犬鳴村伝説
犬鳴村伝説(いぬなきむらでんせつ)は、おもにインターネット上で語られている[1][注釈 1]日本の都市伝説。福岡県に存在するとされるものの、「全くのデマ」[3]である。
概要
[編集]「犬鳴山のなかに「犬鳴村」という外部との接触を一切絶った村があり、興味本位で村を訪ねた者は村人たちに襲われる」という都市伝説[4]。
この都市伝説に関しては諸説あるが、いくつか例を挙げると以下のような噂がある[3]。
- 犬鳴族と呼ばれる近親者のみの一族がいる。
- 老婆が一人で住んでいる。
- 日本国憲法が通じない地域である。また、その看板がある。
- 訪ねた者は鎌やオノを持った男に追いかけられる。
- 地図に載っていない。
- 自衛隊がヘリコプターで食料を投下している。
- 伝染病が流行った時、患者を隔離した村である。
- 武器を持った青年が村人を惨殺して廃村になった。
これらの噂は地名以外の全てが架空の設定であり、津山事件をもとに創作された杉沢村伝説の連想で作られたものと考えられている[5]。
都市伝説の背景
[編集]上述のとおり、「犬鳴村伝説」は津山事件とそれを基にした杉沢村伝説の焼き直しという形で創作されたものであり、事実ではない。
インターネット上で「犬鳴村伝説」が語られるようになる以前から、犬鳴峠旧道のトンネル工事における犠牲者の霊が出るという噂は存在していた[6]。1975年に県道21号線(新道)が開通すると旧道は人通りが無くなり、1988年に発生した殺人事件[7]によって「恐怖の噂」の震源地としての色彩を強めていった[6]。
鳥飼かおるは「犬鳴村伝説」がこの地域に生まれた背景を、筑豊炭田における炭鉱夫の逃亡との関連[8]、犬鳴地域の付近に位置する聖地「首羅山」と犬鳴山の対比[9]、「たたらの民」[注釈 2]・「山の民」 [13]や「筑豊」という場所[14]のイメージから考察している。
犬鳴村伝説を題材にした作品
[編集]2019年に、ホラーゲーム『犬鳴トンネル (ゲーム)』がChilla's Artによって制作され、Steamにて発売された[15]。
2020年には、都市伝説を題材としたホラー映画『犬鳴村』が映画監督の清水崇により制作、公開された[16][17]。この映画は『犬鳴村~残響~』のタイトルで公式ホラーゲーム化され[18]、Android版(2020年8月19日[19])、IOS版(2020年8月26日[20])、Steam版(2021年10月21日[21])、Nintendo Switch版(2021年10月21日[22])が発売されている。
これらの作品は、犬鳴村伝説をなぞった内容というよりは、旧犬鳴トンネルの持つ心霊スポット[23]として怪奇現象や心霊現象を描写した内容となっている[24]。
脚注
[編集]注釈
[編集]出典
[編集]- ^ 鳥飼 2015, p. 88.
- ^ 鳥飼 2018, p. 185.
- ^ a b 朱い塚 2008.
- ^ 鳥飼 2018, p. 175.
- ^ 広坂 2016, pp. 218–219.
- ^ a b 赤坂 2011, p. 18.
- ^ 赤坂 2011, pp. 18–19.
- ^ 鳥飼 2014.
- ^ 鳥飼 2015.
- ^ 若宮町教育委員会 1990.
- ^ 副島&馬田 1991.
- ^ 飛野&馬田 1991.
- ^ 鳥飼 2016.
- ^ 鳥飼 2018.
- ^ “Steam:[Chilla's Art] Inunaki Tunnnel | 犬鳴トンネル” (2019年). 2024年11月16日閲覧。
- ^ “清水崇監督×日本最凶心霊スポット! 映画「犬鳴村」2020年公開決定”. 映画.com. (2018年12月16日) 2018年12月17日閲覧。
- ^ “映画化しても大丈夫?「呪怨」の監督が日本最凶心霊スポット“犬鳴村”に挑む”. Movie Walker. (2018年12月16日) 2018年12月17日閲覧。
- ^ “犬鳴村~残響〜” (2020年). 2024年11月16日閲覧。
- ^ “犬鳴村~残響~ - Google Play のアプリ” (2020年). 2024年11月16日閲覧。
- ^ “「犬鳴村~残響〜」をApp Storeで” (2020年). 2024年11月16日閲覧。
- ^ “Steam:犬鳴村 ~残響~” (2021年). 2024年11月16日閲覧。
- ^ “犬鳴村~残響〜|My Nintendo Store(マイニンテンドーストア)” (2021年). 2024年11月16日閲覧。
- ^ ““心霊スポット”で迷惑行為 映画公開の影響?旧犬鳴トンネル”. 西日本新聞me (西日本新聞社). (2020年6月1日) 2021年3月6日閲覧。
- ^ “絶対に行っちゃダメ! 日本一怖い心霊スポット「旧犬鳴トンネル」のリアル恐怖体験が蘇るJホラー『犬鳴村』”. BANGER!!! (2020年2月4日). 2021年3月6日閲覧。
参考文献
[編集]- 朱い塚 (2008年). “犬鳴村編”. 心霊スポット朱い塚─あかいつか:怖い話、心霊写真. 2024年11月16日閲覧。
- 朝倉喬司 著「「犬鳴峠」恐怖伝説の真相:“日本国憲法の通用しない謎の集落”の正体」、小塩隆之 編『都市伝説完全ファイル:リアル・ノンフィクション』ミリオン出版〈別冊『怖い噂』〉、2011年、14-19頁。ISBN 978-4-8130-6398-8。
- 副島邦弘、馬田弘稔 著「犬鳴たたら谷鉄山の調査」、馬田弘稔 編『犬鳴Ⅱ:犬鳴川治水ダム関係文化財調査報告2』福岡県教育委員会〈福岡県文化財調査報告書第94集〉、1991年、84-114頁。doi:10.24484/sitereports.57522。 NCID BN04964453 。
- 飛野博文、馬田弘稔 著「犬鳴鉄山の調査」、馬田弘稔 編『犬鳴Ⅱ:犬鳴川治水ダム関係文化財調査報告2』福岡県教育委員会〈福岡県文化財調査報告書第94集〉、1991年、115-190頁。doi:10.24484/sitereports.57522。 NCID BN04964453 。
- 鳥飼かおる「犬鳴村のうわさ:「異界としての犬鳴」にまつわる一考察」『異文化コミュニケーション研究論集』第12号、2014年、167-176頁。
- 鳥飼かおる「犬鳴村のうわさ考:首羅山の「場所性」から見えてくるもの」『異文化コミュニケーション研究論集』第13号、2015年、87-102頁。
- 鳥飼かおる「犬鳴村のうわさ考:「負」の自然を「仰ぎ見る行為」としての犬鳴村のうわさ」『異文化コミュニケーション研究論集』第14号、2016年、81-90頁。
- 鳥飼かおる「「筑豊」という「場所」から考える、都市伝説「犬鳴村」のイメージ生成について」『エネルギー史研究』第33号、2018年、175-190頁。
- 広坂朋信「よみがえれ、心霊スポット」『怪異を歩く』一柳廣孝 監修、今井秀和、大道晴香 編著、青弓社〈怪異の時空1〉、2016年、203-222頁。ISBN 978-4-7872-9238-4。
- 若宮町教育委員会 著「日原鉄山跡(金山タタラ遺跡)」、小方良臣、古野千枝子、副島邦弘 編『犬鳴:犬鳴川治水ダム関係文化財調査報告1』福岡県教育委員会〈福岡県文化財調査報告書第91集〉、1990年、17-19頁。doi:10.24484/sitereports.82878。 NCID BN04964453 。
- 若宮町誌編さん委員会 編『若宮町誌 上巻』若宮町、2005年。 NCID BA7372189X。全国書誌番号:20824479。
関連文献
[編集]- 山口敏太郎『本当にいる日本の「現代妖怪」図鑑』笠倉出版社、2007年。ISBN 9784773003659。全国書誌番号:21328145。
- 山口敏太郎『ホントにあった呪いの都市伝説』コスミック出版〈コスミック・時代文庫〉、2005年。ISBN 4774720313。全国書誌番号:20956243。