電気双極子(でんきそうきょくし、英: electric dipole)とは、大きさの等しい正負の電荷が無限小の間隔で対となって存在する状態のことである。
正負の電荷 ±q の位置を r± としたとき、電気双極子は位置の差 δ = r+ − r− が無限小の極限として表され、その強さは
で表される。
単位はデバイ。
位置 r にある電気双極子 p による電荷密度は
となる。複数の電気双極子 pi が位置 ri に分布しているとき、重ね合わせの原理により
となる。
電荷密度 ρ の畳み込みで表される場
は、電気双極子によるときは
となり、双極子が有限の領域に分布しているならば境界項はなくなり
が得られる。
例えば、電気双極子による静電ポテンシャルは
となる。
電荷密度 ρ に対して、1次のモーメント
として、電気双極モーメントが定義される[1]。
電荷密度を点電荷の集まり
と考えるとき、電気双極モーメントは
となる。
電荷分布が全体として中性のとき、すなわち
であるとき、電気双極モーメントは
となり、位置 x に依らない一定のベクトルとなる。
特に電気双極子による場合
である。
電気双極モーメントは原点付近に局在する電荷分布を近似する多重極展開における第一近似であり、電荷の総和がゼロの場合に、電気双極子の総和で近似されることを意味している。
電気双極子の物理的な実体としては、電子と原子核の束縛状態である原子や、原子同士の束縛状態である分子が挙げられる。
例えば水の分子では、酸素原子が電子を引き付けており、分子形状も曲がっているため、酸素原子が負、水素原子が正に偏った電気双極子とみなすことができる。このような電場がかかっていない状態でも分子がもつ電気双極子は永久双極子と呼ばれる。
また原子や分子に外部電場をかけることで、電荷の偏りが生じて分極する。このときの電気双極子を誘起双極子という。
外部電場 E に対して誘起される電気双極子を
と表したときの係数 α を分極率と呼ぶ。
- ^ ジャクソン 『電磁気学』 p.205