蒸し物
蒸し物(むしもの)あるいは蒸し料理(むしりょうり)は、蒸気を使って加熱した料理。茹で物のように湯に水溶性の栄養素が溶け出さないこと、または炒め物のように油を必要とせず低カロリーですむことから、蒸し加熱によるヘルシー志向の温野菜調理を好む者もいる。
特徴
[編集]湯気による湿潤な状態で加熱ができ、食材を乾燥させず栄養の流出などなく調理できる[1]。調理後の食材はスープのない料理でもふっくら、しっとりに仕上がることが多い。100℃以上に温度が上がらないため栄養をあまり失わず、形も崩さないため素材を活かすことのできる料理である。その一方で、調理途中に味付けができないため、あらかじめ食材に下味をつけておくか、調理後にテーブルソース(タレ)をつけて食べることが多い[2]。
蒸すときは蒸し器の温度が十分上がり安定してから入れないと熱の入り加減にばらつきが出る[1]。
一般に鶏肉や魚介類など淡白な味わいのものが向き、生臭いもの、臭みの強い肉や、アクの強い野菜類には向かない[3]。
蒸し方
[編集]蒸すことは、蒸かし(ふかし)ともいう。蒸し器としては蒸籠(せいろ)が使われる。
蒸す際にはあらかじめ鍋で水を沸騰させて蒸し湯を作り、その鍋の上に加熱したい食材を入れた蒸籠を置く。湯気を絶えず充満させるため、水は常に加熱し、蒸籠には蓋をしたままにしておく。中華まん、シュウマイなどの点心はこの方法で蒸されることが多い。蒸篭の蓋は竹や木を編んだものであり湯気が抜けやすく、必要以上に湯気をこもらせて食材をびしょびしょにしてしまうことが起こりにくい特長がある。
蒸籠がない場合は、大きめの鍋に少し水を張り、それよりも高い五徳や茶碗などの台を置いた上に皿や網を乗せ、蓋で密閉して加熱すると蒸すことができる。この方法の方が短時間に蒸すことが可能なため、中華料理の蒸し魚や蒸し蟹はこうして蒸されることも多い。取り出す際にやけどをしやすいため、トングの先を曲げたような形の取り出し器具も中国ではよく使われている。
蒸し湯を沸かした鍋と蒸籠を使う方法のほかに、食材自身や酒などの液体調味料の水分を利用した方法がある。電子レンジでも、器に蓋をしたり、ラップ類を張って加熱することにより、食材の水分を使って蒸すことができる。専用の容器がみられるほか、近年はスチームオーブンなどその機能が付与された機種も見られる。
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餅つきのしたくに餅米を蒸している。
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中華なべを利用した蒸し物。水を張り網を沈めて冷凍食品を加熱。
湯気や水蒸気を用いる他の調理法
[編集]湯気を用いて加熱する調理法は別の調理法の副次的な方法としてとられることが多い。食材の中心にまで加熱することを主な目的としている。
- 蒸し焼き
- 焼く過程において、水、酒などを加えて蓋をし、発生した水蒸気や湯気で加熱する調理方法。また、食材に元々含まれていた水分で蒸し焼きする場合もある(例:焙烙蒸し・塩窯蒸し)。肉や魚の炒め物料理や鉄板焼きなどで多く使われる。モロッコなどのタジン鍋は蒸し焼きにするために適した調理器具。
- 蒸らし
- 米を炊く際によく用いられる方法で、調理の最終工程の加熱後、食材に残った熱による調理方法であり、発生した湯気により食材がふっくら、しっとりとした状態にできる。
- ロースト
- ブロック肉や丸鶏など調理する際によく用いられる方法で、通常は安定加熱のためオーブンなどを使用する。オーブン内を数百℃に保ち時間をかけて一定温度で加熱する。投入時は蒸し焼き状態になる。経時後は高温のため湯気が発生せず、乾いた雰囲気により食材表面に焼き目を付けることができる。
蒸し料理の例
[編集]日本料理
[編集]- 調味料が料理名になったもの
- 容器が料理名になったもの
- 蒸し焼きの別名 (調理法)
- その他
中華料理
[編集]歴史
[編集]ヨーロッパでは普及せず、フランス料理で素材の水分で蒸す「エテュベ」や「ブレゼ」、少量のワインや出汁などで蒸すように煮る「ポッシェ」などはあったが、水を沸騰させるヴァプール(フランス語: vapeur)と呼ばれる蒸し調理が取り入れられたのは1970年代のヌーベル・キュイジーヌ(フランス語で「新しい料理」の意)以降となる[3]。料理人の高橋拓児は、西洋では臭みが強い牛肉や豚肉などが主食であることが流行らなかった理由でないかと推測している[3]。
中国大陸では6000年~7000年前の新石器時代ごろの黄河流域から陶器で作られた蒸し器(甗)が出土している。
日本列島へは中国東北部・朝鮮半島を経由して、3世紀(弥生時代末)ごろに伝わったとされ、福岡県の西新町遺跡からは土製蒸し器が出土している。しかし、その後に蒸し調理は一時廃れた[20]。なお、これより古い時代の旧石器時代から、焼け石を敷き詰めた上に葉に巻いた肉などを置き、土をかけた上で水をかけて蒸し焼きにする石蒸しという調理法が行われていたと推定されている(遺構として旧石器時代のものは礫群、縄文時代のものは集石と呼ばれる)。現在でも多くの文化で同様の調理法アースオーブン(南米のパチャマンカなど)が確認される[21][22][23]。
脚注
[編集]出典
[編集]- ^ a b Buratti, Susanna; Cappa, Carola; Benedetti, Simona; Giovanelli, Gabriella (2020-05-09). “Influence of Cooking Conditions on Nutritional Properties and Sensory Characteristics Interpreted by E-Senses: Case-Study on Selected Vegetables” (英語). Foods 9 (5): 607. doi:10.3390/foods9050607. ISSN 2304-8158. PMC 7278733. PMID 32397489 .
- ^ “科学的にどんな調理ならアリ?「時間調理学」で健康的な"ごはん"を考える(柴田 重信)”. ブルーバックス(講談社). 2024年1月6日閲覧。
- ^ a b c “蒸し物 ゆでの数倍の強火力で一気に加熱、素材生かす”. 日本経済新聞 (2016年6月30日). 2024年1月6日閲覧。
- ^ 日本大辞典刊行会 2002, p. 600.
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- ^ a b c 広辞苑第5版
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- ^ 「酒蒸し」『日本国語大辞典』第14巻 (Google ブックス)2018年1月29日閲覧。
- ^ “第390回放送 鯛の丹波蒸し”. あいテレビ (2016年11月25日). 2022年7月29日閲覧。
- ^ “天ぷら&蒸し物2種 日本料理”. 西武調理師アート専門学校 (2017年10月25日). 2022年7月29日閲覧。
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- ^ “(8)蒸して食べる - なぶんけんブログ”. www.nabunken.go.jp. 奈良文化財研究所. 2024年1月6日閲覧。
- ^ 『岩宿時代集落と食の理解へ向けての基礎的研究 : 石蒸し調理実験1999-2011 (古代學協會研究報告 ; 第9輯)』 。2024年1月6日閲覧。
- ^ 発縄文式石蒸し料理跡 サイト:御代田町(みよた広報 やまゆり3月号)
- ^ “礫群”. www.digital-museum.hiroshima-u.ac.jp. 2024年1月7日閲覧。
参考文献
[編集]- 落合直文 著、芳賀矢一 (改修) 編『言泉: 日本大辭典』 4巻、大倉書店、1927年、237頁。 NCID BN01737342。OCLC 265433343。
- 尚学図書 (編集)、林 大 (監修) 編『言泉 : 国語大辞典』小学館、1986年。ISBN 4095010215。 NCID BN00581984。
- 西東社出版部 (編集) 編『楽しむ釣り魚料理』西東社、1997年12月25日、38-39頁。ISBN 4791609336。 NCID BA35779647。
- 第一出版センター (編集) 編『四季日本の料理 秋』講談社、1998年。ISBN 4-06-267453-X。
- 新村出 (編著)『広辞苑』 5巻、岩波書店、1998年。ISBN 4000801120。 NCID BA38286103。
- 川上行蔵 著、小出昌洋 (編集) 編『食生活語彙五種便覧』 2巻、岩波書店〈完本日本料理事物起源〉、2006年、254頁。ISBN 9784000242400。 NCID BA38286103。
- あんばいこう『食文化あきた考』無明舎出版、秋田、2007年、121頁。ISBN 9784895444620。 NCID BA83103241。
- ひろさちや『本日「いいかげん」日和: そのまんま楽しく生きる一日一話』PHP研究所、2010年、424頁。ISBN 9784569791203。