猯
猯、魔魅(まみ)は、タヌキ[1]またはニホンアナグマ[2]のこと。ただし、イノシシなど他の動物を指すこともある[3]。
概要
[編集]民俗学者・日野巌による『日本妖怪変化語彙』によれば、マミはタヌキの一種とある[1]。東京都の麻布狸穴町の「狸」を「まみ」と読むことからも、猯が狸と同一視されていたことが分かる[4]。
一方で江戸時代の百科事典『和漢三才図会』では、「猯」は「狸」とは別種の動物として別々に掲載されている[5]。同書では中国の本草学研究書『本草綱目』からの引用として、山中の穴に住んでいる肥えた獣で、褐色の短い毛に体を覆われ、耳が聞こえず、人の姿を見ると逃げようとするが行動は鈍いとある。またその肉は野獣の中でも最も甘美で、これを人が食べると死に瀕した状態から治ることが出来るともある[5]。
江戸時代にはこの猯、狸、そしてムジナが非常に混同されていたが、これはアナグマがムジナと呼ばれていたところが、アナグマの外見がタヌキに似ており、さらに「貉(むじな)」の名が日本古来から存在したところへ、中国で山猫が「狸」の名で総称されていることが知れ渡ったことから混乱が生じたものとされる[2]。またムササビ、モモンガも「猯」と呼ばれたことがある[6]。
西日本に伝わる化け狸・豆狸は、この猯のことだともいう[4]。また江戸時代の奇談集『絵本百物語』によれば、猯が老いて妖怪化したものが同書にある妖怪・野鉄砲とされる[7]。同じく江戸時代の随筆『耳嚢』3巻では、江戸の番町に猯が現れたとあり、体色は鼠色、目は太陽か月のようで、杖で叩くとガマガエルの背のような感触だったという[8]。
「まみ」の発音が似ていることから、人をたぶらかす妖魔、魔物の総称である「魔魅」の字があてられることもある[9]。
脚注
[編集]- ^ a b 日野他 1926, p. 300
- ^ a b 多田 1990, p. 241
- ^ 田中優生「阿波藍商人が伝えた狸文化 : 大阪・木更津への伝播をめぐって」『史泉』第118巻、関西大学史学・地理学会、2013年7月、A16-A35、hdl:10112/00023652、ISSN 0386-9407、CRID 1050569567949086720。
- ^ a b 笹間 1994, p. 122
- ^ a b 寺島 1884, p. 101
- ^ 多田編 1997, p. 156.
- ^ 多田編 1997, p. 90.
- ^ 根岸鎮衛 著、長谷川強校注 編『耳嚢』 上、岩波書店〈岩波文庫〉、1991年(原著江戸時代)、301-302頁。ISBN 978-4-00-302611-3。
- ^ 多田克己 著「『妖怪画本・狂歌百物語』妖怪総覧」、京極夏彦、多田克己 編『妖怪画本 狂歌百物語』国書刊行会、2008年、289頁。ISBN 978-4-3360-5055-7。
参考文献
[編集]- 笹間良彦『図説・日本未確認生物事典』柏書房、1994年。ISBN 978-4-7601-1299-9。
- 多田克己『幻想世界の住人たち』 IV、新紀元社〈Truth In Fantasy〉、1990年。ISBN 978-4-915146-44-2。
- 多田克己編『竹原春泉 絵本百物語 桃山人夜話』国書刊行会、1997年。ISBN 978-4-336-03948-4。
- 寺島良安 著、島田勇雄他訳注 編『和漢三才図会』 6巻、平凡社〈東洋文庫〉、2006年(原著1884年)。ISBN 978-4-582-80466-9。
- 日野巌・日野綏彦 著「日本妖怪変化語彙」、村上健司校訂 編『動物妖怪譚』 下、中央公論新社〈中公文庫〉、2006年(原著1926年)。ISBN 978-4-12-204792-1。
関連項目
[編集]- 狸穴(まみあな) - 上記の麻布狸穴町など、日本各地にある地名。