超選択則
量子力学において超選択則(ちょうせんたくそく、英: superselection rule)とは、物理系に応じてある演算子が存在し、任意の観測可能なエルミート演算子(オブザーバブル)に対し(すなわちとの可換性)が成り立つという法則である[1]。 は超選択則を特徴付ける作用素(英: superselection charge)と呼ばれる。その逆、つまり「超選択則を満たす演算子はオブザーバブルである」が正しいのかは分かっていない[2]。
系のハミルトニアンは観測可能である(と仮定される)のでであり、は保存量である。したがって超選択則は(不正確ではあるが)「保存量の演算子と可換でない演算子は観測可能な物理量に対応しない」という意味だといえる。これは、超選択則の元となった選択則が量子状態のパリティやスピン多重度の保存則に関連していることに対応している。
例えば、位置演算子は運動量演算子と可換でない(正準交換関係)ので、運動量が保存するとき位置は観測可能でない。これは不確定性原理においてとするとが発散して意味のある観測ができないことを表している。
超選択則と混合状態
[編集]超選択則を特徴付ける演算子の異なる固有値に属する(すなわち、がオブザーバブルであるとすれば、それに対応する物理量の値が異なる)2つの量子状態とは、任意のオブザーバブル(超選択則よりと可換)に対して、を満たす。これはとにおけるの値をそれぞれと(これらはいずれも実数であることに注意)として
であることから分かる。
これら2つの重ねあわせ状態においてオブザーバブルの期待値は、干渉項が落ちるので
となる。任意のオブザーバブルに対してこれが成立するので、重ね合わせによる量子干渉効果を観測することが出来ない。その意味では古典確率的にとのどちらかであるような状態、すなわち混合状態のように振る舞う。このように超選択則は「の異なる固有値に属する固有状態の重ね合わせが、混合状態として振る舞うこと」と定義することもできる[3]。
2つの状態とが任意のオブザーバブルに対して を満たすとき、この2つの状態は超選択則によって分離されていると言う。超選択則によって分離されている状態の重ね合わせが混合状態のように振る舞うことは、上と同様にして示される。これに対し、ハミルトニアン演算子についてを満たす2つの状態は選択則によって分離されていると言う。
脚注
[編集]参考文献
[編集]- 清水明『新版 量子論の基礎―その本質のやさしい理解のために―』サイエンス社、2004年。ISBN 4-7819-1062-9。
- 谷村省吾 (2012年). “量子論における超選択則の力学的起源とカラーの閉じ込め”. 2014年2月1日閲覧。