][6]。しかし、どの砂嵐・塵嵐も粒径の分布は連続的であるため、この区別は厳密なものではない[5]

気象観測における砂塵嵐(duststorm)は、塵や砂が強風により空中高く大量に吹き上げられ、目の高さの視程(見通し)が1キロメートル(km)未満となるものをいい、世界気象機関による共通の定義となっている[5][7]。猛烈な砂塵嵐では、視程がゼロとなることさえある[5]。なお、視程の低下が弱かったり、砂塵が目の高さより低い程度に吹き上げられたりしているものは風塵(blowing dust)という[5][7]。(前述の)狭義の砂嵐の視程が悪化したものが砂塵嵐[8]とも位置付けできる。

砂塵嵐に強度区分を設けている国もある。アメリカでは"duststorm"のうち視程が5/16マイル(約500 m)未満と極端に悪化したものを"severe duststorm"(激しい砂塵嵐)[9]とする。中国では"沙尘暴"(砂塵嵐)のうち視程が500 m未満のものを"强沙尘暴"、さらに50 m未満のものを"特强沙尘暴"とする[10]

研究や政策立案の場面でsandstormとduststormを総称するSand and dust storms (SDS) という用語を用いることもある[11]

観測

国際気象通報式[注釈 1]では、観測時に砂塵嵐があるかどうか、観測所付近になくとも遠方に見えるかどうか、砂塵嵐の3段階の強度、前1時間内の濃度変化(薄くなった/変化がない/濃くなった)、雷を伴うかどうかの組み合わせで区分される天気から選択して報告する。砂塵嵐の基本の記号は、弱または並の強度が、強い強度が(参考として、風塵は)。ただし、自動観測では「地ふぶき又は風じん」の視程1 km以上または1 km未満の区分だけが定義されている[12][13]

航空気象の通報式[注釈 2]では、「その他の現象」欄にて、sandstormを表すSSおよび、duststormを表すDSを用いて特記する。ほかに「視程障害現象」の欄のDUがちり、SAが砂を表し、「特性」の欄の低いを表すDR、高いを表すBLと組み合わせて用いる[14][15]

ラジオ気象通報などの日本式天気図における「砂じんあらし」の天気記号は「砂じんあらし」。観測時に視程1 km未満の砂塵嵐があって、雨や雪が降ったり、雷が鳴ったり霧が出ていないとき、天気を砂じんあらしと記録する[16][17]。なお日本では、気象台で目視により砂塵嵐などの観測を行っていたが、2019年から2024年にかけてほとんどの気象台で天気が自動観測に代替された影響で、東京と大阪を除き観測を終了している[18][19][20]

砂嵐・砂塵嵐の強さを粒子状物質PM10やPM2.5の濃度で表すこともある。濃い砂塵嵐ではPM2.5の1時間あたり最大濃度が1000マイクログラム毎立方メートル(μg/m3)を超え、猛烈なものではPM10が15,000 μg/m3を超えることがある[5]

発生機構

(粗粒の)砂嵐
アーチ雲に平行な砂塵の壁
砂塵の壁の接近時の動画

狭義の砂嵐と砂塵嵐のプロセスや気象条件は以下の通り。

砂嵐

狭義の砂嵐では、飛散する砂の粒径はおおむね1 - 0.08 mm程度[21]。移動のほとんどは跳ね上がる跳動の様式(運搬作用参照)をとり、砂粒が跳ね上がる高さはふつう4 m以内で、15 mを超えることはほとんどないとされている[21]地形学では砂が跳動と匍行で移動する現象を飛砂(sand drift)と定義し、弱い風、例えば風速10メートル毎秒(m/s)では跳ね上がる高さは50 cm以内とされるが[22]、より強い風で多量の飛砂が生じているものを(狭義の)砂嵐に位置付けることができる[1][23]

なお、飛砂の量は風速の3乗(あるいは摩擦速度の3乗と同等)に比例することが分かっている[22]

狭義の砂嵐は、固結せずあまり塵の粒子(ダスト粒子、シルト以下の粒子)と混交していないような緩い砂が広がる砂漠地帯、特に砂丘で発達しやすい[21]。狭義の砂嵐が生じる範囲は砂塵嵐より狭く、砂丘の侵食などを生じるが局所的である[5]。地表の加熱に伴い風が強まる効果により、日中に発生し夜間に消滅することが多い傾向がある[21]

ただし、狭義の砂嵐は主に突風によって生じ、その発生頻度は通常の風の頻度と必ずしも相関しない[1]

砂塵嵐

砂塵嵐(塵嵐)では、強い風によって粒子は上空高く数千 mに吹き上げられる浮遊の移動様式(運搬作用参照)をとり遠くまで移動する[22]。一部の粗粒な砂も浮遊運動が見られるものの[22]、大きな粒子ほどすぐに地表に落ちる傾向がある[5]。ふつう浮遊して運ばれるのはシルト以下の細粒の粒子[22]。文献によって多少差があるが、例えば発生源から100 km以上運ばれる粒子はおおむね粒径20 μm未満[注釈 3]などとされる[5]

砂塵嵐を発生させる気象要因として、低気圧の接近や前線の通過による強風と、昼の日射による不安定が挙げられる[25]

低気圧や前線に伴う砂塵嵐は、広範囲に砂塵を巻き上げ、発生の初期には(前記とは別の)前線状の構造が現れることがある[25]。少し離れた地点から見た場合、その進行してくる前面は幅が広く背の高い茶色の壁"dust wall"(砂塵の壁(仮訳))となって、これが迫ってくる様子が観察される[7][2]

砂塵の壁は、水平方向の長さ数百 mから数 km、高さ1 - 2 kmほどに達することがある[9][2]。壁の通過に伴い、日中でものように暗くなることがある[25]。このような砂塵嵐はハブーブ(haboob)とも呼ばれる[26]

砂塵の壁の後方に積乱雲が控えることもある[2]ドライラインの通過に伴う場合[26]、侵入してくる寒気の前面に雲を伴わず発生する場合もある[7]

積乱雲からの冷気外出流やその先端のガストフロント重力流の性質をもち、その運動が砂塵嵐発生のきっかけのひとつとなっている[27]。また、砂塵の壁の垂直な表面に観察される小さな出っ張り(ローブ)と裂け目(クレフト)の構造は、重力流の先端に生じる凹凸構造を可視化したものとなっていてその性質をよく表している[27]

砂塵の壁の前方の空気は、ふつう高温で風は弱い[9]。壁が頭上を通過して砂塵の中に入ると、視程は急激に低下し風が強まる[26]

ガストフロントなどに伴う砂塵の壁は、総観規模の擾乱(低気圧など)の下で起こる砂塵の壁に比べると、持続時間は短いことが多いが、より濃い砂嵐となる場合がある[9]

なお進行する砂塵の壁の前方には塵旋風ができることがある。離れていくものもあれば、砂塵の壁に取り込まれるものもある[9]

一方乾燥地域では、日中加熱により地面付近の大気の不安定度が増してしばしば塵旋風が生じ、混合層内に砂塵を巻き上げて砂塵嵐を生じさせる。特に夏期の晴れた午後にはこれが毎日繰り返される[25]

その他の砂塵嵐の性質

砂嵐が濃いと日光が散乱されるため周囲が赤みを帯びてきて、さらに濃くなると日光が完全に遮られて夜のように暗くなる。

砂塵嵐は乾燥した土地で発生する[6]。狭義の砂嵐と異なり、耕作可能な土地で少雨が続き乾燥したときにも発生する[9]

(狭義の)砂嵐や砂塵嵐の継続時間は、数時間程度のものもあれば数日続くものもある[5]

砂嵐や砂塵嵐の強度や頻度は、乾燥に伴い季節的に変化する。より長期的な変化もみられる[5]

砂塵嵐の成分は主にシリカで多くは石英の形で含まれ、ほかにアルミニウムカルシウムマグネシウムカリウム塩類が含まれる[28]有機物細菌などの微生物、人為的な大気汚染物質なども含まれる[28]

長距離移動

砂塵嵐は発生地から数千 km運ばれ、国境をまたいでちり煙霧を生じさせる[5]。これは堆積学の観点からは広域に運搬される風成塵となる[22][29]

発生地から離れるに従い濃度は低下していき、風下へ移動しながら乾性・湿性沈着のプロセスで固定されていく[5][注釈 4]

例えば、サハラ砂漠では塵(ダスト)の粒子は高さ約2,500 mに達し、北東風のハルマッタンに乗り西に流れ、平均20 m/sで約6000 kmを移動する。塵の中央粒径は、供給源から1,000 kmで20 μm、2,000 kmで20 - 8 μm、5,000 kmで2 μmという報告があるように、遠くに到達するものほど小さくなっていく[29]タクラマカン砂漠の地表の塵粒子は中央粒径70 - 20 μmで、地表付近に6 - 10 m/sの風が吹くとき数千m上空まで舞い上がる[29]。中国黄土高原黄土(レス)は中央粒径約40 - 10 μm、黄砂として日本に到達するものは約15 - 3 μm[29]

砂塵嵐がもとで遠方に運ばれた塵の粒子は、に混じって降ることもある(塵雨)。この雨は赤みや黄色みを呈する[6]

砂嵐の影響と対応

(狭義の)砂嵐や砂塵嵐の主な影響を挙げる。塵の粒子が漂う大気環境では、呼吸器疾患心血管疾患を筆頭として健康への影響が生じる[11]。農作物は損傷を受けたり、生育に必要な肥沃な表土を吹き飛ばされたりする[11]。砂塵嵐による視界不良は交通事故のリスクを上げ、交通機関の停止なども生じる[11]。生活や産業における砂塵の清掃は経済的負担にもなっている[11]

砂塵を防ぐ格好として、長袖の衣服や帽子、スカーフなどが挙げられる。中東などでは、砂の侵入が少ない、一枚布や体を広く覆える形状の衣装が一般化している。

なお、乾燥地域に住む住民の半数である約10億人の人々は貧困層とされ、経済的に天然資源に依存しており環境変化の影響を受けやすい[30]

砂塵嵐の監視や予測も行われている。観測網が構築され、予測モデルに必要な発生の物理過程がよく理解されていることが必要であるが、いくつかの地域で予報が運用されている。世界気象機関の砂塵嵐警戒評価システム(SDS-WAS)は各国の取り組みを支援するもので、2015年時点でこれを受けた15の機関が毎日の予報を提供している[31]

また、予報に基づいて報道携帯端末への通知を行う早期警報システムを運用しているところもある。韓国には黄砂の注意報・警報を通知するシステムがある[32]。健康影響の観点でも、このような通知や空気質の悪化の報道が行われることは、大気汚染物質への曝露を減らす行動変化に繋がるとする報告がいくつかある[32]

砂塵嵐との関連が指摘されている特定の疾病もある。「髄膜炎ベルト」とも呼ばれるサヘル地域における髄膜炎の流行は、ハルマッタンに伴う砂塵嵐との相関を示す報告、その因果関係を示す仮説が報告されている。一方、砂塵嵐自体ではなく、これが多い時期に人々が密集することが原因とする説もある[33]

アメリカ南西部の州間高速道路では砂塵嵐、特にハブーブによる視界不良を電子標識により利用者に警告するシステムがある[33]

このほか、砂塵嵐が陸と海の両方で、栄養塩の移動などの生物地球化学的循環や、水質気候などに影響を及ぼすことが知られている[11]大気放射雲物理過程における土壌エアロゾルの効果は、気候変動の重要な研究テーマのひとつである[25]

発生地と影響地

砂塵嵐の発生地を地球規模で見ていく。単位面積当たりの発生量が多い砂塵嵐が活発なところは北半球に偏っていて、北アフリカ西海岸から中東南アジア中央アジア北東アジアの乾燥地帯に連なって分布する。この帯を"dust belt"(ダストベルト)と呼ぶこともある。北アメリカのグレートベースン、南アメリカのアタカマ砂漠南部アフリカオーストラリア大陸中央部などにも分布するが発生量は少なく、影響は地域的である[28]

人口や家畜のデータを加味した分析も行われている。これによると、砂塵嵐の人口リスクが高い地域は、サハラ砂漠の南東部・南西部・北西部、ルブアルハリ砂漠の北部・南東部、インド西部のタール砂漠周辺、イラントルコにまたがる砂漠地帯、タクラマカン砂漠中国モンゴルの農牧地域とゴビ砂漠アメリカ合衆国南西部の砂漠地帯、グレートプレーンズからメキシコ北部、南アメリカの西海岸、ブラジル北東部が挙げられる[28]。家畜のリスクが高いのは、サハラ砂漠、アラビア砂漠南部、タール砂漠、イランとトルキスタン地域の砂漠、タクラマカン砂漠、ゴビ砂漠、オーストラリアの中央部・南部、北アメリカの砂漠、グレートプレーンズ中央部、メキシコ北部、南アメリカの西海岸・北東部の各乾燥地帯に隣接する地域が挙げられる[28]

また、主に非乾燥地帯の農地で、適切な管理が行われないことに起因する風食(土壌劣化と言及されることもある)が生じている地域がある。地中海沿岸の半乾燥地や北半球の温帯に分布していて、ヨーロッパの農地では問題となっていている[28]。水資源の過剰使用により干上がった底や地下水が後退したその周辺域が、砂塵嵐の新たな発生地となる例も多くみられる[34]

狭義の粗粒の砂嵐は例えば、サハラ砂漠北部では前線の南下する冬に、南部でもハルマッタンが強くなる冬に強い砂嵐が多くなる。これに対してサハラ砂漠中央部には砂嵐の年間発生日20日以下の地域が分布するが、砂が少ない礫砂漠(レグ)が広く分布することが原因と考えられている[1]。 中央アジアの乾燥地帯では、大きな昼夜の気温差に起因する突風が砂嵐をよく発生させ、容易に移動するバルハン(三日月型砂丘)の形成に寄与している[1]

サハラ砂漠の塵(ダスト)の粒子は北アメリカや南アメリカに到達するほか、北ヨーロッパでも観測される[28]。地中海沿岸に分布する土壌テラロッサでは、母岩である石灰岩が変質して土壌化する過程にサハラ砂漠由来の風成塵が関与している[35]。サハラ砂漠の塵が及ぼす影響は、土壌形成のほか、サンゴ礁の健康度、降水量海面水温ハリケーンの活動などさまざまなものが研究されている[28]Saharan dustも参照)。

南極にはオーストラリアや南アメリカパタゴニア由来の風成塵が堆積している[28]。その堆積量は氷期に増加するため[8]氷床コア中の風成塵から得られるデータは、10から100年の精度で解析でき変動に対する応答が早い古気候の指標となっている[36]。古いものでは74万年前まで遡る(EPICA/Dome C)[36]

非乾燥地帯でも、例えばウクライナの農地からの塵(ダスト)の粒子は中央ヨーロッパに到達している[28]

地方名

砂塵嵐そのものや砂塵嵐をもたらす風には、固有名詞がついたものがある。

  • ハブーブ - スーダン。アラビア語由来の言葉で、アメリカなどでも強風に伴い発生し砂塵の壁をつくるような砂塵嵐を表す気象用語となっている[26]
  • シャマール - イラン、イラク、アラビア半島。6月から7月頃に多くなる、高温で乾燥した砂塵を伴う北・北西の風[37]
  • ハムシン - 北アフリカ、アラビア半島。主に晩秋から初冬に吹く、温かく乾燥した砂塵を伴う南寄りの風[38]
  • シムーン - サハラ地域、アラビア半島。非常に高温で著しく乾燥した風で、熱中症のリスクが高い[39]
  • ギブリ - リビアで内陸から地中海沿岸に向かって吹く。主に春から初夏に吹く、高温で乾燥した塵交じりの風[40]モロッコでも同様の風ギブラが吹く[41]
  • シロッコ - 地中海北部・南ヨーロッパ。元は乾燥しているが北アフリカからやってくる途中に変質した、暖かく湿った塵交じりの南・南東寄りの風。霧や雨を伴うこともある[42][43]
  • lebeche(スペイン語版) - スペイン東部レバンテ地方で春に吹く、高温で乾燥した砂塵を伴う東風[44]
  • ハルマッタン - サハラ西部地域。主に晩秋から冬に吹く、冷涼で乾燥した大量の砂塵を伴う北東・東の風。砂塵は大西洋を越えて運ばれ、航行する船に積もったり航空機の運航に影響を与えたりする[45]
  • サンタ・アナ英語版 - アメリカカリフォルニア州南部で砂漠から周辺に向かって吹く。主に晩秋から冬に吹く、高温で乾燥した砂塵を伴う風[46]
  • ゾンダ - アルゼンチン。冬を中心に吹く温かいフェーン風で、乾季には砂塵を伴う[47]
  • 黄砂 - 東アジアの内陸部の砂漠や乾燥地域から発生し風に運ばれてくる塵の粒子のこと[48]。中国北部では冬を中心に塵を伴った冷涼な強い西風が吹き、東アジア一帯に広がる[49]。春や秋には飛来する塵がとなる[50]
  • カラブラン - 中央アジア。春から夏に吹く、大量の砂塵を伴う北東の風[51]
  • peesash, peshash, pisacheeなど - インド。高温で乾燥した砂塵を伴う風[52]
  • Kali Andhi(ヒンディー語版) - インド北西部で主に雨期前の晩春に発生する、突風に伴う激しい砂嵐[53]

顕著な被害の例

ダストボウルの時期の砂塵嵐(アメリカテキサス州、1935年)
  • 1930年代 - アメリカ グレートプレーンズ - 急速な農地拡大により地表が根の浅い植物で占められ耕起の効果もあって表土の侵食や流失が進行、過剰耕作による水不足も発生した。乾燥により砂塵嵐が頻発し、大量の農地が表土むき出しのまま放棄され、その発生に拍車をかけた。ダストボウルと呼ばれている[54][55]
  • 1993年 - 5月5日 中国北西部寧夏回族自治区内モンゴル自治区アルシャー盟甘粛省 - 「黒風暴」と呼ばれる激しい砂塵嵐が集落を襲い、耕地21万ヘクタール、森林18万ヘクタールが被災、電柱倒壊による停電、鉄道や道路の埋没も発生した。家畜の死亡・行方不明48万頭、負傷者386人、死者・行方不明者112人に上り、記録が残る中で中国史上最悪の砂塵嵐であった[56]
  • 2012年 - 3月13日 アメリカ ワシントン州 - アメリカの都市では珍しい大規模な砂塵嵐が来襲。視界がゼロに近い状態になり、交通事故が多発した[57]

緩和策

飛砂など大規模な自然要因の砂塵嵐の発生を防ぐことは難しく、発生のたびに対処していくことが現実的である。一方、特に非乾燥地帯での風食の形をとる砂塵嵐は、対策によって発生を低減することが可能と考えられている[58]

例えば、乾燥の強い土地では前回の作付けの植物残渣をわずかに残すだけで比較的高い飛散防止の効果が得られる。不耕起栽培は風食抑制に加えて管理効率が向上する効果もあるとされる。土地利用の効率化のため除去される傾向にある防風林を維持することも効果がある[58]過放牧を防ぎ草原を回復させる取り組みは、特に中国で政策的に多く導入されている[58]

道路や鉄道の近くではフェンスによる砂の侵入防止がしばしば行われる。砂地への人工的な被覆、土壌に適した草本低木高木を植えることも効果がある。なお緑化の初期には塩類の多い環境に耐える種を選ぶことが必要とされる[59]

地球以外の砂嵐

砂嵐の発生は地球上に限らない。例えば火星上では地球上と比較すると発生時間、面積共に大規模な砂嵐が発生し、時には星全体を覆うこともある。規模が大きくなる原因として、火星の大気が地球の約1/100と希薄な影響で、巻き上がった砂塵が大気を熱する効果が地球より高く、それが上昇気流を強めて砂嵐を自己増強しているとの仮説がある。火星の大規模な砂嵐は、観測時の条件が良ければ地球上からも天体望遠鏡で観測できる[60]

脚注

注釈

  1. ^ SYNOPSHIPなどに用いる96種天気。地上天気図#天気参照。
  2. ^ METARTAF
  3. ^ 出典における被引用文献は[24]
  4. ^ 大気汚染#輸送・拡散en:Deposition (aerosol physics)も参照。

出典

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  4. ^ Nick & Utchang 2017, p. 1-2.
  5. ^ a b c d e f g h i j k l m Nick & Utchang 2017, p. 2.
  6. ^ a b c 地形学辞典 1981, p. 416「塵嵐」(著者:小野有五)
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参考文献

関連項目

外部リンク