絶対ガロア群
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体 K の絶対ガロア群 GK(ぜったいガロアぐん、英: absolute Galois group)とは、K の分離閉包 Ksep の K 上のガロア群のことである。これは、K の代数的閉包の自己同型のうちで K を固定するもの全てから成る群と一致する。絶対ガロア群は副有限群であり、内部自己同型による違いを除いて well-defined である。
K が完全体であれば Ksep は K の代数的閉包 Kalg と等しい。K が標数0の場合や、K が有限体の場合がこれにあたる。
例
[編集]- 代数的閉体の絶対ガロア群は単位元のみからなる自明な群である。
- 有限体 K の絶対ガロア群は次の群
- と同型である(記号については射影極限参照)。フロベニウス自己同型 Fr は GK の標準的な位相的生成元である。Fr は、q を K の元の数とすると、Fr(x) = xq (x は Kalg の元)で定義される写像である。
- 複素数体上の有理関数体の絶対ガロア群は自由副有限群である。これはリーマンの存在定理に起源を持つ定理で、アドリアン・ドゥアディにより証明された[1]。
- より一般に、任意の代数的閉体 C に対して、有理関数体 K = C(x) の絶対ガロア群は自由でその階数は C の濃度に等しいことが知られている。これはデイヴィッド・ハーバター[訳語疑問点]とフロリアン・ポップにより証明され、のちにダン・ハラン[訳語疑問点]とモシェ・ジャーデン[訳語疑問点]により代数的な方法で別証明が与えられた[2][3][4]。
- K を p 進数体 Qp の有限次拡大とする。p ≠ 2 であれば、この体の絶対ガロア群は [K:Qp] + 3 個の元で生成され、またその生成元と関係式も完全に知られている。これはウーヴェ・ヤンセンとケイ・ヴィンベルグ[訳語疑問点]による結果である[5][6]。p = 2 の場合にもいくつかの結果があるが、Q2 に対してはその構造は知られていない[7]。
未解決問題
[編集]- 有理数体の絶対ガロア群を直接的に記述する方法が知られていない。有理数体の絶対ガロア群の元で他の元と区別できるよう名前が付けられているのは単位元と複素共役だけである[9]。ベールイの定理によりこの絶対ガロア群はグロタンディークの子供のデッサン(曲面上の地図)に忠実に作用するので、代数体のガロア理論を"見る"ことはできる。
その他の結果
[編集]- 全ての副有限群はあるガロア拡大のガロア群となる[11]が、全ての副有限群が絶対ガロア群となるわけではない。例えば、有限群で絶対ガロア群となるものは単位元のみの自明な群か位数2の群だけであることがアルティン・シュライアーの定理から分かる。
- 全ての射影的副有限群[訳語疑問点]は擬代数的閉体[訳語疑問点]の絶対ガロア群として実現できる。このことはアレクサンダー・ルボツキー[訳語疑問点]とルー・ファン・デン・ドリース[訳語疑問点]によって証明された[12]。
脚注
[編集]- ^ Douady 1964
- ^ Harbater 1995
- ^ Pop 1995
- ^ Haran & Jarden 2000
- ^ Jannsen & Wingberg 1982
- ^ Neukirch, Schmidt & Wingberg 2000, theorem 7.5.10
- ^ Neukirch, Schmidt & Wingberg 2000, §VII.5
- ^ “qtr” (PDF). 2019年9月4日閲覧。
- ^ Ihara, Yasutaka (1990). Braids, Galois groups and some arithmetic functions (PDF). International Congress of Mathematicians 1990. p. 104.
- ^ Neukirch, Schmidt & Wingberg 2000, p. 449.
- ^ Fried & Jarden (2008) p.12
- ^ Fried & Jarden (2008) pp.208,545
参考文献
[編集]- Douady, Adrien (1964), “Détermination d'un groupe de Galois”, Comptes Rendus de l'Académie des Sciences de Paris 258: 5305–5308, MR0162796
- Fried, Michael D.; Jarden, Moshe (2008), Field arithmetic, Ergebnisse der Mathematik und ihrer Grenzgebiete. 3. Folge, 11 (3rd ed.), Springer-Verlag, ISBN 978-3-540-77269-9, Zbl 1145.12001
- Haran, Dan; Jarden, Moshe (2000), “The absolute Galois group of C(x)”, Pacific Journal of Mathematics 196 (2): 445–459, doi:10.2140/pjm.2000.196.445, MR1800587
- Harbater, David (1995), “Fundamental groups and embedding problems in characteristic p”, Recent developments in the inverse Galois problem (Seattle, WA, 1993), Contemporary Mathematics, 186, Providence, Rhode Island: American Mathematical Society, pp. 353–369, MR1352282
- Jannsen, Uwe; Wingberg, Kay (1982), “Die Struktur der absoluten Galoisgruppe -adischer Zahlkörper”, Inventiones Mathematicae 70: 71–78, Bibcode: 1982InMat..70...71J, doi:10.1007/bf01393199
- Neukirch, Jürgen; Schmidt, Alexander; Wingberg, Kay (2000), Cohomology of Number Fields, Grundlehren der Mathematischen Wissenschaften, 323, Berlin: Springer-Verlag, ISBN 978-3-540-66671-4, Zbl 0948.11001, MR1737196
- Pop, Florian (1995), “Étale Galois covers of affine smooth curves. The geometric case of a conjecture of Shafarevich. On Abhyankar's conjecture”, Inventiones Mathematicae 120 (3): 555–578, Bibcode: 1995InMat.120..555P, doi:10.1007/bf01241142, MR1334484