聖母子と幼児聖ヨハネ (ボッティチェッリ、サンパウロ美術館)

『聖母子と幼児聖ヨハネ』
	イタリア語: Madonna col Bambino e san Giovannino; 英語: Virgin and Child with the Infant St. John the Baptist
作者	サンドロ・ボッティチェッリと工房
製作年	1490年-1500年頃
種類	テンペラ、板
寸法	74 cm × 74 cm (29 in × 29 in)
所蔵	サンパウロ美術館、サンパウロ

『聖母子と幼児聖ヨハネ』（せんぼしとようじせいヨハネ、伊: Madonna col Bambino e san Giovannino, 葡: Virgem com o Menino e são João Batista criança, 英: Virgin and Child with the Infant St. John the Baptist）は、イタリアの盛期ルネサンスの巨匠サンドロ・ボッティチェッリと工房が1490年から1500年頃に制作した絵画である。テンペラ画。トンド（英語版）形式の作品で、イタリアルネサンス芸術の中心テーマである聖母マリアを主題としている。現在はブラジルのサンパウロ美術館に所蔵されている^[1]。

作品

ボッティチェッリは1480年から1490年の数十年間に多数の聖母を制作した。かなりの部分がトンドで構成されており、聖母子と礼拝している洗礼者聖ヨハネを描いている。トンドは円形の絵画あるいは彫刻の芸術作品であり、主に宗教的あるいは歴史的なテーマを扱った。それらは15世紀に非常に高く評価され、しばしば後援者や組合によって宮殿の装飾や個人的信仰の対象として使用されるために発注された^[3]。

サンパウロ美術館の作品は様式の変化が見て取れる他の作品との類似点に基づき、ほぼ異論なく15世紀最後の10年間に位置づけられている。聖母子の姿はトンドの内側に大胆に立っており、これによって若い頃の優雅な対称性から解放された構図の美しい構造を強調している。構図では傾斜した椅子の細部に注目することができ、ほとんど幻想的な方法で絵画の額縁に支えられたマニフィカトが置かれている。若い頃に画家が制作した聖母像には通常見られない、聖母マリアと幼児キリストを結ぶ感情的な絆が強化されている点も同様に注目に値する^[4]。

イタリアの美術史家ロベルト・ロンギは情景描写が「アーチ型のしなやかな線」ではなく「十字と放射状の線」で構築され、15世紀後半のボッティチェッリの成熟した様式を示すより自由な構図の文脈に作品を位置づけられると指摘している^[4]。アントニーノ・サンタンジェロ（Antonino Santangelo）も同様の意見を述べ、「手や顔の自由で調和のとれた絡み合い、可動性と正確さは1500年の少し前のボッティチェッリ作品を思い起こさせる」と注目している^[4]。

15世紀最後の10年間に制作されたボッティチェッリの作品を少なくとも12点挙げることができ、マサチューセッツ州ウィリアムズタウン（英語版）にあるクラーク美術館（英語版）の1490年頃の同名の作品は、構図的にサンパウロ美術館の作品に最も近い^[5]。

帰属

帰属に関しては美術史家ロベルト・ロンギ（英語版）が1947年に詳細な分析を行っている。現在、美術館のアーカイブに保管されている館長ピエトロ・マリア・バルディ（英語版）に宛てた手紙の中で、ロベルト・ロンギはトンドの中に「間違いなくボッティチェッリの筆致」を観察することができると主張している。彼の意見は「ボッティチェッリによる絵画の直接的な介入が認められる」と述べたアントニーノ・サンタンジェロによっても裏付けられている。この帰属は後にミクロス・ボスコヴィッツ（英語版）や矢代幸雄を含む他の専門家によって確認された^[4]。

それにもかかわらず、大方の研究者は背景の一部および洗礼者聖ヨハネと聖母子との間にある明らかな様式的差異に基づいて、ボッティチェッリの工房の助手によって制作されたとする点で一致しているようである。ロベルト・ロンギは風景と洗礼者聖ヨハネの描写がよりドメニコ・ギルランダイオの典型であると信じており、両画家の弟子バルトロメオ・ディ・ジョヴァンニ（英語版）を制作に貢献した可能性がある人物として提案している。アントニーノ・サンタンジェロは洗礼者聖ヨハネを描いたのはラファエリーノ・デル・ガルボ（英語版）としている^[4]。

来歴

本作品はもともとフィレンツェのカッポーニ宮殿（英語版）に飾られていたが、19 世紀にリヴァプールの裕福なイギリス商人トーマス・ブレイズ（Thomas Blayds）の個人コレクションに加わった。その後、第24代クロフォード伯爵ジェイムズ・リンジーに売却された。1947年にシンハ・ジュンケイラ（Sinhá Junqueira）夫人によって寄贈された^[1]^[4]。

ギャラリー

ボッティチェッリの1490年頃のトンド作品

『聖母子と五人の天使』1485年-1490年頃ボルチモア美術館（英語版）所蔵
『聖母子と洗礼者聖ヨハネ』1490年頃クリーブランド美術館所蔵
『天幕の聖母』1493年頃アンブロジアーナ絵画館（英語版）所蔵
『聖母子と二人の天使』1493年頃シカゴ美術館所蔵

脚注

^ ^a ^b “Virgem com o Menino e são João Batista criança”. サンパウロ美術館公式サイト. 2023年8月20日閲覧。
^ “Virgin and Child with Saint John the Baptist”. クラーク美術館（英語版）公式サイト. 2023年8月20日閲覧。
^ バルバラ・ダイムリング 2001年、p.69。
^ ^a ^b ^c ^d ^e ^f Marques 1998, pp.53–56.
^ Mandel 1967, p.109.

参考文献

バルバラ・ダイムリング『ボッティチェッリ（ニューベーシック・アートシリーズ）』タッシェン（2001年）
Carlo, Bo, Mandel, Gabriele. L'opera completa di Botticelli, Milan, Rizzoli, 1967.
Marques, Luiz. Catálogo do Museu de Arte de São Paulo Assis Chateaubriand: Arte italiana, São Paulo, Prêmio, 1998.

外部リンク

サンパウロ美術館公式サイト, サンドロ・ボッティチェッリ『聖母子と幼児聖ヨハネ』

[SP-1] “Virgem com o Menino e são João Batista criança”. サンパウロ美術館公式サイト. 2023年8月20日閲覧。

[2] “Virgin and Child with Saint John the Baptist”. クラーク美術館（英語版）公式サイト. 2023年8月20日閲覧。

[3] バルバラ・ダイムリング 2001年、p.69。

[M5356-4] ^ ^a ^b ^c ^d ^e ^f Marques 1998, pp.53–56.

[5] Mandel 1967, p.109.

[1]

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[4]

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表話編歴サンドロ・ボッティチェッリ
初期の作品	『グィーディ・ダ・ファエンツァの聖母』（1465年頃）『聖母子と天使（フィレンツェ）』（1465年-1467年）『ロッジアの聖母』（1467年頃）『聖母子と少年聖ヨハネ、二人の天使』（1468年頃）『聖母子と二人の天使（ナポリ）』（1468年–1469年頃）『聖母子と二人の天使（ワシントン）』（1465年-1470年頃）『セラフィムのいる栄光の聖母子』（1469年-1470年）『バラ園の聖母』（1469年-1470年）『ユディトのベツリアへの帰還』（1469年-1470年）『ホロフェルネスの遺骸の発見』（1469年-1470年）『剛毅』（1470年）『5人の天使に囲まれる聖母子』（1470年頃）『聖母子と天使（ボストン）』（1470年頃）『サンタンブロージョの祭壇画』（1470年頃）『聖セバスティアヌス』（1474年）『聖母子と若い洗礼者聖ヨハネ』（1470-1475年頃）『コジモ・イル・ヴェッキオのメダルを持つ男の肖像』（1475年頃）『東方三博士の礼拝』（1475年–1476年頃）『ジュリアーノ・デ・メディチの肖像（絵画館）』（1478年）『ジュリアーノ・デ・メディチの肖像（ワシントン）』（1478年）『幼児キリストを礼拝する聖母と洗礼者聖ヨハネ』（1475年-1480年頃）『海の聖母』（1475年-1480年頃）
1480年代の作品	『ラウンデルを持つ青年の肖像』（1480年頃）『書斎の聖アウグスティヌス（オニッサンティ教会）』（1480年）『書物の聖母』（1480年-1481年頃）『マニフィカートの聖母』（1481年）『受胎告知（フレスコ）』（1481年頃）『青年の肖像（ワシントン）』（1483年頃）『モーセの試練』（1481年-1482年）『反逆者たちの懲罰』（1481年-1482年）『プリマヴェーラ』（1482年頃）『パラスとケンタウロス』（1482年頃）『ヴィーナスの誕生』（1483年頃）『ナスタージョ・デリ・オネスティの物語、第一話』（1483年）『ナスタージョ・デリ・オネスティの物語、第二話』（1483年）『ナスタージョ・デリ・オネスティの物語、第三話』（1483年）『青年の肖像（ロンドン）』（1483年）『若い女性の肖像』（1480年-1485年）『ヴィーナスとマルス』（1485年頃）『若い婦人に贈り物をするヴィーナスと三美神』（1483年–1486年頃）『七人の自由学芸に紹介されている青年』（1483年–1486年頃）『バルディ家の聖母』（1485年頃）『ザクロの聖母』（1487年頃）『パリスの審判』（1485年-1488年頃）『チェステッロの受胎告知』（1489年）『受胎告知（メトロポリタン美術館）』（1485年–1492年頃）
1490年代以降の作品	『キリストの哀悼（ミュンヘン）』（1490年–1492年頃）『聖母子と3人の天使』（1493年頃）『キリストの哀悼（ミラノ）』（1490年-1495年頃）『聖三位一体』（1491年–1493年頃）『書斎の聖アウグスティヌス（ウフィツィ美術館）』（1490年–1494年頃）『聖ヒエロニムスの最後の聖体拝領』（1494年-1495年頃）『誹謗』（1494年-1495年頃）『聖母子と幼児聖ヨハネ』（1490年–1500年頃）『ゲツセマネの祈り』（1495年-1500年頃）『神秘の降誕』（1500年–1501年頃）『ルクレティアの物語』（1496年-1504年）『ウェルギニアの物語』（1500年-1504年）『聖ゼノビウスの生涯の場面』（1500年-1505年頃）