統合作戦司令部
統合作戦司令部(とうごうさくせんしれいぶ)は、防衛省本省に置かれた特別の機関である既存の四幕僚監部[1]と異なり、陸海空自衛隊を一元的に指揮監督するため、陸上自衛隊、海上自衛隊及び航空自衛隊の共同の部隊として、2024年度末に自衛隊内に新たに設置される予定である[2]。陸海空の各幕僚長と同等の将をもって充てられる統合作戦司令官は統合作戦司令部の隊務を統括し、自衛隊の行動または運用に関し、統合運用による円滑な任務遂行を図る必要がある場合には、防衛大臣の命令により自衛隊の部隊の全部又は一部を一部指揮することができる[3][2]。
なお、組織名称及び後述の役職名はすべて仮称である[注釈 1]。
設立の経緯
[編集]近年、統合幕僚監部を司る統合幕僚長は、アメリカにおける文民の最高司令官である大統領と国防長官の最高軍事補佐機関であるスタッフとしての統合参謀本部議長の職務と、最高司令官の命令を武官として最高の立場で指揮するラインとしての統合軍司令官の機能を併任させているため、大規模災害や有事の際に、内閣総理大臣や防衛大臣への補佐と各部隊への指揮という2つの任務に忙殺され対応できない可能性が指摘されていた。そこで統合幕僚監部から運用部を切り離すなどして、新たに統合幕僚監部とは別の常設の「統合司令部」を創設し「統合司令官」ポストを新設して部隊運用に専念させ、統合幕僚長を大臣の補佐に専念させる構想がもちあがった[4][5][6]。 実際、2024年には当時の吉田圭秀統合幕僚長が能登半島地震 (2024年)への対応などに伴う過労のため2月15日に東京都の自衛隊中央病院に入院してしまい、体調が回復し公務に復帰する3月11日までの間職務を遂行できない事態となっている。
2022年12月16日に閣議決定された国家防衛戦略(旧・防衛計画の大綱)及び防衛力整備計画(旧・中期防衛力整備計画)において、常設の統合司令部が設立される方針が示された。設置場所としては、陸海空の各自衛隊がそれぞれの拠点の近くに統合司令部を置きたいという狙いもあり、陸上総隊司令部が置かれる朝霞駐屯地や、航空総隊司令部や在日米軍司令部がある横田基地や、自衛艦隊司令部や米海軍第7艦隊第70任務部隊の母港である横須賀海軍施設がある横須賀基地を候補地とする見方もあったが、2023年8月31日に、統合司令部を2024年度末に市ヶ谷に設置する方針が防衛省から示された[7][8]。
統合作戦司令部の設置には、自衛隊法などの改正が必要であり、2024年2月9日に統合作戦司令部の設置が盛り込まれた防衛省設置法等の一部を改正する法律案が国会に提出された[9][10][11]。同年5月10日に可決・成立し[12][注釈 2]、即日天皇に法律の公布の奏上が行われ[16]、2024年5月17日に公布された[2]。同法は「この法律は、令和7年(2025年)3月31日までの間において政令で定める日から施行する。」と定めている。
役割
[編集]統合作戦司令部の役割は以下の通り[17]。
- 自衛隊の運用等に関し、平素から部隊を一元的に指揮
- 陸・海・空・宇宙・サイバー・電磁波などの領域における統合作戦の遂行
- 防衛大臣の命令を受け、所要の指揮官に任務を付与、必要な戦力を各指揮官に配分し、作戦を指揮
第7代統合幕僚長の吉田圭秀は、統合作戦司令部は作戦構想を、より上位の戦略レベルは引き続き統合幕僚監部が担うとの認識を示している。また、米インド太平洋軍との連携の役割も果たすとしている[18]。
組織編成
[編集]統合作戦司令部は、創設当初は約240人で構成される[17]。
- 統合作戦司令官(陸海空将たる自衛官、陸海空幕僚長と同格)
- 統合作戦副司令官(陸海空将たる自衛官)
- 幕僚長(陸海空将たる自衛官)
- 統合作戦司令官補佐官(事務官)
- 総務官
- 情報部
- 作戦部
- 後方部
- 指揮通信官
- 法務官
脚注
[編集]注釈
[編集]出典
[編集]- ^ 防衛省設置法(昭和29年法律第164号) 第19条
- ^ a b c d 防衛省設置法等の一部を改正する法律(令和6年法律第24号)2024年(令和6年)5月17日官報号外第117号第7面
- ^ “自衛隊の常設機関「統合作戦司令部」 防衛省が名称調整”. 日本経済新聞 (2023年12月15日). 2023年12月23日閲覧。
- ^ INC, SANKEI DIGITAL (2016年3月1日). “「統合司令部」常設を検討 自衛隊トップが言及”. 産経ニュース. 2023年12月23日閲覧。
- ^ “国会会議録検索システム”. kokkai.ndl.go.jp. 2023年12月23日閲覧。
- ^ INC, SANKEI DIGITAL (2018年4月25日). “統合司令部を創設 防衛省、最終調整へ 自衛隊を常時・一元指揮(1/2ページ)”. 産経ニュース. 2023年12月23日閲覧。
- ^ INC, SANKEI DIGITAL (2022年12月29日). “<独自>統合司令部、来年度創設見送り 場所巡り対立も”. 産経ニュース. 2023年12月23日閲覧。
- ^ “陸海空3自衛隊を一元指揮、「統合司令部」を市ヶ谷に来年度創設へ…台湾有事に備え”. 読売新聞オンライン (2023年6月30日). 2023年12月23日閲覧。
- ^ “閣法 第213回国会 14 防衛省設置法等の一部を改正する法律案”. www.shugiin.go.jp. 2024年3月11日閲覧。
- ^ 防衛省設置法等の一部を改正する法律 概要2024年2月9日、防衛省 第213回国会(常会)提出法案
- ^ 防衛省設置法等の一部を改正する法律 法律案・理由2024年2月9日、防衛省 第213回国会(常会)提出法案
- ^ 日本放送協会 (2024年5月10日). “自衛隊を一元的に指揮「統合作戦司令部」設置 改正法が成立 | NHK”. NHKニュース. 2024年5月10日閲覧。
- ^ [1]
- ^ [2]
- ^ [3]
- ^ 【国会事項】法律公布奏上及び通知2024年(令和6年)5月14日官報第1220号第7面
- ^ a b “防衛力抜本的強化の進捗と予算-令和6年度予算の概要-”. 防衛省 (2024年3月29日). 2024年8月31日閲覧。
- ^ “吉田統幕長、統合司令部は「作戦レベル」”. 産経ニュース (2023年4月6日). 2023年12月23日閲覧。