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脱炭素社会

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

脱炭素社会 (だつたんそしゃかい, Decarbonized society, Carbon neutral society,decarbonised economy) とは、カーボンニュートラルを実現した社会のこと[1]。一方では科学(化学)的に「炭素循環社会」という用語が適切との意見もある[2]

2018年のIPCC1.5℃特別報告書によれば、産業革命以降の気温上昇幅を1.5℃以内に抑えるためには、地球全体で2050年までにカーボンニュートラルを実現しなければならないことが明らかになっている[3]

世界の動き

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2019年9月国連事務総長気候行動サミットに先立ち、2050年カーボンニュートラルを表明するよう各国首脳に書簡を送った[4]

2021年11月時点で2050年カーボンニュートラルを表明している国は144カ国(中国などは2060年)[5][6]

欧州では石炭火力依存度の高いポーランドが2050年カーボンニュートラルを未表明である[7]

2040年までにカーボンニュートラルを実現するThe Climate Pledgeに署名した企業は2022年6月時点で315社[8]

2021年10月31日から11月13日に開催されたCOP26ではグラスゴー気候合意が採択され気温上昇幅を1.5℃以内に抑える努力を世界的に追求することが合意された[9]

2022年6 月、アメリカのバイデン大統領は気候変動問題について、同年11月に開かれる第27回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP27)に向けて、主要国で首脳会談を開いた。米国の電動車の比率を50%に引き上げる目標を強調し、他国へ同様の目標を示すことを求めた。温暖化ガスを実質0にする目標に向け900億ドルを投じる枠組みへの参加を求めた。[10]

日本の動き

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2016年6月日本はパリ協定を批准[11]した。

2007年の美しい星50以降の「2050年CO2半減を目指す低炭素社会」という概念に代わり、2018年6月環境白書にて、「パリ協定 (気候変動)を踏まえた脱炭素社会の実現」という概念が初登場した[12]

日本は2020年10月の菅義偉内閣総理大臣所信表明演説において、2050年脱炭素社会を実現することを宣言した[13]

2020年11月には衆参両院の本会議において、1日でも早く脱炭素社会の実現すべく、日本の経済社会の再設計・取り組みの抜本的強化を行い、脱炭素の取り組みを実践していく決意の第一歩として、気候非常事態宣言が宣言された[14]

2021年1月には、菅義偉内閣総理大臣による第204回施政方針演説において、電気自動車や燃料電池車による脱炭素社会の実現に向け、2035年までに新車販売での電動車100%の実現を表明した。[15]

2021年6月には地球温暖化対策の推進に関する法律が改正され、脱炭素社会の実現が、温暖化対策推進の基本理念として規定された[16]。2021年10月には日本の国別削減目標(NDC)を46%に引き上げたCO2削減の国別新目標を策定し[17]、国連に提出した。それを踏まえて、二酸化炭素を含む温室効果ガスの全てを網羅し、2030 年度目標を示した、地球温暖化対策計画[18]およびパリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略が2021年10月に閣議決定された[19]

地方の動き

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2020年12月より国・地方脱炭素実現会議が開催され、2021年6月に地域脱炭素ロードマップが策定された[20]。同ロードマップでは、2030年までに民生部門の電気由来CO2を実質ゼロとする100箇所の脱炭素先行地域を選定し[21]、モデルを全国に広げることで2050年よりも前に脱炭素社会を実現することを目指している。

また、2022年4月時点で696自治体において、2050年までに二酸化炭素排出実質ゼロを実現を目指すとの表明が行われている[22]

イノベーション

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2020年1月、脱炭素社会の実現に向けた技術課題とその開発ロードマップを示した革新的環境イノベーション戦略が策定された[23]。対象の5つの重点技術領域は次の通り[24]

  1. エネルギー転換
  2. 運輸
  3. 産業
  4. 業務・家庭・その他・横断領域
  5. 農林水産業・吸収源

総額2兆円のグリーンイノベーション基金も創設された[25]

成長戦略

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2020年12月、脱炭素社会と経済成長の両立と好循環を目指した産業政策として、2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略が策定された[26]

情報公開

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2017年6月、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の最終報告書にて、1.5℃目標などに基づいた将来の脱炭素社会のシナリオをベースとして[27]気候変動が経営に与える影響やリスクへの対応状況などを開示することを提言した[28]。提言に基づき、2021年には東京証券取引所プライム市場の企業に対して開示を義務付けるコーポレート・ガバナンスコード改定を行っている[29]

脱炭素ライフスタイル

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日本のカーボンフットプリントのうち約6割がライフスタイルに起因するものであり、脱炭素型ライフスタイルも模索されている[30]。2015年現在の国民1人あたりのカーボンフットプリントは52都市の平均で7.3t-CO2eqであり、2030年までにこれを3.2t-CO2eqまで削減する必要がある[31]

脱炭素型ライフスタイルの選択肢の中でも、住宅は削減ポテンシャルが高い[32]ことから、2021年には脱炭素社会に向けた住宅・建築物の省エネ対策等のあり方検討会が設置されて、住宅・建築物の断熱性能の強化や住宅太陽光発電の設置義務化についての議論が行われ[33]、2022年4月に脱炭素社会の実現に資するための建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律等の一部を改正する法律案を閣議決定[34]2022年6月に可決成立した[35]。また、東京都は戸建住宅への住宅太陽光発電の設置義務化を検討している[36]

カーボンプライシング

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炭素税国境炭素税、温室効果ガス排出量取引など、成長に資するカーボンプライシング制度の検討が検討されている[37]

2022年6月GXリーグが発足[38]。参加企業は自主的な排出量取引[39]を目指すとしている。

金融・投資

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2021年8月に金融庁の金融行政方針において、グリーン国際金融センターの実現を目標に掲げた[40]

2022年5月に地球温暖化対策の推進に関する法律が改正され、脱炭素社会の実現に向けて官民ファンド脱炭素化支援機構を設けることが決定している[41]

経済財政運営

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気候変動問題を含む環境に関する外部不経済を考慮したグリーンGDP[42]の導入に向けた研究が進められてきており[43]、2022年政府は骨太の方針にグリーンGDPを新指標として盛り込む方針を固めた[44]

一方では科学(化学)的に「炭素循環」という用語が適切との意見もある[2]

科学(化学)的に見た「脱炭素社会」

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炭素(C)は石炭、石油、天然ガスなどの化石燃料に含まれ、燃焼により酸素と化合して二酸化炭素(CO2)を発生する。しかし、人間を含めたすべての生物は炭素含む有機物からできており、「脱炭素社会」と言うと生物もいない社会という間違った印象を与えてしまう。社会が求めているのはCO2の排出量と吸収量が均衡した状態で、排出されたCO2が植物の光合成により有機物となる炭素循環が達成された状態である。したがって、「脱炭素社会」よりも「炭素循環社会」という用語が科学(化学)的に適切との意見がある[2]

脚注

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  1. ^ 脱炭素社会とは?日本は目標を達成できるのか | EnergyShift”. EnergyShift(エナジーシフト) (2021年5月31日). 2022年5月26日閲覧。
  2. ^ a b 「科学(化学)的に正しい「炭素循環」を我が国が目指す社会の用語として使おう!」『化学と工業』、第75巻9月号667頁、日本化学会、2022年9月   [1]
  3. ^ WWFジャパン. “パリ協定とは?脱炭素社会へ向けた世界の取り組み”. WWFジャパン. 2022年5月26日閲覧。
  4. ^ 「美しい演説ではなく具体的な計画を」気候行動サミット、国連本部で23日開幕”. 毎日新聞. 2022年6月13日閲覧。
  5. ^ 環境 | 日本のエネルギー 2021年度版 「エネルギーの今を知る10の質問」 |広報パンフレット|資源エネルギー庁”. www.enecho.meti.go.jp. 2022年6月14日閲覧。
  6. ^ 第1部 第2章 第2節 諸外国における脱炭素化の動向 │ 令和2年度エネルギーに関する年次報告(エネルギー白書2021) HTML版 │ 資源エネルギー庁”. www.enecho.meti.go.jp. 2022年6月13日閲覧。
  7. ^ カーボンニュートラルの実施 ポーランドは例外に”. ASAGAO News. 2022年6月14日閲覧。
  8. ^ Net-zero carbon by 2040” (英語). www.theclimatepledge.com. 2022年6月13日閲覧。
  9. ^ 日本放送協会. “COP26閉幕 気温上昇1.5℃に抑制「努力追求」成果文書採択”. NHKニュース. 2022年6月7日閲覧。
  10. ^ “「30年電動車5割目標」 米大統領、各国に導入呼びかけ”. 日本経済新聞. (2022年6月18日) 
  11. ^ INC, SANKEI DIGITAL (2016年11月9日). “日本が「パリ協定」を批准 批准書を国連本部に提出し手続きを完了 温室効果ガス削減へ安倍晋三首相「日本が主導的な役割を果たす」”. 産経ニュース. 2022年6月7日閲覧。
  12. ^ 環境省_平成30年版 環境・循環型社会・生物多様性白書 状況第1部第1章第1節 持続可能な社会に向けたパラダイムシフト”. www.env.go.jp. 2022年6月7日閲覧。
  13. ^ 令和2年10月26日 第二百三回国会における菅内閣総理大臣所信表明演説 | 令和2年 | 総理の演説・記者会見など | ニュース”. 首相官邸ホームページ. 2022年5月26日閲覧。
  14. ^ 気候非常事態宣言決議(令和2年11月20日):本会議決議:参議院”. www.sangiin.go.jp. 2022年5月30日閲覧。
  15. ^ 令和4年版環境白書・循環型白書・生物多様性白書 2022-06-07
  16. ^ 環境省_地球温暖化対策の推進に関する法律の一部を改正する法律案の閣議決定について”. www.env.go.jp. 2022年6月14日閲覧。
  17. ^ 環境省_「日本のNDC(国が決定する貢献)」の地球温暖化対策推進本部決定について”. www.env.go.jp. 2022年6月7日閲覧。
  18. ^ 地球温暖化対策計画(令和3年10月22日)”. 環境省. 2022年6月19日閲覧。
  19. ^ パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略(令和3年10月22日閣議決定)”. 環境省. 2022年7月25日閲覧。
  20. ^ 国・地方脱炭素実現会議|内閣官房ホームページ”. www.cas.go.jp. 2022年5月26日閲覧。
  21. ^ 環境省_脱炭素先行地域選定結果(第1回)について”. www.env.go.jp. 2022年5月26日閲覧。
  22. ^ 環境省_地方公共団体における2050年二酸化炭素排出実質ゼロ表明の状況”. www.env.go.jp. 2022年5月26日閲覧。
  23. ^ 政府、2050年の環境エネ技術確立に向け「グリーンイノベーション戦略推進会議」始動”. 原子力産業新聞 (2020年7月7日). 2022年5月27日閲覧。
  24. ^ 第1部 第3章 第3節 革新的環境イノベーション戦略の策定・実行 │ 令和元年度エネルギーに関する年次報告(エネルギー白書2020) HTML版 │ 資源エネルギー庁”. www.enecho.meti.go.jp. 2022年5月30日閲覧。
  25. ^ グリーンイノベーション基金とは”. NEDO グリーンイノベーション基金. 2022年5月27日閲覧。
  26. ^ 2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略を策定しました (METI/経済産業省)”. www.meti.go.jp. 2022年5月27日閲覧。
  27. ^ 【業界動向】TCFD提言とは? ~脱炭素社会に備えるヒント~”. 株式会社ウェイストボックス. 2022年5月27日閲覧。
  28. ^ TCFDとは”. TCFDコンソーシアム. 2022年5月27日閲覧。
  29. ^ 気候変動リスク開示へ プライム企業、戸惑いも―東証再編:時事ドットコム”. 時事ドットコム. 2022年5月27日閲覧。
  30. ^ [ 国立環境研究所 脱炭素型ライフスタイルの選択肢:カーボンフットプリントと削減効果データベース]”. lifestyle.nies.go.jp. 2024年1月29日閲覧。
  31. ^ 国内52都市における脱炭素型 ライフスタイルの効果を定量化 ~「カーボンフットプリント」からみた移動・住居・食・レジャー・消費財利用の転換による脱炭素社会への道筋~|広報活動|国立環境研究所”. 国立環境研究所. 2022年5月27日閲覧。
  32. ^ 地球温暖化対策への優先課題は『住宅の高性能化』 「脱炭素社会の実現に向けた住宅の高性能化」に関する報告書を公表”. LIXIL Corporation. 2022年5月27日閲覧。
  33. ^ 住宅:脱炭素社会に向けた住宅・建築物の省エネ対策等のあり方検討会 - 国土交通省”. www.mlit.go.jp. 2022年5月27日閲覧。
  34. ^ 国土交通省|報道資料|「脱炭素社会の実現に資するための建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律等の一部を改正する法律案」を閣議決定~2050年CNの実現に向けて、建築物の省エネ化及び木材利用の促進を図ります!~”. 国土交通省. 2022年5月27日閲覧。
  35. ^ 脱炭素社会の実現に資するための建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律等の一部を改正する法律案:参議院”. www.sangiin.go.jp. 2022年6月14日閲覧。
  36. ^ 東京都、新築一戸建てに太陽光発電パネルの設置義務化 全国初、年度内にも条例制定へ:東京新聞 TOKYO Web”. 東京新聞 TOKYO Web. 2022年5月27日閲覧。
  37. ^ 環境省_令和3年版 環境・循環型社会・生物多様性白書 状況第1部第2章第1節 脱炭素社会への移行”. www.env.go.jp. 2022年5月30日閲覧。
  38. ^ 排出量取引目指し440社 「GXリーグ」発足式―経産省:時事ドットコム”. 時事ドットコム. 2022年6月14日閲覧。
  39. ^ GXリーグ設立準備公式WEBサイト”. GXリーグ設立準備公式WEBサイト. 2022年6月14日閲覧。
  40. ^ コロナ対応が最優先、グリーン国際金融センター構想も=金融行政方針」『Reuters』2021年8月31日。2022年5月27日閲覧。
  41. ^ 日本放送協会. ““脱炭素を資金面で後押し” 改正地球温暖化対策推進法が成立 | NHK”. NHKニュース. 2022年5月26日閲覧。
  42. ^ 環境・経済統合勘定の試算について : 経済社会総合研究所 - 内閣府”. 内閣府ホームページ. 2022年5月27日閲覧。
  43. ^ グリーンGDP”. 高槻市議会議員 吉田あきひろのごきんじょニュース. 2022年5月27日閲覧。
  44. ^ ロイター (2022年5月26日). “脱炭素化へグリーンGDPを新指標に=骨太で政府筋 | ロイター”. ロイター. 2022年5月27日閲覧。

外部リンク

[編集]

脱炭素社会』 - コトバンク