至正直記

『至正直記』（しせいちょくき）は、14世紀に成立した元代の孔斉（号は静斎）による随筆。

概要

著者の孔斉は兗州曲阜県の本貫、建康路溧陽州の出身で、大元ウルスに仕え江南浙西道粛政廉訪司となった孔文升の息子にあたる。孔文升は924年（同光2年）に山東から温州平陽県に移住した孔子の42世の孫の孔檜の子孫を称しており、孔斉もまた孔子の55世の孫にあたる。『至正直記』巻2「別業蓄書」「収貯古刻」などによると父とともに書籍・拓本の収集に尽力していたようであり、拓本だけでも数百枚を集めていたという。

『至正直記』の内容は雑多であるが、元代末期の江南社会を研究する上での貴重な記事を多く所収している。なお、『学海類編』を編纂する際に曹溶がまとめた『静斎直記』5巻として伝わる別本もあったが散逸したとされる。

内容

巻目	節目
巻1	雑記直筆、上都避暑、文宗潜邸、周王妃、古雁、酸斎楽府、僉庁失妻、文山審音、中原雅音、羅太無高節、惜児惜食、富州奇聞、徐州奇聞、戯婚、防微杜漸、脱歓報応、脱歓悪妻、袁氏報応、古陽関、館賓議論、僧道之患、塋墓建庵、雲巌至言、婦女出遊、米元章、兄弟異居、子孫昌盛、陰徳之報、忠卿陰徳、松雪遺事、径寸明珠、子母相関、石枕蘭亭、張貞居書法、趙巌楽府、脱脱還桃、王黄華翰墨、矮松詩、神童詩、王氏奇童、止筯、薩都剌、松江花布、宋緙、集慶官紗、銅銭牌、楮幣之患、国朝文典、義雁、欧陽寵遇、欧陽夢馬、議立東宮、地理之応、漁人致富、謝荘地理、溧陽新河、善権寺地勢、芳村祖墓、子弟三不幸、人家三不幸、子弟居室、生子自乳、婚姻正論、寡婦居処、年老蓄婢妾、婢妾之戒、要好看三字、棺槨之制
巻2	別業蓄書、『詩』重篇名、鉄板尚書、筆品、墨名、白鹿紙、龍尾石、郷中風俗、石假山、寓鄞東湖、卜居近水、江浙可居、淮南可居、客位稍遠、祭祖庖廚、浙西諺、麦蘗、鄭氏義門、商紂之悪、贅壻俗諺、皮褥権坐、婢妾命名、愷木、楷木、五子最悪、天道好還、美徳尚倹、人生従倹、買妾可謹、壮年置妾、娶妻苟慕、又、脱歓無嗣、婢妾察情、屠劊報応、希元報応、金陵二屠、鄞県侏儒、不葬父母、妻死不葬、画蘭法、学書法、鮮于困学書法、松雪家伝書法、魚魫作簡、冀国公論書法画法、裁翦石刻、収貯古刻、江西学館、文章設問、学文読孟、梁棟題峰、鸚鵡詩、鸚鵡曲、広徳郷司、不惜衣食、結交勝己、成人在勤、家法興廃、秤斗不平、浙西風俗、婦人不嫁為節、尋常侍奉、楮帛偽物、外戚之患、古之賢母、蔣氏嫡賢、十六字銘、和睦宗族、遺山奇虎、烹鶏法、見物賦形、生菓菜、祖宗之法、宋末豪民、宋末叛臣、浙東辟地、饒州御土、吃素看経
巻3	景明好事、学宮香鼎、張昱論解、老儒遺文、恕可蘭亭、不食糟辣、喜啖山獐、不嫁異俗、婢不配僕、僕廝端謹、友畏江西、深悪遊惰、衣服尚倹、『月蝕』『大雨』詞、平江讖語、窗扇開向、議肉味、朱氏所短、朱氏所長、首飾用翠、虞邵庵論、新人旧馬、勢不可倚、豪僧誘衆、富戸避籍、世祖一統、好食鶏、戒閹鶏、不畜母鶏、不置牝牡、食必先家長、出家人心、家出硬漢、萬頃良田、日進千文、僕主之分、書留辺欄、丘字聖諱、乞丐不置婢僕、蜈蚣毒肉、姦僧見殺、黄華小荘、山陽之薪、宣城木瓜、蘆把劚石、瑪瑙纏絲、経史承襲、美玉金同、霊璧石、曼碩題雁、古銭、沙魚胎生、鄣南山石、銅棺山草、半両銭、学士帽、艾蒸餅、先賢之後、西川道者、郷中大家、溧陽父老、高昌偰哲、紫蘇薄荷、出納財貨、鮮于伯機
巻4	四民世業、江古心、山中茅葉、篛葉鋪襯、兎無雄、翰林讖語、董栖碧云、黟県老民、董生遇闋、莫置玩器、月中影、陽起石、村館先生、元章画梅、古今無匹、無錫讖石、鶏卵熟栗、江西羅生、義興邵億、蘭艾不同根、江湖術者、戴率初破題、宋鍍金器、宋迎酒盃、故宋剔紅、馩香吸髄、巴豆黄連、山中私議、種竹之法、製薬當謹、草薬療病、季弟患疾、堕胎當謹、服薬関防、五苓散、滾痰丸、平陽王叔瑽、上虞陳仁寿、先君教論、先師徳輝、建康儒学、衢州学覇、太平路学、克誠窃食、種蘭之法、邵永年、平江築城、大興土木、銭唐張炎、茅山水澗、蒼蝿変黒、海浜蚶田、浙西水旱、磨鏡透閨、自称和靖後、詩聯對句、園丁棕絲、鄞人虚詐、敬仁祭酒、乙酉取士、四明厚斎、伯長九字、石蓮、金陵李恒、推人五行、無土不成人、字讖、天賜帰暘、蕭㪺講学、維揚憲吏、江南富戸、溧陽富民、文益棄母、窯器不足珍、鹹物害人、漳州香花、溧陽昏鴉、減鉄為佩、静物致寿、鍾山王気、呉鐸中丞、水向西流

参考文献

• 植松正「圭斎集」『中国史籍解題辞典』燎原書店、1989年
• 宮紀子『モンゴル時代の「知」の東西』名古屋大学出版会、2018年