靖国神社・日本大使館放火事件
靖国神社・日本大使館放火事件(やすくにじんじゃ・にほんたいしかんほうかじけん)は、2011年12月26日に中国籍の男が靖国神社を放火し、さらに2012年1月8日に在大韓民国日本国大使館に火炎瓶を投擲した事件[1][2][3]。
日中韓政府間の外交問題となった[2][3]が、中国の要請に応じた韓国が日韓犯罪人引渡し条約に抵触しない「政治犯」と認定し、犯人は中国へ送還された(日中間には犯罪人引渡し条約がない[4])。
後発事件として、2013年9月に韓国籍の男が日本に入国、揮発・引火性を有する液体を放火目的で靖国神社内に撒くなどの国際テロ未遂事件が起きている[5]。
事件の経緯
[編集]実行犯の出自
[編集]実行犯は、1930年代に抗日独立運動をして捕まり西大門刑務所で拷問を受け殺されたとする曽祖父[6][7]、抗日新四軍連隊長の祖父と1942年に日本軍に捕まり強制的に慰安婦にされた韓国籍の祖母を持つと称した[6]。
2011年12月26日靖国神社放火
[編集]東日本大震災の被災者を支援するボランティアとして日本に入国していたと称する容疑者は[8]、2011年12月26日に靖国神社を放火するとその日のうちに韓国に逃亡した[9][8]。
2012年1月8日在韓日本大使館への火炎瓶投擲
[編集]2012年1月7日に西大門刑務所を訪れて憤り[6]、2012年1月8日には大韓民国ソウル特別市にある在大韓民国日本国大使館に火炎瓶4本を投擲した[9][8]。なお、この日は祖母の命日としている[7]。
この火炎瓶放擲事件では韓国で有罪が確定し、2012年11月まで犯人は服役した[10]。またこの際の取り調べで、2011年12月26日の靖国神社放火を自白した[10]。
日本政府、中国政府、韓国政府の対応
[編集]中国政府による身柄の引き渡し要請
[編集]日本政府は韓国政府に対して日韓犯罪人引渡し条約で引き渡しを拒否できる政治犯には該当しないとして数十回にわたり身柄の引き渡しを要請した[11][12]。
しかし、中国政府は韓国政府に対して非公開に中国への送還を求め続け[3][13]、孟建柱公安部長は韓国を訪問して韓国閣僚に事件について話し[14]、2012年10月16日には中華人民共和国外交部の洪磊副報道局長が定例記者会見の場でも中国への送還を要求した[13]。
ソウル高等裁判所による日本への引き渡し拒絶決定
[編集]2013年1月3日、ソウル高等裁判所は靖国神社には戦犯が合祀されており政治的象徴性があり、靖国神社への放火には政治的目的が認められるため「政治犯」と認定し[10]、犯行について政治的大義のために行われたものであり、「政治犯を引き渡すのは韓国の政治秩序と憲法理念だけでなく、大多数の文明国家の普遍的価値を否認する」として、放火犯を政治犯であると認定するとともに日本への引き渡しを認めない決定を行った[15][12][16][9][17][10]。
これに対して2013年1月4日、河相周夫外務事務次官は申珏秀駐日韓国大使に対し、今般の韓国側の決定は日韓犯罪人引渡し条約上の引渡拒否事由のいずれにも該当しないと考えられること等から誠に遺憾である旨を抗議すると共に、今後の韓国側の適切な対応等を申し入れた[18][11]。
また、安倍晋三首相は「極めて遺憾であり、強く抗議したい」「日韓の間に引き渡し協定があるにもかかわらず事実上、無視した」と批判した[11][19]。
中国への帰国
[編集]その後、駐韓中国大使館は容疑者を大使館に宿泊させた[16]。1月4日、容疑者は中国政府関係者の保護を受けながら韓国を出国して中国に帰国した[20][16]。上海浦東空港では上海市政府関係者によって出迎えられた[16]。
日中間には犯罪人引渡し条約がないため、日本の警察による全容解明は困難となった[4]。
帰国後、容疑者は琉球歴史研究会という団体を創立し、琉球独立運動を応援している。現在沖縄で独立運動支持者の支援を探している[21]。
関連事件
[編集]2013年9月韓国人靖国神社放火未遂事件
[編集]2013年9月21日、韓国籍の男が靖国神社を放火することを目的に日本に入国し[5]、9月22日21時に南門のトイレの裏の茂みに隠れているのを巡回中の2名の衛士が発見すると、男は警備員を振り切りトルエンの入った容器のふたを開けて液体を拝殿に投げつけた。その後男は、宿直者達に取り押さえられ警視庁に引き渡され[22][5]、9月23日に警視庁公安部によって男は逮捕された[22]。男は「日本が歴史を歪曲したので腹が立ったので放火しようとした」と供述した[5]。被告は放火予備罪と建造物侵入の罪に問われ、東京地方裁判所にて「放火すれば他の建物に延焼する可能性もあり、相当危険な犯行」とし、て懲役3年・執行猶予4年(求刑懲役3年)が言い渡された[23]。
脚注
[編集]- ^ “火炎瓶投げた男 靖国放火も具体的に供述”. 日テレニュース24 (2012年1月9日). 2020年8月29日閲覧。
- ^ a b 安倍首相、靖国放火犯引き渡し拒否に「極めて遺憾」 中央日報 2013年1月5日
- ^ a b c 靖国放火中国人の中国送還 韓国「関係国も尊重を」 聯合ニュース 2013年1月3日
- ^ a b 日本経済新聞2013年1月4日
- ^ a b c d 靖国神社に放火未遂、逮捕の韓国男「日本の歴史歪曲に腹立った」 Searchina 2013年9月24日[リンク切れ]
- ^ a b c 政治犯の地位を要求する靖国放火中国人…「祖父は抗日闘争の英雄」 中央日報 2012年11月3日
- ^ a b 靖国放火と日本大使館に火炎瓶の中国人受刑者、出所後は日本に引き渡す?中国に帰す?―韓国紙 Record china 2012年10月16日
- ^ a b c 大使館に火炎瓶投げた中国人「野田首相の発言に怒り」 聯合ニュース 2012年1月8日
- ^ a b c 靖国放火犯の「政治犯」認定は正しかったのか 韓国大手紙ですら「釈放」に疑問を呈する Jcastニュース 2013年1月9日
- ^ a b c d 日本経済新聞2013年1月3日
- ^ a b c 靖国神社放火の中国人容疑者引渡し拒否 安倍首相「強く抗議したい」 Jcastニュース 2013年1月4日
- ^ a b 【中国BBS】靖国放火の犯人が中国帰国、中国人たちから称賛の声 Searchina 2013年1月5日[リンク切れ]
- ^ a b 中国、靖国放火犯の身柄引き渡しを公開要求 中央日報 2012年10月17日
- ^ 中国の抗議に韓国が屈服か=靖国神社放火犯を政治犯と認定、日本への引き渡しを拒否―韓国 Record China 2013年1月4日
- ^ 靖国神社放火容疑の中国人が韓国で釈放 韓国「大義のための犯罪」 人民網日本語版 2012年1月4日
- ^ a b c d 靖国放火中国人「日本、慰安婦問題含む過去の歴史を再認識すべき」 中央日報 2013年1月5日
- ^ 靖国放火の中国人引き渡し拒否 日本保守系新聞が非難 聯合ニュース 2013年1月4日
- ^ 河相外務事務次官から申ガク秀(シン・ガクス)駐日韓国大使への抗議」 靖国放火で外務省(Ministry of Foreign Affairs of Japan)報道発表 2013年1月4日
- ^ 韓国の引き渡し拒否、首相「強く抗議したい」 靖国放火で 日本経済新聞 2013年1月4日
- ^ 靖国神社放火容疑の中国人元受刑者が上海着 日テレNEWS24 2013年1月4日
- ^ 10年前火烧日本靖国神社的刘强,现状如何? 新浪 2021年12月26日
- ^ a b 靖国神社放火未遂事件 取り押さえた時には韓国人と分からず 週刊ポスト2013年10月11日号 2013年9月30日
- ^ 靖国放火「相当危険な行為」 韓国籍の男に有罪判決 東京地裁 産経新聞 2013年12月26日[リンク切れ]