コンテンツにスキップ

英文维基 | 中文维基 | 日文维基 | 草榴社区

500メートル球面電波望遠鏡

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
500メートル球面電波望遠鏡(FAST)
建造中のFAST、2015年9月
「緩衝圏」に建設された公園
大きさの比較
上: アレシボ天文台
中: FAST(天眼)
下: RATAN-600

500メートル球面電波望遠鏡中国語: 五百米口径球面射电望远镜FASTFive-hundred-meter Aperture Spherical radio Telescope、通称: 天眼[1])は、中国南西部の貴州省黔南プイ族ミャオ族自治州平塘県にある、世界最大の電波望遠鏡中国科学院国家天文台により建設された。中国で「天眼の父」[2]と呼ばれている高名な満州族[3]科学者である同天文台の南仁東中国語版が、この計画の責任者を務めた。建設費は約12億元といわれている。

概要

[編集]

4,450枚(記事によっては4,600枚)の三角形の反射パネルを組み合わせ、固定球面鏡を形成し、望遠鏡直径は本望遠鏡完成まで世界最大であったアレシボ天文台(305メートル)を上回る500mである。

自然のくぼ地(大窩凼窪地)[4] を利用して作られている[5]

球面鏡であり、受信機は500mの鏡面全体をカバーすることはできず、有効直径として機能するのは300m分である。地面に固定されているため、観測可能範囲は天頂から40度の範囲までである。観測周波数は0.3-5.1GHzを、指向精度は4角を見込んでいる[6]

施設の建設に際し、地上からの電波や光の干渉を取り除く為、周囲5kmに渡る「緩衝圏」と称すエリアが設定され、「緩衝圏」周辺には、観光客向けの博物館や宇宙をテーマにしたホテル及びレセプション施設が入る公園(総工費15億元と、望遠鏡施設より高い)が建設された。

中国科学院の白春礼院長がスピーチにおいて、この500メートル電波望遠鏡を鍋として利用し、チャーハンを作ったならば、全世界の人に茶碗4杯いきわたると述べた[7]。これは、茶碗1杯を一合、世界人口を75億人とすると、使用するコメの量は450万トン、炊飯に使用する水の量を一合当たり200ミリリットルとすると600万立方メートルとなる。

計画から完成まで

[編集]

1994年に計画が提案され、2008年10月に中華人民共和国国家発展改革委員会に承認され、12月26日定礎式が開催された[8]

2011年3月に着工、2016年7月3日に最後の反射パネルがはめられ、工事が完了し[9]9月25日に稼動を開始した[10]。翌26日、習近平党総書記が運用開始を祝賀し書簡を送ったと報じられた[11]。2020年1月11日に調整を終え正式に稼働を始めた[1]。なお内外の研究者への開放と共用が検討されている[1]

500メートル球面電波望遠鏡でなされた発見

[編集]
  • 2016年9月、試験観測で1350光年先のパルサーを発見した[12]
  • 2017年10月、6個のパルサーを発見した[13]
  • 2021年5月、201個のパルサーを発見した[14]
  • 2022年6月、初の持続的で活発的な高速電波バースト(FRB)を発見した[15]

問題

[編集]

望遠鏡と「緩衝圏」の建設にあたり、約1万人(報道によっては約9,000人)の住民の強制移住が行われた。このことについて、国営メディアの新華社は「(移転後は)より良い生活水準が期待できる」と報じるも、地元住民による訴訟も発生した[16]

出典

[編集]
  1. ^ a b c “中国の巨大電波望遠鏡「天眼」、正式稼動”. AFPBB. (2020年1月12日). https://www.afpbb.com/articles/-/3263130 2020年1月14日閲覧。 
  2. ^ 宇宙と共に生きる世界へ 「天眼の父」南仁東氏を偲ぶ”. 新華網 (2017年9月25日). 2017年10月25日閲覧。
  3. ^ 全国创新争先奖章拟表彰名单”. 中華人民共和国科学技術部. 2017年10月25日閲覧。
  4. ^ FAST台址-贵州省黔南州平塘县大窝凼洼地图片”. 中科院大科学装置办公室 (2008年4月21日). June 23, 2008閲覧。 [リンク切れ]
  5. ^ 500米口径球面射电望远镜(FAST)”. 中科院大科学装置办公室 (2008年4月21日). June 23, 2008閲覧。 [リンク切れ]
  6. ^ FAST home page”. National Astronomical Observertories, Chinese Academy of Sciences. December 28, 2008閲覧。
  7. ^ 「中国天眼」でチャーハン作れば、全世界の人に茶碗4杯ずつ行き渡る Science Portal China 閲覧2020年3月8日
  8. ^ 中国科学院·贵州省共建国家重大科技基础设施500米口径球面射电望远镜(FAST)项目奠基”. Guizhou Daily (2008年12月27日). December 28, 2008閲覧。
  9. ^ 中国、世界最大の球面電波望遠鏡「FAST」の建設完了、ITmedia NEWS、閲覧2017年5月26日
  10. ^ 世界最大の電波望遠鏡が稼働、中国 写真3枚 国際ニュース:AFPBB News、閲覧2017年5月26日
  11. ^ 習近平主席が書簡を送り、中国で500メートル球面電波望遠鏡の運用開始を祝賀_新華網日本語、閲覧2017年5月26日
  12. ^ 乃文, 初木. “中国のFAST望遠鏡、試験観測で1350光年先のパルサーを捕捉。仕上がりは上々”. sorae 宇宙へのポータルサイト. 2022年10月14日閲覧。
  13. ^ 中国の「天眼」FAST、6つのパルサーを発見 | SciencePortal China”. spc.jst.go.jp. 2022年10月14日閲覧。
  14. ^ 「中国の天眼」FAST、パルサーを大量発見”. www.afpbb.com. 2022年10月14日閲覧。
  15. ^ 中国の「天眼」、初の持続的に活発な高速電波バーストを発見(CGTN Japanese)”. Yahoo!ニュース. 2022年10月14日閲覧。
  16. ^ 「宇宙人に感謝すべき」 世界最大の電波望遠鏡で強制退去 中国 写真8枚 国際ニュース:AFPBB News、閲覧2017年9月20日

参考文献

[編集]
  • Nan, R.; et al. (2002-06-16) (PDF). Kilometer-square Area Radio Synthesis Telescope - KARST. https://www.skatelescope.org/uploaded/8481_17_memo_Nan.pdf 2017年6月13日閲覧。. 
  • Nan, Rendong et al. (2011). “The Five-Hundred-Meter Aperture Spherical Radio Telescope (FAST) Project”. International Journal of Modern Physics D 20 (06): 989-1024. arXiv:1105.3794. Bibcode2011IJMPD..20..989N. doi:10.1142/S0218271811019335. ISSN 0218-2718. 

関連項目

[編集]

座標: 北緯25度39分9秒 東経106度51分24秒 / 北緯25.65250度 東経106.85667度 / 25.65250; 106.85667