127フィルム
127フィルム(いちにななフィルム、英語: 127 film)は、スチル写真用のフィルムの規格である。画面サイズは4×6.5 cm(ベスト)判8枚撮りのほか、正方形の4×4 cm(ヨンヨン)判12枚撮り、4×3 cm(ベスト半裁)判16枚撮りなどのフォーマットで使用される[1]。「127フィルム」に対する「ベストフィルム」、4×6.5 cm判に対する「ベスト判」という名称は、コダックが1912年に発表したヴェスト・ポケット・コダックに由来する和製英語である。
略歴・概要
[編集]幅46 mmのロールフィルムであり、フィルムの裏には遮光用裏紙があって、「スタートマーク」および「コマナンバー」が印刷されている。
1912年、コダックがヴェスト・ポケット・コダック写真機とともに発表した[2]。新形式のロールフィルムを使用し、蛇腹で折りたたんで「チョッキのポケット」(ヴェスト・ポケット)に入るほどの小型化を図ったフォールディングカメラである同シリーズは、安価であったこともあり、1926年まで爆発的に数百万台を製造販売した[2]。同写真機は1901年10月に発売した箱型写真機No.2ブローニーと異なって平型であり、同機に始まる120フィルムよりも2 cm小さかった。同社は2年後の1914年5月に発売した「No.0ブローニー」に同フィルムを採用し「ヴェスト・ポケット・コダックのフィルム」の範疇を早くも逸脱し始める[2][3]。
日本でも本規格を採用したカメラが製造された。例えばミノルタの最初の市販カメラは、1929年(昭和4年)4月に発売された4×6.5 cm判フォールディングカメラ「ニフカレッテ」であり[4][4]、リコーの最初の市販カメラは、1934年(昭和9年)に発売された4×3 cm判の簡易型カメラ「オリンピックA型」であった[5]。コダックはブローニーラインの筐体をベークライト製にしてさらに簡易化、127フィルムを使用するベビーブローニーを同年7月に発売している[6]。
映画用35mmフィルムを写真に流用した写真機「ライカ」が1925年には発売開始していたが、1934年にコダックが装填の際に暗室の要らないパトローネ入りの新規格「135フィルム」として、新型写真機「レチナ」とともに製造販売を開始、さらにフィルムサイズを小型化した[2]。このフィルムは1950年代以降、写真用フィルムのコンシューマ用スタンダードとして、ほかのサイズのロールフィルム、とりわけ127フィルムを駆逐していく[2]。その時代から1960年代にかけて、ドイツや日本では、ローライ、アグフア、ミノルタ、リコー、ヤシカなどの企業が127フィルムを使用するカメラを製造しつづけた[2]。
1995年7月、コダックは83年間にわたって製造販売を続けた127フィルムを製造終了した。
2012年2月現在、クロアチアのフォトケミカ・ノヴァが白黒リバーサルフィルム「エフケR100/127」、ドイツのマコがカラーネガフィルム「ローライナイトバード127」とカラーリバーサルフィルム「ローライクロスバード127」、カナダのブルーファイア・ラボラトリーズがカラーリバーサルフィルム「ブルーファイア・ムラノ160」をそれぞれ製造販売している[7][8]。
おもなフィルム製品
[編集]- エフケR100/127 - フォトケミカ・ノヴァ、白黒リバーサルフィルム、ISO100
- エフケIR820/127 - フォトケミカ・ノヴァ、白黒リバーサル赤外線フィルム、ISO100
- ローライナイトバード800/127 - マコ、レッドスケールカラーネガフィルム、ISO800
- ローライクロスバード200/127 - マコ、カラーリバーサルフィルム、ISO200
- ローライレトロ80S/127 - マコ(アグフア・ゲバルト)、白黒ネガフィルム、ISO80
- ブルーファイア・ムラノ160 - ブルーファイア・ラボラトリーズ、カラーリバーサルフィルム、ISO160
- 生産終了
- ヴェリクロームパン/127 - コダック、白黒リバーサルフィルム
- コダクローム/127 - コダック、カラーリバーサルフィルム
- コダカラーX/127 - コダック、カラーネガフィルム
- エクタクローム/127 - コダック、カラーリバーサルフィルム、1995年終了
- イルフォードHP3/127 - イルフォード、白黒ネガフィルム
- マコUP100 - マコ、白黒リバーサルフィルム、ISO100
- マコカラーUCN200 - マコ、カラーネガフィルム、ISO200
- ORWO NP20/127 - ORWO、白黒ネガフィルム、ISO20
おもな写真機
[編集]いずれも1960年代後半までに製造終了している。
- アンスコ
- アンスコ (アメリカ合衆国の企業)#127フィルム使用カメラ参照。
- コンテッサ・ネッテル
- コンテッサ・ネッテル#127フィルム使用カメラ参照。
- イハゲー
- イハゲー#127フィルム使用カメラ参照。
- イルフォード
- イルフォード (写真)#127フィルム使用カメラ参照。
- カメラ・ウェルクシュテーテン
- カメラ・ウェルクシュテーテン・グーテ&トルシュ#127フィルム使用カメラ参照。
- コダック
- ヴェスト・ポケット・コダック、ブローニー#127フィルム使用カメラ参照。
- 六櫻社
- コニカのカメラ製品一覧#127フィルム使用カメラ参照。
- 興和
- 興和のカメラ製品一覧#127フィルム使用カメラ参照。
- メントール
- メントール・カメラファブリーク・ゴルツ&ブロイトマン#127フィルム使用カメラ参照。
- ミノルタ
- ミノルタのカメラ製品一覧#127フィルム使用カメラ参照。
- 丸惣
- 教材用写真機を製造した企業で、戦前に127フィルムを使用するカメラを製造した記録がある[9]。
- ハモンド(1939年発売)
- 美篶商会
- ミゼット規格のフィルムおよび写真機で知られる美篶商会(1922年創業 - 2004年解散)が、「ミゼット」以前に製造したのは127フィルムを使用する写真機であった。
- 美篶商会#127フィルム使用カメラ参照。
- ナーゲル
- ナーゲル (カメラ)#127フィルム使用カメラ参照。
- プラウベル
- プラウベルのカメラ製品一覧#127フィルム使用カメラ参照。
- リコー
- リコーのカメラ製品一覧#127フィルム使用カメラ参照。
- ローデンストック
-
- イゼラ(1932年発売) - 4×3 cm判。
- ローライ
- ローライ#127フィルム使用カメラ参照。
- 東京光学
- 「4×5 cm判・10枚撮」の変形サイズ用の写真機シリーズ「ミニヨン」を製造販売。
- トプコンのカメラ製品一覧#127フィルム使用カメラ参照。
- ウェルタ・カメラヴェルク
- ウェルタ・カメラヴェルク#127フィルム使用カメラ参照。
- ヤシカ
- ヤシカのカメラ製品一覧#127フィルム使用カメラ参照。
- ツァイス・イコン
- ツァイス・イコン#127フィルム使用カメラ参照。
参考文献
[編集]- 『ミノルタカメラのすべて』枻出版社、2003年8月 ISBN 4870999234
- 『アサヒカメラ』「昭和10–40年広告にみる国産カメラの歴史」朝日新聞社、1994年 ISBN 4023303127
脚注
[編集]- ^ カメラの画面サイズとフィルムシステムの変遷、リコー、2012年2月21日閲覧。
- ^ a b c d e f Requiem for a Great Format, デイヴィッド・シルヴァー、Photo Shopper 1996年3月11日発行、外部リンクを参照。
- ^ The GEH Brownie Collection p.1 (キャッシュ:インターネットアーカイブ、2011年6月14日付)、ジョージ・イーストマン・ハウス、2012年2月22日閲覧。
- ^ a b 『ミノルタカメラのすべて』p.130
- ^ オリンピックA型、リコー、2012年2月21日閲覧。
- ^ The GEH Brownie Collection p.3 (キャッシュ:インターネットアーカイブ、2009年6月14日付)、ジョージ・イーストマン・ハウス、2012年2月22日閲覧。
- ^ Rollei Nightbird 127 , マコ、2012年2月21日閲覧。
- ^ Bluefire Murano 160 , ブルーファイア・ラボラトリーズ、2012年2月21日閲覧。
- ^ 『アサヒカメラ』「昭和10–40年広告にみる国産カメラの歴史」朝日新聞社、1994年 ISBN 4023303127, p.84。