関係主義
関係主義(かんけいしゅぎ)、ないしは関係論(-ろん) (英: relationalism)とは、存在を関係性の中の結節点(ノード)として捉える発想・主張のこと。存在が独立的・自立的に存在していると捉える実体論(substantialism)、素朴実在論(素朴実体論)と対照を成す。
なお、似た用語としては、知識社会学の祖であるカール・マンハイム等に始まる、思想・認識の社会的被拘束性・相関性を前提とした、個々の社会的・歴史的文脈に着目する相関主義(relationism)があるが、関係主義(relationalism)は関係性そのものを強調するという点で、ニュアンスや観点がいくらか異なる。
仏教
[編集]仏教は、存在・認識の「縁起」をその中核に据えた、徹底した関係主義的思想・宗教として知られる。初期仏教においては、諸行無常を悟り、存在への無知(無明)・執着を克服することで、苦を滅する十二支縁起が説かれたが、部派仏教の時代になり、その解釈、原理や元素の分析が多様化し、様々な論書(アビダルマ)が著された。それに対してナーガールジュナ(龍樹)は、あらゆる存在・認識の空(無自性)・相依性(相互依存性)の縁起を説き(中観)、関係主義を極致に至らしめ、大乗仏教に大きな影響を与えた。
哲学
[編集]存在・認識を、経験と理性との関係性の中で捉えていくというイマヌエル・カントの発想(コペルニクス的転回)は、近代西洋哲学における関係主義の萌芽だと言えるが、その発想は、ヘーゲル等のドイツ観念論及びカール・マルクス等の弁証法により発展され、更に、マルティン・ハイデッガーの現象学的手法により徹底された。
また、ソシュールのシニフィアンとシニフィエ(記号と意味内容)の対応関係に関する考察は、言語学に関係主義的発想をもたらした。後期ウィトゲンシュタインの「言葉の意味内容は、それを用いる人間達の間の関係性・了解によって決定される」という「言語ゲーム」論もまた、言語学分野に関係主義的発想をもたらした。
こうした成果を背景として、構造主義、ポスト構造主義(ポストモダニズム)という、哲学分野における一大潮流が起こり、社会論にも影響を与えた。
社会学
[編集]社会学の一大潮流である機能主義・構造主義・一般システム理論も、関係主義の一種である[1]。
サン=シモン、オーギュスト・コント、ハーバート・スペンサー等によって確立されたこの潮流は、エミール・デュルケームを経て、タルコット・パーソンズ、ロバート・キング・マートン等の機能主義(構造機能主義)社会学や、社会システム理論へと結実する。パーソンズの社会システム理論は、ニクラス・ルーマンによってオートポイエーシス概念の導入が図られ、独自の形で継承・発展された。
人類学
[編集]ブロニスワフ・マリノフスキー、ラドクリフ=ブラウンの機能主義(構造機能主義)人類学、クロード・レヴィ=ストロースの構造主義人類学は、上記の哲学的・社会学的議論に、一定の影響を与えた。
自然科学
[編集]19世紀頃に本格的に確立した生物学は、関係性の中で成立する有機体の概念を広め、上記の哲学や社会論・社会学の議論に、大きな影響を与えてきた。
1916年に発表されたアインシュタインの相対性理論や、1927年に発表されたハイゼンベルクの不確定性原理は、物理現象の相対性や観察行為・観察主体との関係性に対する視座をもたらし、古典物理学の枠組みに変革をもたらした。