経口妊娠中絶薬
経口妊娠中絶薬(けいこうにんしんちゅうぜつやく)は、「最後の月経開始日」から70日以内という妊娠初期[1]までなら口から服用することで胎児を人工的に体外への排出を促せる中絶薬[1][2][3]。
70日以上経過している妊婦やIUD着用者など服用は禁忌である[1]。
日本では、フランスが承認した1988年から37年経過した2024年5月、1万2千件のパブリックコメントの意見集約を経て厚生労働省がミフェプリストンとミソプロストールからなる「メフィーゴパック」を薬事承認した[4][5]。2024年9月25日、「メフィーゴパック」について、厚生労働省の薬事審議会は一定の条件を満たせば外来での使用を可能とする方針を了承した。厚労省は2023年4月の承認時に適切な使用体制が確立されるまで入院可能な医療機関で使用し、2剤目の使用後は院内待機を求める通知を出していた[6]。しかし、厚労省が薬の安全性に疑義があるわけではないとしているにもかかわらず、無床診療所への拡大は再審議となった[7]。
概要
[編集]基本的に、胎児の成長を止めるミフェプリストン、子宮を収縮させて妊娠組織を排出させるミソプロストールの2つを意味する。この2つを併用利用することで胎児の排出を促進させる[3]。流れとしては、初日に外来でミフェプリストンを内服、3日目朝から入院開始し、ミソプロストールを内服する。ミソプロストール服用した者の約94%は24時間以内には胎児が排出される。8時間以内排出されない場合は夜になってしまうため、翌日以降も入院を継続する必要がある[3]。
基本的には服用後に医師の関与が必要となる程の痛みや出血を起こすため、認可されている欧米でも医師の処方と経過観察が必要とされる医薬品である[2][3]。インターネット上で「簡単に人工妊娠中絶できる薬」であるようにされているが、月経で排出する血液の塊よりも大きなものを押し出すため、それなりの痛みがある。実際には服用当日に帰宅できる状態なのは2割以下であり、8割以上は一日以上の入院が必要である。入院後に何日も胎児が排出されない場合には、結局人工妊娠中絶手術が必要となる[3]。また、先進国での経口妊娠中絶薬の卸売価格が約800円というデマが拡散されているが、製薬会社は先進国での利益で発展途上国には安く販売しているというのが実情であり、公的及び私的な補助があるアメリカやイギリスでの販売価格は約8万円である。正確にはアメリカでの薬単体の価格は580から800ドル(約10万9,242円[8])、イギリスでは薬単体価格で480ポンド(約7.5万円)、2週間以下の入院費込で680ポンド(約11万円)である[3]。
また、日本産婦人科医会が承認に反対しているという主張もインターネット上では見られるが、日本産婦人科医会は公式見解として、自由診療である中絶薬について会の介入の余地はなく個々の医療機関が判断するとしており[9]、中絶薬の治験には協力している、と上記の主張に反駁した。さらに同医会は、系統的な学校性教育を行ったうえで、中絶費用のみならず避妊指導や心理的ケアを含む公的な補助の拡張も訴えている。
脚注
[編集]- ^ a b c “ミフェプレックス(MIFEPREX)(わが国で未承認の経口妊娠中絶薬)に関する注意喚起について|”. 厚生労働省. 2023年3月3日閲覧。
- ^ a b “個人輸入される経口妊娠中絶薬(いわゆる経口中絶薬)について”. 厚生労働省. 2023年3月3日閲覧。
- ^ a b c d e f 太田寛. “経口中絶薬に関してのあれこれ~初期の人工妊娠中絶を中心に~”. 知っておきたい、産婦人科の知識. 2023年3月3日閲覧。
- ^ “国内初の飲む中絶薬、厚労省が承認 WHO推奨の選択肢”. 日本経済新聞 (2023年4月28日). 2024年5月24日閲覧。
- ^ “日本でも注目される「経口中絶薬」海外でどう使用? 注意点は?”. NHK (2023年4月11日). 2024年5月24日閲覧。
- ^ “経口中絶薬使用、外来でも可能に 2剤目使用後 厚労省:朝日新聞デジタル”. 朝日新聞. 2024年9月26日閲覧。
- ^ “経口中絶薬、外来でも使用可能に 無床診療所への拡大は再審議”. 朝日新聞 (2024年10月1日). 2024年9月25日閲覧。
- ^ 2023年3月3日時点のドル円為替レート
- ^ 石谷健 (2022年4月13日). “妊娠初期における安全な中絶治療法について 第162回記者懇談会(R4.4.13)妊娠初期における安全な中絶治療法について【資料2】承認申請された経口中絶薬の安全性と副作用について”. 公益社団法人日本産婦人科医会. 2023年8月1日閲覧。