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茎頂培養

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

茎頂培養(けいちょうばいよう)は、植物組織培養方法の1つ。の先端にある「茎頂」部を切り取り、養分を含む培地にて培養する方法[1]で、成長点培養とも言う[2]

高品質・高収量など目論み培養苗の育成が行われる[3][4]が、必ずしも全ての作物において高品質になるとは限らないとの報告もある[5]。高糖度の果実が収穫されるため、ワイン用ブドウでは収穫時期がウイルスフリー化する以前とは変わる事がある[6]

茎頂部の組織はウイルスが感染しても植物体からの抵抗(RNAサイレンシング)を強く受け、ウイルス蓄積量が減少し、さらには消滅することになる[7][* 1]。これにより茎頂培養する際には頂端分裂組織に葉原基をつけた状態で摘出し、培養することでウイルスフリーの植物体を作ることができる。しかし、実際にはウイルスフリーの部分は植物種によっても異なるが、約0.2-0.4mm程度と大変小さく100%ウイルスフリー株を作ることは難しい。一般的に茎頂部を小さく摘出すればするほどウイルスフリーとなる確率は高いが、植物体に再生する確率は低くなる[7][8]

培養するための培地[9]や育成環境[10]は目的の植物毎に最適化されている[1][11]

茎頂培養が行われる植物の例

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培養によりウイルスフリー化した植物は、そのまま苗として利用する場合[12]と新たな苗を大量生産するための親[3]として利用される。

通常の育苗と比べると専用の設備を必要とすることから、一般にそのコストを吸収できる程度に付加価値をつけて高価に販売できる植物種だけが経済的に成り立っている。特にウイルスフリー化による無病苗の作出により、培養期間を従来より短縮できるなどのメリットのあるラン類や収量と品質向上効果が得られる作物などでは、茎頂培養が普遍的に普及した培養法になっている[13]

主なものを挙げると

歴史

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1960年にフランスのMorelがランの培養に成功した。

注釈

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  1. ^ 植物体の頂端分裂組織近辺にある細胞細胞分裂により常に新しい細胞が誕生しているため、新しい細胞が誕生するスピードに植物ウイルスやウイロイドなどの細胞内寄生病原の感染が追いつかず、一般的にウイルスフリーであると考えられていた[7]

脚注・出典

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  1. ^ a b 中島哲夫、「植物の組織培養法」 化学と生物 1964年 2巻 2号 p.92-97, doi:10.1271/kagakutoseibutsu1962.2.92
  2. ^ 宋碩林、佐藤亨、斎藤明、大庭喜八郎、「キリ7種の成長点培養」 日本林学会誌 1989年 71巻 11号 p.456-459, doi:10.11519/jjfs1953.71.11_456
  3. ^ a b c 笹原宏之、多田邦雄、井理正彦 ほか、「ブドウ樹のウイルスフリー化のための生長点培養による個体の再生について」 園芸学会雑誌 1981年 50巻 2号 p.169-175,doi:10.2503/jjshs.50.169
  4. ^ 上野雄靖、木下研二、戸川英夫、井理正彦、「ブドウリーフ・ロールウイルスフリー化によるワインの品質改善」 日本釀造協會雜誌 1985年 80巻 7号 p.490-495, doi:10.6013/jbrewsocjapan1915.80.490
  5. ^ Okamoto Goro, Miki Yoshihiro, Suyama Akiko, Inubushi Hiroki, Hirano Ken. 「ウイルスフリー化した’グローコールマン’樹の果実の成熟特性」 岡山大学農学部学術報告 1999年 88巻 1号, p.65-71, ISSN 0474-0254, NCID AN00033029
  6. ^ a b 山川祥秀、守屋正憲、「ウイルスフリーのブドウ‘カベルネ•フラン’における果汁成分の経時的変化について」 園芸学会雑誌 1983年 52巻 1号 p.16-21, doi:10.2503/jjshs.52.16
  7. ^ a b c 志村華子、「ウイルスベクターによるRNAサイレンシングとエピジェネティクス誘導」『植物の分子育種学』鈴木雅彦 編著、講談社、2011年、pp.154-155, ISBN 978-4-06-153735-4
  8. ^ a b 竹澤利和、千葉賢一、岩舘康哉、阿部潤、「リンドウこぶ症の接木伝染性および茎頂培養による無症状化」 北日本病害虫研究会報 2006年 2006巻 57号 p.68-71,doi:10.11455/kitanihon1966.2006.68
  9. ^ 河原林和一郎、浅平端、「ユリ茎端部組織の生育に及ぼす培地組成及び培養条件の影響」 園芸学会雑誌 1988年 57巻 2号 p.258-268, doi:10.2503/jjshs.57.258
  10. ^ 本條毅、高倉直、「植物組織培養によるシンビジウムPLB増殖へのCO2濃度, 光強度および液体培地組成の影響」 農業気象 1987年 43巻 3号 p.223-227, doi:10.2480/agrmet.43.223
  11. ^ 古在豊樹、「植物組織培養と培養器内環境調節」 化学と生物 1988年 26巻 2号 p.113-119, doi:10.1271/kagakutoseibutsu1962.26.113
  12. ^ a b 李又紅、今井健、大野始、松井鋳一郎、「カトレア交配種メリクロン苗の抗酸化酵素活性に及ぼす順化温度の影響」 園芸学会雑誌 2004年 73巻 4号 p.386-392,doi:10.2503/jjshs.73.386
  13. ^ 鎌田博、立川佳伸、「人工種子技術の開発の現状と問題点」 化学と生物 1992年 30巻 6号 p.371-379, doi:10.1271/kagakutoseibutsu1962.30.371
  14. ^ 鹿野弘、大沼康、佐々木丈夫 ほか、「組織培養によるイチゴ大量増殖苗の利用技術」 宮城県農業・園芸総合研究所研究報告 69号, p.50-57(2002-03)
  15. ^ 培養苗ができるまで 浜松市
  16. ^ 小宮威弥、「リンゴ組織培養技術の開発と応用」 植物組織培養 1992年 9巻 2号 p.69-73, doi:10.5511/plantbiotechnology1984.9.69
  17. ^ 海津裕、岡本嗣男、芋生憲司、「サトウキビメリクロン株分けロボットシステムの開発」 農業機械学会誌 2001年 63巻 Supplement号 p.253-254,doi:10.11357/jsam1937.63.Supplement_253

外部リンク

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