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胸叩

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
胸敲から転送)
胸叩(左)、鉦叩(右)の歌合(『三十二番職人歌合』、1494年、その1838年の模写)。上半身裸である。

胸叩、または胸叩き胸敲(むねたたき)は、中世近世12世紀 - 19世紀)の日本に存在した民俗芸能大道芸の一種であり、およびそれを行う者である[1][2][3]物乞いの一種であるとされ、歳末に上半身裸で胸を叩き「祝い言」を叫ぶという門付をして、金品を得た[1][2]。一種の予祝芸能である。冬の季語[4]

略歴・概要

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「胸叩」は、上半身裸の人物が、自らの手で自らの胸を叩き、騒がしく叫びながら民家等をめぐり歩く、という芸能である[5]。『絵巻物と民俗』の五来重によれば、そもそも「胸叩」は「山伏苦行」の姿であるという[6]

室町時代15世紀末の1494年(明応3年)に編纂された『三十二番職人歌合』の冒頭には、「いやしき身なる者」として、「鉦叩」とともに「胸たたき」(胸叩)として紹介され、粗末な編笠を被り無精髭を生やし、上半身裸で地面に座り込む姿が描かれている[3]。この歌合に載せられた歌は、

  • 宿ごとに 春まゐらむと ちきりしは 花のためなる むなたゝきかな

というもので、門付で訪れる家々で「春まゐらむ」(「春が来るだろう」の意)と予祝して回る「胸叩」を歌っている[7]。五来重によれば、この時期の「胸叩」は、本来の「山伏の苦行」であることが忘れられてしまっている段階である、という[6]。同歌合に描かれる腰につけた容器状のものは「餌畚」(えふご、鷹狩の際に鷹の餌や弁当を入れる容器)である[7]

国史大辞典』(吉川弘文館)では「胸叩」を「節季候」(せきぞろ)とイコールであるとし、『日本国語大辞典』(小学館)では「節季候の類」としている[4]。確かに「胸叩」の唱える「祝い言」に「節季候」があるが、「節季候」の芸能者たちはみな覆面をしており、衣裳・装束、人数編成等も大きく異なっている[8][9]。『日本国語大辞典』によれば、「胸叩」は、歳末の物乞いの一種で、胸を叩き「節季候」と唱えながら門付をし、金品を乞う者であるとする[4]。『郷土史大辞典』も、中世の「胸叩」が戦国時代・江戸時代の「節季候」の前身であろうと記述している[10]。「節季候」は、近世になって登場したが、歳末に上半身裸で胸を叩く「胸叩」は、近世になっても「節季候」と平行して続いており[8][9]、「胸叩=節季候の前身」説は、「胸叩」の大道芸、正月に手を叩く祝言芸との混同ではないかという指摘もある[11]

江戸時代17世紀 - 19世紀)に入り、「胸叩」の門付は盛んに行われた[1]。「胸叩」たちの芸のうちから起きた俗謡に『浮世叩』(うきよたたき)がある[12][13]。江戸時代にあって、「浮世叩」とは、編笠を被りで拍子をとり、俗謡『浮世叩』を歌いながら行う門付、およびそれを行う者の呼称にもなった[12][13][14]。17世紀に現れた芸能集団「乞胸」の先駆的形態が「胸叩」である、とされる[15]。「乞胸」となった者たちは、そもそも武士階級であった浪人であり、慶安年間(1648年 - 1651年)に「町人階級」(職人商人)に下げられた上で、非人頭車善七の支配下に入った[15][16]。1871年(明治4年)、「乞胸」の名称は廃止となった[16]

脚注

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  1. ^ a b c 胸叩きデジタル大辞泉コトバンク、2012年9月11日閲覧。
  2. ^ a b 胸叩き大辞林 第三版、コトバンク、2012年9月11日閲覧。
  3. ^ a b 小山田ほか、p.142.
  4. ^ a b c 胸叩』 - Yahoo!百科事典、2012年9月11日閲覧。
  5. ^ 岩崎、p.32.
  6. ^ a b 五来、p.251-252.
  7. ^ a b 阿部、p.122-123.
  8. ^ a b 世界大百科事典 第2版『節季候』 - コトバンク、2012年9月11日閲覧。
  9. ^ a b 百科事典マイペディア『節季候』 - コトバンク、2012年9月11日閲覧。
  10. ^ 郷土史、p.985.
  11. ^ 京都、p.61.
  12. ^ a b 浮世叩』 - Yahoo!百科事典、2012年9月11日閲覧。
  13. ^ a b 第2巻、p.529.
  14. ^ 大辞林 第三版『浮世叩き』 - コトバンク、2012年9月11日閲覧。
  15. ^ a b 世界大百科事典 第2版『乞胸』 - コトバンク、2012年9月11日閲覧。
  16. ^ a b 書評・乞胸 江戸の辻芸人野口武彦アサヒコム、2012年9月11日閲覧。

参考文献

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関連項目

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外部リンク

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