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西ゲルマン語群

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
西ゲルマン語群
話される地域本来は北海ライン川エルベ川アルプス山脈に囲まれた地域、現在では世界中
言語系統インド・ヨーロッパ語族
下位言語
ISO 639-5gmw

西ゲルマン語群(にしゲルマンごぐん)とは、インド・ヨーロッパ語族ゲルマン語派中最大の分派である。英語ドイツ語オランダ語フリジア語ルクセンブルク語アフリカーンス語イディッシュ語などが属する。

歴史

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ゲルマン民族の大移動の推移;紀元前750年-1年(ペンギン世界歴史地図帳1988から引用):
  • :移動前 紀元前750年
  • :紀元前500年
  • :紀元前250年
  • :1年

起源と特徴

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ゲルマン語派は伝統的に、西、北ゲルマン語群の三つの語群に分類される[1]。これらの詳細な系統をルーン文字の乏しい資料から決定するのは難しく、そのため現在でもいくつかの言語はその系統と分類について論争が見られる。民族移動時代のころはまだこれら三語群は互いに意思疎通が可能であったとみられる。現在西ゲルマン語群に分類される諸言語の元となった方言は紀元前1世紀頃後期ヤストルフ文化の中でゲルマン祖語から分化したとされる。このとき分かれた西ゲルマン語群は以下の点において音韻論的にも形態論的にも東、北ゲルマン語群と特徴を異にしている[2]

しかしながら、多くの学者は西ゲルマン語群が直接、ゲルマン祖語から分かれたのではなくゲルマン祖語に直結する何らかの言語を介して分化したのではないかと考えた。すなわち"西ゲルマン祖語"が存在したのではないかということである[2]。それどころか、一部の学者はゲルマン祖語から東ゲルマン語群が分化した後に残った他のゲルマン諸語つまりは北西ゲルマン語群が四つの方言[3] に分かれ、一つは北ゲルマン語群に残りの三つは"西ゲルマン語群"と呼ばれるに至ったと論じたのである。つまりは、

  1. 北海ゲルマン諸語(North Sea Germanic languages):インガエウォネース語英語版、その流れを汲むアングロ・フリジア語群低地ドイツ語低ザクセン語
  2. エルベゲルマン諸語(Elbe Germanic languages):ヘルミノーネース語英語版、その流れを汲む高地ドイツ語中部ドイツ語上部ドイツ語
  3. ヴェーザー・ラインゲルマン諸語(Weser-Rhine Germanic languages):イスタエウォネース語英語版、その流れを汲む古フランク語低地フランク語オランダ語

の三つの方言である。 この見解の根拠は北ゲルマン語群、西ゲルマン語群に共通して見受けられる以下の点を含めた多くの言語的現象から来るものである[2]

この見解下では西ゲルマン語群の特徴は北ゲルマン語群から分離した際にできたもので、西ゲルマン祖語から受け継がれたものとはされない。それらの特徴は中欧のゲルマン諸語間の言語接触により広まったがスカンジナビアまでは到達しなかった。しかし、この二語群間の構文法の類似点から判断すると古代、西ゲルマン語群と北ゲルマン語群が互いに意思疎通が可能であったほど近い存在であると主張された[4]

中世

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中世の間、西ゲルマン語群は島嶼部における中英語の発展と大陸部における第二次子音推移によって明確に分かれた。 第二次子音推移は高地ドイツ語とその他の西ゲルマン諸語を区別し、その差異は近代までに相当広がったとされ、例えば南は高地アレマン語(残存する言語では最南端はヴァリス方言)と北は北低地ザクセン語の場合、両言語とも現代の単一ドイツ国内で話されているに関わらず意思疎通は不可能である。最南端の諸方言は第二次子音推移を完了したが、北部諸方言はその影響を受けずに残ってしまったのである。

現在のドイツ語「方言」のうち、低地ドイツ語は大部分が近代英語と類似している。これはアングル人の発祥地が北ドイツのアンゲルン半島であり、サクソン人の故地がドイツ中北部に広がるザクセン地域(その中でもおおむね現在のシュレースヴィヒ=ホルシュタイン州ニーダーザクセン州にあたる)であり、さらにジュート人が住んでいたのが、その名前の由来となったユトランド半島北部であるためである。彼ら三つのゲルマン民族を中心に、その他の雑多な北ドイツ諸民族がアングリアの南に入植して成立したアングロ・サクソン人は、すなわちユトランド半島から来たのである。

分類

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西ゲルマン語群の分類は、伝統的には以下のようにするのが一般的であった。

近年では、先述のとおり以下のような分類も考えられている。

所属言語

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現代ヨーロッパのゲルマン語派:
  北と西を分ける境界線
北ゲルマン語群 西ゲルマン語群
  英語

細分化された分類についてはまだ確定されたものではない事に注意。

比較

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下の表は近代西ゲルマン諸語の相互関係を記したもので密接な関係にありゲルマン祖語の語根 *se/*þe、*hwa、*heに起源を持つ三つの単語で示してある。これを西ゲルマン語群の主要な三言語(英語、オランダ語、ドイツ語)を例にとって見ていこう。

主な西ゲルマン諸語における同語源の三単語の比較表
英語 オランダ語 ドイツ語
*Se/*þe *Hwa *He *Se/*þe *Hwa *He *Se/*þe *Hwa *He
主格 男性 the who he de wie hij, ie der wer er
中性 that what it dat wat het das was es
女性 she (who) ME/西中部イギリス方言 hoo zij, ze (wie) sie, die (wer)
複数 they (who) zij, ze (wie) sie, die (wer)
指示語 this dit, deze dies-
副詞・名詞的用法 so, thus while zo, dus wijl so Weile
関係詞 such which each zulk welke elk solch- welch- MHG elch-
双数 whether weder
  英語 オランダ語 ドイツ語
与格 男/中性 whom him hem dem wem ihm
女性 (whom) her haar der (wem) ihr
複数 them (whom) 'em hen/hun den (wem) ihnen
属格 男/中性 whose his wiens des(sen) wessen
女性/複数 their her wier haar der(en) ihr-
処格 there where here daar waar hier da, dar- wo, war- hier
向格 thither whither hither der her her
奪格 thence whence hence (von) dannen
具格 why, how hoe wie
時制/接続法 I then when dan wanneer dann wann
II than (when) (dan) (wanneer) denn wenn
*Se/*þe *Hwa *He *Se/*þe *Hwa *He *Se/*þe *Hwa *He
英語 オランダ語 ドイツ語

脚注

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  1. ^ Hawkins, John A. (1987). “Germanic languages”. In Bernard Comrie. The World's Major Languages. Oxford University Press. pp. 68–76. ISBN 0-19-520521-9 
  2. ^ a b c Robinson, Orrin W. (1992). Old English and Its Closest Relatives. Stanford University Press. ISBN 0-8047-2221-8 
  3. ^ Kuhn, Hans (1955–56). “Zur Gliederung der germanischen Sprachen”. Zeitschrift für deutsches Altertum und deutsche Literatur 66: 1–47. 
  4. ^ Graeme Davis (2006:154) notes "the languages of the Germanic group in the Old period are much closer than has previously been noted. Indeed it would not be inappropriate to regard them as dialects of one language. They are undoubtedly far closer one to another than are the various dialects of modern Chinese, for example. A reasonable modern analogy might be Arabic, where considerable dialectical diversity exists but within the concept of a single Arabic language." In: Davis, Graeme (2006). Comparative Syntax of Old English and Old Icelandic: Linguistic, Literary and Historical Implications. Bern: Peter Lang. ISBN 3-03910-270-2