小選挙区比例代表併用制
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小選挙区比例代表併用制(しょうせんきょくひれいだいひょうへいようせい、英:Mixed member proportional representation)とは、選挙制度の一つである。小選挙区制の要素を加えた比例代表制。全議席は政党の得票数に応じて比例配分されるが、各政党では小選挙区で当選した候補者に優先的に議席が与えられる。ドイツやニュージーランドでの採用例が有名である。
概説
[編集]この制度では全議席は比例代表によって民意に近い配分がされ、かつ有権者は誰を当選させるかを選ぶことができるという利点がある。一方で、複雑で分かりにくい制度という欠点もある。
小選挙区制と比例代表制の選挙を同時に行う点は小選挙区比例代表並立制と同じであるが、決定的に違うのは、併用制では各党の議席数は基本的に比例代表の得票率により決定し、小選挙区部分は党内の当選者を決定する際に使用されるという点である。別の言い方をすれば、1)比例代表で全ての政党別の議席配分を決めた上で、2)各政党に配分された議席をその党の小選挙区での当選者に優先して割り当て、3)それでも余りが生じた場合にのみ政党名簿に登載された候補者を補充して当選させることになる。このため小選挙区での獲得議席が比例代表での獲得議席を上回る政党が現れない限り、比例代表の性質は歪められない。ただし、比例代表の一票の格差を自動調整する機能は失われる。
なお比例区(政党名簿)と小選挙区では個別に分離して投票を行うことが多い(二票制。右のドイツの例での投票用紙もこの一種である)が、小選挙区の候補者への投票を所属する政党への投票とみなし、全国で政党別に集計して各政党に比例配分すること(一票制)も、理論的には可能である。
小選挙区で候補者が無所属で出馬し当選した場合は、政党名簿での議席配分にあずかることができないため、当然比例代表の枠外での当選となる。極端な例だが、小選挙区の候補者が全員無所属で出馬した場合は、事実上小選挙区比例代表並立制と同じとなる。これを防ぐためドイツでは、小選挙区比例代表並立制を採用している日本とは逆に、同一候補者が小選挙区と比例区に重複立候補することが奨励されている節がある。実例としては有力政治家であるヘルムート・コール(ドイツキリスト教民主同盟)もハンス・ディートリヒ・ゲンシャー(自由民主党)も重複立候補した上、地元の小選挙区では落選を繰り返し、比例区で当選(いわゆる復活当選)していた[1]。
超過議席
[編集]ドイツでは小選挙区の獲得議席数が比例で獲得した議席数を上回った場合、超過分も超過議席(ドイツ語:Überhangmandat、英語:Overhang seat)として認められるため、ドイツ連邦議会では定数より選挙での確定議席数が多くなることがほとんどであり、若干ながらドイツキリスト教民主同盟、ドイツ社会民主党の二大政党に有利に働いている[2]。このためドイツでは、この制度が阻止条項と並んで議会政治の安定に寄与している側面がある。
デメリット
[編集]小選挙区制の要素を加えているものの、比例代表制の性格が強い選挙制度である。政党の得票数に応じて、全議席を比例配分するが、各政党では小選挙区で当選した候補者に優先的に議席が与えられるものの、小選挙区で落選しても政党の得票数に応じて、比例配分される議席で比例名簿順に当選する。そのため、ヘルムート・コール元ドイツ首相は小選挙区で4回も落選しているが、そのたびに復活当選している。ドイツの各政党は選挙に弱くても党内で重要な人物を比例名簿の上位に載せている。日本でも、参議院全国区や衆議院比例代表で日本共産党や公明党が行っている、幹部など地位が高いほど比例名簿上位に載せるような比例名簿順の決め方は、若手冷遇・党の高齢化を招きやすい傾向になっている[3]。さらに小党乱立しやすく、単独過半数をとれることはほぼ無く、右派第一党と左派第一党の大連立になることもあり、3党連立も珍しくなく、総選挙後に内閣が発足するまで政策が大きく異なることでその摺合せのために平均3ヶ月かかる[4]。小選挙区でも低い得票率で当選できるため、「選挙区の当選者」といっても民意を代表する政治家と呼べなくなりつつある[5]。
曽根泰教(慶應義塾大学名誉教授)は2017年9月のドイツ連邦議会選挙後、同年12月時点でも新政権の形がなっていない背景について、中道右派キリスト教民主・社会同盟が勝利を収めたものの、アンゲラ・メルケル新政権の他党との連立協議が難航・頓挫しているからと解説している。このような場合は少数与党、再選挙、左派第一党SPDとの大連立となってしまう。曽根によると、ドイツの小選挙区比例代表併用制だと選挙後に政権の形が見えない背景には何百ページにわたる連立協議の協定書を作らなければならないことにある。ベルギーでの過去最長の連立協議に541日、オランダの場合も225日で4党の連立政権が漸く成立している。このような選挙後に政策の摺合せを行うために投票前の有権者には、特に主義主張の異なる右派・左派連立政権のために選挙後の第一党投票者が投票時に願ったのと大きく異なる政策が実行される経験を毎回伴う。戦後のドイツでは完全比例代表制で第2次大戦前に小党が余りにも乱立したことで政治が混乱、ナチスの台頭を招いたことの反省のために、比例で得票率5%未満の極小党は議席を与えない「5%条項」がある。それでも、投票者的には不満が生まれる中道右派政党と中道左派政党の大連立政権が見られる。[要出典]
併用制を採用している国
[編集]- ドイツ:下院と多くの州議会
- ニュージーランド:議会
- スロベニア:下院
- ルーマニア:上院・下院 - 一院制議会への移行を予定
- ベネズエラ:議会
- アルバニア:議会
- ボリビア:下院[6]
- ハンガリー:議会 - 並立制の要素も加えた、折衷的な制度
- イギリス:スコットランド議会とウェールズ議会とロンドン議会 - 超過議席は出ない仕組み。連用制も参照。
- 南アフリカ共和国:地方選挙
- 大韓民国:国会 - 小選挙区で獲得した議席が多いほど配分される比例代表の議席数が少ないという小政党に有利なシステムを2020年の総選挙前に導入したが、大型政党の衛星政党の成立により形骸化[7]。
脚注
[編集]- ^ 参考 加藤秀治郎『日本の選挙-何を変えれば政治が変わるのか-』p106-107(2003年 中央公論新社) ISBN 4121016874 。なお、コールは1990年の連邦議会選挙においてのみ地元の小選挙区で勝利した。
- ^ ドイツでは第3党以下の自由民主党、緑の党が小選挙区で議席を獲得することはまれであり、左翼党の小選挙区議席も地盤である旧東ドイツ地域に集中している。なお逆に地域政党のキリスト教社会同盟は議席のほとんどを地盤であるバイエルン州の小選挙区で獲得している。
- ^ 図解・日本政治の小百科 - p78,橋本五郎, 飯田政之, 加藤秀治郎 · 2002年
- ^ 図解・日本政治の小百科 - p90,橋本五郎, 飯田政之, 加藤秀治郎 · 2002年
- ^ “小選挙区制の功罪 独の比例併用制「進む多党化が試練」”. 日本経済新聞 (2021年2月16日). 2021年11月24日閲覧。
- ^ 超過議席が出ない仕組みになっており、連用制に近い。Matthew Shugart & Martin P. Wattenberg (ed). 2001. Mixed-Member Electoral Systems: The Best of Both Worlds? Oxford, UK: Oxford University Press. P.23.
- ^ “比例衛星政党をもたらす「つぎはぎ選挙法」、強行すれば憲政史の汚点になる”. 東亜日報. (2019年12月26日) 2020年6月26日閲覧。
参考文献
[編集]- 早川東三ほか編 『ドイツハンドブック』 三省堂、1984年
- 渡辺重範編:ドイツハンドブック、早稲田大学出版部、1997年
関連項目
[編集]- 小選挙区制
- 比例代表制
- 小選挙区比例代表並立制
- 小選挙区比例代表連用制
- 重複立候補制度
- 大連立
- 阻止条項:ドイツにて比例得票率5%